ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

Do-Dai

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だれでも歓迎! 編集

Do-Dai ◆LxH6hCs9JU



 服。
 それは、人類が〝生活〟という習慣を身につけた末に定着した、文化の一片である。

 雨風や紫外線、寒気といった気象条件から肉体を保護するため、機能性を求めたもの。
 装着者の富や権力を誇示する象徴、あるいは看板として、見た目の奇抜さを求めたもの。
 生殖行為に順ずる過程を重んじ、対象となる異性の気を引くために象徴性を際立たせたもの。

 文化の真髄は各々の世界、歴史によって異なり、様々な発展を遂げる。
 そもそものルーツは――――え、堅苦しいですか?
 わかりました。では少々口調を緩めまして……コホン。


 さて、この究極の異文化交流とも言えるステージでは――いったいいかなる〝服〟が、あなたを魅了しますでしょうか?


 思い返してみてください。
 これまでに紡がれてきた数々の物語……あなたは、どんな〝服〟を目にしましたか?

 あなたのために用意されたステージ衣装の数々……もし、未だご覧になられていないというのであれば。
 ささやかながら、私がご紹介に預からせていただきます――


【No.1――防弾チョッキ】

 防弾チョッキですね。サバイバルゲームには欠かせないでしょう。
 一般の方は、銃弾を防ぐ優れものだと認識しているでしょうが……それは大きな間違いです。
 防弾チョッキの性能は、銃撃の無効化ではなく緩和。衝撃を分散する程度のものでしかありません。
 その効果を過信すれば、取り返しのつかないことになります。
 弾の口径によっては、まったく歯が立たない場合もあるのでご注意を。


【No.2――マッチョスーツ型防弾チョッキ】

 ……服? いえ、そのまえに……ま、マッチョスーツってなんですか? 想像難しいんですが……。
 人工皮膚がぺたぺたくっついていたりするのかしら……な、なんのために?
 私はなんと言いますか、バラエティ番組内のミニドラマに出てくるような筋肉教師の姿を思い浮かべてしまうのですが……。
 世には、こういった代物を有効的に活用できる人もいるのでしょうか……わかりません。


【No.3――ミアトル女学院制服】

 ゴシック調の黒をベースに、あしらったフリルは華美になりすぎないよう、丁寧に纏まっていますね。
 乙女の憧れ、お嬢様が集う学び舎の制服としては、これ以上のものはないでしょう。
 私は明るい色も好きですけどね。あ、姉妹校のデザインもすてきかもー。


【No.4――ナイスブルマ】

 こ、これはすごい……! なんて洗練されたフォルム……これはまさしく職人芸の域です!
 思春期真っ只中の男子中学生及び高校生ならば、思わず「ナイスブルマ!」と親指立ててしまうことでしょう。
 今年で2x(ちょめちょめ)歳になる大人の女性な私でも、思わず喉に……な、な、ナイス――(省略されました)。


【No.5――地方妖怪マグロのシーツ】

 くふしゅ~、出ーたーぞーっ。弱い子はいねがぁーっ……こほん。
 地方妖怪マグロ。人間との適応を望み、現代社会に上手に溶け込んだ知性派ですね。
 でも上司からの抑圧など、人間世界のしがらみにむかついて弱い者イジメしてはスッキリして帰っていく狡猾な妖怪です。
 追い払う方法は、現れたら「マグロさん、俺空手やってるんだ」とか言えばビビッて逃げいていくらしいです。
 地方妖怪マグロは、のどかな昼下がり、閑静な住宅街、一人暮らしを狙って現れるので皆さんも気をつけましょう。


【No.6――リトルバスターズジャンパー】

 このジャンパーからは……仲間を強く慕う、作り手の想いが込められているような気がします。
 センスとしては、まぁ平凡の域を出ないというか、仲間からの反応は薄そうと言いますか……。
 これをたった一人で、一晩で縫い上げたと知れば、多少は印象もよくなると、思いません? ません?


【No.7――ウラジミールのTシャツ】

 あ、アニメキャラプリント……? え、えと…………わー、かわいらしー(棒読み)
 まぁ世の中にはこういったものを好んで着るロシア人がいたりもするわけで、
 これを配られたからといって必ずしも着る義務はありませんし……コメントも控えておきますね。


【No.8――刀子の巫女服】

 神聖な礼装ですね。巫女服……どうして巫女『装束』と記載されていないのか、が些細な疑問ではありますが。
 白い小袖に緋袴。これを見ると甘酒が飲みたくなると思いませんか? 仕事中に不謹慎ですか?
 丈が長すぎるので、ステージ衣装とするには難がありますね~。


【No.9――アーチャーの騎士服】

 とある正義の味方が身につけていたという、赤い外套。
 戦隊もののリーダーが決まってレッドなのと道理は同じく。
 赤はヒーローの証なのかもしれませんね。


【No.10――キャスターのローブ】

 先ほどの真っ赤な外套とは対照的な、黒衣のローブですね。こちらはどことなく魔法使いチックです。
 フードもついていて、ハロウィンなんかの仮装にはもってこいかもしません。
 いくら生地が厚いとはいっても、肌着くらいは着込んでから着用しましょうねー。


【No.11――メルヘンメイド(やよいカラー)】

 シャボン玉が似合うフリフリふわふわがかわいい衣装。EXTEND系衣装です。
 何のイメージがアップするかはお楽しみ。1000マイクロソフトポイントとなっております。
 ご一緒にヘッドドレスなんかもつけてあげると、イメージアップですよプロデューサーさん♪
 ちなみに、これはやよいちゃんのキャラに合わせたオレンジ色のタイプですね。


【No.12――765プロ所属アイドル候補生用・ステージ衣装セット】

 うぇええ!? ぜ、全部詰め合わせですか?
 これだけでもかなりの量ですけど……いいのかしら……あのう、一応社長に許可を…………。


 ――どうでしたか? あなたの気に入った〝服〟はあったでしょうか?

 今回紹介した他にも、世界各国の様々な服がこのステージには眠っています。
 それを発掘し、どのように活用するかはあなたの自由!

 実年齢と服のカラーを見合わせた上、苦悶しつつ自分で着て楽しむのもまた良し!
 自分好みの可愛い着せ替え人形ちゃんを見つけてプロデュースするのもまた良し!!
 欲しがっている人に高値で売りつけ、左団扇で恍惚とした気分に浸るのもまた良しです!!!

 そして、めでたく全ての服をコレクションできた人には〝金ぴか〟なご褒美が――!?

 詳細はあなた自身の手で確認してくださいね。私は影ながら応援させてもらいます。
 では――――





 ――――………………え? ところで私は誰かって?
 私は名もないただの語りべで……え、別に隠す必要はない?
 正体をぼかして……、本名は言わず……、社名も伏せて……はぁ、わかりました。

 こほん。
 えー、では。この場は『怪人ピヨピヨ』とでも名乗っておくとしまして……。
 ちょっとした自分語りでも始めるとしましょうか。


 今回の仕事を引き受けるきっかけにもなった話です。

 お昼時。
 いつもどおり会社で事務の仕事をこなしていた私は、たまには外食もいいかなー、
 なんて軽い気持ちで、ふらふら~っと会社近くの中華飯店に足を伸ばしてみたんですね。
 なににしようかなー、などと鼻歌混じりにメニューを眺めていると、ふと隣の席に座るお客さんに声をかけられたんです。


『なかなかに良い声をしている。どうかね、私が主催する企画の〝語りべ〟として、君をスカウトしたいのだが――?』


 ……と、なんだかすごい色をした麻婆豆腐をほうばりつつ、その神父らしき男性は私を勧誘してきたんです……!
(お近づきの印に私が作った特性麻婆はどうかね? と勧められましたが、それは丁重にお断りしておきました♪)
 とはいえ、私は極々一般的な某芸能プロダクションの事務員。
 いきなりそんなこと言われましてもいろいろと制約が……と渋ったところで、その神父さんは社長と交渉したいと言いまして。

 会社にご案内したところ、社長は神父様を一目見るや「ティンときた!」の一言で了承なさいまして。
 そして私は、こうやって音声収録を行っているわけですが……いったいどんな企画に使われるのか皆目検討もつきません。
 テレビ……じゃないと思うけど、どこかの富豪が大掛かりなイベントでも始めたのかしら?
 弱小だった我が社も日々躍進を遂げているし、ここらで大きなお休みが欲しいところよねぇ……とと、し、失礼しました。

 収録はこれで終わりじゃないし、またどこかでお会いできるかもしれませんね。
 とりあえず、この場はここでお別れということで……

 お相手は、765プロの音無小鳥でし――――あぁ!? 今のところカットお願いしま~すっ!


※【某芸能プロダクション所属『怪人ピヨピヨ』による支給品解説CD~①衣類編】が、会場内のどこかに隠されています……?


 ◇ ◇ ◇


 一乃谷刀子は表舞台に君臨して早々、後の未来を左右するある重大な二択を迫られていた。
 用意された選択肢は二つ――着るべきか、着ざるべきか。
 兄、愁厳が残したぶかぶかの神沢学園生徒会会長用男子制服を持て余しつつ、刀子は懊悩した。

「服ならなんでもいい、と……確かに言いました。言いました、が……!」

 わなわなと微動する全身は、怒りの表れか。怒りだったとして矛先はどこに向いているのか。
 刀子に選択肢を与えた九鬼耀鋼に――ではない。矛先があるとすれば、それは世の不条理に向けて。
 刀子はものにあたることも適わず、やり場のない怒りにただ打ちひしがれていた。

 ――刀子の兄、一乃谷愁厳の愚挙は九鬼の手によって鎮圧され、刀子は念願かなって表に出てくることができた。
 人妖――『牛鬼』という妖怪を祖に持つ刀子は、兄と体を共用している。
 片方が現世という表舞台に立てば、もう片方は精神世界という名の舞台裏に引っ込む。
 主導権を握るのはそのとき表に君臨していた者であり、刀子は今の今まで、愁厳に表に出ることを禁じられていた。
 全ては刀子を元の世界に帰すため――殺戮の邪魔をさせないために、卑怯な手で刀子を精神世界に隔離していたのだ。
 だが先の戦いで九鬼が愁厳を下したことにより、愁厳は意識を失い、主導権はあえなく刀子に明け渡されたのだった。

 表に立ち、改めてこの殺し合いという事態を認識した刀子は、まず戦慄した。
 この地に愛すべき人……如月双七がいたという事実。
 神沢学園生徒会に籍を置くトーニャや、教師の加藤虎太郎まで参加していたという事実。
 いるはずがないと割り切っていた仲間、切り離すことのできない命が、三つもあった。
 そんな事実を知らず、愁厳は愚かしくも殺し合いを肯定してしまっていたのだと、兄の犯した罪に自責の念を感じざるを得ない。

 だが同時に、悔いてばかりいても仕方がないことだと、刀子は思う。
 この地に境遇を共にした仲間がいるというのであれば、一刻も早く合流を果たすべきだろう。
 詳しい事情は未だのみ込めないが、この刀子と面識がある『らしい』九鬼なる男は、双七の居場所を知っていると言う。
 愁厳との戦い、その後の刀子への対応などから見ても、十分信頼には足る。
 なにより一刻も早く双七に会いたいという念が、刀子の気持ちを焦らせた。

 故に、こんな選択肢などに時間をかけている暇はない……のだが。

(こんなもの並べられて……悩まないはずがないでしょう!)

 人目を避けた街外れの路上にて、刀子は眼前に二つの衣類を並べていた。
 一つは、刀子が元から所持していた濃紺色のブルマ。時代錯誤も甚だしい、旧時代の産物だった。
 そしてもう一つは、九鬼が着るものに困った刀子のために提供したもの……それが、刀子の頭を悩ませている。

 なにせ九鬼から渡されたそれは、本来なら結婚式まで取って置いて然るべき――ウエディングドレスだったのだから。

 刀子は頭を抱えつつ、付属されていたらしい説明書の文面を眺める。
 その内容がまた、刀子に頭痛を与えんほどの威力を秘めていた。


【『ミニウエディング』。1000マイクロソフトポイント。
 衣装:憧れのウェディングドレス。ステージ以外で見てみたい? 今はまだ、見るだけですよ!】


「……マイクロソフトポイントって、なんでしょうか?」
「知らんな。というか、俺に聞かれても困る」
「そうですよね……」

 そもそも着用以外に用途などないであろう衣服に、説明書が付属されるというのもおかしな話。
 常人の考えつかないような未知の効能でも秘めているのかと思いきや、そんなおいしい話があるはずもなく。
 結局、これはただのウエディングドレス――といっても、厳密に言えば本物ではない。

 まず、丈がありえないほど短い。本物のウエディングドレスなら身動きなど取れるものではないが、
 これは丈が膝までしかなく、走るにしても刀を振るうにしても、懸念する不自由はないと思われた。
 ……どころか、これは普段刀子が履いている神沢学園女子制服のスカートよりも短い。
 こんなものを履いて戦場を立ち回ったりしたら、いろいろと見えてしまうではないか……とまた別のところで懊悩する。

 瞬時に兄と体をスイッチできるとはいえ、身につけているものまでパッと変わるわけではない。
 サイズがまるで違う着衣はもちろんのこと、男女間では絶対に共有の利かない代物――下着の問題がある。
 ブラジャーがないならさらしを巻けばいい。ショーツがないなら兄のトランクスを我慢して履けばいい。
 などと、お年頃な刀子が簡単に納得できるはずもなく…………だからこそ余計に懊悩し、九鬼を待たせてしまう。
 ぐぬぬ……と唸り始めて数十分。刀子は深く息をつくと、観念したように一つの案を口にした。

「……非常時ですし、やむをえません。こうなったら適当な家屋を物色して――」
「残念だが、それは無理だ」

 が、その案は全容を語りきる前に九鬼に却下されてしまう。

「考えても見ろ。これは殺し合いという内容のゲームと銘打たれているが、実際はサバイバルだ。
 なんのために支給品なんてものが配られていると思っている?
 参加者たちは与えられた数少ない物資を節約し、時には奪い合い、なんとか乗り切れということなんだろう。
 そのための支給品システムだ。ところかまわず物資が手に入るような環境は好ましくない。
 主催者たちは、お嬢さんのような参加者が物欲しさに他者を襲うのを期待しているんだろう。
 だからこそ、素直に武器だけを配っておけばいいはずの殺し合いの場に、こんな洒落た服を混ぜている。
 つまり――そう安々と、現地で物資が調達できるはずはない。冷静に考えればすぐに気づくことだ」

 探すだけ時間の無駄だ。と九鬼は付け加え、その意見に納得を覚えてしまった刀子は返す言葉もなく押し黙る。
 確かにそのとおりだった。街や家があるからとはいえ、そこに武器が残されているかと言えば、考えるまでもなく、ない。
 刀子や九鬼が身を置いていた世界では、人妖問題の件もあって、銃刀法が改訂されている。
 一般市民でも銃器は購入できるし、街をふらつけばガンショップの一つや二つは見つかる。
 そんな常識を持つ刀子だからこそ、支給品以外でゲームの必需品――それが例え下着であったとしても――を手に入れるのは困難だと、認識してしまった。

 …………実際のところ、主催者はそういった縛りには案外甘い人物だったのだが、それを刀子が知る術はなく。
 また、九鬼も既にこの地で酒を現地調達しているのだが、本人は「酒は別だろ」という認識でいるので、なおさら間違いには気づけない。

「俺としては、こちらの花嫁衣装を着ることを推奨する」

 どうしても究極の二択を選ばせたいらしい九鬼は、刀子に誘いの言葉をかける。

「……まことに失礼なのですが、それはその……九鬼さんの趣味、というわけではありませんよね?」
「冗談はよしてくれ。ま……俺も馬鹿らしいとは思っているが、一応理由はあるぞ」

 九鬼の表情は――本来の外見のおっかなさもあるが――いたって真面目だ。
 茶化すようなつもりではないとわかっているのだが、それでも唯々諾々と従うことができないのが乙女心なのである。

「お嬢さんは兄と体を共有しているが、体が入れ替わっても着衣までは変えられない。そうだな?」
「ええ」
「なら、もしなにかの拍子にお嬢さんの意識が失われたとして、あのおっかない思想の兄が表に戻ってきたとしよう」
「はぁ」
「そのときあの兄は、お嬢さんと同じ服を着ているということだ……その、花嫁衣装をな」
「あの、つまり……」
「お嬢さんの兄は、そんな恥ずかしい格好をしながらでも殺し合いができるような粋な男か? どうだ」
「兄は……その、かなりの照れ屋というか恥ずかしがり屋といいますか……まぁ、赤面はまず間違いないかと」
「くっくっ、そうか。なら、十分な抑止力になるとは思わんかね? お嬢さんも、兄に殺し合いはしてほしくないんだろう?」
「…………」

 なにやらすごい超理論を述べる九鬼だったが、あながち的外れとも言えなくはない。
 刀子の兄、愁厳は堅物と言っても過言ではないほどの実直すぎる人間である。
 愁厳は神沢学園生徒会会長の証である白の学ランを一張羅としており、これを一日一着、計七着持っている。
 その他には式典用の晴れ着くらいしか持っておらず、女物の服など、ましてやヒラヒラのウエディングドレスなど、もってのほかだった。

 刀子は想像する……愁厳がウエディングドレスを着込み、冷徹に刀を振るう姿を…………。
 ………………………………想像してはいけない光景だった。というか、ありえない。
 九鬼の言う抑止力としての効果も、十分に機能するように思えるから不思議だった。

「……わかりました。では、着替えてきますのでしばしの猶予をいただきたく」
「なるべく速く頼む。本物のドレスというわけではないから、それほど時間はかからないだろうがな」

 もう随分と九鬼を待たせてしまっている。そろそろ決断をしなければなるまい。
 たび重なる懊悩の末、刀子は――ミニウエディングとナイスブルマ、両方着るという選択肢を選んだ。
 ブラは……なくてもどうにかなる。
 元々、このウエディングドレスもどきはアイドル用のステージ衣装ということもあり、ご丁寧にもパットつき。
 サイズも765プロ一の豊乳アイドル、三浦あずさに合わせてあるので、刀子の豊満な肢体も窮屈には感じない。
 残る問題は下のみとなるが、これは愁厳のトランクスを履いておくくらいなら、ブルマを直に履くほうを取る。
 理由は語るのも無粋なので省略。

(とはいえ……まさか、こんな場所で、こんなものを着るはめになるなんて……)

 九鬼は外に待たせ、刀子は適当な家屋へと立ち入り、慣れ親しんだ畳の和室にて脱衣に勤しむ。
 神沢学園規定の、愁厳が好みそうな清楚極まりないシャツ。
 刀子の女体には余る大きさのそれ、正しく留められたボタンを、ぶかぶかの袖口から覗く手でちまちまと外していく。
 男と女とではボタンのかけ方からして真逆なのだが、体質上、こういった経験は初めてではないのが救いだった。
 なるべく布の擦れる音が出ないよう気をつけて脱ぎ、シャツは丁寧に畳んでデイパックにしまう。
 続いて下穿き。こちらは腰元のベルトを緩めるまでもなく、手をかけただけで容易く下に落ちていった。
 男物のトランクスも取り去るのは容易であり、あっという間に刀子は全ての着衣を失う。
 目撃者がいたとするならば、その者は空前絶後の幸福者と言わざるをえない、刀子の裸身。
 モデルが裸足で逃げ出すような豪勢なプロポーションは、媚も売らず科も作らず、ただ堂々と屹立する。
 起伏に富んだラインは外国の山脈を思わせ、思春期の少年なら滂沱の涙を流すであろう母性が秘められていた。

(……本当に、着るしかないのですね)

 全裸はさすがに寒いので、刀子はトランクスを脱ぎ去るとすぐさまブルマを履く。
 上半身裸にナイスブルマという、時代を先取りしすぎた扇情的スタイルは、竜鳴館ならば神格化されていたであろうほどだ。
 我ながら恥ずかしい格好だと自認しているのか、畳部屋に言葉なく立つ刀子の顔は、深紅のごとく赤い。

(非常時とはいえ……花嫁衣装を……着る)

 恥ずかしさを紛らわせるためにも、早くミニウエディングを着たい――のだが、今一歩手が出せない。
 この期に及んで、刀子はまだ頭を悩めていた。
 一度はつけたはずの決心が、いざこれからというタイミングになって揺らぐ。

 刀子を苦しめているのは、このミニウエディングが――偽物であるとはいえ――本来は花嫁が着て然るべき礼装であるという事実だ。
 乙女なら誰もが抱く憧れの未来像――お嫁さん。
 そのシンボルこそ、刀子の目の前に置かれているウエディングドレスなのである。

 一乃谷の家は神社ということもあり、いざ結婚式となれば白無垢の可能性のほうが高いが、やはり女の子としては洋物にも憧れてしまうわけで。
 そもそも誰のために着るのか――と問われれば、刀子の頭には光の速さで如月双七の姿が浮かぶ。
 この会場内には愛しの彼、双七がいるわけで、これから双七に会いにいくわけで、再会したときこんなものを着ていたとしたら――

「そ、そ、それって……将来の予行練習? いえ、むしろ求婚にほかならないのでは――!?」

 刀子の全身が、沸騰した薬缶のように音を上げる。
 本人は気づいていないが、思っていることがそのまま表に出てしまっていた。

「こんな非常事態でそんな……で、でも世の中にはこういった場で盛り上がる愛もあるといいますし、
 き、期待しても損はないのでは、というかこの場合、あらかじめ名簿の名前を書き換えておくのも、
 ありといえばありと言いますか、その場合は如月刀子? もしくは一乃谷双七さん?
 き、如月……刀子。一乃谷……双七。そんな、そんな…………やんやんやーんっ!」

 妄想に浸っていると、急激に視界が揺らいだ。同時に、身悶えするほどの羞恥が込み上げてくる。
 恥ずかしさを紛らわせようと、刀子はぱんぱんと畳を叩き、破片を飛び散らせる。
 牛鬼を祖に持つが故の怪力が思わぬ場所で発揮され、しかし刀子は平静を取り戻せぬまま、

「待った、待つのです一乃谷刀子! 結婚となるなら、いっそのこと呼び名も改めたほうがいいのでは?
 やはりここは定番なところを攻めて、だ、だ、だだだ旦那様……とか。
 ああ! でも双七さんはこういう堅苦しそうなのは好かないかしら!?
 いえ、いえ、いえ……っ! でしたらいっそのこと……! そ、そう! いっそ思い切って!
 …………ダー……………………ダーリン♪ ……………………とか」

 刀子の口が沈黙する。
 刀子の顔が赤面する。
 刀子の頭が沸騰する。
 刀子の身が悶絶する。
 刀子の自我が壊れる。

「……いやーっ! いや、いや、いやーっ!」

 ごろごろごろごろごろー、と畳の上を猛烈な勢いでローリングする刀子。
 時折、畳に平手を打ち付けては木々の破片を飛び散らせ、にやけた顔は原型を失いかける。
 加速する妄想の中では、双七との熱い接吻やら身も焦げるほどの抱擁やら砂糖菓子みたいに甘い愛の囁きやらが繰り返されている。

 そんなことをしていたので、

「盛り上がっているところ悪いんだが、ちゃっちゃと着替えてくれないかね」
「いやんっ、いやんいやんいや…………のぉぉぉっ!?」

 和室の外、障子越しから九鬼の忠言が入る。
 想定外にもほどがある不意打ちに、刀子は転がっていた体を大きく跳ね上がらせ、そのまま立ち上がった。

「く、くくくくく九鬼さん!? 覗きですか、見てたんですか、助平さんなんですかーっ!?」
「落ち着け、見ちゃいない。あまりにも遅いんで様子を窺おうとしていただけだ」
「やっぱり見てたんじゃないですかーっ!?」
「見ていないと言っているだろうが。玄関口にまで聞こえるほどの大声を上げていれば、そりゃ声もかけたくなるというものだ」

 やや気疲れしたような声で、和室の外に立つ九鬼が嘆息する。
 知らず知らずの内に妄想を口に出していた、そしてそれを九鬼に聞かれてしまっていたという事実に、刀子は首を吊りたくなるほどの羞恥を味わった。

「妄想の中の莫迦弟子と乳繰り合うのは構わんが、状況が状況だ。もうちょっと緊張感を持ってくれんか。
 こうしている間にも、双七の身になにが起こっているかわからん。次の放送で呼ばれる可能性とて、ゼロとは言えん」
「それは……心得ています」
「ただでさえ、お嬢さんは兄の馬鹿げた行いを正したいんだろう?
 なら、遊んでいる暇はない。俺も野暮用を抱え込んだままだしな」
「…………」

 障子越しから九鬼の言葉を聞いていると、途端に居た堪れない気持ちになってきた。
 浮かれていた。このような危急存亡の場で妄想に浸るなど、愚かにもほどがある。
 刀子は反省の意を込めて、声もないまま早々に着替えを済ませてしまう。

 これは花嫁衣装ではなく、あくまでもステージ衣装――ミニウエディング。
 スカートの下は、少年が親指立ててしまうほどの魅力を秘めた――ナイスブルマ。

 二つの〝服〟をその身に纏い、刀子は心機一転、ゲームへの参戦を胸に決めた。
 役回りは、既に決まっている。愁厳のような非道な選択は取らない。
 一乃谷刀子が目指す未来は――

「お待たせしました。急ぎましょう」
「ああ」

 賛美も世辞もなく、九鬼は擬似花嫁装束を纏った刀子と並び立つ。
 放送も近い。如月双七は、羽藤桂は、アル・アジフは――生を拾えたのだろうか?
 そして、この地にいるであろうことは間違いないトーニャや虎太郎の安否は――

(兄様……私は、仲間を救う道を選択します。 一のために全を……
 ましてや友愛するみんなを蹴落としてまで、私は幸せを得たいなど思わない。
 ですから兄様、どうか――私の本当の願いを、わかってください)

 一乃谷刀子は、歩む。
 死の香り充満する、生への王道を。


 ◇ ◇ ◇


 一乃谷愁厳が実直な人間であることは既に認知されているとして、妹の刀子も兄に負けず劣らずの出来た人間である。
 一人の男に一途な恋情を傾けようとも、そのために他を蔑ろにするようなことはまずなく、
 学園の影でバカップルと噂されようものなら、真面目に対策に躍り出るような実直すぎる人間だ。
 ……それは本人の気づかぬところで空回りしていることもあるが、結果的には成功に繋がっている。

 一乃谷愁厳が刀子を帰してやりたいと願ったのは、如月双七のいる日常だ。
 刀子の恋情を受け止め、またその想いと共に妹を守れる気概を持ち合わせた好青年、それが如月双七だ。
 刀子の幸せは、双七の存在なくしては成立しない。
 だからこそ――愁厳は、修羅への道を引き返さざるを得なかった。

 刀子だけではない。境遇を同じくしている双七も、神沢市に戻してやらねばならない。
 トーニャや加藤虎太郎、双七の師たる九鬼耀鋼もまた等しく、失いたくはない。
 既に、二人の罪もなき人間を屠ってきたというのに――。

(俺は――)

 それが、実直すぎるが故の弱さ。
 一乃谷愁厳が抱える、優しさという名の弱所。
 彼は妹だけのために、いや、真に妹のためを思えばこそ。
 修羅道を制覇することなど、できはしない――



【F-7 南部/1日目 昼】

【九鬼耀鋼@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品1、日本酒数本
【状態】:健康、肉体的疲労中
【思考・行動】
 基本:このゲームを二度と開催させない。
0:アルたちと合流。方角が一緒なので途中までは刀子と同行。
1:首輪を無効化する方法と、それが可能な人間を探す。
2:制限の解除の方法を探しつつ、戦力を集める。
3:自分同様の死人、もしくはリピーターを探し、空論の裏づけをしたい。
4:如月双七に自身の事を聞く。
5:主催者の意図に乗る者を、場合によっては殺す。
【備考】
※すずルート終了後から参戦です。
 双七も同様だと思っていますが、仮説にもとづき、数十年後または、自分同様死後からという可能性も考えています。
※自身の仮説にかなり自信を持ちました。
※今のところ、悪鬼は消滅しています。
※主催者の中に、死者を受肉させる人妖能力者がいると思っています。
 その能力を使って、何度もゲームを開催して殺し合わせているのではないかと考察しています。
黒須太一支倉曜子の話を聞きました。が、それほど気にしてはいません。
※アルとの情報交換により、『贄の血』、『魔術師』、『魔術』、『魔導書』の存在を知りました。
 情報交換の時間は僅かだった為、詳細までは聞いていません。
※首輪には『工学専門』と『魔術専門』の両方の知識が必要ではないか、と考えています。


【一乃谷刀子@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備】:古青江@現実、ミニウエディング@THE IDOLM@STER、ナイスブルマ@つよきす -Mighty Heart-
【所持品】:、支給品一式×2、ラジコンカー@リトルバスターズ!、ランダム不明支給品×1(渚砂)、愁厳の服
【状態】:健康
【思考・行動
基本方針:殺し合いには乗らない。兄の愚かな行いを止める。
1:双七に会いに行く。方角が一緒なので途中まで九鬼と同行。
2:主催者に反抗し、皆で助かる手段を模索する。
3:兄の犯した罪を償いたい。

【備考1】
【一乃谷愁厳@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【状態】:疲労(中)、右肩に裂傷、腹部に痣、白い制服は捨てた状態、精神体
【思考】
基本方針:刀子を神沢市の日常に帰す。
0:気絶中
1:生き残りの座を賭けて他者とより積極的に争う。
2:今後、誰かに名を尋ねられたら「黒須太一」を名乗る。

【備考2】
一乃谷刀子・一乃谷愁厳@あやかしびと -幻妖異聞録-は刀子ルート内からの参戦です。 しかし、少なくとも九鬼耀鋼に出会う前です。
※サクヤを人妖、尾花を妖と警戒しています。


 ◇ ◇ ◇


【No.13――ミニウエディング】

 女の子なら誰もが憧れを抱くでしょう、純白のウエディングドレス……。
 ショーウインドウに飾られるモデルを目にしたあの日、いつか私も……と思い流れて幾数年!
 まだまだこれから、結婚適齢期なんて始まってもいない、そう! まだ本気出してないだけ!
 日々、フレッシュなアイドル候補生のみんなを見ていると悲壮感が漂う反面、逆に熱意が湧いてくるというもの!
 うーん、漲ってきたわ! 明日のきらめく舞台が、私を待っているーっ!

 …………と、熱弁を振るっちゃったりもしましたが、漏れる溜め息は単なる寂しさの表れですよ?
 はぁ、誰かこの胸にポッカリ空いた穴を埋めてくれないかしら……とと、愚痴っぽくなってしまいましたね。すいません。

 さて、このステージで女の子の憧れたるドレスを着ることができるのは――いったい誰なんでしょうか?

 今の私にはわかりません……だけど、だけどこれだけは言わせてもらいます!


 お幸せにーっ!


134:交錯する雄と雌~綺麗な雫~ 投下順 136:UNDERWORLD
134:交錯する雄と雌~綺麗な雫~ 時系列順 118:I am me
121:戦う理由は人それぞれ、戦う方法も人それぞれ (後編) 九鬼耀鋼 166:小さな疑問がよぎる時
一乃谷刀子・一乃谷愁厳

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