ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

例えば孤独なら傷つくのは、一人ぼっちの自分だけだと

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例えば孤独なら傷つくのは、一人ぼっちの自分だけだと ◆WAWBD2hzCI



「………………」

人形のような人間。
人の姿をした異形の生物とも言える。
もしかしたら人形のような人間に擬態した固有の生命体かも知れない。
親しい人の死を嘆く心や、恐怖だの焦燥だのと人間に必ず備わった何かしらの感情があれば、それは人と呼べたかも知れない。

喜怒哀楽、人間の心を司るもの。
それを演技でもなく、心の底から表現できることができれば、それは正しく人間として機能する。
ならば、とこの世界は少年は逆に問う。

心の底から友人の幸せを喜べない者を人と呼べるのか。
理不尽な死に対して心から怒ることのできない者を人として考えていいのか。
死んでしまった友人の死に悲しむ真似をする者は人と呼んでいいのか。
楽しむ心はおろか、人間らしい部分の八割以上を人ではないと示された人物を『人間』と認めていいのだろうか。


―――――適応係数84%。


適応係数。
個人の一般社会との適応、もしくは非適応の度合いを表した数値で百分率で表される。
国によって突きつけられた数字は、少年の『人間らしさ』は二割も残っていないことを告げていた。
社会に適合できる部分は僅か16%……少年の世界でも、ここまで酷い数値が出た者はいない。

事実、黒須太一は一番の危険人物だろう、と被害者がいるなら答えるかも知れない。
殺人というものを禁忌とは見ない。彼の人格はとある箱庭の中で崩壊してしまっている。
箱庭で起こった事件で、一時完全に損失してしまった理性。与えられたのは他人によって植えつけられた人格のみ。
そのこと自体、太一には怒りも悲しみもない。
彼は理性的に狂う。多面的な精神構造、道化のように『普通』を演じる怪物だ、と誰かは語る。

「くしゅん!」

そんな彼でも風邪は引くものだ。
河に突き落とされ、そのまま気絶などしていては顔が熱いのも、鼻水が出てくるのも頷ける。
寒い、寒いなぁ、と独り言を呟きながらも思考が進んでいく。

何にでも解釈を求める性格だった。
説明がつかない疑問には、ぶっ飛んだ理論を持って自分の考えに決着をつけるほど。
彼が想定した『エイリアン』もそのひとつに過ぎず。
別に超常現象的な参加者の正体が『宇宙人』だろうと『鬼や悪魔』の類であろうと『神』であろうと、割と気にしない。
ただ、妙に『エイリアン』という単語が気に入っただけだ。

そういう意味では先ほど深優・グリーアが告げていた『自分以外の全員がエイリアン』は考えざるを得ない。
少なくとも『支倉曜子』『山辺美希』『佐倉霧』の三名は人間だと太一は知っている。
たとえ捕まってエイリアンになるよう改造を受けていたとしても、自分だけが人間のままである理由などないのであった。

「わはは」

一人寂しく笑ってみることにした。
個だ。
今の黒須太一という存在は限りなく、個に近い。
接触してくる者たちを例外なく襲い掛かれば、たとえ人間であろうとそれ以外であろうと集まらないものだ。

個はいい、と太一は思っている。
複数では、群では生きていけない場合もある。自分のような異常者には特に。
だから自立した存在が大好きだ。孤独のまま、孤高のまま己を保つような人間は美しい。芸術的な価値がある。
それがあまりにも美しく、キレイなものだと思うのが太一の美的感覚だった。

生まれ変わるならタニシになりたい。
タニシは存在するだけの個だ。だからこそ無害、人畜無害。誰にも迷惑をかけず、ただ其処に存在する。
もっと個であれば、無害なものになれるのに。
世界で自分に干渉するモノがいなくなれば、残った最後の一人は限りなく個へと近づくことができる。

「……くそう、一人だ。寂しいぞ。ウサギになってしまう」

だが、その一方で『人間でいたい』という欲求が太一の中に存在している。
この世に生れ落ちた9割以上の人類が得ることができる『普通』ということ。それにとても強い執着があった。
個になるということ。孤独であることは出来た。
それでも、人間として生きていきたいなら……他人との繋がりが必要なのだ。人は一人では生きていけない。常套句である。

平穏な繋がりが欲しい、と思う心は真実だ。
個でありたいという願いと他者との繋がりを求めたいという願い。
矛盾するふたつの激情と理性は84%が歪め続ける。
それでも黒須太一の恐ろしいところは、僅か16%に過ぎない人としての理性が84%の狂気を飼い慣らすところにある。
繋がりがあればこそ、絆があればこそ、人間らしい部分が怪物の太一を抑え付けることができるのかも知れない。

いずれも観測者の想定に過ぎないのだろう。
彼の心理は複雑にして多面的。その全てを理解することは難しい。

「寒いなぁ……ああ、ついでにハラ減ったなぁ」

一人しかいないなら、どんな言葉も独り言になるだろう。
温泉宿へと向かいたいところだが、風邪の悪化というか何というか、とにかく気分が悪くなってその場に座ることにした。
風邪を引いた奴が風呂に入ることは認められないそうだ。
まずは体力の回復が通令なのだ、と納得をひとつすることにする。

※通令→太一語、通例の誤字。通例本来の意味に命令を付け加えること。よって強制の意。

ぐるるるるるるるるるるるる。

「おお、まるで餓えた猛獣のようだ」

腹の虫が中々動かない主人への苛立ちをぶつけるため、唸り声を上げていた。
黒須太一曰く、自分ほどの存在になれば観念的な存在と意思疎通が図れるらしい。
人はそれを電波が降りる、などという。気にしてはならない。

『おいっ、テメエ、とっとと飯食えよ! 俺は腹減ってんだよ!』
「うるさいな。いつの間にコミック力場が発生してるんだ」
『訳分かんねえこと言ってねえで、早くしろよ! 俺じゃどうしようもねえんだっ!』
「短気な奴だ。それでも俺の腹の虫か。まずは自分を食って満足してみろ、話はそれからだ」
『なんだと、テメエ! 表に出ろ!』
「まず、お前が現世に光臨して見せろ、この空想の産物が」

もちろん、第三者から見れば太一が自分の身体に向かって独り言を言っているように見える。
素晴らしくクレイジーな会話なのだが、当人たち(?)はもちろん真面目だ。

『舐めてんのか、面白れえ。殴ってやる』
「やってみろ。未だかつて腹の虫に殴られたことはない、と愛貴族の名に誓って断言してやる」
『この甘々に育てられた芸能人の息子クラスの我侭ぶりを甘く見るんじゃねえぜ?』
「フー、そいつはクールだ。けどお前のスウィートガイっぷりも、肉体という檻の中じゃ実刑判決食らって豚箱入りぐらい無力だってことを忘れるな?」

世界初、腹の虫とマジで殺し合う五秒前になるナイスガイ(青年)だった。

(……そういうのを一般的にはキ○ガイと言いますか、そうですか)

俺、泣かない……! と、別の意味で気合を入れてみることにした。
やはり一人は虚しい、と改めて思う。
今までの自分の行動を鑑みて、少し浮かれすぎたかなぁと溜息ひとつ。だが挫けない男だった。

「しかし、本当に腹は減ったんだよなぁ……」

デイパックの中を漁ることにした。
世界に八人だけしか残らなかったときは、食料の調達にも苦労したものだ。
だが、黒尽くめの男たちはちゃんと食料を支給してくれているらしい。
ありがたや、ありがたや、と楽しみにしながら食物を漁ることにした。

パンがあった。だが川に落ちたときに水の直撃を受けていた。
干し肉があったはずだった。しかし川に流されて行方不明になったらしい。
ジャガイモがあった。こればっかりは水に濡れても平気なため、残されていた。
夢と希望があった。……これはまったくもって、完膚無きまでに何の役にも立たないので捨てる。

それは捨ててはダメだろう、などというツッコミはどしどし応募しよう。

「ふう、使えない管理人共だ」

文句は明後日の方向に。
とてもクールに、貴族の如く。これが愛貴族である自分の生き様だ、と語ってみる。
さっきから独り言ばかりで、段々虚しくなってきた。
こうなれば現地調達の如く、サバイバルしかない。ここは廃校だが、食べ物はあるのだろうか。

ついでに風邪を引きそうなので新しい衣服が欲しい。
冷えた身体も暖めたいところだが、さすがに水際から復活して四時間以上が経過する。
服は昼の陽気に満たされて乾き始めている。
問題は水を吸った服を着たまま気絶していたため、身体が冷えたことだがヤングアダルト候補生な黒須太一はめげない。

家庭科室に行く。
コンロ一式があった。だが、廃校だけにガスが通っていなかった。
畜生、なんて使えない学校なんだ、と文句を言うしかない。
とりあえず火に関しては昼の間は使わないランタンを壊して確保することにした。

太一は暗闇の中でランタンを必要としない。
彼の瞳は暗闇の中でも良く見える。猫の瞳と遜色ないほどに良く遠くまで見通せるのだ。
よってランタンは必要ない。破棄することにして有効活用。
さあ、残りの材料や調味料を確保しよう。

「……って、塩だけかよ」

さすが廃校、塩で我慢せよとは極貧生活にも程がある。
きっと生徒全員が食物を巡って天下一武闘会を開催し、荒れに荒れた学校は閉鎖されたのだろう、と太一は思う。
塩だけにしょっぱい現実を噛み締め、ついでにほんの少し辛い現実に涙する。

「……っし、太一様の三分クッキングの時間だ」

①外に出てランタンを破壊、落ちていた枯れ葉に着火して火を起こす。

②踊る。イメージとしては辺境の部族のように。

③ジャガイモに一人一人名前をつける。

④ホイルに包んだジャガイモを断腸の思いで放り込む(風味が増す)。

⑤待つ。

⑥涙する。

⑦待つ。

⑧涙を拭う。

⑨待つ。

⑩哀しみを乗り越えて人として大きくなる。

⑪待つ。

⑫待つのをやめ、腹の虫を止め、取り出す。

「よし、完成だ」

残りはホクホクのジャガイモに塩で味付けしていただこう。
これで煩い腹の虫も黙ってくれるだろう。
そのことに満足しつつ、まず最初の一手として向坂(ジャガイモの名前)を口の中へ運ぶことにした。
熱いが、うまい。
身体が芯から温まる。犠牲の元に散った向坂(ジャガイモの名前)を無駄にはしない、と心に誓う。

一つ目は一心不乱に食う。
まずは空腹をそれなりに抑えて、一息。二つ目の間桐を取り出しながら思う。

(生きてるって素晴らしい)

他者を蹂躙して、或いは自己を必要以上に守ってでも生きている。
その実感からこうして食べ物を食べることが出来る。
たとえその裏で多くの犠牲者が食い物にされていようと、今、こうして生きていることの素晴らしさは太一にも理解できた。
三つ目はリセルシア。優雅な名前だ、気に入った。

ぐちゃぐちゃぐちゃ。
はぐっ、はぐ、はぐ。
もぐもぐもぐもぐ、ごっくん。
ぱくぱくぱく、ランチタイムの時間だよ。

「ふーっ」

異様な食事風景というわけではない。
子供が食べるモノに名前を付けながら食べていくのは、キャラクターを模ったパンを食べるのとなんら変わらない。
だからこそ、黒須太一は気にすることなく腹の中に四つ目のジャガイモに手を伸ばした。
背徳的な味がする。ジャガイモと塩だけでは味わえないような甘美な味がした。

その事実に酔っていた。
酒のように、麻薬のように広がっていく欲望に少しだけ身を任せ続けていた。


「動かいへんでおくんなはれ」


それが原因なのだろう。
廃校の庭でサバイバルを楽しんでいた太一の背後の影に気づけなかった。
若干の発熱なども理由に起因するだろう。
太一の背後にはコルト・ローマンを構えた修羅がいた。人を殺す覚悟を決めた藤乃静留が立っていた。


     ◇     ◇     ◇     ◇


「うちのこと、覚えてやはるか……?」
「ええと……?」

何となく振り向くまでもなく、覚えている。
コミュニケーションを取るために拡声器を利用した際に、その危険性を指摘した女性だ。
ついでに超常現象を使用する、太一曰くのエイリアンである疑いがある。
確か、確か名前は藤乃静留と思い浮かべて……彼女に関する一番印象的な出来事を口にした。

「ナイスパンチラ」
「はっ……?」
「いや、なんでもないです、はい」

崖に突き落とされたとき、彼女の足を掴んでいた。
当然、自分が下で彼女が上で。そして視線は間違いなく上に向かれていたため。
目の前に広がる光景に対する余裕も失われていたあのときが、妙に勿体無い。
あの時は色々と舞い上がって無我夢中になってしまったが、ここはいつも通りの冷静な分析をすることにした。

さて、彼女は今すぐ殺すつもりだろうか。
深優・グリーアのときといい、簡単に自分を殺せる状態だと言うのに猶予が残されている。
ここに存在するのが迷いか、それとも利己的なものかは問わない。

「ええと、俺をどうするつもりかな……?」
「殺すわぁ」
「即答! 大ピンチ! ウェイト、ウェイト! とりあえず落ち着こう、どうして殺すんだ?」
「太一はんが危険そやさかいに」

危険。
無害ではなく有害。
自身の中にある化け物を自覚している太一に反論はない。
反論はないが、それでも道化のように口は回り続ける。

「どうして? 俺だって殺し合いに放り込まれて怖かった。いきなり、あんな奴が出てきて怖かったんだ」
「確かにそれは分からへんでもない」
「だけど、頭を冷やして(文字通り)考えたんだ。あれは浅はかな行為だったよ。それは認める」
「太一はんは、殺し合いに乗ってへんと……?」

静留にしてみれば、黒須太一は見つけ次第に殺害するぐらいのつもりだった。
なつきに危機を及ぼす可能性のある存在の排除。
なら、あの狙撃してきた男や目の前の白い髪の青年などは真っ先に排除すべき存在だった。
それでも声をかけたからには、迷いがあるのかも知れない。

もう手を血で汚してしまったけど。
それでも人を楽しんで殺すようなことは出来なかったのだ。

「……言い訳にならないかも知れないけど、俺って少し不安定だから」

一方の太一は欺瞞を塗りたくる。
本能を理性が抑え付けながら、残った二割以下の人間らしさで『人間に擬態』する。
彼が心の平穏を手に入れるために培った、偽りの人格だ。
それを前面に押し出して訴える。決して、自分が無害であるとは言わずに。

「……信用でけへんな」
「まあ、そうだろうなぁ……どうすれば信じる?」
「まずは武装解除してもらいまひょ、少しかてけったいな真似したら撃ちますわ」
「……了解」

ぽいぽいぽい、っとサバイバルナイフを捨てる。
何だか良く分からないウィルスは捨てるかどうか迷った挙句、デイパックごと渡すことにした。
とりあえずこれで無手、何も持っていない。
現時点では無害ではなく、無力な純愛貴族の黒須太一だった。

「……まだ、何ぞ隠していまへんか?」
「これ以上はない。逆さに振っても出てくるのは悲鳴だけだ」
「…………まだ信用できへんどすなぁ。面倒やから撃ってしまいまひょか」
「ノー、ノー、やめてーっ」

平伏して許しを請うことにしたらしい。
泣きそう、というような表情は演技か、それとも素かは判断がつかない。
太一だって死にたくはない。
何処か冷静な自分が物事を客観的に見てしまうが、それでも突きつけられた銃の恐ろしさは知っているつもりだ。

「……まあ、ええですわ。ただし何ぞ隠し持ってたりしたら、遠慮なく」
「オーケー、オーケー……助かった」

ぐったり、と冷や汗の流れる三分間を楽しむことになった。
エイリアンにせよ、何にせよ、少し前の大考察がそれなりに正しければ目の前の女性は敵ではない。
人間とそれ以外の存在の殺し合い。
もちろん、人間じゃない存在とて平気で従うかどうかは別なのだろう、と勝手に思うことにした。

深優・グリーアも目の前の静留もすぐに太一を殺すことはしなかった。
64人。太一のいた8人だけの世界を更に八倍しただけの数による殺し合いだ。
殺し合え、と言う命令の元に誕生した世界。
ならば殺し合うこと自体も正しい世界の回り方なのかも知れない。少なくとも生きたいから殺すのは人間らしい思考だ。

とりあえず、親睦の証としてホカホカのジャガイモを渡してみる。

「……? これは?」
「自家製のジャガイモ。塩をかけてお召し上がりくださいませ、お嬢様」
「……何だか、口調が一定にならへんなぁ」

最初は毒ではないか、と疑っていたらしいが、周囲の状況を鑑みるに問題ないと判断。
以前の拡声器といい、今回のジャガイモを焼く匂いといい、人を集めることの危険性をまるで理解していない。
そんな太一は危険なのではなく、ただの莫迦なのだと当たりをつけてジャガイモをいただくことにした。

ぱくり、と一口。
静留もそれなりに空腹であるために、とても美味しかった。
空腹は最高のスパイスである。

「…………対馬」
「……ん?」
「いや、なんでもない」

訝しげな静留の様子に首を振る。
気になった静留ではあるが、もはや太一には変人のレッテルを貼ったばかりなので気にしないことにした。
二つ目に手を伸ばす。太一は粛々とその様子を見守った。

「…………岡崎」
「……なっと、さっきから聞いた名前が聞こえるんせやけど、太一はんの知りたいやったんか?」
「いや、ほとんど知らん」
「……なんやそれ」

静留の血肉となった新じゃがの無垢なる民たちの名前だ。

「気にしないでいい、命は受け継がれていくものなのだ。合掌」
「…………はあ」

もうツッコミを入れることにも疲れたのか、それからは無言を通すことにしたらしい。
太一も残った三つのジャガイモのうちのひとつを口にする。
塩だけでは飽きてきたところだ、バターが欲しいと思うが残念ながら贅沢品である。
とりあえず腹が膨らめばお互い落ち着くだろう、ということで食事タイムと相成った。


     ◇     ◇     ◇     ◇


その後、静留は太一と別れることになった。
太一は『交流できる仲間』を集めて、管理人を打倒するらしい。
もっと回りくどく説明されたので、勝手にそう解釈させてもらった。彼のぶっ飛んだ性格は考慮しきれない。
静留も一度修羅に落ちると決めた以上、馴れ合うつもりはなかった。

(なんや。結局、人殺しを忌諱してるとゆーことどすか)

自分がこの手で殺した、藤林杏のことを思い出した。
彼女は大切な人を救いたかったのだろうか。
静留は殺人鬼にはなれなかった。人殺しにはなってしまったけど、望んで殺すことはできなかった。
その結果、黒須太一を見逃す要因になってしまったのかも知れない。

多少でも危険があれば殺すべきだったのに。
それでも殺そうとしなかったのは、きっと迷いからなのだろう。

(甘いなぁ……甘い)

烏月たちを見逃したときも、そして今も。
こうしている間にもなつきが苦しんでいるかも知れないというのに、昼行灯な態度。
静留自身にだって分かっている。
今の態度はいずれ己の身を滅ぼしかねないことぐらい、誰に言われるまでもなく分かっているのだ。

「……放送が、始まるなぁ」

時計を見る。
時刻は正午ちょうどまであと秒針十周程度。
廃校を出たところで、静留は一度立ち止まった。

背後から声が聞こえてきたからだ。
聞くのは二度目で、彼に気を取られるのは三回目。黒須太一の交流方法が静留の耳に届く。
だから、その行動が危険だというのに……などと言った言葉を飲み込んだ。
これ以上気にかける余裕はない。それで彼が死ぬのなら、勝手にすればいいのだ。それこそ、自業自得というものなのだから。

彼が何を求めているのか、静留には分からない。
それでも願いが同質のものだというのなら、彼の願いが叶うことを祈るぐらいはしてやろう。
代わりに自分の願いも叶って欲しい。
逢いたい。愛するなつきに。でも、血で穢れたこの両手では抱きしめられない。

――――だからせめて、無事でいてください。

「……なぁ、なつき……うちより先に名前を呼ばれたらあかんよ……?」

切ない思いに胸が苦しくなった。
いずれ覚悟は決めるのだろう。人を殺す覚悟も、人に殺される覚悟も必ず決める。
だから今だけは願わせて欲しい。
人殺しとしての自分ではなく、なつきを大切に想う『藤乃静留』として……名前を呼ばれないことを祈らせて欲しい。

廃校での放送が終わると同時に、島全体がソレに反応する。
死神が告げる残酷な真実、悪魔が騒ぐ知らせの刻が迫っていた。



【D-6 廃校の外/一日目 昼(放送直前)】

【藤乃静留@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備:殉逢(じゅんあい)、。コルト・ローマン(3/6)】
【所持品:支給品一式、虎竹刀@Fate/stay night[Realta Nua]、玖我なつきの下着コレクション@舞-HiME 運命の系統樹、木彫りのヒトデ1/64@CLANNAD】
【状態】疲労(中)、左手首に銃創(応急処置済み)、左の太股から出血(布で押さえていますが、血は出続けているが少量に)
【思考・行動】
 基本:なつきを探す なつきの為に殺し合いに乗る。
 0:放送を待ち、祈る
 1:なつきの為に殺し合いに乗る、しかし殺し合いに乗った人間を優先的に排除
 2:殺し合いに乗る事に迷い(特に力なき人間を殺すことにためらい)
 3:太股の傷を治療する為の道具を探す。
 4:なつきに関する情報を集める。

【備考】
 ※下着コレクションは使用可能です。
 ※理樹を女だと勘違いしてます。
 ※詳しい登場時系列は後続の書き手さんにお任せします。
 ※死者蘇生に関して否定。
 ※移動中です。移動先は後続の書き手さんにお任せします。


     ◇     ◇     ◇     ◇


「………………」

ぐらり、と身体が揺れかけている。
ノイズだ。頭の中をノイズが走り続けている。
ぶつり、ぶつりと人間らしい二割にも満たない理性が切れ始めている。

「―――――――」

食事後、情報交換はした。
再会記念にセクハラをしたかったが、銃に脅されて仕方なく引き下がることもあった。
太一曰く、人間以外の存在との交流を成し遂げたのだ。
人間の可能性はすごい。

太一は彼女と行動を共にしたかった。
足早に去ってしまおうと背中を向ける静留を追いすがろうとして、そして気づいた。
静留の左の太腿。彼女が太一に見せないように隠し続けた傷だ。
そこから流れ落ちるのは血だ。世界を曖昧にさせる猛毒だった。

「――――――――――」

キレイなおみ足、その太腿から血が滲んでいた。
大変だ、と思った。こんな綺麗な血が流れてしまうなんて。
赤い血。血。血。
赤い、赤い、赤い、赤い、赤い。

「…………ぐっ」

眩暈を感じて、目を閉じた。そうすることで歪みを矯正しようとした。
改めて目を開くと、既に静留の姿はなかった。足早に去ってしまったらしい。
ああ、ああ。
なんて勿体無い、と怪物の自分が嘆く。世界はいつだって曖昧で、蠢くものたちは触れるだけで赤くなる。

キレイなものは綺麗であればこそ、壊したくなる。
存分に破壊して、制圧してしまいたくなる。簡単だ、簡単に事は済んでいた。だが、もう獲物はいない。
残念だ。視界はぼんやりと霞むくせに、動くものは敏感に全てを察知してしまえるだろう。

唐突に自分が何者であるかを忘れて、衝動のままに動こうとする。
黒須太一が侵食されていく。
何処からが人間としての黒須太一で、何処からが化け物としてのクロスタイチかが曖昧になる。
そうだ、全ての感覚が曖昧になってしまう。

「―――――――――っ」

今まで抑えてきた84%の濁流が、16%の堤防に襲い掛かろうとした。
幸福だったのは、彼の視界にはもはや赤が残っていないことか。
赤い点があれば接触しただろう。赤い存在があれば、何かの現象を引き起こしていただろう。
世界と一体化したような、不思議な感覚が身体を制圧しようとするだけだ。

ノイズはもうない。
赤い色が太一の視界から消えたからだ。

「あー、あー……」

まるでマイクのテストをするかのような声が漏れる。
どうやら、己の声から出る音を正しく認識できるらしい。大丈夫、戻れている。
安心した。まだ心の平穏は保たれているはずだ。
曖昧だった世界と己の区分けが整うのに、十分近くの時間を要した。

視界がクリアに。
獲物がいない以上、攻撃は禁止。

「……まったく、もー」

血は苦手だ、と太一は独白する。
これで夕日と組み合わされたら、一体どうなってしまうのだろうか。
さて、あの上級エイリアンが言っていた『制限』とやらは自分にも等しく繋がっているのだろうか、などと首をかしげる。

「いやー、困ったもんだ、うん」

わはは、と愛想笑いをした。
殺し合えば血が出るし、世界は赤く変質していくのだろう。
赤い色、特に血は太一の心を酷く揺るがせてしまう。
まるで化学実験のように、混ぜるな危険、の張り紙が必要だな、などと独り言。

独り言を言うと、この世界に留まっていられるという安心感が沸く。
どんな無茶な解釈でも、答えを得ることが出来れば不安定な存在は付け焼刃でも存在できるのだ。
そういう意味でも、独り言とは大切なファクターだ。

「よし、気を取り直して仲間を捜すか」

人間を集めて『エイリアン』を打倒し、地球の平和を守るのだ。
先ほどのように人間以外の可能性があるからといっても、急に襲い掛かるものではない。
エイリアンと手を組み、強大な敵と共に戦うこと。
友情が生まれれば、それはとても素晴らしいことだ。合言葉は『友情は見返りを』『求めない』に大決定。

交流できれば、可能性はたくさん含まれるのだ。
人間ってすげえ、と太一は思う。目の前に指し示された何百もの選択肢は普通の人間が選べる無限の可能性だ。

「じゃ、じゃ、じゃーんっ! 拡声器ー!」

初心に戻って問いかけよう。
この一室から窓に向けて呼びかけても、恐らくは意味のない問いかけになるだろう。
なら、週末にやるつもりだったことでもやろうか。
群青学園放送部による放送を。終わってしまった廃校と終わってしまった世界の中で。

ガピッ――――スイッチを入れた。
廃校の放送室の中にある機材、拡声器を手に入れた。

さて、どんなことを話そう。
どうせ誰も聞いていないだろう放送だ。拡声器がまだ使えるかどうかを確かめるための試運転。
なら、考えられるぐらいの『普通』をやってみたいと思った。
そうすることで心の平穏を、安心を得たいと思った。


「こちら、群青学園放送部―――――」


今までは心の平穏を得られなかったのかも知れない。
一度一人でじっくりと考えて、ようやく自動化しかけた思考を繋ぎとめるぐらいの回復ができた。
それも一時のことに過ぎないのかも知れない。
ただ、16%が確かにここに存在したことを告げるために、黒須太一はその続きを促した。


「―――――生きている人、いますか? それでは、また来週」


一週間以上も殺し合いの舞台にいるだなんて、ナイスジョーク。
つまらないことを思ってプププ、と口元を歪めて笑ってみる。
聞く人間が聞けば抱腹絶倒で間違いない。友人たちと笑いあうに無邪気に笑って見せた。
そんな太一の放送に呼応するように、ブツブツッと島全体が唸り声を上げた。

放送の時間だ。
死を告げる時刻、現実を突きつける甘美なる時間の中に身を委ねることにした。



【D-6 廃校、放送室/1日目 昼(放送直前)】

【黒須太一@CROSS†CHANNEL】
【装備】:サバイバルナイフ、拡声器
【所持品】:支給品一式、ウィルス@リトルバスターズ!、第1次放送時の死亡者とスパイに関するメモ
【状態】:疲労(小)、やや風邪気味(軽い発熱・めまい・寒気)
【思考・行動】
0:『人間』を集めて『エイリアン』を打倒し、地球の平和を守る。
1:拡声器を使って、人と交流する。
2:『人間』や『エイリアン』と交流を深め、強大な『エイリアン』たちを打倒する。
3:『支倉曜子』『山辺美希』『佐倉霧』と出会えれば、仲間になるよう説得する。
4:「この島にいる者は全てエイリアン」という言葉には懐疑的。

【備考】
※第一回放送を聞き逃しましたが、死亡者のみ名前と外見を把握しました。
※太一の言う『エイリアン』とは、超常的な力を持った者を指します。
※登場時期は、いつかの週末。固有状態ではありません。
直枝理樹(女と勘違い)、真アサシン、藤乃静留、玖我なつき(詳細は知らない)、深優・グリーアをエイリアンと考えています。
※スパイに関するルールはでたらめです。
※次の行き先や行動方針については、後続の書き手さんにお任せします。



136:UNDERWORLD 投下順 138:再起
136:UNDERWORLD 時系列順 140:調教
132:蠢動の刻へ 黒須太一 146:崩壊/純化
115:もう一人の『自分』 藤乃静留 148:sola (前編)


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