第一回放送◆dGUiIvN2Nw
今まで闇が覆っていた殺し合いの会場も、既に朝日が立ち上り、その不気味な会場を照らしつけている。
そんな時、どこからか甲高い笑い声が聞こえ、会場中央にマルクの姿を模したホログラフが現れた。
「はーい! みんな元気に殺し合いをしてるようで何よりなのサ。それじゃあこれから放送を始めるから、みんな注意して聞くように! えー、ではでは、みなさんお待ちかね。死亡者の発表から始めたいと思うのサ!
死亡者は──
そんな時、どこからか甲高い笑い声が聞こえ、会場中央にマルクの姿を模したホログラフが現れた。
「はーい! みんな元気に殺し合いをしてるようで何よりなのサ。それじゃあこれから放送を始めるから、みんな注意して聞くように! えー、ではでは、みなさんお待ちかね。死亡者の発表から始めたいと思うのサ!
死亡者は──
以上10名なのサ!
うーん。想像以上の減り具合。みんなよく頑張ってるのサ。
それじゃあ次に禁止エリアの報告なのサ。
8時にA-2、10時にF-1、12時にF-4をそれぞれ禁止エリアに指定するのサ。死にたくなかったらそれ以降は絶対入っちゃいけないのサ。
うーん。想像以上の減り具合。みんなよく頑張ってるのサ。
それじゃあ次に禁止エリアの報告なのサ。
8時にA-2、10時にF-1、12時にF-4をそれぞれ禁止エリアに指定するのサ。死にたくなかったらそれ以降は絶対入っちゃいけないのサ。
以上で放送終わり!
これからも今まで以上のハッスルを期待しているのサ。それじゃあまた六時間後に、お会いしましょー! なのサ」
これからも今まで以上のハッスルを期待しているのサ。それじゃあまた六時間後に、お会いしましょー! なのサ」
短い放送を終えて、マルクの姿は会場から消え去った。そこにあるのは静寂のみ。
新たな惨劇の会場が、そこに佇むのみであった。
新たな惨劇の会場が、そこに佇むのみであった。
暗い暗い、これまた暗いとある場所。そこでコト、コトと不規則に何かが動く音が聞こえていた。
「チェック」
声を発したのは、どこにでもいそうな男。中性的な顔立ちで、特筆すべき点をあげるとするならば、そのガソリンスタンドの定員のような衣装だろう。真っ暗闇で、薄くスポットライトを当てられたような薄気味悪いこの場所とはまったくもって対照的な赤い服。
男は小さな椅子に座り、これまた小さな丸テーブルの上に置かれたチェス盤をにやにやしながら見つめている。
対する女性も、男と同じように椅子に座り、何も喋らずただただゲームに集中している。
それを見て、男は意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「おっかしいよなぁ。君、本当にこんなに弱いの? 月の頭脳が聞いて呆れるねぇ」
熟考し、駒を一つ下げてから女は言った。
「造物主のあなたに比べたら、誰が相手でも呆れるくらいに弱いんじゃないかしら」
「そうかなぁ。買いかぶり過ぎだって」
言いながら、ほとんどノータイムで駒を動かし、もう一度「買いかぶり過ぎだな」と呟いた。
「えーーりーーん!!」
ドタドタと走る音が聞こえる。マルクが放送を終えて戻って来たのだ。
「聞いてた!? ちゃんと噛まないで放送できたのサーーー!!」
まるで無邪気な子供が母親に甘えるように飛び付いて来る。
「あーはいはい。よかったわね」
「ちょっとその反応は冷た過ぎるのサ! ねえねえ、どこもミスなんてしてなかったでしょ?」
「少し待ってなさいな。今集中してるところだから」
そう言って、八意永琳は再び盤面に集中する。
「……僕は君達の動きに関与するつもりは一切ないよ」
突然、ガソリンスタンドの男が言った。
「他の奴らは知らないけど、俺はあんたらが自由に動いてくれること、むしろ歓迎するくらいだ。ゲームってのはイレギュラーがないと面白くない。変な茶々をいれて、またはいれられて、楽しみをなくしたくないんだ」
「……これをただのゲームだと思って見てるのは、あなたぐらいのものよ」
永琳はそう言ってしばらくしてから駒を動かす。男は再びノータイムだ。
さすがの永琳も、嫌そうに眉をひそめた。
「何事も楽しく、は生きてく上での基本だろ? それに、代々神ってのは人間と精神構造が大して変わらないのさ。遊び好き酒好き女好き。俺もそんな大衆的な神様となんら変わらない」
「そのわざとらしいキャラクターも、楽しむために?」
「そりゃそうさ。それに、こう見えて俺はこの姿を気に入ってる」
そう言って愉快そうに笑う。
なにがこう見えて、だ。心底楽しそうにしているくせに。
永琳はこの男が嫌いだ。鼻もちならない。胡散臭い。そして何より、何を考えているのかまったく想像できない。
「チェック」
声を発したのは、どこにでもいそうな男。中性的な顔立ちで、特筆すべき点をあげるとするならば、そのガソリンスタンドの定員のような衣装だろう。真っ暗闇で、薄くスポットライトを当てられたような薄気味悪いこの場所とはまったくもって対照的な赤い服。
男は小さな椅子に座り、これまた小さな丸テーブルの上に置かれたチェス盤をにやにやしながら見つめている。
対する女性も、男と同じように椅子に座り、何も喋らずただただゲームに集中している。
それを見て、男は意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「おっかしいよなぁ。君、本当にこんなに弱いの? 月の頭脳が聞いて呆れるねぇ」
熟考し、駒を一つ下げてから女は言った。
「造物主のあなたに比べたら、誰が相手でも呆れるくらいに弱いんじゃないかしら」
「そうかなぁ。買いかぶり過ぎだって」
言いながら、ほとんどノータイムで駒を動かし、もう一度「買いかぶり過ぎだな」と呟いた。
「えーーりーーん!!」
ドタドタと走る音が聞こえる。マルクが放送を終えて戻って来たのだ。
「聞いてた!? ちゃんと噛まないで放送できたのサーーー!!」
まるで無邪気な子供が母親に甘えるように飛び付いて来る。
「あーはいはい。よかったわね」
「ちょっとその反応は冷た過ぎるのサ! ねえねえ、どこもミスなんてしてなかったでしょ?」
「少し待ってなさいな。今集中してるところだから」
そう言って、八意永琳は再び盤面に集中する。
「……僕は君達の動きに関与するつもりは一切ないよ」
突然、ガソリンスタンドの男が言った。
「他の奴らは知らないけど、俺はあんたらが自由に動いてくれること、むしろ歓迎するくらいだ。ゲームってのはイレギュラーがないと面白くない。変な茶々をいれて、またはいれられて、楽しみをなくしたくないんだ」
「……これをただのゲームだと思って見てるのは、あなたぐらいのものよ」
永琳はそう言ってしばらくしてから駒を動かす。男は再びノータイムだ。
さすがの永琳も、嫌そうに眉をひそめた。
「何事も楽しく、は生きてく上での基本だろ? それに、代々神ってのは人間と精神構造が大して変わらないのさ。遊び好き酒好き女好き。俺もそんな大衆的な神様となんら変わらない」
「そのわざとらしいキャラクターも、楽しむために?」
「そりゃそうさ。それに、こう見えて俺はこの姿を気に入ってる」
そう言って愉快そうに笑う。
なにがこう見えて、だ。心底楽しそうにしているくせに。
永琳はこの男が嫌いだ。鼻もちならない。胡散臭い。そして何より、何を考えているのかまったく想像できない。
駒を動かす。
先程までとは違う、どこか優しささえも帯びた笑みを男は浮かべた。
「チェックメイトだ。やれやれ。本当に手応えがなかったね。遠慮してるの?」
「さっきも言ったでしょ。造物主に勝てるような頭脳は冥王星まで探してもいない」
「そう。……じゃ、少し君の考えを分析してあげよう」
そう言って、椅子に座り直し、こちらに身体を寄せて来る。永琳は身じろぎ一つしないが、永琳の周りでうろうろしていたマルクはすぐに彼女の背中に隠れた。
マルクはこの男が苦手らしい。……いや、苦手でない者が果たしているのかどうか。
表情こそ変えないが、永琳はそんなことを思った。
「今回君がこの勝負を持ちだしたのは俺の考え方を理解するためだ。駒の出し方、癖、勝負に対する姿勢。その他諸々から俺がどういう人格なのかを分析していた。それが今回チェスを誘った理由であり、本当の目的。だろ?」
「…………」
永琳は何も答えない。続けて男は言った。
「君は勝つ気がなかった。手応えがないのも当たり前だよな。……俺がなにより嫌いなのは、試されることと、無為な時間を過ごすことさ。だから少し君のことをいじめたくなってきた」
早口でまくしたて、ギラリとその瞳を光らせる。
永琳は眉一つ動かさず、ただじっとしている。
「お返しに、俺が少し君のことを分析してあげよう。君はひどく冷静で慎重だ。歳相応、もしくはそれ以上に物事を俯瞰し、常にリスクとリターンを考えてる。
感情をコントロールできる人間は有利だよねぇ。こうして呑気にお茶の間を演じたり、気楽そうにチェスをしたりもできる。そう、本当は気が狂いそうになるくらい心配なことがあってもね」
そう言ってクックと笑う。
永琳も随分と長く生きているが、ここまで相手に対し殺意を抱いたのは初めてのことだった。
「君の人生はまさに罪そのものだな。罪に捉われ、罪に生きてる。しかし罪を償うために死ぬことも許されない。絶え間ない、狂おしいほどに抱え込まれた罪を、人々への善行で紛らわしている。それが君にとって生きること。君の罪を具現化したかのようなお姫様を守り、仕えることで君はアイデンティティーを確立できる。何千と生きていても、月の頭脳と持て囃されようとも、君の根本は常に単純明快だ。
しかし、だからこそ複雑だともいえる。善を行うことを生とし、かつ生のために悪を平然と行えるのだからね。君の持ち味はまさにそこ。
誰を味方するか、誰と敵対するか。感情で動かず理性で動く。しかしその理性は矛盾を抱えている。矛盾した循環論法だ。だから君の考えを読むのは限りなく難しい」
複雑な人格って、めんどくさくて嫌だよねぇ。男はそう言って肩をすくめる。
「一つ良いことを教えてあげよう。おそらく俺は君よりも長生きしてるからね。老婆心ながらってやつさ」
俺は老婆じゃないけどね。そう言いながら男は立ち上がった。
「生き物ってのはね、計算だけで成り立つような単純なものじゃないんだよ。君の安っぽい分析じゃ、せいぜい猿山の大将を理解できるくらいだね。あ、言っとくけど、僕が将を務める山は、もっと知的生物で溢れかえっているよ」
男は椅子を元に戻すと、マルクに手を振ってみせる。しかしマルクはより一層永琳の背中に隠れてしまった。
嫌われたもんだ、と男は一つため息をついて苦笑した。
「じゃ、俺はもう行くよ」
そう言って部屋を出て行く寸前、永琳の耳元でぼそりと呟く。
「君の狂った愛情を受け入れた、愛しい愛しいお姫様の様子も見にいってあげないといけないしね」
表情こそは変わらない。しかし血が出るのではないかと思うほどに握られた拳は、今の永琳の気持ちを最大限に表していた。
乾いた笑い声が部屋中に響き渡る。
その声が届かなくなったところで、永琳は机に置かれたチェス盤を力の限り壁に叩きつけた。
「人の心に土足で入り込んで! ……あんな奴に私達の何がわかるっていうの!!」
分析されたことがどうした。馬鹿にされたところであんなものどうってことない。
しかし、姫を侮辱されるのは許せない。自分と姫の関係を狂っているなどと評されるのは我慢ならない。
「お、落ちついてよ。いつもらしくないのサ。その……、き、きっとなんとかなるサ!!」
怒りのために肩で息をしている永琳は、ちらりとマルクの方を見て、それから気分を落ちつけるために髪をかきあげた。
「……ありがと。少し落ち着いたわ」
先程までとは違う、どこか優しささえも帯びた笑みを男は浮かべた。
「チェックメイトだ。やれやれ。本当に手応えがなかったね。遠慮してるの?」
「さっきも言ったでしょ。造物主に勝てるような頭脳は冥王星まで探してもいない」
「そう。……じゃ、少し君の考えを分析してあげよう」
そう言って、椅子に座り直し、こちらに身体を寄せて来る。永琳は身じろぎ一つしないが、永琳の周りでうろうろしていたマルクはすぐに彼女の背中に隠れた。
マルクはこの男が苦手らしい。……いや、苦手でない者が果たしているのかどうか。
表情こそ変えないが、永琳はそんなことを思った。
「今回君がこの勝負を持ちだしたのは俺の考え方を理解するためだ。駒の出し方、癖、勝負に対する姿勢。その他諸々から俺がどういう人格なのかを分析していた。それが今回チェスを誘った理由であり、本当の目的。だろ?」
「…………」
永琳は何も答えない。続けて男は言った。
「君は勝つ気がなかった。手応えがないのも当たり前だよな。……俺がなにより嫌いなのは、試されることと、無為な時間を過ごすことさ。だから少し君のことをいじめたくなってきた」
早口でまくしたて、ギラリとその瞳を光らせる。
永琳は眉一つ動かさず、ただじっとしている。
「お返しに、俺が少し君のことを分析してあげよう。君はひどく冷静で慎重だ。歳相応、もしくはそれ以上に物事を俯瞰し、常にリスクとリターンを考えてる。
感情をコントロールできる人間は有利だよねぇ。こうして呑気にお茶の間を演じたり、気楽そうにチェスをしたりもできる。そう、本当は気が狂いそうになるくらい心配なことがあってもね」
そう言ってクックと笑う。
永琳も随分と長く生きているが、ここまで相手に対し殺意を抱いたのは初めてのことだった。
「君の人生はまさに罪そのものだな。罪に捉われ、罪に生きてる。しかし罪を償うために死ぬことも許されない。絶え間ない、狂おしいほどに抱え込まれた罪を、人々への善行で紛らわしている。それが君にとって生きること。君の罪を具現化したかのようなお姫様を守り、仕えることで君はアイデンティティーを確立できる。何千と生きていても、月の頭脳と持て囃されようとも、君の根本は常に単純明快だ。
しかし、だからこそ複雑だともいえる。善を行うことを生とし、かつ生のために悪を平然と行えるのだからね。君の持ち味はまさにそこ。
誰を味方するか、誰と敵対するか。感情で動かず理性で動く。しかしその理性は矛盾を抱えている。矛盾した循環論法だ。だから君の考えを読むのは限りなく難しい」
複雑な人格って、めんどくさくて嫌だよねぇ。男はそう言って肩をすくめる。
「一つ良いことを教えてあげよう。おそらく俺は君よりも長生きしてるからね。老婆心ながらってやつさ」
俺は老婆じゃないけどね。そう言いながら男は立ち上がった。
「生き物ってのはね、計算だけで成り立つような単純なものじゃないんだよ。君の安っぽい分析じゃ、せいぜい猿山の大将を理解できるくらいだね。あ、言っとくけど、僕が将を務める山は、もっと知的生物で溢れかえっているよ」
男は椅子を元に戻すと、マルクに手を振ってみせる。しかしマルクはより一層永琳の背中に隠れてしまった。
嫌われたもんだ、と男は一つため息をついて苦笑した。
「じゃ、俺はもう行くよ」
そう言って部屋を出て行く寸前、永琳の耳元でぼそりと呟く。
「君の狂った愛情を受け入れた、愛しい愛しいお姫様の様子も見にいってあげないといけないしね」
表情こそは変わらない。しかし血が出るのではないかと思うほどに握られた拳は、今の永琳の気持ちを最大限に表していた。
乾いた笑い声が部屋中に響き渡る。
その声が届かなくなったところで、永琳は机に置かれたチェス盤を力の限り壁に叩きつけた。
「人の心に土足で入り込んで! ……あんな奴に私達の何がわかるっていうの!!」
分析されたことがどうした。馬鹿にされたところであんなものどうってことない。
しかし、姫を侮辱されるのは許せない。自分と姫の関係を狂っているなどと評されるのは我慢ならない。
「お、落ちついてよ。いつもらしくないのサ。その……、き、きっとなんとかなるサ!!」
怒りのために肩で息をしている永琳は、ちらりとマルクの方を見て、それから気分を落ちつけるために髪をかきあげた。
「……ありがと。少し落ち着いたわ」
それを聞いてマルクはにこりと笑う。
「あなた。聞いてたよりもずっと純情なのね」
「ジュードー? なんかカッコイイ名前なのサ! どういう意味?」
「あなたは優しいわねっていうことよ」
「うーん……。でもプププランドではイタズラばかりしてたのサ。よく怒られたりもしたし」
「あら。どうして悪戯なんか?」
「だって楽しいのサ! みんながあたふたしてるところを見るとすごくおかしいのサ。……だからこの殺し合いってなんか嫌いなのサ。死んじゃったらあたふたするところなんて見れないのに……。それに、みんなすごくかわいそうなのサ。死んじゃう人達も、それにえーりんも」
「……そう」
永琳は思う。
自分のことなどどうでもいい。しかしどうにか、姫とこの無垢な子だけでも助けることはできないかと。
「例のゲームはどうなった?」
「え、えーりん! そのことは言っちゃまずいのサ!!」
「大丈夫。仮にも神を名乗る男が無干渉を決め込むと言った。それは信用できるわ」
この場所に盗聴器はない。あったとしても、全てあの男が処分しているだろう。
なにせ、自分達が捕まれば、このゲームの面白みは半減してしまうのだから。
「えと、第一ステージをクリアしたところさ」
「遅過ぎる。これじゃ手遅れになるわ」
「そ、そうは言っても、みんなアレをそこまで重要視してないのサ。あれ以上興味を惹かせるご褒美なんて考えつかなかったし、さすがにこれ以上は限界なのサ。それに、万が一にも奴らに見つかったらそれこそ僕達が殺されちゃうのサ」
この殺し合いを開催した本命達は、この殺し合いをまったくといっていいほど監視していない。一番熱心な奴も、その関心は自分が楽しむことにしかない。
きっと彼らは、監視などというものは下賤な生物の仕事だと信じているのだろう。
“神”という種族ほど高慢な生物もいないな、と永琳は思った。
「監視組には何か勘付かれた様子はあった?」
マルクは首を振る。
「支給品の選択はこっちに一任されているのサ。さすがにアレが重要アイテムだとは思っていないみたいだったのサ」
「そう。……でも油断しないで。彼らもそれほど熱心じゃないとはいえ、一番気付かれる可能性の高い奴らなんだから」
「アイアイサー!」
敬礼のポーズを取るマルクを、永琳は軽く撫でてやった。
自分達がかろうじて投げることができた一石。うまくはまれば、それは水面に浮かぶ月を破壊し、参加者を丸々こちらの味方につけることができるだろう。
落ち込んでなどいられない。心配などしてられない。
ここに連れて来られたその時から、おそらくは自分が死ぬ時まで、正念場は永遠に続くのだから。
「あなた。聞いてたよりもずっと純情なのね」
「ジュードー? なんかカッコイイ名前なのサ! どういう意味?」
「あなたは優しいわねっていうことよ」
「うーん……。でもプププランドではイタズラばかりしてたのサ。よく怒られたりもしたし」
「あら。どうして悪戯なんか?」
「だって楽しいのサ! みんながあたふたしてるところを見るとすごくおかしいのサ。……だからこの殺し合いってなんか嫌いなのサ。死んじゃったらあたふたするところなんて見れないのに……。それに、みんなすごくかわいそうなのサ。死んじゃう人達も、それにえーりんも」
「……そう」
永琳は思う。
自分のことなどどうでもいい。しかしどうにか、姫とこの無垢な子だけでも助けることはできないかと。
「例のゲームはどうなった?」
「え、えーりん! そのことは言っちゃまずいのサ!!」
「大丈夫。仮にも神を名乗る男が無干渉を決め込むと言った。それは信用できるわ」
この場所に盗聴器はない。あったとしても、全てあの男が処分しているだろう。
なにせ、自分達が捕まれば、このゲームの面白みは半減してしまうのだから。
「えと、第一ステージをクリアしたところさ」
「遅過ぎる。これじゃ手遅れになるわ」
「そ、そうは言っても、みんなアレをそこまで重要視してないのサ。あれ以上興味を惹かせるご褒美なんて考えつかなかったし、さすがにこれ以上は限界なのサ。それに、万が一にも奴らに見つかったらそれこそ僕達が殺されちゃうのサ」
この殺し合いを開催した本命達は、この殺し合いをまったくといっていいほど監視していない。一番熱心な奴も、その関心は自分が楽しむことにしかない。
きっと彼らは、監視などというものは下賤な生物の仕事だと信じているのだろう。
“神”という種族ほど高慢な生物もいないな、と永琳は思った。
「監視組には何か勘付かれた様子はあった?」
マルクは首を振る。
「支給品の選択はこっちに一任されているのサ。さすがにアレが重要アイテムだとは思っていないみたいだったのサ」
「そう。……でも油断しないで。彼らもそれほど熱心じゃないとはいえ、一番気付かれる可能性の高い奴らなんだから」
「アイアイサー!」
敬礼のポーズを取るマルクを、永琳は軽く撫でてやった。
自分達がかろうじて投げることができた一石。うまくはまれば、それは水面に浮かぶ月を破壊し、参加者を丸々こちらの味方につけることができるだろう。
落ち込んでなどいられない。心配などしてられない。
ここに連れて来られたその時から、おそらくは自分が死ぬ時まで、正念場は永遠に続くのだから。
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Back:放送五分前 -始まりの終わり- Next:I'm Not Okay (I Promise)
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