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第一回放送 食らわれるは人の心、そして

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第一回放送 食らわれるは人の心、そして ◆wYjszMXgAo



新しい朝が来た。
希望の朝だ。あるいは絶望の朝だ。
あるものにとっては吉報に、またあるものにとっては悲報となる言の葉が。
――――島中のありとあらゆる場所へと響き渡る。

もたらすものは何か。
もたらされるものは何か。

それを知るものは未だこの場にはいない。
――――この声の主たる伝令者でさえも。

遠く、遠く。
明けの空にじっくりと浸透していくのは悦楽交じりの音の群。
言峰綺礼は喜色を隠すこともなく――――、己が切開のメスをさくりと入れていく。


「……さて、諸君。ご機嫌はいかがかね。
 見も知りもしない赤の他人が息絶える傍らで、何事もなく朝を迎えられた喜びは耐え難いものだろう?
 実に結構なことだ。とても君達は人間らしい。
 人間でないものたちも含めて、な。

 誰かを手にかけた時の優越感はいかがだったかな?
 誰かに裏切られた時の絶望感はいかがだったかな?
 誰かを助けられなかった時の無力感はいかがだったかな?
 誰かと共にいる時の安心感はいかがだったかな?
 誰かを騙す時の心苦しさはいかがだったかな?

 ……ふむ、まあ前置きはこのくらいにしておこう。
 禁止エリアの発表に移る。


 ……死者が知りたいかね?
 誰が無残に散っていったか、愛する者がどれだけ悲惨な目に遭ったかを知りたいと。
 ……くく、それを知ってどうすると言うのかな?
 せいぜい自己満足にしかならないだろうに。
 君たちがいかに猛ろうが悲しもうが、死者は戻っては来ないのだぞ?

 ……話が逸れたな。剋目して聞くといい。
 運悪く該当箇所にいるものは、自己の保身を露にしながら生き足掻くその姿を見せてみたまえ。

 8:00よりE-2。
 10:00よりF-6。

 以上の二つだ。

 ――――では、そろそろお待ちかねの死者の発表といこう。

 大切な人間の死を味わうものは、その誰かが与えてくれた過去に感謝するといい。
 喜べ、君は間違いなく満たされた人間だ。
 失えるものがあるのは幸せな人間の特権だろう?

 大切な人間の生に安堵したものは、その誰かを護る為の未来に感謝するといい。
 喜べ、君は無力ではない。
 彼ないし彼女の未来を掴み取る為に、騙し欺き殺し奪い、ありとあらゆる手段を用いて闘争できるのだから。

 大切でない人間の死を悦を抱くものは、今自分の生きている事実に感謝するといい。
 喜べ、君は実に典型的な感性の持ち主だ。
 邪魔者が与り知らぬところで始末されたのだぞ? 偽善などに惑わされず、諸手を挙げて歓喜を表現してみせたまえ。



 以上、9名だ。

 ……さあ、どうだ?
 もう一度問おう。ご機嫌はいかがかな?

 ……ところで、君たちに一つ告げておくことにしよう。
 人によっては朗報だ、心して聞くといい。

 この殺し合いに優勝した暁には、君たちにはある権利が与えられる。
 ……それが何かは、ふむ、いずれ分かることだろう。
 その機を期して待ちたまえ。

 そして告げよう。
 君たちの中には結託し、我々に対抗しようとするものがいるだろう。
 結構、……大いに結構だ。
 ――――君たちが抗い苦しみ、我々との力の差に絶望する姿を見せてくれ。
 それが実に楽しみだ。


 ……ふむ、思い上がりと口にするかね? 我々とて人の子、勝てぬ道理はないと?
 では、証拠を提示しよう。我々の力の一端を。
 諸君らの中には、すでに死の世界から蘇ったものがいる。
 そのものたちは自分自身で気付いているだろう?
 ならば、教えてやるといい。
 我々の力を以ってすれば、死人に今一度の生を与えることすら叶うのだということを。
 生死すら自在にする力を我々が持っていることを、その手で証明して見せたまえ。

 そして私は君たちに期待する。
 愛するものを失った人間が、絶望に駆られるまま混沌を生み出すことを。
 我々に立ち向かおうという人間が、我々に一矢報うことすらできぬまま、同胞たる参加者に踏み躙られる有様を。
 もっともっと、人間の成し得るありとあらゆる感情と行動を、私に見せてくれ。

 ――――最後に、もう一つ。
 君たちの中には、私達の息のかかった者がいることを教えてやろう。
 そのものは確かに息づいていて、この場において混乱を生み出すのだ。
 会場内にいる人間全てを味方にしたとて、絶対に平和が訪れることはないことは理解頂けたかね?
 さあ、互いに疑いあいたまえ。
 君の傍らにいる人間は、そ知らぬ顔をして君を利用した後背中を刺すかもしれないぞ?
 預けておいた背中を、さくり……とな。

 ……では、次の放送の時に会おう。
 その時までありとあらゆる手段を持って行動したまえ。
 我々に立ち向かうのでも、殺し合いを促進するのでも構わない。
 掌の上で踊っているのがワルツかロンドかという違いでしかなく、
 またそれこそが私にとってこの上ない愉悦となるのだから」


その言葉を最後に、ぶつりという音がなる。
後に残るのは静寂。


……そして。
そして人々は――――。



いや、その前に、不意にノイズが走る。
……だが、言峰の言葉は聞こえてこない。
チン、カチャカチャという何かをぶつけ合う澄んだ小さな音。
そして、やや荒い息遣いとごくりと言う何かを飲み込むような響き。
それだけが聞こえ、しかし静寂が破られたと言うにはほど遠い。

放送のスイッチが入れられたというのに沈黙が続くのは何故だろう、と、
誰もが思う頃合で――――、ようやく言峰は続きを告げる。

「は、ふ……っ。そうそう、もう、……ひとつ、だ。ん、ぐ。
 もぐ、む……っ。優勝の、特典について、ふ……っ、ふ……っ、だが。
 ……この殺し合いが、は、もぐ……、誰かの優勝に、ハフ、終わった、暁にはだ。
 ――――先ほど言った『権利』、ムシャ、以外に、はふ、はふ、君たちに……ゴク、モグ、
 ……は、ふぅ、……ふぅ。は……、ふ、んぐ。
 と、失礼した。続きを告げよう。
 ――――君たちに、この世のものとは思えない程のディナーを振舞うことを確約しよう。
 ……以上だ。君たちも朝餉を楽しみたまえ。
 食べるものも食べなければ、生き延びることなど到底出来はしないのだから」


◇ ◇ ◇


かちゃかちゃと舞うのは蓮華。
中にあるのは白と赤の混成物。


はふはふと、バクバクと、モグモグと。
ぐつぐつと熱さに自己主張のないそれが飲み込まれていく。

コクのある豆板醤の、舌に残る辛み。
椒の香り高く、鼻を刺激する辛み。
それら二種が絶妙のハーモニーとなって、口中に吸い込まれて留まることを知らない。

咀嚼する。
ニンニクの葉は野菜のエキスを供給し、食欲を増進させる香りを放っている。
牛豚の合挽き肉は、たっぷりの肉汁を滴らせ、ウマみをもたらして止まない。
柔らかいが適度な弾力のあるクリーム色の豆腐は、他の具材に負ける事無くほのかな甘みを以って全体を調和させる。
ゴマ油の香ばしさはそれだけでご飯が一膳食べられるほど。
ベースとなる鶏ガラスープは滋養に溢れ、体に染み渡るようにダシの美味さを主張する。

中華料理特有の大火力で豪快に炒められたこれらは味の成分を活性化され、全ての要素を極限まで高めているのだ。



「……言峰神父。朝っぱらからそんな物を、胸焼けが……いや、それはいいか。
 『この世のものとは思えない』辛さのソレを本当に優勝者に振舞うつもりなのかな?」

放送機材に向かったまま、ガツガツと食事を再開した言峰は振り返ることすらしない。
ただ、その問い掛けに――――、言峰はスープのこびり付いた口端をニヤリと歪めて表現する。
これ以上ないという、愉悦の表情を。

ソレを食らいながら、これから巻き起こされるであろう混沌に思いを馳せる。
――――さて、言峰綺礼の愉悦の時間は始まったばかりだ。
参加者たちの悲鳴と言う美酒を肴に、彼は至福の食事を楽しみ続けることだろう。



073:影、ミツメル、光 投下順に読む 075:一乃谷
073:影、ミツメル、光 時系列順に読む 075:一乃谷
052:鬼神楽 言峰綺礼 094:記憶の水底
052:鬼神楽 神崎黎人 094:記憶の水底

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