戦慄のN/究極の闇をもたらす魔人 ◆FTrPA9Zlak


「風都タワー…、なぜこんなところに…」

園咲霧彦は視界に入る位置に見える風車のついた建物を見ながら嘆いていた。
彼の愛する風都の象徴がこんな場所に建っているという事実に。
無論ここは彼の愛した風都ではない。風が違う。

そんなことを考えつつ、一方で主催者、加頭について考えていた。

「あの男、ガイアメモリを、それもゴールドメモリを使っていたが…、ミュージアムの関係者か?」

ゴールドメモリは本来園咲家の人間しか使うことができない。
ならばあの男はミュージアムに何かしらの関係を持つ者だろう。
そうであればこの殺し合い、乗るわけにはいかない。

名簿を開き、知った人間がいないか確認する。

「冴子に仮面ライダー君か。仮面ライダー君は心配ないだろうが…」

気にかかるのは冴子の方だ。
自分の説得を聞くことなく決別したかつての妻。
できることならもう一度説得したい。

「そういえば本郷猛一文字隼人だったか。彼らも仮面ライダーと呼ばれていたが」

加頭に対して啖呵を切った彼らもまた仮面ライダーだという。
風都を守るために戦った左翔太郎のような存在が他にもいるというのだろうか。
霧彦の中に彼らに会ってみたいという気持ちが生まれた。

『――…』

ふと耳に入った小さな音。
それは自分には聞きなれた電子音であるがゆえに聞き逃さずに済んだ。

音のした方に行ってみると、そこには少女がガイアメモリを手にしているという光景があった。
慌てて声をかけながら近寄る。

「やめなさい!!」

少女は驚いて手を止めこちらを向く。
その手にあるメモリを取り上げ、注意を促す。

「これは君のような子供が持っていいものじゃないんだ。
 とても危険なものなんだよ」
「そうだったんですか…。ありがとうございます」

警戒されても仕方ない行動だったのだが少女は気にした様子もなく霧彦に礼をいった。
どうにか間に合ったことを安心し、手にあるメモリを見ておかしなことに気付く。
そのメモリは仮面ライダーWの持っていたメモリと同じものだったのだ。
これは専用のドライバを使わなければ使用できなかったはずだ。
少女に質問をかける。

「これと一緒にドライバ…これを差し込む機械や使うための接続機器みたいなものは入っていなかったかい?」
「えっと、機械についてはよく分からないのですが多分なかったと思います」

つまりドライバもコネクタも無しでこれを使用しろと、奴らは言っているのか。

(これがコネクタ無しで使用しても大丈夫な仕様なのか、あるいは毒素に侵されても戦えということなのか)

どちらにしても危険なことには変わりないだろう。メモリをポケットにしまう霧彦。
と、ここでまだ少女に名乗っていなかったことに気付く。

「ああ、そういえば自己紹介がまだだったね。
 私は園咲霧彦、このメモリに関係した仕事をしている者だ。驚かせてしまってすまない」
「私は高町ヴィヴィオです。こっちは私のデバイスで、セイクリッド・ハートといいます」

見ると少女、ヴィヴィオの横にうさぎのぬいぐるみが浮いていた。
霧彦とて一応色々なものを見て生きてきたのでそれを見てそこまで驚くことはなかった。
少しは驚いたが。

「高町というと、高町なのはという人は君のご家族かい?」
「高町なのははわたしのママですけど…、ママのお知り合いですか?」

どうやら名簿未確認のようだ。
名簿を取り出し、見せるととても驚いていた。
そこにあった名前はヴィヴィオの二人の母親とその親友、母親の部下で彼女の友達が二人。
さらに自分の親友までいるという。

「分かった、じゃあ私が君の母親を探すのを手伝ってあげよう」
「いえ、初対面の人にそこまでしてもらうのも悪いです」
「気にすることはないさ。君からこのメモリを預かった以上、か弱い少女を一人で行かせるわけにもいかない」
「でも…、やっぱり悪いですし。それにわたしこうみえても結構強いですよ?」

ヴィヴィオは霧彦に対していい人なのだという印象を持っていた。
だからこそ迷惑はかけたくないと考え、同行してもらうことを遠慮していたのだ。
自分が強いというのもあくまで迷惑をかけないための嘘、というわけでもないとは思うのだが。
しかしそんな言葉に反応する者がその声を聞き届けられる距離にいたことまで予測できるわけがない。





「へえ、なら君も僕を笑顔にできるかい?」

それは現れた。

ぞっとしてそちらを向く二人。
会話に集中していたとはいえこれほどの存在感。近付いているなら気付かないはずがない。
その男は白い服を纏った青年だった。
一見何もおかしいところの見当たる者ではない。
しかしその男の纏っている雰囲気は異様だ。
近付いてくるだけで冷や汗が流れてくる。

身動きもとれない二人に男は話しかけてくる。

「どうしたの?早く準備しないとこっちから行くよ?」

そう言って男の姿が白い怪人に変化した時、

「「っ!!」」
『ナスカ』
「セイクリッド・ハート!セットアップ!!」

霧彦はメモリをドライバーに挿入、ヴィヴィオはデバイスを掲げてバリアジャケットを纏い、共に戦闘体勢をとる。
本来なら霧彦もいきなり大きくなったヴィヴィオには流石に驚いただろうが今はそれどころではない。
目の前の怪人はまずいと、二人の本能が告げていたのだから。


最初に動いたのは霧彦、ナスカドーパントだった。
高速で移動しつつ接近、怪人を惑わしながら確実なダメージを与える。そういった思惑のはずだった。

パシッ

「何?!」

見切られた。
その手は高速で振るわれたナスカブレードをあっさり掴んでいた。
空いた手でナスカにパンチが繰り出される。

「があっ!!」

ただのパンチにも関わらず数メートルは吹き飛ばされた。
Wと戦ったときとは比べ物にならないダメージが霧彦に伝わる。



そのままナスカの元へ向かう怪人に光の弾が降りかかる。

「ソニックシューター、ファイア!!」

ナスカのスピードに出遅れるも追いついたヴィヴィオが魔力弾を撃ち込みつつ接近していた。

「アクセルスマッシュ!!」

そのまま至近距離で魔力を込めた拳を打ち込む。
が、

「えっ?」

そもそも魔力弾を避けるならその方向へ追撃、当たればダメージを受けている隙に一撃を入れるという考えなのだ。
しかしその怪人は魔力弾を受けても微動だにせず、なおかつヴィヴィオの拳を正面から受け止めたのだ。
その違和感に気付いたヴィヴィオは前面にプロテクションを展開するも―

「うあっ!!」

怪人の拳は安々とバリアを砕き、バリアジャケットの防御力を超えてヴィヴィオの体を吹き飛ばした。

「?!ヴィヴィオちゃん!」
「どうしたの?これで終わりじゃないよね?」

どうにかダメージに耐え、起き上がった霧彦。
ナスカブレードを斬り付けるが、効いている様子はない。
しかし怪人の注意を引きつけることはできた。

「早く逃げるんだ!」

ヴィヴィオに逃げることを促しながら攻撃を続ける。
しかしヴィヴィオは気を失っているのか動く様子はない。
その間にもナスカは一方的に攻撃を受け続けていた。

霧彦はこの時己の判断を後悔する。
この怪物とは戦ってはいけない。最初の時に一目散に逃げるべき相手だったのだと。

ヴィヴィオが意識を取り戻すと、霧彦は怪人に一方的に攻撃されていた。
自分に逃げるように言いながら殴られ続けている。

(わたしが弱いから、こんなことになってるの…?)

普段の特訓や試合では決して受けることのない、肉体的ダメージの痛みに耐えながら立ち上がる。
あの怪人を倒さなければきっとみんなを、ママやアインハルトさん、ユーノさんにスバル、ティアナを傷つけるだろう。
だが今の自分では勝つことはできない。あの霧彦さんも助けることができない。


ふと目に止まったのはさっきのガイアメモリと呼ばれた物。
霧彦が慌ててナスカメモリを取り出したときに落としていたようだ。

霧彦さんは目の前でその力を使って戦っている。
彼は危険だと言っていた。それに使ったところであれに勝てるかは分からない。
だが、それでもあの怪物を倒す手助けになるのなら。

ヴィヴィオはメモリを拾い、迷わずそれを体に挿入した。



体を襲う痛みに耐えながらもどうにか戦っていた霧彦だったが、流石に限界がきたようだった。
怪人に斬りつけると同時に地面に倒れこむ。

「ぐっ…!」
「ふふ」

笑いかけながらナスカの体を踏みつける。
無邪気に微笑むその声ももはや悪魔の笑い声にしか聞こえなかった。

短いこの戦いで薄々感じていたが、その笑いで霧彦は確信する。
この怪物は戦いを、自分達を嬲り、殺すことを楽しんでいる。

だがそれに気付いたところでどうすることもできない。
ならばせめてあの少女、ヴィヴィオだけでも逃がさなければ―

『ヒート』

電子音が耳に届く。

「まさか!」
「はああああああっ!!」

赤い炎をぶつけながら接近してくる何かがいた。
炎と魔力を纏いながら、ヒートドーパントへと変身したヴィヴィオは殴り、蹴りつける。
その拳から、脚から噴き出す炎はまさしく左翔太郎の使用していた仮面ライダーWのメモリの一つそのものだった。

しかしそれらも怪人には効き目のある様子がない。
それどころか自分の上に乗せられた足すらも一歩も動いていない。


「その人を、離せ!!」

それでもヴィヴィオは攻撃を止めない。
隙を与えるとそれが致命的なことに繋がると直感していたからだ。

しかし、飽きてきたのか怪人は霧彦を叩きのめした拳を繰り出す。
一撃がかなりの威力をもつパンチ。
それを障壁、ドーパントの耐久力、さらに受け流しの技術を持ってかろうじて防ぐ。

だがそれも限界、防いだ左腕から嫌な音が鳴り響き、
その時、彼女は前に出た。

「一閃必中!!」

ヒートドーパントの右拳に光が集まり、灼熱の炎と共に放出される。

「ディバインバスター!!」

至近距離からの魔力と灼熱の高速砲は怪人に直撃。
だが気を抜くことはできない。
構えを解くことなく怪人を見据えて―

「嫌ああぁーーーー!!!」

絶叫をあげた。

ヒートの名を冠する、炎のドーパント。
その体が燃えているなど何の冗談なのだろうか。

「なかなか面白かったよ。じゃあこれはどうかな?」

怪人は手をヒートドーパントにかざしていた。
その声はさっきまでと変わらずまだまだ余裕といった風だ。

さらに手をかざそうとしたところで、その体に何かが巻きついた。
振り向くと、ナスカドーパントが怪人の体にマフラーを伸ばして動きを封じていた。
先ほどの一撃が一歩も動かなかったその足を下がらせていたのだ。

動きを拘束する霧彦もこれで動きが止められるとは思っていない。
巻きつけたそのマフラーをナスカブレードで切り離し、燃えるドーパントの元に高速で駆ける。
そして彼女を抱えてそのまま去って行った。






拘束を離したときにはすでに視覚内にはいなかった。
白い怪人、グロンギの長であり究極の闇と呼ばれるン・ダグバ・ゼバは考える。
もし彼らを追えばおそらく追いつくことは可能だろう。
しかしあのリントが変身した物の攻撃は肉体的損傷こそなかったもののダグバの体に不自然なダメージを与えていた。
同属やリント虐殺やクウガとの戦闘ですら感じることのなかったそれはダグバにとっては新鮮な感覚だった。


皮肉なことにヴィヴィオの攻撃についていた非殺傷設定がその理由である。
相手を傷つけず、ゆえに全力で戦うための枷はダグバの肉体に決定打とはならずとも確実にダメージを与えうるものだったのだ。

その疲労に加えてあのリントの戦いっぷり。それはリントを虐殺していたときに戦ったクウガのようだった。
もしかすると今後何か起こりうるものになるかもしれない。
そういった期待感から見逃すことにしたのだった。

「さて、クウガ。君はどうするのかな?」

ダグバはいるかどうかの確認もとれない、だが確実にいると感じることのできる己を笑顔にしてくれるだろう存在にふと呟いた。


【一日目・未明】
【G-7/森】
【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
1:この状況を楽しむ
2:クウガ、金髪のリント(ヴィヴィオ)のような存在に期待
[備考]
 ※参戦時期はクウガアルティメットフォームとの戦闘前です
 ※発火能力の威力は下がっています。少なくとも一撃で人間を焼き尽くすほどの威力はありません。


「…ごほっ、ごほっ」

森を抜け、市街地へと入ったところでヴィヴィオを連れて逃走した霧彦は変身を解除する。
それと同時に怪人から受けた攻撃の、そして己の高速移動のダメージが全身を駆け巡る。

ヴィヴィオは気絶したためかメモリを排出し、姿も最初の歳相応の少女に戻っていた。
だがドーパントになっていたことでダメージを抑えられたとはいえ全身には火傷の痕が残り、折れた左腕も痛々しい。

「ヴィヴィオちゃん!しっかりするんだ!」

己の判断力と力の無さがこのような事態を招いてしまったのだ。
彼女がメモリを使用しなければ自分の命すらなかっただろうという事実もまた情けない限りだ。

とにかくメモリを使用したことによる影響を確かめなければならない。
そして同時にヴィヴィオの治療ができる場所を探さなければ。

霧彦は進む。
この少女をかつての風都の少女の二の舞にしないことを決意して。



【一日目・未明】
【H-8/市街地】

【園咲霧彦@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、内臓にダメージ(中)
[装備]:ナスカメモリ@仮面ライダーW、ガイアドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3、T2ヒートメモリ@仮面ライダーW
[思考]
基本:この殺し合いを止める
1:ヴィヴィオの手当てとメモリによる影響を確かめる
2:冴子は可能なら説得したい
3:本郷猛、一文字隼人に興味
4:ガイアメモリは支給された人次第で回収する 
[備考]
 ※参戦時期は18話終了時、死亡後からです
 ※主催者にはミュージアムが関わってると推測しています
  ゆえにこの殺し合いも何かの実験ではないかと考えています

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:疲労(大)、上半身火傷、左腕骨折、気絶中
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:気絶中
2:みんなを探す
[備考]
 ※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこかです



時系列順で読む

投下順で読む


園咲霧彦 Next:波紋呼ぶ赤の森
高町ヴィヴィオ Next:波紋呼ぶ赤の森
ン・ダグバ・ゼバ Next:「Eternal Flame」(前編)


最終更新:2013年03月14日 22:06