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LIVE FOR YOU (舞台) 4

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LIVE FOR YOU (舞台) 4 ◆Live4Uyua6



 ・◆・◆・◆・


「………………あぁ」

遥か視線の先。透き通るような青い空を後ろにもうもうと灰色の煙をあげて崩れ落ちる双子のビル。
それを見て、高槻やよいは青春砲の発射ボタンを握り締めながらかすれるような息を吐き、ただ呆然としていた。

なにも予定外のことが起こったわけではない。
やよいはちゃんと決められた通りにした。ただ、その結果が彼女が思っていたよりも少し派手だったというだけのことだ。
青春砲から放たれた砲弾は狙い通りに九郎らが敵を引きつけたビルに命中し、それを木っ端微塵に爆散せしめた。
次いで起こった衝撃波が隣のビルを撓ませ、中ほどから折れたそれは倒壊を始め、今もそれを続けている。

「……――よい。……おい、しゃきっと、しゃきっとしろやよい!」
「ひあっ!」

相方であるプッチャンの声に点になっていた目はぱちりと戻り、やよいははっと我に返った。
なにはともかく、とりあえずは発射スイッチをしまい、じっとりと浮かんでいた手の汗をぬぐってプッチャンへと話しかける。

「あ、あの! すっごく驚いたんですけど、それよりも九郎さんとアルさんは大丈夫なんでしょうかっ!?」
「………………」

やよいの右手の先に嵌っているプッチャンがやれやれという風に首を振る。
パペットなので表情は変わらないのだが、呆れているのだろうということはやよいにも十分伝わってきた。

「無事もなにも直接聞けばいーじゃねぇか」
「あ、あぁ……! そうでした。……あの、もしもし。九郎さん聞こえていますか?」

やよいははっとして口元のマイクへと呼びかけの声を送る。
先程、九郎がやよいとの連絡を取る為に装着していたように、彼女もまたその頭に通信用のインカムを装着していた。
今回の決戦に臨むにあたり、例によって例のごとく良識的な科学者である九条さんが用意してくれたものである。

これがあれば例え離れ離れになることがあろうとも問題なく連携がとれる――というと実はそこまで都合はよくない。
元々インカムを用意したのは言霊への対策であり、通信はおまけ。実際、ここからだと遠くて玲二とは連絡がとれなかったりする。
そもそもとして島内の電波施設は主宰の管理下にある以上、
使用できる方法は中継を介さない単純な電波の交換だけで、有効な範囲や状況というのは極端に限られてしまう。

『……――か? ――やよい聞こえるか?』
「あ、はい! やよいです! ご無事ですか九郎さん?」

そうしてようやく九郎との通信が回復する。
爆発で生じた何かか、または大量の粉塵のせいか、このようにこの通信はとても脆弱なものであった。

『タイミングはどんぴしゃだったぜやよい! 俺たちは予定通りこのまま地下に潜るんでみんなにもよろしく伝えてくれ』
「あ、はい。えーと……あの、ご、ごぶ……、御武運をお祈りします。がんばってくださいね」
『やよいこそな。じゃあ、また後で会おう』

プッと、小さなノイズとともに通信は再び切れた。
インカムに当てていた手を下ろし、やよいは安堵の溜息をつき、そして後ろを振り返る。

彼女と、そして仲間達は風華学園・水晶宮の前に到達していた。


 ・◆・◆・◆・


「それじゃあ、九郎くんとアルちゃんも無事に突入を開始したことだし僕達も突入を開始しようか」

やよいと九郎との通信が終わったのを見計らって那岐がその場にいる全員へと声をかけた。
那岐を先頭に、やよい、ファル、美希、クリス、なつき、桂、柚明、碧、トーニャ、九条。そして……プッチャンとダンセイニ
道中には特別トラブルもなく、全員が出立した時のまま無事ここまでたどり着いている。

「玲二くんはもう突入を開始してるかな。深優ちゃんは、もうそろそろと……3、……2、……1、……はい」

那岐が時計を目に3つ数えた次の瞬間。
空気が振るえ大轟音が響き渡り、次いで、那岐達の足元にかすかな地響きが伝わってきた。

「さすが深優ちゃん。時間に正確だ」

それじゃあ僕達も突入。と、那岐は踵を返し水晶宮の入り口へと歩を進め始める。
他の面々も、爆音の響いた山の方を何度か窺いつつもそれに続き、そしてほどなくして全員が地下へと降り――



――地上。つまりはバトルロワイアルの舞台より全ての参加者。存在がその姿を消し、第二幕の戦いが遂に開始された。


 ・◆・◆・◆・


陽が明けてより、参加者達の動きへと対応し続け忙しなくもしかしまだ静かだった主催本拠地の司令室であったが、
現在はレッドアラームが鳴り響き、怒号が飛び交いオペレーターや戦闘員らが室内を鼠のように慌しく右往左往していた。

「……………………」

身を包む喧騒の中。
一番地の頭領たる神崎はその波に浚われることなく静かに、しかし苦虫を噛み潰したような表情でモニターを見据えている。

現在、モニターの上に表示されている基地内各所のカメラからの映像。
その中に映っているのはただただ、水、水、水、水、水。
大量の水が、おびただしい濁流が、この一番地本拠地の中を流れ、その勢いはこのまま全てを沈めてしまわんばかりであった。

「――こんな無茶をしてくるとはね。さすがに侮っていたかもしれないわ」

ファイルを脇に抱え早足で戻ってきた警備本部長に気付き、神埼はそちらへと目を向ける。
常ならば気だるげで余裕のある表情を浮かべている彼女であったが、現在の事態にあたってはその表情もさすがに曇っていた。

「湖底の取水口から侵入するという読みは間違ってなかったけど……まさか、湖底に爆弾で大穴を空けるとはね」

そう。現在、この司令室がかつてない慌しさで対応に追われているのは湖底より進入を試みた深優の大胆な手法にあった。
彼らからすれば何を使用したかは不明であるが、彼女は取水口付近でなんらかの爆発物を使用し、湖底に大穴を空けたのである。
普通に進入すれば待ち伏せに合うと判っていたからなのか、それとも一番地に甚大な被害を与えるためにか、
もしくは両方かも知れないしそれは定かではないが、結果として今現在、湖のちょうど真下に位置する一番地本拠地は
流れ落ちてくるおびただしい量の水に浸水され、決戦の開始早々、司令室は大混乱へと陥っていた。

「それで、被害と復旧の予定についてはどうでしょうか?」
「……そうね、流れ込んできた水に関しては順次排水しているわ。今の勢いが治まればなんとかなるかしらねぇ。
 ただ、完全に水没した最下層についてはもう使えないものと考えたほうがよさそうよ。少なくとも今日中というのは無理」
「最下層……地下幽閉所に、自家発電プラントでしたか」
「地上発電所からのラインは通じているし、あくまで控えがなくなっただけだから今は問題とするとこじゃないけど」

ふむ。と、神崎は僅かに首をひねった。それを見て、この報告に何が問題があるのか警備本部長も怪訝な顔をする。

「これは……シアーズにとっては少なからず打撃になりますね」
「……あ。そうね。基地自体は離れてはいるけれど、シアーズ基地の電源はここの自家発電がメインだったしねぇ」
「まぁ、向こうは向こうで最低限の自家発電設備は備えていますから問題ないでしょうが……、それで他の被害はどうですか?」
「えぇと、深優ちゃんを待ち構えようとしていたうちの警備兵達が鉄砲水でいくらか流されちゃったわねぇ。
 戦闘不能となるほどの傷を負った者はいないけど、装備の交換なりなんなりで現状、人間の警備兵に関しては実働六割というところ。
 アンドロイド達に関しては問題はないわ。即座に進入してきた深優ちゃんを迎撃するよう命令を出している」
「ふむ。それで肝心の深優・グリーアはどのように動いているのでしょうか」
「そうそう、それよね一番重要なのは。えーとね、彼女。ここへではなく、シアーズ基地の方へと向かっているわよ」

そこで、神崎はなるほどと頷いた。その様を見て、今まで気付いてなかった本部警備長も同じことに気付く。

「ああそうか、彼女は元からアリッサちゃん狙いなのね。
 てっきりこっちとの決着を優先するかと思ってたけど、向こうもこの三つ巴の関係を一気に終わらせたいわけなんだ」
「そのようですね。だとするならば我々としてはありがたい。
 シアーズに関してはとりあえず彼女に任せましょう。迎撃に当たらせた兵も引かせてください。基地の復旧を優先します」
「了解したわ。それで、他はどうしようかしら? 那岐くん達ももう地下に入ってきてるわよ」
「他は依然予定通りですし変わりはありません。あちらの指揮は幕僚長殿に一任していますし、現状維持ですね」

加えて細々とした指示や提案をやりとりし合い、本部警備長は再び小走りで神崎の前より離れてゆく。
それを見送り、神崎はデスクの上から紅茶を取ると、一息ついてまたモニターへと視線を戻した。

「決戦の幕開けとしては中々上出来な演出だな」

ひとりごち。そして神崎はいつもとは違う鋭利な笑みをその端整な顔に浮かべた。


 ・◆・◆・◆・


「ふっふっふっふっ……」

全ての終焉が演じられる舞台に続く通路。
その通路の中にも、浸水の結果によりいたる所に水溜りが出来ていた。
そして、通路の端にある大きな水溜りの中で不気味な笑い声をあげる少女がひとり。

「水も滴るいい女……って事か……」

ムクリと起き上がる少女、来ヶ谷唯湖
彼女の身体。そして衣服と髪は水でビショビショに濡れていた。
濡れた服が身体に纏わりつくのに不快な表情を浮かべ、そしてまた彼女は不気味に笑い出し――

「………………ってふざけるなぁ! くそっ! ああ、冷たい!」

言って、バシンと水溜りを殴りつけた。
水しぶきがあがり、またそれが彼女の身体を濡らす。
これに関しては自業自得だが、そんなことにはおかまいないしにと彼女は怒りを露にし、勢いよく立ち上がった。

「ええい! 鬱陶しい! 全く……頑張っては欲しいが、私までびしょ濡れにするなっ!」

まるで動物がそうするように髪を振って纏った水気を吹き飛ばす。
神崎達を打倒しようとしてる彼らの頑張りは評価したいと彼女は思う。
それは自身の望みと相容れないものではないし、なによりクリスが無事生還することを何より強く願っているのだから。
だがしかし、まさかこんな仕打ちを受けるとは――と、唯湖は真っ赤な顔を振るわせる。

「……ったく、流石にこれはいくらおねーさんが水も滴るいい女だとしても、水を差されて気分が悪いぞ」

一体何が起きたのか。
あまり考える必要もない。大体大方の予想はつく。そしてそれが神崎達に対して大きな打撃になっているだろうことも。
ただ、このちょっとしたアクシデントがクリスとの決着に文字通り水を差すように思えて怒っちゃったというだけである。

クリスと自分への決着をつける舞台は無事なのだろうか?

胸元に忍ばせていた写真が無事であったことを確認すると、唯湖は終焉の地へと向かいまたゆっくりと歩き始めた。



「……来ヶ谷唯湖」

唯湖が歩き去るその背後。
シアーズ本拠地へと続く通路からその背中を見つめる影がひとつあった。
彼女を水濡れにした張本人、深優・グリーアである。

深優は唯湖を見つめ思う。
彼女は端的に見ればこちら側の敵であり、単なる障害のひとつでしかない。
しかも、唯湖は此方に気付いていない。今ならば難なく殺せるに違いないだろう。

「ですが、それは私の役目ではありません」

だが、深優はその選択を選び取りはしない。
深優自身が、深優の心がその選択を否定した。
来ヶ谷唯湖はクリス・ヴェルティンが決着をつけるべき相手。
それは自分が犯していい領域ではないのだ。
何より、そんな終わらせ方は深優の心が絶対に許さない。

心を知ったからこそ。
感情を知ったからこそ。

来ヶ谷唯湖は自分が相手をすべきものではないと、そう力強く言えるのだった。

やがて唯湖が見えなくなっていく。
その姿が通路の角に消え完全に見えなくなった時、深優は一息つきながら、

「ご武運を。
 ……いや、この言葉は相応しくありませんね。貴方にとって最も好い結末を選び取る事を願っています――クリス・ヴェルティン

そう、クリスに向かって呟いた。
何故か、深優の心が、他者を思いやるという心が。
自然にそう深優に呟かせたのだった。

「さて……ええと……どうしましょう」

唯湖を見送った後、深優は急に顔を赤く染める。
もう必要ないダイビングスーツを脱ごうと思ったのだが……やっぱり恥ずかしい。
しかも、此処は敵方の本拠地だ。
見られているかもしれない。
そんな感情が深優を戸惑わせる。

しかし、こんな所で迷ってる暇は無い。
今すぐにでも敵兵がここに殺到するかも知れないのだ。となれば脱いでいる時間もなくなってしまうだろう。
思考に思考を重ね、苦渋の決断をする。

「……仕方ありませんね」

深優はそっと物陰に隠れ着替え始める。
カメラの死角になっている事を願いながら。

「うう…………」

顔は真っ赤に。
そして、行動は迅速に。
深優は瞬く間に着替えを終了させた。
纏うのはいつもの風華の制服。

「…………うう、もう……気にしないことにしましょう」

恥ずかしがりながらそう呟く。
どう見ても未だに見られていたかもしれない事に気にしているようだった。
しかし、深優はそう口にする事でそれを終わりにする。

「さて……行きましょうか。私が決着すべき相手は……別にいます」

真っ直ぐ見つめるのはシアーズ本拠地に繋がる通路。
その先に深優が目標とすべき相手が存在している。
それは深優が倒さなければいけない存在。
深優しか倒せない存在。

未来を繋げる為に深優が決着をつけなければいけない存在。

その存在に向かって。

深優・グリーアは静かに歩き始めたのだった。


 ・◆・◆・◆・


コツコツという、硬く無機質な音が広くそして底知れず深い空間の中に十重二十重にと木霊している。
誘うかのように開かれていた水晶宮より地下へと入り、那岐を先頭とする11人と2体はただ黙々と螺旋階段を下りていた。
ぐるりぐるりと壁に沿い大きく円を描く螺旋階段。
気を抜けば行き先を見失いそうな、そんな錯覚すら覚える長い螺旋階段を彼らはただただ深く深く下りてゆく。



「あぁ……全然こんなこと考えてなかったけど、ここってけっこう寒いねー……」

長く、それこそ半時間ほどを使ってよやく階段を降りきり、ひと心地ついたところで桂が肩を抱きながらそんなことを言った。
地下だからなのかそれとも霊的な気配のせいなのか、息が白くなるほどではないが地底はずいぶんと気温が低い。
彼女だけでなく他の面々ももう少し厚着をしてくればよかったと、そんな風な表情を浮かべていた。

「こっちの方に来たのははじめてだけど、確かに随分と冷えるね。
 まぁ、居住区なり本拠地なりに入ったら空調も効いているしそれまで我慢我慢。それにしても――」

と、那岐は先へと向かう通路の方を見て尖らせるように目を細めた。
ここまでも、そしてしばらく先まで人の気配は感じられない。
しかし気配はなくとも、僅かな雰囲気のようなものが感じられていた。不穏で禍々しく、しかし朧で掴みようのない予感のようなものを。

「どうしたの那岐くん? 珍しく顔が怖いよー。虎穴に入らずんば、虎子を得ずって言うじゃない。
 危険は承知。だからこそリラックスしていく。……じゃないかな?」
「虎穴……ならいいんだけれどもねぇ」

軽く息を吐くと那岐は表情を再び柔和なものへと戻し、ゆっくりとした歩調で通路の先へと向かい始める。
それを追うように小休憩していた他の面々も歩き始めた。
再び響き渡る足音達の即興曲。冷たく硬い音は緊張を強い、そして那岐は一番地の本拠地へと向かう通路の入り口の前に立ち、

「まるで、虎口に飛び込む気分だよ――」

ぽつりと呟いてそこを潜り抜けた。


 ・◆・◆・◆・


無機質な壁で覆われたまっすぐな通路をただただ進み、変わらない風景にそろそろ飽きがきた頃、一行はその場所へと辿りついた。

「……ラスダンというわりには、どうして中々それっぽくはならないものですねぇ」

大きく広い空間を端から端へと見渡してトーニャがそんなことを口にする。
他の面々にしても感想は似たり寄ったりだ。そこはただ一言で表すなら倉庫――と、それだけで済むような場所であった。

「しかたがないじゃない。儀式の参加者と主催側が戦うなんて元々想定してたわけじゃないしね。
 この基地にしたって一ヶ月そこらで作った急造のものだし、それにまぁ、ここらは端っこだしね。言ってる間にらしくなるよ。多分」

言って、那岐は部屋の端に積み上げられたコンテナを避け、開けた中央へと歩いてゆく。
床はコンクリートの打ちっぱなしで、区切りというと直に引かれた白線のみ。そして壁にはむき出しの鉄筋が見えている。
反逆者達を迎え入れるエントランス――と言うには、確かに雰囲気に欠ける空間であった。

「まるでマフィア同士が取り引きをする現場みたいだな。おい那岐。気付いているのか?」

エレメントの銃を両手に構えたなつきが厳しい表情で前へと出てくる。
そしてその脇には彼女のチャイルドである鋼鉄の猟犬デュランが付き従い、鼻をならしグルゥと唸り声をあげていた。

「あの、それってつまり……そろそろバトりの時間ってことでしょうか? なつきさん」

アサルトライフルを抱えた美希が、気乗りはしないといった風に尋ねる。なつきの代わりに答えたのは那岐だった。

「これだけ匂えば、ね。待ち伏せられているよ。みんなお互いのパートナー、そして僕から離れないようにしてね」

言われて、皆がそれぞれ得物を手に動き始める。
悠々とした那岐の両脇には、これも慣れたといった風の余裕と適度な緊張が窺えるトーニャと九条。
その後ろには刀を抜いた桂と蝶を纏わせる柚明とが寄り添いあい、
守られるような形で、プッチャンをはめたやよいにダンセイニ。そして同じライフルを構えた美希とファルが並んでいる。
一番後ろにはデュランと愕天王。その2体のチャイルドの主であるなつきと碧。そしてクリスとが立っていた。
皆が皆。離れないように寄り添い合い、引率者である那岐の背を追いゆっくりと前へと進んでゆく。

そして、彼らがちょうどその空間の中央に到達した時。主賓による挨拶――神崎黎人よりの放送が唐突に流れ始めた。


 ・◆・◆・◆・


『ようこそ。星詠みの舞のその主役たるHiMEの皆さん。
 一部の者はすでに別所から進入を果たしているようですが、ここで主催を代表して僕から歓迎の言葉を送りましょう。

 あらためて、ようこそHiMEのみんな。
 このような事態に発展するとは全く持って予想外だったわけですが、これも君達の実力なのだろうと評価することにしました。
 君達を迎え撃つに当たって勿論こちら側も全力を尽くす。
 ここまで来たんだ、敗北した方にはこの先もない以上、お互いに悔いの残らない戦いができればと僕は思う。
 卑怯も何もなくたとえ人道に背く方法を使ってでも僕は君達に勝つと、そう宣言させてもらうよ。ようく覚悟するといい。

 さて、ひとつだけ約束を守ろう。
 来ヶ谷唯湖。彼女は今、ただ独りだけで待ち人――つまりはクリス・ヴェルティンが訪れるのを待っている。
 この放送が終わればひとつの扉が開く。それが彼女のいる場所への通路だ。
 一人でとは強要しない。助けが必要ならば適当な人数でそこから進むといいだろう。

 そして、君達がその扉を潜り終えるともうひとつの扉が開く。僕が待ち構えている一番地本拠地への通路がね。
 残った者。決着をつけたいと思う者はこちらへと来るといい。

 僕からは以上だ。
 例の定時放送は決着がつくまでは続けられる。次は12時。後、4時間足らずといったところだね。
 それまで僕は玉座にて、君達全員の死亡報告を読み上げられることを楽しみに待っているとしよう。

 では、せいぜい最後に足掻いてくれたまえ。僕の舞-HiMEたちよ――……』


「おうおう言ってくれるじゃねぇか、神崎って野郎はよ。全く鼻持ちならねぇやつだ」
「うっうー! 私達は絶対に負けません。多分!」
「言いたいことはわかるけれどやよいは少し言葉遣いがおかしいわね」

神崎による宣戦布告。明確なそれを受け取り息巻くパペットとその主に一行の中でもとりわけシニカルなファルは溜息を吐く。
現実の話としては自分達は非戦闘員扱いであり、口を悪く言えば足手まといなのだ。控え目である方が好ましいのである。
意気込みは買いたいところだが、ない袖は触れないというのもまた事実だ。
さてと持ちなれない重いライフルを抱えなおし、そして同じく非戦闘員であったはずの彼の方を彼女は見やる。

「――じゃあ、唯湖のところに行ってくるよ」

クリス・ヴェルティン。つい先日まで同じ音楽学校に通っていた音楽の才能を除けばどこにでもいるような普通の青年。
荒事なんかには縁のなかったはずの彼が今は自分とは逆の側にいて、そして騎士を気取っている。
手に持っているのも引き金さえ引けば誰でも撃てる銃ではなく、鋭利な刃のついたブーメランだ。しかも魔法の、である。

「ママ。後でまた合流するからそれまでは無事でいてね」
「あなたこそね。何が起こるかわからないから決して油断をしないように」
「なぁに、この正義の美少女戦士が引率につくからには心配御無用。大船に乗った気でいんしゃーい」

これも数奇な運命というやつだ。と、今はそうしておくことにしてファルはこの倉庫から出てゆく彼らを見送る。
唯湖を助けに行きたいクリス。そして彼とは一時たりとも離れたくないというなつき。加えて、彼らのガードを務める碧。
その3人と2体のチャイルドがこちらから離れ、これからは別行動となる。

本来ならば全員がまとまって行動する方がいいのだとは誰もが解っている。
来ヶ谷唯湖にしても本当に優先すべき対象なのか、そこに疑問がないわけでもない。
だがしかし、クリスに対しそれを控えろと言う者はいなかった。現実主義者のトーニャや玲二にしてもである。

神崎が約束を守ったなどとわざわざ言ったのも分断を狙った策だとは誰もが気付いていたし、そう来るであろうとも予想していた。
しかしそれでも行き去るクリスの後ろ髪を引くような者はいない。
それが彼の願いだから。棗恭介に願いを託されたから。人道に則れば当然のことだから。理由は色々と思いつく。
だが、しかし――

「クリスくーん。がんばってねー! 後でまた、唯湖さんと一緒にねー!」
「わざわざ出番待ちをしたりはしませんよ碧。正義の味方を自称するなら山場までには戻ってきてくださいな」
「なつきさん。美希はいつでもなつきさんの味方っすから! あ、いや。冗談でなくー」

――そういうものなのだろう。そんな連中なのだ。と、気持ちのいいことだとファルは可笑しそうに微笑んだ。


 ・◆・◆・◆・


長く長く行き先の見えない大きな通路の入り口をクリス達が潜り抜け鉄扉が閉じた時、すぐさまにそれは始まった。
予測はしていた。皆、体勢は整えていたし覚悟もしていたはずだった……が、それは予想以上のものであった。

弾雨。

徹底的な弾雨。弾丸と轟音、火花とが散る雷雨とも形容すべき苛烈な攻撃が彼らを襲った。
どこにこれだけ隠れていたのかと驚くほどの数の戦闘員がコンテナや柱の影。または天井付近を渡る通路から姿を現し銃弾を放つ。
一切の躊躇もなく、一切れほどの容赦もなく、殺す為に殺すのだと、そう言わんばかりにただただ、ただただ銃弾を浴びせかけた。

銃口から弾丸が飛び出す音。空薬莢が硬い床の上で跳ねる音。行く先を逸れた弾丸がコンテナにぶつかり立てる甲高い音。
連弾。連弾。連弾。の、様々な銃火器による何重奏とも数え切れない激しさ極まる即興狂死曲。
音が圧力を持ち、その乱暴な曲が乾いた空間の中を文字通りに埋め尽くした。

銃口が火を噴いていたのは十数秒で、倉庫の中に反響していたその音が鳴り止むのにもう数秒。
そして、室内に充満した硝煙が薄らぎ視界が晴れてくるまでにさらに十数秒ほど。
反逆者達を待ち構えていた戦闘員達およそ50名。彼らがそこに見たものは――

「まったく驚かされたね。本当に……」

――なんら傷ひとつ負うことなく、ただ少しばかり苛立った表情で兵士達を見上げる那岐の姿だった。

「手加減はできないからね。悪く思わないでよっ――と」

那岐が手を振り上げると熱気の篭っていた空気が唸りを上げ、間をおかずして竜巻と化した。
立ち並んだコンテナは弾丸を避ける盾にはなっても吹き荒れる風に対しては役に立たず、幾人かがあっけなく吹き飛ばされる。
天井近くの位置にいたものは床の上までの十数メートルをなすすべなく落下し、ぴくりとも動かなくなる。

「初っ端から疲れるなぁ。やれやれ」

敵の体制が崩れたと見ると那岐は踵を返し、無駄な力は使うまいとコンテナの影へと駆け込んでゆく。
大きく息を吐き、疲労を態度として表す。心構えはあったが、予想以上の攻撃にそれを凌いだ彼の消耗は少なくはなかった。
そして、そうやって仲間を窮地から救った彼にぶつけられたのは、その仲間達からの追求の声だった。



「――これは一体どういうことなんですか? 説明を、場合によっては謝罪と賠償も要求させてもらいます!」

先程の敵側からの猛攻撃。それに仲間達は那岐自身も含めて大きく驚いていた。
なぜならば、根本的なルールとして”参加者以外の人間では参加者を殺してはいけない”ということになっているはずだったからだ。

「どういうことなんでしょう? もしかして、私達に心の余裕を持たせる為に嘘をついていてくれていたのだったとか?」
「うっうー! あの、すごく、すごく怖いです! あぁ……どうしよぅ……?」

那岐は厳しい表情を浮かべて口を閉ざす。
その間にも仲間達からの追求や疑問の声は途絶えない。
どうするべきか。逡巡し、しかし言わねばならぬことだろうと那岐はそれをはっきりと口に出した。

「どうやら、僕の元ご主人様がそのルールを破る方法を見つけ出した……いや、実行することに成功したみたいだ」
「それってつまり、あの戦闘員さんたちは美希らを……?」

殺すことができる。と、那岐は答える。
これは、あまりにも想定外の事態であった。
どれだけ数と物量の利が向こうにあろうとも、直接殺傷できないのならば単体の戦闘力で勝るこちらが有利。
そう考えたていたからこその決戦であり、用意してきた作戦なのだ。
前提がひっくり返れば、それは全く成り立たない。

「一転して、ラスダンに臨む勇者一行から飛んで火にいる夏の虫となったわけですねぇ。理解しました。
 それで、一応聞いておきますが何がどうなってこういうことになったんでしょうか?」

トーニャからの質問に那岐は俯く。予兆はあったのだ。これまでにも。
神崎黎人が”悪いこと”をしていると、その気配に気付いておきながら軽視し慢心により見逃してしまったのは痛かった。
ナイアの引いたルールは絶対確実だと信じていたこともあるが、それにしてもこの結果はあまりにも重い。

「参加者同士でないといけないというのは、前にも言ったけどHiME同士の間で想いが移らないといけないからだ。
 そうでない人間がHiMEを殺せばそこにあった思いは受け取り手を見失い世界に散ってしまう」

ふむ。と皆が頷く。それに関しては作戦会議やミーティングの間に何度も聞いたことだ。十分に理解している。

「だから、神崎は僕達がホテルの中でゆうゆうとしている間も攻めて来なかった」

また皆が頷く。それを知っていたからこそ、あんなにも悠々自適に長い時間を使うことができたのだから。

「そして、神崎は攻められないふりをして僕達がここに――罠にかかるのを待っていた。ということだよ。
 想いが逃げる。それならば逃げられないよう結界を張って囲ってしまえばいい。
 けど、島中を覆うほど結界は作り出せない。だから――……」

結界で覆いきれる範囲である地下基地内まで、那岐達が侵入してくるのを待ったのであった。

「おそらくは、第2のゲームが始まった当初はこんな結界を張る準備はなかったはずなんだ。
 つまり、僕達が時間制限のぎりぎりまで5日間使って準備をしたように、一番地もそうしたということ……なんだろうね」

言い終わり、那岐は小さい肩をがっくりと落とす。
現状としては最悪に近いが、かといってこれまで取ってきた行動も理にかなっていただけにやりきれなさが募る。
最上のパターンを想像するなら、こちら側の準備が整っており向こうの結界が完成していないタイミングがよかったのだろう。
野球をせずに半日でも早く行動に移していたらどうだったか……考えても詮無きことだが後悔の念は尽きない。

「ともかくとして、予定は予定通りに動こう。僕達が生きて帰るには神崎を倒すしか術はない」

言って、那岐は顔をあげる。
確かに攻略の難度は大幅に跳ね上がったが、かといってやることが変わったわけでもない。
目の前に現れる敵を排して、黒曜の君たる神崎の下までたどり着きその首を落としてゲーム終了する。それだけなのだ。


 ・◆・◆・◆・


「ところで、他の方々と連絡はとれましたか? この情報。知らせておかないといけないと思いますが」

やれやれと首を振ると、トーニャはインカムに手を当てて通信を試みていた九条の方へと振り返る。
だがしかし、九条が何もマイクに向かって発していないのを見るに、それは不可能であるらしかった。

「やはり地下に入っちゃうと電波は届かないわね。どこか、通信室を探してからということになるわ」
「まぁ、それも予定のうちですし。
 碧たちはともかくとして他の人たちは殺し殺されるのがあたりまえの覚悟ですしね。万が一がないことを祈りましょう」

じゃあ、敵さんがたが殺到しなうちに動きましょうとトーニャは那岐に変わって皆を先導して歩き出す。
なにしろ根本的に不利な点としてこちら側には首輪という相手に位置を知らせる枷がついているのだ。
足を止めていればあっという間に囲まれることとなりかねない。

「――と、そういえば神崎はどうして首輪を爆破しないのでしょうか?
 HiMEでないといけないというくくりがなければ首輪でも構わないとも思えますが……」
「さぁて、そうできるならとっくにそうしているはずだし、そうできない事情があると思うしかないね。
 結界だって小規模とはいえ特別なものだ。5日間で用意したのならどこかに綻びがあるのかもしれない」
「なるほど。気休めとしては中々にありがたい話です」

ふむと頷くトーニャを先頭に、一行は神崎が指定していた通路へと入ってゆく。
ここをまっすぐに南下してゆけば彼の待ち構える一番地本拠地へとつくのは九条の持ち出した地図からもわかっている。
なので、一刻も早くこの決戦を終わらせるべく彼らはこの通路を足早に進み、そして――落ちた。


トラップとしては初歩の初歩。いわゆるひとつの落とし穴。


あっけなく外れた床とともに彼らは暗闇の中。島の地下に走る洞窟の地下の地下へと、落ちてゆく。


まっ逆さまに。運命のように。ただ、奈落の闇へと落ちてゆく――……。


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