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真逆

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真逆 ◆CMd1jz6iP2



直枝理樹は、森に潜んでいた。
転送された先は、不運にもMAP中央の湖の「中」。幸い浅い部分であった。
身を隠せる場所に座り込み、ずぶ濡れのまま支給品と名簿を確認。
自分以外に、仲間が五人も巻き込まれていたことにショックを受けていたのだが――

今、その彼の全身が震えている。湖に落ちて濡れたから、というわけではない。
目の前で繰り広げられる、ありえない戦いに。
戦う二人から発せられる、始めて感じた殺気に怯えているのだ。

「詰まらん、詰まらんぞ! 魔術師の類だと期待してみれば、姑息な暗殺者に過ぎんとはな!」
侍そのものという容姿の男が、投擲される何かを薙ぎ払い、避けながら相手を追い詰める。
「ギッ――」
相手は、異常な相貌をしていた。
黒いローブを纏う、骸骨のような仮面の男。

「――詰まらん。失望させてくれた報いを受けるがいい」
侍が持っているのは、刀でも剣でもない鈍器が一つ。
その頼りない武器を、繰り出される斬撃が、移動する速度が補っていた。
月明かりの下、二つの影は留まることを知らない。

速い、なんて次元ではなかった。理樹が知る限り最速の、来ヶ谷さんや鈴の速さでも及ばない。
目で追うのが精一杯……たぶん、銃を持っていても正面からでは相手にならない。
そして――異形の骸骨面の男は、それ以上に速かった。
だというのに、押しているのは侍。戦いは速さだけでは決まらず、技量、力は侍の方が上なのだろう。
骸骨面の男は、侍の攻撃をなんとか避けながら木片らしきものを投げ続ける。
それを難なく切り払われ、骸骨面の男は、湖に逃げた。

「逃がすか!」
そこに、侍は足を踏み入れ追う。

――そして、理樹は骸骨が笑ったのを確かに見た。

侍も、もちろん気づいただろう。
しかし、そこに骸骨の投擲が迫る。

その数は、四。木片とはいえ、当たり所次第では死ぬのでは、という速さのそれを無視はできない。
そして、侍の足場は、水の中であるが故に回避は不可能。
だが、侍には全てを薙ぎ払うだけの技量があり、当然のようにこなす。

それが、骸骨の狙いだった。
骸骨面は、木片を投げた瞬間には行動に出ていた。
ローブから、掲げた右腕が覗く。
腕が、馬鹿みたいに長い。僕の身長以上ありそうな腕だった。
なぜだか黒布に覆われた右腕が、解かれる。

(あ、え……えええ!?)
布の中から出てきたものは、折りたたまれた腕だった。
右腕だけが、さらに異常に長かった。左腕の倍はあろう魔腕が姿を現す。

「――――妄想心音(ザバーニーヤ)」

初めて、言葉らしい言葉を骸骨が発した。
魔腕が、侍に伸びる。
二人の距離は、約5メートル。
それでも、その異常に長い腕は確実に届く。
侍は避けることはできず、攻撃を防いだその動きは、一瞬の隙を生んだ。
絶対に回避不能。素人の理樹すらも、それを確信していた。

「なぁっ―――!?」
悲鳴に近い声は、骸骨面の男があげることになった。
伸びた腕は、戻ることは無かった。
なにせ、根元から切り落とされていたのだ。

侍――ティトゥスの隠された三本目の腕に持つ、異様な形状の刀によって。

「人体を変異させているのが、自分だけとでも思ったか?」
徒手空拳だった、通常の左腕に刀を持ち替え、骸骨面に迫る。
勝敗は決したも同然だった。

理樹は、離れるべきだと感じた。
あの骸骨面の男が殺され、次に狙われるのは自分かもしれない。
深く息を吸って、頭に血を巡らす。
そして、考えた結果。
理樹は、その相手に向かって行っていた。

侍は、顔すら向けなかった。
ほんの一瞬、視線が向いたかどうか。
「何……!?」
何が意外だったのか、侍は驚いている。

理樹の手にあるのは、支給品の一つ、バルザイの偃月刀。
このまま斬りかかる? 絶対に殺される。
だから、説明書に書いてあった通りに、振りかぶって投げた。

侍は単調すぎる軌跡をかわす。
説明書には「魔導具、バルザイの偃月刀。魔力を通せば灼熱の刃となり、展開すれば投擲武器になる。魔術使用時の効果を上げる触媒ともなる」とあった。
魔力なんてあるはずもなく、戻ってくる前に、侍に切られるのは確実。どうにもなりはしなかった。

――投げたそれを、骸骨の男が受け止め、投げ返さなければ

「シッ!」
投げた偃月刀は、僕が投げたときとは勢いからして違う。
「ぐぅッ!」
避けきれず肩を切り裂かれた衝撃で、侍の左手から得物が弾け飛ぶ。
それを、理樹が受け止めたのと同時に、体が浮かぶ感覚に襲われた。

「えっ? わ、わぁぁ!?」
理樹が骸骨面に掴まれていると気づいたときには、侍の姿が小さくしか見えない距離まで離れていた
それに、追いつこうと走る侍だったが――撤退する骸骨の速さは、理樹を抱えてなお、それ以上に速かった。


追いつけぬとわかった時点で、ティトゥスは追跡を断念した。
「逃げられたか……」
しかも、獲物まで奪われた。
バルザイの偃月刀。あれを投げてきた男を、大十字九郎――マスターオブ・ネクロノミコンと見間違えた。
一瞬、隙を生んでしまいこの様。よく見れば、似ても似つかぬ羽虫だったというのに。
傷は深くはない。血は出ていない……傷口が偃月刀の熱で焼けているために。

「とはいえ、あの程度の得物は替えが効く。このような業物でもなければな」
双身螺旋刀というらしい刀を振る。
刀というには禍々しい、四本の刀を捻じり融合した魔刃であった。
「得物など使い捨てるのが当然と思っていたが。なるほど、これほどならば頷ける」
湖に浮かぶ、切り落とした腕を拾う。

「悪神の腕といったところか。どういう技かは知らぬが、喰らえば魂を奪う外法には違いあるまい」
その腕を、何を思ったかディパックにしまうティトゥス。
「取り返しに来るなら、それも一興。とはいえ、切り札の無い骸骨如きに、その度量はないか」
今の一戦で、自身の体の変化は把握できていた。
身体能力の低下は激しく、そればかりか。
「刀を召喚できない、か」
封印されたわけではなかった。しかし、ティトゥスの魔力総量を以ってしても、呼ぶことが出来ない。

「『屍食教典儀』がなければ無理ということか。力を求めたが故に力を抑制されるとは、笑えぬ話だ」
宿敵たるウィンフィールドも、マスターオブ・ネクロノミコンとそのマスターも制限化にあることは容易に想像できた。
「覇道邸の警備をしていた雑魚程度でも、束になれば今の俺では万が一はある。
ドクター・ウェスト……それ以下の雑魚にも勝利の可能性をもたらす為のものだとすれば」
ティトゥスの顔に自然と笑みが浮かぶ。

「すなわち、制限が必要な強者が、宿敵以外にもいるということ。
支給品次第では、弱者とも死合いを望める、か。それまでに獲物を四本集めたいところだな」
あの神父と小僧の言いなりというのも気に入らないが、せっかくの戦場を無駄にはしない。
ブラックロッジが大幹部、アンチクロスのティトゥスにとって、強者と戦うことこそ喜び。
もし、最後に生きているのは自分ならば、あの二人を斬る機会もあるだろう。
地図を開き、刀剣がありうる美術館に向かうことを決めた。
そうして、ティトゥスは骸骨の男が消えた方角とは逆に歩き出す。
「だが、宿敵よ。願わくば生き残れ。この俺に、斬られるまでな」
呪いのような願いを呟いて、深い森へと進んでいった。


【D-4北部 深い森の中 深夜】
【ティトゥス@機神咆哮デモンベイン】
【装備:双身螺旋刀@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【所持品:支給品一式、不明支給品0~1(刀剣類ではない)アサシンの腕】
【状態:右肩に軽い斬り傷と火傷】
【思考・行動】
基本行動方針:死合う
1:美術館に向かう。見つけた参加者とは死合う。
2:刀剣類と『屍食教典儀』(もしくは類するもの)を探す。
3:ウィンフィールドと死合いたい。
4:骸骨の男が追ってくるならば、再び死合う。
【備考】
※参戦時期は、ウィンフィールドと二度目の戦いを終えた後です。
※身体能力の制限に気づきました。
※刀の召喚は、魔導書などによるサポートが無ければ使用不可能です。
【双身螺旋刀の説明】
鍛えられて百年以上の妖刀霊刀四本を融合させた螺旋状の刀。本来の持ち主は、名もなき妖。
その強度、切れ味は凄まじいが、その形状のためドリルのように相手を抉る方が適している。
持つところ以外、柄の部分さえも螺旋状の刃なので扱い難い危険な代物。


完全に追跡を振り切ったのか、落とすように離された。
骸骨面の男の腕は、既に血が止まっていたが、痛々しい切り口はそのままだった。
「あ、あの、大丈夫で――」
「どういうつもりだ、小僧。素人でもわかる死地に、何を考え踏み込んだ」

骸骨面が理樹を睨みつける。
震えはしなかった。慣れてしまったわけではなく、恐怖心がマヒしているだけだろう。

「まさか、私を助けようなどと」
「ごめんなさい、それはないです」
怪しい仮面の男に免疫があるとはいえ、それを助けようと思うほど理樹は聖人のような心は持っていない。

「いや、むしろ安心したが……だが、ならばなぜだ?」
「これを……取り返したかったんだ」
今、手に握られているもの。それは、野球のバットだった。
「それは、小僧の物なのか?」
「いや、友達のバットだけど。これを、どうしても取り返したかったんだ」
「その程度で命を張ってどうする」
こんな物を取り戻すために、命を危険に晒したなんて。鈴でなくとも「馬鹿だろお前」と言われて当然だ。
それでも、仲間と散り散りになった今。日常にあったモノを、手に入れたかったのだ。

「武器への愛着ならわかるが……小僧、他に短剣の類は持っていないか?」
「無いけど」
やたら残念そうな骸骨面。そんなに大事なものなのだろうか。

「だが、結果的には助けられた。礼を言わねばなるまい」
「あっ、いえ。えーと、僕、直枝理樹って言います。あな、あなたは……?」
「アサシンだ。名簿上では何故か真となっているが……まぁ、理由は薄々わかっているのだが」
アサシン。英語でAssassin。日本語で……

「アサシンさんですか。って、えっと……これ、もしかして、名前じゃなくて」
「真名は別にある。これは私のクラス…判りやすくいえば、職業だ」

暗殺者。見た目どおり、この人は本当の殺人者だった。

「小僧、聞いていなかったが……この殺し合い、お前はどう動く?」
「それは……」
自分の命は、目の前の男――アサシンに握られている。
ここは、どう答えればいいか。どうすれば、死なずに済むか。
「こんな殺し合いに乗ったりなんかしない。この首輪を外して、仲間と帰るんだ」
そんなことはわからなかったから、本心を口にした。

「人を傷つけたくはない。出来ることなら、誰とも争いたくない。でも、仲間を守るためなら僕は戦う。
鈴と、恭介と、リトルバスターズのみんなと。出来る限りの人たちと、ここから脱出するんだ」
「理想だな。お前の仲間は、あの侍のような奴と戦って生き延びられるのか?」
恭介ならば、真人たちならば、なんとかなるのではと淡い希望を持つ。
だが、鈴は。恭介にすら淡い希望しか持てないのに、鈴があんなのと出会えば結果は目に見えている。

「……僕は、ナルコレプシーっていう病気を抱えていた。それを、仲間を救うために治したんだ」
恭介……リトルバスターズの仲間が作ってくれた『世界』で理樹と鈴は強くなった。
バスが崖から転落した際、唯一無傷だった理樹と鈴を強くするために作られた世界で。

その惨劇は、防げない。それでも、まだみんなを救えると信じて病気を克服して元の世界に、

戻ることを、何かに阻まれた。
そして、気づいたらあの場所に集められていて……
人がたくさんいた。人が、死んだ。バケモノがいた。バケモノも死んだ。また人が、死んだ。
孝明と呼ばれていた人の死体にすがり泣いていた、このみと言う女性。
その人の死を、命と引き換えに救った向坂環、という人。
あの神父は言った。「二人の幼馴染を失った彼女が」と。
幼馴染が、理不尽に命を奪われ、そして命を救うために死んでいった気持ちは、どれほどのものだろう。
自分にとって、鈴を、恭介を、真人たちを失うのと変わらないのなら、それは絶望でしかない。

それでも、彼女の善意を無駄にしちゃいけない。
顔すら正確に思い出すこともままならない、彼女。

この殺し合いを仕組んだ人たちの悪意に押しつぶされそうな中、世界には善意があることを、思い出させてくれた。
恭介たちが、そうであったように。

「……僕は、今まで善意に包まれて守られてきた。その善意に報いるためにも、悪意に負けるわけにはいかない。
だから、僕は行かなきゃ。難しいからって、始めから諦めたら何も手に入らない」
足踏みしている間に、何もかも失ってしまうくらいなら、足掻いてみせる。
「ほう」

「だから、あなたの力が必要なんだ」

「む……待て、なんだそれは?」
無茶苦茶な振りだとは僕も思った。
「僕はここから脱出する。でも、僕は弱い。だから、あなたの力が必要なんだ。……意外と普通かな?」
「いいや、普通ではない。色々な工程が抜けている以前に、私を誘うのは狂気の沙汰だ」

「あの侍と戦っていたのは……殺し合いに乗ったから? それとも……」
アサシンは、一瞬返答に困ったような素振りを見せた。
「……私が戦っていたのは、発見されて逃げ切れなかったからに過ぎない」
「発見されたって……アサシンなのに?」
「それを言うな。小僧のような一般人でも勝ち目があるよう、制限がかけられているようだ。
身体能力のみだと踏んでいたのだが……気配遮断を含む技能まで、ランクが落ちていたのを見抜けなんだ、私の落ち度だ」
「せ、制限って……それであの動きなの!?」
それなら、あの侍も同じで……本調子なら残像すら見えないということだ。

「始めに殺された双子がいただろう。アレとは違うが、私も人間ではない。
本来、物理的な方法では傷一つ付かないが、今は銃やナイフでも死ぬ受肉した体だ。
小僧のような一般人も対抗できるよう、身体能力はもちろん、特殊能力にまで制限がある」
無くなった腕を、忌々しげに見つめるアサシン。

「でも、あの侍の足を止めるために水の中に誘い込んだんだよね?」
「気づいたか。だが、あの場は足止めして撤退すべきだった。急いた代償に、切り札を失ったのは大きすぎる」

「……アサシンさん。その怪我があるし、本調子でもないし……やっぱり、僕と組まない?」
ここまで相手に魅力の無い提案も珍しい。何せ弱者が強者に手を組もうと誘っているのだ。
だが。

「……いいだろう。命の恩人に恩義を返すのは、当然のことではある」
「ほ、本当に?」
ぱあっと、明るく顔を輝かせる。
「行動理念は好みではないが、ただの馬鹿でもないようだからな。
――だが、いつまで手を組むかは……小僧次第だ」
「……それ、どういうこと?」

「小僧、お前は言ったな。この殺し合いに乗らず、ここから脱出してみせると。
私の本来の主である魔術師殿は、お前とは真逆を往く者だった。別に小僧の方針を批難するわけではない。
魔術師殿は悪逆を、暗躍をし続けた。魂までもが腐りきろうと、願いのために進み続けたのだ。
――小僧、お前の志は、そのリトルバスターズの誰かを失っても……変わらぬものなのか?」

返答どころか、呼吸すら満足に出来なかった。
本当なら、僕と鈴しか残らない世界だった。それを鈴すらも失ったら。
最後まで、人の善意を信じられるのか。

「まさか、仲間だけは死なないなどと、思っているのか?」
「それはない。終わりは……別れは来る。それは、受け入れないといけない事実だ。
だけど……わかっていても、わからない。僕は一度……失う過酷さから、逃げた人間だから」
その答えに、どういう感情を持ったのか、仮面からは何も感じ取れなかった。

「……ならば、小僧の志が折れるまでは付き従ってやろう。小僧の志が折れたとき、この契約は終わりだ」
「……僕の心は、変わらないよ」
弱まった決意を、奮い立たせる。
アサシンや、あの侍を例外としても、僕の実力は下から数えたほうが早いに決まっている。
なら、せめて気持ちで勝たないと、生き残る事だってままならない。

「……それで、小僧殿。これからどう動く?」

なんか、殿が付いた。小僧殿って、馬鹿にされているのか違うのか、良くわからない。

「とにかく、リトルバスターズのみんなを探して合流する。他の参加者とも、危険だけど接触したい。
あの侍が危険な奴だって知らせな……ああぁ~~~」
「どうした、小僧殿?」

「謙吾も見た目侍だよ……」
確実に、いつもの剣道着姿だろう謙吾。
あの侍に同様に襲われた人が「侍姿の男に気をつけろ」と言い回ったなら……
「しかも、どっちも髪が尖ってるし……最悪だよ、ロマンティック大統領……」
「……よく考えよ、小僧殿。その仲間とやらは、腕が四本あるわけでもあるまい」
「そうか、その辺りを伝えればいいんだ」
つまりは、それを伝えられない限り勘違いされるかもしれないということだ。

「よし、それじゃあ……へっくしゅ!」
夜風が寒い。濡れた服を着ていたのが不味かったのか、体が冷え切っていた。
「たしか、支給品に服があったな。私は周囲の偵察をしてくる。その間に着替えておくといい」
アサシンは、ディパックから服を投げ渡すと跳躍し、木々に消えていった。

そうして、アサシン――ハサン・サッバーハは湖まで舞い戻った。
「無い、か。当然だな」
シャイターンの腕。あの男が魔術に通じている以上、あの腕を放置はすまい。
現状、あの侍に勝つ術はない以上、諦める他にはない。

「そうすると、やはりあの小僧と手を組むしかないか」
元々、ハサンは殺し合いに乗り気ではなかった。
間桐桜に殺されたはずの代行者が五体満足で生きている矛盾。
同じく間桐桜に殺された自分が、その記憶を保ちながら現界している矛盾。

さらに、聖杯ですら不可能だろう奇跡を用いておいて、可能であろう望みを叶えるといった褒賞を用意していないこと。
すなわち、純粋な殺し合いを望んでいるのだ。

願いを叶えるために呼び出されるサーヴァントに、それを要求しても応える者は多くはない。
それでも、オマエならば殺すだろうと呼ばれたのがアサシンである自分なのだろう。

たしかに、いつものように気配を消しながら、障害となりそうな相手を消せる機を待つつもりだった。
しかし、能力の制限によって、それは満足に出来ない。
アサシンも、超人というカテゴリーではけして上位の実力者とはいえない。
身を守るため、徒党を組むという手段を取るのも有効だろう。
こんな外見の自分に、向こうから持ちかけてきたのは実際のところ幸運だった。

だが、彼は魔術師でも、特殊な能力があるわけでもない平凡な人間。
この怪異に巻き込まれて信念を曲げない志だけは評価に値するが、それもいつまでも持つまい。
なにせ、直枝理樹という人間を支えているのは仲間。それも怪異に巻き込まれている。
間違いなく死ぬ。誰も失わないどころか、直枝理樹本人が最後まで生き残る可能性すら極小だ。
すぐに考えは変わる。放送が始まるまでの約5時間が、彼の最長生存時間となろう。

(――あっさりと折れる信念しか持たぬなら、生かす価値もない。志が折れたとき、その心臓を貰い受ける。
小僧の仲間が残っていたなら、すぐに送り届けてやろう)
その間に強者が減れば、御の字といったところか。

(……少しばかり、興味はあるのだがな)
あの少年は、真逆だ。
人として扱われず、人々の悪意を受けて生きていたが故に永遠を求めた自分。
誰からも大切にされ、人々の善意を受けて生きてきたが故に終わりを受け入れる少年。
これほどの真逆もない。完全に交わることがないだろう存在だ。
だが、それゆえに自分の協力を求めたのではと、ハサンは考えた。
真逆であるが故、彼の持つモノを自分は持たず、自分が持つモノを彼は持たない。
足りないところを補う。既に切り札を失ったハサンにとっては生き残る術となるかもしれない。

「あの小僧に、私を補えるモノなどあるとは思えないが」
そう長い付き合いにもならない以上、深く考えても無駄だと思考を止めた。
「さて、これで全てか」
ハサンの手には、木で掘られた星があった。

ティトゥスに向かって投げていた中で、外れたりして比較的無事だった物だ。
その数、実に六十四。今はちょうど五十しかない。
「ダークが無い以上、出来る限り回収しようとは思ったが……」
気配遮断がランク落ちしている以上、安全には拾えない。次からは拾うのを諦めることにする。

――ちなみに、これが星ではなくヒトデだと書かれた説明書を、ハサンは見ていない。

跳躍し、元の場所に戻る。
この僅かな時間に殺されているのでは、とも思ったが、そこには変わらず―――

否、変わり果てた直枝理樹がそこにいた。

「黙んないでよっ! これ渡したのアサシンさんじゃない!」
「女物だと気づかず渡したのは、これもまた私の落ち度だが……」
アサシンが渡した服は、聖ミアトル『女』学院の制服だった。
黒を基調としたお嬢様全開の服装を、何の違和感無く着こなしている理樹。

「それを着て、あまつさえ長い靴下まで穿いているのは、リキ殿だろう」
「いや、それはそうだけど……って、なんで急に名前なのっ!?」
「その外見で小僧殿と呼ぶのは……小娘殿と呼ぶにも、性別を知っているのでな」
他の服もないため、仕方なく色々と理樹は諦めた。

「まず、これからの行動に関して……あらかじめ言っておくことがある」
真剣な内容であると察して、理樹も服装のことを忘れて聞く。
「リキ殿に協力はしよう。が、あくまで私は暗殺者であることを忘れてもらっては困る。
襲ってくる敵は、始末する。それが女子供であれ、ナイフ一つあれば人など殺せる。
襲ってくる理由は関係ない。躊躇して死んでしまえば、何も成せないことは理解しているだろう?」
「……説得する時間を、くれない?」
「……二つ、納得してもらう。一つ。説得が失敗すれば、リキ殿を助けられる保証はない。二つ。私の命も危険な状況ならば、躊躇無く殺す」
おそらく、最大限の譲歩だろう。理樹はゆっくりと頷く。

「では、これを渡しておこう」
手渡されたのは、トランシーバーだった。アサシンの手にも、同じものがある。
「私は気配を隠し、無線の範囲内を監視しておく。何か発見したらリキ殿に伝えよう」
離れる前に、お互いの支給品や知り合いについて情報交換をする。
「バルザイの偃月刀は、そのまま使っていてよ。僕じゃ扱えないみたいだし」
「そちらの武器は?」
「……バットと、傘かな?」

謙吾のバットの他に、武器になりそうな物は、やたら丈夫そうな傘だけだった。
説明書によれば、名前はカンフュール。一角獣の名は、けしてハッタリではない。
防弾、防刃、耐炎製の布地と、超硬チタンの先端。とても見えないが、立派な武器だった。
バットをしまい、こちらを使うことにする。
「一見、武器とは思われないだろう。こちらが間に合わない場合は、それで身を守るといい」

そして、お互いの知り合いについて話した。
「リキ殿の知り合いは、その五名……心得た、似た容姿の人物は、命を奪うことはなるべく避けよう」
「ものすごく不安なんだけど……それで、アサシンさんの知り合いは?」
「基本的に全員敵だ」
「えー」
やっぱり手を組む相手を間違えたかもしれない。

「まず、エミヤシロウ。彼は一言で正義の味方……この殺し合いにも批判的なはずだが、私とは敵対関係だ。
次に、クズキソウイチロウ。殺し合いに乗っているかは不明だが、私とは敵対関係だ。
……そして、マトウサクラ。最悪の小娘だ。殺し合いに乗っている可能性は大。……お互い殺したいほどに敵対関係だ」
「うわあ、最悪じゃんっ!」
「そして、マトウサクラとエミヤシロウは恋人関係。どちらかを敵に回せば、どちらも敵となる」
正直、アサシンの見た目だけで判断できた交友関係だった。

「不必要な敵対は避けるが……マトウサクラには気をつけろ。文字通り、食われるぞ」
衛宮士郎葛木宗一郎の二人も一般人よりも強いが、間桐桜は段違いだそうだ。
制限がなければ、参加者全員あの場で「食べて」しまえるそうだ……これは説得できないかも。
それぞれの外見的特徴も聞いておく。会っても、アサシンのことは話さないほうが良いかもしれない。

アサシンが、夜の森に溶け込む。
トランシーバーの範囲は半径2kmらしい。通じるか確かめる。
『リキ殿、聞こえるか?』
「聞こえるよ」
感度も悪くないようだ。

どこにいるのかもわからないけど、どこかでアサシンは監視してくれている。
それでも、頼りきるわけにはいかない。自分に出来ることは、自力でやり遂げないといけない。
だから、その決意を込めて、あの言葉を口にした。

「ミッション、スタートだ」


【C-4 採石場近くの深い森の中 深夜】
【直枝理樹@リトルバスターズ!】
【装備:カンフュール@あやかしびと -幻妖異聞録-、聖ミアトル女学院制服@Strawberry Panic!、トランシーバー】
【所持品:支給品一式、不明支給品0~1(武器ではない)、謙吾のバット@リトルバスターズ!、濡れた理樹の制服】
【状態:健康、服装により精神的苦痛】
【思考・行動】
 基本:仲間と脱出する。殺し合いはしない。
1:真アサシンと協力する。
2:リトルバスターズの仲間を探す。
3:誰かと会ったら侍(名前は知らない)について注意と、謙吾との違いを説明する。
4:真アサシンと敵対関係にある人(特に間桐桜)には特に注意して接する。
5:このままじゃド変態だよ……
※参戦時期は、現実世界帰還直前です。
※アサシンの真名は知りません。
【カンフュールの説明】
一角獣の名を持つ傘。本来の所有者は九鬼耀鋼。先端が超硬チタン製の、鋼鉄をも貫く貫剣傘。
布部分は、防弾防刃特殊パラ系アラミド繊維に千度の炎に耐えうる耐炎繊維を寄りあわせコーティングしたもの。


【真アサシン(ハサン・サッバーハ@Fate/stay night[Realta Nua]】
【装備:バルザイの偃月刀@機神咆哮デモンベイン、木彫りのヒトデ50/64@CLANNAD、トランシーバー】
【所持品:支給品一式】
【状態:右腕(宝具)切断】
【思考・行動】
 基本:無理せず自己防衛。生存のために協力。
 1:理樹と協力する。
 2:理樹の信念が折れた(優勝を目指す)なら殺害。それまでは忠義を尽くす。
 3:気配を隠しながら周囲を監視する。
※参戦時期は、桜ルート本編死亡後です。
※右腕の喪失により、妄想心音が使用不可能です。
※身体能力、気配遮断などのランクが落ちていることに気がつきました。
※木彫りのヒトデを星だと思っています。説明書には「木彫りのヒトデ。参加者贈呈用」と書かれています。
【バルザイの偃月刀の説明】
アルの破片でもある魔導具。魔力を通せば灼熱の刃となり、展開すれば投擲武器になり、手元に戻ってくる。
魔術使用時の効果を上げる触媒ともなる

※真アサシンと理樹は、お互いの知り合いについて情報を交換しました。
※トランシーバーは半径2キロ以内であれば相互間で無線通信が出来ます。

011:固有の私でいるために 投下順 013:I am bone of my sword
時系列順
直枝理樹 048:クモノイト
真アサシン
ティトゥス 049:胸には強さを、気高き強さを、頬には涙を、一滴の涙を。

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