LIVE FOR YOU (舞台) 9
・◆・◆・◆・
「まずは目の前の敵に専念するんだ!! 無理に祭壇に近づこうと思わないで! 桂ちゃんッ」
「は、はいっ」
「君は接近戦に弱い柚明ちゃんの護衛を! 柚明ちゃんは極力桂ちゃんから離れないで!」
「わ……わかったわ!」
「は、はいっ」
「君は接近戦に弱い柚明ちゃんの護衛を! 柚明ちゃんは極力桂ちゃんから離れないで!」
「わ……わかったわ!」
那岐は的確に指示を出してゆく。
接近戦の桂。
中距離からの牽制と攻撃の那岐。
遠距離からの支援攻撃の柚明。
接近戦の桂。
中距離からの牽制と攻撃の那岐。
遠距離からの支援攻撃の柚明。
特に柚明は攻撃速度が遅いため桂の護衛は欠かせない。
那岐も鬼道を使う戦法のため、接近戦よりも中距離戦に長けている。
このメンバーでは前衛が不足しているのだ。
那岐も鬼道を使う戦法のため、接近戦よりも中距離戦に長けている。
このメンバーでは前衛が不足しているのだ。
「こっのおおおおおおおおおお!!!」
桂は手にした九七式自動砲を敵の大群に向けて連射する。
大口径の対物ライフルでありながらセミオート。
つまり普通の自動拳銃のように引き金を引くだけで弾が放たれる。
大口径の対物ライフルでありながらセミオート。
つまり普通の自動拳銃のように引き金を引くだけで弾が放たれる。
螺旋状に回転する弾丸がオーファンに、アンドロイドに突き刺さる。
オーファンは一瞬のうちに光の粒子に還元され、アンドロイドの上半身がバラバラに砕かれる。
相手が人間でないのが唯一の救いだ。
オーファンは一瞬のうちに光の粒子に還元され、アンドロイドの上半身がバラバラに砕かれる。
相手が人間でないのが唯一の救いだ。
カチッカチッ。
「もう弾切れ!?」
装填された7発を全て撃ち尽くす桂。
だが再装填する暇は存在しない。
だが再装填する暇は存在しない。
「桂ちゃん! 上からオーファンが!」
那岐の声に見上げると狼のような姿のオーファンが三体。桂に飛び掛かり、爪を振り下ろしてきた。
「――ッ!?」
銃を捨て刀に持ち代えるもわずかに相手のほうがタイミングが早い。
しかし――!
宙に現れた無骨な直剣がオーファンを次々と刺し貫く。
そして次の瞬間、一斉に剣が爆発。オーファンは粒子となって四散した。
しかし――!
宙に現れた無骨な直剣がオーファンを次々と刺し貫く。
そして次の瞬間、一斉に剣が爆発。オーファンは粒子となって四散した。
「桂ちゃん大丈夫!?」
「ありがとう柚明お姉ちゃん!」
「ありがとう柚明お姉ちゃん!」
柚明の周りに浮かぶ無数の剣。
柚明は剣の誘導制御を全てOFFにし、ただ直進のみにして術式を構築する。
誘導に回す魔力のリソースを全て剣の爆発力に注ぎ込む。
事前に飲んだ贄の血のおかげで、柚明に刻まれた魔術回路はスムーズに動き出す。
柚明は剣の誘導制御を全てOFFにし、ただ直進のみにして術式を構築する。
誘導に回す魔力のリソースを全て剣の爆発力に注ぎ込む。
事前に飲んだ贄の血のおかげで、柚明に刻まれた魔術回路はスムーズに動き出す。
「桂ちゃんには指一本触れさせない……ッ!」
剣の七本同時発射。
ミサイルの様に剣が敵群に突き刺さる。
そして――
ミサイルの様に剣が敵群に突き刺さる。
そして――
「解放<<ブレイク>>!!」
剣に込められた魔力を一気に解放する。
解放された魔力による小爆発がつぎつぎに巻き起こり、周りのオーファンやアンドロイド巻き添えにしてゆく。
解放された魔力による小爆発がつぎつぎに巻き起こり、周りのオーファンやアンドロイド巻き添えにしてゆく。
「さっすが柚明ちゃんえげつない弾幕だねえ~、んじゃ僕も弾幕勝負と行くとしますか。桂ちゃん、ほんの少しでいいから僕の援護を!」
「わかったよ!」
「わかったよ!」
那岐は攻撃の手を止め、術の詠唱に入る。
柚明の弾幕に阻まれた敵はここぞとばかりに那岐へと狙いを変えた。
踊りだす無数のアンドロイド、しかしそこに日本刀を携えた桂が割って入る。
桂に向けて銃を放つアンドロイド。しかし撃った瞬間には桂の姿はそこにいない。
超人的な脚力と銃口の向きによる着弾地点の予測。回避し、そして、
柚明の弾幕に阻まれた敵はここぞとばかりに那岐へと狙いを変えた。
踊りだす無数のアンドロイド、しかしそこに日本刀を携えた桂が割って入る。
桂に向けて銃を放つアンドロイド。しかし撃った瞬間には桂の姿はそこにいない。
超人的な脚力と銃口の向きによる着弾地点の予測。回避し、そして、
「はああああああああああ!!!」
横に縦にと薙ぎ払われる一撃にアンドロイドらは活動を停止する。
これだけのオーファンやアンドロイドを切り捨てても小烏丸は歯こぼれ一つせずに切れ味を誇っていた。
これだけのオーファンやアンドロイドを切り捨てても小烏丸は歯こぼれ一つせずに切れ味を誇っていた。
「うん、いい感じだね!」
刀を振るうたびに洗練されてゆく桂の太刀筋。
相変わらず身体能力に頼った強引な振りではあるが徐々に戦闘技術が蓄積された戦い方となってきている。
数日前とは比べ物にならない鋭さ。鬼になったとはいえ、元はただの女子高生がここまで短時間で上達するものだろうか?
それは特訓に参加したアルも同じ感想を抱いていた。
相変わらず身体能力に頼った強引な振りではあるが徐々に戦闘技術が蓄積された戦い方となってきている。
数日前とは比べ物にならない鋭さ。鬼になったとはいえ、元はただの女子高生がここまで短時間で上達するものだろうか?
それは特訓に参加したアルも同じ感想を抱いていた。
これらは彼女の母親に起因する。
一ヶ月と少し前に彼女の母親が亡くなった。死因は過労が祟ってのこと。
母親の名前は羽藤真弓。旧姓――千羽真弓。
一ヶ月と少し前に彼女の母親が亡くなった。死因は過労が祟ってのこと。
母親の名前は羽藤真弓。旧姓――千羽真弓。
かつて十代にして千羽妙見流の全ての奥義を会得し、歴代最強とも称された鬼切り役。
その実力は現鬼切り役である烏月を、そして先代鬼切り役である烏月の兄である明良ですらも凌ぐ実力だったとされる。
それが桂の母親だったのだ。
真弓はその後、桂の父親と半ば駆け落ち同然に千羽党を抜け出し結婚したそうである。
桂を産んでからも彼女は翻訳業を営む傍らで鬼切りの副業をしていたのだとか。
その実力は現鬼切り役である烏月を、そして先代鬼切り役である烏月の兄である明良ですらも凌ぐ実力だったとされる。
それが桂の母親だったのだ。
真弓はその後、桂の父親と半ば駆け落ち同然に千羽党を抜け出し結婚したそうである。
桂を産んでからも彼女は翻訳業を営む傍らで鬼切りの副業をしていたのだとか。
もちろん桂は母親の素性は知らない。
しかし桂の中に眠る千羽の血は確かに存在する。
それがサクヤの血を受け入れたせいで目覚めたとして、何が不思議であろうか。
しかし桂の中に眠る千羽の血は確かに存在する。
それがサクヤの血を受け入れたせいで目覚めたとして、何が不思議であろうか。
「桂ちゃん! 撃ち漏らしたオーファンがそっちに!」
柚明の声。
頭上からさっき相手した狼型よりもずっと大型の虎型のオーファンが咽喉笛を噛み千切ろうと桂に襲い来る。
桂は足元に放置してあった九七式自動砲の端っこを足で踏みつけた。
柚明の弾幕で敵が怯んでいる内に弾の再装填は済ませてある。
頭上からさっき相手した狼型よりもずっと大型の虎型のオーファンが咽喉笛を噛み千切ろうと桂に襲い来る。
桂は足元に放置してあった九七式自動砲の端っこを足で踏みつけた。
柚明の弾幕で敵が怯んでいる内に弾の再装填は済ませてある。
バンっと跳ね上がった銃が空を舞い桂の右手に握られた。
そして……長大な銃身を大口を開けて飛び掛る虎の口内に直接捻じ込み――引き金を引いた。
そして……長大な銃身を大口を開けて飛び掛る虎の口内に直接捻じ込み――引き金を引いた。
ボッ!
オーファンの体内で弾丸が爆ぜる。
虎はなすすべもなく爆散し、光の粒子に還元される。
だがまだ一息つけない、桂の攻撃後に生じた隙を狙って今度はアンドロイドが飛び出してきた。
虎はなすすべもなく爆散し、光の粒子に還元される。
だがまだ一息つけない、桂の攻撃後に生じた隙を狙って今度はアンドロイドが飛び出してきた。
「この……っ」
銃から右手を離し、そのまま左手に添えられた刀を握り締め、左斜め下から右斜め上に逆袈裟に斬り上げる。
そのまま手首を返し再び袈裟懸けに斬り下ろす。
高速の二段斬りにあっというまにスクラップと化すアンドロイド。
だが力任せに振るった動きのせいで体制を崩す桂。
それを見逃さない敵。
さらに数対のオーファンが桂に迫る……!
そのまま手首を返し再び袈裟懸けに斬り下ろす。
高速の二段斬りにあっというまにスクラップと化すアンドロイド。
だが力任せに振るった動きのせいで体制を崩す桂。
それを見逃さない敵。
さらに数対のオーファンが桂に迫る……!
「しまっ――」
柚明は目前の敵の対処ためにこちらの援護は出来ない。
思わず目を閉じる。
その瞬間、爆音と共にオーファンが消し飛んだ。
思わず目を閉じる。
その瞬間、爆音と共にオーファンが消し飛んだ。
「な、何……?」
さらに一発、二発。
桂の後方から何かが凄まじい勢いで飛んでくる。
それは柚明の剣とは比べ物にならない弾速で飛来しオーファンを消滅させる。
その弾丸はあまりのスピードのために着弾してもそのまま敵を貫通し、後方の敵群すらも蹴散らしていった。
桂の後方から何かが凄まじい勢いで飛んでくる。
それは柚明の剣とは比べ物にならない弾速で飛来しオーファンを消滅させる。
その弾丸はあまりのスピードのために着弾してもそのまま敵を貫通し、後方の敵群すらも蹴散らしていった。
「ふう、危なかったね桂ちゃん。僕のほうは準備完了だよ。お疲れ様」
「那岐君……?」
「那岐君……?」
振り向いた桂の視線の先には那岐が笑顔で立っていた。
そしてよく見ると那岐の全身から青白い放電現象が見え隠れしている。
パチパチと音を立てて、その余波がまるで電気風呂のように桂の身体にまで伝わっていた。
そしてよく見ると那岐の全身から青白い放電現象が見え隠れしている。
パチパチと音を立てて、その余波がまるで電気風呂のように桂の身体にまで伝わっていた。
「電気……?」
「そう、僕の鬼道は雷も操れる。それの応用かな。ホテルに置いてあった小説を参考にした技なんだよね」
「へー……」
「さて取り出したるはカジノのメダル。タネも仕掛けもございません」
「そう、僕の鬼道は雷も操れる。それの応用かな。ホテルに置いてあった小説を参考にした技なんだよね」
「へー……」
「さて取り出したるはカジノのメダル。タネも仕掛けもございません」
懐から取り出したメダルを親指ってピンと跳ね上げてキャッチする。
「ちょいとばかりマッハ以上の速度で飛んでいくけどね――!」
するとみるみるうちに那岐の右手のメダルに向かって放電が集中し、眩い光が放たれる。
「――名づけて 超電磁砲《レールガン》 なんてね」
一瞬のうちに音速の数倍に加速されたメダルが敵の大群に吸い込まれる。
そして衝撃と共に吹き飛ばされるアンドロイドの残骸。
そして衝撃と共に吹き飛ばされるアンドロイドの残骸。
「すっ……すごい、那岐君……」
「まだまだ行くよ!」
「まだまだ行くよ!」
さらにメダルを連続して射出する那岐。
そして柚明から放たれる無数の剣戟。
爆発と衝撃が洞窟を揺らす。
二人から放たれる弾幕は見る見るうちに敵の数を減らしてゆく。
時折、弾幕を掻い潜った敵もいたがことごとく桂によって迎撃された。
そして柚明から放たれる無数の剣戟。
爆発と衝撃が洞窟を揺らす。
二人から放たれる弾幕は見る見るうちに敵の数を減らしてゆく。
時折、弾幕を掻い潜った敵もいたがことごとく桂によって迎撃された。
そして敵の残りもわずかとなった時、
剣を射出する柚明の背後に忍び寄る影がいた。
剣を射出する柚明の背後に忍び寄る影がいた。
「危ない柚明お姉ちゃん!」
桂は一気に距離を詰め、襲撃者に向けて袈裟懸けに刀を振り下ろした。
少し、変な感触だとその時は思った。
オーファンとも、アンドロイドとも違う感触が手に伝う。
少し、変な感触だとその時は思った。
オーファンとも、アンドロイドとも違う感触が手に伝う。
「え……?」
ずるりと、袈裟懸けに斬られたそれの上半分が地面にどさりと崩れ落ちる。
斬った瞬間、生温かい液体が顔にかかっていた。
鉄の臭いと海の潮の香りを混ぜたような嫌な臭い。
この島で何度も嗅いだことのある嫌な臭い。
斬った瞬間、生温かい液体が顔にかかっていた。
鉄の臭いと海の潮の香りを混ぜたような嫌な臭い。
この島で何度も嗅いだことのある嫌な臭い。
崩れ落ちた上半分と下半分から流れ出す液体は地面に大きな染みを作っている。
赤い、赤い、水溜り。
刃こぼれ一つしていない刀にねっとりと付着するモノ。
赤い、赤い、水溜り。
刃こぼれ一つしていない刀にねっとりと付着するモノ。
血。
血。
血。
血。
血。
人間の血――
わたしが斬ったのはオーファンでもアンドロイドなく――
わたしが斬ったのはオーファンでもアンドロイドなく――
生きた人――間――
「あっ……ああああ……わたし……わたし……ひ、人を……!」
カランと桂の手から刀が滑り落ちる。
膝がガクガクと振るえまともに立つのも苦しくなってくる。
膝がガクガクと振るえまともに立つのも苦しくなってくる。
「桂ちゃんしっかりして! ……!! オーファンが消えて……どうして!?」
オーファンだけではない、アンドロイド達も祭壇の奥の通路へ退いてゆく。
代わりに現れたのは一番地の戦闘員達。
だが戦闘員達は銃やナイフを構えているだけでこちらを攻撃をしようとはしない。
代わりに現れたのは一番地の戦闘員達。
だが戦闘員達は銃やナイフを構えているだけでこちらを攻撃をしようとはしない。
「チッ……そういうことか……神崎君も鬼畜な手を使うねえ……反吐が出る」
舌打ちし苛立つ那岐。
いつになくその嫌悪感を露にした表情を柚明は心配そうに覗き込む。
いつになくその嫌悪感を露にした表情を柚明は心配そうに覗き込む。
「どういう……ことなの……?」
「おそらく神崎君は祭壇を放棄した。残存するアンドロイドを撤退させたのが証拠さ」
「じゃあこの戦闘員達は……」
「皆と合流したければこの戦闘員を倒して行けってことさ、自分からは攻撃しない近づいた者だけ反撃せよという言霊付きでね」
「そ、そんな……! 言霊を解除する方法は……」
「残念だけど、無い。気絶させてやり過ごす方法も無理だね。痛覚が麻痺させられている。腕が折れようと足が砕けようとも向かってくる」
「おそらく神崎君は祭壇を放棄した。残存するアンドロイドを撤退させたのが証拠さ」
「じゃあこの戦闘員達は……」
「皆と合流したければこの戦闘員を倒して行けってことさ、自分からは攻撃しない近づいた者だけ反撃せよという言霊付きでね」
「そ、そんな……! 言霊を解除する方法は……」
「残念だけど、無い。気絶させてやり過ごす方法も無理だね。痛覚が麻痺させられている。腕が折れようと足が砕けようとも向かってくる」
柚明はぎりっと拳を握りしめる。
ここにいる人間は哀れにも言霊によって操られた被害者。
組織に忠誠を誓う者ならある種の割り切りを持って対峙できるのだが
自らの意に反して戦わさせられる者達をを殺すことは――
ここにいる人間は哀れにも言霊によって操られた被害者。
組織に忠誠を誓う者ならある種の割り切りを持って対峙できるのだが
自らの意に反して戦わさせられる者達をを殺すことは――
「明らか桂ちゃんを狙った揺さぶりだね。僕や柚明ちゃんだって殺すことに躊躇いがあるんだ。ましてや桂ちゃんは……」
桂を一瞥する那岐。
桂は突き立った刀を杖代わりにして項垂れている。
初めて人を殺したショックは計り知れないだろう。
桂は突き立った刀を杖代わりにして項垂れている。
初めて人を殺したショックは計り知れないだろう。
「桂ちゃん……後は僕達が……」
「大……丈夫だよ、那岐君」
「大……丈夫だよ、那岐君」
刀を抜いてゆらりと前方を見やる。
すっかり憔悴しきった表情だった。
すっかり憔悴しきった表情だった。
そして――
桂は刀を構えその身を翻すと、戦闘員に向かって一気に跳躍した。
桂は刀を構えその身を翻すと、戦闘員に向かって一気に跳躍した。
「桂ちゃん!?」
桂の行動に驚愕する柚明と那岐。
戦闘員は銃で反撃を試みようとするも圧倒的に桂のほうが速い。
戦闘員は銃で反撃を試みようとするも圧倒的に桂のほうが速い。
「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ……うっ……うああああああああああああああああああ!!」
いつかの玲二とファルの言葉がフラッシュバックする。
彼らの言葉を否定したくて、でもそんなものは生半可な覚悟で出来ることじゃないくせに、桂の絶叫と共に刀が横薙ぎに振るわれる。
白い閃光が戦闘員の身体を通り過ぎた瞬間、戦闘員の首が胴体から落ちた。
吹き上がる鮮血、その飛沫を受けながらも桂は次の目標へ。
彼らの言葉を否定したくて、でもそんなものは生半可な覚悟で出来ることじゃないくせに、桂の絶叫と共に刀が横薙ぎに振るわれる。
白い閃光が戦闘員の身体を通り過ぎた瞬間、戦闘員の首が胴体から落ちた。
吹き上がる鮮血、その飛沫を受けながらも桂は次の目標へ。
縦に一閃、唐竹割りに左右に分割される身体。
横に一閃、吹き飛ぶ手足。
それでも戦闘員達は恐怖に慄くことも恐慌状態で逃げ出すこともなく無表情のまま反撃をしようとする。
しかしそれも暴風と化した桂の前では無意味な行為だった。
横に一閃、吹き飛ぶ手足。
それでも戦闘員達は恐怖に慄くことも恐慌状態で逃げ出すこともなく無表情のまま反撃をしようとする。
しかしそれも暴風と化した桂の前では無意味な行為だった。
「なんで……どうして逃げないのっ!?
逃げないと死ぬんだよっ! わたしに殺されちゃうんだよ……! だから……早く逃げてよぉぉぉぉ!!」
逃げないと死ぬんだよっ! わたしに殺されちゃうんだよ……! だから……早く逃げてよぉぉぉぉ!!」
残酷な死が目の前で幾度と繰り返されても逃げ出そうとしない戦闘員。
それを次々と斬り捨てていく桂の刃。
それを次々と斬り捨てていく桂の刃。
「わたしから逃げないと死んじゃうんだよ……! お願いだから逃げて……逃げてよぉ……」
ただただ一方的な虐殺が繰り広げられている。
桂の絶叫が洞窟に延々と響き渡ったまま。
その光景をどうすることもできず見守る柚明と那岐だった。
桂の絶叫が洞窟に延々と響き渡ったまま。
その光景をどうすることもできず見守る柚明と那岐だった。
「やめて……もうやめてよ……もうこれ以上わたしに人を殺させないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
・◆・◆・◆・
立ち込める死の香り。むせ返るような血の臭い。
三十人近くいた戦闘員達はすべてもの言わぬ肉の塊と化している。
桂は祭壇の上で嗚咽を漏らしていた。
三十人近くいた戦闘員達はすべてもの言わぬ肉の塊と化している。
桂は祭壇の上で嗚咽を漏らしていた。
誰も悪くないのに、彼らは言霊で操られていただけなのに無残にも殺された。
その全てが桂によって殺されてしまった。
その全てが桂によって殺されてしまった。
祭壇の上にいた陰陽師達はすでに全員が死んでいた。
アンドロイド達が撤退した時に自決を図ったのだろう。
もちろん自らの意志ではなく言霊によって――
アンドロイド達が撤退した時に自決を図ったのだろう。
もちろん自らの意志ではなく言霊によって――
「バカだよね……勝手に飛び出して……結局みんなわたしが殺した。わたしが……!」
傍らに立つ柚明と那岐は桂にかける言葉が見つからない。
ただ自嘲めいた声で呟く桂の声を聞いてるだけだった。
ただ自嘲めいた声で呟く桂の声を聞いてるだけだった。
「五人目ぐらいからね……まるでゲームみたいに感じてくるの。そんなこと……そんなこと感じたら駄目なのに……!
怖さも哀しさも麻痺してきてただ目の前のモノを斬ってるだけに感じてきて……それがすごく怖かった。
一人斬るごとに自分の心が死んでいくみたいだった。だから必死に来ないで逃げてと叫んで。
あはは……ならわたしが逃げればいいのに、戦わなければいいのに、殺さなければいいのに……っ……しなかった」
怖さも哀しさも麻痺してきてただ目の前のモノを斬ってるだけに感じてきて……それがすごく怖かった。
一人斬るごとに自分の心が死んでいくみたいだった。だから必死に来ないで逃げてと叫んで。
あはは……ならわたしが逃げればいいのに、戦わなければいいのに、殺さなければいいのに……っ……しなかった」
たった一振りで死んでいく人間を見て、桂はサクヤから受け継いだ力を思い知らされる。
そして何よりも自らを嫌悪しているのは、圧倒的な力をもって弱者を嬲ることに快感を感じていたこと。それを否定できないこと。
本当に嫌なら戦いをやめることが出来たはずなのに、出来なかった。
そして何よりも自らを嫌悪しているのは、圧倒的な力をもって弱者を嬲ることに快感を感じていたこと。それを否定できないこと。
本当に嫌なら戦いをやめることが出来たはずなのに、出来なかった。
――わたしは、誰も殺したく無い…
殺しあうのが、法律なら、そんなもの壊してしまえばいい。
人を殺すよりも、ほかほかのご飯を食べることの方が嬉しいもん。
殺しあうのが、法律なら、そんなもの壊してしまえばいい。
人を殺すよりも、ほかほかのご飯を食べることの方が嬉しいもん。
以前、玲二に向けて言った言葉が脳裏に浮かぶ。
今となってはひどく滑稽な言葉だった。
平和な所からしか物事を見てなくて、自分が他者を殺すことなんて考えもしていなかった。
アルは言った。桂はもはやこちら側の人間である。此岸から彼岸へ身を投じてしまった。
そこに此岸の倫理は通用しなかった。生きるために他者を傷つけ、殺さなければならない。それを身をもって思い知らされた。
今となってはひどく滑稽な言葉だった。
平和な所からしか物事を見てなくて、自分が他者を殺すことなんて考えもしていなかった。
アルは言った。桂はもはやこちら側の人間である。此岸から彼岸へ身を投じてしまった。
そこに此岸の倫理は通用しなかった。生きるために他者を傷つけ、殺さなければならない。それを身をもって思い知らされた。
玲二のように完全に割り切れたらどんなに楽であろうか。
ただ敵を殺すだけの戦闘機械と成り果てたらこんなに苦しい思いをしなくて済むのに。だがそうなるためにはあまりにも桂は心優しすぎた。
此岸と彼岸の境界を身を置いて、生きるために他者の命を奪うたびに心が傷ついてゆくのが桂に課せられた試練だった。
ただ敵を殺すだけの戦闘機械と成り果てたらこんなに苦しい思いをしなくて済むのに。だがそうなるためにはあまりにも桂は心優しすぎた。
此岸と彼岸の境界を身を置いて、生きるために他者の命を奪うたびに心が傷ついてゆくのが桂に課せられた試練だった。
「わかってたの……いつかこうしなきゃいけないことが来る。
これがわたしの得た力の『代償』なんだって、ずっとそれと向き合うことから逃げてきたんだもん……」
「桂ちゃん……」
これがわたしの得た力の『代償』なんだって、ずっとそれと向き合うことから逃げてきたんだもん……」
「桂ちゃん……」
柚明は一言だけ桂の名を呼んで彼女を優しく抱きとめた。
傷ついた彼女の心。しかしそうなることを選んだのは彼女自身の選択だった。
戦うことから逃げなかった彼女の意志を尊重したい。自分は傷ついた彼女が翼を休める場所でいい、静かに見守ることでいい。
傷ついた彼女の心。しかしそうなることを選んだのは彼女自身の選択だった。
戦うことから逃げなかった彼女の意志を尊重したい。自分は傷ついた彼女が翼を休める場所でいい、静かに見守ることでいい。
「柚明お姉ちゃん……うぐっ……ううっうぁぁぁぁぁぁあああああああ……」
柚明の胸の中で桂は泣いた。
溜まった物を洗い流すように赤子のように泣き続けた。
溜まった物を洗い流すように赤子のように泣き続けた。
・◆・◆・◆・
「ありがとう……柚明お姉ちゃん」
「桂ちゃん……もういいの?」
「うん、泣いてちょっとすっきりしたよ」
「桂ちゃん……もういいの?」
「うん、泣いてちょっとすっきりしたよ」
さんざん泣きつくしたため、桂の目は赤く腫れている。
「桂ちゃん……本当はね、僕は君に人を殺す覚悟なんてしてほしくなかった。後悔はしてない?」
「正直に言うと……殺したくない。戦わなくて済むならそのほうがいい」
「そりゃそうだ。僕だって好き好んで人を殺したくないんだからさ」
「正直に言うと……殺したくない。戦わなくて済むならそのほうがいい」
「そりゃそうだ。僕だって好き好んで人を殺したくないんだからさ」
那岐は肩をすくめて笑う。
「(なるほど……そりゃアルちゃんが入れ込む理由もわかるよ)」
彼女は大丈夫だ。手に入れた力に溺れるようなことはないだろう。
さすがアルのお墨付きを与えられた娘だった。
桂の優しさ、桂の強さは長い時を生きてきた那岐にとってとても魅力的なものだった。
さすがアルのお墨付きを与えられた娘だった。
桂の優しさ、桂の強さは長い時を生きてきた那岐にとってとても魅力的なものだった。
「わたしは……わたしはもう逃げない。
何のためにここにいるのか……その答えを自分で見つけるために……! そして大切な仲間達を守るために……!」
何のためにここにいるのか……その答えを自分で見つけるために……! そして大切な仲間達を守るために……!」
桂の金色の眼差しは曇り一つなく前を向いていた。
柚明は安心とほんの少しの寂しさを感じて桂を見る。
もう桂は守られる存在じゃないなんてとっくにわかっているけれど――。
柚明は安心とほんの少しの寂しさを感じて桂を見る。
もう桂は守られる存在じゃないなんてとっくにわかっているけれど――。
「さてと、僕はここで少しやることがあるから二人は先に行ってくれないかな?」
そう言って那岐は祭壇の中心に立つ。
祭壇の床には円形の魔法陣が描かれている。
ルーン文字や漢字が書き綴られた複雑な魔法陣だった。
祭壇の床には円形の魔法陣が描かれている。
ルーン文字や漢字が書き綴られた複雑な魔法陣だった。
「これからこの島に張り巡らされた地脈を乗っ取る。うまく行けばオーファンをこちらの制御下に置けるからね」
「一人で大丈夫なの? わたし達も残って――」
「いや、ちょっと時間掛かりそうだからね。君達は先に行ってみんなと合流するんだ」
「一人で大丈夫なの? わたし達も残って――」
「いや、ちょっと時間掛かりそうだからね。君達は先に行ってみんなと合流するんだ」
那岐の言葉に桂はこくんと頷く。
桂と柚明は仲間との合流を。
那岐は地脈の制御を。
言葉はいらない、今は課せられた役目を各々が果たす時。
だから――
桂と柚明は仲間との合流を。
那岐は地脈の制御を。
言葉はいらない、今は課せられた役目を各々が果たす時。
だから――
「行こう! 柚明お姉ちゃん!」
「ええ!」
「ええ!」
頷きあう桂と柚明。
「那岐君……必ず生きて帰ろうね! 絶対……絶対だよ!」
「ほんっと桂ちゃんは優しい子だなぁ~。ほんと……好意に値するよ」
「コウイ?」
「好きってことさ」
「えっ……えーーーーーーっっ!!??」
「ほんっと桂ちゃんは優しい子だなぁ~。ほんと……好意に値するよ」
「コウイ?」
「好きってことさ」
「えっ……えーーーーーーっっ!!??」
面と向かって異性に「好き」などと言われてぽっとゆでダコのように染まる桂の顔。
それを見て那岐はくすくすと笑みを漏らす。
それを見て那岐はくすくすと笑みを漏らす。
「あははっ冗談だよ冗談。でも桂ちゃんは僕の大切な『仲間』だよ。それに……いつか桂ちゃんにもお似合いの異性が現れるかもねっ」
「う、うん……」
「あー、でも最近は異性でなくてもいいのかな~? 弥生時代生まれの僕には21世紀の恋愛事情には疎くてねー……うふっ」
「???」
「う、うん……」
「あー、でも最近は異性でなくてもいいのかな~? 弥生時代生まれの僕には21世紀の恋愛事情には疎くてねー……うふっ」
「???」
何やら思わせぶりなセリフだが桂の頭の上にはクエスチョンマークが浮かぶだけ。
どうやら本当に自覚はないのだろうか……?
どうやら本当に自覚はないのだろうか……?
「(うへぇ……あれを全部天然でやってるならとんでもない大物だよ……)」
少し柚明が不憫に感じる那岐だった。
「それじゃあ……わたし達行くよ。またね那岐君」
「またね、桂ちゃん」
「またね、桂ちゃん」
再会を誓いあう三人。
桂と柚明は祭壇奥の通路に向かって走り出して行った。
桂と柚明は祭壇奥の通路に向かって走り出して行った。
・◆・◆・◆・
ひゅんと音を立てて一条の線が空を疾走してゆく。
まるで、視界のその上に直接線を引いてゆくように、そして自身の上に線を引かれた者はことごとく血を吹いてその場に崩れ落ちた。
まるで、視界のその上に直接線を引いてゆくように、そして自身の上に線を引かれた者はことごとく血を吹いてその場に崩れ落ちた。
「はっ!」
掛け声ひとつでトーニャは跳躍。浴びせかけられる銃弾を回避すると、吹き抜けからそのまま上階へと飛び移った。
着地すると同時にアンドロイドが彼女めがけて狭い通路を突進してくる。
片手には分厚いブレード。人外の力で振るわれるあれを受け止める術はトーニャの中にはない。なので発砲した。
武器は多いにこしたことはないと、サブウェポンとして携帯してきた拳銃である。
しかしながら、ファントムでもないトーニャの放った弾丸は何もない場所を通り抜け命中しない。
アンドロイドは先のトーニャの様にそれを跳躍して回避し、勢いを殺すことなく空中を彼女へと向け突進してくる。
着地すると同時にアンドロイドが彼女めがけて狭い通路を突進してくる。
片手には分厚いブレード。人外の力で振るわれるあれを受け止める術はトーニャの中にはない。なので発砲した。
武器は多いにこしたことはないと、サブウェポンとして携帯してきた拳銃である。
しかしながら、ファントムでもないトーニャの放った弾丸は何もない場所を通り抜け命中しない。
アンドロイドは先のトーニャの様にそれを跳躍して回避し、勢いを殺すことなく空中を彼女へと向け突進してくる。
「パターン読め読めですよ!」
それを、一条の線――キキーモラが捕らえた。先の兵士達と同じく、線を引かれたアンドロイドは空中で無残を曝す。
無表情のバラバラ死体が、吹き抜けから下にばら撒かれ、床の上で派手な音を立てた。
無表情のバラバラ死体が、吹き抜けから下にばら撒かれ、床の上で派手な音を立てた。
結局の所。あの落とし穴による分断より2時間ほど経ったわけだが、未だにトーニャは誰とも合流できないでいた。
一度見失ったやよいはもうレーダーの中に入ってくることはなく、美希やファルも先ほど姿を消してそのままだ。
その他に関して言えば影も形も、である。彼女の持つレーダーはただ沈黙していた。故障や電池切れという訳でもない。
一度見失ったやよいはもうレーダーの中に入ってくることはなく、美希やファルも先ほど姿を消してそのままだ。
その他に関して言えば影も形も、である。彼女の持つレーダーはただ沈黙していた。故障や電池切れという訳でもない。
「さて、どうしたものか……」
彼女の立っている位置は突入地点である学園地下より、1kmと半分。一番地本拠地ももう目前というところである。
まばらだった襲撃も断続的に続くようになり、そろそろレーダーを確認している余裕もなくなってきたというところだ。
先に進めば、神崎が座する部屋まではそうもない。攻撃は牽制のそれから排除のものと変じ、僅かな余裕も失われるだろう。
まばらだった襲撃も断続的に続くようになり、そろそろレーダーを確認している余裕もなくなってきたというところだ。
先に進めば、神崎が座する部屋まではそうもない。攻撃は牽制のそれから排除のものと変じ、僅かな余裕も失われるだろう。
「進むか、戻るか、はたまた待つか?」
それが悩ましい。果たして仲間達は皆どこにいるのか?
先へともう進んでいるのか。それとも、後に置き去りになっているのか、それとも今こちらへと向かっているのか。
わからなければ、進むことも戻ることも待つこともできない。そして指標であるはずのレーダーが今は役に立っていない。
先へともう進んでいるのか。それとも、後に置き去りになっているのか、それとも今こちらへと向かっているのか。
わからなければ、進むことも戻ることも待つこともできない。そして指標であるはずのレーダーが今は役に立っていない。
「……いっそ、特攻覚悟で進みますか? いえ、短慮はいけません。時間をかけずに、けどよく考えませんと――と?」
役立たずだと断じ、もう鞄に仕舞ってしまおうかとそう思った時、レーダーが久しぶりに音を鳴らした。
映ったのは誰なのか? トーニャはすぐにそれを確認する。
映ったのは誰なのか? トーニャはすぐにそれを確認する。
「桂に、柚明……この位置は……?」
探知圏内の端っこを一瞬何者かが通り抜けた。見間違えでなければ桂と柚明。あの仲のいい2人である。
位置はトーニャがいる基地内の通路よりかはかなり遠い。また向かった方角もかなりずれていた。
位置はトーニャがいる基地内の通路よりかはかなり遠い。また向かった方角もかなりずれていた。
「なるほど、川に落ちて……回り込んで、……ふむふむ」
再びトーニャは通路を駆け出した。向かう先は勿論、主催の中枢、番地本拠地である。
何も深く考える必要はなかったのだ。
最初のやよいだってそうだったし、美希もファルもそうで、桂や柚明も変わらない。皆、先へと進んでいる。
引き返そうなんて者は仲間のうちにひとりもいない。それが信じられるのなら、最初から考える必要はどこにも存在しなかった。
何も深く考える必要はなかったのだ。
最初のやよいだってそうだったし、美希もファルもそうで、桂や柚明も変わらない。皆、先へと進んでいる。
引き返そうなんて者は仲間のうちにひとりもいない。それが信じられるのなら、最初から考える必要はどこにも存在しなかった。
「ふふ。一番乗りはこのアントニーナ・アントーノヴナ・二キーチナがいただいちゃいます。同士諸君。あしからず」
駆けて、駆けて、そして銀狐は門を潜り抜け、18の仲間。その中で一番乗りを果たした。
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