変身超人大戦・襲来  ◆LuuKRM2PEg





「バスタアアアアァァァァァァァ!」
「バスタアアアアァァァァァァァ!」

 そして、二つの光は寸分の狂いもない同じタイミングで放たれた。二人の呼吸が完全に一致していたのは、二人が師弟だったのが関係あるかもしれない。
 鋼色の拳と黄金の杖から轟音と共に解放されたエネルギーは一瞬の内に衝突し、勢いよく爆発した。暴力的とも呼べる魔力の塊の余波は凄まじく、それだけで周囲の物を容赦なく吹き飛ばしていく。
 サイクロン・ドーパントもまた弾き飛ばされそうになったが、その直前にキュアサンシャインによって支えられた。

「あ、ありがとうございます!」
「吹き飛ばされないように踏ん張って!」
「はい!」

 激流のような光線の余波と二つの光線が放つ眩さによって、サイクロン・ドーパントは思わず目を細める。その勢いはサイクロン・ドーパントが放っていた疾風など、まるで子供騙しのように思えるくらいだった。
 拮抗する光線はやがて、雷鳴が轟くような音を鳴らしながら爆発して、辺りを極光で満たす。その衝撃によって地面は大きく揺れるが、サイクロン・ドーパントはそれに意識を向けていられなかった。
 光が収まりつつある中、吹き飛ばされた大地は粉塵となって周囲に舞い上がる。しかしそれは冷たい風に流されて、視界を遮ることはなかった。

「でぃばいん、ばすたー……」
「スバルさん……もうやめてください」

 そして、二つのディバインバスターによる輝きが消えた頃、なのはとスバルは見つめ合っている。
 スバルは拳を突き出したままぽかんと力なく口を開けているのとは対照的に、なのはは悲しげな表情で呼びかけていた。

「まぶしい、なのはさんのでぃばいんばすたー……まぶしい、とってもまぶしい」
「スバルさんお願い! 元の優しいスバルさんに戻って!」
「……やさしい?」
「私はスバルさんのことはよく知りません! でも、アインハルトさんや未来の私はあなたのことがとっても優しい人だって知っています! そして、スバルさんがたくさんの人を助けてくれたことも!」
「たくさんの人を、助けた……?」

 金色に輝く瞳から突き刺さってくる殺意が、なのはの言葉によって弱まってくるように感じる。ゆっくりと構えを解いていくスバルの顔がまたしても迷いで満ちて、息を荒げながら頭を抱えた。

「ど、どうして、どうして、どうして、あたしは、つぶす、つぶす、なのはさん、まぶしい、なのはさん、つぶす、つぶしていい、つぶしちゃだめ、つぶしていい、つぶして、つぶして、つぶして……」
「スバルさん!」
「どうして、なのはさん、どうして、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん……」

 なのはが必死に呼びかけていく度にスバルはどんどん狼狽していって、血管のように脈打つソレワターセが縮んでいくのが見える。そのおかげで、あれだけ飛び交っていた触手も止まっていた。
 これは千載一遇のチャンスだと思ったサイクロン・ドーパントは、キュアサンシャインから少し離れていく。

「あたしは、あたしは、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、たすける? たすける? なのはさん? なのはさん? なのはさん?」
「いつきさん!」
「うん、わかってる!」

 そしてキュアサンシャインも察しているのか、サイクロン・ドーパントに頷きながら前に出た。太陽のように強く光る瞳を見て、ここにいるみんなの願いがようやく叶えられるとサイクロン・ドーパントは思う。
 これでようやくスバルさんを助けて、本郷さん達と一緒に加頭やキュウべぇの陰謀を阻止することができる。さやかちゃんの時みたいに、もう救えなくなるなんてことはない。
 キュアサンシャインに希望を感じていたサイクロン・ドーパントは、スバルに意識を向け続けていた。そして彼女は気付かなかったが、一号とアインハルトも困惑するスバルに釘付けとなっている。
 その結果、襲撃者に気付くのに遅れてしまった。もっとも、それが早かったところで不幸にも数メートルほどの距離があったので、素早く反撃できた可能性は低い。
 スバルを元に戻せるという大きな希望が、皮肉にも最悪の罠となってしまったのだ。

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 気付くことができたのは、シンケンブルーの悲痛な叫びが発せられてからだった。
 何が起こったのかを考える暇もなく、サイクロン・ドーパントはすぐさま後ろを振り向く。見ると、ここから少し離れた場所ではシンケンブルーが倒れていて、その側に別の参加者が二人も立っていた。
 おとぎ話に出てくるような魔女みたいに薄気味悪い格好をした大柄の女と、怪談の中で語られそうな妖怪みたいな怪物。それぞれの瞳からは、この殺し合いに乗っていると言わんばかりの明確な殺意が感じられた。
 サイクロン・ドーパントはすぐに突風を出そうとしたが、怪物は両手に握った刀をシンケンブルーに突き付けていて、下手な動きをすれば殺される可能性がある。それは戦いの素人である彼女でも、容易に想像できた。

「無様な姿ですな、シンケンブルー」
「お前はやはりアクマロ……本当に生きていたのか!?」
「ほう、我がこの殺し合い程度で滅ぶような輩だと? これはまた随分と、見くびられたものですなぁ!」

 アクマロと呼ばれた怪物の口調は軽剽と苛立ちが同時に感じられる。そのせいで、能面のように動かない顔の下からは怒りが放たれていると本能で察した。
 そのままアクマロは憂さ晴らしのためなのか、シンケンブルーをまるでボールか何かのように蹴飛ばす。マスクの下から発せられたと共に地面を転がる彼の元に一号が駆け付けて、その身体を支えながらアクマロ達を睨んだ。

「あなた方シンケンジャーはただでは殺しませぬ。これまで我々の邪魔をした報い……じっくりと、受けて頂きましょう」
「お喋りはそこまでよ、アクマロ君」

 アクマロが一歩前に踏み出そうとするが、隣で邪悪な笑みを浮かべている女がそれを制止する。蛇のように輝く瞳は、キュアサンシャインに向けられていた。

「キュアサンシャイン……まさか私の知らないプリキュアがいたなんてね。これは驚きだわ」
「もしかしてあなたが……ノーザ!?」
「ふうん、私のことを知ってるのね。これは光栄だわ」
「じゃあ、スバルさんをソレワターセで操ってるのも、やっぱりあなたの仕業だったのね!」
「あら、わかってたんじゃなかったのかしら? 最初から私が、そのマシーンを有効活用してあげたってことを」
「なんですって!?」

 ノーザと呼ばれた女がさも当然と言うような笑みを浮かべる前で、キュアサンシャインは表情を怒りに染めながら拳を強く握り締める。
 そんな彼女と同じようにサイクロン・ドーパントも、人を人とも思わないようなノーザの言葉に憤りを感じていた。本当なら魔法少女のみんなや猛みたいに人々を守っている勇気に溢れたスバルを、よりにもよってマシーンなどと呼ぶ。
 それはあのキュウべぇみたいに感情がなければできることではない。しかもノーザやアクマロは人の不幸を嘲笑っているから、キュウべぇ以上に悪質かもしれなかった。

「あなたがスバルさんを……許さない!」

 そしてアインハルトも怒りに満ちた表情でノーザを睨んでいて、そのまま勢いよく走り出す。まるで韋駄天のように素早く、ノーザとの距離がどんどん縮んでいった。

「待つんだ、アインハルト!」
「一人で飛び出すな!」

 一号とシンケンブルーは呼びかけるがアインハルトは止まらない。二人は立ち上がって駆けつけようとするが、その前にアクマロが立ちはだかる。
 右手の刀を一号に、そして左手に握る刀をシンケンブルーに突き付けて、一瞬だがその動きを止めた。

「そこをどけ、アクマロ!」
「邪魔をするのは無粋ですぞ。シンケンブルー……そして、本郷猛!」

 シンケンブルーの怒りを前にしても、アクマロは嘲笑を貫いている。

「ならば、力尽くで通るだけだ!」

 そう、一号は拳を握り締めながら宣言する。

「やれるものなら、やってごらんなさい!」

 そう言い放ったアクマロは両手の刀を構えて二人に襲いかかり、異様な輝きを放つ刃で容赦なく斬り付けていく。一号とシンケンブルーは何とか避けようとするが、スバルと戦っていた直後だったせいで動きが鈍っていて、そのせいでアクマロの攻撃全てを対処することができずに斬られていた。

「ぐうっ!」
「ほ、本郷さん!」

 そして一号の胸板が傷つけられるのを見て、サイクロン・ドーパントは駆け付けようとするが今度はスバルによって阻まれる。キュアサンシャインやなのはも二手に分かれて進もうとしたが、ソレワターセの触手が彼女たちの行く道を塞いでいた。

「全てはノーザ様のために」
「スバルさん、そこをどいてください!」
「全てはノーザ様のために」

 なのはは必死に呼びかけるが、スバルは初めて出会った時のように表情が冷たい殺意で満ちている。輝く瞳からは、血も涙もない殺戮兵器のような冷酷さが感じられた。
 その視線に戦慄する暇もなく、彼女の背中に取り憑いたソレワターセから触手が何十本も飛び出してきて、緑色の肌を容赦なく叩いてくる。サイクロン・ドーパントが悲鳴を発して弾き飛ばされた頃には、キュアサンシャインとなのはも地面に叩き付けられていた。

「覇王――!」

 そしてここから少し離れた場所で、アインハルトが拳を握り締めながら走り、力強く宣言しているのをサイクロン・ドーパントは見る。
 その一撃が凄まじい威力を持っているのは、先程コウモリ男を叩きのめしている時に知った。だから、どんな敵が相手でも決して負けることはない。
 そう信じているのに、サイクロン・ドーパントの中で不安は消えなかった。アインハルトの前にいるノーザが余裕の笑みを浮かべながら、何も仕掛けてこない。
 このままじっとしていたら、アインハルトに叩き潰されるだけ。アクマロは一号やシンケンブルーと戦っているし、スバルはノーザに背を向けたままこちらを睨み付けている。
 今、ノーザを守る者は誰一人としていない。それにも関わらずして、何故あそこまで余裕で立っていられるのか?
 疑問が何一つ解決されないまま、アインハルトは遂にノーザの目の前まで迫っていた。

「アインハルトちゃん、駄目!」
「断空拳!」

 サイクロン・ドーパントは嫌な予感のあまりに呼びかけたが、もう遅い。
 アインハルトの掛け声が発せられた次の瞬間、それを打ち消すかのような激しい音がエリアに響いた。その音はアインハルトの奥義がいかに凄まじい威力であるかを物語っている。
 だからこそ、サイクロン・ドーパントは目の前の光景を信じることができずに声も出せなかった。

「えっ……!?」
「フフッ、せっかく当てることができたのに残念でした」

 そして、アインハルトも同じように驚愕している。
 アインハルトが全力で放った覇王断空拳は確かにノーザに届いていたが、雪のように白い片手一つだけで受け止められていた。
 アインハルトは一瞬だけ愕然とした後、何とか振り解こうと動いているがノーザは微動だにしない。それどころか、笑ってすらいた。

「くっ……このっ!」
「実は言うと私、とっても強いのよね」

 明らかにアインハルトを愚弄しているノーザを見て、サイクロン・ドーパントはようやく確信する。
 何故、ノーザは覇王断空拳が迫るまでに何の動きも見せなかったのか? それは避ける必要がなかっただけに過ぎない。彼女の奥義を簡単に受け止められるくらい、ノーザは強かったという単純な理由だった。
 しかしだからといって、サイクロン・ドーパントは納得などできない。アインハルトは一号と一緒にみんなの為に戦えるくらい、勇気に溢れた強い少女だった。そんな彼女が悪意に満ちた魔女に負けるなんて、サイクロン・ドーパントは受け入れることなどできない。
 目の前の光景がただの悪夢だと思いたかったが、現実は何一つとして変わることなどなかった。

「これくらいに、ね!」
「きゃあっ!」

 そしてノーザは片腕一本だけで、アインハルトの身体を勢いよく頭上まで持ち上げる。その細い腕のどこにそれだけの力があるのかを考える暇もなく、そのまま彼女は宙に投げ飛ばされた。
 アインハルトが重力に吸い寄せられて地面へ叩き付けられると思った瞬間、その脇腹をノーザは勢いよく蹴りつけて更に高く持ち上げる。口から漏れた悲鳴は声になっていなかったので、それだけで重い一撃であることが見て取れた。
 数秒ほど宙を舞った後、今度こそアインハルトは地面に勢いよく落下する。どさり、と鈍い音を鳴らしながら一気に転がっていった。

「アインハルトちゃん、今そっちに行くよ!」

 回転はすぐに止まったが、その身体には大量の傷が見える。
 一号とシンケンブルーはまだアクマロと戦っているし、キュアサンシャインとなのはは少しだけ遠い。だからサイクロン・ドーパントはすぐに立ちあがって、アインハルトの元に走り出していく。キュアサンシャインとなのはが後ろから呼びかけてくるが、それを聞いている暇はない。
 アインハルトは身体をゆっくりと起こしながら振り向き、そして一気に目を見開いた。

「駄目! まどかさん、後ろ!」
「えっ?」

 予想だにしなかったアインハルトの答えが、サイクロン・ドーパントに一瞬の制止を余儀なくしてしまう。そして反射的に後ろを振り向こうとした直後、地面が勢いよく削れる音が耳に響いた。
 完全に振り向いた後に見えたのは、流星の如く駆け抜けてくるスバルの姿。彼女はソレワターセの触手でキュアサンシャインとなのはの接近を阻みながら、拳を振り上げてくる。
 サイクロン・ドーパントは突風を出すために両腕を突き出そうとするが、それよりもスバルの動きが圧倒的に速い。不意に、一号達の声が聞こえてくるが、それがあまりにも遠い物に感じられた。
 全てを射抜くような金色の瞳と目が合った頃、スバルの拳はサイクロン・ドーパントの腹部に到達している。ドーパントになったことで発達した感覚によって、これから吹き飛んでしまうと本能が予知した。

「IS・振動破砕」

 そんな呟きが耳に届いた瞬間、サイクロン・ドーパントはまるで全身が砕け散るような衝撃を感じる。予想を遥かに上回るくらいに凄まじい威力で、サイクロン・ドーパントが耐えられるダメージではなかった。
 気がつくと、視界に映っていたのはようやく登り始めたとても美しい朝日だったが、朦朧とした意識の中ではそれを意識することはできない。
 そこからすぐに身体が揺れるのを感じて、その度に痛みが全身を蹂躙していく。ようやく振動が収まって起き上がろうとするが、急に全身は鉛のように重くなっていた。
 一体何がどうなっていて、自分の身に何が起こったのか? その疑問が解決されることもなく、彼女は自分の右手が腹部に触れていて、そこに生温かい液体が付着してるのを感じる。
 この違和感の正体を突き止めるため、何とかして腕に力を込めて手を見つめた。スバルから受けたダメージによって体内に宿るガイアメモリは体内から排出され、元の華奢な女子中学生の姿に戻っているが、それを意識していない。
 ただまどかが認識しているのは、自分の右手が真っ赤に染まっていることだけだった。

「えっ……何、これ……?」

 新鮮なトマト以上に鮮やかな赤さを持つ液体からは、鉄の匂いがする。
 刹那、喉の奥から何かが逆流してきて、それがまどかの口から勢いよく吐き出された。そして次の瞬間には、口内に血の味が広がっていく。
 この時まどかはようやく察した。たった今、スバルから受けた攻撃によって腹に大きな穴が空いて、そこから大量の血が流れ出ていることを。
 まどかは知らないが、その一撃は戦闘機人タイプゼロ・セカンドであるスバル・ナカジマが持つIS(インヒュレートスキル)と称される特殊技能の一種で、振動破砕の名を持つ接触兵器による物だった。それは四肢の末端部から強烈な振動を標的に与えて、対象物の内部を容赦なく破壊する防御不能の機能。主な目的は機械兵器を破壊することだが、生物に対しても莫大な殺傷能力を持っている。
 本来ならその振動にはスバル自身にも伝わり、危険な諸刃の剣とも呼べる機能だった。現に彼女の左腕部分の内部ケーブルが一部破損してしまい、リボルバーナックルやマッハキャリバーにも亀裂が走っている。
 だがその見返りは大きい。制限によって威力が減退しているにも関わらず、サイクロン・ドーパントの変身を強制的に解除させて、まどかの臓器や骨を破壊するには充分すぎた。

「あ、あ、あ……あ……ッ!?」

 手に付着した鮮血を見てようやく腹部に激痛を感じて、まどかの口から悲鳴が漏れそうになった瞬間、その身体が急激に持ち上げられる。倒れたまどかの手足にソレワターセの触手が絡みついて、そのままスバルが立つ地面の遥か上にまで登っていった。
 まるで十字架に張り付けられたかのように四肢を縛られたまどかの耳に声が響くが、痛みと失血によって意識が揺れているのでまともに聞き取れない。ただ、ぼんやりと下界を見下ろすしかできなかった。
 そんな中、この事態を引き起こした元凶たるノーザが笑いながらこちらを見上げていて、目線が合う。嘲笑うような眼からは殺意が向けられているだけではなく、まるで呪われているようにも思えた。
 自分の未来はノーザによって握られていて、この命はもう自分の物ではない。生きるも死ぬもノーザ次第。不意にまどかはそう思うようになって、背筋が凍るような悪寒を感じる。
 ノーザの冷たい瞳に宿る邪念はキュウべぇからも、これまで魔法少女のみんなが倒してきた魔女達よりも、そして先程戦ったスバルよりも強い。それほど怖いノーザによって、これから全てを壊されてしまう。
 まどかは恐怖のあまりに、そんな不安に捕らわれてしまった。


 これは誰もあずかり知らぬことだが、まどかが追い込まれたのにはもう一つだけ原因がある。それは参加者の大半に配られているはずの、T―2ガイアメモリ。
 莫大な力を得られる代償として、余程強い精神力を持たぬ人間がそれを差し込んでしまえばたちまちメモリの毒素によって精神を壊されてしまう。ただの女子中学生でしかないまどかはそれを二度も使用したことで、自分自身を抑える力が極端に弱くなっていた。
 加えて本郷猛から仮面ライダーと呼ばれたことで、彼女は慢心してしまっている。賞賛の言葉が皮肉にも、まどかを危機に陥らせるきっかけとなってしまったのだ。




 スバルに植え付けられたソレワターセによって天に掲げられたまどかを助けるために、シンケンブルーは必死に刃を振るい続ける。しかしアクマロが持つナナシ連中の刀でそれを受け止められてしまい、そこから削身断頭笏で胸部を横一文字に斬られた。
 焼け付くような痛みが駆け巡り、呻き声と共にシンケンブルーは後退ってしまう。それをカバーするかのように一号はアクマロに殴りかかるがあっさりと避けられて、そこから反撃の一閃を受けてしまった。
 蹌踉めきながらもシンケンブルーは何とか立ち上がって走ろうとするが、痛みが動きを阻害している。十蔵によって負わされた傷はスバルとの戦いで開いてしまい、左脇腹から少しずつ血が流れていた。
 その上、外道衆の中でも相当の実力者であるアクマロとの戦いを強いられることとなり、動きは確実にキレを無くしている。
 もしもまどかを助けるためにどちらか一人がアクマロを引き受けたとしても、消耗した状態で一騎打ちを持ち込んでは一瞬で負けてしまい、もう一人もすぐに殺されるだけ。結果、二人で戦うことを余儀なくされていた。

「おやおや、いつもの動きが感じられませぬ。シンケンブルー……もしや、深手を負っておりますな」
「黙れ!」

 そして今も、身体の不調さえも敵に見抜かれていた。侍の誇りがそれを許すはずもなく、何とか力を込めてシンケンマルで一閃するが、すぐに受け止められてしまいそこから胸部を蹴られる。
 再度吹き飛ばされるが、地面に叩き付けられる直前に一号が支えてくれた。シンケンブルーは軽く感謝を告げながら、ゆっくりと立ち上がる。

「あんたさん達、これから始まる喜劇の邪魔をするのは無粋ではありませぬか。お客はお客らしく、ゆっくりと待てばいいのです」
「喜劇だと……!?」
「ふざけるなっ!」

 シンケンブルーのマスクの下で流ノ介が汗を流しながら怒りで表情を歪ませる中、一号は激昂した。

「キサマら……何故、まどかちゃんにあんな酷い仕打ちをする!?」
「何故と申されても……この催しは元々こういう仕来りですから、私はそれに従うまでです。それに一体、何の間違いがありますかな?」
「何だと……!?」

 一号が握り締めた拳からはメリメリと鈍い音が聞こえて、それだけでも並の怪人を震えさせるような闘志を放っているが、アクマロは微塵にも揺れる気配を見せない。

「もういい、黙れアクマロ」

 しかし一号が放つオーラは、シンケンブルーを奮い立たせる力となった。
 あの会場で加頭順に対して啖呵を切った男が隣にいるのだから、足枷にならないよう戦わなければならない。その意思はやがて、全ての人々を救うきっかけになるはずだから。

「邪魔をするなら、突破するだけだ!」
「フン、望むところです! 相手になって差し上げましょう!」

 シンケンブルーの呼吸は徐々に荒くなっていくが、それでもシンケンマルを握る力だけは緩めない。
 目の前にいる外道達をこの手で斬るために、彼は一号と共に走り出した。



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最終更新:2013年03月14日 22:44