ゴッサムシティの路地裏の一角に、一人の青年の死体が転がっていた。
それ自体はこの街において何ら珍しいことではない。
人の死が絡む事件・事故などは掃いて捨てるほど、という表現すら生ぬるいほどの数で存在している。
しかしこの青年には三つ特殊なところがあった。
一つ、黒い警官のような衣服を身に纏っていたこと。すなわちグラスホッパーの団員の一人であるということ。
二つ、死体の側に一見してただの玩具にも思えるバックルが転がっていたこと。
そして三つ、青年は巨大かつ鋭利な爪のような凶器で袈裟斬りにされ、身体を真っ二つにされて死んでいたことだ。
種明かしをするならば、彼は今日付けでアーマードライダーの一員として認められた若き団員だった。
自分が精鋭の証たる鎧武者の一員となれたことへの喜びを噛み締めながら帰路についていた。
彼は浮かれていた。故に気づかぬうちに路地裏を闊歩していた一体の上級インベスと鉢合わせをしてしまったのだ。
奇襲の一撃。ただそれのみで青年の肉体は容易く切り裂かれ即死した。
弛まぬ訓練の末に与えられたバックル、戦極ドライバーを一度も装着さえしないままに。
本来ならば、それだけの不慮の事故のような出来事で終わるはずだった。
「やれやれ、サーヴァントがサーヴァントを従えようなんざ無茶をやるもんだ。
最強に近いサーヴァントを十全の魔力で使われるとなれば、下手すりゃ他の連中が一気に食われることにもなりかねないな」
その男は何もない空間から何の前触れもなく現れた。
時代錯誤な東洋風の民族衣装を纏った男は青年の死体には目もくれず、暫し思案に耽った後主を失った戦極ドライバーを拾い上げた。
「こいつはテコ入れが必要かな」
御剣怜侍がそれに気づいたのは検事局に戻り午後の公務をこなしている時のことだった。
例の怪死事件について調べつつ、警察からの要請を待っている時に何気なく窓を見やった。
蔦があった。見慣れない植物の蔦が二階にあるこの部屋の窓に纏わりついていた。
不審に思い、窓を開けて階下の様子を見ると明らかに不自然な規模の植物が検事局の裏手に繁殖していた。
更には御剣の知識には存在しない極彩色の果実らしきものまで成っているではないか。
「……ランサー、姿を見せてくれ」
「言われるまでもありませんよ」
驚きの声を上げそうになるのを寸でのところで堪え、どうにか平静を保ち傍らのランサーに実体化を促した。
仮初めの肉体を具現化させたランサーの表情も険しいものになっている。
「…検事、あそこに成っている果実らしき物体から魔力を感じます。
申し訳ありません。サーヴァントとは実体を伴ってこそ真に外界を感知できるものですが、それでもこうまで近くにありながら気づかなかったとは」
「どう思う?」
「サーヴァントの攻撃と捉えるにはやり方が杜撰すぎます。というより攻撃的行動であるかすら怪しいものです。
あまりにも無作為すぎる。……やはり見ただけでは情報が足りませんね」
「調べてきてもらえないだろうか?」
「ええ、検事は極力平静を保って、普段通りに過ごしていて下さい。
そして敵襲があればすぐに令呪を使って私を呼んで下さい。良いですね?」
本音を言えば御剣自身も直接眼下にある不気味な植物を調べたい。
しかしあれの正体も分からないうちに迂闊に近寄るのは危険であるし、何より悪目立ちする。
昼食時に出会ったマスターに指摘された通り御剣怜侍という人間はこのゴッサムではひどく目立つ。
外で正体不明の植物を熱心に調べるなどという、傍から見れば奇妙極まりない行動を取るわけにはいかない。
人気がないことを確認し、二階から飛び降り地面に着地したランサーはまず周囲の様子を見渡した。
そして問題の植物が主に壁面を中心に伸びていることに気づく。
当然有り得ないことだ。御剣が昼食に出掛けた時点ではここに何の異常もなかったことは既に確認済みである。
「……む、これは」
よく見ると、近くにあった樹木や茂みの一部が枯れ落ちているようだった。
この検事局の敷地内にある植物は普段からよく手入れされていることはランサーも知っている。
枯れているのを見落としていた、というのはまず有り得ない。
この植物が周囲の他の植物を枯らしている可能性はかなり高いと言える。
外来種、という言葉がランサーの脳裏を過ぎる。
異なる環境からやって来た動植物が圧倒的な繁殖力等で元いた他の動植物を駆逐してしまう場合がある。
果実から魔力さえ感じるこの謎の植物はまさにそういう存在ではないだろうか。
極彩色の果実を手に取り、質感を確かめる。
時間と状況さえ許せばこの果実について色々と研究したくはあるのだが――――――――
「おい、あんた!そこで何してる!?」
考え事に没頭していると、黒い服装で統一した三人の青年が詰め寄ってきた。
その統一された制服が最近巷を騒がせている自警団、グラスホッパーのものであることは御剣、ランサー共に知悉している。
鬼気迫る顔で近づいてきた集団のうちの一人がランサーから強引に果実を奪い取った。
すると果実は玩具のような錠前らしき物体に姿を変えてしまった。
「…はあ。食べてはなかったな。マジで肝が冷えたぞ。
いいか、この果実はとんでもなく有害なんだ。今度見かけても絶対に触ったり、ましてや食べたりするんじゃないぞ」
「失礼ですが、あなた方はグラスホッパーの方ですね?
どうやらあなた方はこの植物について詳しいようだ。お話を伺っても?」
ランサーは一瞬、彼らが何らかの異能を持ったマスターではないかと考えたがすぐにその考えを否定した。
マスターならばサーヴァントたる自分を明確に認識できるはずであり、こんなそこらの通行人に話しかけるような真似はすまい。
彼らが腰に着けた、よく見ると魔力を微弱ながら発しているバックルにこそ秘密があるのだろう。
「悪いがこっちにも守秘義務がある。生憎話してやれるようなことはない。
それに俺達は実働担当の下っ端だから、元々そんなに多くのことは知らないんだよ」
「ほう?つまり上には知っている方がいる、と」
「そりゃあ犬養さんなら詳しいことまで知ってるだろうけどな。
こっちに知らされないってことは犬養さんがそれで良いと判断したってことだ。
俺の大したことのない頭でも公表すりゃ大パニックになるのは簡単にわかるしな」
「パニック…ですか?」
集団のリーダー格と思しき男が漏らした言葉に不穏なものを感じ取った。
単に有害な植物が繁殖している、という程度でパニックという言葉を用いるのは些か不適切だ。
それにランサーから果実を奪い取った時の青年の顔はどう見てもただ事ではなかった。
ここは一つ、何かカマでもかけて情報を聞き出そうか。
ランサーがそう思案した時、上空から羽音らしき音が聞こえてきた。
同時に魔力を検知、上を見やると全身が黒い、蝙蝠を人型に落とし込んだような怪物が空を舞っていた。
「班長!あいつはこの前の……」
「くそっ、あの蝙蝠野郎ここらの果実を狙って来たのか!?
お前らやるぞ!今ここであの化け物を落とす!」
「しかしあいつが降りてこないことには……」
「心配するな、犬養さんから新型の錠前を受領したところだ。
俺が奴を叩き落とすから、お前らはいつでもかかれるようにしておけ!」
「「了解!」」
どうやらグラスホッパーの青年たちは怪物について知っているらしく、先んじて部下らしき二人が錠前のようなものを懐から取り出した。
「「マツボックリ」」
「「ロックオン!マツボックリアームズ!一撃、インザシャドウ!!」」
その光景はランサーをして絶句するインパクトがあった。
突然二人の真上からチャックのようなものが開いたかと思えば空から松毬らしき物体が出現。
松毬は二人に被さるように展開され、展開が終わったと同時に二人の姿は槍を携えた鎧武者に変わっていた。
まさしく変身と表現する他無い現象だ。
「これはこれは……」
「あんた、まだいたのか!?危険だから下がってろ!」
「ほう、やはりあの怪物は人間には害ある存在なのですね?」
「あれが優しいお友達に見えるんなら腕の良い眼科を紹介してやるよ!変身!」
「ブドウ」
班長が取り出した錠前は松毬ではなく葡萄がプリントされていた。
先ほどの二人の部下と同じようにバックルに錠前をセットした。
「ロックオン!ブドウアームズ!龍・砲!ハッハッハ!」
今度は空から葡萄が飛び出し、班長の身体を包み込んだ。
展開されたアーマーは紫を基調とした色合いで、右手には銃が握られていた。
「そらたっぷり食らえ、蝙蝠野郎!」
「ブドウスカッシュ!」
掲げられた銃口から紫の光弾が機関銃の如き勢いで放たれ、回避しようとした怪物を連射力にものを言わせて捉え次々とエネルギーの弾丸を撃ち込んだ。
猛烈な火力を浴びせられた怪物はたまらず真下に墜落していった。
「今だ、かかれ!」
「「了解!」」
「マツボックリスカッシュ!」
「マツボックリスパーキング!」
この時を待ちわびていた二人の鎧武者がバックルを操作し、よろよろと立ち上がった怪物に躍りかかった。
一人がエネルギーを纏った槍を一閃し離脱、もう一人がジャンプし空中回転しながら怪物に槍を突き立て穿ちきった。
爆発。次の瞬間には怪物の姿は影も形もなくなっていた。
変身を解除した三人はランサーを囲むように立ち塞がった。
「あなた方は常日頃からこういった活動をしているのですか?」
「守秘義務があると言ったろ。あんたはお喋りな奴みたいだが、他言は無用で頼むぜ。
もしあんたが俺達の秘密をバラしたら……わかるだろ?」
「なるほど」
ランサーの目から見ても変身した彼らの動きと身体能力は人間の域を遥かに超えていた。
火力だけなら低級のサーヴァントを凌ぐのではないか、と思えるほどだ。
その武力を以ってすれば秘密を漏らした者を物理的に骨も残さず消すことも満更不可能ではないだろう。
もっともランサーにとって彼らが脅威になるかと言えばそれは全くの別問題なのだが。
恫喝、もとい警告はこれで十分と考えたのか彼らはそれ以上追及はせず立ち去っていった。
「……ということがあったのですよ」
「外から聞こえてきた爆音はそれだったのか。
しかし謎の植物と果実に怪物、それらの退治・隠蔽を図っていると思われるグラスホッパー。
彼らがこの現象に深く関与していると捉えて間違いはなさそうだな」
「正確にはグラスホッパーの奥にいるであろうマスター、そしてサーヴァントがですね」
検分を終えて戻ってきたランサーの報告は御剣にとっても衝撃の大きいものだった。
プライベートな空間ではなく検事局という職場にいるからこそ、何とか気を引き締め声を荒らげることはせずに済んでいる。
これが自宅なら如何な御剣でも大声の一つは出してしまっていたかもしれない。
「そうだとすれば、グラスホッパーのマスターはあの
犬養舜二ということになるのだろうか。
前々から彼のカリスマやグラスホッパーを急成長させた手腕は単なるNPCのそれではないと思っていた」
「私も同じ見解ですよ、検事。彼の能力はキャスタークラスの傀儡にされた者では発揮し得ない。
そしてその背後にいるであろうサーヴァントがグラスホッパーの団員たちに変身を促し人智を超えた力を与えるバックルを配っているのでしょう」
「確かキャスターのクラスで召喚されたサーヴァントは道具作成というスキルを有すると聞いたが。
犬養舜二のサーヴァントはキャスターである可能性が高いように思うがどうだろう?」
「断定はできません。無論最も可能性が高いのはキャスタークラスですが、あのバックルを作成する能力が個人の逸話と深く結びついている可能性は十分考えられます。
その場合エクストラクラスや他の通常クラスでもあのバックルを作成できたとしてもおかしくはない。
これが一目で魔術的とわかるアイテムならキャスターだと自信を持って言えたのですがね、あれは恐らく科学の力によるものでしょう」
法曹の世界に身を置く御剣にもグラスホッパーの活躍と、それに付随する過剰な暴力・殺人事件や黒い噂は漏れ聞こえてきていた。
彼らの目指すところ、理念は弱きを助け悪を挫くものであり、その点については賛同を示せなくもない。
少なくともこの街で堂々と犯罪行為を働くようなチンピラ、マフィア共に比べれば遥かにマシではあるのだろう。
だがグラスホッパーもまた法の範疇を逸脱して暴力を行使する集団であることには何ら変わりなく、御剣としては諸手を上げて彼らのやり方を歓迎する気にはなれない。
「一度要点をまとめよう。
まず植物の発生源を特定することはできなかった。
しかしグラスホッパーは植物や果実、そして果実を狙ってきたと思われる怪物に対処していた。
またグラスホッパーの団員たちが身に着けていたバックルには果実を錠前に変化させる機能があると思われる」
「そして犬養舜二のサーヴァントは例の植物について詳しく知る者である可能性が高い。
私見ですが果実を変化させた錠前をバックルに差し込んで変身したことから一つの可能性が導き出せます。
すなわちあのバックルは植物及び果実が齎す環境に適応し、果実を狙ってきた怪物に対処する力を付与するための道具でしょう。
そのような道具を作り出せる者があの植物と無関係であるはずがありませんからね」
「となると、犬養舜二と対話の場を設けることが出来ればこの謎について解明できるかもしれない……か。
ランサー、例の植物は本来のゴッサムシティにも存在していたものなのだろうか?」
「どうでしょう、先ほど接触したマスターは知らなかったように見えましたが……」
「ああ、そりゃ違うぜソードオブジャスティス。
ヘルヘイムは本来のゴッサムには存在しねえよ」
突然掛けられた存在するはずのない第三者の声。
御剣とランサーが驚きとともに振り向くと二人しかいなかった室内に東洋風の民族衣装を纏った男が立っていた。
(馬鹿な……)
ランサーは常に警戒を怠らず、いつ何時敵襲があっても良いよう備えていた。
にも関わらず声を掛けられるまで全く目の前の男の存在に気づくことができなかった。
よもやアサシンのサーヴァントではないか?ランサーの警戒心が最大限度に達する。
両手を上げておどけた様子でランサーを制する男。
その声には聞き覚えがあった。正午に通達を行っていたサガラと名乗った男だ。
しかし応援?自分たちに対して応援と言ったのかこの男は?
「応援、か。我々にはそんなことをされるような覚えが全くないのだが?
むしろ聖杯戦争の進行を妨害しようとしている我々に討伐令の一つでも出すのが正しい進行役の在り方ではないのか?」
御剣はサガラの僅かな言動からある程度の事実を察していた。
この男は御剣以外誰も知らないはずのランサーの真名を一目で言い当てた。
この事からサガラが聖杯戦争の進行役として相応しい何らかの特権を得ていることは容易に推察できる。
そして超常的な特権によってサーヴァントの真名を知ることができるのなら、参加者の動向を覗き見る手段を有している可能性は高い。
瞬時に出した仮説を確かめるために、敢えて自らのスタンスを明かしサガラの反応を確かめることにした。
「そんな野暮な真似はしないさ。大体全員が全員聖杯を獲るためだけに動くってのもそれはそれでつまらねえだろ?
お前らみたいな敢えて聖杯戦争そのものについて思考することをやめない、足掻き続ける奴がいたって良い。
どんなベクトルであれ、とことん足掻こうとする奴は応援してやりたくなるのさ」
そう言って、懐からある物を取り出し机の上に置いた。
それを見たランサーが目を見張った。つい先ほどこれと全く同じものを目にしたからだ。
「こいつは戦極ドライバー。これを装着し、お前らが錠前と読んだロックシードをセットすることで人間をアーマードライダーに変身させる。
元々は圧倒的繁殖力によって他の生態系を破壊する外来種、ヘルヘイムの森に対抗するために人類が作り出したシステムさ」
「森…ですか。やはり私が見た植物は氷山の一角に過ぎなかったということですね?」
「ああ、ヘルヘイムは既にこのゴッサムシティの至るところでその根を広げつつある。
おっと睨むなよ御剣怜侍。先に言っておくがヘルヘイムの森は参加者が人為的に発生させたものじゃあない。
会場と一体化したマスターなきサーヴァントとでも言えばわかりやすいか?
繁殖と侵略を止めようと思えばそれこそ聖杯にでも願うしかないぞ?」
御剣が詰問していたのを見越したかのようにその勢いを削ぐ発言をするサガラ。
「この戦極ドライバーは俺からの贈り物さ。
他のマスターと対話・強調し聖杯戦争の真実を探り当てる。そいつは大いに結構だ。
だが事は聖杯戦争で舞台は悪名高きゴッサムシティ。
お前が掲げる正義を通したいのなら、この程度の力は持っていないと話にならんぞ?」
「聖杯戦争の真実ならば、是非そちらの口から語っていただきたいのだが?」
「はは、そりゃ流石にできない相談だ」
「なるほど、まあ答えてもらえるとは思っていなかったさ。
では質問を変えようか。何故このドライバーを私に?
特定の参加者を一方的に支援するのは聖杯戦争の公正な運営を妨げるのではないのか?
「依怙贔屓ってことか?そんなもんするに決まってる。
何せ俺はお前たちの選択と行く末を見届ける監視者(ウォッチャー)であって裁定者(ルーラー)じゃあないからな」
悪びれる様子もなく問題発言をするサガラ。
よもや聖杯戦争の運営役さえもが堂々と不正行為をするとは。
御剣の眉間には知らず普段以上に皺が寄っていた。
「では私から聞かせていただきましょう。
貴方が出した戦極ドライバー、その出元は貴方自身ではなくグラスホッパーなのではありませんか?」
「正解だ。俺にはこいつを一から作り出す技術はないからな、余ったやつを一台失敬してきた」
「ほう、ならば検事がそれを使用することは出来ないよう設計されていると思うのですが。
もし私がそのドライバーを作り出した者で、NPCに配布するなら無断使用は出来ないよう設計しておきますよ」
「それも正解だ。戦極ドライバーにはイニシャライズ機能があってな、最初に装着した人間にしか使えないよう作られてる。
だが…逆に言えば一度も装着されていない戦極ドライバーなら誰でも使えるってわけだ。
本来ならこれに加えてキルプロセスっていう設計者の意思でドライバーを破壊する安全装置があるんだがな。
あのキャスターに会った時点でドライバーがパーになるなんざつまらないから取り外しておいた」
あるグラスホッパー団員が「先に一度装着しておけ」と指示されていたにも関わらず、浮かれてそれを怠りインベスに不意打ちで殺される事故があった。
ゴッサム全てを監視するサガラは当然その状況を認識しており、これ幸いとばかりに放置されたドライバーを拝借した。
そしてキャスター、
戦極凌馬が敷設した簡易工房のうちの一つにある道具を使ってキルプロセスをも取り外していた。
元々キルプロセスはドライバーの機能に干渉する恐れがあるため、中枢部には取り付けることができなかった。
このため予備知識があれば凌馬レベルの科学者でなくとも、然るべき道具を使えば取り外しは不可能ではなかったのだ。
そしてサガラは凌馬が戦極ドライバーへキルプロセスを取り付ける過程も監視者として当然目撃している。
後は簡単、目にした情報をもとに、どこにでも出入りできる自らの性質を活かして凌馬の用意した設備を借用して取り外せば良いだけの話だ。
「なるほど、どうやら貴方はこのドライバーを参加者に使わせるために随分と労力を払ったようだ。
であれば今、このタイミングになって渡そうとするのは――――――貴方にとって何らかの不都合な事態が発生したからではないのですか?」
ランサーの投げた問いにサガラはニッと笑い、「まあな」と肯定を示した。
同時に機材もなしに立体映像のようなものを室内に投影した。
映像では黒いスーツ姿で緑のポケットチーフを胸に飾った青年が戦極ドライバーを身に着けメロンがプリントされた錠前を掲げていた。
錠前をベルト中央部の窪みにセットし、ブレードでカットすると真上から現れたメロンが青年を包み込んだ。
そしてメロンを模した鎧が展開され、刀剣と盾を持った仮面の戦士へと変身を遂げた。
そこで場面は切り替わり、変身した戦士と白亜のボディの怪物めいたフォルムの存在が切り結んでいる様子が見えた。
マスターである御剣には白亜の怪物からステータスを読み取ることができた。つまりあれはサーヴァント。
素人である御剣の目には両者とも互角かそれに近い戦いを演じているように見えた。
「俺はワンサイドゲームってやつがどうにも好きじゃなくてな。
一人のマスターが二騎もサーヴァントを従えてるっていう状況はバランスが悪い。
だからついつい口が滑ったり力を渡してやったりしたくなるんだな、これが」
はっきり名前や状況を口に出さないだけで、サガラが何を伝えたいのか二人には嫌というほどよくわかる。
要は立体映像にあったマスターらしき青年が一方的に優位に立っている状況が気に入らないのだ、この進行者は。
単純に排除したいのなら討伐令の一つも出せばいい。
そうしないのは青年が明確なルール違反を犯していないからか、あるいはこの情報を得た上で御剣がどう動くか楽しもうとしているか、はたまたその両方か。
いずれにせよ思考を読みづらい、厄介な存在である。
「俺からお前への“贈り物”はここまでだ。
さあ受け取れ。戦国の世界を生き抜く力を」
「なるほど、では――――――」
サガラの言に嘘はないのだろう。嘘をつくメリットがない。
進行役の発言に明確な嘘があるとなれば、そして複数の参加者にそれが知れれば主催者、引いては聖杯そのものの信用の失墜に繋がる。
またサガラは争いを扇動しようとしていることは明らかであり、であれば自らの言葉で参加者を動かせなくなるのは何としても避けたいはずだ。
ランサーから聞いた話と照らし合わせても、アーマードライダーとやらに変身する力を手に入れるメリットは極めて大きいことは疑いようもない。
故にこそ、御剣の返答は一つしかない。
「――――――この話、断固辞退させていただこう」
差し出されたドライバーを、再度サガラに押し付け断言した。
「おいおい、ランサーから聞かなかったのか?
平和主義も結構だが殺しに来る相手に無抵抗じゃ嬲り殺されることぐらい理解しているだろうに」
「無論、理解しているとも。力を手にする機会を放棄することで私はこの先多くの不利益を被るだろう。
それでも、検事である私が銃火器をも超えるような武力を持つわけにはいかないのだよ」
人智を超えた怪物と互角に渡り合えるような武器を携えたマスターを誰が信用できる?
ましてや自分のように魔術なる異能を何も持たない一般人のマスターからすれば恐怖の対象以外の何者でもあるまい。
元より神秘の存在たる英霊はともかくとしても、ただの人間が分不相応な力など持つべきではないのだ。
「臆病者と罵ってくれても構わんよ。
手に入れた力で人を殺めることへの抵抗感があるのも偽らざる本音だ」
「…いいや、それがお前の選択なら俺はもう何も言わないさ。
少なくともお前は考えなしの連中とは違って、それなりに考えた上で言ってることはわかるからな。
こいつはお前以外の、力を必要とする奴に渡すとするさ。
じゃあな。俺はいつでも、お前たちを見守ってるぜ」
そう言って、サガラは音もなく部屋から消え去った。
戦極ドライバーもまた、影も形もなくなっていた。
緊張が解け、ふうと一息ついて椅子に深くもたれかかった。
「……これで良かったのだろうか、ランサー」
「それは私が決められることではありませんよ。
検事は後悔しているのですか?」
「…無いと言えば嘘になるのだろう。何せ命がかかっている。
私とて死にたいわけではない、いざ自分が誰かに殺される段になればこの選択を後悔したとしてもおかしくはない。
いや、ただ殺されるならまだしも怪物に変貌する可能性さえある。……そうなのだろう、ランサー?」
ランサーが暫し、沈黙した。
それはランサーが話すべきかどうか、決めあぐねていた仮説だった。
「……ええ。恐らくヘルヘイムの森、と称された植物から成る果実をそのまま食した人間は私が見たような怪物になるのでしょう。
グラスホッパーの団員の態度や怪物が人型を保っていたこと、錠前で変身したアーマードライダーが怪物を倒せる戦闘力を有していたことからほぼ間違いないかと。
サガラは説明しませんでしたが戦極ドライバーを用いることで果実を無毒化して怪物に抗う力に変えるのでしょうね」
「そして彼は我々がそこまで考え至ると踏んでいたから説明を省いた、ということか。
しかし、だとすれば由々しい問題だ。…まさかマスターやサーヴァント以外にまだ脅威が存在しているとは。
このままでは犠牲者が増える一方だ」
「グラスホッパーが隠蔽処理と怪物退治を行っている以上、そうすぐには大事に至らないでしょうが…やはりいずれ限界が来るでしょうね。
焦りは禁物ですが、我々が当初思っていたほど真相の究明に時間をかけられるわけではなさそうだ」
「そうだ、あまり悠長にしているわけにはいかない。
さしあたっては喫茶店の事件を辿って先ほどのマスターと接触し、本来のゴッサムシティにヘルヘイムなる植物が存在するのかを確かめたい」
グラスホッパーやサガラが「吊し上げ」に出した映像の戦極ドライバーを使っていた青年も気になるがまず手近なところから調べるべきだ。
特にあの青年はサガラの言が確かなら何らかの手段でサーヴァントを二体も支配下に置いていることになる。
迂闊に接近を図るのは自殺行為以外の何者でもない。
そしてもう一つ憂慮すべきなのはサガラのスタンスと特定の参加者への露骨な優遇だ。
あの男は均衡状態でのバトルロイヤルを楽しんでいる節がある。
つまり今後御剣たちが優位な状況になれば確実に何かしらの横槍を入れて妨害を仕掛けてくるということになる。
他のマスターと協力体制を築けたとしても気を抜くことは許されない。
(しかしあの青年……どこかで見たような気がするのだが………)
先ほど立体映像を見た時から、戦極ドライバーの使い手の青年に既視感を覚えていた。
とはいえ元の世界での知り合いではない、ということは断言できる。
気のせいかもしれないが、このゴッサムに来てから写真なり画像なりで顔を見たのかもしれない。
時間があれば調べてみてもいいかもしれない。
警察からの要請を待つ御剣に先に遭遇したマスター、
レッドフードことジェイソン・トッドの訃報が届くまで、あと僅か。
【MIDTOWN COLOMBIA PT/1日目 午後(夜間より少し前)】
【御剣怜侍@逆転裁判シリーズ】
[状態]健康、平常
[令呪]残り三画
[装備]ブラックコート、黒いウェストコート、ワインレッドのスーツ。
[道具]検事バッジ
[所持金]現金が数万程と、クレジットカード
[思考・状況]
基本:やはり聖杯戦争は許し難い。何としてでも止めねば
1. 仕事を放棄してはいられないので、検事としての本分も果たすつもり
2. 青年(レッドフード)と接触し、詳しい話を聞きたい
3.ランサーとは共に行動する事を徹底させる
4.ヘルヘイムの森、グラスホッパー、二体のサーヴァントを従えるマスター(
呉島貴虎)を強く警戒する
[備考]
※検事としての権限を利用し、警察の捜査資料を調べ上げました
※内部から身体を破裂させて対象を殺す殺人鬼(
デスドレイン)をサーヴァントではないかと疑っています
※
ヤモト・コキが聖杯戦争の参加者であると認識しています。同盟も組めるかもと思っていますが、立場の問題上厳しい事も自覚しています
※キャスターと思しきサーヴァントとそのマスターを殺した存在(レッドフード&チップ・ザナフ)をサーヴァントと認識しました
※脱落したサーヴァントとの戦闘らしき事件の調書から炎、あるいは熱に関する能力を持ったサーヴァントがいる可能性を認識しました。
※素顔のレッドフードに接触しました、レッドフードが本来のゴッサム住民である可能性に気が付きました。
※ヘルヘイムの森と怪物(インベス)、アーマードライダーについて大まかな概要を知りました。
※犬養舜二をマスターだと認識しています。また彼のサーヴァントが戦極ドライバーを量産していると考えています。
※二体のサーヴァントを従えるマスター(呉島貴虎)に僅かな既視感を覚えています。
ただし長時間経過しても正体がわからなかった場合は既視感は気のせいだと判断します
【ランサー(ジェイド・カーティス)@テイルズオブジアビス】
[状態]健康
[装備]マルクト帝国の士官服
[道具]フォニックランス
[所持金]御剣に依存
[思考・状況]
基本:御剣に従う
1. 他サーヴァントの情報をもっと集められないか
2. 殺人鬼(デスドレイン)が犯行現場に残した黒いタールの残留を調べたい
3.ヘルヘイムの森、グラスホッパー、二体のサーヴァントを従えるマスター(呉島貴虎)を強く警戒する
[備考]
※殺人鬼(デスドレイン)がサーヴァントであると疑っています。犯行現場に残したアンコクトンの残骸を調べれば、確証に変わります
※ヤモト・コキが聖杯戦争の参加者である可能性は非常に高いと認識しています
※キャスターとそのマスターを殺した存在(レッドフード&チップ・ザナフ)が間違いなく聖杯戦争の関係者であると考えています
※脱落したサーヴァントとの戦闘らしき事件の調書から炎、あるいは熱に関する能力を持ったサーヴァントがいる可能性を認識しました。
※アサシン(チップ・ザナフ)と素顔のレッドフードに接触しました、レッドフードが本来のゴッサム住民である可能性に気が付きました。
※ヘルヘイムの森と怪物(インベス)、アーマードライダーについて大まかな概要を知りました。
※犬養舜二をマスターだと認識しています。また彼のサーヴァントが戦極ドライバーを量産していると考えています。
[全体備考]
※ウォッチャー(DJサガラ)が戦極ドライバーを進呈するために参加者のいずれかに接触しようとしています。
最終更新:2016年10月04日 20:16