Dの戦士/MOON~月光~ATTACK ◆7pf62HiyTE
1.呪泉の郷
「ここが呪泉郷か……」
そう口にしたのは青い炎を刻んだ白き仮面ライダー――エターナル、
先の戦いの後、この先どうするかを考えた結果選んだのは当初の予定通り呪泉郷へ向かうという選択肢だった。
そもそもそこに集うであろう参加者を一網打尽にした上で散らばったであろうT2ガイアメモリを集めるのが当初の目的だった筈だ。
来るかどうか分からないとはいえ、元々そんな事など予想の範疇内、行動を覆すには弱い理由だ。
それに何より単純な興味本位程度の理由だが一度呪泉郷というものを見てみたかった。そう、かつて戦ったあの場所――ビレッジと重ねたあの場所を――
「なんだ、村かと思いきや、只の修行場か」
その場所は無数の泉がわき出ていて、修行におあつらえ向きな様に無数の竹が立っていた。
おおかた泉に落ちぬ様に竹の上で戦う事で鍛錬を行うのであろう。
「ご丁寧に日本語訳付きの説明まで付けてやがる……流石にどの泉がどんな効果を持っているかまではわからねぇみたいだがな」
説明書き(中国語で書かれているが日本語訳付き)によれば泉に落ちればその泉に応じた姿となり、以後水を浴びればその姿に、湯を浴びれば元に戻るとの事だった。
もっとも、どの泉がどれに対応しているかまでは全くの不明瞭。詳しいガイドがいるならともかくいない以上は実際に入るもしくはその水を浴びて確かめるしかない。
「ある意味では命がけかもな……もっとも命よりも人間である事や、男や女である事を捨てる事になるだろうがな……」
そう口にした。
その場所の正体がわかった以上、目的の半分は果たした。
後はここからどうするか。呪泉郷の名を口にした男や、同じ様に向かうであろう参加者を待ち受けても良いがこのまま無為に過ごすのも少々勿体ない。
そんな時だった――轟音が響いてきたのは。
「あの方向は……ホテルか」
すぐさまエターナルは地図を確かめる。方向から考えてその方向はB-7にあるホテルだ。
「どうやらここじゃなくホテルの方が正解だったらしいな」
ならばすぐさま移動すべきだろう。エターナルのスペックを考えればそう時間はかからない――流石に放送をまたぐ可能性は高いだろうが――
余談だが、先の戦いの後一端変身解除したがまたすぐさまエターナルに変身したのはそのスペックで短時間で移動する為である。
かくしてエターナルはホテルへと移動を――開始しない。
何故移動しないのか? いや、正確に言えば移動はする、但しその方角はホテル方向では無いということだ。
何故か? 簡単な理屈だ。轟音の激しさから考え、あの地で戦いが起こったと考えるのが妥当、しかし重要なのはむしろここからだ。
長々と戦地に留まる理由は無い。つまり――移動を行う可能性が高いという事だ。
故に向かうべき方角はホテルではなく、ホテル近辺にある周囲エリア――だがそのエリアは呪泉郷を含め8つ――可能性が低いであろう海沿いを除外するとしても5つ――
「ここで待ち受けるを含めて確率は2割弱か――さて、どうするかな」
2.揺れる月影
放送から数分――キュアムーンライトは走っていた。
放送の内容を聞いていなかったわけではない、その内容は彼女にとって十分思案する価値のあるものだった。
ボーナス? それは11時になってからの話で、何処の施設にあるのかもわからない以上今は考える意義は薄い。
彼女にとって重要なのはそんな事ではない――
放送を担当した者はかつてパリで遭遇、交戦した最初のさばくの使徒として生み出されたサラマンダー男爵であったのだ。
だが彼は生まれた時に自分達の存在意義や生み出した王デューンの心を知りたいと願ったが為に心を嫌うデューンの怒りを買い追放、その後最初のプリキュアキュアアンジュによって数百年もの間封印されていた――
彼には受け入れられる世界が無かった――それ故にその心はさばくの使徒やプリキュアへの復讐心に満ちていたのだ。目的もさばくの使徒の本来の目的である砂漠化ではなく破壊である。
その男爵の封印は奇しくも1人の――自身の名前すら知らない少年によって解かれた――
少年には悪意は全く無い――ただ1つ、親が欲しいという純粋な願いしかない――
その少年は男爵からは狼男の意味を持つルー・ガルーと呼ばれ、
花咲つぼみ達からは彼自身のこころの花であるキンモクセイを意味するオリヴィエと呼ばれていた――
男爵はルー・ガルーと共に自身の力の源であるクリスタルを探す為世界中を旅していた――その目的は前述の通りだ。
だが――決して平坦では無い数年間の旅路は――ルー・ガルーと男爵に大きな影響を与えた――
ルー・ガルーにとって男爵は求めていた父となり――
男爵にとってルー・ガルーは自身を受け入れてくれる世界となった――
そして、プリキュアとの激闘の果てに男爵のクリスタルは失われ――
『全く忌々しい……プリキュア共め……次は必ず俺が勝ってやるからな……』
それは復讐心に満ち破壊を求めた男の言葉では無かった――
かくして、親子2人は再び旅へ――
男爵はクリスタルが無ければ大した力を持たない。それ故、今の男爵はさしたる相手ではない――
が、逆を言えばクリスタルさえあれば十分に戦えるという事だ。主催陣はそのクリスタルを再び与えたのだろうか?
しかし今更男爵が世界を破壊するとも思えない。それ故にわざわざ連中に協力はしないだろう。
――いや、男爵を協力させる理由はある。
「オリヴィエ……あの子の為だとしたら?」
男爵の動機として一番に考えられるのはオリヴィエことルー・ガルーだろう。
元々、長年の封印により男爵の身体は限界に来ていた。他に助けてくれる者がいない以上、朽ちるのは時間の問題かもしれない。
男爵自身は今更自身が散る事についてはそこまで気にはしないとしても残されるルー・ガルーの事を考えれば――
もしくは、ルー・ガルー自身が人質に取られているのならば――
真意は不明瞭、だがどうであれルー・ガルーはそれを求めはしないのは間違いない。
しかし、今のムーンライトには彼に口を出す資格など何処にも無い――
ほぼ確実に自身の凶行は男爵も把握している、もしかしたらオリヴィエも知っているかもしれない。
仲間殺しをした自身の凶行を――
ここまでの退場者は18人、知っている者としては後は
ノーザぐらいなものだ。
といっても、直接面識があるわけではなくつぼみ達が他のプリキュア達と共に戦っている所を遠くから応援していた、あるいは少し話に聞いた程度である。
しかし誰が退場しようが最早立ち止まれない。叶えたい目的の為に奔り続けるしかないのだ――
だが――
連中が本当に素直に願いを叶えてくれるのか?
そういう手合いの連中とずっと戦い続けてきたのだ。それが嘘かも知れないなんて事は少し考えればすぐにわかる。
それでももう止まれない。凶行に及んだ時点で自身に残されたのは優勝し全てを取り戻す以外に手は残されていないのだから――
それがあまりにも気が狂ったとしか思えない考えである事は理解している、それでも――
そうでなければそれこそ彼女を殺した事が無駄になってしまう――
3.永遠の兄弟、月光の姉妹
その時――1本のナイフが前方から飛んできた――
「!」
それを難なくはじき飛ばす――はじき飛ばされたナイフは前方に立つ投げつけたであろう白き戦士の手へと戻っていく。
「やるじゃねぇか」
そう口にしつつ白き戦士はゆっくりとムーンライトの眼前へと近づいていく。
「誰?」
「仮面ライダー……エターナル」
「貴方……乗っているのかしら?」
「今のナイフを見ればわかるだろう?」
「だったら妙な話ね、仮面ライダーは正義の味方……人々の希望じゃないのかしら?」
そう、最初のあの場で加頭に立ちふさがった2人の仮面ライダーの口ぶりから彼等が正義の味方だという事は容易に推測がつく。
それ故に目の前の仮面ライダーの言動が奇妙に思えたのだ。
「俺は新しい街の希望だ……間違ってはいない。そういうあんたは何者だ?」
「……キュアムーンライト」
「ライト……そういや奴の息子にして……俺にとっての兄弟もそんな名前だったらしいな……まぁそんな事はどうでもいい、
ダークプリキュアの親戚か……いや……姉妹か?」
その言葉にムーンライトの表情が強ばる。
「さぁ、貴方には関係の無い話よ」
「ふっ、どうやら図星だったみたいだな……まぁ実際俺には関係の無い話だ」
エターナルが選んだのはホテルから東のB-8、そこに向かえば誰かと遭遇できると考えた。
ちなみに道中で放送は聞いているものの禁止エリアの情報以外はそこまで重要視はしていない。
誰が死のうが今更克己の心が動かされる事などないし、ボーナスに関しても情報が少ない以上、確保できればラッキー程度故に過度な期待はしていない。
重要なのはむしろ目先の獲物だ、細かい事は後から考えれば良い。
かくして向かおうとするムーンライトと遭遇できたという事だ。
逃す理由など何処にも無い。目の前のムーンライトを仕留めあわよくばT2ガイアメモリを奪取するのだ。
それはムーンライトにとっても同じ事、今の彼女には誰が相手であろうとも逃げる事は許されない。
仲間だったら殺せるのに、自身より強い相手は殺さないなんて理屈通るわけもないだろう?
両者に緊張が奔る――そして、
ほぼ同時に動き出し、戦いのゴングは鳴り響いた――
4.伝説の戦士
キュアムーンライトはプリキュアの中でも最強クラスの力を持ち――
仮面ライダーエターナルもガイアメモリを使用する仮面ライダーの中でも最強クラスのスペックを持つ――
無論、世界が違う以上単純な比較は出来ないが――それでも両者の力は拮抗していると言えよう。
だが、拮抗している理由はそれだけではない――
ここで少々脱線するが、エターナルが不破十臓を仕留めた時の事を思い出して欲しい。
何故、十臓はエターナルに破れたのであろうか?
単純に力の差で敗れた――エターナルが圧倒的なまでに強かった?
確かにエターナルのスペックは高い為、そういう解釈自体は間違っているとは言えない。
だが、冷静に考えて見て欲しい、十臓とてシンケンレッドと互角以上に渡り合う力を持っている。
シンケンレッドこと
志葉丈瑠は本来の姿では無かったとしてもシャンゼリオンと仮面ライダースカルを相手に十分過ぎる程渡り合っていた。
それを踏まえて考えれば十臓も十分過ぎる程強い筈、エターナルに圧倒的に劣るというわけではない。それで劣ると考えているならば認識が足りないとしか言い様が無い。
では、何故十臓はエターナルに破れたのだろうか?
考えられる理由としては2つある。
1つはそれぞれの戦士としての性質だ。
十臓は元々剣士でありシンケンジャーを含めた剣士の戦い方には1つの特徴がある。
それは相手の斬撃を一切喰らわない回避の戦い方である。剣士同士の戦いは一撃一撃が非情に重く、一撃でも喰らう時点で致命傷になりかねない。
それ故に、彼等は斬撃を刀で受け止める、あるいは回避する技術に長けている。
だからこそ、彼等はスピードこそ早いが防御に関してはそれほどでは無いのだ。
一方のエターナルは比較的オールラウンドで戦える能力を持っている――のだが一番に特筆すべきはエターナルローブの存在だ。
その防御能力は絶大、並の攻撃ならば完全防御出来るだろうし強力な一撃でも大分ダメージは軽減できる、そして変身している者自身の特性故にある程度のダメージは何の問題にもなりはしないのだ。
そしてその違いを踏まえた上でもう1つの理由、彼等の戦闘経験についてだ。
無論、両者の戦闘経験は共に膨大、量だけでいうならば決定的な差にはなりえない。
だが、重要なのはその内容だ。
十臓は人斬り故にその経験は対剣士戦が中心である。剣士が相手ならば余程でない限りは一方的にやられる事は無い。
しかしエターナルは剣士ではない。
忘れがちなので言っておくが、エターナルその変身者のエターナルとしての戦闘経験は実はあまりない。
その変身者は元々自身に使われている技術を実証する為、各地の戦地で傭兵活動をしていた。
使われている技術故に強靱な肉体と人間離れした身体能力を持っている――それ故に大抵の相手ならばまず負ける事は無い。
が、戦いはそれだけでは勝てない。軍隊レベル相手にその身1つで戦い抜くのは厳しいだろう。更に時には超能力者すら相手にしているのだ、絶対的優位など存在しない。
そう、彼がここまで戦えたのはそういう生の戦地での戦闘経験で身につけた技術力なのだ。ありとあらゆる相手に対応する力――
そしてエターナル自身の武器と言えるエターナルエッジを使ったナイフによる戦闘技術――これが大きいのだ。
刀とナイフ、どちらが強い?
普通に考えれば誰でも刀が強いと答えるだろう。その理由は至極単純得物が大きい方が威力が大きいからだ。
だが、果たして本当にそうだろうか? 確かに威力は大きく一撃は重くなる、しかしその分振りが大きくなり隙も生まれるだろう。
一方のナイフは一撃こそ軽いがその軽さ故に早さが生まれる。殆ど素手で殴るのに近いぐらい早い動きが可能だ。
戻す動きすらも攻撃に組み込めると言えばどれだけ汎用性が高いかおわかりだろう、刀等でも出来ないとは言わないが返す刀での攻撃は一般的では無い上に威力も落ちる。
技術次第によってはナイフはある意味最強の武器となり得るという事だ、彼自身がどこまで出来るかは別にしてその経験を生の戦場で経験しているという事だ。
ではこれらを踏まえて纏めに入ろう。
十臓の攻撃は一撃一撃が重く、その分隙も出来やすい。
対してエターナルの攻撃は一撃は軽くとも手数に勝る。
一方、十臓の防御はさほど高くなく場合によっては一撃でも致命傷となる。
対しエターナルはエターナルローブと自身の身体の特性により余程の一撃で無ければ致命傷にはならない。
もうおわかりだろう、エターナルは十臓の攻撃を回避あるいは防御しきる事で軽くとも一撃を入れれば十分だ、持久戦となれば十臓はジリ貧状態に陥り何れは――
実際、先の戦いでも手首に一撃を入れられた時点で刀を落とし猛攻を受けて敗北している。仮に落とさなかったとしても、その戦い方をしている限り先は見えていただろう。
だが、十臓に戦い方を変える事は出来ない。様々な情況で戦い続けた丈瑠と違い十臓は根っからの人斬り、違う戦い方などまず出来ないだろう。
――と、長々と説明したがこれは1つの検証結果に過ぎない。見方を変えれば違う結果も出るだろう。
だが、戦いは総合力を競うものでもある、そういう意味で言えばどちらにしても十臓はエターナルに劣っていたとも言えるし、現実の結果として敗北した、それは間違いない。
長々と脱線した様だがそろそろ本筋に戻ろう、
エターナルとムーンライトは互いに攻撃を繰り出し続けるが両名ともに回避あるいは防御をし続けている。
言うなれば互角に近い状態と言えよう。
元々ムーンライトは3年も前からたった1人でさばくの使徒と戦い続けてきた。それ故にその戦闘経験は豊富だ。
長い事変身能力を失っていたが変身していない状態であってもダークプリキュアの一撃を防ぐぐらいの技術は持っている。
十分にエターナルと渡り合う程の力は持っているという事だ。
「はぁっ!」
ムーンライトがエターナルの蹴りを受け止めつつ懐に拳を繰り出していく、
「ふんっ!」
だがエターナルはその拳を軽々と払いのけ返す刀でエターナルエッジで振り抜こうとする。
「ぐっ!」
それを回避しつつムーンライトはかかと落としを繰り出す。
「甘い!」
しかしエターナルは僅かに後方に下がる事でそれを回避した。
数分もの間何度も仕掛け合いを繰り返す。両者の攻防はまさしく一進一退の互角、それ故に双方共に現状ではどちらも決定打を出せないでいる。
「やるじゃねぇか」
「褒められても嬉しくはないわね」
未だエターナルは余裕の表情を浮かべている。だが一方のムーンライトには焦りの色が見えてきている。
「(あれだけ戦ったのに全く疲労の色が見られない……それなのにこっちは……)」
理由の1つは疲労である。エターナルの猛攻を防ぎきってはいるが確実に疲労は蓄積されている。だが、同じ様に猛攻を防いでいる筈のエターナルには疲労している様には見受けられない。
「(それを見せないでいるのならまだ良いわ……だけどもし本当に殆ど疲労していないのならば――)」
今はまだ良くても長期戦となれば圧倒的に不利になる。そうすれば何れ限界が――
それに――実の所、ムーンライトの焦りにはもう1つ理由があった。
この戦いの最中にちらついてしまうのだ――最初はほんの一瞬で輪郭すら殆ど見えなかったが段々と形を成していき――
『――リ――ン――』
「(くっ……こんな時に……)」
何度消しても再び現れる幻――
『ユリサン――』
ムーンライト自身が仕留めたキュアマリンこと
来海えりかの幻が――
「くっ……」
現れるならば何度でも打ち砕けば良い、ムーンライトはひたすらに――その先にいるエターナルごとそれを打ち砕こうと拳を振るう――
エターナルに攻撃を止められても幻は消える――そう、それで良いのだ――
だが――何か違和感を覚える。先程よりもエターナルの動きが良くなっている様に見えるのだ。それは今攻撃を防がれた事で理解した。
「(違う……エターナルの動きが良くなったんじゃない……私の方が疲弊して……)」
それは自身が消耗した事による錯覚――そう判断して戦いを続けようと――
本当にそうなのだろうか?
「おい――」
その最中、エターナルが口を開く、
「別にお前が何を考えているかなどどうでもよい……が、この情況で手加減なんて随分と余裕じゃねぇか、あんまり俺を嘗めるなよ」
手加減? 何を言っているのだ? この殺し合いに乗り優勝すると決めた時点で仲間であろうとも本気で殺すつもりで挑んでいるのだ。
それ以前にエターナルほどの強敵を相手に手加減をするわけがないだろう。そんな事をすれば勝てる道理などない。
「何を……言っているの……?」
だからこそムーンライトは聞き返した。
「おいおい、自覚してねぇのか。さっきからテメェの一撃がだんだんと軽くなっているって事を……疲労したにしてはスピードはそんなに落ちてねぇ……冗談はその素っ頓狂な顔だけにしろよ」
「なっ……」
その言葉にムーンライトは衝撃を受けた。
「(まさか……プリキュアとしての力が落ちているの……)」
その言葉に動揺を隠せないでいる。何故プリキュアの力が落ちているのか?
確かに正義無き状態でプリキュアに変身できるかの確証は無かった。しかしダークプリキュアの例をみてもわかるとおり悪のプリキュアは存在できる事は実証されている。
そして実際にムーンライトに変身できる事はこうして実証されていたしダークプリキュアも撃退している。
それなのにエターナルの言い分の信じるならばプリキュアの力が落ちている事になる。
確かにそうならば覚えた違和感にも説明がつく、しかしその理由がわからないのだ。
「(もしその指摘が事実だとしたら……私はもうプリキュアとして戦えないの……でもどういう事? プリキュアの種には何の問題も無い筈なのに……)」
ムーンライトの脳内に疑問が渦巻く、どんなに考えてもその答えがわからないのだ。
その答えを掴まない限りプリキュアとして戦えなくなる。そうなれば優勝なんて不可能であり、家族を取り戻し家に帰る事など決して叶えられない。
再び話は脱線するが――長らく世界は何度となる悪の存在による襲撃を受けている。そしてそれは現在進行形でも続いていると言えよう。
ドツクゾーン、ダークフォール、ナイトメア、エターナル、ラビリンス、さばくの使徒、マイナーランド、バッドエンド――
だが、その度に伝説の戦士プリキュアが彼等と戦いそれを打ち破っている――
何れの存在も強敵であり一筋縄ではいかない、単純なスペックレベルだけでいえば数量としても力量としてもプリキュアに勝てる道理は全く無い。
何故、プリキュアが勝てたのだろうか?
たった1つのシンプルな答えだ、プリキュアの強さの神髄は『心』の強さだ。
いかなる絶望が訪れても希望を信じるその心こそがプリキュアの強さなのだ。それを理解できなかった悪の存在は皆打倒され、それを理解できた者はプリキュアと和解した――
単純なスペックでは最強クラスともいえるムーンライト、その強さには彼女自身の精神的な強さもある。
だが、今の彼女にはそれが無い――
彼女の中にあった揺るぎない正義は崩れ去り叶うかどうかもわからない歪んだ願望に身をゆだねる始末、そして仲間を手にかけても未だ幻に振り回される始末――
迷走と言っても良い、こんな状態でプリキュアの真の力が発揮できると思うか?
邪悪ではあっても純粋な生みの親への愛ののままに突き進む事のできるダークプリキュアの方が圧倒的に強いと言えよう。
その事に気付かない限りムーンライトはその力を十分に発揮できないだろう。並の相手ならばともかく、ダークプリキュアやエターナルを相手には勝てやしないだろう。
とはいえ、気付いた所で解決方など見当たらない。今の彼女には歪んだ願望にゆだねる以外の手段は無く、幻を消し去る事など出来ないのだから――
「(まずいわね……どちらにしても長期戦は不利、一撃で決めるしか無い……でも、この相手にそれが出来るかしら……)」
いつの間にか一進一退だった攻防はムーンライトの防戦一方へとなっていた。
だからこそムーンライトは考える。エターナルを一撃で無力化させる方法を――そうすれば全力が出せない今の状態でも勝機はある。
「(!! 仮面ライダー……だとすれば弱点は……それにもしも私の想像通りなら……)」
そしてその方法を瞬時に構築する、後は実行に移すだけだ。
「どうやら万策尽きた様だな、そろそろ案内してやるぜ……地獄にな」
エターナルエッジを構えたまま一度間合いを取る。
「そうね、こちらも望む所!」
そう言いながらムーンライトもムーンタクトを構える。
「プリキュア・フローラルパワー・フォルテッシモ!!」
現れるFF(フォルテッシモ)と共にムーンライトは一筋の光となる。そして光の花びらを集めエターナルへと――
「それがお前のマキシマムか? ならば――」
そう言いながらエターナルは斬撃を連続で飛ばし光となったムーンライトへと飛ばしていく。
さらにそのままベルトからガイアメモリを取り出しエターナルエッジへと挿入し、
――Eternal maximum drive――
飛び上がり回転しながら蹴りをムーンライトへと――蒼き螺旋を描いた炎を纏い――
両者はぶつかり合い、一つの爆発が起こった――
5.MOON~月光~ATTACK
「はぁ……はぁ……」
そこにいたのは眼鏡の少女――
「それがお前の本当の姿か……只のガキだったとはな」
「子供扱いされたのは随分久しぶりね……」
ムーンライトの力は弱まっていた、それに加えエターナルの斬撃飛ばしを幾度も受けた事でその勢いは大分軽減されていた。
それ故にエターナルのマキシマムドライブ――その一撃で変身解除されたのだ。
ちなみにエターナルのマキシマムドライブは本来はガイアメモリを永遠に停止させる能力であり、攻撃用の必殺技とは言いがたい。
ガイアメモリを使うドーパント、あるいは仮面ライダーならば絶大の力を持っているが、それ以外の相手ではそこまで強力な技では無い。
だが、マキシマムドライブによる純粋なエネルギーはエターナルの身体を巡る――それにより単純に攻撃力を強化したというわけだ。それが今の必殺技の正体である。
何にせよ、今のエターナルの一撃でムーンライトは変身解除されて元の
月影ゆりの姿に戻っていた。
「どちらにしてもこれでお前は終わりだ。さぁ、地獄を……」
「ふっ……」
しかし一方のゆりは笑みを浮かべていた。
「何がおかしい?」
「今の自分を鏡で見てみたら?」
「……!!」
エターナルは自身の両手を見て驚愕した。白だった両腕は黒くなっていたのだ。そう、今の姿は黒いジャケットを纏った青年の姿――
大道克己だったのだ。
「てめぇ……まさか……」
ゆっくりとゆりは立ち上がり――舞い落ちてきたロストドライバーとT2ガイアメモリの1つエターナルを両手で掴んだ。
「そう、私の狙いは最初から――貴方のベルトだったのよ」
ムーンライト自身、今の一撃で確実にエターナルを仕留められる確証が無かった。
だが、ここで考え方を変えてみる。エターナルを仕留めるのでは無く無力化すれば良いのでは無いか。
つまり――仮面ライダーの力の源であるベルトに仕掛ける事でそのベルトを外せば良いのではと考えたのだ。
エターナルの蹴りを受ける数コンマ秒前――エターナル自身のロストドライバーとエターナルエッジを高く弾き飛ばしたという事だ。
蹴りこそ受けたもののベルトとメモリをエターナルから引き離す事には成功し変身解除させる事が出来たというわけだ。
「これで形勢逆転ね」
「そいつはどうかな?」
そう言いながら克己は懐から別のガイアメモリを取り出し、
――Bird――
「使わず懐に入れておいて正解だったな」
「他にもメモリを……」
「おいおい、俺の手持ちのメモリが1つだって誰が言った? で、何だって? 形勢逆転だったか?」
未だに余裕を崩さない克己ではあったが実の所ゆり自身そこまでは予想通り。そう、ゆりの策にはその先があったのだ。
無言でゆりはロストドライバーを装着しメモリを構える。
――Eternal――
そしてそのままメモリを挿入しスロットを倒す――
――Eternal――
その音声と共にゆりの全身に白い粒子が纏わり付きエターナルへと変身した――
「ははっ、なるほど。エターナルに変身し俺を殺す事が目的だったわけか!」
そう言いながら克己は大笑いする。
「……!? 何かが違う……」
だが、一方のエターナルは自身の姿に驚いていた。先程のエターナルが身につけていた筈のエターナルローブは無く、両腕に刻まれた炎も青ではなく赤だったのだ。
それに僅かだが火花が散っている様に見える。
いや、細かい事は今はどうでもよい。
そもそもゆりがムーンライトに変身せずエターナルへの変身を選択したのはプリキュアとしてのパワーダウンがあったからだ。
だからこそ、それに匹敵するであろうエターナルの力を奪取したというわけだ。
とはいえ、想定と違い先程のエターナルほどの力は感じないでいる――これは完全にゆりの読み違いであった。
また、どうも先程の攻撃が強すぎたせいかドライバーが破損したらしい、これではあまり有効活用できるとは言いがたい。
だが、大した問題では無いと思い直した。確かに絶望的な力は無くても仮面ライダーである事に違いは無い。今克己がガイアメモリで変身しようとするバード・ドーパント程度が相手ならば十分に倒せる筈だ。
しかし、一方の克己は狂った様に笑い続けている。追い詰められているのはどう見ても克己の方であるのにもかかわらずだ。
「何がおかしいのかしら?」
このまま仕留めても構わない、だがあの笑いがどうにもかんに障る、それ故にエターナルは克己に問うのだ。
「笑うしかないだろう、何しろ……」
――Bird――
ガイアメモリの音声を鳴り響かせ腕へと挿入し――
「あんた自身の手で俺を倒せる最大のチャンスを潰したんだからな!」
鳥を模した怪人バード・ドーパントへと姿を変えた。
「何を言っているの……?」
だが一方のエターナルはバード・ドーパントの言葉が理解できないでいる。
確かに全て作戦通りとはいかないがエターナルがこちらにある事に違いは無く、圧倒的優位とまでは行かずとも十分に戦える筈だ。
しかし、奴の口ぶりではどうも根本的に過ちを犯している様にしか聞こえない。
ハッタリあるいはブラフ――そう断じても良かったが奴の様子ではそんな風には聞こえない。
いや、細かい推察は今は良い。仮面ライダーならばドーパント程度倒せる筈だ。経験の差で負けているつもりはない以上、負ける事は無いだろう。
そう言いながらバード・ドーパントが不規則に飛び回り羽根手裏剣を展開しつつエターナルへと間合いを詰めていく。
その動きは早く常人であれば捉える事も難しい――
だが不完全とはいえエターナルもメモリの戦士仮面ライダー、戦うのに十分な力を持っている。
同時に今変身しているのは長い間1人でさばくの使徒と戦い続けてきたゆりなのだ、いかにバード・ドーパントの攻撃が変則的であっても対応は可能。
「(そしてあの男はこちらを倒す決め手は持っていない筈……倒す手段があるとすれば……私が使ったのと同じ手段――)」
倒すには先程と同じ様にベルトそのものを攻撃し破壊あるいは外させるしかないだろう。つまり近接戦を仕掛けるしかない。
「(勿論、それはこちらも同じ――それでも、このエターナルの一撃ならば……)」
無論、エターナルがバード・ドーパントに決定打を与えるにはその力を込めた拳か蹴りしかない為、近接する必要がある。だが決めれば確実に仕留められるだろう。
故に両者は互角――否、
「(それはベルトを外させる確約があればの話、でもそこまでわかっていてベルトを外させるわけもないわ……つまり)」
当然の如くエターナルは自身のベルトを外させるつもりはなく、バード・ドーパントが何を仕掛けようとも防ぎきる自信がある――故に勝つのはエターナルだという事だ。
そう思案している間にもバード・ドーパントの波状攻撃は続く――しかしその全てをエターナルは防ぎ続けている。
そして今また前方から飛んできた羽根手裏剣を全て弾く、
「エターナルの力は十分に楽しんだか?」
その次の瞬間、
「ならもうガキの遊びの時間は終わりだ」
すぐ背後にバード・ドーパントが回り込んでいた。バード・ドーパントはその手を伸ばす。
「終わるのは……貴方の方よ!」
しかし、エターナルもそれを読んでいた、赤い炎を纏わせた拳を裏正面にいるバード・ドーパントへと繰り出す。
位置関係に問題なし、次の瞬間にはバード・ドーパントが殴り飛ばされる光景が繰り広げられるだろう――
後はこのままトドメを刺す、それで終わり――
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最終更新:2013年03月15日 00:08