al fine (後後) 7 ◆Live4Uyua6
・◆・◆・◆・
燦々と輝く太陽と妖艶に煌く媛星の下で賑やかに騒ぐ者達がいた。
彼らはナイアによる第一のゲームを乗り越えた者達。
そんな彼らも今は羽を休め百花繚乱と広がる花畑にて昼食を取っている。
彼らに広がるのは笑顔。
そして、二つの大きなレジャーシートが広がる先の一つ。
この殺戮の島で奇跡とも言える再会を果たした親子。
そして神の悪戯によって数奇なすれ違いがおきている二人。
この四人の楽しい食事を覗いて見る事にしよう。
彼らはナイアによる第一のゲームを乗り越えた者達。
そんな彼らも今は羽を休め百花繚乱と広がる花畑にて昼食を取っている。
彼らに広がるのは笑顔。
そして、二つの大きなレジャーシートが広がる先の一つ。
この殺戮の島で奇跡とも言える再会を果たした親子。
そして神の悪戯によって数奇なすれ違いがおきている二人。
この四人の楽しい食事を覗いて見る事にしよう。
・◆・◆・◆・
「うん、美味しいな。流石だ」
「……あらあら、褒めても何も出ないわよ」
「ううん、ママは料理が上手だ」
「……そうかしら?……とはいってもサンドイッチは誰でも出来るわよ」
「……その誰でも出来るサンドイッチすら充分に作れない人はいるけど……くくっ」
「な、なんだとっ!? ファ、ファル。それはどういうことだ!」
「……あら? なつきさんとは言ってないけど?……ふふっ自覚があるのかしら?」
「な、なっ!?」
「まぁまぁ……なつきも落ち着いて」
「ふふっ」
「……あらあら、褒めても何も出ないわよ」
「ううん、ママは料理が上手だ」
「……そうかしら?……とはいってもサンドイッチは誰でも出来るわよ」
「……その誰でも出来るサンドイッチすら充分に作れない人はいるけど……くくっ」
「な、なんだとっ!? ファ、ファル。それはどういうことだ!」
「……あら? なつきさんとは言ってないけど?……ふふっ自覚があるのかしら?」
「な、なっ!?」
「まぁまぁ……なつきも落ち着いて」
「ふふっ」
色とりどりの花が広がる中、これもカラフルなシートを広げ四人は食事を取っていた。
中央には強い陽の光を遮るための大きなパラソル。
その面子はなつき、ファル、クリス、むつみ。
直ぐ左隣では同じくシートを広げ美希、九郎、碧が騒がしく食事を取っている。
シートの上に広がるのは花畑と同じく色とりどりのサンドイッチ。
色々な種類が一つの箱にぎっしり詰まっていて、一つ一つががとても美味しそうであった。
中央には強い陽の光を遮るための大きなパラソル。
その面子はなつき、ファル、クリス、むつみ。
直ぐ左隣では同じくシートを広げ美希、九郎、碧が騒がしく食事を取っている。
シートの上に広がるのは花畑と同じく色とりどりのサンドイッチ。
色々な種類が一つの箱にぎっしり詰まっていて、一つ一つががとても美味しそうであった。
「しかし……楽しいな。ママ」
なつきは本当に幸せそうにそう呟いた。
彼女の隣には大好きな母親が居て、大切な恋人が居る。
これ以上に幸せなものなんてなつきには思いつかなかった。
そんななつきが浮かべるのは満面な笑顔。
今、目の前にある最上の幸せをゆっくりとしっかりと噛み締めるように。
彼女の隣には大好きな母親が居て、大切な恋人が居る。
これ以上に幸せなものなんてなつきには思いつかなかった。
そんななつきが浮かべるのは満面な笑顔。
今、目の前にある最上の幸せをゆっくりとしっかりと噛み締めるように。
「……ええ、本当に……本当ね」
むつみはそんななつきの言葉にゆっくりと応える。
そして小動物のようにサンドイッチを頬張るなつきの髪を梳こうとして……それを止めた。
自然に伸ばした手が不意に戸惑い、やがてゆっくりと戻る。
そのむつみの表情は伸ばした手と同じく何処か戸惑っている様だった。
そんなむつみを見てクリスは少し苦笑いを浮かべる。
そして小動物のようにサンドイッチを頬張るなつきの髪を梳こうとして……それを止めた。
自然に伸ばした手が不意に戸惑い、やがてゆっくりと戻る。
そのむつみの表情は伸ばした手と同じく何処か戸惑っている様だった。
そんなむつみを見てクリスは少し苦笑いを浮かべる。
(やっぱり……まだ慣れないのかな)
クリスが思い出すのは昨日の事。
ずっとずっと触れ合えなかった親子の再会の時。
母と娘の本来無かったはずの再会の事。
あの時の不器用で、でも何処か温かい再会の事を。
クリスは彼にしか見えない小雨に濡れる色取り取りの花を見つめながらそれをゆっくりと思い出していた。
ずっとずっと触れ合えなかった親子の再会の時。
母と娘の本来無かったはずの再会の事。
あの時の不器用で、でも何処か温かい再会の事を。
クリスは彼にしか見えない小雨に濡れる色取り取りの花を見つめながらそれをゆっくりと思い出していた。
・◆・◆・◆・
陽が沈みかけ始めた頃。
オレンジの光が差し込む教会の一室。
そこに居るのは三人。
予期せぬ再会を果たした九条むつみと玖我なつきの親子、そしてなつきの恋人であるクリス。
その三名がほんの少しの間を挟んで対面している。
オレンジの光が差し込む教会の一室。
そこに居るのは三人。
予期せぬ再会を果たした九条むつみと玖我なつきの親子、そしてなつきの恋人であるクリス。
その三名がほんの少しの間を挟んで対面している。
「あ、あの……その、何だ……えっと」
なつきはむつみを前にして言葉がでず戸惑うばかり。
死んだと思っていた母親に対してどんな言葉をかければいいか思いつかなかったから。
生きていてよかったとか会えて嬉しいとかそんな言葉を思いつくも相応しくないと思って。
なつきにとってむつみと会えなかった約十年間はとても長い空白だった。
感情は溢れて止まらないのに言葉でなくて。
直ぐにこの間を埋めて抱きしめたいのにそれが出来ない。
その空白は長く、なつきを足止めさせていた。
死んだと思っていた母親に対してどんな言葉をかければいいか思いつかなかったから。
生きていてよかったとか会えて嬉しいとかそんな言葉を思いつくも相応しくないと思って。
なつきにとってむつみと会えなかった約十年間はとても長い空白だった。
感情は溢れて止まらないのに言葉でなくて。
直ぐにこの間を埋めて抱きしめたいのにそれが出来ない。
その空白は長く、なつきを足止めさせていた。
「……」
それはむつみも同様だった。
会うはずは無かった、こんな殺し合いが起きるまでは。
今更、どういう風に接すればいいのだろうか。
母親ぶっていいのだろうか、なつきは許してくれるのだろうかと。
十年間なつきを放って置いた自分を母親として認めてくれるのだろうかと。
聞くのが怖かった、否定されるのが怖くて。
話しかけようにもそれができなかった。
会うはずは無かった、こんな殺し合いが起きるまでは。
今更、どういう風に接すればいいのだろうか。
母親ぶっていいのだろうか、なつきは許してくれるのだろうかと。
十年間なつきを放って置いた自分を母親として認めてくれるのだろうかと。
聞くのが怖かった、否定されるのが怖くて。
話しかけようにもそれができなかった。
その二人の距離感は近いのに何処か遠く感じて。
互いが一歩踏み出せばそれは埋まるのに。
その一歩を踏み出す勇気が二人には生まれない。
ままならない時間が暫く流れていた。
互いが一歩踏み出せばそれは埋まるのに。
その一歩を踏み出す勇気が二人には生まれない。
ままならない時間が暫く流れていた。
「…………ほら、なつき」
不意にクリスがなつきの背を押す。
なつきはビクッと体を震わせ一歩進む。
なつきは戸惑い振り返り、クリスを見る。
クリスは笑って。
なつきはビクッと体を震わせ一歩進む。
なつきは戸惑い振り返り、クリスを見る。
クリスは笑って。
「難しく考えないで。素直になればいいんだよ」
難しく考える必要なんて存在しない。
クリスはそう思ったから。
素直に再会を喜べばいいだけなんだから。
だってなつきとむつみは親子なんだから。
そんな空白や距離感なんて直ぐ埋まる。
誰かが一歩踏み出せば。
そう思ったからこそ
クリスはそう思ったから。
素直に再会を喜べばいいだけなんだから。
だってなつきとむつみは親子なんだから。
そんな空白や距離感なんて直ぐ埋まる。
誰かが一歩踏み出せば。
そう思ったからこそ
「なつき……ほら、行きなよ。大丈夫だから」
もう一度強く背を押す。
なつきはそのまま押されてバランスを保てず一歩、二歩とよたよた進んで崩れそうになる。
なつきはそのまま押されてバランスを保てず一歩、二歩とよたよた進んで崩れそうになる。
「なつきっ!……あ」
「……あ」
「……あ」
その時、むつみがなつきを受け止める。
距離が―――埋まった。
なつきは目を潤ませそして
距離が―――埋まった。
なつきは目を潤ませそして
「―――――――――――ママ」
ずっと。
ずっとずっと。
言いたかった事。
待っていた事。
それをゆっくりと静かにけれどしっかりと告げた。
ずっとずっと。
言いたかった事。
待っていた事。
それをゆっくりと静かにけれどしっかりと告げた。
「……ええ……ええ!……私が……私がお母さん……だよ」
だから。
むつみも静かに肯定する。
この時が来るとは思っていなかったけど。
それでも訪れたのは確かなのだから。
今はそれを受け止めよう。
だから……肯定できた。
むつみも静かに肯定する。
この時が来るとは思っていなかったけど。
それでも訪れたのは確かなのだから。
今はそれを受け止めよう。
だから……肯定できた。
長かった、長かった空白が埋まっていく。
母と娘の感情が溢れていく。
望んでいた、欲しかったものがやっと、やっと手に入った。
母と娘の感情が溢れていく。
望んでいた、欲しかったものがやっと、やっと手に入った。
「ママ……ママ……ま……ま……ぁ……あいたかった……生きていたんだ……よかった……よかったよぉ」
「ええ……ええ……なつき……なつき……なつき!」
「ええ……ええ……なつき……なつき……なつき!」
涙が溢れていく。
ただ、喜びが溢れていって。
それがとまる事はなく、ずっと溢れていた。
ただ、喜びが溢れていって。
それがとまる事はなく、ずっと溢れていた。
「よかったね……なつき」
クリスはそう呟いて部屋から静かに出て行く。
もう、大丈夫。
空白は埋まっていくから。
今はただ、親子でその空白を埋めていけばいい。
長い長い離別からやっと開放されたのだから。
その分の想いを……伝える時間なのだから。
だから今は邪魔をせずに二人で。
やっと出逢った親子だけで。
温もりを感じていればいいから。
もう、大丈夫。
空白は埋まっていくから。
今はただ、親子でその空白を埋めていけばいい。
長い長い離別からやっと開放されたのだから。
その分の想いを……伝える時間なのだから。
だから今は邪魔をせずに二人で。
やっと出逢った親子だけで。
温もりを感じていればいいから。
「ママ……ママ……もう、居なくならないよね。ずっとずっと居るよね……」
「ええ……ええ」
「ええ……ええ」
もう二度と離さないでと。
もう何処かにいって欲しくないから。
それを静かに肯定して。
もう何処かにいって欲しくないから。
それを静かに肯定して。
「ママ……ママ……」
「なつき……」
「なつき……」
抱きしめる。
言葉にしなくても想いは伝わっていく。
確かな温かさから。
互いの鼓動から。
ゆっくりと、ゆっくりと。
しっかりと、しっかりと。
言葉にしなくても想いは伝わっていく。
確かな温かさから。
互いの鼓動から。
ゆっくりと、ゆっくりと。
しっかりと、しっかりと。
優しく、温かい、空間が
親子の再会を祝福するように
確かに存在していた。
・◆・◆・◆・
「……本当によかったね。なつき」
クリスはあの再会の時を思い出し自然に笑顔になっていく。
なつきがずっと欲しかったのが手に入ったのだ。
そして今なつきはとても幸せそうで。
素直によかったとそう思えるのだ。
なつきがずっと欲しかったのが手に入ったのだ。
そして今なつきはとても幸せそうで。
素直によかったとそう思えるのだ。
「……なあ……ママ」
「……なあに? なつき?」
「……なあに? なつき?」
なつきは切った果物が沢山入っている箱からオレンジを取って食べてながらそっと呟く。
むつみはハムサンドを口にしながら微笑んで答えた。
あやす様に優しくなつきの返答を待つ。
なつき頬を朱に染めながら
むつみはハムサンドを口にしながら微笑んで答えた。
あやす様に優しくなつきの返答を待つ。
なつき頬を朱に染めながら
「私は……幸せだ……ママとクリスが居て……嬉しい」
そう呟く。
ただ、単純に幸せで。
ただ、単純に嬉しくて。
それだけで心が一杯だった。
ただ、単純に幸せで。
ただ、単純に嬉しくて。
それだけで心が一杯だった。
「私は……この幸せを受け入れていいのかな?……私にそんな資格があるのかな?」
思うのはたったひとつの不安。
些細な小さな棘のような不安。
それは独りで生き続けていたなつきだからこその不安。
突然訪れた幸せの享受の事だった。
今まで無かったからこそ資格があるのか、受け入れても大丈夫かと思ってしまう。
そんな小さな不安。
些細な小さな棘のような不安。
それは独りで生き続けていたなつきだからこその不安。
突然訪れた幸せの享受の事だった。
今まで無かったからこそ資格があるのか、受け入れても大丈夫かと思ってしまう。
そんな小さな不安。
「いいんだよ……なつき。資格なんて必要はないから。幸せになるのに……資格なんて無いんだ。誰でもなれるものだよ」
「そうよ……いいのよ。なつき。貴方は……喜んでいいのよ」
「そうよ……いいのよ。なつき。貴方は……喜んでいいのよ」
その不安を彼女が愛する者達が、彼女を愛している者達が一蹴する。
なつきが幸せと思うのならそれを受けいればいいだけ。
素直に受け入れれば幸せはいつでも傍にある。
そういうように。
なつきが幸せと思うのならそれを受けいればいいだけ。
素直に受け入れれば幸せはいつでも傍にある。
そういうように。
「そうか……いいんだな……よかった……よかった」
その言葉を切っ掛けになつきの不安が融解していく。
少しずつ目が潤んでいく。
その涙を流さない為に弁当箱に入っている苺を取って頬張った。
口に広がる甘さと酸っぱさの中にしょっぱさが混ざっている気がした。
それでもなつきは笑っている。
幸せを素直に受け取っているように。
笑顔を浮かべていた。
その笑顔にクリスもむつみも笑う事ができた。
幸せが連鎖していくように笑っていたのだった。
少しずつ目が潤んでいく。
その涙を流さない為に弁当箱に入っている苺を取って頬張った。
口に広がる甘さと酸っぱさの中にしょっぱさが混ざっている気がした。
それでもなつきは笑っている。
幸せを素直に受け取っているように。
笑顔を浮かべていた。
その笑顔にクリスもむつみも笑う事ができた。
幸せが連鎖していくように笑っていたのだった。
「………………ねぇクリスさん」
「……うん?」
「……うん?」
そんな温かい空間が流れている時にファルが口を挟む。
その表情は笑ってはいるが何処か強張っている様。
ウサギ型に切られた林檎を食べながらクリスに問い掛けていた。
その表情は笑ってはいるが何処か強張っている様。
ウサギ型に切られた林檎を食べながらクリスに問い掛けていた。
「貴方……幸せになるのに資格は必要無いといったわね」
「うん」
「なら……聞きたいんだけど……」
「うん」
「なら……聞きたいんだけど……」
ファルはそう聞いて一口水を飲む。
冷たい水が喉を通り潤していく。
そして聞く。
冷たい水が喉を通り潤していく。
そして聞く。
「私は酷い人間よ。やった事はあの時聞いたでしょ? 誰かを貶め死の原因を作ったりもしたわ。幸せになる為に。こんな酷い人間でも幸せになれるというの? それでも資格は必要無いというの?」
クリスが言った事へ尋ねる。
ファルがやった罪を聞いても彼はそれを言う事はできのだろうかと。
クリスはタマゴサンドを頬張りながら事も無げに言う。
ファルがやった罪を聞いても彼はそれを言う事はできのだろうかと。
クリスはタマゴサンドを頬張りながら事も無げに言う。
「……うん、なれると思うよ。資格なんて無いもの。幸せになりたいと思うのなら……なれるよ。きっと」
余りにも普通に簡単になれると断定した。
罪を追求せず酷い人間と責める事もせず余りにも簡単に。
そう、クリスが思っているから。
だから簡単に言えた。
ファルは驚き……そして
罪を追求せず酷い人間と責める事もせず余りにも簡単に。
そう、クリスが思っているから。
だから簡単に言えた。
ファルは驚き……そして
「ねぇ……クリスさん。ちょっと聞いてもらえるかしら?」
「うん?」
「ちょっとした話よ」
「うん?」
「ちょっとした話よ」
ファルは一回深呼吸をして決心をしそして語り始める。
不安と期待が混ざりながら。
不安と期待が混ざりながら。
「私は酷い人間。価値観が違うのよ。私は幸せになりたい。出来れば歌で」
「……それで」
「その為ならどんな事だってしてきた。努力は惜しまずに。利用できるものは利用して。価値があるものだけを選び取って。私の『恋人』だってそうなのよ?」
「……え?」
「利用価値があったから。彼の音に価値があったから。利用しただけ。それだけなのよ」
「……」
「恋人とか行っても結局そうでしかないのよ。結局の所、人は一人では生きていけない。私も、あなたも。皆が皆、誰かを利用しているんじゃないのかしら?」
「……それで」
「その為ならどんな事だってしてきた。努力は惜しまずに。利用できるものは利用して。価値があるものだけを選び取って。私の『恋人』だってそうなのよ?」
「……え?」
「利用価値があったから。彼の音に価値があったから。利用しただけ。それだけなのよ」
「……」
「恋人とか行っても結局そうでしかないのよ。結局の所、人は一人では生きていけない。私も、あなたも。皆が皆、誰かを利用しているんじゃないのかしら?」
それはファルが『恋人のクリス』にいった問いと一緒。
『恋人のクリス』が否定した価値観を。
『ここにいるクリス』に問うた。
『恋人のクリス』が否定した価値観を。
『ここにいるクリス』に問うた。
「『恋人』は言ったわ。それは違うって。利用じゃない、助け合うって事って。馬鹿馬鹿らしい事をね。誰も君のように考えてないって
そんな事を。私は感謝もしない、利用するだけ。そんな価値観なのよ。酷い人間でしょう? 貴方も『彼』と同じでそういうのかしら?」
そんな事を。私は感謝もしない、利用するだけ。そんな価値観なのよ。酷い人間でしょう? 貴方も『彼』と同じでそういうのかしら?」
ファルは改めてクリスに問う。
『彼』と一緒というなら否定すると願って。
ましてはなつきという恋人が居る『ここのクリス』は絶対否定するだろう。
そう思って。
だけど
『彼』と一緒というなら否定すると願って。
ましてはなつきという恋人が居る『ここのクリス』は絶対否定するだろう。
そう思って。
だけど
「―――それは、それでいいと思うよ」
「……え?」
「……え?」
クリスは肯定した。
あの馬鹿と同じように。
あの馬鹿と同じように。
「今の僕には……御免。それを信じる事はできないけど……」
「ほら結局……」
「もし、僕が君を本当に心の底から愛しているんだったら……きっと『価値観』まで肯定し好きになれると思うから」
「……か、『彼』も一度は迷って……それでも肯定はしたわ。共に進む事を決めたわ。だから同じよ」
「……いや、僕は最初から肯定するよ。君が酷い人間と言うのなら……最初からそれを肯定し……認めて……そして」
「ほら結局……」
「もし、僕が君を本当に心の底から愛しているんだったら……きっと『価値観』まで肯定し好きになれると思うから」
「……か、『彼』も一度は迷って……それでも肯定はしたわ。共に進む事を決めたわ。だから同じよ」
「……いや、僕は最初から肯定するよ。君が酷い人間と言うのなら……最初からそれを肯定し……認めて……そして」
そして。
クリスは笑って。
クリスは笑って。
「君を幸せにしようと……思うんじゃないかな? 君が幸せに生きれるように……きっと。そうすると思うよ。最初から……心の底からね」
「……そう」
「仮定でしかないけど……ね」
「……いえ、有難う。心のつっかえが取れた気がするわ」
「そう。ならよかった」
「……そう」
「仮定でしかないけど……ね」
「……いえ、有難う。心のつっかえが取れた気がするわ」
「そう。ならよかった」
クリスはそのまま林檎をとり齧りつく。
そしてまたなつきと話し始める。
幸せそうに笑う。
ファルの為になったかなと思って。
そしてまたなつきと話し始める。
幸せそうに笑う。
ファルの為になったかなと思って。
けど、その言葉は、その答えはファルを絶望に突き落としていた。
このクリスは違う。
改めて今回の問いでそう思った。
それで、完全に吹っ切れた気がした。
それは確かなのだ。
だって『恋人』は絶対こんな事言わないから。
そう知っているから。
別人だと思えた。
改めて今回の問いでそう思った。
それで、完全に吹っ切れた気がした。
それは確かなのだ。
だって『恋人』は絶対こんな事言わないから。
そう知っているから。
別人だと思えた。
だからもう『このクリス』とは御終い。
そう考え吹っ切ることができた。
そう考え吹っ切ることができた。
でも。
例え別人だとしても。
別人のようにしか思えなくても。
例え別人だとしても。
別人のようにしか思えなくても。
『このクリス』は『クリス・ヴェルティン』なのだ。
その方程式は永遠に崩れない。
だったらこんな可能性が現れてしまう。
だったらこんな可能性が現れてしまう。
もし。
もしだ。
ファルがやり方を変えていれば。
もう少し努力していたならば。
もしだ。
ファルがやり方を変えていれば。
もう少し努力していたならば。
『恋人』である『クリス・ヴェルティン』はこの彼と同じような考えをしてくれたのだろうか……と。
もしもう少し方法を変えていれば。
もし最初から全てをばらしていれば。
もし最初から全てをばらしていれば。
もし……
もし……
もし……
そればかり浮かんでしまう。
可能性を考えたらきりが無いのに。
考えてしまう。
最善だと思っていたのに。
考えてしまう。
最善だと思っていたのに。
目の前にある『一つの可能性であるクリス・ヴェルティン』が居る限り。
ファルシータ・フォーセットはその『有り得るかも知れない可能性』を考え続けてしまうだろう。
ファルは不意に顔を上げた。
太陽は輝き続けているのに。
何故か滲んで見え続けていた。
それはファルの心の様で。
ずっと涙で滲んでいる様だった。
・◆・◆・◆・
「もう、九郎さんったら食べすぎですよう」
玖我親子と、既知であり遠い二人が輪を囲むその隣、同じ様に広いレジャーシートを敷き日傘を挿したそこで美希が頬を膨らませていた。
彼女の目の前には重箱から取ったおにぎりをふたつみっつと頬張る九郎がおり、対面する二人の脇に碧とダンセイニが座っている。
彼女の目の前には重箱から取ったおにぎりをふたつみっつと頬張る九郎がおり、対面する二人の脇に碧とダンセイニが座っている。
「んぐ……俺は、もぐ……喰える時に、もぐもぐ、カロリーは……ぐ、摂取しとくって……もぐもぐ、なんだよ」
「ちょっとちょっと九郎くん。食べながら喋るのは行儀よくないよ。ほら、お茶」
「てけり・り」
「ちょっとちょっと九郎くん。食べながら喋るのは行儀よくないよ。ほら、お茶」
「てけり・り」
大きめの水筒からお茶を入れて差し出す碧に「どうも」と頭を下げると九郎はそれをぐいと一気に飲み干した。
いささか、というほど以上に行儀はよくなかったが、しかし彼の通常の食生活を知っている者であれば仕方ないと思えたかもしれない。
職業探偵などというものは肩書きが無職でないとぎりぎり言える程度のものでしかないのだ。赤貧、赤貧の毎日なのである。
いささか、というほど以上に行儀はよくなかったが、しかし彼の通常の食生活を知っている者であれば仕方ないと思えたかもしれない。
職業探偵などというものは肩書きが無職でないとぎりぎり言える程度のものでしかないのだ。赤貧、赤貧の毎日なのである。
「そういう美希ちゃんもずいぶんと食べるじゃない。ま、私もなんだけどさ」
「はい、これはなつきさんのお母様であられるむつみさんじきじきのお弁当。イコール100%ママの味なのですよ」
「はい、これはなつきさんのお母様であられるむつみさんじきじきのお弁当。イコール100%ママの味なのですよ」
なので母の味分を補給なのです。と、美希は甘く煮た人参をぱくりと口の中に放り込んだ。
この殺し合いの舞台に連れて来られてより、だれも彼もがほとんど料理をする余裕もなくろくな食事をとってきていなかったが、
美希からすればそれは元の世界でもそうでかなりの月日を遡ったとしてもそれは変わらない。寒貧、寒貧の毎日なのである。
この殺し合いの舞台に連れて来られてより、だれも彼もがほとんど料理をする余裕もなくろくな食事をとってきていなかったが、
美希からすればそれは元の世界でもそうでかなりの月日を遡ったとしてもそれは変わらない。寒貧、寒貧の毎日なのである。
「でもま、ありあわせの材料だけでこんな立派なお弁当作れちゃうんだからすごいよね」
「てけり・り」
「てけり・り」
碧はあまくふんわりとした卵をつまみながらなつきのママさんである九条の腕前に感心する。
手作りドレッシングの野菜サンド。丁寧に油を抜いたツナのトーストサンド。ボリュームたっぷりなハムサンド。
塩味が疲労に優しい海苔巻きおにぎり。酸味が食欲を刺激する梅おにぎり。一風変わったカレー風味の焼きおにぎり。
とりももと人参を甘く味付けた煮物。ごろごろとしたフライドポテト。などなどに加え、おまけにオレンジなどの果物各種。
雑貨店から適当に掻き集めてきた食材の、しかも昨晩の残りを使ってというにはあまりにも見事な出来栄えだった。
見た目だけでなく味もたいしたもので、プロのとまでいかなくても美希の言うとおり懐かしい母の味がする。
手作りドレッシングの野菜サンド。丁寧に油を抜いたツナのトーストサンド。ボリュームたっぷりなハムサンド。
塩味が疲労に優しい海苔巻きおにぎり。酸味が食欲を刺激する梅おにぎり。一風変わったカレー風味の焼きおにぎり。
とりももと人参を甘く味付けた煮物。ごろごろとしたフライドポテト。などなどに加え、おまけにオレンジなどの果物各種。
雑貨店から適当に掻き集めてきた食材の、しかも昨晩の残りを使ってというにはあまりにも見事な出来栄えだった。
見た目だけでなく味もたいしたもので、プロのとまでいかなくても美希の言うとおり懐かしい母の味がする。
”新しい禁止エリアは、14時より「D-8」。16時より「E-1」となる。”
不意に聞こえてきた神崎黎人の声にランチを楽しんでいた7人と1体の手はぴたりと止まる。
地平線まで広がる花畑の真ん中でお弁当を囲むという、あまりにも牧歌的で平和な光景ではあったが、
まだここは殺し合いの舞台の上なのだと、冷たい声がそう彼らに再認識させた。
地平線まで広がる花畑の真ん中でお弁当を囲むという、あまりにも牧歌的で平和な光景ではあったが、
まだここは殺し合いの舞台の上なのだと、冷たい声がそう彼らに再認識させた。
「そういえば、こんなひろーい場所でお昼広げてても大丈夫なんですか? 今更ですけど」
気をとりなおして食事を再開し、美希は碧に尋ねた。
今や勝負は参加者側と主催者側との対抗戦なのである。組織として人員を活用できる主催者側がここで襲ってこないとも限らない。
だが、碧はちちちと唇の前の指を振ってそれを否定し、少し離れた場所で地面にうずくまっている愕天王へと目をやる。
今や勝負は参加者側と主催者側との対抗戦なのである。組織として人員を活用できる主催者側がここで襲ってこないとも限らない。
だが、碧はちちちと唇の前の指を振ってそれを否定し、少し離れた場所で地面にうずくまっている愕天王へと目をやる。
「私と愕天王としてはこういうだだっ広い場所の方が何かと動きやすいのよ。
主催者側に居場所が知られているのはどこも変わんないからね、だったらここがいいって私が指定したの」
主催者側に居場所が知られているのはどこも変わんないからね、だったらここがいいって私が指定したの」
何より気持ちいいじゃない。と、碧は手を広げて笑った。
「まぁそれに、九条さんが向こうを出てくる前に打ったって言う”手”も正しく機能しているみたいじゃない?
あちらさんが手を出してくる様子は今のところ全然ないしね」
あちらさんが手を出してくる様子は今のところ全然ないしね」
言われて美希が視線を隣のシートに座る九条の方へと移すと、彼女は携帯電話を片手に誰かと話しをしているようだった。
おそらくは電話の向こうにいるのはアルかトーニャで定時連絡なのであろう。
朝に教会を出立して以後、1時間毎ぐらいに互いの安否とそれぞれが予定通りに事を進めているのかを確かめ合っている。
今は先ほど発表された禁止エリアについて話しているのかもしれない。
もっとも予定のルートとは関係ない場所だったので特に影響はないのだろうが……と、そこで美希は重大なことに気付いた。
おそらくは電話の向こうにいるのはアルかトーニャで定時連絡なのであろう。
朝に教会を出立して以後、1時間毎ぐらいに互いの安否とそれぞれが予定通りに事を進めているのかを確かめ合っている。
今は先ほど発表された禁止エリアについて話しているのかもしれない。
もっとも予定のルートとは関係ない場所だったので特に影響はないのだろうが……と、そこで美希は重大なことに気付いた。
「な、なんで……おにぎりとおかずが全滅っ!?」
「あれ? お前もう食べるの終わってたんじゃなかったのか? なんかぼーっとしてたし」
「あれ? お前もう食べるの終わってたんじゃなかったのか? なんかぼーっとしてたし」
ランチ全滅事件。下手人は誰か問うまでもない。これまでろくに会話に加わらず食べ続けていたはらぺこ探偵の仕業である。
探偵が犯人。ありえなさそうで使い古されてきた古典的なオチだ。
探偵が犯人。ありえなさそうで使い古されてきた古典的なオチだ。
「食べ物の怨みは七代祟る! ママの味を返せっ!」
「てけり・り」
「てけり・り」
それって猫を殺すとじゃ? と、九郎がつっこむ間もなく美希が動いた。
バックステップでダンセイニの上に可愛いおしりを沈めると、その反動を利用して重箱の上を跳び越して九郎へと肉薄。
そして――
バックステップでダンセイニの上に可愛いおしりを沈めると、その反動を利用して重箱の上を跳び越して九郎へと肉薄。
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ノ' ノへ '~ヽ、 ,r'´ .::: /i\::::i :: ::: i:: i .::i ヾ`i="ノ| ,イ_/:: }´/´ ←九郎
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ノ´ッ/__/ー、` ' ノノノ; ! ! ::. :: ,' ', :::::'、.ヾ'、:::. ::: :::: :: :: ::..!ノ:::/,/!ヾヲ::::/.::'´/´ ,
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――美希のJETアッパーが九郎の顎を捉え彼を花畑の中へと沈めた。
しかし、そんなことをしても九郎の胃の中に飲み込まれた食べ物は返ってはこないのだ。
喪失と痛み。悲しみから来る怒りとそこから生まれる暴力。そしてその結果、新しく傷つく者が現れ、それは無限に連鎖する。
人と人との間にある壁が生み出す争い。そして連なる哀しみの連鎖。得られるものよりも失われるものの方が多い世界。
喪失と痛み。悲しみから来る怒りとそこから生まれる暴力。そしてその結果、新しく傷つく者が現れ、それは無限に連鎖する。
人と人との間にある壁が生み出す争い。そして連なる哀しみの連鎖。得られるものよりも失われるものの方が多い世界。
「てけり・り」
かくも争いとは醜いものだなぁと、ダンセイニはただひとり心の内で静かにそう思うのであった。
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