ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

UNDERWORLD

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UNDERWORLD ◆AZWNjKqIBQ


陰惨な殺し合い。誰かが望む人間同士の醜い交流。弱さの露呈とそれを隠そうとする強がり。
彩るのは赤と黒。
零れ出て決して取り返しのつかない血の赤。吹き上がり身を焼く炎の赤。憎悪に満ちる眼の赤。
青空を曇天へと変える煙の黒。心の中に沈み溜まってゆく澱の黒。曇らせ真実からそれを遠ざける目隠しの黒。

何もかもは誰かの思い通りで、切り取られた世界――小さな島の中はそれで満たされていた。
中には、その様な黒と赤のキャンバスの上においても輝く星の様な存在もあったが、今回はそれには触れない。

今回の話は……、小さな世界の端。
まだ何色にも塗られていない、ポツンとそこに取り残された一つの白い箱の話である。


 ◆ ◆ ◆


真上近くにまで昇った太陽の下。
明るいブルーを背に、爽やかなグリーンに囲まれて、それ――真っ白な発電所はそこにあった。

普通よりも高く作られた金網の柵の中には、円柱や立方体など簡単な形をした建物がいくつか並んでいる。
それは巨大な積み木を組上げただけの様な簡素さで、遠目には玩具かと錯覚してしまう――そんな印象があった。
そして、そんな建物の前に一人の女性が立っている。

陽光を跳ね返し風にたなびく黄金の髪。漆黒のライダースーツで覆ってなお女らしさを溢れ出させる姿態。
猫科の猛獣を思わせる蒼く鋭い瞳……第三の亡霊――ドライの姿がそこにあった。



ドライは一人、目の前の発電所を見上げ思案する。

ここまで辿り着いたのは半ば偶然だ。
クドリャカという名の個人用ロケット。その試運転の結果として、辿り着いたにすぎない。
立地条件や発電所という建物自体の性質を考えれば、ここが誰にとっても意味の薄い場所であることには違いない。
更に言えば、彼女が探しているアインと玲二(ツヴァイ)がここに来るかと考えれば、やはりそれもないだろうとドライは考える。
尤も、自分がこのように偶然とはいえ来てしまったのだから、その可能性がゼロとは言い切れないのも事実だが。

「……さぁて」

海風に掻き乱される髪を押さえ、ドライは身体の向きを発電所より逆方向へと転じる。
視界いっぱいに広がるのは薄緑の美しく牧歌的な草原だ。
さらに先。地平線の奥には色取り取りの花が咲き、とてもここが殺し合いの場とは思えない風景を見せてくれている。
数時間前までいたスラム街はワザとらしいまでにそれらしいシチュエーションであったが、逆にここは……と。

「――あ、なんだ?」

不意に襲われる違和感。ドライの中の直感が、この美しい風景の中に何か”おかしい”ものがあると彼女に告げていた。
再び発電所を振り返り、そしてまた草原の方へ、更に四方八方へと視線を流してドライは、それに気付いた。


 ◆ ◆ ◆


結局。ドライは発電所の中に入った。

外装と同じく真っ白に塗られた廊下の中を、まったくのよどみなく静かに素早く移動している。
何か目的のものがあるかのように、それがどこにあるのかが解っているかのように……、そして――。

「――ここか」

果たして彼女の考えた通りのものが其処にあった。
それは、地下通路。
正しく言い直せば、地下送電ケーブルとそれに併走するメンテナンス用通路であった。



そう、やはりあの平原は不自然なほどに美しすぎたのだ。
彼女が気付いたのは、本来ならそこにあるべき鉄塔と送電線の不在。

発電所ならば、そこで生み出した電気を必要とする場所へ送るための送電線が、そこから延びていなければならない。
だが、見渡す景色の中にそれは見当たらない。ならば、この発電所は無用の長物なのか?
そんな訳がないと彼女は考える。
地図に従えばここがこの島の中で唯一の発電所であることは明確であるし、
海に隣接していること、他の市街から離れていることを考えれば他に同じものがあるとは考えられなかった。
そして、内部に踏み込んだことでこの発電所が稼動していることも確認できた。

ならば、どこかに電気を送る線があるはず――そして、それは地下にあった。
工費や手間を考えれば、地上に鉄塔を建てるのが道理だが、この島はリゾートアイランドらしい。
それを考え、また一つの島を補う部分だけとなればケーブルの類を全部地下に潜らせるというのもありだろう。

ドライは自分が通り過ぎた場所を回想し、それがどこにあってどこになかったかを思い出す。
最初にいたスラム街やダウンタウン。あそこには朽ちてはいたが、電柱が立っていたのは確かだ。
そして、森に入り刑務所を越えて……そこからは空中からの景色ではあったが、あのファンシーな町並み。
地図において、「中世風」などと書かれていた街を見下ろした時には電柱などはその中になかった。

つまりは、少なくともリゾートに関した区域に関しては電線の類は地上に出ていない。
逆に言えばそこでは地下に電線があり、それと併走する通路が存在する可能性があると推測できる。



そして、ドライはその想像を地下通路の入り口にあった案内板で確認する。

発電所から伸びる地下通路は北に向かい、そしてすぐの所で二つに分岐している。
一つは真北の方角。地図の升目で「F-2」の位置にある駅へと伸び、さらにそこから真っ直ぐに北進。
あの焼け落ちた娼館の近くで止まり、そこには「変電所」と記されていた。

言われてみれば……と、ドライは思い出す。
娼館から離れる際、眼に映る景色の中にあの鉄塔が立ち並ぶ独特の施設があったと。
街の中においては普通の光景故に気にも留めなかったが……。

しかし北に向かう通路に関しては、現在のところ意味合いは薄い。
ドライはもう一度視線を発電所の位置まで戻し、今度は東へと伸びる線を辿った。
その線は東北東に伸び、花畑の地下を潜りそのまま「G-4」の位置にある駅へと到達――終着のようであった。


 ◆ ◆ ◆


「……で、どうしようかねぇ」

ドライは地下通路の入り口。その脇に止められている移動用のカートに腰掛けて、思案する。
とりあえずの所、この施設内に自分以外がいないのは確かなようだし、やはり誰もが近づかない場所だということはハッキリした。
ならば自分はここからどの手段を以って移動するのか……と、そういう話になる。



一つに地上を徒歩で進むというもの。――しかし、これはNGかも知れない。
遮蔽物が溢れている街中とは違い、発電所の周りは腰の高さまでもないような低い草原ばかりである。
そこを暢気に鞄片手に行くというのは、これはもうピクニック以外の何物でもないだろう。
赤、青、黄色の花畑の中。そこをスッキプで行く自分の姿を想像し、ドライはその案を即座に却下した。



次に考えられるのは空中を行くことだ。
空を飛んだ犬の名前を付けられた、ロシア製の個人用ロケットであるクドリャフカ。
これを再び背負って宙へと飛び立てば、ここより最寄の市街までは僅か10分程度で移動できる。
だがしかし、この案もNGだった。
飛んで始めて気付いた事だが、これは長距離の移動には適していても短距離や捜索においては全くの不向きであった。

推力がロケットオンリーで、翼がないため低速での滑空が不可能。
噴射口を真下に向ければその場に留まることも理論上不可能ではないが、
それがいかに難しいかは、彼女がこんな端っこまで流されてきたことが証明している。

付け加えて言えば、着陸もまた極めて難しい。
調整はしてもそれなりの速度で地上へと降り立たなければならない。
故に足を痛めている彼女は草原を着地場所へと選んだのだ。
万全の状態であればともかく、数十キロに及ぶ装備を背負っての着地。それを道路や建物の天井の上でできるとは言い切れない。

更に、ロケットを操縦中は他のことができない。少なくとも空中から精密射撃などとは無理も甚だしいだろう。
仮に空中から標的であるアインや玲二を発見できたとしても……、成す術がない。
まさか、ゆっくり着地するので待ってくださいね――などと声をかける訳にもいかないし、あり得ない。
ということで、ドライはこの案も却下。クドリャフカには別の使い道を与えるべきだと考えた。



三つ目の案は、この地下通路を伝って東――「G-4」の駅まで移動することである。
移動するだけというのなら確実で安全だ。
恐らくはこの地下通路のことを知っているのは現時点で自分一人であろうと、ドライは確信している。
出入り口は、この発電所を含め、「C-2」「F-2」「G-4」にある三箇所の変電所のみ。
発電所自体は僻地にある故、誰かがこのことを知っているとは考えにくいし、変電所に至っては地図に明記されていない。
彼女自身もそうであったが、例え見かけても特に気にかけたり、ましてや地下通路があるなどとは考えもしないだろう。

逆に言えば、アインや玲二もここにはいないだろうということが言えるが、しかしそれは直上の花畑も一緒だ。
亡霊が真昼の太陽の下で花畑の中を歩くなどとは、考えられないし考えたくもない。
ならば、やはり……このショートカットは活用すべきだろう。
誰も知らないはずの地下通路。それを自分だけが知っているということは、いずれ有利に働くに違いない。
その時の為にも、ここを一度通り抜けておくことは必要なことだ。



「……よし」

思案を終え、ドライはカートより腰を上げて歩き始める。
元よりカートに乗って行くという考えはなかった。
もしカートを動かせば、この狭い通路のこと……そのエンジン音は端から端まで伝わってしまうだろう。
自分以外は存在しないという確信はあるが、万が一の事を考えれば敵に不意打ちのチャンスを与えることになる。
いくらなんでも、そんな抜けた行動を取るようなことはしない。
捻った左足は若干名残惜しそうにしているが、子供でもないのでここは我慢。あくまで自身は亡霊なのだから。

音もなく現れ、足跡を残さずに命だけを持って行く。それが、亡霊(ファントム)――不可知の存在。

第三の亡霊は、静かに薄暗い通路を進んでゆく――……。


 ◆ ◆ ◆


……――そして、彼女は冷蔵庫を漁っていた。

場所は、発電所内にある食堂。ガランとしたテーブルの並ぶその奥の調理場の更に一番奥。
銀色の巨大な業務用冷蔵庫の前にドライはいた。
何故か――?

地下通路を進み始めてすぐに、彼女は時計を見て定時の放送が間もなくである事に気付いた。
それと同時に、ある懸念が頭の中に浮かび上がる。
果たして地下通路の中にもあの放送は届くのであろうか……と、いうことだ。
別に、意味の解らない戯言に価値は見出してないが、死者と禁止エリアの発表だけは聞き逃せない。

と、いう訳で彼女は一旦発電所へと引き返し、ついでに十数分の間を食事に当てようと考えた。
殺し屋といっても機械ではない、食事も休息も必要であったし、それを的確に行えるのもまたプロなのだから。



「……これはチーズか」

食事とは言っても、鞄の中に予め入れられていたのはスカスカのパンと水だけである。
飲み込んでも腹が膨れるだけの、カロリーもビタミンの欠片すらない粗末なものだ。
なので、彼女はこの冷蔵庫の前まで来た。

チーズと言えば栄養価の高い保存食として有名だ。
最初に冷蔵庫を開けた時、白いブロックばかりが詰まっていたことにドライは面を喰らったが、同時にありがたいとも思った。
しかし――。

「……? なんだ、チーズじゃ……えっと、確かこれは……」

チーズにしては柔らかい白いブロック。それは豆腐であった。つまり、冷蔵庫の中は豆腐で満ちていたと言う訳だ。
豆腐――紀元前により中国で生み出されて以降、東洋で幅広く食されているこれもまた偉大な食物。
ドライはアメリカ育ちであったが、チャイナフードは身近にあるし、日本食がダイエットによいなどと言う話も耳にはしている。

若干、期待外れな面もなかったではないが、
ドライはそれをいくつか取り出し、調理台の上に乗せようとして――気付いた。

そこにある、怪しげなダンボール箱に。
その、真っ赤な、毒々しいテープで閉じられた、その箱には、また真っ赤な文字で、こう記されていた――……、


――麻婆豆腐、と。


 ◆ ◆ ◆


「これは…………もしかして、罠なのか?」

そう、ドライは思う。
麻婆豆腐という四文字。それはつい先程、刑務所で手に入れたノートに書かれていたものと全くの同一だ。
打ち捨てられていた灰色の朽ちた刑務所。その中に唯一……今考えればわざとらしく残されていた一冊のノート。
それにより彼女は麻婆豆腐の作り方を不本意ながらも知った。

そして、そこより移動して次の建物の中にそれの材料が用意されている……。

あまりにもあからさまな、誘い。
それは迷子を導く道に撒かれたパンくずなのか、それとも戦場に仕掛けられたブービートラップなのか?

視線を少しずらせば、コンロの上には真黒な中華鍋。そしてその脇に油の瓶。
これは一体何を意味するのか……、考えるまでもない。やはり、挑発なのだ。
ならば問題となるのは、その行く先。

この麻婆豆腐という領域。踏み込むとその先には何があるのだろうか――?


 ◆ ◆ ◆


真空パックされた牛の荒挽き肉。
小瓶に入った、大蒜と生姜の微塵切り。
細長い瓶に詰められている豆板醤。
パックの中に収められた刻み葱。
紙の袋に閉じられた鶏ガラスープの元。
酒、醤油、砂糖、胡椒、胡麻油……等々の調味料。
そして、トロミをつけるのに必要な小麦粉。

……小さなダンボール箱の中に収められていたのは、おおよそこの様なものであった。
言うまでもなく、そして箱に書かれていた表記ともまごうこともなく、それは麻婆豆腐の材料に他ならなかった。

しかも、丁寧に必要分ずつに小分けされ、下拵えや無駄な手間が省けるようにと気を使われている。
豆腐だけが別になっていたのは、やはりそれだけは長期間の保存に適していないからなのだろうか。
ともかくとして、これを鍋に放り込めば誰でもそれなりに麻婆豆腐を作れると、そういう用意がなされていた。

ドライは油を垂らし鍋に火をかける。
なんとも踊らされているようで癪な話ではあるが、ここに何かを食べようと立ち寄ったのは彼女の意思だ。
料理をする気などは考えていなかったが、これも腹の立つことにここにはその用意と猶予があった。

敵の奏でる音色に合わせてステップを踏む趣味はないが、それを逃げたと揶揄されるのはそれ以上に腹立たしい。
故に彼女は踏み込む。あくまで、そこを踏破するために――……。


 ◆ ◆ ◆


殺し屋という立場、そして粗暴な態度からそうは思えないかもしれなかったが、ドライは決して料理は不得意ではなかった。
力強く振られる中華鍋の中で、見る見る間にただの材料だったものは絡み合い、変化し、料理という存在へと移り変わってゆく。

熱をもたせ油を馴染ませた鍋から一旦火を遠ざけ、そこに牛の荒挽き肉を落として炒め始める。
ここは時間を少しかけねばならない。しっかりと肉の脂が浮き出てくるまで……数秒の差が後の味の差になるのだ。
火は料理の味方であると同時に敵でもある。その加減は慎重に計らなくてはならない。
今は強く。肉から旨味を叩き出すが如くに強く。そして、次は弱く。大蒜や生姜の香りを壊さぬように繊細に。
そして、麻婆豆腐を彩る真っ赤な豆板醤を投入する。
唐辛子をふんだんに混ぜ込んだ真っ赤な味噌を広げ、後に入る白い宝石が踊るための舞台を整える。
無色の香り、緑の彩りで舞台が整えば、次はスープ……そして待望の豆腐だ。
触感を楽しむのならば絹ごしではあるが、しっかり味を絡ませて楽しむとなれば木綿が相応しい。
等分に分割されたそれを投下し、火力を最大にして後は待つのみである――……。

「ん? 一つ余って…………」

ダンボールの底。その角に残った一つのビニール袋を取り上げドライは首をかしげる。
箱の中にあった説明書によれば、好みに合わせて入れる辛味調味料ということらしい……さてどうするか?
ふと、記憶に引っかかりを覚えて先に入手したノートを見ると、そこには「全て入れるべし」と書いてあった。
どうやら、このノートを記した人間にとってはこの袋一杯をつぎ込んでこその麻婆豆腐ということらしい。

「……じゃあ、入れっか」

初めて作る料理であったし、知ってはいても馴染みが薄い中華だった故に彼女は簡単にそれを判断してしまった。
後に考えれば、ここが命を賭けたフィールドであることを失念していたと、そう言わざるを得ない。
そんな判断であった。


 ◆ ◆ ◆


数分後、放送まで後10分足らずという頃。
そこに、冷たい床の上で身悶えているドライの姿があった。

火照り……などという言葉では生温い、まさに烈火と表すべき熱が彼女の身体を今蹂躙している。
やはりと、彼女は思う。
これは罠だったのだと……。(本当は親切心だったのかも知れないが)

幸いなことは悪戯という領域にギリギリ収まる範疇であったことだろうか。
身悶える辛さではあるが、どうやら毒ではないようだし……美味であることには間違いなかったのだから。



頭を湯立てる熱……そのせいだろうか、不意にドライの脳裏に何かが閃く。

この世のものとは思えない程のディナー……と、そんな言葉を聞いたのはいつだったか。
業務日誌の最初の頁に書かれていたこと、それと連なる用意されていた食材。整えられていた状況。
誰もが近づくとは考えない島の端。発電所。地下を伝って伸びる通路。島内唯一の動力源。
空から見渡すことのできた青く青く……青色だけの海原。
それらが……これらが、意味することは。これに何かの意味があるとすれば……?

――もしかすると、ここがあの黒服達がいる場所なのかもしれない。



別にそんなことにドライは興味がなかった。
あくまで彼女の目的はアインと玲二の二人を見つけ出し、そして自らの手で殺害――葬り去ることなのだから。
なので、あくまで身体が冷めるまでの暇潰しとして彼女はそれを考える。

超常的な力があるらしい。そして、それはすでに実感している。
だがあえて常識的な線を辿ってそれを考えてみよう。

あの黒服達はどこにいるのか――考えるまでもない。安全地帯と言える場所だ。
戦場の真っ只中、ひっきりなしに誰かが強襲をかけてくる場所となったら、落ち着いて食事をとることすらできないのだから。
それはどこかとなると、まず思いつくのは島の外……これが一番あり得る線だと言える。
距離的にも離れていることは有利であるし、仮に島を離れてそこに接近するものがいたとしても察知は容易であるからだ。
だが、クドリャフカで空の上にいた時。そこから見た光景の中にここ以外の島はなかった。
見えたのは真っ青な海原のみ。(……もっとも、これは西や南にはと、限定される)
とはいえ、例えば船舶や潜水艦などという線もありうる。……が、これには否定できる材料が一つある。
それは最初にいたあの部屋は揺れていなかったという事実だ。故に船はない。
部屋の広さを考えれば潜水艦というのもないだろう。

これで、あの黒服達はこの島の中にいると仮定できる。

では、島の中のどこかと言えば……最も怪しいのはこの発電所に他ならない。
不自然なまでに他から離れていることもそうだが、重要なのはここがこの島唯一の動力源であることだ。
勿論、個別で見れば病院や空港など、自家発電設備を備えている建物もあるだろうが、
主電源がここから供給されるものであろうことは間違いないはずだ。
つまり、人間の身体に例えればこの発電所は心臓という部分に相当すると言える。
そういう意味において、この場所の重要度は計り知れない。

次に、先程発見した地下通路。別の言い方をすれば誰も知らないはずの道。
案内板には北西部と南部への道しか伸びていなかったが、もし真実はそうでなく島全体に伸びているとしたら?
それはさすがに荒唐無稽な妄想であったがしかし、この舞台の上に黒子がいるのだとしたらそれは有用であろう。

……と、ここまで考えたところでドライは放送までの時間が一分を切ったことに気付いた。



額の汗を拭いながら、ドライは転がった椅子を戻しその上に腰掛ける。

たった今考えた事は本当に戯言でしかない。
未知のファクター……超常的な力とやらが混ざれば、根底から覆る可能性もあるのだから。
そしてやはり、暇潰し。ドライには黒服達やその後ろにいる存在について、関心を持つことはできなかった。

彼女には確固とした目的。生きる動機。殺すべき対象。亡霊としての責務が存在するのだから……。

濡れた髪をかき上げながらドライは残り数秒を待つ。
第一の亡霊と、第二の亡霊は、果たしてまたこの六時間を生き残ったのか。それとも朽ち果てたのか。



ドライ(Ⅲ)……ツヴァイ(Ⅱ)……アイン(Ⅰ)……――正午丁度。数えて二回目の放送が始まった。





【1日目 昼/H-1 発電所】

【ドライ@Phantom -PHANTOM OF INFERNO-】
【装備】 クトゥグア(10/10)@機神咆哮デモンベイン
【所持品】 支給品一式×2、マガジン(クトゥグア)×1、懐中時計(オルゴール機能付き)@Phantom
        噴射型離着陸単機クドリャフカ(耐熱服付き)@あやかしびと、包帯、業務日誌
【状態】 左足首捻挫(治療済み、患部に包帯を巻いている)
【思考・行動】
 基本:アインと玲二(ツヴァイ)を探し出して殺す/男を殺す。
 0:放送を聞き、対応する。
 1:地下通路を通ってG-4変電所(駅)へと向かう。
 2:人間を見つけたらアインと玲二を知っているか尋ね、返答に関わらず殺害する。
 3:娼館での一件については考えない。

【備考】
 ※クドリャフカの操縦を覚えました。(なんとか操縦できる程度です)
 ※クドリャフカの移動速度は1エリアを約5分で通り抜ける程度。
 ※業務日誌の最初のページには「麻婆豆腐の作り方」、最後のページには「怪しげな画」が書かれています。
 ※ただ最後のページは酷い殴り書きなので、辛うじて「ヨグ・ソトース」「聖杯」「媛星」ぐらいが読める程度です。
 ※発電所から伸びる地下通路の存在に気付きました。



【発電所より伸びる地下通路】
 発電所より島内の地下を走る送電線のメンテナンス用通路で、北西部と南部へとそれぞれ伸びている。
 1.【H-1/発電所】――【F-2/変電所(駅)】――【C-2/変電所】
 2.【H-1/発電所】――【G-4/変電所(駅)】

 ※案内板にはこの2つの経路しか書かれていないが、もしかしたら…………?


136:Do-Dai 投下順 137:例えば孤独なら傷つくのは、一人ぼっちの自分だけだと
133:満ちる季節の足音を(後編) 時系列順 137:例えば孤独なら傷つくのは、一人ぼっちの自分だけだと
128:日誌とクドリャフカと刑務所とドライ ドライ 158:キャル・ディヴェンス

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