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Little Busters!”M@STER VERSION” (突破) 7

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Little Busters!”M@STER VERSION” (突破) 7 ◆Live4Uyua6



 ・◆・◆・◆・


「……あら?」

 目が覚めると、そこは《Aチーム》のベンチの上だった。

「いつの間に、眠って……?」

 寝起きの頭を抱えながら、ファルシータ・フォーセットはベンチの外を見やる。
 そこでは碧を中心とした複数名が、ユニフォーム姿のままなにやら立ち話をしていた。
 作戦会議というわけではない。《Aチーム》も《Bチーム》も入り乱れて話し合っている。

 野球はどうなったのだろう。今は中断中なのだろうか。
 ファルは眠りにつく直前の記憶を呼び起こそうとするが、どうにも思い出せない。

「あ、ファルさん! 目が覚めたんですね」

 ファルが横たわっていた隣のベンチから、やよいが声をかけてくる。
 見ると、そちらのほうにはドクター・ウェストが横になっていて、やよいが介抱しているようだった。
 プレー中にはしゃぎすぎて怪我でもしたのだろうか。ウェストのことだしと、深くは考えないでおく。

「やよいさん、ゲームはどうなったのかしら。なんだか記憶が曖昧なんだけれど……」
「えっと、ちょっと訳あって中断してたんですけど、もう少しで再開しますっ」
「あとはこっちの寝ぼすけ博士だけなんでな」

 やよいとプッチャンから事情を聞いてみるが、どうにも要領を得ない。
 中断の理由は、自分とウェストが眠ってしまっていたからなのだろうか。
 いや、そもそもなぜ、野球の最中に眠ったりなどしてしまったのだろうか。

「あ~……えっと、そのへんのことは後で! 野球が終わってから説明します!」

 問い詰めようとするも、やよいにはぐらかされる。
 そうこうしている内にウェストが目覚め、グラウンドで話し合っていたみんなも、ベンチに寄ってきた。

「ええっと、私もなにがなんだかよくわかんないんだけど、とにかくゲームを再開します。
 四回裏の4-9ワンナウト、私が満塁弾を打ったところで……なつきちゃんからでいいんだっけ?」

 再開を告げる企画立案者、碧の調子もどこかおかしかった。
 敵チームの那岐やアル、味方チームの桂や柚明などはなぜかしたり顔だったが、理由は教えてくれそうにない。
 スコアボードにもきっちり記録は残っていたため、中断直前の状況としては間違いはないのだろうが。

「どうにも釈然としないものがあるのだけれど……」
「そんなもんあとあと。なんせ五点差もつけられちまったからな」
「はいっ! 最後の一回、頑張って逆転しましょう、おー!」

 そのままやよいとプッチャンに丸め込まれ、グラブを渡されるファル。
 マウンドには美希、打席にはなつき、他のメンバーもそれぞれの定位置に戻っていく。
 結局、中断の理由はなんだったのだろうか。なんで自分は、居眠りなんてしていたのだろうか。

 おそらくはやよいが事情を知っているのだろう。
 後で絶対に聞き出そう。そう思い、今は大人しく守備につく。


 碧に満塁ホームランを浴びたらしい美希は、再開して以降好投を見せ、なつきと九郎の二人を内野ゴロに打ち取る。
 四回の裏が終わり、そして訪れたのは、五回の表。
 スコアは4-9。《Aチーム》にとっては、これが最後の逆転の機会となる。




 ・◆・◆・◆・




     , -=ニ= 、
   /⌒,´   `ヾヽ
  ,'.:::::::/i|:::::トi、::、:::ヽ',
  !:::;:j;:i-ヾ__l戈、i;::::::!|
  ゞ从化}   じ`リ:::;':i
   |i`i!" _'__ "リ.:ノ:/  さあ、なにやらいろいろありましたが試合再開です!
   i| ゞ≧ぅ´_ノイ,i:/   勝利を手にするのははたして、どちらのチームでしょうか!?
   `'´ ̄≧/|く´_〉==,、
.     /,}::h^ソ彡7::::八ヽ
     j'/:.:|'´  ,ク__/  `{
    ハ_ノ-、ノ└彳 ::.,!
.   〈/ `~Y.:.:.:.:.:/   i



 五回表   【A】 4 - 9 【B】   無死無塁   A:打者:羽藤桂   B:打者:杉浦碧 


 五回表、《Aチーム》最後の攻撃。
 守りの《Bチーム》はここを抑えれば勝ちという局面、投手は続投して杉浦碧が務める。
 この回の先頭打者は、四番羽藤桂。心なしか、バッターボックスに立つ姿はいつもよりも勇ましい。

「てけり・り」

《Bチーム》側ベンチからその様子を眺めるのは、プレー開始当初より応援役に徹していたダンセイニだった。
 結局、自分の出番は回ってきそうにない。少し残念ではあるが、あと少しで勝利の栄冠が掴めるかと思うと、心が躍る。
 自分に人の身が備わっていたならば、チアリーディング姿にでもなって碧に精一杯のエールを送りたい心境だった。

「受けてみるがいいさ桂ちゃん! ここが! 碧ちゃん一世一代の踏ん張りどころだぁあああっ!」

 雄叫びを上げつつ投球する碧。それは明日に取っておくべきではなかろうか、とも思う。
 桂は、碧の咆哮にも臆すことなくバットを振っていく。
 彼女は四番打者に相応しいパワーヒッターだ。まともに当たれば、碧からホームランを奪うこともありうる。

「てけり・り……」

 果敢にストライクを取りにいく碧を心配し始めた途端、カキン、と桂のバットが鳴った。
 打球はぐんぐんと飛距離を稼ぎ、レフトスタンドに消えていく。
 まずは一点、桂の全身全霊を込めた本塁打を浴びてしまった。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <一点を返しました、《Aチーム》! これを皮切りに反撃かー!?
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <それでも四点差だ。以降が下位打線ということを考えると、まだまだつらいな。
(i゙i†i´.r')



 五回表   【A】 5 - 9 【B】   無死無塁   A:打者:山辺美希   B:打者:杉浦碧 


「さっきはよくもやってくれましたね。今度は美希が逆襲するターンです!」
「ぐぬぬ……桂ちゃんはともかく、ミキミキにまで打たれてたまるものかぁー!」

 先の回では、碧に満塁弾を浴びてしまった美希。それが今度は、逆に碧の球を打ち砕かんとしている。
 ダンセイニが分析するに、美希の華奢な体からホームランが飛び出す心配はない。
 次がファル、やよい、ウェストと打ち取りやすい面子なのを考えると、ここは堅実に攻めていくべきだとも、

「くらえーっ! 必殺必中小細工無用の超ど真ん中熱血ストレートォ――ッ!」

 思うのだが、そういったアドバイスを言葉にして送る術が、ダンセイニには不足している。
 考慮もなしに全力投球で挑む碧に、たじろぐ美希。
 優勢のようにも見えたが、何度も同じコースに打ち込むなど馬鹿の一つ覚えだ。

 美希のバットが白球を捉える。低空に駆け抜けるそれは三遊間を抜け、レフトを守るアルのところまで届く。
 零さず拾い、すぐに送球されるものの、判定は悠々セーフ。美希は一塁に進塁する。


 五回表   【A】 5 - 9 【B】   無死一塁   A:打者:ファルシータ・フォーセット   B:打者:杉浦碧 


 美希に出塁を許したものの、次の打者は初心者のファルである。
 これまでの打席を鑑みても、長打はありえないだろう。
 ここは球威のあるストレートで押していき、あわよくばダブルプレーを狙いたいところ。

『フォアボール』

 なのだが、結果はカウントツースリーと追い込んでのフォアボール。
 制球力は決して悪くない碧だったが、この打席はファルの側に運が傾いたということだろうか。

「結局、ヒットの一本も打てずに終わってしまいそうね」
「ぼやかないぼやかない。フォアボールだって立派な出塁よ」

 ファルはこの試合の中でヒットが打てなかったのが不服なのか、複雑な面持ちで一塁に進む。
 碧は四球を悔しがるでもなく、ファルに励ましの言葉を送ったりなどしていた。


 五回表   【A】 5 - 9 【B】   無死一二塁   A:打者:高槻やよい   B:打者:杉浦碧 


 その回、高槻やよいは右手にプッチャンを嵌めた状態で打席に立った。

「ちょっとちょっとぉ、プッチャンの出番はさっき終わったでしょ? 今はやよいちゃんの打順だよ」
「おいおいよく見てみろよ。バットを握ってんのはあくまでもやよいだぜ。俺は単なる手袋代わりさ」

 九条の代打として登場した際、やよいは右手のプッチャンにバットを持たせ、自身は棒立ちしているだけだった。
 いわば片手一本でバットを握っていたわけだが、今回は右手のプッチャンだけでなく、
 やよい自身の、空いているほうの左手もきちんとバットに添えられている。

 見ようによっては、単に腹話術人形を手に嵌めたまま打席に立っているだけ。
 しかしその実、やよいとプッチャンは、二人で一本のバットを握っているのだった。

「……ま、何度挑んでこようと返り討ちにしてやるだけですよ。なんせ、今日の碧ちゃんは絶好調だからね!」

 威勢よく言って投げた球は、初球から長打を浴びることとなった。
 綺麗なライト前ヒット。九郎が的確に捌いてファーストに投げるものの、やよいも鈍足ではなかった。

「うっうー! ようやくヒットが打てました!」
「やったなやよい! ついでにこれで満塁だ!」

 プッチャンの恩恵か、それともやよいの地力か。
 物言いは起こらず、碧も結果のみを受け入れる。

 気がつけば、先ほどの回とよく似た場景。
 満塁のピンチが出来上がっていた。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <こ、これはいよいよわからなくなってきましたね……ゴクリ。
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <一打全滅の危険性もありうるが、さて、次の打者は……?
(i゙i†i´.r')


「てけり・り」

《Aチーム》にとっては願ってもないチャンスが到来した。
 一塁にやよい、二塁にファル、三塁に美希を置いてのフルベース。
 一発満塁弾が飛び出れば、一気に同点にまで詰め寄ることが可能。
 しかし走者がこの顔ぶれなら、トリプルプレーもありうるという状況。
 いずれにしても大舞台。期待を一身に背負い、勝負の打席に立つのは――

「もちろん我輩! ドクタァァ――――ッ・ウェェェェェストッ!!」


 五回表   【A】 5 - 9 【B】   無死満塁   A:打者:ドクター・ウェスト   B:打者:杉浦碧 


 幸か不幸か、ダンセイニにはよくわからなかった。
 インチキ発明で九郎を貶めたりなどしていたドクター・ウェストだったが、彼の肉体は屈強だ。
 教会で出会って以降、その筋肉の躍動はたびたび目にしてきた。筋肉面においては尊敬に値する、とも評価している。

「てけり・り……」

 馬鹿をやって自滅する確率も高いが、一発が怖い相手でもある。
 さて、碧はどう攻めるか……と、ダンセイニは投手の様子を窺った。

「ふっふっふ。貴様も役者であるな、杉浦碧。主人公である我輩のために、わざわざこんな見せ場を用意するとは」
「それ、私が満塁ホームラン打ったときに言った台詞だよね。それと残念、主人公は博士ではなく碧ちゃんなのだよ」

 逆境を前にして、碧は楽しそうに笑っていた。
 ダンセイニの一つ目には、友人と一緒にスポーツで汗を流す健康的な少女としか映らない。
 同点にされるかどうかの瀬戸際だというのに。それともなにか、考えあってのことなのだろうか。

「てけり・り?」

 ダンセイニにはわからなかった。
 彼女の笑顔の理由も。
 なぜ野球だったのかも。
 その先にはなにがあるのかも。
 ただ、

「さあ、ここに新たな希望を築こうではないか」

 ――楽しければ、なんでもいいか。

「みんなの意思は、私たちが継ぐ。この試合は、その名を継承するための儀式となろう――」

 満面の笑みで白球を投げ込む碧を見ていると、不思議とそんな気分になってしまうのだった。

「てけり・り♪」

 そして……杉浦碧による一大イベントは、ついに決着する。




            -――- 、
         / / ̄`ヾフ´ ̄`ヽ.
        〃∠ __」 _____   \
         .'_〃_i__i ____ . イ、   '.
.         i i   |  ハ  i i   | i    ハ
       | l   l 厂`V从从リト!リ   l }
       | l    xf示    示x ト、__」ノ
.         l l    { ヒり     ヒり∧  |   ゲームセット! この試合……
         V   ト、     '   { ノ  |  『5-9』で、《Bチーム》の勝利です!
.         V  八   「 7   ノ7   l 
          Vハト、ト≧=⊇__. イ /ル'レ′
         ⅥⅥ}   iⅥN{ 
          xく `ヽ、 ト、≧=x__ 
         ∠ /\ , -―xY_  {、__



 ・◆・◆・◆・




 5-9。
 終わってみれば四点差と、スコアボードだけを見れば拮抗したゲームではなかった。
 しかし中身を見てみれば、実に気の抜けない死闘であったと、杉浦碧は改めて思う。

 コーラから炭酸が抜けていくような、そんな満足感と解放感が全身に浸透している。
 自分も含めて、みんながみんな、清々しい表情を浮かべていた。
 最後の打席、ピッチャー前に転がしトリプルプレーと相成ってしまったウェストだけは、意気消沈しているようだったが。

「終わりよければすべて良し! 勝者にも敗者にも、等しく齎されるものがあります。さて、それはなんでしょう」

 十八人分の汗が染みるグラウンド上。
 ゲームの決着がつくなり、碧はホームベースの付近に全員を招集し、閉会式を執り行うと告げた。

「はて、なんでしょうか。ウォッカの一杯でも奢ってくれるというのなら付き合いますが、あいにく未成年も多いですし」
「あなたもその未成年に含まれるはずよ、トーニャさん。でも汗をかいた後の一杯というのなら、私もご一緒したいわね」
「ママ……明日がなんの日か忘れたの? いくらなんでも、二日酔いでダウンなんてのは洒落にならないよ」
「二日酔い……とは違うと思うんだけれど、まだ頭がガンガンする。どうしてだろう……」
「ウェストに変なクスリでも盛られたんじゃねーのか、クリス? 明日までにきちっと治しとけよ」
「ハッ! そういえば、大十字九郎用に用意しておいたカキコオロギを仕込み忘れていたのである」
「汝は本当に懲りぬ男よの。変なものを作るのはいいが、決戦兵器のほうもちゃんと仕上げておくのだぞ」
「まあ、根詰めすぎるのもよくないしね。あ、もしかして、この前みたいに栄養ドリンクでももらえるのかな?」
「それよりわたしはおなか減ったな~。ホテルに帰ったら、まずはご飯だよね柚明お姉ちゃん!」
「うふふ。もう、桂ちゃんったら。でもそういえば、まだ今晩の夕食の献立を考えていなかったね」
「はいっ! えーきを養うには、ミネラル豊富なもやし料理が一番だと思います! 今夜のお夕食こそ……」
「だから、食材は腐るほどあるってのに、どうしておまえはもやしにこだわるんだっつーの」
「いえ、栄養のバランスを考慮することは大切です。夕食の献立を考えることは、明日の体調管理にも繋がります」
「どこかの誰かみたいに、突然腹痛で倒れられても困るからな。俺は食えるものならなんでもいいが」
「なんでもいいだなんてもったいない! 暮らしが裕福なうちは、思う存分贅沢三昧したいと美希は思います!」
「みなさんのお話はたいへん愉快なのだけれど、そろそろ本題に戻らないと、彼女が泣いてしまいそうよ?」
「てけり・り」

 思わずへこんでしまいそうだったところを、ファルとダンセイニにフォローしてもらって立ち直る。
 心なしか、野球の成果はあったように思える。それぞれの間にあった壁はなくなり、会話もより自然なものになっていた。
 以前よりも打ち解けた、というのなら、それは碧にとっても喜ばしいことである。
 だから一人無視されようとも泣いたりはせず、常の調子で発言するのだった。

「えー、こほん。では、がんばったみんなに、碧ちゃんからプレゼントを贈呈したく思います」

 そう言うと、碧はごそごそとデイパックを漁り出し、十八人分のそれを取り出す。
 彫刻刀で形作られた、木製の星。素人仕事なのか凹凸が激しく、形もいびつだった。
 そんな小学生の工作としか思えない贈呈品が、とても意味のあるものだと気づいた者が複数いる。

「これ……理樹さんからもらった星です」

 碧から木彫りの星――正しくは『木彫りのヒトデ』を受け取り、呟いたのはやよいだった。

「ちゃんと全員分あるからねー。ほいなつきちゃん」
「お守りのようなものか……というか、ひょっとして碧が彫ったのかこれ?」
「いや、これは理樹ってヤツの……この島でリトルバスターズっていうチームを築いたヤツが、持ってたものさ」

 ヒトデの出所を知っている九郎は、感慨深く受け取ったヒトデを見つめる。
 この中で、直枝理樹という少年と最も縁の深かった人物は彼なのだろう。
 碧の側からなにを言わずとも、九郎は立派に、想いを継いでいる。

「いいかいみんな。これは、仲間の証みたいもんだからね。絶対になくしちゃダメだよ」
「ふん、ニセモノが現れたらこれで確認を取るとでも? アイディアはともかく、ヒトデというセンスはどうかと思うのである」
「いやぁ、そこまで考えてはいないんだけどさ」

 ウェストの言葉に碧は苦笑し、掌に納まるヒトデをしげしげ眺める。

「やっぱ私たちは、みんなの想いを継いでここにいるんだし、持ってなきゃって思うんだよねぇ」

 仲間の証――という意味合い以上に、これはリトルバスターズの証でもあるのだ。
 野球というイベントを終えた今なら、気持ちよく理樹たちの決意を継承できる。
 そう思ったからこそみんなに配った、配らなければ気がすまなかった、希望の星。
 これを抱いて戦うことが明日の勝利に繋がるのだと、碧は強く信じるのだった。

「さあみんな、はりきっていくよ。私たちが〝三代目〟だ」

 少年少女たちが結成した野球チームは、顔ぶれや主目的を変え、受け継がれる。
 それはとても重く、だからこそ背負っていかなくてはならない、名前。

「明日、我々は決戦に臨む。チーム名は、そう……リトルバスターズだ!!」

 高らかに。
 碧は決起を呼びかけ、仲間たちは手に持ったヒトデを掲げることで、それに応えた。
 そのとき、不意に虚空のほうから声がやって来る。


『――これより、十九回目となる放送を行う。
 新しい禁止エリアは、20時より”H-4”。22時より”H-5”となる。以上だ――……』


 神崎黎人による時報。告げられる回数から、碧は現在時刻を算出する。

「お、黎人くんの放送だ……ん? 十九回目ってことは……ゲッ、いつの間にかもう十八時!?
 なんでぇ!? 午前中に始めたはずなのに! ハッ、なんか途中寝てた気がするけど、その分なの!?」

 ハっとなり書くもの書くものとユニフォームのポケットを叩くが、もちろんそこに入ってるわけがない。

「ええっと、今言われたのがえっちのよんと、えっちのごーで……、あーん前の放送聞き逃してるー!」
「慌てるな碧よ。我らはチームであろう。
 仲間の声に耳を傾けよ。前回の放送で告げられたのは”C-1”と”B-5”だ。汝のぬかりは妾らが補っておる」

 目の前で薄い胸を張るアルに、碧はたははと顔を赤らめる。
 いつの間にやら夜も近い時刻となっていたが、どうやらそれに気づいていなかったのは自分だけだったらしい。
 慌てふためき恥ずかしいところを見せてしまった碧の周りを仲間たちが微笑ましい表情を浮かべ囲んでいた。

「ええい、撤収っ! 今日は夜更かし厳禁なんだかんね、悪い子の部屋には碧ちゃんが見回りに行くよ!」

 と途端に先生モードになり、強引に閉会式を終了させる。
 皆はそれぞれ木彫りのヒトデを手に持ったまま、更衣室へと出向いていった。


 ――屋内スタジアムから、人の気配が消えていく。
 どこかで誰かが大爆笑しているようにも思えたが、気にしない。
 顔向けは、まだ。できるだけ遠く、忘れるくらい遠い日であってほしい。

 だけど今ばかりは、感謝の意を告げよう。
 今回は壊滅させなどしない。初代のお墨付きをもらったから。
 声もなく、誰にでもなく、誓いを交わし、碧はリーダーの旗を受け取るのだった。


 ・◆・◆・◆・


 ……………………ピンポンパンポーン♪

 本日は『ギャルゲロワ2nd第二幕番外編・最終決戦直前記念大野球大会』へお越しいただき、まことにありがとうございました。
 野球大会はこれで終了ですが、物語はまだまだ続きます。きらめく舞台で、またお逢いしましょう――。



     , -=ニ= 、
   /⌒,´   `ヾヽ
  ,'.:::::::/i|:::::トi、::、:::ヽ',
  !:::;:j;:i-ヾ__l戈、i;::::::!|
  ゞ从化}   じ`リ:::;':i
   |i`i!" _'__ "リ.:ノ:/  ふぅ……お仕事終了。なんとか丸く収まりましたね。
   i| ゞ≧ぅ´_ノイ,i:/   一時はどうなるかと思いましたけれど。
   `'´ ̄≧/|く´_〉==,、   では、解説の言峰神父に今日の総括を……
.     /,}::h^ソ彡7::::八ヽ
     j'/:.:|'´  ,ク__/  `{
    ハ_ノ-、ノ└彳 ::.,!
.   〈/ `~Y.:.:.:.:.:/   i



         '"  ̄ ` ー‐<
     /: : /: :/: : 7⌒ヽ:`ヽ
    /: / / : : /: : : : : : : : : : : :.ヽ
    l: /: :{ : : /V!: : :{: { : : : l : : : :',
    レl: :∧: /-ヘ{: : ハト\: :l: : } : j}
      |: {: :V\ \{ __, ハ|: / : :リ  これもヒトデのおかげに違いありません!
      ヽハ{  ̄ r ┐ \ /: : |/: : :/   最終回は全員揃ってヒトデ祭です!
      /: : :ヽ、 `‐' _ _/: : :/: ヾ〈
      {i_;斗: 7:>/)7/厶斗ヘ{i: :八
      {_x'了∠-‐‐く:_/>∨: } }
       ,ィ《ヾ、「====、Y´  `l_ノノ
     {ハ \j-―― -、} '´ ̄j|<_
    /  \/'´ ̄ ̄ ̄}   /」 / )



.'´7'´`´ヽ !?
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <解説席に見知らぬ女の子が!? 言峰神父はいずこに!?
  /)卯i、. 



   /.:/ヘ;ヘ/ヽ/ ̄/.:.: ∨.:,、.:.:.:.:.:ヽ:⌒ヽ:.ヽ
.  /.:/.:.:/.:.:.:.:.'´ .:.:.:.:!.:.:.:.lム/厶.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.\:'.
  |.:.:|.:./.:.:.:.:/.:/.:.:.:.:.:.:.:.:.:!`^´´|:! : |.:.:l :.:.:.:|.:. l∧
  |.:.:l.:.| .:.:.:,' .:.l.:.:. l:.:| .:.: |   |:! : |.:.:|.:.:.l.:|.:.: l小
  |.:.:l.:.|.:|.:.:l.:.:.:|.:.:.:j斗‐ .:|    j ‐/ト.:.|.:.:.|.:|.:.: |.:|ハ
  |.:.:N|.:|.:.:l.:.:.:|.:.:.∧|ム .:|     仏_!:/|.:.:.l.:l:.:.∧|.:.|
  |.:.:.:.:ヘ|:ハ .:.トrfた圷ヽ|   行圷ヾ; ∧: /.:.:.:.: |  ……ひらがなみっつで
  |.:.:.:.: \.:\ヽ V少     ヾ少 イ/|.:.j/.:.:.:.:i.:.|      ことみちゃん?
  |:i.:.:.:.:.:.:.: `ト:丶ゝ ' '   _ '   ' ' ,'.:.:!.:.:.:.:.:.:./.;'|
  |;ハヽ.:.:.:.:.:.:|:!.:.:.:.l      ー’     イ.:.:.| :.:.:.:.:/イ/
   V\:.!.:.:|:!.:.:.:.:| >   _,  rく:|.:.! /:| :.:. /|´
    |.:.:.`ト、从\.:∨l弋.___,ノ l/|:. /从:/ :|
    |.:.:.:.j>i´  ヾ|∧::::::::::::::: / !:/\:.!.:.:.:.:|



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <ことみ違い! 二人とも出てくる場所間違ってませんか? これ1じゃなくて2ですよ!
  /)卯i、. 


      o
     △_
  '´ィi  ヽ
  ! /从从リ)〉
r1 !|>ヮ从  <失礼です! 風子ちゃんと2にも出てますよ。嘘だと思うなら110話を確認してください!
くリ⊂)丞つ☆
  (( く/_l〉
    し'ノ


  oo_ o。
 〃リi rr、ヾ!
 !リ/ノリ リ))〉
 ソノl(l.゚ ー゚从  <……とてもいい試合だったの。特に駒田の同点弾には感動したの。
(((⊂)丞つ)
  `` く/_l〉 ′
    し'ノ


.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <駒田なんて人は出てません! うう、言峰神父はいったいどこに……
  /)卯i、. 


  oo_ o。
 〃リi rr、ヾ!
 !リ/ノリ リ))〉
 ソノl(l.゚ ー゚从  <私たちと違って、コトミちゃんには次のステージがあるの。出番羨ましいの……
(((⊂)丞つ)
  `` く/_l〉 ′
    し'ノ


      o
     △_
  '´ィi  ヽ
  ! /从从リ)〉
r1 !|>ヮ从  <風子もヒトデに紛れて再登場します! みなさんがヒトデを手にしたのは風子再登場の伏線です!
くリ⊂)丞つ☆
  (( く/_l〉
    し'ノ


       ,, ───_
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   |::::::/::::::::::///:/:::::|:::::||::::||
   |:::::|:::|:::i:::|`ーレ |::::_ト,_||::」j
.   |::(|::|:::|::| -─   ─ /:|
   |:::::::ヘ::N |  |   | |j:::i   あうう、所詮わたしたちはゲストキャラなのね……。
.   |::::::::::ト\\rー, |ノ:::/   言峰神父は本編に戻られたようですので、
    vNw::i ヽー⊂⊃ヾ/     このあたりでおわかれしたいと思います……。
      /´\  {\ー、
   /::´: :\ \ ) ヽー\
.  / ⌒ ヽ ̄<´⌒`rf´ ̄ヽ ヽ


        _,,..-二=ニニ'--.,,_
      ,.-'',..-''::― '::::'"゛::''‐ミ-,'.,_
    .///:::::::::::::::::::::::::::::::::::゛ヾ',ヽ
   /,r,r::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::〝 ',
  ././/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::',
  i::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::',ヘヘ:::::::::::::::::::::i
  .i:::::::::::::::::::::/i::ii::::::::::::::::::::',.ヘヽ:::::::::::::::::i
  .i:::::::::::::::::::/ .',i.ヘ::::::::::::::::ヾ,,..--ヾ,:::::::::::|
  i::::::::::::::::丿,.-''"ヘ_,iヘ-''" _,,..,,_ |::::::::::|   実況は音無小鳥でお送りしました。
  ヽ:::::',:',':i  ,,,,xzュ     "   " |::::::::::|   ではみなさん、次回もお楽しみに~。
   ',:::::', ',', "            .i|::::::::::|
    ',:::::',>ニユ,     _ '..__    /ヽ::::::|
    ',,r'"ヽヽ冫  ヾ  _ノ  ./:::::',:::::|
   / (_ノ,∧ヾ==‐r' ̄ ) /::::::::::::::|~|!
   ヽ  ヾ'  ',::::::i'''‐.ニニ-'"|:::::::|ヘr-ゝ.
    \    〉'"i     / ヾ'、
     i゛''''‐-.'.., ヽ   /   / ̄゛'''‐...,_


 ・◆・◆・◆・


 最後になるかもしれない、夜が訪れる。
 悪天候とは無縁のこの島では、いつも満天の星空が広がっていた。
 決戦を前に控えた今夜も、それは変わらず。ホテルの庭先から、大十字九郎はその絶景を眺めるのだった。

「ひょっとしたら碧は……最初から棗恭介の存在に気づいていたのかもしれぬな」

 夜の散歩道を連れ添って歩く、かけがえのないパートナー。
 アル・アジフが、不意にそんな言葉を漏らした。

「彼奴は杉浦碧に取り憑き、今回の野球を提案した風なことをかぐわせていたのだが……それは碧も了承の上だったと思うのだ」
「グルだった、ってことか?」
「まあ、言い方は悪いがそうだろうな。おそらくは昨晩にでも、顔を合わせて段取りを進めていたのかもしれん」

 ふーん、と九郎は相槌を打つ。
 あれからホテルに帰り、全員で夕飯を食べ解散した後、アルから今回の一件に関する裏話を聞いた。
 棗恭介という地縛霊の話。彼の思惑と生存者たちへのメッセージ。碧たちがおかしくなったからくり等。

「理樹の面倒見てくれてありがとな、か……俺も会ってみたかったな、その恭介ってヤツに」

 九郎は恭介から、個人的な感謝の言葉を受け取っていた。
 棗恭介の話は、理樹からもいくらか聞いている。面と向かって言いたいこともあった。
 せっかくの機会を名残惜しく思い、肩を落とすとアルが苦笑した。

「そう気を落とすでない。死者と語らう機会など、本来なら望むべきではないのだから」
「……まあ、そうだよな。そういう機会は、ずっと先まで取っておきたいもんだ」

 死ぬにはいい日など、まだ迎えるべきではない。
 明日を生きて終え、無事に明後日を迎えるのだ。
 恭介への挨拶も、明後日以降の、遠いいつかに。

「しかしアル、一番地の連中は気づいてんのかね。自分たちが牛耳る島に、霊が住み着いてるなんてよ」
「恭介が言うには認知はされていないそうだ。あの球場とて、事前に那岐の結界を張り巡らせておいたわけだしな」
「さいですか。そりゃ、敵さんにとってはホラーな話だな」

 とことんデタラメな存在だと、九郎は思った。

「妾がこのことを九郎に教えたように、今頃は事情を知らぬ他の者たちも、同室の者から真相を聞いていることだろう」
「つーか、なんで戻ってきたときにすぐ教えてくれなかったんだよ?」
「真相を知らぬままのほうが、最終回が盛り上がろう。実際、盛り上がったのだしな」
「……そういうもんか?」
「そういうものだ」

 一人、留守番として異変に立ち会えなかった九郎としては、除け者にされたようで釈然としない。
 そんなもやもやした気持ちも、子供っぽい優越感に浸るアルを見れば吹き飛んでしまうわけだが。

「さあ、妾たちもあまり夜更かししてはおれん。そろそろ部屋に戻るぞ」
「ああ、そうだな。なんたって、明日は寝坊できないからな」

 ここ三日間の習慣となっていた夜の散歩も、そろそろ打ち切ろうとして、

「あー! 深夜の逢引はっけーん!」

 ホテルの正面玄関へと足を向けた九郎とアルの背後から、ピピピー、というホイッスルの音が鳴った。
 驚き後ろを振り返ると、そこではジャージ姿の杉浦碧が、竹刀を片手に笛を鳴らしていた。
 まるで修学旅行に引率してきた教師の風貌である。

「碧め、まさか本当に巡回していたとは!」
「しかも外まで! 学校の先生かっつーの!」
「消灯時間は過ぎてるぞ、このバカップルがぁー!」

 咄嗟に逃げ出す九郎とアル。
 追いかけてくる碧の言葉に、二人揃って反応した。

「「誰がバカップルだー!!」」

 わざわざ否定を入れてから、全力で逃げる。
 捕まったら説教と折檻くらいはありそうなテンションだった。

(そういや)

 アルと並び合って走る途中、九郎は碧の朝の言動を思い出す。

(負けたチームの人間が勝ったチームの人間の言うことを聞くっていうあれは……ま、それも方便か)

 そんな約束事もあったような気がしたが、誰も覚えていないようなので忘れておくとしよう。
 結果的に、団結力を養うという目的は果たされたのだから。


 終わりよければすべて良し。
 明日の今頃もこんな感慨に浸りたいものだ、と九郎は切に願った。


 ・◆・◆・◆・


 それは、何者にも認知することはできない。彼だけが住まいし世界、彼だけの視点。
 野望に殉ずる人の子も、運命に立ち向かう徒も、神を自称する者たちでさえ。

『……』

 シングルシートが物寂しくもある、彼にのみ与えられた特等席。
 誰を招きもしない、彼だけが存在を許され、そこより見届ける。

『タメはもうなしだぜ。こっからが本番だ』

 途中、多くの道草を食ったような気もする。
 しかしそれらがなければ、この感慨は得られなかった。
 待ち望んでいた反面、結果を迎えるのが恐ろしくもある、終着の舞台。

『きらめく舞台で、また会える。俺にそんな台詞は吐けないさ』

 生きて帰ってこられる者は、はたして何人だろうか。
 戦況を客観的に捉え、予想を立てるとしたら――答えは出るが。
 口にしたりは、絶対にできない。彼は預言者などではないのだから。

『ただこれだけは言える。リトルバスターズは、永遠に不滅だ!』

 残せる言葉といえば、それくらいだった。
 託すのは願い、情熱、信念、根性、そういった少年くさいものばかり。
 押し付けがましいとも、未練がましいとも、なんとでも言え。

 俺は、しかして希望する。

『頼むぜ、三代目リトルバスターズ…………ミッション・スタート!』





――ついに舞台は本番を迎える。





【ギャルゲ・ロワイアル2nd 第二幕 連作歌曲第六番 「LIVE FOR YOU (舞台)」】 へと、つづく――……


Little Busters!”M@STER VERSION” (突破) 6 <前 後> LIVE FOR YOU (舞台) 1



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