黒ずくめの男だった。かぶった帽子、羽織ったロングコート、上下の服。
「魁𩲃𩵄䰢魓𩳐魒魁𩲃𩵄䰢魓𩳐魒――」
黒い声、恐らく心も漆黒の意志に満ちていた。
その男は屋敷の入口前に座り、北斗七星の呪を唱え、机に据えた紙に筆を滑らせて文字を書く。
男の顔の右には三本線の切り傷があり、瞳は蒼い色だ。右目は青紫水晶を磨いて出来た翠竜晶を填めた義眼である。
「一元真氣入筆――」
発気とともに書き終えた紙――様々な術で『符』と呼ばれるそれを右脇に置き、新しい紙を机に乗せた。
「魁𩲃𩵄䰢魓𩳐魒魁𩲃𩵄䰢魓𩳐魒――」
黒い声、恐らく心も漆黒の意志に満ちていた。
その男は屋敷の入口前に座り、北斗七星の呪を唱え、机に据えた紙に筆を滑らせて文字を書く。
男の顔の右には三本線の切り傷があり、瞳は蒼い色だ。右目は青紫水晶を磨いて出来た翠竜晶を填めた義眼である。
「一元真氣入筆――」
発気とともに書き終えた紙――様々な術で『符』と呼ばれるそれを右脇に置き、新しい紙を机に乗せた。
男は妖(バケモノ)退治の符咒士。復讐のために自ら名を捨て、使う獲物から『鏢』と名乗る。
何枚も符を書いているうちに、墨汁が切れたので鏢は硯に水を注いで墨をすり、指を鏢で切って血を墨汁に混ぜ込んだ。
符は正しい文字と正しいやり方であれば効力を発揮する。別に墨汁に血を混ぜ込む必要などないのだが鏢はあえてそうした。
あの目の前で殺された少女の復讐を己のものとするために。
あの少女の囚われの身でなお輝きを失わない強い意志。あれは鏢が出会い、鏢の運命を変えた蒼月潮のそれによく似ていた。だから復讐を誓う気になった。
『妖共。貴様らは子供を殺した。なぜ私を蘇らせたのかは分からないが、こうして生きている以上貴様らには必ず報いを受けさせてやる』
符を書く腕は滑らかに、されど心は激情のままに。鏢は符を書き留めていく。
符は正しい文字と正しいやり方であれば効力を発揮する。別に墨汁に血を混ぜ込む必要などないのだが鏢はあえてそうした。
あの目の前で殺された少女の復讐を己のものとするために。
あの少女の囚われの身でなお輝きを失わない強い意志。あれは鏢が出会い、鏢の運命を変えた蒼月潮のそれによく似ていた。だから復讐を誓う気になった。
『妖共。貴様らは子供を殺した。なぜ私を蘇らせたのかは分からないが、こうして生きている以上貴様らには必ず報いを受けさせてやる』
符を書く腕は滑らかに、されど心は激情のままに。鏢は符を書き留めていく。
「痛ッ」
何者かが結界に触れて、鏢は一時筆を止めた。
「何だこれは」
黒のジャケットにTシャツ、デニムパンツにサングラス。顎に髭。鏢が似たところ三十歳前後といったところの男である。
この男の異様なところはサングラスをかけていても頬まで見えている傷跡。そして手にした刀である。
男は指で触れ、何か電流を流した壁らしきものを認識していた。
「それは結界だ。私が作った。邪魔をされると困るのでな」
結界を破れない人間なら用はない。鏢は符に目を移した。
「結界か。修験道では聞いたことあるが本当にこんな物あるとは知らなかったぜ」
ただの人間なら気にする必要などない。だがなぜか鏢は男を無視できなかった。
「随分と用意周到だが、お前は乗る気なのかよ」
鏢は柳眉を吊り上げ男をにらみつけた。流石に殺しの準備扱いは心外だ。
「お前こそ殺し合いに乗っているのか」
そう言うと男の表情が一変、憤怒をあらわにした。
「誰が小娘をなぶり殺す外道共の言いなりになるものか。奴らにはこの世に生まれてきたことを後悔するまで泣き叫ばせてやるぜ」
男の言葉に、表情に対し鏢は凄まじい気を感じとった。人外の領域へとはみ出した怒気。
それは自分と同質のものであると鏢は看破した。
つまり、この男も恐らくは――
何者かが結界に触れて、鏢は一時筆を止めた。
「何だこれは」
黒のジャケットにTシャツ、デニムパンツにサングラス。顎に髭。鏢が似たところ三十歳前後といったところの男である。
この男の異様なところはサングラスをかけていても頬まで見えている傷跡。そして手にした刀である。
男は指で触れ、何か電流を流した壁らしきものを認識していた。
「それは結界だ。私が作った。邪魔をされると困るのでな」
結界を破れない人間なら用はない。鏢は符に目を移した。
「結界か。修験道では聞いたことあるが本当にこんな物あるとは知らなかったぜ」
ただの人間なら気にする必要などない。だがなぜか鏢は男を無視できなかった。
「随分と用意周到だが、お前は乗る気なのかよ」
鏢は柳眉を吊り上げ男をにらみつけた。流石に殺しの準備扱いは心外だ。
「お前こそ殺し合いに乗っているのか」
そう言うと男の表情が一変、憤怒をあらわにした。
「誰が小娘をなぶり殺す外道共の言いなりになるものか。奴らにはこの世に生まれてきたことを後悔するまで泣き叫ばせてやるぜ」
男の言葉に、表情に対し鏢は凄まじい気を感じとった。人外の領域へとはみ出した怒気。
それは自分と同質のものであると鏢は看破した。
つまり、この男も恐らくは――
「私は鏢。字だ。本名は捨てた」
故に鏢は己から名乗る気になった。
「俺は護。土方護だ」
故に鏢は己から名乗る気になった。
「俺は護。土方護だ」
「しかし、なぜ私に近づこうと思った」
「こんな出鱈目な場所にいきなり飛ばされるようなオカルト現象は俺の手に負えねえ。
だから知っていそうな人物を探してみようと思ったら、お前が怪しげ声で何やら書いていたからな。試しに話しかけようとした」
「見えるのか?」
「硯で墨をする音、紙の上に筆を走らせる音が聞こえた。ついでに言えばこのサングラスは特別製でな。盲目の俺の網膜に超音波の反響音で解析した映像を見せてくれる」
護はサングラスのフレームを叩いて言った。
「だから首輪の紋章とやらは見えん。どんな形だ?」
「形状しがたい、私も見たこともない紋だ」
「解けるか?」
「分からん。下手に干渉すれば爆発するかもしれん。師なら解く法を知っているかもしれんが、生憎私が教わったのは妖を滅する術だけだ」
しばらく二人は黙り込んだが。
「そうか、じゃあそういうことだな」
護は笑みを浮かべて言った。到底殺し合いに反対などとは思えない殺気に満ちた笑みだ。
「ああ、この殺し合いに乗り気な奴を捕らえて試すしかあるまい」
鏢もまた同様の笑みを浮かべた。
「そうだ。この場で外道共の言いなりになり、これに乗じて殺人欲を満たそうとする輩など、生きている値打ちなどありはしねぇ」
「私はそれでいい。あの子の復讐のためなら手段は選ばん。だがお前は殺し合いに乗っていないのだろう? それでいいのか」
「勘違いするなよ。殺し合いに乗らないといっても、俺自身の命が脅かされれば敵は殺すし、必要とあらば何人の命も断つ!
それがこの目と引き換えに得た教訓だ」
護は鏢に、否、周り全てのものに強烈な殺気を放った。
「……それでも子供には甘いんだな、お前は。私が言えた義理ではないがな」
殺気を受け止めた鏢の言葉に対し、護はふんと鼻を鳴らした。
「ところでこの場であったのも何かの縁。お前は俺の知らない珍現象を色々知っているようだし、護衛として俺を雇ってみないか?」
「この程度の結界を破れずして、お前はあの妖共をどうにか出来るというのか」
鏢の言葉に対し、護は唇を吊り上げた。
「お前の術に合わせて、俺も一つ芸を見せてやろう」
そう言って護は笑みを止め腰を落とし、刀の柄に手を添え鯉口をきった。
居合腰になったその姿から、人の域を外れた鬼気が護より発せられる。
一瞬、閃光が走った。
その光は壁を断ち、鏢の貼った符を両断した。
鏢は刀が抜かれる瞬間、斬りつける動作がまるで見えず、否、認識できず斬り終え鞘に納める動きしか分からなかった。
抜きの際に現れる動作の兆し『起こり』を消し去った、物理的速度を超越した神速にして得意精妙なる抜刀術。鏢は思わず見惚れた。
「こいつはまあ、曲芸の類だがな。実戦ならもう少しいいところを見せられるつもりだ」
鏢は唸った。これが曲芸なら世の殆どの武術師は京劇扱いだ。
「腕が達人なら、刀も霊刀、いや妖刀の類か。いずれにしても両者どちらが欠けても符は絶てん」
鏢は護があの妖共を滅するという自信と実力を認めた。
「実力は分かった。共に動くもいいが、私はもう少し符を書き溜めておきたい。妖や異界に関し私の知る限りを話すから、そこで入り口を見張っていてはくれないか?」
鏢の言葉を聞いて護は、斬った入口の柱に背を預け腕を組んだ。
「さっきのお前の鬼気、そいつはただ他人の復讐だけで出せるものじゃなかったぜ」
符を書き続ける鏢に対し、護はからかうように言った。
「お前も先ほどの笑み、あれは人を外れた者だけが浮かべるものだ」
「お互い『鬼』の類ってやつか」
鏢と護は同時にくつくつと笑った。
「こんな出鱈目な場所にいきなり飛ばされるようなオカルト現象は俺の手に負えねえ。
だから知っていそうな人物を探してみようと思ったら、お前が怪しげ声で何やら書いていたからな。試しに話しかけようとした」
「見えるのか?」
「硯で墨をする音、紙の上に筆を走らせる音が聞こえた。ついでに言えばこのサングラスは特別製でな。盲目の俺の網膜に超音波の反響音で解析した映像を見せてくれる」
護はサングラスのフレームを叩いて言った。
「だから首輪の紋章とやらは見えん。どんな形だ?」
「形状しがたい、私も見たこともない紋だ」
「解けるか?」
「分からん。下手に干渉すれば爆発するかもしれん。師なら解く法を知っているかもしれんが、生憎私が教わったのは妖を滅する術だけだ」
しばらく二人は黙り込んだが。
「そうか、じゃあそういうことだな」
護は笑みを浮かべて言った。到底殺し合いに反対などとは思えない殺気に満ちた笑みだ。
「ああ、この殺し合いに乗り気な奴を捕らえて試すしかあるまい」
鏢もまた同様の笑みを浮かべた。
「そうだ。この場で外道共の言いなりになり、これに乗じて殺人欲を満たそうとする輩など、生きている値打ちなどありはしねぇ」
「私はそれでいい。あの子の復讐のためなら手段は選ばん。だがお前は殺し合いに乗っていないのだろう? それでいいのか」
「勘違いするなよ。殺し合いに乗らないといっても、俺自身の命が脅かされれば敵は殺すし、必要とあらば何人の命も断つ!
それがこの目と引き換えに得た教訓だ」
護は鏢に、否、周り全てのものに強烈な殺気を放った。
「……それでも子供には甘いんだな、お前は。私が言えた義理ではないがな」
殺気を受け止めた鏢の言葉に対し、護はふんと鼻を鳴らした。
「ところでこの場であったのも何かの縁。お前は俺の知らない珍現象を色々知っているようだし、護衛として俺を雇ってみないか?」
「この程度の結界を破れずして、お前はあの妖共をどうにか出来るというのか」
鏢の言葉に対し、護は唇を吊り上げた。
「お前の術に合わせて、俺も一つ芸を見せてやろう」
そう言って護は笑みを止め腰を落とし、刀の柄に手を添え鯉口をきった。
居合腰になったその姿から、人の域を外れた鬼気が護より発せられる。
一瞬、閃光が走った。
その光は壁を断ち、鏢の貼った符を両断した。
鏢は刀が抜かれる瞬間、斬りつける動作がまるで見えず、否、認識できず斬り終え鞘に納める動きしか分からなかった。
抜きの際に現れる動作の兆し『起こり』を消し去った、物理的速度を超越した神速にして得意精妙なる抜刀術。鏢は思わず見惚れた。
「こいつはまあ、曲芸の類だがな。実戦ならもう少しいいところを見せられるつもりだ」
鏢は唸った。これが曲芸なら世の殆どの武術師は京劇扱いだ。
「腕が達人なら、刀も霊刀、いや妖刀の類か。いずれにしても両者どちらが欠けても符は絶てん」
鏢は護があの妖共を滅するという自信と実力を認めた。
「実力は分かった。共に動くもいいが、私はもう少し符を書き溜めておきたい。妖や異界に関し私の知る限りを話すから、そこで入り口を見張っていてはくれないか?」
鏢の言葉を聞いて護は、斬った入口の柱に背を預け腕を組んだ。
「さっきのお前の鬼気、そいつはただ他人の復讐だけで出せるものじゃなかったぜ」
符を書き続ける鏢に対し、護はからかうように言った。
「お前も先ほどの笑み、あれは人を外れた者だけが浮かべるものだ」
「お互い『鬼』の類ってやつか」
鏢と護は同時にくつくつと笑った。
常識の枠を踏み越えた行為を人は時に『狂気』と呼ぶ。その道を進む者を『鬼』と呼ぶ。
『復讐鬼』と『剣鬼』。二匹の人を外れ、なお人の怒りを持つ鬼達が向かう場所は、屍山血河を踏み越えた先にある。
『復讐鬼』と『剣鬼』。二匹の人を外れ、なお人の怒りを持つ鬼達が向かう場所は、屍山血河を踏み越えた先にある。
【鏢@うしおととら】
[状態]:健康
[装備]:縄鏢@うしおととら、符
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:メフィスとフェレスという妖を滅する。
1:殺し合いに乗る気はないが、乗った相手には容赦しない。
2:首輪の呪いはともかく、機械はどうしようもないので外せそうな人間を探す。
[状態]:健康
[装備]:縄鏢@うしおととら、符
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:メフィスとフェレスという妖を滅する。
1:殺し合いに乗る気はないが、乗った相手には容赦しない。
2:首輪の呪いはともかく、機械はどうしようもないので外せそうな人間を探す。
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※参戦時期は死亡後です。
【縄鏢@うしおととら】
縄は女の髪とワイヤーをより合わせた物。それに鏢を取り付けている。
縄は女の髪とワイヤーをより合わせた物。それに鏢を取り付けている。
【土方護@死がふたりを分かつまで】
[状態]:健康
[装備]:視覚補助サングラス@死がふたりを分かつまで、明神切村正@英霊剣豪七番勝負
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:この『戦場』と『戦う理由』が存在するなら戦うだけだ。
1:襲い掛かるなら女子供だろうと容赦はしない。最後にはあのメフィスとフェレスという餓鬼を斬る。
2:首輪を何とか外す。
[備考]
※参戦時期は最終回で遥と別れた後です。
[状態]:健康
[装備]:視覚補助サングラス@死がふたりを分かつまで、明神切村正@英霊剣豪七番勝負
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:この『戦場』と『戦う理由』が存在するなら戦うだけだ。
1:襲い掛かるなら女子供だろうと容赦はしない。最後にはあのメフィスとフェレスという餓鬼を斬る。
2:首輪を何とか外す。
[備考]
※参戦時期は最終回で遥と別れた後です。
【視覚補助サングラス@死がふたりを分かつまで】
超音波の反響音によって得られた情報をポリゴンフレームの映像に解析し、それを網膜投影することで視覚を獲得している。
顔の凹凸は近くまで行かないとわからないが、声紋を登録することで個人の判別ができる。
超音波の反響音によって得られた情報をポリゴンフレームの映像に解析し、それを網膜投影することで視覚を獲得している。
顔の凹凸は近くまで行かないとわからないが、声紋を登録することで個人の判別ができる。
【明神切村正@英霊剣豪七番勝負】
サーヴァント・千子村正が打った刀。
鉄だろうが金剛石だろうがたやすく切る切れ味を誇る。
その代わり、妖刀まがいの代物になってしまい、並の人間には扱えない。
護はその剣の執着心によって精神的な変化がない。
サーヴァント・千子村正が打った刀。
鉄だろうが金剛石だろうがたやすく切る切れ味を誇る。
その代わり、妖刀まがいの代物になってしまい、並の人間には扱えない。
護はその剣の執着心によって精神的な変化がない。