三つの思い! 光と闇の生き方◆gry038wOvE
月影ゆり──キュアムーンライトは、只一人で歩いていた。
先ほど灯台から見えた二人の男女の事を少しだけ考えながら──。
そう、彼女はあれから──二人を追わない、という決断をしたのである。
彼女も一度は彼らの下に向おうとした。当然、その判断の場合、彼らへの殺傷意思が伴っていた。殺す気概も覚悟もあるつもりだったし、己の願いを叶えようという思いは確かに強かった。
ただ、それを目に付くもの全ての殺害という形に変換するのは、彼女らしくなかったのだ。もっと計画性のある判断をしていくのが彼女である。
当初の予定を狂わせると、後々ろくなことにならない……。
眼前の光景にいちいち左右されているようでは、目的は遠のくのみだと、彼女はここで判断したのだろう。
更に、彼女自身も薄々気がついているだろうが、精神面での理由もあった。
先ほど気概や覚悟などとは言ったが、あれから何となく気疲れのようなものがあり、できるのならああして数秒でも生きている姿を凝視した相手を殺したくはなかったのだ。もっと、情の移る時間すら無いほど一瞬で殺してしまうのが、彼女にとっても理想だった。
彼女とて、血の通った人間である。生きているものを見てしまうと、迷いや躊躇いが出る。生きた姿を曝した相手が何も言わず、何も感じず、何も考えぬ死体となるのを見ることに、少なからずトラウマが生まれてしまうだろう。
──いや、そんなトラウマは小一時間前にえりかの死によって、植えつけられていた。それは彼女自身も心のどこかでわかっている。
何にせよ彼女は、彼らを殺すには少し長く彼らを見つめすぎた。彼らの思い、彼らの目的、彼らのこれまでの生き方を、無意識のうちに……少しずつ想像してしまったのだ。
あの男もあの女も、誰かの子に生まれ、父母に愛され育てられた。姉妹、兄弟がいるかもしれない。立派な夢があるかもしれない。楽しい思い出を数多く抱えているかもしれない。
そんな彼らを────殺す。
そうすれば血が出る。体は氷のように冷たくなる。目から生気はなくなる。土に埋められて、這い出ることもできなくなる。
彼女たちの生活が勝手な想像であっても、何かがゆりを躊躇わせる。
そのせいで、少しだけ彼らから遠ざかりたい気分になったのである。
それは「逃げ」、かもしれない。
だが、体面上は「逃げ」ではなく、「当初の計画に従っただけ」であった。
もっと、突発的に……思いっきりなら、まだできる気がした。
……先ほど行った「殺人」という行為には、不快感しか残っていない。
「何故あんなことをしたのだろう」、「あそこまでするほど父親が大事だっただろうか」と、頭の中で願いが希薄になったような感覚にも陥った。
色々と考えすぎたのだ。後悔の念と譲れない願いの二つを両立するのは、彼女のストレスを加速させる。
だから、あそこにいた男女の方に真っ直ぐ向かいたくは無かった。だが、向わないと決めても尚、それが正しい判断かどうかわからずにストレスは溜まる一方だ。
後悔の念が走り出せば、願いの念が必死になる。それが焦りを生む。逆もまた然り。どう判断しようと、彼女の精神は蝕まれていくのだ。
(余計なことを考えては駄目ね……何も考えずにやるしかない……)
勿論、覚悟を失ったわけではない。これからも機会があれば、次々と殺すだろう。ただ、それは間近で、会話一つ交わさないような相手に限りたかったのかもしれない。
あの時──
ダークプリキュアを撃退した直後。
深く息を吸い、深く息を吐くような感覚でないと、えりかは殺せなかった。これからもきっと、それと同じような、気合の入れ方が必要になる。何も考えない一瞬を作らないと、彼女に人は殺せない。
やる時は、「月影ゆり」でない何かになる……そんな一瞬が必要で、それを作るのは少し思い切る必要があった。
彼女はこれからも狂うことはできないだろう。毎回のように、このような気持ちを持って殺さなければならない。
だから、一人一人の命の重みを背負いながら、しかしその重さに潰されず、感情を殺したフリをしながら、人を殺さなければならない。
自分がもっと冷酷だったらば……と思う。
或いは彼女が冷酷だったらば、彼らを騙し味方に引き入れるというのも良かっただろう。先刻のダークプリキュアの一件でも、独力で勝ち残る厳しさを思い知らされている。えりかがいなければ、ダークプリキュアに殺されていたかもしれないので、仲間を作ることも、場合によれば必要だとは思っていた。
それでも完全に冷酷ではない彼女には、「裏切りの痛み」をわざわざ負いたくない気持ちがあった。
確かに彼女には今、他人を犠牲にしても叶えたい願いはあったが、その為にわざわざ殺される相手に辛い思いをさせたくはない。信じていた相手に裏切られて死ぬ人間の気持ちは、感じさせたくなかったのである。
できるのなら、死んだと気づかないくらいに、一瞬で殺してしまうのが良い。そうすれば、相手は痛み苦しむことなく、死ぬことができる。
それは、ゆりの精神衛生の面でも重要なことだ。
現に、ゆりはえりかの死には多少の心の揺らぎを感じていた。
えりかという少女を見てきた。えりかを愛する彼女の姉の姿も見てきた。
幸せな家庭の姿を、彼女は知っていた。
その明確なビジョンが、先ほどの二人にも投影されたのだろう。だから、一瞬が行動を躊躇わせ、彼女に全く逆の方向を向かせた。
(──早く、忘れないと)
どういうわけか、願いが希薄になる感覚が襲うことはあっても、えりかという友人への執着が希薄になることはなかった。いや、むしろ彼女の在りし日の姿は、えりかの中で増大し続ける。
それくらいに、彼女の良心は生を保とうとしていたのだろう。本人は必死で、それを殺そうとしているのだ。
だからこそ、「願いのために人を殺す」────その行動方針は、彼女の深く深くにインプットされ、目的が希薄になろうと、ロボットのようにその行動だけを果たすように動いていた。
そうしたのだ。この殺し合いが始まったときに。
殺しはやめない。やめられない。何があっても。
キュアムーンライトは強くなりつつある日の光を浴びて道を歩いていく。
隣を、亡霊が歩いているような感覚がする。
真横を見た。何もいない。
しかし、そこに何かがいる気がする。
人じゃないし、敵じゃない。
そこにあるのは空気の塊だったが、人の形を辿ったように見えてしまう。
『ユリサン……』
声が聞こえる気がする。
いや、厳密には念のようなものだ。
耳に響いてくる感じではなく、頭に響いてくるような感じだ。
だから、耳を塞いだところで、声が縮まることはないだろう。
それは自分を責め続ける。
『酷イヨ……ユリサン……私ヲ……殺スナンテ……』
早朝の道で、亡霊が語りかける。
来海えりかの声。────とはまた違い、喉でもひしゃげたかのような声がゆりの頭に直接語りかける。だが、それはえりかなのだろう。正しくは、ゆりの中のえりかだ。
ゆりは亡霊の声を聞いても動じなかった。
仮面でも被ったかのように冷徹だった。
それが精一杯のやせ我慢で、このえりかこそが自分の弱い部分なのだというのは気づいているだろうが、それを無視し続けた。
心の中で、再び「ごめんなさい」と謝ろうとしたが、その直前に、遮るかのようにえりかは言う。
『…………許サナイヨ?』
そうだ。
謝ったって、許してくれるはずがない。
信じたのに、一緒に戦ったのに……そんな思いを無視して殺すなんて、ゆりならばやりきれない。
だから、願わくば、つぼみやいつきは、ゆりの知らないところで勝手に死んでいてほしい。
そうすれば、彼女らを殺す必要も、謝る必要もない。
みんな、勝手に死んでしまえばいい。
そうすれば、ゆりにも殺す痛みを背負わない。
毎日、何人も人が死んでいるが、それを知らなければ笑顔で生きていける。それと同じだ。
目の前で死ななければ、感慨を抱くのはより短い時間で済む。
つぼみも、いつきも、ダークプリキュアも、先ほどの男女も、このままゆりの知らないところで死ねば、ゆりは憂鬱な気分にならない。
考えてみれば、えりかがゆりに殺されるというのは最悪のパターンといえる。
えりかだって、あのまま他の人間に殺されることができたら幸せだろう。同じ死にしても、それならばまた重みが違う。
ゆりだって、「仲間を自分の手で殺した」……という事実を背負わずに、少しはマシな気持ちで優勝を狙うことができる。
だが、それでもゆりは現実にえりかを殺してしまった。
その手に握った剣は、えりかの血を吸って真っ赤に染まっていた。
この事実は決して消えない。
そして、戻ることはできない。
だから────
「あなたに会わなければ、最高だったわ」
眼前の空気を振り払うように、ゆりは気配を感じる場所を破邪の剣で突き刺した。
周りの空気が、ボワッと吹き飛ぶようだった。
同時に、ゆりの中で、何かが吹っ切れたような気もする。どこか心地よかった。
────やるしかない。
そう、つぼみやいつきであっても…………。
自分の中の弱さが、あらぬ妄想や考えを生み出してしまった。
それに、ゆりははっと気づいたのである。
だから、それがもっと大きくならないうちに……殺した。
さっきまでの考え方は、全部雑念だ。ただの甘えだ。
これがある限り、前には進めない。後には退けないので、同じ場所に突っ立っているだけになってしまう。
前に進むために、迷いは断ち切るしかない。
ゆりは、これからこの「えりか」が何度現れようと、殺すだろう。
また何度か迷うたびに、彼女が現れる。それを、ゆりは許さず殺してしまう。
もし、これからつぼみを、いつきを殺してしまったら……今度は彼女たちもえりかと一緒にゆりの前に現れるだろう。
それが現れたら、ゆりはもう躊躇わない。躊躇うことさえできなくなる。
より強い覚悟で、それをねじ伏せ殺す。
来海えりかはゆりの中では二度死んだ。
二度殺した。
こうして慣れていけばいいのだ。
……もう間もなく放送だ。禁止エリアが報じられ、えりかの名前が呼ばれる。それに加え、他の知り合いの名前が呼ばれたら最高に安心できるのだが、そんな願望に甘んじるつもりはない。
理想の形を捻じ曲げる。
つぼみやいつきを自分の手で殺す────それが、本来の理想なのだと信じ込む。
もし、彼女たちに会わないのが理想だと思い続けて行動したらば、彼女たちに出会ったときに、今までの思いがゆりの行動を停止させるだろう。
だから、会った時の保証として、「つぼみやいつきは自分の手で殺す」と信じこみ、願いながら行動していく。
勿論、それは彼女自身の本心ではない。
ただ、もし彼女たちに会った時、それを不幸と思わないための理由を作りたかった。
──私は、会いたくなかったわ
あの時、えりかに向けて放った言葉がゆりの本心だった。そして、その時はそれを表に出していた。
だが、もうそうやって甘い考えにその身を浸すことはしない。
積極的に、仲間を殺す気持ちを持っていなければ、願いなんて遠のくだけだ。
もし、またこの感情が現れるようなら、何度だって……。
まあ、何にせよ、あと数分経って、放送でえりかの名前が呼ばれれば、またゆりは何かしら動揺するかもしれない。
だが、そうして迷いが生まれれば、それを打ち砕いて進む。
そんな迷いは、しらみつぶしに消し去り、優勝へと近付いていくしかない。
そうすれば、願いはゆりを迎えてくれるはずなのだ。
★ ★ ★ ★ ★
一方、その頃──。
「────美希ちゃん、一度休もう」
孤門が言う。その提案は、何も疲れたから、というわけではない。
彼はただ、時刻を見て判断したのだ。時計は、間もなく定時放送の時間がやってくるということを示していた。加頭により教えられた
ルールは、しっかり孤門の頭の中に残っていたので、先ほどから彼は時計をみながら行動していたのだ。
放送が近付いたということは、デイパックの中から筆記用具やマップや名簿を出し、与えられた情報にチェックをつける必要があるということである。彼はすぐに名簿を取り出し、座り込んでチェックの準備をした。
(死んだ人の名前にチェックをつけるのか……)
彼は、少し厭な気分になる。ただ、情報は多い方が良い。
死者の名前の上から線を引いたりはしない。ただ、名前の横に○をつけるだけだ。
──その行為ですら、良い気分はしないだろう。
人の生死を、○で片付けてしまうのだから。
「荷物を出して」
孤門は、呆然と立っている美希にもそう指示した。そこで、孤門の様子を見てようやく美希は放送のことを思い出したらしい。失念していたのだろうか。慌てて名簿を取り出す。
マップは、ポケットに入れてあったのだが、名簿は使わないと思ってデイパックの方に入れていた。
彼女は、それを地面に広げた。ここは土の道で、そこに紙製の名簿を置くのはやや不安定といえる。まして、エンピツなどで書けるのだろうか。
だが、屋外で行動している以上は止むを得ない。こういう時に行動しやすいから、人は市街に向うのだ。
「放送か……。死んだ人の名前なんて、呼ばれなければいいですね……」
「うん。誰の名前も呼ばれないと良いよ」
人が死ぬ────それは悲しいことだ。
孤門は仕事柄何人もの人の死を目撃してきたし、その遺族の嘆きも目撃してきた。
動物園で出会った家族。孤門自身の恋人。戦いの後、姿を消した(はずだった)姫矢と溝呂木。身近なところだと、そんな人たちの顔が浮かぶ。
特に、孤門自身も、斎田リコという恋人とは特別な関係だったから、その死に慟哭した。
あの死を乗り越え、自分は成長したのだと思うが……それでも人の死は防がねばならない。人が人の手で殺されるなんてあってはならないことだ。
「死んだ人」というキーワードのせいで、リコという女性のことを思い出す。
……あの時、リコが死んでいなかったら、と孤門はいまだに思うことがある。
何度、彼女との未来を想像したことだろうか。
妄想だといわれるかもしれないが、彼はそれくらい彼女を愛しく想っていた。
あの幸せが打ち砕かれた時────幻想なのだと思い知らされた時、絶望の淵で溝呂木と等しくなりかけたこともある。
あそこから乗り越えられたのは奇跡だと思った。一歩間違えば、いや、髪一本間違えば、孤門はナイトレイダーに仇なす存在となり、おそらく消されていた。
孤門は、その時のことを思い出すと──ここで死んだ人の死から乗り越えられなくなって、壊れてしまう人もいるのではないかと心配する。
美希もまた、同じだ。彼女だって、そうなる可能性はあるだろう。
「……大丈夫?」
孤門が美希の方を見ると、彼女の手はこれ以上ないくらい肩が震えていた。手先も、エンピツを持つことさえできなくなった。
出会った時ですら、彼女は平静を保っていたのに、こうして放送が近付いて、彼女は突然に震えだしたのだ。
孤門はその光景に驚いたが、無理もないと思った。
彼女はまだ年端もいかない少女だ。──まだ30にも満たない孤門ですら、「若い」と感じる年代である。友達が三人もここにいるのに、彼女たちを心配しないはずがない。
要するに、緊張しているのだ。
友達の名前が、加頭の声で呼ばれる──そんな「厭な未来」を想像してしまう。
そして、場合によってはそれが現実になってしまうのだ。
だから、それが怖くて怖くてたまらない。────それで、泣きそうなくらい震えていた。
「へ……平気、です……」
歯もガタガタと音を立てていて、あまり平穏そうではなかった。
変に放送などを意識させてしまったことを、孤門は後悔する。
彼女が平静を取り戻すのは、あと数分後に、「彼女の知り合いの名前が呼ばれなかったとき」だ。
孤門としても、姫矢や凪や石堀の名前が呼ばれれば辛いだろうが、こうなるほどではない。
……あらゆる経験を詰み、彼はよくも悪くも大人になったのだ。
だから、純粋にこういう風に仲間の心配をして震える美希を、多少羨ましくも思った。なんだか、自分が鉄にでもなったような気がしてしまう。
ナイトレイダーとして、ある程度合理的な判断ができるようになってしまったのだ。
それを悪いことだとは思わないが、少しだけ寂しい気もした。
ここに来てから、どういう形でも縁のある名前を思い出した。
彼女には、この中の三つの名前が際立って光っているのだろう。
同じように命は重いが、身近な人間はまた特別である。そういう風に思うことは、何も悪いことじゃない。それが人を思い遣るということなのだから。
孤門は、彼女の様子をまたチラリと見る。様子が好転したようには見えない。彼女は名簿に視線を向け続けるが、先ほどから同じ場所を見続けているような気がした。
凄く虚ろだった。彼女の頭の中には、三つの名前が駆け巡っているのだろう。それで、彼女は本当に涙目だった。
仕方がないので、孤門は少し息を吸う。
こうして言うのも恥ずかしい気もするが、それでも彼女をどうにかしてあげようと、強く言ってみた。
「諦めるな!」
彼女は、突如として発せられた孤門の言葉に、驚愕の色を隠せない。
孤門の温和な口調とは、少し違っているように見えたからだった。
しかし、それは孤門にとって、最も印象深く残っている激励なのである。
孤門は、戸惑ったような顔の美希を見て、少し表情を崩し、言う。これからお互い辛い現実に直面するかもしれないので、笑ったりはしなかったが、それでもその表情は美希を少し安心させた。
「……僕が昔、川で溺れた時、誰かが助けてくれて、そう言ってくれたんだ」
「誰か……?」
「その人が、誰なのかはわからない。でも、僕はその人を目指してレスキュー隊に入って、今はナイトレイダーにいる。そして、僕はその人の言葉を今も胸にしまっているんだ。
すごく、単純な言葉だけど、だからこそ僕の胸に残り続けた……どんな時も」
その「誰か」の正体に彼が気づくのは、もう少し後の事になる。
だから、彼の幼少の記憶の中では、その男の姿はぼかされていた。
それでも、彼の中では、ずっとその男の言葉こそ生きる指針で、その男のようになることこそが彼の目的だったのだ。
その男がどうしているかはわからないが、今も孤門の中で、その男の行動は生き続けている。
その男のように、孤門は多くの人に希望をあげたいのだ。
「……これから友達の名前が呼ばれるかもしれないっていうのは、どうにもならないかもしれない。もう決まったことかもしれない。
でも、まだはっきりとわからないことを諦めて、絶望しちゃいけないと、僕は思う」
孤門は諭すように言った。
自分自身への督励を、彼女にも分け与えたかった。
少しでも彼女への希望となってくれれば……という思いで、孤門は言った。
もう彼女の友達が死んでいるのなら、それは覆らないが、まだそれは彼女たちの耳に届いていない。ならば、希望はあると思う。……強引と思われるかもしれないが、自分の中にない情報で絶望するなど、不毛だと思ったのだ。
それをわかってくれるかはわからないが、直後に彼女が返答してくれた。
「……そうですね」
彼女の心のしこりが消えたように、彼女は返す。
その顔は、孤門の先ほどの遠慮とは違って、笑顔に近かった。
自分たちは大人と子供なのだ、と改めて思う。
なんだ、笑顔を受けるのは気持ちがいいじゃないか────。
不謹慎だから、配慮が要るから、と表情を崩せなかった先ほどの自分は、随分大人になってしまったのだな……と思う。
そうだ、これでいいんだ。
「どんな時でも、希望は忘れない。……それを、少しだけ忘れてました」
「そうだよ、希望は捨てちゃいけない。希望を捨てずに、少し待ってみるんだ」
放送が始まる秒読みの段階に入った──。
孤門と美希には、まだその先に何があるのかはわからない。
二人にとっては、知り合い全員の名前が呼ばれるかもしれなければ、知り合いの名前が誰も呼ばれないかもしれないのだ。
死人をまだ見ていないので、死人が一人も出ていないかもしれない。逆に、二人は他に誰にも会っていないので、六十四人の名前が呼ばれることもありえなくは無い。
彼らは、ここでようやく現状を知る事になるのだ。
開始から六時間経ち、ようやく人が何人も死んだことを知ることになる──。
呼ばれないのがわかっているのは、目の前の相手の名前だけだ。
孤門一輝────「カズキ」、その名前は、美希にとっては愛する弟と同じ名だった。
わざわざ話すほどのことではないし、カズキなんていう名前はいくらでもいる。字も全然違うので、運命とかそういうものではないと思っていた。だから、孤門はその事実を知らない。
だが、放送の存在で「名前」というものを意識してみると、彼と出会ったのは、何らかの因果があるようにも思えた。
もし彼と出会わずに、放送で「死者」としてその名前を聞いたらば、「カズキ」が死んだことに相当な不快感が残ったに違いない。
青乃美希────その名前は、孤門にとっては、純粋に「良い名前だ」としか思わなかった。ナイトレイダーに入ってから、そんな名前の人には会っていないし、深い縁もない。
だが、本当に美しい名前である。
希望の「希」の字が入っている、その名前と、希望を捨てない彼女の姿はマッチしていた。
青という色は、千樹憐が変身したウルトラマンの体色と同じだ。前向きな人間の色なのだろうか。少し、彼と美希の姿が重なる。
二人が少しだけお互いの名前のことを考えていると、不意を突くように放送が始まった。
【1日目・早朝】
【C-9/道路】
【青乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、ランダム支給品1~2
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:放送を聞く
1:今は孤門と行動し、みんなを捜す。
2:プリキュアのみんなが心配(特にラブが)
3:ノーザには気を付ける。
4:相羽タカヤ、相羽シンヤ、相羽ミユキと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
[備考]
※本編後半以降(少なくともノーザの事は知っている時期)からの参戦です。
※ハートキャッチプリキュア!からの参加者について知っているかどうかは、後続の書き手さんにお任せします。
【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康、ナイトレイダーの制服を着ている
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:放送を聞く
1:美希ちゃんを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:姫矢さん、副隊長、石堀さん、美希ちゃんの友達と一刻も早く合流したい。
3:溝呂木眞也が殺し合いに乗っていたのなら、何としてでも止める。
4:相羽タカヤ、相羽シンヤ、相羽ミユキと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
【1日目・早朝】
【B-9/道路】
【月影ゆり@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、キュアムーンライトに変身中
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式×2、プリキュアの種&ココロポット、プリキュアの種&ココロパフューム、ランダム支給品0~2、えりかのランダム支給品1~3、破邪の剣@牙浪―GARO―
[思考]
基本:殺し合いに優勝して、月影博士とダークプリキュアとコロンとで母の下に帰る。
1:ここからホテルを経由して村へ向かう
2:つぼみやいつきであっても、積極的に殺す覚悟を失わない
3:もし、また余計な迷いが生まれたら、何度でも消し去る
[備考]
※ハートキャッチプリキュア!48話のサバーク博士死亡直後からの参戦です。
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最終更新:2014年03月17日 14:28