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交錯する雄と雌~綺麗な雫~

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交錯する雄と雌~綺麗な雫~ ◆eQMGd/VdJY



さて、お互いいつまでも間抜けな面を晒し合っていても仕方ない。
横たわっていた神宮司奏の手に武器が無い事と、目に見える敵意が無いを確認すると、
対峙するトーニャ・アントーノヴナ・ニキーチナは、表情の変化を観察しつつ問答を開始した。
もちろん持っていた武器は即座に捨て、敵意が無いことを十二分にアピールしてだ。
最初は警戒していた奏も、トーニャ達が殺し合いに乗っていない事をすぐに理解。
と言うのも、事あるごとに割り込む井ノ原真人のせいで、緊張感など一瞬にして霧散してしまっていたのだ。
会話に混ざれないのが寂しいのか、自分の知っている単語が飛び出せば勝手に喋り出し、
その度に筋肉的な言語で奏を混乱させ、その結果、間違いを正そうとトーニャから幾度もの修正を喰らう。
真人を誘導する手綱を上手く握り始めているとは言え、流石のトーニャも殴りたくなる時がある。
ものの数分で済むはずだった自己紹介ですら、結果的には十分以上の時間を要する事となった。
けれども、それが空気を緩和したのは事実で、全ての情報交換が終わる頃には笑みを零す間柄となりつつあった。
ふと、トーニャの脳裏に『筋肉の功名』なる単語が浮かんだが、すぐさま奈落の底に沈める。
残念な事に、お互い直接的な知り合いは居なかったが、浅間サクヤ大十字九郎に関してだけは収穫だ。
特に大十字九郎。ドクターウエストと奏の情報を照らし合わる限り、味方としてはかなりの戦力アップに繋がる。
と、先程からジッと目を瞑りつつ、真剣な面持ちを浮かべていた真人がようやく目を見開く。
ある人物の情報を聞いてから、真人は自分に出来る最大限の想像力を働かせ、興奮し、胸を高鳴らせていた。

「へッ! 駅のホームですっぽんぽんたぁ、なかなか見上げた筋肉の持ち主だな」

奏を助けたと言う、全裸の男。都会育ちの全裸。締りのいい都会派。シティーボーイマッチョ。
聞けば別れるまでの六時間、身に纏ったのはタオルのみだったと言うではないか。
真人は想いを馳せる。隠す事無く晒された筋肉は、きっと真人を次のステージに向かわせてくれると。
彼の男は、至高の筋肉だろうか。はたまた、究極の筋肉だろうか。
詳細を訊ねた時の奏の言葉から考えるに、きっと後者の筋肉だろう。ならば自分のライバルだ。
だが、同時にこの衝撃的な事実は、自分の不甲斐無さを痛感させる事にも繋がった。
素晴らしい筋肉を持った男が、同じ空気を吸いながらも、その肉体を武器に新鮮な汗を迸らせている。
なのに真人自身は、服と言う恥知らずな布に身を守ってもらい、己の肉体を存分に表現出来ずにいるのだ。
汗はシャツに吸収され、冷たい外気は制服に遮断され。言ってみれば温室育ちそのもの。
気付かされてしまう。自分はこんなにも過保護なまでに守られた存在だったのだと。
歴史を辿れば、勇ましい肉体を誇る人間は、みな常に裸だったに違いない。
裸で交流し、裸で友情を育み、裸で戦場を駆け抜けぬけてきた。
そう。人類は常に己を包み隠さず、肉体に邪魔な制約を与えず生きるべきなのだ。
雨にも全裸で。風にも全裸で。そうして筋肉は、本当の成長を遂げるはず。
思えば、こんな素晴らしい歴史に、真人は幼い頃から泥を塗り続けてきた。
恥晒しと呼ばれても仕方ない。服を着るなどという、罪深い生き方を無意識のまま選んだのだから。
否。まだ間に合う。なれば今後、自身も全てを曝け出し、胸をはって生きればいい。

「……負けたままじゃいられねぇ!」

瞳に野性をたぎらせ、真人は咆哮をあげながら強引に制服を脱ぎ始めた。
さてこれからどうするかと、顎に指を添えていたトーニャは、反射的に隣の馬鹿にキキーモラを放つ。
既に半裸状態だった真人の胸板に、キキーモラが拘束を目的に目一杯喰い込む。

「すわッ! 何をいきなり脱ぎ出しているんですかプランクトンもどきが!」
「離せ! これは俺自身の戦いなんだ! 絶対に負けられねぇんだぁよ!」
「あれですか!? 予想はしていましたが、やはり九郎さんとやらのエピソードに感化されやがりましたか!?
  いいからむさ苦しい筋肉をしまえッ! いえ、縛ってるのは私ですが、とにかくどうにかしやがって下さいっ!」

一方、流石に場の流れについていけない奏は、微妙な表情のまま後ろに後退っていく。
至極真っ当な対応だ。第三者から見れば、気持ちいいくらい呼吸の合ったモノを見せられたのだから。
引き締まった腹筋をキキーモラで締め上げながら、トーニャは務めて冷静な口調で訴える。

「いえ。待って下さい。誤解しているようですが、私はむしろ被害者です。ええ、被害者ですとも」
「わ、解かってます。大丈夫ですから……そうですよね。そう言う愛の形も大切ですものね」
「いやいやいや! 奏さん? 神宮司奏さ~ん!? 妄想の世界からカムバァァック!
  もしかしてフラグ立ってるとか勘違いしてませんか? ありえませんからねその結論!
  おい『トーニャ×真人』とか電波発進した奴、画面の前に立て……修正して差し上げます!
  見て下さい私の目の前の女性を。目を閉じつつ頬を赤らめて、多分凄い物語になってますよッ!?
  多分ここからは、ライトノベルから二次元ドリームにバトンタッチな展開ですね! 実に勘弁願いたい!
  いえ。例えばこれが男女で「あーん」したとか、温泉でキャッキャウフフを目撃したとか、
  はたまた若い男女が長編に渡るラヴラヴな空間を描き、一人の青年を空気に追いやったとかならOK!
  でも、貴女が目撃したのはどう好意的に見てもSMプレイですからッ! いえ、これはSMじゃないですよ!?
  ただこれは、この筋肉を効率的に抑えるためで、決して好きでやってるんじゃないですからね?
  と言うか、何で私はこんな説明する事態に陥っているか、よくよく考えれば貴女も責任があるんですよっ!?
  ほぉら。とりあえず誤解を解く作業に戻りましょう? ね。誤解を解く権利書を差し上げます。
  とりあえずその、『解かってる。私は受け入れます』って顔やめて下さい! いいですか、私とこれの関係は――」
「へへへ……いい締まり具合いだぜ。さすが俺と(筋肉で)通じた仲だッ!
  こんな時ですら俺を鍛えてくれるとはなぁ! いいぜぇ、もっと俺を締め上げてくれぇ!」
「ちょっと黙ってろそこのボンレスハム」
「て・けりり」
「アオオオーーーッ!!」

十数分後。
そこには、敗れかけの服を着つつも満足げに床に倒れる真人と、トーニャに頭を下げ続ける奏の姿があった。
ようやく迎え入れた仲間が、またしてもボケ担当だった事に頭を痛めるトーニャ。
ダンセイニが元気を出せよと言わんばかりに、トーニャに擦り寄る。

「ええ、ありがとうございます。ただ慰めてくれるのは嬉しいですが、
  貴方に慰められれば慰められるほど、私の心が余計に咽び泣きそうなので、出来れば勘弁して下さい」
「て・けり」

さらに数分後。
ようやく目を覚ました真人を無視しつつ、トーニャはようやく今後の事について説明を開始。
時間短縮にと、移動しながら奏に自身の方針を打ち出す。もちろん真人は言っても無駄なので捨て置いた。
まず始めに、奏がどうやってあの場所に訪れ、且つ倒れていたのかから確認しあう。
問い掛けられた奏は、出会った時にも口ずさんだ己の体験を、言葉変えずに語りだす。
普通ならば驚くのだろうが、この数時間で奏はこう言った魔法のような出来事に、すっかり慣れていた。
トーニャのキキーモラの事に関しても、気が付いたら受け入れていたくらいだ。
一方のトーニャも、二度に渡る奏の説明に矛盾が無い事を確認しつつ、改めて情報を整理する。
奏の語る事が本当ならば、ここはいわゆる瞬間移動の到達地点と言えよう。
そして現時点では、出発地点は教会の一角と考えられる。
では、これを使えば教会に戻るのか。それとも別の場所だろうか。
確かめるべく穴に突撃するべきか思案するものの、それは保留。いや、結論としては却下。
ここから何処に繋がっているか解からない上、その瞬間移動の発動条件が不明瞭過ぎる。
加えてもう一つ。どうやらこの洞窟自体もまた続きがあるようで、その探索も捨て置けないのだ。
ちらりと、奏と真人の様子を伺う。

(せめてもう一人ぐらい、ツッコミが欲しいんですが……って、そうではありません。落ち着け私)

分担して動くにも、お互い常に連絡が取れなければ意味が無い。
それどころか、地図にすら載っていない洞窟を探索するのだ。
あらゆる万が一と言う事態に備え、様々な対処方法を準備してから立ち向かうべきだと。
こういう場合、離れていても連絡手段を取れる道具があればありがたい。
が、情報交換時に併せ奏と支給品を見せ合ったが、交信に使えそうな品は入っていなかった。
もっともそんな物があるなら、奏は離れ離れになった九郎とやらと連絡を取り合っているはず。
念のため先の騒ぎの最中、どさくさに紛れて奏の身体をまさぐったが、それらしい物は所持していなかった。

(まぁ、もともと期待してませんでしたけれどね)

どちらにせよ、三人でもまだ人材不足だ。
奏自身が役不足とは言わないが、この面々では戦闘に巻き込まれるのは非常に困る。
敵対はしたが、最低でもドライの様な戦い慣れた人材が欲しいのは事実。
確かに、真人は馬鹿が付くほど丈夫な身体をしているのだが、イコール殺し合いが得意と言う訳ではない。
向こうの奏に至っては、下手をすれば戦いの足を引っ張るだけだ。
以上の事を踏まえて、やはり同じ学園の参加者とは早く合流すべきだろう。
ふと、奏が出会ったというスーツを着た眼鏡の男の事を考える。
奏の信頼を得ることを優先し、さらなる詳細を訊ねるのをやめたが、心当たりが一件。
断片的な情報だが、全てが一致する人物をトーニャは知っていた。名は加藤虎太郎。学園の教師。
だが、果たしてあの虎太郎が殺し合いに乗るだろうか。
普段の態度はともかく、生徒想いなのはトーニャだって知っている。
そんな人間が殺し合いに乗るには、それ相応の理由を持って来る必要があるだろう。
ともかく、運良く遭遇できたらその辺りの事情を聞いておこうと結論付ける。
考えが纏まった所で、トーニャ達は目的の場所まで辿り着いていた。

「で、なんで俺達は梯子の下にいるんだ?」
「先程説明しましたが、相変わらず右の耳から左の耳にフライアウェイですね。
  もう一度説明してあげますから、左の耳を指で塞いだまましっかり聞いて下さい」
「おう! どんとこい!」

一生懸命左耳の穴に指を突っ込む真人に冷たい目線を向けつつ、トーニャは空を見上げ口を開く。

「食事の時間です」
「何ッ!? もうそんな時間なのか! あっぶねぇ……危うく餓死する所だったな」
「嘘です。と言うか一食抜いて餓死って、どんだけ虚弱なんですか」
「舐めんなよ? 俺の筋肉はなぁ、お腹が空いて泣き出すようには育てた覚えは無い!
  ああ……むしろ空腹になればなるほど、力を発揮するタイプだと俺は信じているッ!」
「馬鹿だから説明が矛盾してますがもういいです。じゃあ食事は抜きでいいですね。
  そうすれば貴方の言うように筋肉が鍛えられますし、その分の食料も余るし一石二鳥です」
「おう! 何がなんだかさっぱり解からんが、筋肉が鍛えられるなら問題ねぇ!」
「……奏さん。私の言った事覚えていますか?」
「は、はい。確か探索の準備を整えるのでしたよね」
「OK。ボケがあるとは言え貴女が会話できる人で良かった。
  この巨大なプランクトンは会話すらあれなので、ここに放置してさっさと上りましょう」
「よし! 早く行こうぜ!」
「……」

トーニャが真人に告げた事は、あながち嘘でもなかった。
探索を続けるにしても、全体の広さが解からない以上、ある程度の食料と水分は備えておきたいのだ。
仮に瞬間移動で違う場所に辿り着いて、その先が魔境だったとしたら、またここに帰れる保障がない。
また重大な事がもう一つ。そろそろ放送の時間も迫っている事が挙げられる。
万が一にも地底にいて放送を聞き逃し、あまつさえ自分達のいるエリアが禁止区域になれば最悪だ。
そんな理由から、トーニャは放送の時間まで、寺の居住区で休息を取る事を決めた。
これを聞いた奏は、とある駅で待ち合わせをしていると申し出たが、今からでは間に合わないと却下する。
確かに仲間が増えるなら歓迎だが、ここから駅までは禁止エリアを迂回しなければならない。
その間に相手が移動してしまったら、入れ違いになる可能性がある。
納得したのか、奏はそれ以上食い下がる様な態度を見せる事は無かった。
さて、梯子を前にして、トーニャは真人に目線を送り、顎で梯子を指す。
ここで真人から上らなければ、また麗しい三角布が晒される危険性がある。
それを理解したのか、真人は梯子を両手で掴むと、力の限り引っ張った。
ぎちりと、どう考えても聞こえてはいけない音が梯子の真ん中から三人の耳に届く。

「ちょ! 何をしやがりますかこの時代遅れのKY馬鹿は! あれですよ!? 空気に対する苛めですよこれ!」
「何って、足を肩幅に固定しつつ、両脇をしっかり締めて、力の限り引っ張れって指示したのはお前だろうが」
「あ、ああぁ、あの仕草のどこにそんな指示が隠されていましたか!?
  どうみても先に行けってジェスチャーでしたよねッ! 降りる時の事を覚えてませんか単細胞!
  と言うか、どうするんですかこれ! まだ繋がってるけど、いつ切れてもおかしくないですよ!」

捲くし立てるトーニャに対し、悪びれる様子もなく真人は腕を組む。

「あぁん? そんなのアレだ。恭介の持っていた漫画と同じ上り方をすりゃいいだけだ」
「ほほう。漫画と言う時点で合格ラインにもろ引っ掛かりますが、一応聞いておきましょう」
「いいか良く聞け。井戸ってのはな、小さな窪みがあるもんだ……あとは解かるな」
「解かるかぁぁぁぁぁ! いや、言わんとする事は理解したけど出来ますかそんな離れ業!
  アレですか? 漫画のロシアは常にそんな印象ですか? 擦り傷があれば上れると勘違いされてます!?
  謝れ! どう見ても美少女で非力な外見の私に謝れ つか、そんな事出来ん! 出来ない! 出来んわッ!」
「あぁん? 最近だらしねぇな? そんな事じゃ俺と張り合うなんざ難しいぜ」
「……落ち着け私。KOOLだ。クールになるんです私。ええ、あの馬鹿の妄言を聞いちゃいけません」

支給品のカンテラを上空に向け照らしながら、問題の音が発生した場所を睨む。
どうやら、鉄梯子同士を繋ぎ合わせる部分が切れ掛かっているらしい。
だが、あれならば適当な布などで補強すれば大丈夫にも思える。
破れかけの真人のシャツをスペツナズナイフの刃で引き千切り、キキーモラの先端に括り付ける。
シャツを破られ驚く真人を無視し、問題の箇所までキキーモラを飛ばす。
が、あと僅かと言った所まで伸びるものの、微妙に届かない。
即座に諦め、キキーモラを戻しながら何か丁度良く台になる物が無いか周囲を見渡す。

「発見。ナイス着眼点ですね私」

視線の先には、邪魔だから筋トレしてろと申しつけ、本当に腕立て伏せを始めた真人の背中。

「教えて差し上げますが、絶対に反抗しないで下さいね」
「おう。最高の筋肉のためなら、俺は苦しくも辛い、激動の日々すら乗り越えていけるぜ」
「良く言いました。では」

梯子の真下に立つと、トーニャはゆっくりと視線を下ろす。

「四つん這いになって下さい」
「なれば筋肉が鍛えられるんだな」

交渉成立。この会話を経て四つん這いに。
肢体を地面にめり込ませ、がっちりと固定された真人を恨みを込め力一杯踏みつけつつ、足場を確かめる。
微妙に湿っぽいものの、踏ん張ってもぐら付かないのは流石とも言えよう。
と、視線が上がった所で、他の壁とはあからさまに違う不思議な色の壁を発見した。
降りるときは麗しの三角ラインの防衛戦で忙しかった為、見逃していたのだろう。
梯子を直すのも大事だが、違うと判った以上凄く気になるし、せっかくだから調べておきたい。
そっと指を当てようとしたものの、その壁から異臭が発せられている事に気付きやめる。

「奏さん。デイパックの中に、長い棒がありましたよね。それを取って下さい」
「ちょっと待って下さい……これで宜しいでしょうか?」
「ええ。ありがとうございます」

奏が取り出したのは知る人が聞けば慄く、有名なゲイボルグ。
が、受け取ったトーニャは、柄を握ると矛先で容赦なく壁を強引に穿り出す。
スコップと違い、細身の槍では穴を掘るのに適してはいない。なんて名ばかりの棒切れだろう。
それでも何とか壁を突き破り、槍が穴を貫通する。同時に、異臭が一層と強烈になった。
加えて、槍の先端にゴミのような塊が挟まったまま掘り出されてくる始末だ。
それを真下で四つん這いになる真人の頭上に落としながら、トーニャは顔を顰め溜め息を吐く。

「汚い穴ですねぇ」

微妙に臭くなったゲイボルグを奏に返し、そっと中を覗き込む。
腐った卵よりも酷い異臭が、穴の奥から生暖かい風と共に送り込まれてくる。
何処かに通じているのかもしれないが、こう狭い上に臭くてはどうしようもない。
穴の事は保留にし、鉄梯子の修復に意識を切り替える。
足の下の真人が「なんか臭ぇぞ」と失礼な事を抜かすので、蹴りを入れる。

「おいッ、なんで蹴るんだ?」
「初めて鍛える筋肉みたいですからね。力を抜いてください。鍛えてあげます」
「なんだそうだったのか。いいぞ、もっとやってくれ」

真人の背中を泥で汚しながら、トーニャはどうにか補強を完成させ一息つく。
下がってみていた奏に合図すると、その身体を真人の上に引き揚げた。
不安そうにする奏を安心させるため、トーニャは筋肉台座を何度も踏みつけながら梯子を引く。
女性の一人や二人が力強く引っ張っても、これならば千切れる心配は無いだろう。
足元の筋肉台座を四つん這いにさせたまま、先に奏に梯子を上らせる。
次にトーニャが井戸の外まで上り、最後に今だハチ公宜しく四つん這いだった真人を引き上げた。
井戸から飛び出した真人は、不思議そうに背中を摩り首を傾げる。

「なんかよぉ、背中が凄く痛ぇんだけど、どうしてか知ってるか?」
「成長痛です。おめでとう真人君。これで貴方の筋肉がもっと成長しますよ」
「おぉう! そいつはめでてぇ!」

喜ぶ真人を放置しつつ、トーニャと奏は寺の居住区に足を踏み入れる。
記憶通り、水も食料も豊富に揃えられており、問題は難なくクリア出来た。
放送までまだ時間がある。と、ここでトーニャは奏が訝しげな表情を浮かべているのに気付く。

「どうしましたか?」
「いえ……なんだか酷い臭いがするのですが、どこからでしょうか?」

言われて速攻で思い当たる。奏にばれない様にそっと自身の臭いを嗅ぐ。
臭い。物凄く臭い。多少麻痺していたらしいが、原因の元を嗅ぐとやっぱり臭い。
トーニャは踵を返すと、途中見つけた檜風呂に湯を張り始める。
不思議そうにする奏を尻目に、トーニャは誤魔化すように慌てて言葉を紡ぐ。

「ほ、ほら。せっかくですからお風呂に入りましょう。綺麗になりますし。ね? そうしましょう」
「ですが、危険ではありませんか?」
「大丈夫です。外であの筋肉台座を見張りに立たせますから。
  安心して下さい。もうご承知とは思いますが、あの男は物凄くお馬鹿です。
  きっと私達がお風呂に入っていても、筋肉に夢中で覗くなんて選択肢を浮かべられません。
  なんだか女として負けてはいけないモノに負けている気がしますが、気にしては駄目ですからね」

強引に説得すると、奏を脱衣所に押し込み一時的に隔離する。
幸運だったのは、タオルを含め、未使用の女性用下着が何故か大量に用意されていた事か。
何度も袋が未開封だった事を確かめつつ、トーニャはそのまま奏を脱衣所に残し外に向かう。
居住区と本堂を挟んだ中庭で、真人はダンセイニと楽しそうに戯れていた。
ダンセイニが小石の敷き詰められた庭を這い、それを真人がでんぐり返しをしながら追いかけている。

「ダンセイニ。何かきたら直ぐに私達に知らせて下さいね」
「て・けり!」
「おい。俺には何か無いのか?」
「ではお聞きします。貴方の目の前で女性がシャワーを浴びていて、
  さらに足元にはダンベルが二つ。さあ、そこから導き出される答えは?」

トーニャからの質問に、真人は親指を立てながら不適に笑う。

「へっ。悪いが俺も男だぜ? 答えは一つ。「外に隠してあるバーベルで筋トレする!」これでどうだ?」
「はい正解。想像以上の筋肉全開の珍解答をありがとう。
  ご褒美に貴方はここで、思う存分筋トレして進化の秘法を突き止めていて下さい」
「へへっ。言ってくれるじゃねえか……
  よっしゃぁ! 次に見たときにはニュー真人になってるから驚けよ!」
「わーすごいすごい。じゃあダンセイニ。大変だと思いますが宜しく頼みますよ」
「てけ・りり」




   ◇   ◇   ◇




再び脱衣所に戻ると、そこでは既に制服を脱ぎ始めている奏の姿があった。
臭いがばれないように、トーニャは換気扇のスイッチを入れる。天井のファンが景気良く回り始める。
締め切った脱衣所なので、視線は自然と相手の方へと向けられてしまう。
理解はしていたが、トーニャはとりあえず自身を見下ろし、そして再度奏の肉体を頭の計算式に叩き込む。
髪はやや乱れている気がするが、それでも一度櫛を梳けば、元来の美しさを簡単に取り戻すか。
醸し出す雰囲気は、長年培って来たものなのだろう。根付いた育ちの良さが十分伝わる。
次に視線は全体から絞り込まれ、主に首から下を解析し出す。
同年代にしては成熟している気がするが、奏の持つ雰囲気がそれを中和し、綺麗に昇華しているのだろう。
僅かばかり肉質的には物足りない感じもするが、それを補って余りある二つの破壊兵器を奏は持つ。
衣類の制御から解き放たれた破壊兵器が、奏が脱衣の行動を取るたび、縦横無尽に暴れまくる。
下って腰周りは無駄ない造りで、窪んだ臍にしても、そこだけでご飯が三杯はいけるエロさ具合。
ここに来てようやく、奏が自分が観察されていると気付き慌てて前面を隠す。
凶悪な破壊兵器が布の奥に消えていく。もっとも、布越しでもその存在感は十分伝わるが。
とにかく残念。解説はここでおしまいだ。続きは風呂場へと持ち越しになった。
溜め息混じりにトーニャは己の衣類を脱ぎ捨てる。
自身の脱ぎっぷりを解説しても良かったが、奏の後だとやるせないので却下。
脱衣所で衣類を畳んだ奏とトーニャは、湯気が立ち込める浴室へと足を踏み出す。
改めて中を見渡すと、檜造りに加え四隅にランプが配置されていたりと、微妙な拘りを感じられる。
小さな寺にしてはずいぶんと飾られているが、ともかく汚れが落とせればそれでいい。
二人はお揃いの淡い緑色のタオルで前面を隠しつつ、隣り合うように小さな椅子へと腰を降ろす。
どちらの肌も乳白色を連想させ、且つ新鮮な果実をも連想させる。

残念なことに、トーニャの小さな背中は、殆どが解かれた髪の毛に隠れているものの、
ちらりと覗かせるその隙間に、獲りたての白桃だとでも言わんばかりの初々しい尻が垣間見えた。
肉体を包み込む泡が相乗効果を生み、菓子職人でも生み出せない、究極の生桃菓子がここに完成する。
賞味期限に嘘偽りの無い、究極と至高を兼ね合わせた一品だ。
さて、一方隣で嬉しそうに湯を汲む奏の肌は、浴びせられる湯を弾き、弾力性を十二分にアピールしていた。
全体的に着痩せするのか、隠すものが無くなったその前面では、雪山の如き巨峰が静かに震えていた。
弾力もさる事ながら、驚くべきはその形状である。
重力に反逆するその山脈は、どちらも歪みなく、上空から降り注ぐ湯の雫など物ともしない。
また、山脈の谷間から流れ落ちた雫は、その先で待つ秘境で姿を消す。
そして暫くした後、見目麗しい脚の付け根から、星のようなきらめき得た雫が、一瞬キラリ。
ぽたりと、再び谷間を潜り抜けて雫が奏の身体を滑り落ちていく。
肌の感触を楽しむように流れていく雫は、やはり同じ様に秘境の中へと吸い込まれて……







(省略しました。続きを読む場合は全裸で「筋肉いえーい」と叫びながら※勝手に外へと飛び出して下さい)




   ◇   ◇   ◇


己に課した膨大な筋トレメニューを済ませた真人は、汁だくのままダンセイニへと向き直った。
キラリ輝く汗が、真人の魅力をより一層引き立てている。
湯気立つ己の肉体を何度も確かめながら、真人は誇らしげな表情で語りだす。

「ところでこの筋肉を見てくれ。こいつをどう思う?」
「て・けり」
「なにぃ!?」

ダンセイニの指摘を受けた真人は、自分の身体を丹念に嗅ぐ。
実に臭い。なんと言うか、海老臭い。加えて磯臭い。それと韮臭い。あと生姜の臭さもちょっぴり。
あまりに食欲をそそるので齧って見たが、塩気が強すぎて旨み成分が少ない。
なんとなく井戸の下辺りから臭い気がしていたが、まさか自分が臭いとは驚きだ。
もしかしたら自分の祖先は食べ物だったかもと悩みつつ、真人はふと重大なことを思い出す。

「ああ。そう言えばここに来てから汗を流してなかったな……」

新陳代謝は筋肉を育成する大切な行為の一つだ。
が、ここで安易に風呂に入っても、肉体はリラックスするだけなのだろう。
地底で思い知らされた筋肉からの悲痛な叫びを、真人は忘れてはいない。
汗を拭くようにとダンセイニが用意してくれたタオルを頭に巻く。
そしてするりと制服や下着を脱ぎ捨てると、脇目も振らず近くにあった庭池へと全力でダイヴ。
水飛沫を叩き出しながら、真人は冷水である池の水を、己の肉体へと一心不乱に浴びせ続ける。
水中に潜った真人の肉体から、十分に熱せられた汗が流れ落ちていく。
次第に皮膚にこびり付いた異臭が剥がれていき、その代償として池にいた魚の群れが痙攣を始めた。
寒さで指が震えるのも構わずそれを続け、やがて満足すると池からにゅるりと這い上がる。
水を弾く筋肉は、真人が若い肌の持ち主である事の証明だ。
頭に巻いたタオルで、身体を盛大にスパンキングしながら雫を払い、ダンセイニの元へ戻る。

「ふぅ、さっぱりしたぜ……ん? なんだこりゃ」
「てけ・りり」

ダンセイニが頭上に乗せていたのは、僧衣と大き目の阿修羅の柄のスポーツパンツだ。
ずるずると擦り寄ると、「風邪をひいてしまう。さ、これにお着替えなさい」と言う風に衣類を差し出す。
その優しさに、真人は涙ぐみそうになる。言葉は違えど、二人の筋肉は確かに通じ合っている。
ぬめりを気にする事無く、真人はダンセイニに力一杯抱きつく。

「ありがとよ! だが、俺はこれを着ちゃいけねぇ気がするんだ。
  また今までみたいに服で肉を隠したりしたら、俺を育てた筋肉に申し訳なくなっちまう……」
「て・けり!」
「ッ!?」

ダンセイニは叫び声をあげると同時に、真人の頬をぷしゃりと叩く。

「てけ・りり!」
「着衣プレイだと? そ、そいつは全裸の筋肉よりも凄いのか?」
「て・けり」
「俺は険しい道を行くつもりで、安易な道に走ろうとしたのか……良く解かったぜダンセイニ。
  他人の筋肉を追いかけても、その先には到達できねぇ! ずっと目の前の筋肉に隠れたままだ!」

ダンセイニから僧衣を受け取ると、それで柔らかな風を受けていた肉体を包み込む。
湿った僧衣の内側が、真人の肌にピッタリと張り付いて気持ちいい。
胸の谷間からチラリズムする分厚い胸板と、先端で小刻みに震えるアダムスキー。
一見すると動きにくいが、それもまた慣れれば丁度いいトレーニングとなるだろう。
股間にいたっては、この収縮が癖になる予感がひしひしとパンツから伝わってくる。

「俺がこの僧衣を脱ぐ時……それはきらめく筋肉の舞台に上る時だぁ!」




   ◇   ◇   ◇




風呂から上がり、新たな下着に穿き替えたトーニャと奏は、キッチンで適当な食材を探り当てていた。
一緒に風呂に入った所為もあってか、二人の立ち位置が微妙に近付いた気がする。
棚や貯蔵室から簡単に食べられそうな食材を調理し終えると、畳の敷かれている和室へと足を運ぶ。
ゆっくり襖を開けた二人は、室内で先に飯を胃の奥に詰め込む真人と目を合わせる事となった。
テーブルの上に空けられた皿を見る限り、かなり前から食卓に着いていたのだろう。

「おぉ、先に食べてるぜ」
「て・けりり」

目の前の真人がなぜ僧衣を着て、それでいてどうしてローション宜しくぬるぬるなのか。
疑問に思ったトーニャだったが、突っ込んだ質問をしても「YES!筋肉」で終わりそうなのでやめる。
奏と共にテーブルに向かい合うように座り、真人の持つ皿に注目する。

「あぁん? この餡かけチャーハンは俺のだぞ?」
「いえ。絶対にいりませんから」
「申し訳ありませんが、私もそんなには食べ切れませんし……」

丁重に断りつつ、トーニャと奏は運んできた食事をテーブルに並べる。女性が食べるには十分な量だ。
サラダを中心に、食べやすくて色々気にならないメニューを選んだのだろう。
だが、並べられた皿を見て、何故か真人が不服の表情を浮かべる。

「ちっ、しょうがねぇなお前ら……もっと食わなきゃ立派な筋肉はつかないぜ」

1000%スパンキングな好意を込めて、真人は皿の上に残っていた食べかけの餡かけチャーハンを流し込む。
即席『サラダ餡かけチャーハン』の完成である。
シャキシャキ野菜に、濃厚なとろみのついたチャーハンが着実に侵略を続けていく。
どうしたものかと悩む奏。トーニャはゆらリ立ち上がると、真人の隣へと静かに向かう。

「おっと釣りはいらねぇ。とっとき――」
「OK。レッツ制裁」
「アッー! アッー! オヴァァァァァァァァァァ!!!」







放送まであと僅か。
果たして真人がそれまで無事生きていられるだろうか……





【C-5 寺の居住区畳の間/一日目/昼】

【井ノ原真人@リトルバスターズ!】
【装備】:僧衣、木魚、マッチョスーツ型防弾チョッキ@現実【INダンセイニ@機神咆哮デモンベイン】
【所持品】:餡かけ炒飯(レトルトパック)×3、制服(破れかけ)
【状態】:仮死状態、胸に刺し傷、左脇腹に蹴りによる打撲、胸に締め上げた痕、全身にぬめり
【思考・行動】
基本方針:リトルバスターズメンバーの捜索、及びロワからの脱出
0:ボス狸や奏と行動。筋肉担当
1:お昼まで生死の境を彷徨う予定。
2:理樹や鈴らリトルバスターズのメンバーや来ヶ谷を探す。
3:主催への反抗のために仲間を集める。
4:ティトゥス、クリス、ドライを警戒。
5:柚原このみが救いを求めたなら、必ず助ける。
【備考】
※防弾チョッキはマッチョスーツ型です。首から腕まで、上半身は余すところなくカバーします。
※現在、マッチョスーツ型防弾チョッキを、中にいるダンセイニごと抱えています。
※真と誠の特徴を覚えていません。見れば、筋肉でわかるかもしれません。
※真人のディパックの中はダンセイニが入っていたため湿っています。
※杏、ドクターウェストと情報交換をしました。
※奏と情報交換をしました。
※大十字九郎は好敵手になりえる筋肉の持ち主だと勝手に思い込んでいます。

【ダンセイニの説明】
アル・アジフのペット兼ベッド。柔軟に変形できる、ショゴスという種族。
言葉は「てけり・り」しか口にしないが毎回声が違う。
持ち主から、極端に離れることはないようです。
どうやら杏のことを気に入ったようです。


【アントニーナ・アントーノヴナ・二キーチナ@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備】:ゲイボルク(異臭付き)@Fate/stay night[Realta Nua]
【所持品】:支給品一式、不明支給品0~2、スペツナズナイフの刃
      智天使薬(濃)@あやかしびと-幻妖異聞録-、レトルト食品×6、予備の水
【状態】:健康。湯上り
【思考・行動】
基本方針:打倒主催
0:たまご風味のグッピーや奏と行動。頭脳担当。
1:真人を三途の川で遊ばせつつ放送を待つ。
2:放送後、寺の地下を探索。
3:神沢学園の知り合いを探す。強い人優先。
4:主催者への反抗のための仲間を集める。
5:地図に記された各施設を廻り、仮説を検証する。
6:ティトゥス、クリス、ドライ、このみを警戒。アイン、ツヴァイも念のため警戒。
7:状況しだいでは真人も切り捨てる。
【備考】
※制限によりトーニャの能力『キキーモラ』は10m程度までしか伸ばせません。先端の金属錘は鉛製です。
※真人を襲った相手についてはまったく知りません。
※八咫烏のような大妖怪が神父達の裏に居ると睨んでいます。ドクターウェストと情報交換をしたことで確信を深めました。
※杏、ドクターウエストと情報交換をしました。
※奏と情報交換をしました。
【トーニャの仮説】
地図に明記された各施設は、なにかしらの意味を持っている。
禁止エリアには何か隠されてかもしれない。


【神宮司奏@極上生徒会】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式。スラッグ弾30、ダーク@Fate/stay night[Realta Nua]、レトルト食品×6、予備の水
      SPAS12ゲージ(6/6)@あやかしびと -幻妖異聞録-、不明支給品×1(確認済み)
【状態】:健康。湯上り。爪にひび割れ
【思考・行動】
1:自分にしか出来ない事をしてみる。
2:蘭堂りのを探す。
3:できれば、九郎たちと合流したい。
4:藤野静留を探す。
5:大十字九郎に恩を返す。
【備考】
※加藤虎太郎とエレン(外見のみ)を殺し合いに乗ったと判断。
※浅間サクヤ・大十字九郎と情報を交換しました。
ウィンフィールドの身体的特徴を把握しました。
※主催陣営は何かしらの「組織」。裏に誰かがいるのではと考えています。
※禁止エリアには何か隠されてかもと考えてます。
※トーニャ・真人と情報交換しました。


【寺の地下】
寺の裏庭に、地下へと通じる大穴が開いています。
地下の空洞には大仏が安置されており、その他の詳細は一切不明。
梯子の下ろされた場所から約2mの場所に異臭を放つ穴があります。詳細は不明。
放送が届くかは、今後の書き手さんにお任せいたします。




※勝手に外に飛び出しても、続きはありませんし身の保障は約束出来るません。妄想で補って下さい


133:満ちる季節の足音を(後編) 投下順 135:Do-Dai
132:蠢動の刻へ 時系列順 135:Do-Dai
114:トーニャの不思議なダンジョン及びあやかし懺悔室 井ノ原真人 153:ハジマリとオワリへのプレリュード
114:トーニャの不思議なダンジョン及びあやかし懺悔室 アントニーナ・アントーノヴナ・二キーチナ 153:ハジマリとオワリへのプレリュード
114:トーニャの不思議なダンジョン及びあやかし懺悔室 神宮司奏 153:ハジマリとオワリへのプレリュード



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