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街(Pine Version) ◆7pf62HiyTE



Section 06 伝説の戦士


「ったく、面倒な事押しつけやがって霧彦の野郎……」

 そう言いながら乱馬はゆっくりと中学校の校舎へと入っていく。

「そりゃ元々中学校に行くつもりはあったけどよぉ……」

 その時、前方がまばゆく光っているのが見えた。

「何だ? まさか……誰か戦っているのか!?」

 それを見て乱馬は走り出し大急ぎでその場所に向かう。そして、

「なっ……」


 眼前では――


「イエローハートは祈りのしるし!」


 黄色のひらひらとした衣装に身を包んだ少女が指でハートを作り今一度パンと手を叩く。


「とれたてフレッシュ、キュアパイン!」


 そう言ってポーズを取るキュアパインに思わず乱馬の思考も一瞬停止してしまう。が、


「レッツ、プリキュア!」


 そう言ってポーズを決めるのを見て正気に戻り、


「プリキュア……まさか……」
「え? もしかして……」


 祈里ことキュアパインは目の前の少年こと乱馬が霧彦だけではなくラブ達とも遭遇した可能性を考える、しかし乱馬の返答はキュアパインの想像を超えるものであった。


「ダークって割には妙に明るすぎるじゃねぇか!」
「えええぇぇ!? 何言ってるの!?」
「テメェじゃねぇのかよ、ダークプリキュアって奴は!?」
「ダークプリ……だから何の事? わけがわから……」


 と、躊躇している内に乱馬がキュアパインの横を駆け抜け様とする。


「(確か中にはヴィヴィオと祈里がいるんだったな……あいつら無事か!?)」


 それに何とか気づき、


「行かせない!」


 と、乱馬を全力で掴みよりそれを阻む。


「ぐっ……すげぇパワーだ……」


 乱馬は拘束を振り払い間合いを取り、


「ちっ……仕方ねぇ、テメェを倒さねぇと先には行けねぇ様だな」


 そう言いながら臨戦態勢を整えていく、その手に巻かれたスカーフを揺らしながら。


「そのスカーフ……やっぱり霧彦さんの……」
「(アイツの事知ってんのか……じゃあコイツが霧彦とヴィヴィオを襲った……白い……って白じゃなくて黄色の様な……流石に違うか?)」


 そう考えながら乱馬は懐に入り込みキュアパインへと拳を振り下ろそうとするがキュアパインは後方へと高く跳び回避しそのままキックの体勢に入り乱馬へと迫る。


「くっ」


 乱馬は後方に飛んで回避し直撃を免れる。だがキュアパインの蹴りは廊下を粉砕する程の破壊力を見せる。


「なんつー馬鹿力だ……こんなもん食らったらタダじゃすまねぇ……」


 そう口にする間にキュアパインが乱馬の懐まで飛び込みストレートを打ち込もうとする。乱馬は何とかそれに気づき両腕を組んでそれを防ぐ。
 だが、その衝撃は凄まじく一撃で数メートル後方まで吹っ飛ばされる。


「しかも速ぇ……格闘はパワーだけじゃ勝てねぇがスピードまでとはな……」


 乱馬はプリキュアの力が圧倒的なものである事を察した。先に戦ったナスカ・ドーパント以上ですらとも感じている。


「けどな、それならそれでやりようは幾らでもあるんだよ!」


 そう口にし近くの教室へと飛び込んでいく。


「待って!」


 逃げる乱馬を見てキュアパインも教室へと向かうがドアを開いた瞬間、


「え!?」


 無数の机や椅子が一斉にキュアパインの方へと飛んできたのだ。突然の事に対処する事が出来ず雨の様に落下するそれらを一斉に受ける事となった。


「暫くそこで寝てやがれってんだ!」


 教室に飛び込んだ乱馬は急いで机や椅子をかき集めキュアパインが入ったと同時に一斉に投げつけたのだ。
 そう言いつつ、机や椅子の山を飛び越え教室を出て行った。


「とりあえず先に2人が無事かどうかを確かめねぇとな……」


 そうして乱馬が走り去った後、机と椅子の山からキュアパインが抜け出てくる。


「待って……」


 そうしてすぐさま乱馬の追跡を再開する。その後、物陰に潜んでいた『何者か』もまたゆっくりと動き出す――


 結論から述べれば、この戦いは本来ならば避けられる戦いである。
 乱馬はそもそも女を本気で戦い倒す事が出来ないし、祈里にしても内向的で動物が大好きな優しい少女故に本気で相手を倒す事など出来よう筈も無い。
 そして乱馬は霧彦からヴィヴィオと祈里の保護を頼まれていた、そして祈里はヴィヴィオを守ろうとしていた状況、普通に考えればまず戦いにはなりえない。
 だが幾つもの不幸な偶然が起こりえない筈の戦いへと導いてしまったのだ。

 まず祈里は霧彦の向かった方向で起こった竜巻を見て霧彦に何かあったのではと考えた。
 その後、そこから霧彦のスカーフを持った乱馬が現れる。つまり乱馬が霧彦を仕留めスカーフを戦利品として手に入れたと誤解したわけだ。
 勿論、それだけならば若干勇み足かもしれない。
 だが、いきなりほむらに銃を突きつけられそのまま道具の一部を奪取された経験もあり、祈里は知らず知らず警戒心を強めていた。
 重ねてヴィヴィオを絶対に守らなければならない状況、それ故に焦りを生み先走り誤った判断をしてしまったというわけだ。

 一方の乱馬の方はそもそもの前提として祈里がプリキュアである事を知らない。霧彦と情報交換をしたとはいえ霧彦自身がプリキュアの事を聞いていない為、それを知る事が出来なかったという事だ。
 そして、名簿にある『ダークプリキュア』という名前、闇という言葉から禍々しい悪しき者だと推測するのも当然の流れだ。
 それを踏まえてプリキュアが悪人である可能性を考えるのもあり得ない話では無いだろう。
 勿論、これは極端な話ではあるがどちらにせよ知らない人から見れば、善人か悪人かすらもわからない正体不明の存在であり警戒すべき対象であると考えても不思議は無い。
 そんな得体の知れない存在が守るべき2人のいる中学校に現れたのだ、乱馬の早計な判断も仕方ないだろう。
 加えて、霧彦からン・ダグバ・ゼバの外見情報(白と金に彩られた外見)から奴が現れた可能性も一瞬考えた事を付記しておく(冷静に考えて白と黄色だと全然違う為、それはすぐに否定はしているが)。



「はぁ……はぁ……ちっくしょう……2人は何処だ……?」

 キュアパインへの対処は2人を見つけてからと考え、彼女を振り切りつつ校内を探索していた乱馬だったがすぐさまキュアパインが追撃してくるためそれは思うように行かなかった。
 前述の通り、乱馬は女性を相手に本気で殴ったりする事は基本的に無い。それ故、乱馬自身は相手が危険人物であってもまずは2人の保護を優先したのである。それ以上に、

「それにしてもあのキュアパインの口ぶり……なんか変なんだよなぁ……」

 キュアパインの言動にどこか違和感を覚えていた。そう、どこか根本的な所で勘違いをしている様な――

 そんな中、乱馬が今現在いるのは家庭科室である。

「ここにもいね……」
「はぁ……はぁ……ようやく見つけた!」


 その時、キュアパインが家庭科室のドアの前までやって来たのだ。


「ちっ、もう追いついてきやがったか!」
「ヴィヴィオちゃんは私が……守る!」


 そう良いながらリンクルンにキュアパインのリンクルンに宿りし精霊ピックルンキルンを差し込み回し、


「えいっ! 癒やせ、祈りのハーモニー! キュアスティック、パインフルート!」


 そう口にしてリンクルンからフルート型の武器であるパインフルートを取り出し構え、


「ヴィヴィオを守る……まさか!?」


 キュアパインの台詞から、乱馬は自身が勘違いをしていた事を察した。だが、既にキュアパインはパインフルートを奏で、


「悪いの、悪いの、飛んでいけ!!」


 そう良いながらパインフルートを振りかざす、


「俺が悪人かよ!?」


 そう叫ぶ乱馬に気づくこと無く、


「プリキュア・ヒーリング……………………フレーッシュ!!」


 パインフルートからハート型の光線が乱馬へと放たれる。


「やべぇ……今からじゃかわせねぇ……」


 今のは間違いなくプリキュアの必殺技、そのパワーから考え直撃を受ければ致命傷となるのは明白、
 乱馬は自身の危機を悟ったが――

「冗談じゃねぇ、こんな所で終われるかよ……どうする……」


 この状況を切り抜ける手を何とか考える。


「猛虎高飛車で和らげるか床をぶち抜いて穴に飛び込む……いや無理だ!」


 ナスカ・ドーパント戦で何度か利用した猛虎高飛車を使い回避する事を一瞬考えたがすぐに不可能だと判断した。
 今の乱馬の状態では大した威力が発揮できないからだ。


「くそぉ……こんな所で終わるなんて……こんなんだったら霧彦の頼みなんて聞くんじゃ……
 待てよ……猛虎高飛車は使えねぇって事は……」


 その事に気づいた乱馬はすぐさま構える――



 乱馬が度々使用した猛虎高飛車、これは元々ある技を応用し編み出した技である。
 それは乱馬の好敵手とも言うべき良牙が習得した『ある技』の謎を解明しようとした時だ。
 その威力は絶大で一度は破れた――だが、良牙に言わせればそれでも未完成という話である。
 そしてその謎自体は何とか解明した――しかし、解明したものの乱馬には完成させる事が不可能という致命的な事実が判明したのだ。

 何故、乱馬には完成させる事が出来ないのか?
 それはその技が『不幸で気が重くなればなるほど破壊力を増す』技だからである。
 基本的に(災難に巻き込まれる事は多いが)楽天的に困難を乗り越える事の多い乱馬ではそれを完全に使いこなす事は不可能である。
 とはいえ、試行錯誤を重ねる内に技の特性から乱馬はある事に気が付いた。

 『その技』が乱馬自身の気に合わないのであれば――『その技』を応用し乱馬自身の気に合う技を編み出せば良い。

 その技こそが猛虎高飛車、その技は『強気』の力を利用――つまり、強気であれば強気である程破壊力を増すという事だ。

 思い出してほしい、ナスカ・ドーパント戦の時は強気な態度で臨んでおり、更に言えば一見すれば互角の戦いを繰り広げていたが故に乱馬は内心でナスカ・ドーパントに余裕で勝てると考えていた。
 それ故に猛虎高飛車はその力を存分に発揮したのだ。

 だが、今はそうではない。キュアパインの必殺技が炸裂したことで乱馬自身最大の危機が訪れたのを察した。
 こんな状況で強気でいられるわけもないだろう? この状況では猛虎高飛車は使用不可能だ。

 が――逆に考えてみよう。
 確かにこんな状況では強気でいられるわけも無い。
 だが、何故こんな理不尽な目に遭うのかという状態だ。
 そう考えると気が重くなってくるのではなかろうか?

 もうおわかりであろう――通常であれば乱馬にとって実戦レベルでは使用不可能な『あの技』――
 それが使えるのではなかろうか――

 その技はこの地でも本来の使い手(元々、洞穴で閉じ込められた時に出会った土木修行者に教えられた技)である良牙の手によって完成版が放たれた。
 その威力は絶大――風都最強最悪の仮面ライダー、そしてBADANが神の器として生み出した改造人間をも怯ませる程の――

 勿論、この状況でも乱馬では完成版を放つ事は不可能――だが――
 この場を切り抜ける程度の威力を発揮できる筈である――故に乱馬は放つ――

 不幸を呼ぶ禁断の技を――



「獅子咆哮弾!!」



 キュアパインの放ったプリキュア・ヒーリング・フレッシュ、
 乱馬の放った獅子咆哮弾は乱馬のすぐ眼前でぶつかり合う――

 確かに今の乱馬の放った獅子咆哮弾は平時の乱馬では考えられないぐらいの威力を発揮する――
 だがそれでもプリキュア・ヒーリング・フレッシュを打ち破る事は決して無い――

 まず、いくら相応の威力を発揮するとはいえ乱馬ではその力を十二分に発揮できないのは既に説明した通り。
 完成版ならいざ知らず、不完全版では到底プリキュアでも苦戦するソレワターセを撃破する程の最強クラスの技を打ち破る事は不可能だ。
 いや、完全版であっても正直厳しいかも知れない――

 その理由は技の特性にある。
 説明した通り獅子咆哮弾は不幸による重い気を扱う禁断の技、その力を求めるべく使用者は不幸のどん底へと落ちていくある意味救いの無い技である。
 対しスウィーツ王国に伝わる伝説の戦士プリキュアの力は不幸から人々を守り幸福にする為のもの――そう、不幸を源とする獅子咆哮弾とは全く真逆の性質を持っていると考えて良い。
 特にその必殺技は浄化に特化していると言えよう――

 故に――獅子咆哮弾の不幸のエネルギーは浄化され――そのまま乱馬へと押し返される結果となる――


「やった……の?」


 その結末に驚いたのは他でも無いキュアパインだ。何しろ家庭科室の床に大きなクレーターが刻まれているのだから。
 家庭科室に奔る水道管が破損し所々水が噴き出しているのが見える。
 それ故にキュアパインにとっては不可解なのだ。プリキュアの技は救い守る為のもの、対象以外に損害が出る事などまず起こりえない。
 つまり――クレーターを刻み込んだのはキュアパインでは無いという事だ――


 そして、一瞬の躊躇が最大の隙を生んでしまった――


「火中天津甘栗拳!!」


 甲高い少女の声が響く――


「はっ!!」


 キュアパインは何とか反応し繰り出される無数の拳を回避する。


「まさか……」
「今度ばかりは本当に死ぬかと思ったぜ……」


 獅子咆哮弾を放とうともプリキュア・ヒーリング・フレッシュを押し返す事が出来ない事は乱馬自身早々に気が付いた。
 このままでは獅子咆哮弾ごと押し返されて飲み込まれてしまうと考える――
 だからこそ乱馬はすぐさま発想を転換し打ち出す方向を下方に修正し、そのまま高く飛び上がる――
 そう、両者の技がぶつかり合い何とか押しとどめられていたエネルギーを全て床に叩き付け上方に飛び上がり天井に大穴を開けて力の濁流をやり過ごしたのだ。
 その為、乱馬がこの技で受けたダメージは比較的軽微――元々プリキュア・ヒーリング・フレッシュ自体殺傷能力がそこまであるわけではない為、ダメージの大半は押し返された獅子咆哮弾によるものだが――


「え? ちょっと待って? あなた……誰?」


 しかし一方のキュアパインの脳裏には疑問符しか浮かばない。
 最初は必殺技を何とか回避した乱馬が反撃に出たのだと思った。
 だがキュアパインから見てそれは違ったのだ――
 確かに相手の着ている服自体は乱馬のものだ――しかし、


「あぁ? 何言ってやがる?」


 そう口にする者の服の切れ目から柔らかな膨らみが2つ顔を出す。それは目の前の者が女性である事の証拠だ。
 ともかく、疑問を感じるものの何とか対処しなければならないと考えたが――


「あっ、フルートが……」


 キュアパインの手に握られていた筈のパインフルートが無くなっている。


「探しているのはこいつか?」


 目の前の少女がパインフルートを振りかざすのが見える。
 火中天津甘栗拳――それはその名の如く火の中にある天津甘栗を熱さを感じる前に拾う程の高速な動きで繰り出される超高速の正拳突きである。
 それ故にスピードに特化した必殺技と言えよう――少女はキュアパインの必殺技の発生源であるパインフルートを奪取しそれを封じたというわけである。

「これでもうさっきの技は使えねぇな?」
「え……まさか……」

 その口ぶりからキュアパインは気づく――目の前の少女の正体に――だがそんな事があり得るのだろうか?

 読者諸兄にはもはやその正体はおわかりであろう――
 目の前の少女の正体は女性化した乱馬だ(以後、女性化した乱馬を『らんま』と呼称させていただく)――
 既に説明したが乱馬達は呪泉郷に落ちた事により水をかぶる事で変身する特異体質となった。
 では、乱馬は一体何に変身するのだろうか?
 乱馬が落ちたのは娘溺泉――娘、つまりは女性に変身するという事だ。

 先の激突により家庭科室の水道が破損し水が噴き出した――天井をぶち破る過程でその水を浴びてしまい女性化してしまったという事である。



「(とはいえ、根本的な解決にはなってねぇんだよな……必殺技を封じただけでパワーとスピードはそのままだからな……どうする……)」


 互いに緊張が奔るその時、何かが2人の間に飛び込んできた。


「何だ!?」
「クリス!?」


 それは小さなウサギのぬいぐるみ――クリスだった。


「なんだコイツは?」
「クリス、どうして来たの? ヴィヴィオちゃんは……」

 そう問いかけるキュアパインに対しクリスは全力で身振り手振りで伝えようとする。

「なんだ……」

 実の所、クリスは最初から一連の戦いをずっと見ていたのだ。
 確かに祈里からヴィヴィオの様子を見る様お願いされたが、仮に誰かが来たところでヴィヴィオが眠り続けている状況ではどうする事も出来ない。
 それ故に祈里ことキュアパインの方へと向かい乱馬との戦いを見ていたのだ。
 その過程で乱馬がキュアパインの追撃を避けつつヴィヴィオと祈里を探しているのを目の当たりにした。
 そして察したのだ、目の前の乱馬はヴィヴィオ達を襲うためでは無く保護する為に駆けつけた事を――
 だからこそ何としてでも両者の誤解を解くべく両者の間へと飛び込んだのである。


「……え、それ本当……?」
「(こくこくこくこく)」

「おーい……」

「じゃあもしかして……?」
「(こくん)」

「俺を放置して話進めるなよ……」


「ごめんなさい!!」

 と、らんまに頭を下げるキュアパインであった。


「その前に俺に何がどういう事か説明しろ!!」


 クリスが何を言っているのかわからず、突然態度を変えたキュアパインに対し思わず叫ばずにはいられないらんまであった。



Section 05 Breath of Wind


 飛竜昇天破――それは、一言で言えば温度差の魔拳である。
 熱い闘気を放つ相手を螺旋のステップに巻き込む事により闘気の渦を発生させる。
 そこに冷気を送り込んだ時、熱い闘気は冷気に押される事により上昇気流となり――

 竜巻を発生させる――それはまさしく天へと昇る飛竜の如く――

 乱馬はナスカ・ドーパントの猛攻を氷の様に冷静となり回避しつつ螺旋のステップを踏み続けナスカ・ドーパントを知らず知らずの内に螺旋へと巻き込んだ――
 そしてその中心部で乱馬はスクリューアッパーを叩き込む――
 それはナスカ・ドーパントの動きによって発生した熱い渦の中心に冷たい冷気を一気に送り込み――

 飛竜昇天破は発動し竜巻を発生させる程の一撃となったのだ。

 温度差という性質上、相手の発する闘気が熱ければ熱い程その威力は倍増する――つまり、相手が強ければ強い程その破壊力は倍増するという事だ。

 そう、ナスカ・ドーパントのパワーが強ければ強い程、飛竜昇天破の威力は増す――決まればそれこそメモリをブレイクする事も可能かもしれないだろう――



 だが――



 飛竜昇天破によって発生した竜巻が止む――ナスカ・ドーパントは腰を落としながらも未だその姿を保っている。

「まさか君にこんな隠し球があったなんてね……」

 竜巻に巻き込まれたナスカ・ドーパントはその渦に飲み込まれそうになりつつも何とか翼を展開し体勢を保ち、地面に激突する衝撃を大幅に和らげる事に成功した。
 それでもその衝撃は強く未だ立てないでいる。

「何言ってやがる、コイツが都合良く飛び出なきゃどうなっていたか」

 と、乱馬は先程飛び出た『あるもの』を拾い上げる。

「そうか、風都は僕では無く君の味方をしてくれたか……」

 それは乱馬が何気なく懐に入れていたふうとくんキーホルダーである。

「お前……コイツが何か知っているのかよ?」
「ああ、よく知っているよ。実はそれ、僕がデザインしたんだよ……小学三年生の時コンクールで優勝してね」
「ホントかよ!?」

 衝撃的な事実に驚く中、

「それに……テメェ、本気で俺を倒そうなんて考えて無かっただろ」
「何故そう思うんだい?」
「放った闘気が俺が思っていたより弱かったからな、本気だったらあの程度じゃすまねぇよ」

 前述の通り、相手の闘気が強ければ強ければその威力は増す。逆を言えば闘気が弱い――言い換えれば本気で来なければ威力は下がるという事だ。
 技の発動の為、氷の心を持つ必要があり、主催側に対する怒りから熱くなりすぎていた乱馬の頭は急速に冷えていった。
 そのお陰で冷静になる事が出来、ナスカ・ドーパントの動きの違和感に気づけたのだ。
 そして想定したよりも威力が出なかった事で推測は確証に変わったという事だ。


「なるほど、僕が本気で来ていればメモリブレイクされていたかもしれないわけか……危なかったよ。それで、まだやるつもりかい?」
「連中の仲間じゃねぇんだろ? 手加減されたのが気にいらねぇけどこれ以上戦っても仕方ねぇ。
 だが話だけは聞かせてもらうぜ、連中について何か知っている事だけは間違いねぇからな」
「僕としてはこのまま行かせて欲しかったけど……仕方ないか。わかった、その代わり君からも話を聞かせてくれないかな」

 そう言って変身を解除し元の霧彦の姿に戻る。そして2人は互いに情報交換を始めた。



「なるほど君はその呪泉郷に落ちて変身する力を得たわけか」
「別に強くなるわけじゃねぇけどな……パンスト太郎は違うけどな」
「……人をパンスト呼ばわりするのは良くないな」
「仕方ねぇだろ、アイツの本名なんだからな」
「誰が何を考えてそんな名前に……」
「じじぃの趣味だじじぃの」
「しかしそうなるとますますミュージアムが黒幕かどうかはわからなくなるな……」
「何でだよ、あの加頭って野郎が使ったガイアメモリは霧彦とお前の奥さんのいた組織のものだろ?」
「ああ、だから僕もそう思ったんだけど……悪いけど呪泉郷なんてものは全く聞いた事がない。それに……地図を見た所他にも耳慣れない施設が数多くある」
「ああ、それは俺も思った」
「もしかしたら本当の敵はミュージアムすらも末端として扱う様な連中かもしれない……お父様……園咲琉兵衛はどこまで関わっているか……」

 未知の存在である呪泉郷をこの島に持ってきた事から、主催がミュージアム以上に巨大な組織である可能性を霧彦は強く考えた。

「それより乱馬君、君にはガイアメモリは支給されていなかったんだね」
「支給された所でそんな胡散臭いもの使う気なんて無かったけどな」
「それは良かった、君みたいな若者がガイアメモリを使って取り返しのつかない事になっちゃいけない」
「……ちょっと待て、その言い方じゃガイアメモリって相当ヤバイ代物なんじゃねぇか?」
「ああ、過度な使用で精神や肉体を強く冒す危険なものでもある。特に子供や若者にとってはね」

 それを聞き乱馬が強い剣幕で怒り出し霧彦の胸ぐらを掴む、

「テメェ、何でそんなもんばらまきやがった!?」
「人類をよりよく進化させるため……それが風都の未来の為になると信じていたよ……だけど現実は子供達すらも泣かせるものだった……だからこそ僕はミュージアムを抜けた……」
「くっ……もしあかねがうっかりそいつを使ったら……」

 乱馬が想定した最悪の事態、それはあかねがガイアメモリを使いその力に溺れる事だ。
 かつて剛力ソバを口にしてあかねが乱馬を凌駕する程に強い力を身につけた事があった。
 だがそれは都合良い力では無く(女性にとってはある意味致命的な)副作用があった。
 それ故にその副作用の事を説明した上で解毒剤を飲ませようとした事があったが――あかねは頑として乱馬の説得を聞き届けなかった。
 またかつてあかねが伝説の道着を身につけこれまた乱馬を凌駕する程の力を身につけた事があった。
 その際に乱馬自身の本音をあかねに初めて素直に口にしたが――全く信じてもらえなかった。
 但し、これは伝説の道着を無力化する為、あかねの心を異性に奪わせる必要がありその気にさせようとした事がバレたからである。
 とはいえ、乱馬自身最初は無力化が目的だったが、途中から本気になっていた事を付記しておく。
 何にせよ、これまでにあった経緯を考えるならばガイアメモリを使った場合、厄介な事になる事だけは確実である。

「あかねちゃんがそんなに心配……そうか確か許嫁だったね」
「ちげーよ、そんなんじゃねぇ! 大体許嫁ったって親同士が勝手に……」
「君の口ぶりじゃそんな嫌々そうには見えないけどね。だけどそんなに彼女の事が大事なら何としてでも一緒にこの殺し合いから抜け出すんだ」
「お、おぅ……」
「大丈夫、参加者の中には仮面ライダー君、左翔太郎がいる。ガイアメモリの事については彼に任せれば何とかなる」
「そういや、あそこには本郷とか一文字とか仮面ライダーがいたな……そいつらと関係あるのか?」
「わからない……元々あの仮面ライダー君が仮面ライダーと呼ばれていたのは知らず知らずの内にだからね……もしかすると世界のどこかで戦っている彼らの都市伝説に習ってそう呼ばれる様になったのかも知れないね」

 ともかく大体の情報交換を終えて霧彦は再び燃え盛る森へと向き直るが――

「うっ……」

 霧彦は突然咳き込み口を手で抑える

「おい大丈夫か、もしかしてさっきの……」
「いや、これは君の攻撃によるものじゃない。気に病むことはないよ、それよりも早く……」
「そんな身体の奴を行かせられるわけねぇだろ、森には俺の方が行く、霧彦はどっか適当な所で休んでいろよ」
「僕の事が心配なのかい、さんざん連中の仲間だって言って目の敵にしていたのにね」
「けっ、自分の知らない所で死なれちゃ目覚めが悪いだけだ」

 そんな乱馬の反応をよそに霧彦は少し考えるそぶりを見せ、

「大丈夫、死にに行くつもりはないよ」

 そう言って自身の首に巻かれているスカーフを外し乱馬に手渡す。

「なんだこりゃ、いらねぇよ」
「それを預かっていてくれないかな」
「なんでこんな布きれ俺が持たなきゃいけねぇんだ?」
「それは僕の妹……雪絵が僕の婚約祝いに送ってくれたスカーフだ」
「だったらなおさら受け取れねぇよ! 何考えてんだ!?」
「わかっているよ……僕は必ずそれを返してもらいに戻ってくる。それまで預かってくれないかって事だ」
「え゛?」
「中学校には祈里ちゃんとヴィヴィオちゃんがいる。それまで2人を守ってくれないか?」
「いや俺だって呪泉……あーもうわかったわかった、あかね達も来るかも知れねぇから暫くはそこにいてやる。その代わり絶対に戻ってこいよ」
「勿論だ、様子を見たらすぐに戻るよ」

 そう言って霧彦は森へと走り出す。走りながらドライバーを装着し、


――Nasca――


 ナスカのメモリを今一度挿入しナスカ・ドーパントへと変身、

「そうそう、乱馬君……君はさっき僕が全力を出していなかったと言ったけど、半分は間違っているよ」
「何?」
「君に致命傷を負わせない程度には本気だったさ……それに……僕はナスカのメモリの力を引き出せてもやっとレベル2……」
「ちょっと待て、それってつまり……」
「ナスカの本当の力はこんなもんじゃないって事さ……」
「おい、霧彦!?」

 乱馬の叫びに構う事無く、

「だから……僕を倒せる程度で調子に乗らない事だ……超……加速!」

 霧彦はここに来て超加速を発動し瞬時に乱馬の前から姿を消した。

「あれがレベル2……ちっ、最後まで手加減されてたって事かよ……」

 手加減されていた事実を乱馬は強く悔しく思う。その最中、

「ん……ちょっと待てよ……何でアイツは平然とガイアメモリを使っているんだ? まさか霧彦のあの様子……本当に大丈夫なのかよ!?」

 結論から言えば、全く大丈夫では無く非常に危険な状態である。
 霧彦の身体はレベル2の力に耐えきれず既にボロボロだ。
 乱馬との戦いで最後までレベル2を使わなかったのは乱馬に致命傷を負わせない目的もあったが、それ以上に身体にかかる負担が大きかった故使えなかったという理由が存在する。
 それ故に、このタイミングでレベル2の超加速を使用した事で(激闘のダメージも踏まえ)霧彦の身体は加速度的に蝕まれていく。


 そして、現段階では乱馬も霧彦も気づかない事実がここに存在する。
 乱馬がメモリをブレイクする為に放った飛竜昇天破、その一撃は結局メモリに届く事は無かった。
 だが、その一撃はドライバーに強い負荷を間違いなくかけた――そう、その一撃によりガイアドライバーが破損しある機能が故障したのだ。
 ご覧の通り、変身機能そのものについては全く問題は無い。今後も使用する事が可能だ。
 では一体、ガイアドライバーの何が故障したのだろうか?



 ここで井坂深紅郎の持論を紹介しよう、彼はガイアメモリの力は直差しでこそ本当の力を発揮できると考えていた。
 ミュージアムの幹部が使うガイアドライバー、それはガイアメモリの毒素を遮断し有益なパワーを抽出するフィルターの役割を有している。
 だが、井坂はドライバーを介してはガイアメモリの本当の力を引き出す事は出来ないと考えていた。
 そんなある時、ガイアメモリを使う事に難色を示していた若菜に対しドライバーを自身に預けさせた事があった。
 井坂はその際にドライバーに細工を施し直挿しと同じ状態になる様に施していた――わかりやすくいえばフィルターの役割を無力化したという事だ。
 井坂の持論は正しく、そのドライバーを使い変身したクレイドール・ドーパントは冴子の変身したタブー・ドーパントを圧倒する程の力を見せた。
 だが、その代償として、知らず知らずの内に若菜の精神はメモリの毒素に冒される事になったというわけだ。


 そう、今の霧彦のドライバーはガイアメモリの毒素を遮断するフィルターの機能が故障している。
 つまり、霧彦が今変身しているナスカ・ドーパントは直挿しの状態で変身した状態に近い事になる。
 そんな状態で変身を続ければこれまで遮断されていた毒素が霧彦を冒しそれでなくてもボロボロの身体が更にボロボロとなる。
 勿論、デメリットばかりではなく、例示した若菜の時同様、ナスカのパワーを更に引き出せる様にはなる。
 後に冴子が直挿しでナスカ・ドーパントに変身した時霧彦が変身したそれの更にその先、レベル3へと到達し井坂の変身したウェザー・ドーパントを撃破した仮面ライダーアクセルトライアル以上のスピードを発揮した。
 もしかしたら、今の霧彦ならばその領域に到達できる可能性もあるだろう――だが、そのパワーに耐えきれる保証は皆無、そのまま自滅する可能性の方が高いだろう。

 ナスカの強大な力は――現在進行形で霧彦の身体と精神を冒し続けている――



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最終更新:2013年03月14日 22:35