ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

LIVE FOR YOU (舞台) 3

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

LIVE FOR YOU (舞台) 3 ◆Live4Uyua6



 ・◆・◆・◆・


 機械神と戦闘機人たちによる対決は、この『大戦』の始まりに相応しい幕を上げた。
 少数対多数。巨対小。正義対悪。構図についてはどうとでも言える、単純にして純粋なる闘争。
 魔の力を内包せし青年が空を駆り、天が見定めし才により生み出された巨獣が大地を蹂躙する。

 しかしそこには、なにかが足りないと――そう思わないだろうか?

 作品のメインテーマにしてメインタイトル。強すぎるがゆえに座を奪われた象徴的存在。
 黒幕はワンサイドゲームを嫌う。だから黒幕はそれの参加を良しとはしなかった。では。
 最終決戦――クライマックス――世界最後の戦場。現れるか、現れてはいけないのか?


 ・◆・◆・◆・


 ――合体ロボは男のロマンである。

 数多の科学者、研究者が効率化の風潮と対立し、それでも追い求めることをやめなかった夢の完成形。
 言動こそ奇異なれど、才能だけは本物と言えるその男――ドクター・ウェストもそれを追い求めた。
 彼がこの数日間で拵えた決戦兵器は、迫る有象無象をことごとく粉砕していく。夢のままに。

「ぶわぁーひゃっひゃっひゃ! ドクタァ――――ッ、ウェェェェェストッッ!!」

 金色に輝くその巨体の名は、『ドクター・ウェスト式ドリームクロス合体・G(何の略かはないしょ♪)破壊ロボ・おかわり3杯』。
 ツインタワーの守備兵として配置されていた女性型アンドロイドが、数体がかりでこれの驀進を止めるべく攻撃を続けるが、

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ! さて、我輩は何回『無駄』と言ったであろうか? 自分でもわからぬっ!」

 対物ライフル、熱線砲、ロケット弾等、ドクター・ウェストの発明品を考慮し用意していた武装のほとんどが、G破壊ロボの装甲に弾き返される。

「馬鹿め、この機械に銃は効かない! 誰が製造したかは知らぬが、なかなかのレアメタルだったのであ~る」


  【ドクター・ウェスト名語録《1》――「この機械に銃は効かない」】
  博物館に展示されていた油圧ショベルの『けろぴー』はその装甲こそが最大の長所(材質は不明)。
  前大戦においても「駄目だっ……! あの機械に銃は効かない!」と諦観の声があがったことで有名。


 本日の作戦プランは『G破壊ロボによる一点突破攻撃』――要は『突撃』。
 ドクター・ウェストに与えられた役目は、あくまでもツインタワーからの敵基地侵入を補助することにある。
 その巨体ゆえ、活躍の場は地上のみに限定されるというのもあり、操縦者のウェストはここぞとばかりに張り切っていた。

「しかし残念である。我が最高傑作が立つせっかくの大舞台、どうせなら相応の鬼械神を相手取りたかったところであるが――」

 唯一の不満は、敵と呼べる存在が人間大の戦闘用アンドロイドしかいないということだろうか。
 女性型のボディを持つそれは深優・グリーアの同型、そしてその戦闘力は深優の六割八割程度と聞かされている。

「こやつらにあのメタトロンほどの歯ごたえを期待するのも無為というものであろう。ならば!」

 G破壊ロボのスペックに相応しい強者との戦いに憧れ、しかし叶わないからといって悲観することはない。
 雑魚を蹴散らす破壊の権化というのもまた、それはそれで絵になるからだ。

「これは死闘でもなんでもなく、我輩のIt's Show! 一方的な蹂躙ゲームにほかならないのであぁぁぁるっ!!」

 アンドロイドたちが放つ弾雨はG破壊ロボの驀進を止めるには至らず、あっという間にツインタワーの入り口まで差し掛かった。
 距離が詰まったことを鑑みて、敵の一体が戦闘モードを近接用に切り替える。
 右腕に内蔵していた高周波ブレードを展開、直接G破壊ロボに斬りかかった。
 カギン、という珍しい音が鳴り、これも容易く弾かれる。

「ふん! このG破壊ロボがわざわざコクピットを晒すナンセンスな構造をしているとでも思ったか!?
 耐熱ガラス一枚に隔てられた操縦席など非科学的であるからして、我輩へのダイレクトアタックは無効ッ!」

 と、ドクター・ウェストはG破壊ロボのコクピットからモニター越しに敵アンドロイドを諭す。
 そしてもちろん、鉄壁を過信してばかりではいない。
 敵がこちらの射程距離に踏み込んできたと見て取るや、右の肩口に置かれていた『けろぴー』のショベルカー・アームが駆動する。
 本来ならば土砂や岩石をつかんだだろうそれが、至近距離にあったアンドロイドの体を優しく包み込み、

 そして、発光した。

「これがシャイニングフィンガーというものか! わひゃひゃひゃひゃーっ!」


  【ドクター・ウェスト名語録《2》――「これがシャイニングフィンガーというものか」】
  あの有名な「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ! 必殺!」の掛け声により放たれる一撃。
  ドクター・ウェストは溶断破壊マニュピレータと天地乖離す開闢のタービンの輝きによりこれを見事再現してみせた。


 溢れんばかりの光は爆音を生み、そしてショベルカー・アームが解放されると同時、中から粉々になったアンドロイドの残骸が零れる。
 他のアンドロイドたちは表情こそ変えぬものの、味方の一体がいとも簡単に破壊されたことにより攻勢を緩めた。
 こちらの戦力に対する認識を改め、戦法を練り直す――いや、計算しているのだろう。

 どうすればG破壊ロボを撃破できるのか、撃破までいかずとも中のドクター・ウェストを戦闘不能に追い込めないものか、
 どちらも難しいとするならせめて足止めに徹することはできないだろうか、ひとまず撤退するのも手か――などなど。
 天才科学者であるドクター・ウェストには、アンドロイドたちの思考パターンが容易に想像できる。

「ああ、しかし現実は非情なり。我輩とG破壊ロボの絶対的破壊力の前には、下手な小細工も意味を為さないのであった。
 では、地上に這い蹲るカトンボがごとき雑兵を蹴散らす作業に戻るのであ~る。レェェェッツ、プゥゥゥレェェェイッ!!」

 その姿はさながら金色に輝く破壊神――G破壊ロボの『G』はゴールドか、はたまたジェネシックか。
 正解は未だ、制作者本人にしか知りえない。


 ・◆・◆・◆・


 双頭の楼閣を背景にG破壊ロボが暴れ回っていた頃、九郎とアル・アジフはその隙をつきツインタワー内部へと進入を果たしていた。

 幾度となく集合場所にとは考えたものの、北東の果てという僻地に位置したがため、結局は足を踏み入れることがなかった未開の地。
 元々は都会の観光スポットかなにかなのか、海や街並みが一望できる展望フロアを始めとし、内部には土産屋や飲食店が多く並ぶ。
 広さ、堅牢さ、隠れやすさ、どれを取っても不足なく、バトルロワイアル会場における一施設としては篭城にもってこいと言えた。

 ただ、今回は隠れ潜む場所を探し求めに来たわけではない。
 このツインタワーの地下に存在する一番地基地の入り口――会場内にいくつかある内の一つを、占拠しに来たのである。

 一番地側としても、九郎たちの目論みは読めていたのだろう。
 深優にそっくりな戦闘用アンドロイドをガードマンとして外と中に配置し、基地への進入を拒もうとしている。
 九郎とアルの二人ならば、あるいは適当にやり過ごして基地への侵入という目的を果たせるかもしれないが、
 後々の追撃の可能性、仲間の安全性などを考慮するとなると、潰せるものは潰せる内に潰しておきたい。

 ゆえに九郎は『下』ではなく、ひたすらに『上』を目指しながら応戦に励んでいるのだが――。

『どぅわぁーひゃっひゃっひゃ! こちらは万事順調、快進撃であるぞ大十字九郎
 そちらはどうであるか? なにやら息切れの音が聞こえるような、いやいや我輩終生のライバルに限ってまさかまさか。
 と、宿敵の苦戦を見て見ぬ振りしてあげる優しさに満ち溢れた我輩、この冬映画化。早くもハリウッドが見えたのである!』

 耳元のインカムから聞こえてくる騒音にイラつきを覚えつつも、律儀にこれを返す。

「やかましい! 通信してくんなら必要なことだけ喋りやがれ!」

 それは『外』で奮闘しているG破壊ロボの操縦者、ドクター・ウェストからの通信だった。

 ツインタワーの中腹辺り、壁一面がガラス張りになっている展望フロアで、九郎とアルは白兵戦に臨んでいる。
 窓越しに外を見やれば、金色のドラム缶だかショベルカーだか機関車だかトラックだかよくわからないものが暴れており、
 数体の敵アンドロイドを相手に言葉どおりの快進撃を見せているようだった。

 ウェストは今頃、G破壊ロボの中でさぞ楽しそうに呵呵大笑しているのだろう。
 その姿を思い浮かべれば、込み上げる怒りが沸々と、戦闘意欲へと転化されていく。

「後ろだ、九郎!」

 そばを浮くアル・アジフ――が小さくなった姿、通称『ちびアル』形態――から警告が飛んでくる。
 九郎はすぐさまその声に反応。振り向き様に手中の刀、『バルザイの偃月刀』を振り上げ、迫る刃を跳ね除けた。

 外でウェストが蹴散らしているアンドロイドと同型の敵が五体、現在九郎とフロアを同じくしている。
『マギウス・スタイル』を展開しているとはいえ、九郎は生身。ウェストのように装甲任せ、火力任せとはいかない。
 深優よりも若干は劣るか、というレベルを複数相手にし、油断ならない戦いに身を投じなければならなかった。

「侮るなよ九郎! ブラックロッジの雑兵共を相手にするのとはわけが違うのだぞ!」

 パートナーからの心強い激が飛んでくる。
 敵アンドロイドたちの構成は、内蔵型ブレードアーム装備が三体、それに援護としての機関銃装備が二体。
 室内戦を考慮してか、さすがに度の越えた重火器は装備していないようだが、それぞれが侮れない身体能力を見せている。
 銃弾は防御陣でほぼ弾き返せる分、接近戦で挑んでくるほうが幾分か厄介とも言えた。

「ああ、たしかにあの覆面共に比べりゃ全然強ぇや。それでもよ……」

 五体の内の一体がカーペット敷きの床を駆け、九郎に肉薄してくる。
 恐るべき速度での正面突破に目を見張り、しかし慌てず『バルザイの偃月刀』で敵の刃を受け止めた。

「どっかの鬼ねーちゃんに比べりゃ……全然弱ぇ!」

 覇気のある声に伴い、九郎は己が腕力でこれを押し返した。
 数日前にこの街で相対した『怪人』との一件を思い出せば、これしきのことは恐怖にすらなりえない。
 ただでさえ、今は信頼できるパートナーが隣にいるのだ。それだけでもう、大十字九郎の口から弱音など生まれるはずがなかった。

 二人なら無敵だ、と九郎は心中でのみ雄叫びをあげる。
 耳にしたわけでもなく、傍らのアルは静かに微笑みを浮かべた。

 直後、機関銃を構えた二体のアンドロイドが、九郎目掛けて一斉掃射を仕掛けてくる。
 九郎は即座、宙に魔法陣を描き<旧き印(エルダーサイン)>を展開。
 障壁が銃撃の雨を防ぎ、辺りに無数の弾丸が散らばった。

「へっ、これにしたって単なる鉛弾だ。柚明さんの剣の雨に比べりゃ屁の河童ァ!」

 吼えて九郎は、機関銃を持った一体目掛けて『バルザイの偃月刀』を投擲。
 ブーメランのごとく飛翔する刃がその身を削ぐかという瞬間、別の一体が腕のブレードを盾にこれを守った。
『バルザイの偃月刀』がまた九郎の手元に戻るまでの間、他三体も時間を無駄にはせず、二体は九郎に斬りかかり、一体は銃撃を再開する。

「チッ、さすがに数が多いと厄介だな、と!」

 これに対し、九郎は背中の両翼『マギウス・ウイング』を展開。
 鷹の羽ばたきを思わせるほどに雄大なそれは、アルの魔力とページで構成された作り物の翼。
 本来は飛行のためのものだが、ここは室内。九郎は翼を羽ばたかせるのではなく、『分解』させる。
 途端、『マギウス・ウイング』は硬質化された紙吹雪へと変幻し、展望フロアを埋め尽くさんほどに空間を舞った。
 銃弾は逸れ、斬りかかってきたアンドロイドは九郎の姿を見失う。どこへ消えたかといえば、外だった。

「今度はこっちだ、キョロキョロしてんじゃねぇぞ!」

 再び顕現させた『マギウス・ウイング』で窓ガラスを突き破り、外へと飛翔していた九郎。
 五体のアンドロイドはそれを目視するや否や、攻撃方法を全員、射撃に切り替える。
 対物ライフルや熱線砲、果ては内蔵型ミサイルまで持ち出し、宙を舞う九郎に向けて一斉放火。
 九郎は蝶のように飛び回りこれを回避。余裕の残る声で傍らのアルに語りかける。

「思ったよりもチームワークいいんだな! ああも連携取られちゃ、各個撃破っていうのも難しいぜ!」
「あの深優の同型ともなればな。思考回路とて、ブラックロッジの戦闘員とは比べものにならんということだ」

 敵対するアンドロイドたちは、ただ命令に従順な殺戮マシーンというわけではない。
 命令を果たすために必要、不必要なことを見極める知能を持ち、攻撃に移るまでに『思考』というフェイズを経る。
 味方の危機に反応したり、九郎の位置取りによって武器を切り替えたのがいい証拠。
 彼女たちは常に最善策とはなにかを考え、各自で答えを出し、極めて効率的に戦っている。

 ならば、そこにこそつけ入る隙はある――と、九郎とアルは揃って思考する。

「しかし、このままではいたずらに時間を浪費するばかり……やはり九郎、ここは当初の予定通り“切り札”を使うとしよう」

 九郎が防御のための魔法陣を展開させる傍ら、アルが不敵に笑みつつそう言った。
 九郎もまた、集中力は緩めず微笑みで返す。

「了解ッ! おい、やよい! 聞こえるかっ!?」

 インカムのチャンネルを切り替え、今頃は西側のルートで進軍しているだろう高槻やよいに通信を試みる。

『うっうー! 九郎さんですか? なんだかすごい音が聞こえますけど、そっちは大丈夫ですかー?』
「ああ、まったく問題ないよ。それより、そろそろアレを出す! 合図するから、そっちも準備しててくれ!」
『アレですね? わかりましたっ! それじゃ、はりきって準備しちゃいまーすっ!』

 この作戦、これから先はグループ間での連携が特に重要になってくる。
 九郎とやよいのこの通信も、ツインタワー攻略のための大事な布石。
 実るか腐るかは、やはりこの場の主役――大十字九郎の双肩にかかっている。

「さぁ、先駆けるぞ九郎!」
「おうよ!」

 九郎は『マギウス・ウイング』を大きく羽ばたかせ、上空へと飛翔する。
 敵アンドロイドの攻撃は基本的に、屋内からの射撃のみ。九郎のように空を統べる者はいない。
 必然、彼女たちは九郎を狙い撃てる位置取りを求め、上階へと移動するだろう。

 最終的な決戦の舞台は、おそらくツインタワー屋上――ヘリポート。


 ・◆・◆・◆・


「む?」

 G破壊ロボのコクピット内で、ドクター・ウェストはモニター越しにその映像を捉えた。

「あれに見えるは大十字九郎……『下』ではなく『上』に向かっているとな? ふぅむなるほど、いよいよ大詰めということであるか」

 塔の外壁に沿うように上昇していく九郎とアルを捉え、しかしウェストはなにも言わない。
 彼らの狙いはわかっている。もちろん、この上昇が当初の予定通りであるということも。

「ならば我輩は我輩で、天才的にジェノサイドを続けるのみ。と、言ってはみたものの……」

 戦いが始まって早々、ウェストのテンションは鎮火に向かっていた。
 それというのも、現在G破壊ロボを囲っている敵アンドロイドの数が原因だった。

 生半可な銃器では傷くらいしかつけられないと悟ったのか、武装は腕のブレード一本に固定。
 直接斬りつけてもダメージは与えられないので、基本は回避に努めるというあからさまな時間稼ぎ戦法。
 それらを実行するアンドロイドの数、三体。たったの、三体なのである。

「少ない……あまりにも少ないのである! 質で劣るならせめて数にものを言わせて欲しいところ、これでは張り合いがなさすぎる!」

 まさか敵の戦力がこの程度であるはずがなく、たとえそうであったとしても、悲観はすれど楽観はしない。
 では他のアンドロイドたちはいったいどうしたのか。答えは簡単、大十字九郎の妨害に回ったのである。

「確かに、この『ドクター・ウェスト式ドリームクロス合体・G(何の略かはないしょ♪)破壊ロボ・おかわり3杯』を
 相手にするにはそれ相応の犠牲を伴うこと必定。手持ちの駒を無為に散らすよりは、比較的仕留めやすい大十字九郎を
 狙ったほうが理に適っていると言えよう。だがこの場合、強すぎるがゆえに取り残された我輩の心情はしょぼ~んなのである」

 ヨヨヨヨヨ、と薄暗いコクピットの中で感傷に浸るウェスト。

 おそらく敵側は、G破壊ロボの進撃を防ぐことは不可能と判断したのだろう。
 ならばこれに人員を割くのは無為。G破壊ロボには足止め係だけを残し、残りは全員、本命として大十字九郎を狙う。
 どうせG破壊ロボ自体は、巨体すぎるがために基地へ侵入することができないのだ。
 中にいるドクター・ウェストを止めることは不可能だとしても、最低限九郎とアルだけは戦闘不能にしておきたい。

 ――というのが、一番地かシアーズ財団の誰かが考えついた無難かつ面白みのない作戦だろうか。

「屈辱! 雑魚キャラ掃討係など、我輩の行動理念に反するのであ~る!
 こんな雑務をこなすためにG破壊ロボの開発に勤しんできたわけではないと、我輩は声高らかに叫びたい!
 奇跡の合体変形を果たしたスーパーロボットが、塔の周りでちまちま経験値稼ぎなど泣けてくるぜおっかさん!」

 憤慨するあまり、ウェストは狭いコクピットの中でギターを掻き鳴らした。哀愁のビートである。
 そうやってウェスト自らが隙を作ってしまっている間にも、敵アンドロイドたちは攻撃をしてこない。
 完全に足止めに徹す構えなのだろう。遊んでいるなら遊んでいるで、ツッコミもなしにひたすら静観。
 これは目立ちたがり屋のウェストにとって、ひどく頭にくる行為だった。

「ええい! 見せ場がないなら自分で作る! 最終回でいきなり空気キャラ降格など、寝言もいいところなのであーる!
 てっめぇーら全員いますぐ解体してやるからそこ一列並べぇ~い! と、咆哮する我輩ふと気づく。おんや……?」

 G破壊ロボに搭載されたレーダーシステムが、不意にその到来――いや、飛来を察知した。
 これより南の方角。空港の辺りより、なにものかが高速で接近してくる。
 コンクリートジャングルを一直線に突き進むそれの速度は人間を超越しており、そしてなにより『高い』。

「……ふん。なるへそ、そういう展開であ~るか」

 G破壊ロボの巨体が、ぐるりと南の空を向く。
 その先、一直線に飛んでくる『敵機』の姿があった。


 ――それは、〝猛禽類〟。

 ――ラプターの愛称を持つ。

 ――実戦経験はないが、現代最強クラスの戦闘翼。

 ――鋭角的な機首、小さな操縦席、三角形の翼、二つの垂直尾翼。

 ――刻まれしは『天海春香』、『765』、『PROJECT iM@S』などの刻印。

 ――危なっかしくもあるけれど、いつでもポジティブに――少女の想いを重ねた新機軸の設計。

 ――名称は、『F-22A -THE IDOLMASTER HARUKA-』。

 ――アンドロイドの少女が操縦しているのだろうピンクカラーの……ステルス戦闘機だった。


「そういえば、アル・アジフが『戦闘機を乗り回す女子高生がいた』とかなんとか言っていたであるな。
 あながちコント用のネタと切って捨てるべきではなかったということであるか。しかし、だからどうした!
 こちらは天下無敵のG破壊ロボ! たかが戦闘機の一機や二機、即座に粉砕☆玉砕☆大喝采なのであぁぁぁる!」

 低空飛行で迫る戦闘機に先ほどのシャイニングフィンガーを叩き込まんと構えるG破壊ロボ。
 敵機が機銃やミサイルを放ってこようと、G破壊ロボの装甲の前では無力。落とされる前にこちらが墜とす。
 捨て身とも取れるが、これは過信ではない。自身が最高傑作の重装甲を確かに信頼しての、良策なのである。
 しかし、

「……?」

 どういうわけか、迫る戦闘機はミサイルの一発も撃ち込んでくる気配がない。
 射程距離には入っているはずだ。まさかこちらのバリアを警戒しているわけでもないだろう。
 ミサイルどころか機銃も発射してこない。そして飛行高度は、徐々に徐々に低くなっていっている。
 ほとんど、地上の建物に激突せん勢いで――そこまで見極めて、ウェストはようやく気づいた。

 敵の狙いは、突攻であると。

「なんと、カミカゼ・アタックとな!?」


  【ドクター・ウェスト名語録《3》――「カミカゼ・アタック」】
  のワの「わたし、転ぶのには慣れてますから! 転んでも怪我しないように、体が勝手に反応しちゃうんです!
      よっ、ほっ、はっ……おっ……とととと、と…………あ、ああっ、あ…………どんがらがっしゃーん」


 並大抵の武器では効果がないと鑑み、敵はG破壊ロボに戦闘機を直接ぶつけてくるという暴挙に出た!
 こちらと拮抗するには、確かにそれくらいの大胆さが必要と言えよう。
 操縦を務めているのも、おそらくはアンドロイド。玉砕前提の攻撃とて、向こう側にとっては痛手ではない。

「乗っているのが神崎黎人本人だったら、たいした大和魂だと褒めてやるところであるが……ふん。
 気に食わん。実に気に食わんのである。機械は機械と。駒は駒にすぎないと。そう言いたいわけであるか……」

 例の『言霊で部下を自我なき操り人形に変えた』という言も含め、神崎の本気が窺える戦術ではある。
 しかし、いけ好かない。
 自我を持つアンドロイドを単なる弾丸としか考えぬその所業、科学者であるウェストにとっては憤慨以外のなにものでもない。
 もし、囚われのエルザが単なる駒として見られ、無碍に扱われでもしようものなら――。

「我輩激怒」

 短く言い表し、ウェストは手元のコンソールパネルを開き操作し始めた。
 怒涛のキータッチで、とあるプログラムを打ち込んでいく。
 するとコクピットの天井からレバーが下がり、ウェストはこれに手をかけた。
 戦闘機はその間にも高度を落とし続け、G破壊ロボとの距離を詰めている。

「凡人の戦術が、大天才である我輩の戦法を凌駕できると思うなよ」

 相対距離はあとほんの数十メートルというところまで詰まり、それでもG破壊ロボは動かない。
 これは諦観か。否。
 回避を放棄し、防御に徹するために……動かないのだ。

 上昇の予兆すら漂わせず、一目散に突っ込んでくる戦闘機。
 その機首がついに、G破壊ロボに触れるか否かというタイミングで、

「イェェェェェスッ! オープン・ウェスト!」

 ウェストは天井のレバーを思い切り倒し、秘蔵の回避プログラムを起動させた。


  【ドクター・ウェスト名語録《4》――「オープン・ウェスト」】
  合体ロボが合体するのは道理。合体ロボが分離するのもまた道理。分離からの再合体はロマン。
  掛け声とともにレバーを倒すことで緊急分離プログラムを発動。G破壊ロボはバラバラになる。


 背中に引っ付いていた改造トラック、ファイアーボンバー号が火を噴きながら天空へと上昇。
 肩口に張り付いていた油圧ショベル、けろぴーがパワーアームの長さを調節しながら大地へ。
 ボディとして覆いかぶさっていた機関車、トミーが元の形状に戻りつつ弾け跳ぶように離脱。

 残されたミニマム破壊ロボはわずかに全長を低くし、頭の位置を通過しようとした敵戦闘機を両腕でキャッチ。
 バーナー吹き荒れる戦闘機をそのまま馬力で押さえ込もうとするが、しかし上手くはいかずお手玉してしまう。
 その絵はさながらうなぎ取りのようで、破壊ロボの寸胴なデザインも合わせると、ひどくコメディテイストだった。

「よっ、ほっ、はっ! うおおおおおおお、死なばもろとも~っ!」


  【ドクター・ウェスト名語録《5》――「死なばもろとも~っ」】
  とある大陸の伝説。ガソリンで動くマシーンが大型ミサイルをお手玉して相手に投げ返したとか。
  男の子なら戦闘機の一つや二つ、爆発する前に受け止めてみせろということなのかもしれない。


 ドクター・ウェスト魂の咆哮が響き渡り、破壊ロボの手中で戦闘機が大きく跳ねた。
 博物館の展示品に収まるサイズの破壊ロボが、戦闘機をお手玉できるのはどういった理屈か。
 それは気合や根性といった埒外のファクターが働いたわけでは、決してない。
 すべてを可能にしているのは、破壊ロボの中枢に埋め込まれた動力炉代わりの宝具――『乖離剣・エア』の力なのだ!

 『乖離剣・エア』ならば仕様がない。
 破壊ロボはここ一番で本来以上のスペックを発揮し、神風突攻を仕掛けてきた戦闘機を、紙飛行機にように空へと投げ飛ばす。
 すでに加速を失い、操縦も利かなくなっていたその機体は、すぐにバランスを維持できなくなり市街へと落下する。

 結果、爆発。

 モニターの奥のほうで爆炎が上がるのを確認し、ウェストは「絶景、絶景」と満悦に浸る。
 決死の戦術は破られ、破壊ロボは未だ健在。ウェストは大勝利を収めたのだった。

「いやはやまったくもってご愁傷様神崎くんと言うほかないのであ~る。さて、ピンチも乗り切ったところで改めて合体を……うぬ?」

 と、ウェストはそこで新事実を知る。
 戦闘機飛来前に相対していた三体のアンドロイドの反応が、レーダーから消えている。
 よもや逃げたのか? とウェストはこれを怪訝に思ったが、真相はどうやら違うらしく、アンドロイドたちの姿は別のところにあった。

 ファイアーボンバー、けろぴー、トミーの、真下である。

「なんということでしょう(驚嘆)」

 それは分離の際の幸運か不幸か、戦闘機の飛来により勝負を確信していたがための油断か。
 空中での分離を果たしたG破壊ロボは、本体以外の三機が地上に着地した際、三体のアンドロイドを一体ずつ下敷きにしてしまったらしい。
 改造済みのトラックとショベルカーと機関車である。
 いくら頑丈なアンドロイドとはいえ、その重圧に耐えられるはずがなく、ボディはぺしゃんこ。
 今は三体が三体とも、一切の機能を停止し、沈黙に伏している。
 つまり――敵、残存兵力ゼロ。

 ドクター・ウェストの前にはもう、敵の姿はなかった。

「ぬぅおおおおおおおおおおお! G破壊ロボのせっかくの出番がこれで終了とな!?
 まだまだ隠しウェポンは残っているのであるぞ! ええい、援軍! さっさと援軍を連れて来い!
 我輩にもっとクライマックスを! 我輩とG破壊ロボに見せ場という名の愛をプリィィィィィズ!!」

 魂の慟哭が空に響き渡る――その先。
 ツインタワーの屋上では、真の主役がいよいよ、切り札を起動させようとしていた。


 ・◆・◆・◆・


 ツインタワー屋上。
 広大なヘリポートとなっているその場所には今、多くの戦闘用アンドロイドたちがひしめき合い、大十字九郎とアル・アジフを包囲していた。
 戦場を屋外に移したことで重火器も解禁。それぞれが多種多様に武装を果たし、最後の一手を詰めようとしている。
 凶刃と凶弾を向けられる、そんな中で大十字九郎は思った。

「……なぁ、アル」
「どうした、九郎」
「少しおかしくねぇか? こいつら、本気で俺たちを殺しにかかってきてるような気がするんだが……」
「確かにな。だが、妾たちを害して困るのは他ならぬ神崎黎人のはず。それでも、四肢をもぐくらいのことはしてくるかもしれぬが」
「殺す気でかからなけりゃ、半殺しも難しいってか。高く買われたもんだぜ。ま、半分も殺されてやるつもりはねーけどよ」

 それでこそだ、と傍らのアルから称賛を受け取る。その姿は依然、デフォルメモードだった。
 九郎は右手に魔銃『クトゥグア』を持ち、周囲を取り囲むアンドロイドたちに応戦していたのだが、
 その数も増してきた現状、一丁の銃で凌ぎきるというのももはや限界だった。
 対多数を想定した武器、戦法がないわけではなかったが、それを行使・実行するためには条件がまだ揃い切らない。

「焦るでないぞ九郎。急いては事を仕損じる。この場はもうしばらく――」
「――踏ん張ってみせろ、男の子なら!」

 九郎の叫びが号砲となり、銃を装備していたアンドロイドたちが数体、一斉射撃を始める。
 『バルザイの偃月刀』で生み出す防御陣と『マギウス・ウイング』で形作った盾を駆使し、全方位からの攻撃に対応。
 しかしそれは長く維持できるものではなく、また防御の隙を縫わんと、何体かのアンドロイドはブレードを振り翳し突撃してきた。

 攻撃力のみならず、俊敏性も兼ね揃えた敵の近接格闘に『クトゥグア』の射撃を合わせるのも難しい。
 目には目を、接近戦には接近戦をと、九郎は武装を拳銃から『バルザイの偃月刀』の方へとシフトさせる。
 正面からやって来たアンドロイドの斬撃をまず一閃で薙ぎ払い、続けて後方から迫っていた二体の刃もこれで弾いていく。

 味方が射程内にいる限りは、銃撃担当のアンドロイドたちも砲火を抑えるようだ。
 それでも攻撃、離脱、即座の銃撃の流れに対応しきるのは至難と言え、九郎の体力は徐々に追い詰められていった。

 敵の狙いも、もしかしたらこれなのかもしれない。
 物量にものを言わせて攻め切ることも可能だが、あえてそれを行わず、時間をかけてじっくりと疲弊させていく。
 もとより、来ヶ谷唯湖美袋命以外の者が九郎やアルの命を奪ってしまっては、それは神崎にとっての大惨事となるのだ。
 貴重な戦力をここで釘付けにし、基地への侵入を阻むというだけでも、作戦の成否としては上々と言えよう。

 ならば、殺されることはないと高をくくり正面突破に躍り出るのも手ではある。
 が、後々のことを考えれば、ここで傷を負いすぎるわけにはいかない。
 手負いの鴨となってしまっては、それこそ敵拠点内で待ち受ける来ヶ谷唯湖に的撃ちされて終わりだ。

 このまま消耗戦を続けるわけにはいかない――と、九郎は歯噛みしながら、ひたすらに好機を待った。
 それを知らせる役目を担うのは、二人。
 殺しても死なないという意味ではまあ信頼できるキ○ガイ科学者と、赤貧の辛さを共感しあったアイドルの女の子。
 インカムを通じて齎されるはずの合図は、未だ。それでも九郎は防御と回避と反撃を繰り返し疲れを蓄積させていって、待つ。

(アレの起動さえ上手くいけば――!)

 心の中で念じ、また振り翳された残撃を払う。
 そのとき、ツインタワー付近の空で、轟音が響き渡った。

「な、なんだぁ!?」

 南の方角を見やると、汚らしい花火が煙を焚いている光景が映った。
 その瞬間を目撃するには至らなかったが、どうやら地上でなにかが爆散したようだ。
 まさかウェストの破壊ロボが、と柄にもない心配をしてしまったことにはすぐさま首を振り、そして気づく。

 その瞬間ばかりは、アンドロイドたちも攻勢をやめ九郎と同じ方角を見ていたことに。
 やはり彼女たちは、単なるコンピュータではない。それなりの知能を持っているのだ――と。

『――応答せよ、大十字九郎! まことに遺憾であるが、我輩の活躍はこれにて一旦休止なのであーる!
 残りはすべてそちらに回っただろうからして、きっちりかっちり始末をつけるのであるぞ!
 なに? 妙に優しいじゃないか、とな? か、勘違いしないでよね! 貴様を倒すのは我輩の役目だから――』

 ドクター・ウェストからの緊急連絡が入ったが、必要な部分だけを聞いてすぐに通信を切った。
 どうやら、階下での戦いは今の爆発を最後に決着したらしい。
 残りの敵勢は九郎を取り囲む屋上のアンドロイド十数体と、ウェストの対応を諦め今まさに屋上へと向かっているだろう数体。
 ならば後は、起動キーを持つ彼女に確認を取るだけだ。

「やよい! こっちの準備は整った、そっちはどうだ!?」
『うっうー! こっちも準備オッケーですっ。いつでも動かせますよ!』

 インカムの向こうから、元気のいい返事が返ってくる。
 九郎は一瞬、傍らのアルと視線を交し合い、揃って頷く。

 これで、すべてが整った――。

「さぁ、こっからがクライマックスだ! 『アトラック=ナチャ』!!」

 唱えた途端、九郎の髪が緑色に発光し、紐状になって屋上全域へと行き渡った。
 紐――いや『糸』は辺りに散らばっていたアンドロイドたちの体に絡みつき、その身を拘束。
 これこそが前述の対多数用戦法。捕縛結界魔法『アトラック=ナチャ』である。

「いよいよだ……詰めるぞ、九郎ッ!」
「応ッ! 『マギウス・ウイング』、展開ッ!!」

 九郎を取り囲んでいたアンドロイドたちの身動きを封じ、さらに九郎は両翼を広げた。
 そのまま真上に上昇。銃弾も届かないほどの高さまで飛翔し、停止。滞空しながら眼下を見る。
 飛行手段を持たない戦闘アンドロイドたちは、飾り気のない表情で九郎とアルを見上げていた。

 窺っているのだろう。
 九郎がどんな手で打ってくるか。
 撤退という可能性もあるいは踏まえているか。

 否、大十字九郎は逃げも隠れもしない。
 今この場で、アンドロイドたちは殲滅する。
 そして、ツインタワーの地下から一番地に殴り込みをかけるのだ。

「目ん玉ひん剥いてよぉーく見やがれ! 大十字九郎とアル・アジフ、一世一代の大舞台だ!」

 作戦に変更はない。必ず成功させる。
 だからこそ、九郎はアンドロイドたちの注目をさらい――勝負を決すための祝詞を読み上げ始めた。


「――憎悪の空より来たりて!」


 九郎を中心として描かれる、巨大な光線の魔法陣。
 大空が轟き、軽い爆発が巻き起こった。


「正しき怒りを胸に――」


 アンドロイドたちは皆、それを見上げることしかできない。
 なにが起こるかは、データとして刻み付けられているのだろう。


「――我等は魔を断つ剣を執る」


 ゆえに想像し、ゆえに警戒はする。が、おそらく対応策は持たない。
 誰も想定の枠には入れていなかったから――それが召喚されるなど。


「汝、無垢なる刃――デモンベイン!」


 鋼鉄を鎧い刃金を纏う神。
 人が造りし神。
 鬼械の神。

 汝の名は、

 I'm innocent rage.
 I'm innocent hatred.
 I'm innocent sword.
 I'm DEMONBANE.

 デモンベイン。

 それは、魔を断つ者の名――。


 ・◆・◆・◆・


 同時刻――。

 星詠みの舞の舞台となった島の山頂、D-4のエリアより轟音が響き渡った。
 あるシステムが発動されたがために、山の中枢部が大きく切り開かれ、その中身を露出させていく。
 内部は無数の配線や鉄板、その他機械的な設備が多数見え隠れし、山内に生息する小動物たちを驚かせる。

 召喚者の言霊を、鍵の所有者の意思を受けて、秘匿され続けていた機械が今、表舞台に現れた。

 無骨で巨大な口。北東を一点に見据える黒い瞳。極めて機械的に動作する回路。
 エネルギーは瞬く間に満ちていき、照準はとうに固定され、そして、起動する。

 その名は――。


 ・◆・◆・◆・


 ――十秒、二十秒と待っても、変化は訪れなかった。

 大十字九郎を中心として展開されていた魔法陣は既に消え失せ、今はなんの輝きもない。
 なのに九郎は表情に微笑を浮かべ、パートナーのアル・アジフは傲岸に腕組みをして宙に佇んでいる。

 ツインタワーの屋上からその様子を見上げるMYU型アンドロイド、十数体。
 大十字九郎とアル・アジフの撃破、あるいは基地内潜入阻止を言い渡されたはずの彼女らは、ただただ待つ。
 このままなにも起きず、九郎たちが下りて来ないというのであればそれでもよい。
 彼らが戦線に加わらなければ、別ルートから攻め込んでくるだろう者たちの相手がそれだけ容易になる。

 しかし、彼女たちとしては九郎が『デモンベイン』の名を告げたことだけが疑問だった。
 詳細な資料を得ていたわけではないが、その存在はこれまでの九郎やアルの言動、エルザの情報から推察することができる。
 彼らが元居た世界、アーカムシティという場所で猛威を振るっていた巨大人型兵器。
 正しくは鬼械神(デウス・マキナ)という名称らしいそれは、此度の儀式には関わっていないはずである。
 支給品や博物館の展示物、ましてやカジノの景品の中にも、その影は存在していなかった。

 では、彼らはなにゆえデモンベインの名を呼んだりなどしたのだろうか?

 考える――考え続ける――九郎にとっては唯一の懸念と言えたこのタイムラグを、『退避』ではなく『警戒』に使う。

 それが、彼女たちの敗因。
 精巧な機械人形であるがゆえの、失態。
 九郎の策、というほどでもない『ハッタリ』にまんまと騙されてしまった、


「かかったな、アホが!」


 どうしようもないミスが――南西からの号砲、という形で彼女たちを襲う。

 島の山頂に隠されていた決戦のための秘密兵器。
 原子力艦すら沈める超巨大大砲『青春砲』の直撃を受けて。
 アンドロイドたちは、双頭の塔もろとも爆発し、地上に叩きつけられる。





 ――九郎の眼下、『青春砲』の砲撃を受け、ツインタワーは倒壊した。


LIVE FOR YOU (舞台) 2 <前 後> LIVE FOR YOU (舞台) 4



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー