ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

doll(前編)

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doll(前編) ◆UcWYhusQhw



「謙吾君……逝ってしまったか……」

そっと私はその名を呟く。
呟いた時は少し心がざわついた気がする。
私は彼の死をあの長ったらしい放送で知った。
最初はその放送の音でクリス君が起きないか心配だったが彼の名前が呼ばれた時少しだけぽかんとした。

宮沢謙吾
リトルバスターズの一員で私の仲間だった彼。
真人君と一緒で熱血の馬鹿。
それでも人一番仲間想いだった謙吾君。

その彼が逝った。

だけど、それまでだった、私にとって。
心がざわつき少し焦るだけ。
私とってその死はそれだけだった。
もっと悲しむ事もできるのだろうに。
そこで止まった。

……やはり。

やはり私は感情が欠損している。

……変わらないな、私も。
どういう風に喜んで。
怒って。
哀しんで。
楽しんで。

それが分からない。
私は今までただ真似をしていただけなのだから。

ただ見よう見真似で。

ふむ。

やはり私は私か。
こんな殺し合いの場所でも。
変わらないのか、変わることはないのか。


……でも。


あれは何だったんだ?

クリス君の演奏を聴いて。
一緒に歌って。

私はあの時、不思議な充実感に溢れていて。
自分が信じられないくらい高揚していた。

そして私はクリス君を抱きしめた。
あの時何回も。
ただ必死に。
クリス君を繋ぎとめようとする為に。

……だけど何故だ。

何故抱きしめようとした?
繋ぎ止めようとした?

私を動かしたものは何だ!

……わからない。

感情が欠損してるせいか。
ふむ……つくづくと思う。

私はなんて人形のようだと。

人の形をして動く人形みたいだ……まったく。

ふふ、自嘲もしたくもなるか。
仲間が死んだというのに何も思わないなんて。
私は……

「……う、ううん? ユイコ?」

……おっと。
クリス君が起きたらしい。
いや起こしてしまったかな?

「なんか……ふにふにする?」

クリス君が膝で蠢く。
ふむ、何処で寝てるか気づいてないようだな。
……よしよし。

「ああ……おねーさんの膝だ。クリス君も積極的だな」
「はいっ!? ご、ごめん!」

クリス君は焦って起き上がりその場から離れる。
なんだ、もったいない。

もうちょっとからかおう。

「何を嫌がってるのだ? さっきはおねーさんの胸にあんなに飛び込んだというのに……あれは遊びだったのかい」
「それは……ちがっ!?」
「違うも何もないだろう? 全くひどい男だな」
「そ……そんな」

クリス君がうなだれている。
うむ、実にからかいがいのある子だ。
まあここまでにしようか。

「はっはっはっ! 冗談だ! こんなにも簡単にかかるとは流石クリス君!」
「……まったく……はあ……もう」

クリス君はため息をついた。
本当に面白い子だ、まったく。

さてそろそろ話そうかな。
今の状況を。

「杏君達は先にいったよ」
「そう……」
「君が寝てる間に放送があったよ」
「え……?」

クリス君の顔が引き締まる。
やはり不安があるらしい。

「禁止エリアはE-2、F-6、まああまり遠いから関係はないな」
「……うん」
「さて……死者だ」

クリス君は私をじっと見る。
他にも知り合いが呼ばれないか不安なのだろう。
でもそれは問題ない。

「まず携帯で見た三人は変わらない……追加でウィンフィールド、蒼井渚砂、小牧愛佳、対馬レオ、そして私の知り合い宮沢謙吾、杏君が言ってた岡崎朋也だ」
「そう……やっぱりリセは……」
「大丈夫かい?」
「うん……大丈夫だよ」

クリス君は私のほう向きをいった。
声はしっかりしてる。
うん……大丈夫そうだな。
しかし

「心配はキョウだね……」
「……ああ。錯乱してないといいが。ウェスト氏に任せるしかあるまい。彼なら心配ないだろう」
「そうである事を願おう」

杏君は大丈夫だろうか。
絶望してないだろうか。
大丈夫だ、杏君。
誓ったはずだ、明日は希望だって。
だから、うん大丈夫。

「ユイコこそ大丈夫なの?」
「……私?」
「知り合いを呼ばれて」
「……ああ、大丈夫」
「……本当に?」
「ああ、本当だ……だから大丈夫だ」

そう、そんなに影響はないのだ。

私にはそんな感情を持っていないのだから。
だから。
哀しむなんてことは無い。

「さてと……」
「何するんだい?」

クリス君がそういって動き始める。
てきぱきと慣れた手つきでフォルテールを準備し始める。
ふむ、何を行なうというのだろう?

「なにをするんだい? クリス君」
「ん……送るんだ、曲を」
「曲を?」
「うん……リセだけでなく……亡くなった人の為に」
「……それは」
「僕ができる事……レクイエムを送る事……そう思ったから」

そういって奏で始める。
……相変わらず、綺麗な音だ。
聞く人をひきつける不思議な魅力がある。
一心不乱に奏でていた。

ふむ。

何故だろう?

こんなにも揺れ動く。
この音色はなぜだか謙吾君を思い出してしょうがない。

どうせ、君のことだから熱血して死んでいったのだろう?
自分の中にある一本の芯の元に。

残された理樹君、鈴君、恭介氏、真人君のことも考えずに。

だから。

だから君は。

馬鹿なのだよ。

全く。

全く。

本当の馬鹿だ。




―――彼女は気付かない。それこそが無いと思ってる感情である事に。悲しみという感情に。それこそが人形でない証というのに――




なんて長い放送やったか。
どないかてええ事垂れ流して。

「まあ、ええわ。なつきが呼ばれなかったことだけよしとしまひょか」

せやけども難儀な事や。
放送が流れる前にあの歌は消えてしもうた。
それを目的に行動しとったのにや。

量は少なくならはったが太腿の血は未だに流れ続けとるし。

ほんまうまくいかんわ。
何やってるんやうちは……

……なつき。

あんたは何やってるんや。

うちと違ってへまだけはしはるなや。
……ちょい心配なのはぬぐえへんけど。

はようあいたいわ。

うちはなつきだけ。
その為には手を汚す事もためらわへ……

ほんまそうやんか? 
うちは?

殺し合いに乗った人間を屠る事はいとわへん。
なつきも危ない可能性もあるし。

せやけど。
なつきに害しない人間まで屠れるのかいな、うちは。
力のない人間を。


……知らんがな。
その時になって見ないとわからへんよ。

せやけどうちが人を屠ってしまった時うちはどうなるやろうか。
わからへん。
わかりとうもない。

せやから今ははようなつきと合流したい。
足があかんなる前に。

……せやから、今は考えへんでおきまひょ。殺し合いに乗ることは。

……ん?

また音色が?
しかも近いわ。

……行ってみまひょか。

……願うくばそこになつきがおることを願って。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







憎い! 憎い! 憎い!

憎い!!!

私はただ復讐心に燃えていた。
なごみへの。
朋也とウェストの仇への。

殺したい!
殺したい! 

いや!

殺す!

絶対殺す!

なごみを殺したいの一心だった。

朋也はあんなに頑張ってたのに。
なのにあの女は殺した。
朋也の生き様を嘲笑った。

許せない、絶対。

私に人を殺せといったけど乗ってたまるか!
私は、そこまで墜ちてはいない。

あんたみたいなのと同列になってたまるか。

……でも。

なごみは言った。
死者を復活できるかもしれないと。

世迷言と思いたい。

でも私は聞いたのだ。
ウェストから魔術の事を。
信じられないとは思ったけど。
あそこまで熱心かつしっかり教えてもらったら信じる他ないわ。

そう魔術が存在するなら死者復活が出来るかもしれない。

それは何て素晴らしい誘惑。

朋也が。

あの朋也がもう一度傍にいてくれる。
あの不器用な笑顔を。

……私は。

私は。

もう一度みたい。
朋也の笑顔を。

なら……私は。

……いや。

でも殺し合いに乗ってまでやるべき事なの?
明日は希望に満ち溢れているのではないの?

わからない。

そもそも私にとって朋也の価値は何なの?

……決まってる。

それは誰にも譲りたくない程大きいものだから。

……でも殺し合いをしてまで朋也を取り戻したいの?

わからない。

朋也は大切な人。

……だから。

……だから私はどうすればいいの。

……ううん。わかってると思う。

私は朋也を生き返りさせたい。
でもそれを認めてくれる人を探してるんだ。

……私はそうなんだ。

……ん?
何か聞きなれた声が。
これはクリスと来ヶ谷?
それにもう一人。

……行ってみよう。
彼らなら認めてくれるはず。

その道を。
私では不安だから。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






僕は音を響かせる。
亡くなって人の為に。
それが僕にとってできる事だと思うから。

どうか。

どうかやすらかに。



「誰だっ!」

ユイコは草陰に向かって吼える。
ユイコは銃を向けにらんでいた。
僕は演奏を止め同じくそちらを向く。

「嫌やわあ……そんな物騒なもん向けないでおくれやす……うちは乗ってやおらへん」

現れたのは茶色の髪の少女だった。
手を両手に上げて自分が無害である事をアピールしてる。

「ふむ、本当か?」
「当たり前や……それにあんさん達気付いておれへんかったの? その音楽が人呼びつけてますえ」
「え……?」
「あ」

ユイコと目を合わせる。
ユイコはなんか冷や汗かいてる。

……うん。

気付いてなかった。
もしかして大聖堂もそうだったかな?

あー。

「……間抜けやな」

ため息をつきながら少女が言う。

……はい。

……そうですね。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「ふむ。ここら辺なら大丈夫だろう」

私たちは茶髪の少女――藤乃静留――の提案により元にいた場所から離れていた。
音を発してた場所から離れて方がいいと意見で。
至極真っ当話だ。
そして現在は湖の近くって所か。
水の流れる音がする。

情報交換の末わかった事はまず理樹君が無事で殺し合いに乗ってないことだろうか。
どうやら積極的に動いてるらしい。
……彼に何があったのだろうか?

まあ、それはいい。
後は殺し合いに乗ってる男と黒須太一という人間が危険という事だけだろう。

それにしても

「へえ……シズルはそのナツキって人がそこまで大事なんだ」
「そやね、比べるモンなんてへんわ。さかいにこそ、はよう見つけたい」
「うん……何となくわかるな。遠くに離れてると不安だよね……なんか気が合うな」
「あら、うちもよ。奇遇やね」

なんかこの2人が妙に気が合うらしい。

何故だかわからんが。
どうやら2人とも大切な人がいるらしい。

まあそんな事はいいんだが。

何故だろう?

実に面白くない。
実に腹立たしい。

理由が分からないのがそれをまた増幅させる。

ふむ。

「あいたっ!?」
「クリス君、話してるばっかではなくて静留君の足の状態はどうだ?」
「……殴らなくても」
「ふむ……なんとなくだ」
「何となく!?」
「なに冗談だ……兎も角どうだ?」

静留君はどうやら足を怪我してたらしい。
太腿から今でも流れる血が。
しかしこれでも減ってきているらしい。
まあそこまで大事ではなさそうだが。

「とりあえずいまの所はしばらくは大丈夫……ウェストさんがいればよかったんだけど」
「ふむ……静留君は歩くのは平気かい?」
「ええ、どうもないよ」
「ならちょっと歩くぞ。ここであった人に医術の心得を持つ人がいるんだ……その人に見せる」
「了解どしたわ」

私達はそう結論付けて立ち上がる。
今行けば追いつくだろうか?
分からない。
だが行動しないよりましだ。

「……うちは、うちはなつきの為なんや。なつきなら……うちがどうなって……」
「なら……元気な姿でナツキに会おう。それがナツキって人の為になると思うよ」
「……せやね、それが一番や……」

クリス君が励ます。
……ふむ。
……解らないな。
その感情が。

……人をそこまで思うという感情が。

やはり、私は……


「……クリス! 来ヶ谷!」


そう思った瞬間現れた人影。
それは凄い形相をして現れた藤林杏だった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「どうしたんだい、杏君? それにウェスト氏は?」

来ヶ谷が怪訝そうな顔して話してくる。
ああ、知らないのか。
知るわけもないし。

「……死んだわよ! 朋也を殺したなごみにね!」
「なっ!?」
「そんな……ウェストさん」

2人とも驚いてる。
……まあ当然よね。
私も認めたくないもの。

「……それで、なぜあんさんは一人でいらはるのん?」
「貴方は?」
藤乃静留と申しまんねん。よろしゅうな」
「よろしく……逃がされただけよ」

なんか気に障る。
まあいい。

「……それで杏君は無事なんだな?」
「ええ……それで一つの情報を得たんだけど聞いてくれる?」

「なんだね?」

私は使者蘇生の話を話そうとする。
クリスはリセを失ったし興味を示すだろう。
もしかしたら……同意を得られるかも。

「えっとね……主催側には死者蘇生の力があるらしいのよ」
「死者……蘇生?」
「そう……できるらしいの? もしかしたら朋也も……」

私は少しの期待を隠しきれなかった。
賛同が少しあると思って。
だけど違って

「そんなの……意味ないよ、キョウ。そんなの喜ばない」
「え……?」
「もし……リセが生き返ったってリセが喜ぶわけがない……悲しむだけだよ」
「そ、そんな事ない!」
「……私もクリス君と同意見だ……望みはしないだろう」

……え。
どうして?
どうして?

意味はあるでしょう?

どうして反対ばっかするの?

私はもし生き返りでも朋也が傍にいればいいの。
誰だって大切な人には傍にいてもらいたいはず。
それはいつだってそうでしょう?

「そんなきっと価値はあ……」


「無価値」


え?
今なんて?

なんていった?
彼女は?

「え?」
「無価値というとりますのん。あんさんがやろうとしてことに意味などあらへん」

いきなり何言ってるのだろう?
あったばっかなのに。
この女は。

「あんたは失った事ないんでしょう! たいせつな人を! だからそんな事いえるんだ!」

私はこの女に詰め寄る。
私の希望を打ち砕こうとしたこの女に。

「私は……朋也が傍にいるだけでいいんだ! あんただって!」
「うちはまだ失ってはいないやね……失いたくもあらへん。せやけど……その復活までさせたいとはおもわらへんわ」

わかるものか!
失ってない人間に私の気持ちが!
取り戻したいという気持ちが!

「あんたにわかるものかああああああ!!!」
「……わからへんわ。わかりたくもあらへん!
 それに死んだ朋也はんやっけ? その人が望むと思う? 否定しはるに決まってるわ。無価値なんよ。その考えが」

うるさい!
うるさい!
頭ごなしに否定するな!

私が頼ってるのはその事実と復讐心だけなのよ!
私からそれを奪うな!

何も分からないあんたが!

私の道を潰すな!


わたしは怒りに身を任せ彼女の胸倉を掴む。
一発殴らないと気がすまない。

「っ!? 何しはるの!?」
「五月蝿い! 黙ってろ!」

この!
否定するなあ!
私は手を振り上げようとする。

「止めなはれ!」
「っ!?……うわあ!?」

唐突に目の前の女に押された。


途端に全てがスローモーションに動く。 

ああ、倒れるのか。

ふと倒れる地点を見る。

そこには大きな石が。

……嫌。

ここで終わるの?

私。

嫌。

嫌。

朋也。

朋也。

と、も、や。






――――――こうして一人の人間は人形になる―――――




091:風の名はアムネジア 投下順 092:doll(後編)
090:悪鬼の泣く朝焼けに(後編) 時系列順
071:暗殺者と蛇のダンス 藤乃静留
087:復讐者 クリス・ヴェルティン
087:復讐者 来ヶ谷唯湖
087:復讐者 藤林杏

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