ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

I am bone of my sword

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I am bone of my sword ◆WAWBD2hzCI



I am bone of my sword.(体は剣で出来ている)

Steelis my body, and fireis my blood(血潮は鉄で、心は硝子)

I have created over athousand blades. (幾たびの戦場を越えて不敗)

Unaware of loss. (ただ一度の敗走もなく)

Nor aware of gain. (ただ一度の勝利もなし)

Withstood pain to create weaponswaiting for one's arrival. (担い手はここに独り剣の丘で鉄を鍛つ)

I have no regrets.This is the only path. (ならば、我が生涯に意味は要ず)


My whole life was, unlimited blade works. (その体は、きっと剣で出来ていた)


「ふう……」

少年は呟いた。
頭から生み出される言霊、かつての自分を形作る呪文を。
もはや何の意味もない文字の羅列。
本当に何の意味も持たないかつての自分の在り方を綴った英文を、少年は何の意味もなく紡いだ。

少年はゆっくりと歩き出す。
深い森の中、赤毛の髪よりもずっと真紅の布を左腕に巻いたまま。
約束を果たすために足を前に進め続けた。

「………………」

漆黒の闇を助長させる鬱蒼とした森林。
その隙間から見える月は、決して彼を祝福しているようには見えなかった。
それでもいい、と少年は受け入れる。ただ一振りの誓いと強い意志を放つ瞳を前へ。ただ前へと進ませていく。


――――――この身は一太刀の剣として、大切な人との誓いを果たすために。



     ◇     ◇     ◇     ◇


「…………」

歳の程、十五ほどの少女がいた。
彼女の名はリセルシア・チェザリーニ。ピオーヴァ学園のフォルテール科に通う女学生だ。
少女は月を眺めていた。
いつもは綺麗なはずの月が、何だか自分のことを嘲笑っているかのようで恐ろしかった。

「……どうして」

どうして、こんなことに巻き込まれたのだろう。
あの会場での惨劇を思い出す。頭を吹っ飛ばされた死体、彼らを殺した凶器が自分の首にも仕込まれていると思うと震えが止まらない。
真っ赤な血とぶちまけられた脳髄は堪らなく、気持ち悪い。
あんな姿に自分もされるんじゃないか、と思うと気が狂いそうだった。だから、まずは落ち着こうと月を見上げることにしたのだ。

「…………クリス先輩」

名簿は既に確認した。付き合いの深い、浅いはともかくとして知人は三人。
考えるのは学園の先輩であるクリス・ヴェルティンのことか。
何をしているだろう、と思う。危ない目に合わなければいいのだが。
同じ孤児院出身でそれなりに仲良くしてくれてる、ファルシータたち学友の知り合いのことも心配だった。

「……よし」

生い茂る木々の合間から月光を浴び、やがて現実へと帰還する。
現実逃避の時間は終わりだ、現状を把握しよう。
心配ばかりしている場合じゃない。何しろ、リセ自身は非力な一人の女に過ぎないし、彼女自身もそれを理解している。

「まずは……ランタン。と……わわ、これは……」

真っ暗な道を歩くのに必要不可欠なランタンをデイパックより取り出す。
そうこうしている内に、見つけた。
デイパックの中、質量を無視して入れられているのは……刀。それも模造品ではなく、本格的な名刀とも呼べるもの。
説明書が出てくる。銘は『維斗』というらしい。

試しに持ってみると、ずっしりと重い。小柄な彼女には振り回せそうになかった。
というか、デイパックに入れたら軽くなるのに取り出した途端に重くなるとは、質量法則の無視も甚だしい。

「どうしよう……」

おろおろ、としてしまう。
だが、実感は少し沸いた。これは本物の殺し合い。人を殺せる武器を平気で手にしている。
この事態という異常をゆっくりと噛み締めていく。
さあ、足を踏み出そう。この地獄を生き抜くために。まずは信頼できる先輩を捜すことから――――と。


「ねえ、そこの。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「ひゃ……!?」


思考を纏め、落ち着こうとしたリセの心臓が飛び上がることとなった。


     ◇     ◇     ◇     ◇


「……す、すいません……その、私……」
椰子なごみ。ちょっと聞きたいことがあって、声をかけたんだけど……ああ、これは気にしないでほしい。自衛のつもりだから」

椰子なごみ、と名乗った少し背の高い少女は、黒い凶器を片手で弄びながらリセと対面した。
クールな人、というのがリセの第一印象だ。眼鏡をかけたその姿は、冷淡なイメージも多少なりとも醸し出している。
リセは目の前の少女を警戒する。なごみという少女も自分を警戒しているのが分かる。
彼女が持っているのは、モデルガンでなければ……間違いなく、銃。人を引き金を引くだけで撃ち殺す最悪の凶器だ。

(落ち着かないと……とにかく、落ち着かないと)

深呼吸をひとつ。
大丈夫、彼女は警戒しているだけ。自衛……つまり、人を殺そうなんて考えていないはず。

「わ、私は……リセルシア・チェザリーニです。同じく……人を捜してます」
「そう……貴女が支給されたのは、それ?」
「は、はい……『維斗』という名前の刀だそうです」

会話は通じる。お互いに冷静さを取り戻し始めていることを、リセは感じ取った。
彼女も……椰子なごみも同じなはずだ。突然殺し合いに巻き込まれて、分不相応な人殺しの道具を握らされたに過ぎないのだ。
だからリセは尋ねた。捜したい人がいる、もしかしたら彼女はこうして色々な人に声をかけてきたのではないか、と希望を持ちながら。

「あのっ、クリス先輩……クリス・ヴェルティンって人のこと、知りませんか?」
「……悪いけど、私が初めて出逢ったのが貴女ですから。だから知らないですね」

突然、素っ気無い敬語口調になった。彼女の本来の口調だろうか。
それが警戒が解けた合図だと判断して、リセは心の中で安堵のため息をつく。……と、ここでなごみが逆に問い返した。

「すいませんけど、そっちもあたしが初めてですか? 私もセンパイ……対馬レオって男の人を捜しているんですけど」
「ご、ごめんなさい……私も、椰子さんが、初めてです」

ですか、となごみが溜息をつく。
どうやら同じ『先輩』を捜す同志らしい。これなら、もしかしたら一緒に行動できるのではないだろうか。

思えばいつも孤独だった。
授業中も誰も組んでくれないし、食事も一人でしか取れなかった。
音楽室に入ったら、毛嫌いするように皆が出て行ったこともある。知らない人に叩かれることすらあった。
だけど勇気を振り絞れ、と自分を鼓舞する。
大丈夫。この異常事態だから、好悪の反応はどうあれ、彼女だって同行する人を捜しているかも知れない……なら、一緒に行こう、と言おう。

(……ぐっ)

心の中で気合を入れた。
怖いけど、勇気を振り絞らないと。自分ひとりは、こんな状況の中で孤独は怖いから。
リセは寡黙な自分を奮い立たせるようにして、なごみに声をかけた。


「あのっ……よろしければ……!」
「なら、もう用はない。さよなら」


疑問。
混乱。
焦燥。
銃声。
悲鳴。
絶望。

リセにとって不幸だったのは、彼女の警戒を自衛のためだと信じてしまったこと。
リセにとって幸運だったのは、火事場の莫迦力なのか咄嗟に体を右にずらせたことと、なごみ自身が銃の反動で軌道をそらしたこと。

「ちっ……惜しい」

椰子なごみは……リセにとって、この殺し合いを肯定した死神は苛立たしげに舌打ちした。

「どう……して……?」
「……うん?」
「どうして、こんなこと、するんですか……生きたいから、死にたくないから……です、か……?」

ガチガチ、と震える歯を必死に噛み合わせた。
銃弾を避けた代償に地面に転がり込んで服が汚れてしまったが、気にならない。
ただ、漠然とこのまま殺されるのだろう、ということを理解した。理解したら、次にはどうして殺されなければならないのかを聞きたくなった。
そんなリセをなごみは嘲笑った。そんなつまらない理由じゃない、と誇らしげに語って見せた。

「センパイを、助けるため」
「え……?」
「聞こえないんですか? センパイのためにあたしはアンタを殺すって言ってるんですよ」

その言葉の意味が最初は分からなかった。
だけどゆっくりと言葉を咀嚼していく。このイカれたゲームのルール、そして……そう、会場で殺された女性を思い出した。

―――生きて帰れるのは最後の一人。

そして自分の命を捨ててまで、一人の少女を救ったあの女の人。
自分の命を捧げてまで女の子を護ったあの人。あんな風にはなれない、と漠然と思っていたリセは目の前の女の目的を理解する。
それらがイコールとなりえるとき、リセには信じられないような願いが答えとして提示された。

「あ、貴女は……ただ一人のために、皆を、殺すんですか……?」

静かに首を振って肯定。

「や、椰子さんは……自分の命を捨ててまで、その……『センパイ』を助けるって、言うんですか……?」

再度、首を縦に振っての肯定。
ついで、なごみの持つ銃……S&W M37 エアーウェイトがゆっくりとリセに照準を合わせられる。
リセは震える両手で名刀、維斗を握って相対する。……が、もとより彼我戦力差は歴然だった。
どちらも武器の素人とはいえ、ろくに持ち上げられない刀と引き金を引くだけで勝負を決することのできる銃。結果は明白だった。

「そう。あたしはセンパイのために戦う。センパイはあたしの全てだから。あたしの居場所だから、誰にも奪わせない」

先ほどは撃ち慣れていない、ということで外した。
だが、今度は外さない。狙いを定め、弾かれないように両手で銃を握る。

「センパイを守るためなら、あたしはこの殺し合いにも乗る。センパイを優勝させてみせる」
「そんな……」

その在り方を、リセは悲しいと思った。
自分の命よりも大切な人がいることを羨ましいと思う反面で、その想いを間違った方向に向けなければならないのだ。
そこまで思いつめて、必死に思いつめて。
その末に目の前の女性、椰子なごみは決めてしまったのだ。自分の命を捨てて、道徳も理論もかなぐり捨ててまで、大切な人を護ることを。

(どうして……)

私にはできない、とリセは思う。
誰だって自分の命が可愛いものだし、死ぬ覚悟なんて易々と決められるはずがない。
だから素直にリセはその生き方が悲しくて、そしてそれ以上に理不尽だと思った。

「そ、そんなの、おかしいです・・・」

そうだ、おかしい。変だ、絶対に間違っている。
何で殺し合わなきゃいけないのだろう。自分たちが何をしたというのだろう。

「椰子さんの言う『先輩』がどんな人か知らないです……知らないですけど、こんなこと望んでる人じゃないと思います……!」

精一杯の言葉を包む。
だって酷すぎる。なごみは自分の命よりも大事って思えるような人がいるのに。
なごみのことも『先輩』のこともリセは何も知らない。
だけど、これだけは分かるつもりだった。それほど想われてる人が望むはずなんてない。だから、やめてほしかった。

例えば……本当に例えばだが、クリスが自分のために殺し合いに乗ると考える。
嬉しいはずがない。自分のために手を汚させてしまったことを後悔する。
だから、そんな選択はしてはだめなのだ。それを自分も相手も傷つける最悪の方法。絶対に……誰もが後悔するのだから。

「っ……うるさい」
「椰子さんの……『先輩』は……椰子さんに人を殺させることを望むような……そんなつまらない人なんですか……!?」

寡黙な彼女に似合わない怒声。
死を前にして、肝が据わってしまったのかも知れない。怖いし、胸が張り裂けそうなほどに苦しかった。
結局のところ、リセルシア・チェザリーニは優しすぎたのだ。


「だまれっ!! あたしはセンパイのために戦うっ! あたしの居場所を何度も奪わせてなんてたまるかっ……! だから、お前はここで死ねっ!!」


それが冥土の土産と定めた言葉だろうか。
なごみの指に力がこもる。リセはギュッと重い刀を握り締めながら、それでも目は閉じない。
死神の顔を目に焼き付けたまま、一秒後に迫った死を受け入れる。
せめて、無力な兎なりに戦ってやろうではないか。
恨みがましい瞳を、目の前の死神の脳裏に一時間でも、一分でも多く刻み付けてやろうではないか、と。

「…………っ」

死ぬのが怖い。
殺されることが憎らしい。
だけど屈するものか、と歯を食いしばった。決して瞳だけはそらさなかった。

ごん、と殴打音に似た何かがリセの耳を穿ったのは直後。

「ぐあ……!?」

なごみの悲鳴が森に響いた。
リセは見ていた。目をそらさずに見ていた。だから事態が把握できた。
彼女の顔面に何処からか飛んで来たのは、石……ではなく、ボール、でもなく。

辞書。ディクショナリー。

狼狽する彼女の目の前で、なごみの眼鏡が弾けとんだ。
怯んだ様子のなごみではなく、リセは新たな参入者に視線を向け……ようとして、突然手を引かれた。

「えっ、わっ……」
「掴まってるんだっ……逃げるぞ!」

赤い短髪、歳のほどは少し上の男……とまでしか判断できない。今は少年のことを詮索している時間がない。
腕を引かれるままに走った。名刀はデイパックの中に詰められ、彼の右手がリセの右手を乱暴に掴んだまま走り出す。

「くっ……逃がすかぁぁ!!」

深夜、森に響く轟音。
怨嗟のこもった怒声を背中に受けたまま、彼らは走る。
銃声がひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……視力の悪いなごみは、うまく狙いを定められない。しかも現場は鬱蒼と茂った森林だ。
少年は木の影に隠れるように逃走していった。やがて、空気だけが銃口より漏れる……総弾丸数は五発らしい。

逃がした。
それはもう、完膚なきまでにやられた。

「くそっ……くそくそくそっ!」

がんがんがん、と憎らしげに木を蹴り付けた。
一通り鬱憤を晴らした後、眼鏡を回収する。壊れてはいなかったので一息、そのまま耳にかける。
足元には辞書。間違っても人に投げるものではないのだが……とにかく、自分を邪魔した男が投擲したものがある。

「あいつら、殺してやるっ……殺す、殺す、殺すッ!!」

子供染みた憤怒を発散させる。なごみは怒りを直接的な衝動に身を任せていた。
投擲された辞書をそのまま回収する。
なんの役に立つかも分からないが、生憎となごみの支給品は銃一丁と予備の弾丸だけだ。持っていっても損はないだろう。
借りは必ず返す、と毒づきながら、木々の隙間に見える月を見上げた。

「……センパイ。待っててください。あたしが、必ず……」

椰子なごみは歩き出す。
生徒会メンバーであろうと、誰であろうと殺すことを誓って。
深い深い森の中、魔性なる月の光に魅入られるかのように……見上げた夜空へと堕ちていく。


【E-4 森林/1日目 深夜】

【椰子なごみ@つよきす -Mighty Heart-】
【装備:S&W M37 エアーウェイト(0/5)】
【所持品:S&W M37 エアーウェイトの予備弾40、杏の辞書@CLANNAD】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:レオを優勝させる
1:レオと合流することが最優先
2:殺せる相手は生徒会メンバーであろうと排除する
3:リセと赤毛の男(士郎)にもう一度出遭ったら、必ず殺す

※なごみルートからの参戦です。



     ◇     ◇     ◇     ◇


「ここまで来れば……大丈夫だろ」
「はあ、はあっ……はあ、あ、ありがとうござ……います……」

場所は廃屋。既に寂れて久しい古びた部屋の一室まで駆け込むことで、ようやく彼らは一息つく。
リセは荒い息を吐きながら、改めて恩人である少年の姿を見ることができた。
人の良さそうな印象だった。気になったのは左腕を肩まで巻いてしまっている赤い布のことぐらいだろうか。
埃を払ってベッドに座るリセと、壊れかけた窓から外の様子を見つつ、リセに向き直る青年。

「俺は衛宮士郎、学生だ。良かったら名前を教えてくれないかな?」
「り、リセルシア・チェザリーニ……です。リセって呼んでください。衛宮さん……で、いいですか?」
「ああ。それでいいよ」

地図を取り出し、現在位置を確認しながら情報交換を行った。
先ほどリセを襲っていた眼鏡の女……椰子なごみが対馬レオという少年のために殺し合いに乗った、とリセは伝える。
彼の支給品は殺し合いには不向きな代物……俗に言うハズレの部類だった、と士郎は語る。
先ほどなごみに向かって投げつけた辞書もそのひとつ。そのときの落胆のしようを溜息交じりに語る彼に、リセは薄い笑いで答えた。

「見てくれよ、これ。ゴルフクラブって……遊びじゃないんだから、ふざけんなって叫びたくなったぐらいだ……」
「あはは。ま、まあまあ……」

続いて人捜し。
先輩であるクリスや友人のファルやトルタの情報を期待したが、残念ながら効果はなかった。
同じく士郎が知人を尋ねるが、結果は同じ。お互いに情報は得られなかった。

「ああ、俺が捜してるのは桜って子だ。他にも一応、知り合いはいるけどな」
「……えっと、ご関係をお聞きしてもいいですか……?」
「え、えっと、一応後輩、なんだが……その、守りたい人といえば、その、だな……」

照れた士郎が微妙に微笑ましかった。
リセにとって士郎は何の意思も関係なく、リセと話してくれるのが嬉しかった。

話は自衛の件に移る。
士郎はまともなものを支給されなかったし、リセはそもそも戦えないし、刀も扱えない。
ゴルフクラブで戦う少年と振れない刀を頑張って構える少女。どう考えても配役違いです、本当にありがとうございました。

「……あ、そうだ。衛宮さん……これ、よろしければ、どうぞ」

よって、必然的に話はこうなる。
リセは持ち上げるのも一苦労、と言わんばかりにそれを差し出した。
おずおずと差し出したのは、名刀『維斗』。
リセには振るうことはおろか、持ち上げることがやっとだが……男の士郎ならば、と渡してみた。

「ん……それじゃ、ちょっと見せてもらうな」

維斗を受け取ると、士郎は目を閉じて精神を集中させる。
解析、開始。
この刀の本質を感じ取る。鬼切りの刀、かつて人であった鬼を切ってきた名刀。決して折れず、錆びずを貫く。
満足げに士郎は頷いた。素晴らしい名刀だった。士郎は剣という本質に対して深い関心も持っている。そんな自分が素晴らしいと思えた。
現存する宝具の類かも知れない。鬼切りの刀……桃太郎の宝具あたりなら、そういうものかも知れない。

試しに振るってみた。
検索、問題なし。片手で何度か刀を振るう。これも問題はない。

「本当にいいのか、リセ?」
「もちろんですよ」
「……ありがとう。それじゃ、この刀……維斗を借りることにする」
「はい、衛宮さん」

さて、そろそろ行動しよう。
廃屋に待機していた士郎に背を向け、リセは再び歩き出す。
今後の方針は知り合いの捜索。そしてこのゲームに反抗するための協力者を集めることだ。
廃屋の扉を開く。最初の目的地は地図に記された中世西洋風の街……皆に再び会うために最初の一歩を踏み出した。


ガツンッ!


そこで、リセの意識は消えてなくなった。


     ◇     ◇     ◇     ◇


「…………」

俺は倒れ伏すリセを、できるだけ冷めた目で見つめた。
右手にはゴルフクラブ。俺の支給品のひとつだ。
一番役に立つ支給品がこれで、しかもそれですら人を思いっきり殴れば折れ曲がってしまった。廃屋に投棄する。
支給されたものがこれでは『殺し合いに乗る身』としては落胆すること、この上ない。

(どうして……って、思ってるんだろうな)

後頭部を殴打されたリセの頭は割れ、鮮血が埃まみれの床に流れ落ちる。
どうやら……まだ、死んではいないらしい。きっと、彼女には疑問だけが心の中に残っているだろう。

リセを救ったのは武器を得るためだった。
もう一人の女、椰子なごみは銃を持っていた。こちらは易々と無手では倒せない――――よって退却を選択。
このまま彼女にリセを殺されれば、この名刀も椰子の手に落ちていた。そうなってはますます倒せない。
だから彼女を救い、そして信頼を得て……そして武器を奪うことにした。

「……待っていろ、桜。俺が桜を守るから」

桜のために。
俺はこうすることを選択した。
場合によっては命を捨てても――――この左腕の聖骸布を取ることすら、厭わない。

『――――だから、俺が守る。どんなことになっても、桜自身が桜を殺しそうになっても……俺が、桜を守るよ』

あの雨の中、俺の前でしか笑えなかった少女を抱きしめた。
そのときに誓ったのだ、約束したのだ。

『約束する。俺は……桜だけの正義の味方になる』

万人のための正義の味方ではない。ただ一人のためのヒーローになろう、と。
俺の知らないところで泣いていた桜が、いつかちゃんと笑えるように。
そのために俺は決めた。悩んで、悩んで、悩みぬいて……決めた。俺は、衛宮士郎を鬼にしよう、と。

「桜の味方であると、誓ったんだ」

名刀、『維斗』を握り締めて近づく。
昏倒するリセの胸を正確に狙い、そのまま大きく振り上げた。


―――――裏切るのか?


「―――ッ!?」

心臓が止まるかと思った。
それは幻に過ぎない。俺自身の、罪悪感が生み出した迷いに過ぎないはずだ。
だけど、俺の心が感じていた。背後にもう一人の衛宮士郎が幽鬼のように立っていた。
現実にはそんな存在はいなくても、確かに俺はもう一人の俺の声を聞いていた。

―――――今までの人生、信念、決意、生き様、衛宮士郎という存在を。
―――――たった一人のために。己自身も、多くの人の幸せも、全てを切り捨てるのか?

「………………」

刀を振り上げた腕が、そのまま停止している。
背後で語りかけるのは確かに俺だ。
同じ状況に立たされたとき、正義の味方として奔走することを選択したはずの衛宮士郎は語りかける。

―――――倒れているのは罪も咎もない女の子。
―――――何も知らず、普通に当たり前の人生を送ってきたはずの少女。平穏を享受し、それを理不尽に奪われた者。
―――――彼女から、他の60人を超す人間たちから―――――その命までも奪おうというのか?

「…………っ……!」

そうだ、そんなこと分かっている。
改めて言われるまでもなく、分かっているんだ。俺の行動は正義の味方のやろうとしていることじゃない。
この刀を振り下ろしたそのとき、衛宮士郎は壊れてしまう。そんなこと、忠告されるまでもなく分かっていた。

―――――かつての衛宮士郎が救いたいと願った人たちだ。
―――――今までの衛宮士郎なら迷わず助けようと足掻いたはずだ。
―――――なのに、お前は。

背後に幻視したもう一人の俺が弾劾する。
そうだ、俺は正義の味方になろうとした。親父――――切嗣の意思を受け継いで、正義の味方になるんだって。
その思いも、その意志も憶えてる。


―――――ただ一人、守りたい人のために……お前はエミヤシロウ(正義の味方)を裏切るのか?


誰かを救うことが自分の贖いだと信じてきた。
泣きながら多くの人を見捨ててきたあの火災、その償いをするのだ、と……そう信じて生きてきた。
だというのに、俺は鬼になる選択をした。
背後は振り向かなかった。ただ、俺はゆっくりと名刀を手にする腕を――――


「ああ―――――裏切るとも」


すとん、と。
リセルシア・チェザリーニの胸に目掛けて振り下ろした。


     ◇     ◇     ◇     ◇


(どうしてこんなことになったんだろう―――?)


混濁する意識の中、私は宙に浮いたままぼんやりと呟いた。
世界は真っ白で、そして意識は真っ黒。
上下左右、前後も分からないまま……身体は動かない。夢の中にいるような浮遊感と、悪夢のような恐怖。

「………………」

そうだ、こんなの夢に違いない。
私みたいな娘が殺し合いに放り込まれるなんて、そんな非常識は有り得ない。
だからこれは夢。そして……もうすぐ、夢は終わるんだ。
終わらせるために彼は近づいてくるのだから。

(目が覚めたら――――)

「…………っ……!」

横たわる私を見上げるように、青年が近づいてくる。
私を起こすために―――同学年の男の子が凶器を振りかざして近づいてくる。
そんな苦しそうな顔、しないでほしいです。
衛宮さんは、まだ起きれないだけなんですよね……?
大丈夫です。……衛宮さんも椰子さんも、こんな悪夢はいつか、終わるはずですから。


「ああ―――――裏切るとも」


(――――歌を、また歌いたいなぁ)


そう願ったのは一瞬。
衛宮さんが刀を振り下ろす光景を視界の端に捉えたとき、私はこの世界に別れを告げた。


【リセルシア・チェザリーニ@シンフォニック=レイン 死亡】



覚悟はできた。
罪のない少女の血で手を染めた。
これでもう戻れない、これでもう途中下車は許されない。
多くを取りこぼしてでも、どんなに見っとも無くとも、万人よりも抱きしめたい少女の命を選択した。

「…………」

ごめん、とは呟かない。廃屋の中で眠るように少女の遺体を寝転がせて、俺は廃屋を去る。
彼女は俺を信用してくれたはずだ。その心を裏切った代償は胸にしこりとして残っている。涙が出るほどに痛い。

だが、これでいい。
命を奪うとはそういうことだ。魔術師に……魔術を教えてもらったそのときに、命を奪う覚悟はできていた。
自分のために、自分と他人の血で身体を染めるのが魔術師なのだから。
俺は月を見上げた。憎らしいほどに輝き、祝福と怨嗟の月光を俺に浴びせる。


「桜。俺はお前の――――味方だ」


世界が彼女の存在を許さないとしても。
ただ一人、自分だけは桜の味方であり続けよう。どんな結末が、どんな惨劇が待ち受けようと。
鬼切りの刀を持った『鬼』は一振りの剣と化して、障害を潰していくことを決意する。
だから、痛いのも苦しいのも我慢できる。それも当然だ。



I am bone of my sword.――――――体は剣で出来ているのだから。


【E-6 廃屋/1日目 深夜】

【衛宮士郎@Fate/stay night[Realta Nua]】
【装備:維斗@アカイイト】
【所持品:支給品一式×2、不明支給品1(武器ではない)、リセの不明支給品(0~2)】
【状態:健康、強い決意】
【思考・行動】


基本方針:桜を優勝させる
1:桜を保護、そして安全な場所へと避難させる
2:桜以外の全員を殺害し、そして自害する
3:桜についての情報を集める


※桜ルート途中からの参戦です。
※アーチャーの腕を移植したとき~桜が影とイコールであると告げられる前。
※左腕にアーチャーの腕移植。赤い聖骸布をまとったままです。投影の類は使えません。
※ゴルフクラブ@School Days L×Hは破損し、廃屋にリセの死体と共に投棄されました。



012:真逆 投下順 014:天から舞い降りたシ者
時系列順
リセルシア・チェザリーニ
椰子なごみ 040:蒼い鳥に誘われて
衛宮士郎 035:HEART UNDER BLADE

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