温度差 ◆gry038wOvE




「爆発よ、伏せなさいっ!!」


 ────正午を迎える少し前あたり。
 西条凪は、自分と共に行動する三人に向かってそう言い放った。
 石堀光彦が、背後から涼村暁の頭を強く抑えて、強引に伏せさせる。
 黒岩省吾は、そんな事をされずに勝手に伏せる。彼も凪と同じように、その閃光を予感していたのだろう。
 彼らの眼前で、強い光が放たれ、視界を遮る。
 F-6エリアに響き渡る轟音が、彼らの耳を打った。耳に水が詰まった時のような感覚と、焦げ臭いにおいが一瞬で暁たちを襲った。
 凪や黒岩、石堀が兆候らしきものを察したのは、直前だった。
 二つの小さな光が、一秒ごとに大きくなっていくのが見えたのである。それが何なのかは結局謎だが、それは決して自分たちに利益のあるものではないのは、直感が悟った。
 その光が膨れているたびに、それが破裂するような未来が見えてきたのだ。大きく膨れていくものに、人はどうしても危機を感じてしまうのだろう。
 そして、膨れるという形ではなかったが、それは巨大な音を立てて、直線的に進んでいった。
 もう一方の光へと向かっていくように、二つの光が伸び進んでいく。
 その二つがぶつかる瞬間が、危ない気がした。それで、凪が叫んだのである。

 結果的に、大きな爆風を感じたが、四人の体は何ともなかった。
 四人の頭の上を、木々の破片が飛んで行ったため、もし伏せていなければ上半身に致命的なダメージを受けていたかもしれないが、閃光に目を伏せた彼らはそんなことを知る由もない。
 そして、伏せた目を開け、顔を上げると、眼前にはもう森林などなかった。
 そこは、焼け焦げ、砂漠のように禿げた荒れ果てた地があるのみだった。
 光の正体は不明だが、遠目にも二人の人間の姿が見当たる。彼らが何らかの方法で起こしたのではないか、というのがよくわかった。


「……どうする?」


 口を開いたのは、石堀だった。
 彼らが通る予定だった道だ。情報交換をせず、あと数分早く歩いていたならば、彼らは確実にこの爆発の餌食だった。
 そして、これからまた爆発が起きようものなら、彼らの命はない。


「別のルートを行きましょう。爆発の正体を知りたいけど、そんなことをしている暇はないわ」


 凪の判断は、一瞬で決まった。
 おそらく全員の総意だろう。このルートを歩きたくはない。
 もう目の前には街エリアがあるのだが、残念ながらそちらへの近道は絶たれたようだ。
 更に、少しでも道を反れれば禁止エリアにも抵触する。仕方がないので、一度山を登ってから、川沿いに歩き、図書館跡地に向かってから街へと迂回するルートしかなさそうだ。


「くそ~!! もうすぐ目的地だっていうのに、迷惑な奴らだ!!」


 既に足に筋肉痛が回り、山を登るのが嫌になってきた暁は、そう嘆く。
 仕方がないこととはいえ、腹立たしさを解消できそうにはない。
 しかし、文句を言おうが、結局暁も山を登るということには賛成だ。死にたくないので、こうするしかない。


「……仕方がないか」


 若干の居心地の悪さを感じている黒岩もまた、行動は同じだ。
 この状況下では、同じようにしばらく彼らと行動し、無駄な戦闘は避けなければならない。
 少なくとも、この場には爆心地に突っ走っていくような熱血漢はいなかった。
 四人は、自分の生存と脱出を目的に行動しているのである。



★ ★ ★ ★ ★



 山の頂上付近を歩くのは、ゴ・ガドル・バである。
 彼の現在地からは、既にあらゆる光景が目に入る。
 頂上ほど完全に周囲を見渡せるわけではないが、少なくとも、右隣に見える──いやでも目立つような光景だけは確実に目に入った。


「……センオグ、バ!(戦闘か!)」


 爆音。轟音。怪音。
 間違いなく、破壊の音。
 それを聞いたガドルの視界に入ったのは、焦土と化した麓の森である。少なくとも、一瞬前まで其処には緑色の森が広がっていた。しかし、既にそれは無い。
 それまでの戦いは見ていないが、放送を待っていたガドルは、放送の終わりまで拡声器を使う気もなかったし、誰か参加者が来るのをなんとなく待っていた程度だった。


「……フン」


 ガドルとしては、そちらに向かう気も無かった。
 あの爆発を見る限りでは、現地にいた人間は死亡──または瀕死となっている可能性が高い。
 かつて、ガドルの視界を完全に消し去ったあの黒いクウガのキックともまた違う。
 爆心地を中心に広がっていくのではなく、直線的な光線がぶつかり合い、爆ぜたのだ。
 出力を見た限りでは、おそらくあれは戦いの始まりではなく、終わりを表す硝煙。


「……ホグゾグ ゾ ラズバ(放送を待つか)」


 ガドルはまた、何事もなかったかのように山の頂上へ向かう。
 万が一、あそこで戦っていた戦士が万全ならば、頂上からの放送は聞こえるだろうと思う。拡声器によって巨大化された音は、静かで車の音一つないこの場にはよく響くものだ。
 また、爆音を聞いて集まってくる奇特な人間──たとえるなら、ダグバのような人間もいるだろう。
 そこに集まった人間もまた、ガドルの放送を聞く。
 絶妙なタイミングで大音をたててくれたものだ。
 ガドルは、そう思いながら上を目指す。


 そして、頂上へとたどり着いた時、正午となった。



★ ★ ★ ★ ★



『『『『みなさん、ごきげんよう……』』』』


 ニードルからの別れの言葉とともに、空に現れた映像が消え、首輪からの音声も途絶える。


「……」


 西条凪はニードルという男の放送に、思わず大口を開けてしまった。
 五代雄介
 姫矢准
 美樹さやか
 彼女にとっては、ごく最近まで慣れ親しんでいた名前が幾つかある。
 共に行動していた仲間の名前、そして当初敵対をしたものの共にダークメフィストを撃退した仲間だったウルトラマンの名前。
 そちらの名前は、石堀隊員も知っているようだった。


「……五代雄介、それに美樹さやか……」


 彼ら二人は、やはり一緒に行動していて死んでしまったのだろうか。
 彼らと共に行動していたなら、凪も死んでしまったのだろうか。あの離別こそが、きっと凪たちの運命の分岐点だったのだろう……。
 あそこでどう行動していたかによって、凪が今ここにいるか否かは決まったに違いない。
 ともかく、彼ら二人の死を悲しむ時間は凪にはなかった。……いや、悲しむ時間そのものが、無駄だった。
 仲間の死は凪の思いを加速させる。


(あなたたちも、この殺し合いの被害者ね……溝呂木を、加頭を、サラマンダーを、ニードルを倒すことで、私はあなたたちにお詫びをするわ)


 さやかを利用した悪魔・ダークメフィスト。五代の死がそれによって生まれたものだという可能性も否めない。
 彼らの死に溝呂木の存在がかかわってくる可能性はゼロではないだろう。
 ともかく、溝呂木だけは参加者の中でも絶対に殺さなければならない。
 何にせよ、ナイトレイダーの隊員の一人として、犠牲は最小限に抑えなければならないのだ。
 一人の犠牲は、これからの反省に変えていかなければならない。


 しかし、同時に凪は考える。


 もしかしたら、二人が殺し合ってしまったのかもしれないし、誰かに襲撃されたのかもしれない。
 どちらにせよ、二人との行動は確実に危険なものだったのだ。
 そんなことを考えるのは野暮かもしれないが、凪にとって数時間前の同行者の離別後の死はその可能性を考えさせるに十分だった。
 ……凪は、二人と行動していたら死んでいたのだ。
 早く二人と別行動をとったおかげか、凪だけは生き残ることができた。


 そういえば、かつて、両親が殺されたときもそうだった。
 自分だけ生き残った。
 あのときは何が運命を変えたのかわからない。
 言ってみれば、ただの運だ。
 しかし、今は確実に自分の判断によって、危険から脱した。


「ったく……孤門のヤツ。どこで何をしてるんだ一体」


 凪は知る由もないが────その“西条一家惨殺”の犯人・石堀がそう言った。
 一応、ナイトレイダーの隊員は「元・隊員」も含めて全員生存している。
 ウルトラマンという超人は死んだが、戦闘のプロであるナイトレイダー隊員は全員生きながらえているのだ。
 今は、その孤門と合流する必要が大きい。
 この場において、変身能力を有さないナイトレイダーが三人も生き残っているのは不思議な思いもあるが……(まあ、石堀だけは仮面ライダーアクセルへの変身能力を得たが)。


「彼も彼で、きっとうまくやってるわ」


 一方、暁は暁で別の名前への心当たりがあったらしい。
 暁も馬鹿ではないので、流石に心当たりのある名前だけははっきりと聞き取った。


「銀ピカ野郎……それに、パンスト野郎?」

「……なんだ、貴様はパンスト太郎とやらと知り合いか」

「ああ、ほむらは、あいつらのせいで……」


 志葉丈瑠。パンスト太郎。
 いずれも暁が知る敵の名前である。そして、彼らはほむらを襲撃した、殺し合いに乗る参加者たちだ。
 忘れもしない。ほむらが弱っていく姿を暁に見せたのは、彼ら二人だった。


「クソッ……!!」


 暁が久々に、深刻そうな表情で叫んだ。
 あの二人が死んだのはいい。
 ……しかし、暁の知らぬところで勝手に死んでしまったというのは煮え切らない。
 この手で葬ることができなくとも、せめてその死を見届けたかった気持ちは少なからずあったのである。
 彼にとっても、何とも後味の悪い決着になってしまった。


「桃園さんの知り合いも数名……亡くなったようだ」


 黒岩省吾もまた、聞き覚えのある名前が放送で呼ばれたことを告げる。
 月影ゆり、東せつな、山吹祈里
 その三つの名前は、桃園ラブと同じく、プリキュアの力を持つ者だ。
 黒岩もその能力を目にしたが、ラブ──キュアピーチと同等の力を彼女たちも持つというのなら、それを打ち滅ぼした者は相当の手練れだろう。
 あとは、黒岩とはまったく関係ないが、美樹さやかという少女も、ラブによって聞いている。ラブの知り合いのマミの知り合い……というかなり遠回しな名前であるため、これは本当に他人事としか思えなかった。彼女には申し訳ないが。



「──ところで」



 石堀は、すぐに気持ちを切り替えてそう言う。
 彼にもまた、人間的な感傷は似合わない。
 いや、現実的に人間的な感傷に浸ろうにも、それらしい感情がないのだから、傷を受けることもない。
 実際、姫矢たちの死も、彼にとってはどうでもいいものでしかなかった。少し意外に思った程度だろうか。
 それを、ナイトレイダーの隊員として私情を捨てた中立的態度と見てもらえるのは、やはり「石堀光彦」としての利点と言えるだろう。
 石堀は本題に入る。


「……主催側の『なぞなぞ』とやらの答えがわかった方はいますかね?」


 石堀にとって気がかりだったのはそれだ。
 石堀もすぐに答えに気が付いたが、彼が知りたいのは、凪以外の連中がその答えを知ることができたか否かである。
 特に涼村暁とかいう奴だ。到底、頭が回りそうにない。



「あ、ああ。まず、○と×を足す……っていうのは、警察署の地図記号のことで間違いないだろう」


 黒岩がそう言った。
 伊達に図書館で毎日人間界のことを勉強はしていない。警察署の地図記号が○と×を組み合わせたようなものであるのは、彼も知っていた。
 単純に知識があるだけでなく、彼は頭の回転も早い。
 二つの記号を組み合わせ、また別の記号を生み出すことも彼には容易だった。
 更にそこへ、暁が付け加える。


「青+黄色……青と黄色を混ぜ合わせると、緑だぜ?」


 地図記号に関する知識はなくとも、こういう「お遊び」的な常識は何となく知っている。
 絵具の青と黄色をかき混ぜれば、そこに生まれる色は緑だ。暁はそんな脳内のイメージでその答えを出した。
 たとえこの場で一番バカな人間が答えたとしても、誰も疑問に思わない。


「……緑、別の書き方をするのなら、コレだ」


 先ほどまで禁止エリアを書き込んでいたマップを、石堀が指差す。
 そこには、「翠屋」と書いてあった。ひらがなに直せば、「みどりや」。緑、碧、翠……など様々な書き方をする「みどり」という漢字の一つだ。ちなみに、表す意味はどれも同じく、「青と黄色を混ぜあわせた色」である。
 ……ただ、この読み方は暁にはよくわからなかったが、彼は適当に話を合わせることにしたようだ。


「主催者側のボーナスは、警察署と翠屋を繋ぐもののようね」

「ちょうどマップの端から端だ」

「……ちくしょー! 羨ましい! 俺も翠屋にいれば街まで簡単に行けたんじゃねえか」


 暁がそう叫ぶ。
 こうやって、走ったり山を登ったり道中で戦ったり……そんな風にしてマップを歩かなければならないのは流石に辛い。
 もう暁の足は悲鳴をあげているのだ。いや、むしろ全身が悲鳴をあげていると言っていい。シャンゼリオンになると、まるで100キロ近くあるスーツを着せられたような重みを感じる。
 スーツアクターであっても、そんなものを着るなんて、ほとんどの人が無理だろう。
 ……などと暁が勝手に考えていると、黒岩が声をかけた。


「……暁。お前は二人も人間を殺したのか?」

「は?」

「二人殺さなければ翠屋にいても警察署へは行けない」



 黒岩にそう言われて、暁は疑問符を浮かべた。
 あまりに不意な発言に、彼が何を言おうとしているのかの意図がわからなかったのだ。
 それから数秒後もまだ疑問符を浮かべつつ、なんとなく彼が言いたいことを推理する、探偵らしい鋭さを発揮して、暁は訊く。


「……もしかして、人の名前でできた式のことか?」


 暁の記憶にあるヒントといえば、「この数の参加者を手にかければボーナスが使える」という発言だ。
 ニードルの言葉は早すぎてうまく聞き取れず、全員の名前を覚える前に進んでしまったが、その言葉は覚えている。。
 厳密に言えば、暁も、最初の「雄介」と最後の「結城」は聞き取った。しかし、それだけしか覚えていなかった。今までに覚えたあらゆる名前が、頭の中で交錯したのである。
 他の三人はどうやら全員分覚えていたらしい。


「……ああ。名前が呼ばれたのは、五代雄介、孤門一輝、一条薫、一文字隼人結城丈二だ。全員、名前に数字が入っている」

「式は雄介-孤門-薫+隼人-結城だから、5-1-1+1-2で2。二人殺してないと、移動手段は使えない」


 黒岩と石堀の解説で、暁は全部理解した。
 しかし、男の名前ばかりで嫌になるな……とも思う。だから覚えなかったのだ。
 知り合いの名前も入っているが、そんなことは関係ない。
 しかも、その問題で名前が出された人間のうち一人は、もう死んでいるのだ。はっきり言って気分が萎えるようなヒントだ。


「……つまり、二人殺した人間が警察署か翠屋に行けば移動手段が出るんだな?」

「そういうことになる」

「ボーナスでも何でもないじゃねえかよそれ……」

「主催者から、“殺人者”へのボーナスってわけだ。主催者にとって一番都合が良いのは、殺し合いを積極的にやってくれてる人間だからな」


 暁は深いため息をすると、彼は不意にほむらのことを思い出した。
 そういえば……。


 「あれ」も、「数」に入るのだろうか?


 結果的に、暁美ほむらにトドメを刺し、息の根を完全に止めるに至ったのは暁だ。あれも数に入るとするのなら、暁はもう一人殺していることになる。
 あれは主催側で、殺害1とカウントされているのだろうか。
 だとしたら、プレイヤーの意思に関係なく、主催者は暁を人殺しとしてカウントしていることになる。
 一生涯、おそらく人を殺すことなんてなく、終わるだろうと思っていた暁の人生が、血塗られたものになってしまう。
 暁の意図や暁の認識と無関係に……。


(……まあいっか)


 暁は、すぐに思考を停止した。
 難しいことはなるべく考えないようにしよう。
 根暗の加頭や、変な名前のサラマンダー男爵、それからどう見ても○○○○(放送禁止用語)のニードル……あいつらにどう思われたところで、あれが暁の手による殺人なのか否かは暁が決めることだ。
 自分が殺人者であると思い込むことはない。
 ……いや、彼は一応、優勝を狙うスタンスなのだが。


「……で、今回のボーナスの方も気がかりだな」

「特殊アイテムの配置、か。緑と青の強力な武器……」


 もう一つのボーナスについても、全員が少し考えてみるが今のところ思い当たるものがないらしい。
 緑と青の斑の武器が二つあるのか、緑の武器が一つ、青の武器が一つあるのかもわからない。
 心当たりがないということは、自分たちの世界のものではないのか、または自分たちがまだ巡り合っていないのか……そのいずれかだろう。


「これまでにどこかの施設に立ち寄って、それらしいものを見た人はいる?」


 凪の問いかけに、その場にいる全員が首を横に振る。
 暁は一応教会に立ち寄ったし、黒岩は図書館が崩壊するのを見た。
 少なくとも、それらの施設に武器はないと思うが、武器がどのような形状になっているのか等のヒントがなかった以上、詳しくは不明のままだ。


 ともかく、今回はヒントが少なすぎるので、考えるのを停止して山を登ることにした。
 第一回ボーナスも無縁だったし、ボーナスに関しては切り離して考えてみるのもいいかもしれない。


 彼らが歩きだしたその時────


「聞けぇっ!! リントの戦士たちよっ!!!」


 低く野太い声が木霊する。
 全員が足を止め、山の頂上を見た。
 言葉が反芻され続けるために、どこから聞こえるのかははっきりとはわからないが、最初の一声は真上から聞こえたような気がした。



★ ★ ★ ★ ★



「……ゴダイ」


 放送を聞き、ガドルはその名前を呟く。
 五代雄介という男の名前。
 ──それは、クウガのリントの世界での呼び名であると推測された男の名前だ。


(何者だ? クウガを葬った戦士とは……)


 この場には、クウガやガドルと同じく、変身する能力を有する者が何人もいる。
 リントの戦士(警察)と戦っていた生前よりも、ずっと楽しい宴ではないか。
 フェイト、ユーノ、仮面ライダーダブル、杏子、ウルトラマンネクサス……骨のある戦士と戦える好機だ。
 しかし、ガドルを倒したクウガさえも超える戦士が、この場にはいる。


(……面白い)


 クウガにはこの手で引導を渡してやりたかったが、彼が死んだ以上は、それを超える戦士を倒し頂点に立つほか道はない。
 ……とはいえ、一抹の怒りも感じざるを得ない。
 クウガとの再戦を果たす好機を潰した者には制裁を加えなければならないのだ。


 剛健な肉体。
 強い者を欲し、戦い続けた結果、「ゴ」のトップにまで上り詰めたガドルの血のにじむような戦いの記録。
 人間ならば何度死んだ痛みを受けたかもわからない。
 リントを殺し、反撃を受け、傷ついても己の為に戦い続けた。
 その全てを否定したリントの戦士──クウガ。
 奴を倒すのが、ガドルが蘇った意味の一つだと考えられた。
 しかし、それは叶わなかった。こんなにもあっさりと、その名前が告げられるという形で幕を下ろすというあっけなさで。


 ガドルは目を瞑る。
 黙祷ではない。精神を落ち着かせる、いわば黙想だ。
 これからどうすればいいだろうか。
 どのようにして、あの戦いの雪辱を晴らせばよいのだろう。


 ……。
 …………。
 どれくらい考えていたかはわからないが、ガドルの答えが決まり、彼は目を開けた。


 ………………クウガなどという小さな目標を狙わず、クウガさえ凌駕する戦士を殺し、ダグバを倒す。
 ────それしか、ガドルの道はない。


「……フン」


 禁止エリアは聞き取ったが、ボーナスなどはどうでもよかった。
 その程度の事に興味はない。
 ガドルにとってこれは、殺し合いであると同時に重要なゲゲルだ。
 己の力で敵を打ち滅ぼし、ゲームの頂点にならなければ意味がない。

 移動手段も不要だ。ただ、そこにいる敵を殺せばいい。行くあてはないのだ。


「……」


 ガドルは高所から山を見渡す。
 其処には、確かに木々を揺らす「人」の気配があった。
 誰かが移動しているのだろうか。
 それとも、ただの気のせいだろうか。
 何にせよ、ガドルはそれを確かめる術を持っているのだ。


 ガドルは拡声器を片手に、深く息を吸う。



「聞けぇっ!! リントの戦士たちよっ!!!」


 拡声器に向かって、枯れんばかりの声でそう叫ぶ。
 この場に来て、こうして拡声器で声を発するのは二度目になる。
 付近のエリアにいる参加者たちを呼び寄せ、何人がかりだろうとかたっぱしからねじ伏せる。


「俺は破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バだ! リントの戦士よ……腕に自信があるならば、鎧を纏い俺に挑戦してみろ!! 挑戦を受けないならば俺は殺戮を繰り返す!!」


 ガドルは本気だ。
 もし、この場に来る者がいなければ、下山して適当に人を殺す。
 無論、相手は戦力を持つ者に限るが、この場にいる人間の多くは「鎧」を纏ったり、姿を変えたりすることができることが既にわかっている。


「もし止めたいのならば何人がかりでもいい!! 自由に戦略を練り、戦力の限りを使い、俺の体に一つでも傷を作ってみろ!! 俺は山の頂上にいる、いつでも来い!!」


 ガドルはそう叫ぶと、拡声器のスイッチを切った。
 今の放送は、誰かが聞いただろうか。
 この周囲に人がいるなら、この放送に何らかの反応を示すだろうか。
 ともかく、ガドルはまたそこで剛として立ったまま、山のふもとを見下ろしていた。



★ ★ ★ ★ ★



「んで、どうするんですか? 西条副隊長」


 石堀が訊く。
 アクセルの力を得たとはいえ、石堀としてもなるべくそこへは行きたくなかった。
 誰が殺戮を繰り返したところで、正直彼には全く興味がないのだ。
 ナイトレイダーの隊員の一人としてどうすべきかは凪に託す。
 この緊急時の対処をすべきは凪なのだ。


「……行くつもりはないわ。明らかに罠よ」


 そして、石堀が望んだとおり──あるいは予測した通りの答えが返ってきた。


「だな。俺も賛成」

「俺もだ。迂闊な行動は危険すぎる」


 凪、暁、黒岩と全くの同意見だった。
 彼らも意見は同じだ。山を登るのは面倒だし(←これが暁)、わざわざ殺人を宣告しているイカレた人間のもとへ行く意味もない(←これが他)。


「たまにいるんだよなぁ、ああいう変なやつ」


 暁がそう呟き、四人は真っ直ぐ歩いて行く。
 ガドルの渾身の叫びが見事にスルーされた。



★ ★ ★ ★ ★



 ゴ・ガドル・バの目に四人の参加者の姿が映ったのは、ほんの偶然だった。
 彼は来訪者を待つまでの間に、もう一度荷物の整理を始めようと荷物を取り出したのだが、その時にまた意外なものが出てきたのだ。
 双眼鏡。
 以前、フェイトのデイパックを確認した時にも拡声器と共に出てきたのだが、あの時はまだ使おうとは思わなかったし、興味もなかった。
 理由は単純。
 これは敵を呼ぶこともできず、戦いにも使えない。


「……バスホゾ(なるほど)」


 これは、おそらく何かのめぐり合わせによって配られたカードだ。
 あそこで歩く四人の男女と戦うために、ここへ入っていたのだろう。
 あの四人はおそらく、ここへ来ずに逃げようとしていた。それは、積極的に頂上に上ろうとせずに、地面と並行に歩いていることからもうかがえる。
 しかし、禁止エリアがあるせいで、ある程度、距離を近づけながら歩いて行かなければならないのという問題があった。
 それが原因で彼らはガドルの視界に入ってしまった。
 四人。バイクを押している。
 おそらく、変身する者、戦う者は間違いなくいる数だろう。
 特に、青い服を着ている二名は、明らかに「リントの戦士」(警察)に酷似した服装である。ガドルは知らないが、少なくとも、ああして統一された服を着用しているのを見る限りでは、おそらく戦うリントだろう──とにらみを付けたのである。



 ────逃げられると思うな。


 ガドルの体が、胸を中心に一瞬でカブトムシの怪人のものへと変化する。
 変身。
 ガドルが対戦相手に求める最低条件となるのは、この姿だった。
 ガドルの心を満足させるだけの力を持つ者がいるならば、この場で戦い合い、殺す。
 ガドルは拡声器と双眼鏡を山の頂上で放り投げ、彼らのもとへと歩き出した。
 宙を舞った二つの道具が地面に落ちたとき、そこに怪人の姿はもう無い。



★ ★ ★ ★ ★



「……ここ、随分前に通ったような気がするな」


 暁がそう呟いたが、全員が無視した。
 暁がここを通ったのは、禁止エリアから逃げるために必死で走った時であり、既に暁の中では忘却の彼方へと投げ捨てられた事実だ。
 しかし、いざそこへ来てみるとなると、なんだか木の感じが似ている気がした。南東にある1メートルほどの木の小さな割れ目や、先ほどいた場所より少し色が暗く見える土、前に見える木の生え方、折れ方。
 まあ、森の木々など、はっきり言って違いもわからないものだし、わかったところで何ということもないものなので、暁もその既視感を無視した。
 特にここに置き忘れたものもなく、この場所に何か伏線があるわけでもない。
 たとえここがどんな場所か思い出しても、暁は勿論、どんな人でも「ふーん、ここ通ったんだ」で終わってしまいそうなくらいの場所だ。
 はっきり言って、この地の文の100パーセントは無駄でできている。わざわざ丁寧に地の文まで読んでくれた人間には謝らなければならない。


「禁止エリア制度……やはり厄介ね」


 凪は頂上を見ながら呟いた。
 彼女たちは、7時に禁止エリア指定されたG-6エリアを避けながら、F-5からG-5へと移動しようとしている。
 その間に、頂上にいるはずの男に目を付けられたり、行き過ぎて鉢合わせたりしないだろうかと不安だったのだ。
 可能性としては決して低くない。
 例によって、最悪の場所を歩いたものだ。
 F-6は戦闘。G-6は首輪爆破。それに加えてF-5はバカの放送ときている。
 周囲のエリアが危険に囲まれたといっていい。このまま、うまくやりすごせればいいのだが……。


「残念ですね、副隊長。誰か来る……」


 石堀はいち早く異変に気付いた。黒岩も、その言葉で表情を変えた。


「副隊長、それから二人とも。今は、少し隠れて」

「あなたは?」

「少し時間を稼ぎますから、戦闘の準備を。俺はもうできてます」


 と言う石堀の腹部には既にドライバーが巻かれている。
 どうやら、一人で先に戦闘の準備をしていたらしい。
 常に危機を回避する方法を探っていた石堀としては、当然の行動だった。


「了解」


 凪と黒岩はすぐに茂みの影に隠れた。
 暁も一歩遅れて凪の尻を追いかけ、茂みへと隠れる。
 暁は隠れてすぐに、何が来るのかと、そっと顔を出そうとしたが、凪が強引に頭を押さえつけた。



「……静かにしなさい」


 言いつつ、凪はコルト・パイソンに弾を装填する。
 そういえば、前に孤門に、「残弾の数は常に把握しておけ」と忠告したことがあった。これは、銃を持ち戦場に出るものが絶対に忘れてはならない鉄則である(ちなみに、凪は姫矢に「残弾の数は確認しておけ」と注意をされたこともあるのだが……)。
 彼女もそれに倣い、残りの弾数を改めて確認した。
 そして、使っていい弾数を脳内で想定する。


「あなたも戦う準備をしなさい。ふざけていられる相手かわからないわ」

「味方かもしれないんだろ?」

「そう。でも、敵かもしれない。それはすぐにわかるわ」


 凪が暁にそう言う。
 仕方がなく、暁は腰にロストドライバーを巻いた。
 以前、ほむらがこれを使って戦ったのを、暁はよく覚えている。


(そういえば、この人は魔法少女とかプリキュアってやつに変身しないのかな……)


 暁は凪を見ながら思う。
 暁の頭の中では、凪が携帯電話で変身し、超フリフリな恰好をしながら──


『ブルーのハート(←ダブリ)は復讐のしるし! 撃ちたてフレッシュ! キュアレイダー!』


 と名乗る。
 想像上の凪は、今の凪からは想像もできないであろう満面の笑みである。
 手でハートを作り、ポンと叩いて名乗る。
 そんな凪を想像しつつ、「それはない」と暁は勝手に自分のイメージを一蹴した。凪は暁の複雑そうな顔を、怪訝そうな顔で見つめる。
 それで怪しまれたと思った暁は、気を取り直して周囲を見る。


 別の茂みでは、黒岩も同じように変身の準備をしているようだった。
 それぞれ、一人一人で分かれているが、凪と暁は同じ茂みの中にいる。暁の初動が遅れたからだ。
 窮屈で、下手をすれば頭や尻が飛び出てしまうかもしれない状態だ。
 これが殺し合いじゃなければ最高なのに……と暁はひそかに思っている。凪の体が少し、暁の体にあたっているのだ。


「……変身!!」

『アクセル!』

「さあ来い、カブトムシの化け物」


 石堀が変身するバイク音と声が聞こえる。仮面ライダーアクセルの変身の際に必然的に鳴る音だった。
 彼が変身したということは、向こうから来たのが敵であるという合図である。
 更に石堀は、カブトムシの化け物……と敵の特徴も教えた。
 三人が気を引き締める。


「お前だけじゃないだろう。隠れても無駄だ」


 茂みの向こうから声がした。
 先ほどの頂上からの放送の男の声に似ている。
 おそらく、あの「ゴ・ガドル・バ」とかいう男に間違いないだろう。


「お前はゲームに乗ったのか」

「ああ。このゲゲルのプレイヤーの頂点に立つ……それが俺の──破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バの目的だ」


 どうやら、石堀と会話してるらしい。
 ゲームに乗っていることや、あの放送の人物と同一人物であることまでベラベラと話している。
 暁は小声で凪に訊く。



「……おい、どうするよ」

「合図をしたら、あなたも変身しなさい」


 落ち葉を踏む足音がはっきりと聞こえる。そのうえ、彼が歩いているだけで、周囲の葉が靡く。彼の体から発されるプレッシャーが、葉を揺らし続けているのだ。
 その音が大きく聞こえるにつれ、暁の胸の音も大きくなる。
 なんだ、この恐ろしさは……。
 変身もしていない。相手は殺し合いに乗るプレイヤー。そのうえ、かなりの手練れ。
 その圧倒的な戦力差を、暁の動物本能が教えていた。


「おい、変身していいか?」

「3……」

「おい、」

「2……」

「ちょっ」

「1……」

「なっ」

「行きなさい!!」


 凪は片足で暁を蹴り、茂みの外に放り出す。
 それと同時に、凪が頭を出して、


 ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ

 弾丸を撃つ。
 そのうち三発がガドルの体に命中し、ガドルの体が少し後ろによろけた。
 肩、胸、それに頭だ。
 なるほど、それなりに効いたらしく、ガドルは命中した箇所を押さえて悶えていた。
 暁はそれを見てすぐに起き上がり、目の前にいる黒岩とともに叫ぶ。


「変身!!」

「ブラックアウト!!」


 変身──それは、涼村暁が仮面ライダースカルへと(略)
 ブラックアウトとは(略)


 仮面ライダースカルと暗黒騎士ガウザーがその場に姿を現し、ガウザーは不思議そうにスカルの方を見た。
 そこにあるべきはシャンゼリオンの輝きであると思っていたので、ガウザーは違和感を感じてしまったのだ。


「ちょっと待て、暁。なんだその姿は」

「ん? ああ、これは仮面ライダースカルだ。試着試着♪」

「試着!?」


 ガウザーが右手を自分の額に当て、俯く。呆れた、といったポーズだった。
 この土壇場で、変身アイテムの試着とは何を考えているのだろう。


(……いや、もしスカルがシャンゼリオンより強い力を持っていれば、あるいは──)


 ……と思って、ガウザーはスカルの姿を見たが、真ん丸な頭やシンプルすぎる黒と白の異形、シャンゼリオンに比べて圧倒的にスマートなそのボディラインにまた絶句した。
 そう、偏見ではないはずだ。
 ……こいつは、明らかに弱い。雑魚の顔だ。見ればわかる。


「だいたいさ、毎回毎回あんな恰好したらシャンゼリオンの中に入ってる次郎さんがたいへ」


 言い終わる前に、スカルが背後からの衝撃を受けて前のめりにバランスを崩す。
 何かまずいことを言ったという予感を、暗黒騎士ガウザーは感じた。
 このまま喋れば、この男は間違いなく危険なことを言う。
 それを心のどこかで予期したガウザーは、スカルを後ろから殴ったのである。


「何すんだよっ!!」

「暁、知っているか!! 世界文学で一番最初のメタフィクションは1096年にフランスの作家イノーエット・シキが書いた『チャンゲリオン』という小説で」(※適当です)

「あーもういいっ!! 何の脈絡もない知識自慢はもう散々だ。だいたい、なんだメタナントカって」

「貴様こそ。誰だ、次郎さんって!!」


 そう言い返されると、暁はムキになって適当なことをほざき始めた。


「いいか黒岩ぁ。次郎さんっていうのはだなぁ……、シャンゼリオンの中に入ってる力の源、言ってみれば動力源だ。俺がさっき創作した。だからこれは、メタナントカでもなんでもない。もう一度言う、これは俺の創作だ」

「シャンゼリオンの力の源はクリスタルパワーだ! だいたい、なんで力の源が人名なんだ」

「それはだな、深~いワケがある。次郎さんはクリスタルパワーの小さな粒子の中に住んでいる妖精なんだ。そして、シャンゼリオンの力を発揮させるために、シャンゼリオンの中で毎日必死に家族のためを想い、上司の文句を受けながらも自転車を漕いでいる……そして」

「話が深まる前に言っておくぞ、暁! 俺はお前の相方のあの暑苦しい奴じゃない。だから、その話のオチがいかに感動的なものであったとしても、俺はお前の話に何の感銘も受けないし、騙されることもない。聞くだけ時間の無駄なのはわかってる」


 ガウザーに前置きされたせいで、スカルは舌打ちをした。完全に魂胆が透けていたのだ。
 しかし、相方の暑苦しい奴というのがいまいちピンとこない。
 はっきり言ってどうでもいいので、その単語は完全に無視することにしたが。


 一応、解説しておくと暑苦しい奴というのは速水克彦のことである。
 このゲームにも参加していたが、暁は彼と深く関りあう前から参戦したため、彼の姿は知っていても名前は知らない。
 で、スカルがふとガウザーに訊く。


「……ところで、黒岩ぁ。俺たち何をしてたんだっけ?」

「……忘れるな暁! …………えっと、つまり、あれだ」


 暁は勿論、黒岩もその瞬間自分が何をしていたのかド忘れした。
 はっきり言って、緊張感が全くない。


「「戦闘中!!」」


 アクセルと凪の怒号で二人ははっきりと思い出す。
 そう、カブトムシの怪人との戦闘中だったのだ。
 それが、長いお喋りのせいで完全に忘れ去られていた。
 暁のせいだ、黒岩のせいだ、……という感じで心の中で相手のせいにしたが、原因を作ったのは間違いなく二人両方である。
 今更ながら恰好をつけ、仰々しいポーズとともに二人は叫んだ。



「……さあ、かかってこいカブトムシ野郎! この正義のヒーロー・仮面ライダースカルが昆虫標本にしてやるぜ!」

「知っているか! 世界で最初の昆虫標本は紀元前600年ごろ、ローマで捕まえられた金色のカブトムシを保管する方法を探るために作られたが、実はそれはただのカナブンだったという……」(※適当です)


 二人がガドルの方を見ると、そこにはガドルののびた姿があった。
 あの巨体が、地面に突っ伏して、何も言わず、少しも動かなくなっている。
 カッコいいポーズや決め台詞を出した二人は、すぐに萎えた様子で言った。


「おい、あんた意外とやるんだな……」


 アクセルに向かってスカルが言うが、アクセルは首を横に振り、凪を差した。
 人差し指で差すのは失礼だと思ったのか、指を全て立てた状態で差している。
 かなり丁寧な動作。紳士だ。
 とりあえず、コイツを倒したのは凪らしい。一体どうやったのだろう。
 まさか本当にプリキュアに変身したのだろうか。


「支給されていた特殊な弾丸が効いたわ。ただ、早く撤収しないと神経が回復してしまうから急ぎなさい」


 ……そう、先ほど西条凪が発砲した弾丸は神経断裂弾という特殊な弾丸であり、グロンギの怪人をこのように弱らせることができる。
 場合によっては、殺害もできたのだが、こうしてあっさり敵がのびたのを見て、凪はもういいだろうと判断した。
 逃げられるだけの隙ができれば十分だ。


「……というわけだ。二人とも、早くここを立ち去るぞ」


 石堀の言葉を聞き、二人は凪と石堀の背中を追った。
 よく見ると石堀と凪の荷物が増えている。ガドルから剥ぎ取り、もとい奪ったもの……らしいとすぐにわかる。
 動きにくいだろうが、殺し合いに乗る者が気絶してるのなら、荷物くらいは奪っておくのが当然か。
 それだけ考えて彼らが行動していた間、暁と黒岩は何をしていただろう。


「「……」」


 明らかにピリピリした様子の凪に、二人は思わず黙る。
 これは完全に怒らせた。
 別にふざけていたわけではない。いつものノリで戦っていたら、思わずこうなってしまっただけだ(ただし黒岩のみ)。


「……そうだ、涼村暁」


 凪が急に立ち止まって、暁に声をかける。
 顔が明らかにムスッとしており、不機嫌だ。
 本人が真面目に戦っているなか、暁と黒岩はふざけていたのだから当たり前だ(ただし黒岩はふざけていたわけでh)。


「……そのドライバーは私に預けなさい。シャンゼリオンに変身できるあなたが複数の変身道具を持ってる意味はないわ」

「……あ、いや、でも次郎さんが」

「預けなさい」

「はい」


 暁は、すぐに弱り、ロストドライバーとスカルメモリを凪へと手渡す。
 片手間に持てるのが不思議なくらい小さな道具だ。あれが腰に巻けるベルトになるというのはなかなか興味深い構造である。
 何はともあれ、これでこのチームは全員が変身できる装備を持ったことになる。


 しかし──


 メンバー内の不和は大きくなったと言っていい。
 暁と黒岩の住む世界、凪と石堀の住む世界は空気が違う。
 全員がその世界の空気を持ち込んでしまったがゆえに、互いの不信感やストレスは深まるばかりだった。



★ ★ ★ ★ ★



 ガドルが負ったダメージは相当のものだった。
 かつて、彼がリントの戦士──警察たちを襲ったとき、ガドルは全身に何度も銃創を作ったが、弾丸は全て体の内部からはじき出し、攻撃が持つ意味そのものを無に返したことがある。
 しかし、この弾丸はガドルをダウンさせた。
 相当のダメージで、動くことができなくなるのである。手も足も、体の全てが麻痺して動かない。
 神経そのものが断裂されているのだ。
 そう、この痛みは──


(一条と呼ばれていた奴の……)


 クウガに「一条」と呼ばれた男の放った弾丸に似ている。
 いや、似ているのではない。これはあの時と全く同じだ。
 神経断裂弾という、対グロンギ用の弾丸なのだが、彼がそれを知る由もない。
 ともかく、回復するのに少しだけ時間がかかる。
 ほんの少しだけだが……。


(……逃げたか? まさか戦う前に終わるとは)


 立て。
 奮い立て。
 立ち上がれ。
 ガドルは、自分の体へと何度も念じる。
 視神経など五感の幾つかも断裂したらしく、思考だけが巡る。
 目も見えず、耳も聞こえない。
 しかし、誰かが襲ってくるかもしれない……という恐怖はない。
 襲撃されたとしても、死ぬ前に神経が回復するという自信があったからだ。


 少しだけ、待つ。


 ガドルの視界に光が取り戻されていく。
 最初に見えたのは黒。
 それが茶色になり、やがてはっきりとそれが土だと認識できるようになった。
 それと同時に、ガドルはゆっくりと立ち上がる。


「ボゾギデジャス(殺してやる)」


 ただ、それだけ呟いた。
 ガドルが地面に伏す。そんな無様な姿にさせた者は許さない。
 まずはあの女。それから、次に残りの三人。
 これから始まる新たなゲゲルの幕開けだった。


 彼らが逃げたルートはわからないが、頂上のガドル、禁止エリア、爆発の全てから逃げていた連中のルートはほぼ限られる。
 ガドルは、間接を鳴らすような動作をした。
 断裂された神経はどうやら、全身で完全につながったらしい。

 荷物が無い──彼らが奪ったのだろうが、それは些細なことだ。
 プライドを奪われたことの方がずっと重大な問題である。
 ガドルは、敵の数を頭に浮かべた。


 四対一。
 あの時──フェイトとユーノを殺したときと同じだ。
 あの時とは違う。全員殺す。


「ジョグオク ザ(上等だ)」


 逃がしはしない。




【1日目/日中】
【G-5/森】


【石堀・または凪が次の道具を持っています】
基本支給品一式×2、ガドルのランダム支給品1~3(本人確認済み、グリーフシードはない) 、フェイトのランダム支給品0~1、ユーノのランダム支給品1~2個 、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2


【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー@仮面ライダーW、ガイアメモリ(アクセル、トライアル)@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する
0:とりあえずガドルから逃げる。
1:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る
2:今、凪に死なれると計画が狂う……
3:凪と暁と黒岩と共に森を通って市街地に向かう(ただし爆発が起こったエリアや禁止エリアを避ける)
4:孤門や、つぼみの仲間を捜す。
5:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
6:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました
第二回放送のなぞなぞの答えを知りました
※森林でのガドルの放送を聞きました

【西条凪@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、強い苛立ち
[装備]:コルトパイソン+執行実包(2/6) 、スカルメモリ&ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×4)、照井竜のランダム支給品1~3個、相羽ミユキのランダム支給品1~3個、テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
基本:人に害を成す人外の存在を全滅させる。
0:とりあえずガドルから逃げる。
1:涼村暁と黒岩省吾をどうするべきか(その思いは更に強力に)。
2:状況に応じて、仮面ライダースカルに変身して戦う。
3:孤門と合流する。
4:相手が人間であろうと向かってくる相手には容赦しない。
5:黒岩省吾の事を危険な存在と判断したら殺す。
6:溝呂木眞也、暗黒騎士キバ、ゴ・ガドル・バもこの手でいつか殺す。
[備考]
※参戦時期はEpisode.31の後で、Episode.32の前
※さやかは完全に死んでいて、助けることはできないと思っています
※まどか、マミは溝呂木に殺害された可能性があると思っています
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました
※森林でのガドルの放送を聞きました



【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン
[道具]:支給品一式(ペットボトル一本消費)、首輪(ほむら)
[思考]
基本:願いを叶えるために優勝する………………(?)
0:とりあえずガドルから逃げる。
1:石堀、黒岩、凪と行動し、黒岩が変な事をしないよう見張る。
2:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
3:ラブちゃん、大丈夫なのか……?
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
 つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。但し、まどかの名前等知り合いの事については全く聞いていません。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました

※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました
※森林でのガドルの放送を聞きました



【黒岩省吾@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:健康
[装備]:デリンジャー(2/2)
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考]
基本:周囲を利用して加頭を倒す
0:とりあえずガドルから逃げる。
1:あくまで東京都知事として紳士的に行動する
2:涼村暁との決着をつける ……つもり、なのだが……
3:人間でもダークザイドでもない存在を警戒
4:元の世界に帰って地盤を固めたら、ラビリンスやブラックホールの力を手に入れる
5:井坂とティアナが何を考えていようとも、最終的には自分が勝つ。
6:桃園ラブに関しては、再び自分の前に現れるのならまた利用する。
7:涼村暁が石堀光彦や西条凪に妙なことを口走らないよう、警戒する。
[備考]
※参戦時期は東京都知事になってから東京国皇帝となるまでのどこか。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマンはダークザイドと同等又はそれ以上の生命力の持主と推測しています。(ラブ達の戦いを見て確信を深めました)
※ラブからプリキュアやラビリンス、ブラックホール、魔法少女や魔女などについて話を聞きました 。
※暁は何らかの理由で頭が完全におかしくなったのだと思っています。
※暁は違う時間から連れて来られたことを知りました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました
※森林でのガドルの放送を聞きました



【1日目/日中】
【F-5/森】
※同エリアで拡声器を使い、周囲に呼びかけをしました。周囲1~2エリア(頂上で使ったため、場合によってはもっと遠くも)に聞こえた可能性があります。
※拡声器と双眼鏡が同エリアの頂上に放置されています。

【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)(回復中)、右脇に斬傷(回復中) 、肩・胸・顔面に神経断裂弾を受けたダメージ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:ダグバを倒し殺し合いに優勝する
1:凪を殺す。ほかの三人(石堀、黒岩、暁)もついでに殺す。
2:強者との戦いで自分の力を高める。
※死亡後からの参戦です
※フォトンランサーファランクスシフトにより大量の電撃を受けた事で身体がある程度強化されています。
※フォトンランサーファランクスシフトをもう一度受けたので、身体に何らかの変化が起こっている可能性があります。(実際にどうなっているかは、後続の書き手さんにお任せします)
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました




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Back:あざ笑う闇 石堀光彦 Next:死神の祭典(第1楽章 悪魔の祝宴)
Back:あざ笑う闇 西条凪 Next:死神の祭典(第1楽章 悪魔の祝宴)
Back:あざ笑う闇 涼村暁 Next:死神の祭典(第1楽章 悪魔の祝宴)
Back:あざ笑う闇 黒岩省吾 Next:死神の祭典(第1楽章 悪魔の祝宴)
Back:三つの凶星 ゴ・ガドル・バ Next:死神の祭典(第1楽章 悪魔の祝宴)


最終更新:2014年03月17日 14:35