死神の祭典(第2楽章 戦場にて) ◆7pf62HiyTE
Paragraph.05 騎兵─チャリオット─
「はっ!」
木々に空気弾が炸裂する音が奔る、狙撃手がスカルを狙ってのものだ。
「副隊長、やはり奴は……」
「石堀隊員は走る事だけに集中、奴への攻撃は私が引き受ける」
「了解」
木々が生え茂る森を縦横無尽にスカルが騎乗したアクセルが奔る、
それはおおよそ通常のバイクでは考えられない程のジグザグな動きで高速に、
それが可能なのはアクセルがあくまでもバイクでは無く、仮面ライダーアクセルがバイク型に変形した姿だからだ。
人を乗せて走る事も出来るが当然、単身で自走する事も可能だ。
そう、今のアクセルはスカルが操っているわけではない、スカルの意を汲んでアクセル自身がその意のままに走っているというわけだ。
「(
涼村暁達ではなく、私達を狙っているという事はあくまでも狙うのは戦う意志のあるものだけか……)」
狙いは自分達に向いた。これにより囮作戦の第一段階は成功した事になる。
だが、重要なのはここからだ。ここから奴を翻弄し再び戻って暁達と合流しなければならない。
「(だが、解かなければならない謎がある……狙撃手があの怪物……ガドルだった場合、あの男はどうやって空気弾を発射したのか?)」
そう、ガドルが何を使って狙撃したのかという謎が残っている。
思い返せばガドルの所持品は凪と石堀が全て奪取した。つまり今のガドルは丸腰の筈だ。そして躰を見る限り空気弾を発射出来そうな特異な構造は見られなかった。
つまり、空気弾を発射するためには武器が必要なのにその武器が見当たらなかったという事だ。
そんな都合良く、遠距離にある目標を狙撃できるライフルが手に入れられるものなのか?
その謎を解き明かさない限り、勝機は無い。
「見えたわ……怪物(ビースト)!!」
スカル達の視界に狙撃手、つまりはガドルの姿が現れる。だがその姿は小さくまだ大分距離が離れている事を示している。
「奴に接近しますか?」
「いいえ、石堀隊員はこのまま距離を保ったまま移動」
だが不必要に近づくマネをするつもりはない。幾らアクセル及びスカルといえどもガドルの一撃に耐えきれる保証は無いからだ。
しかし近づかなくても十分に対応する術はある。
スカルは左手に構えているスカルマグナムを構えガドルを狙いエネルギー弾を発射する。
一方で前方に木の枝が迫る。しかし右手に構えているアクセルから借り受けたエンジンブレードでそれを斬り落とす。
そう、それこそがアクセルに騎乗した状況のもう1つの利点なのだ。
移動を全てアクセルに依存する事により、騎乗しているスカルは操縦の事を考える必要は無く、その行動の全てを攻撃に回す事が出来る。
この連携こそが凪の考えた最大の作戦なのだ。移動のアクセル、攻撃のスカルという最大のコンビネーションという連係攻撃こそが――
だが、当然と言えば当然だが、これは両者の連携が成されていなければ全く意味が無い。
結論から言えば今いる4人でここまでの連携が取れるのは凪と石堀のコンビしかいない。
考えて見れば元々凪と石堀は同じ作戦部隊の副隊長と隊員の関係だ、連携を取れない方がどうかしている(ちなみに石堀視点で見れば別の理由あるいは思惑もあるがここではこれ以上は語るまい)。
高速で位置を移動しつつの攻撃、さながらそれは騎兵(トルーパー)、いやむしろ戦車(チャリオット)ともいえる代物だ。
流石のガドルもこの動きを完全に読むのは難しいだろう。いや、読めた所で次の瞬間には別の場所へと移動している。
例え一発二発は回避出来ても、何れは限界が訪れる筈だ。
更に言えばこの状況ならば空気弾を回避するのはそう難しい事では無い。
「(そういえば……あの怪物の目の色、何か違和感が……)」
その最中、凪はガドルの瞳の色に違和感を覚えていた。
それだけではなく、似た様なものを何処かで見た覚えがあるのだ。
そう考えていると、
突然、アクセルが急激に左右に揺れ動く。
「石堀隊員!? 何を……」
「副隊長、すぐ近くを見て下さい!!」
突然の暴走に思わず声を荒げててしまったスカルだったが、アクセルの言葉通り周囲を見ると、
「……!」
近くの木に槍が深々と刺さっていたのだ。
「これは……」
どうやらガドルが突如槍を投擲したのだろう。アクセルはそれにいち早く気付き、回避するべく、車体を回したのだろう。そのとっさの判断が無ければスカルは槍によって磔にされていたのは明白だ。
「だが……」
しかしそれならそれで新たな疑問が浮かぶ。だが、
「副隊長、来ます!」
その言葉と共に振り返ると、ガドルが槍を構えたまま急速に接近しているではないか。
「くっ、石堀隊員、スピードを」
「了解!」
だが、アクセルが急速に足を進める事で間合いを極力詰められない様にする。しかし、ガドルはそんなアクセルを目がけ槍を投擲してくる。
「うおぁっ!」
しかし自身を狙う槍を避けるアクセルの行動は速く命中する事は無い。だが、回避行動を行った事で、若干行動が遅れ間合いが詰められる結果となる。
「マズイわね……」
今のガドルは先程よりもスピードが上がっている、それに加え投擲された槍の威力は確実に空気弾よりも上、空気弾程度ならばある程度耐える自信はあったが、投擲された槍の直撃を喰らえばそれこそ命に関わる。
「(それに……奴は何処から槍を出している?)」
最大の疑問符はそこだ、槍はそれなりに大きく、隠し持つという事は不可能。それを使い捨てるかの様に連発しているカラクリが不明瞭だ。
「(悠長に考えている余裕は無い……)」
しかし、考察だけに時間を割く事は出来ない。アクセルへの負担を最小限に抑えると共にガドルへの牽制も続けなければならない。
スカルマグナムから何発もエネルギー弾を発射する。しかしガドルは巨体に似合わない俊敏な動きで回避していく。
「(!? 奴の瞳の色……また変化している……!?)」
その最中、ガドルが再び槍を投擲する。アクセルがそれを回避しようとするが――
「そのまま速度を!」
その言葉と共にアクセルは回避運動を止め、そのまま加速する。だがこれではスカルの真正面に槍が迫ってくる。しかし、
「はぁっ!」
エンジンブレードでその槍を弾く。その衝撃は強く、腕に若干の痺れを感じる。
「あの槍は……消えた!?」
しかし次の瞬間、弾いた筈の槍が完全に消失していた。それどころか、
「!? あの怪物が繰り出している槍が……何処にも無い……!」
既に数発ガドルは槍を投擲している。それ故、本来ならば木々に刺さった槍が残っていなければおかしい。
しかし、何とか周囲を見回しても、その槍が見当たらない。
勿論、バイク状態のアクセルに騎乗しての高速移動中故に細かい所までは把握できないがそれでもあれだけの大きな槍が影も形も無くなっているのが明らかにおかしい。
「副隊長、来ます!」
だが、思案している余裕はない。アクセルの言葉通り、ガドルは此方へと迫りながら再び槍を投擲した。
「ぐっ!」
狙いは見事なまでに正確、アクセルの進路上を狙っている。このままのスピードでアクセルが進めば直撃は免れない。
スピードを落とす? いや、この状況でスピードを落とせば一気に迫られる。
ならば車体を揺らし進行方向を? あるいは、
「うぉぁっ!」
アクセルは前輪を上げてウィリー状態となった。その直後、丁度寸前で槍が地面へと突き刺さる。
そしてそのまま、
「はぁっ!」
刺さった槍を足場代わりに高く飛び上がる。そして丁度その瞬間、ミシミシと何かが割れる音が響く、
「!? 今の音は……」
明らかに槍が割れる様な音では無い。そう、まるで――
スカルはほんの一瞬だけ足場代わりにした槍に視線を――
だが深々と刺さっていたのは槍では無く、折れ曲がった木の枝だった――
「これは……まさか?」
そして空中にいたままガドルへと視線を向ける。そこには――
移動しながら地面に落ちている枝を拾い、
槍へと変化させているガドルの姿があった――
さて、ここで一旦ガドル視点に切り替え時間を戻してみよう。
ガドルはアクセルとスカルが動いた気配を察知し狙いをその両名に切り替えた。
そして、両名に狙いを定めつつガドルボウガンで狙い撃とうとしたが、アクセルに騎乗したスカルの動きは速く捉える事が出来なかった。
その一方で、スカルから砲撃が繰り出される。無論、この程度の砲撃など直撃した所で耐えられるとは考えたが、一撃で動きを封じる弾(神経断裂弾)の存在を踏まえると可能な限り避けるべきだと判断した。
勿論、感覚が研ぎ澄まされている今のガドルには回避する事はそう難しい事では無い。容易に回避する事が出来た。
だが、問題のアクセルとスカルは、ガドルとの距離を保ったままそれ以上接近しようとはしなかった。その距離のまま砲撃を繰り返しているという事だ。
「……時間稼ぎか」
両名の目的は他の2人を逃がす為の時間稼ぎだと断じた。そしてタイミングを見計らい離脱して逃げおおせるつもりなのだろう。
「させると思うか?」
無論、それを素直にさせるつもりなど無い。近づいてこないならば此方から近づくまで。
だが、問題がある。流石にバイク状態となったアクセルに追いつける程ガドルは速くは無い。
スピードに秀でた俊敏体ならばバイクにも対応出来るかもしれないが――もう一手欲しい所。
「ガメゴが使ったらしい方法を使わせて貰うか……」
ここで1つ妙案を思いついた。
そう、ガドルと同じゴの1人の男が自身のゲゲルで使ったあの方法を応用すれば良いのだ。
そのゴとはゴ・ガメゴ・レ、自らの装飾品を無数の鉄球に変化させ雨霰のように投擲する事で多くのリントを殺した男だ。
もうおわかりだろう、別にガドルボウガンで無くても遠距離攻撃は可能だという事だ。
そう、俊敏体の武器であるガドルロッド(棒という名前だが槍)を武器として投擲したという事だ。
幾らパワーが落ちたとはいえ、ゴ最強とも言うべき破壊のカリスマの名は伊達ではない。投擲された槍の破壊力は相応なものだ。空気弾を打ち出すガドルボウガンより破壊力は上だろう。
射撃体ほど正確な射撃は出来ないが、今の間合いを少し詰めれば十分狙いを付ける事が出来る。
そして何より――この場所が最良の場所である。
そう、木々の生い茂る森林、ガドルロッドを形成する為に必要な棒の様な物、つまりは枝など無数に存在する。
要するに、高速で弾数無制限の大砲を撃ち込み続けるが如く仕掛ければ良いというわけだ。
そしてその目論見は上手くいった。
当然、ガドルロッドを回避するため、アクセルの動きはワンテンポ遅くなる。
その遅くなって遅れた時間で一気に間合いを詰めるのだ。
無論、アクセルは再び間合いを開こうとするがそこに次のガドルロッドを撃ち込むという事だ。
その最中スカルが砲撃を仕掛けてくるがスピードに秀でた俊敏体にとって回避はそう難しくは無い。
「感謝するぞ、リントの戦士……」
ガドルは素直に感謝の意を示す。
自身が持つ能力に甘えるだけではなく、それを応用させてくれた戦士達に対してだ。
ガドルのゲゲルはこの戦いだけで終わるものではない。
クウガを倒すという目標は果たせなくなったが、そのクウガを倒した戦士を倒す事、そしてダグバを倒すという目標は依然として残っている。
それを果たす為には現状に甘えていてはいけない。
先の呼びかけの際、『自由に戦略を練り、戦力の限りを使い』と口にしたがそれはガドル自身にとっても同じ事だ。
使える術は全て使う、
リント達が試行錯誤を経て自分達と戦う術を手に入れた様に、
クウガがリント達と連携し多くの同胞を屠ってきた様に、
数多の同胞達が死力を尽くしゲゲルをクリアしようとした様に、
自身もまたそれを行うという事なのだ。
故に、最大限の戦いでリント共を打ち倒す、それがガドルの感謝の仕方である。
そう、既にガドルは既にアクセル達を打ち破る為の攻撃を仕掛けていたのだ――
そして再び視点はスカル達へと戻る。
「そういう事……あの男は
五代雄介……いいえ、クウガと同じ……」
スカルはようやく、ガドルの力の正体に気が付いた。
思えば奇妙だったのだ。赤い瞳だったのが緑、そして青へと変化した事が。
同時に瞳の色に応じて戦い方を変えた事が、
そう、似た様なものをスカルこと凪は見ていたのだ。
五代雄介ことクウガの戦い方がそれと同じだったのだ。
クウガは状況に応じて超変身、あるいはフォームチェンジを行っていたのを凪は知っている。
更に情報交換の際に五代からクウガの形態の違いについての説明は受けていた(凪にしてみれば使える戦力の把握は基本的な事柄だからだ)。
その為、直接見ていないものも多いがクウガの能力については概ね把握していた。
格闘に特化した基本形態の赤、
スピードに特化した棒使いの青、
情報索敵に特化した銃使いの緑、
そして防御に特化した剣使いの紫、
そのクウガと同じ事をガドルは行っているのだ。
更に言えば、クウガが使う武器は似た様な形の物を変化させる事で生成する事も聞いている。
例えば長い棒を使って青のクウガの使う棒や紫のクウガの使う剣を、銃を使って緑のクウガが使う銃の様にだ。
「つまり、あの男にとって、武器を奪った事は何のマイナスにもなっていない……いいえ、武器を奪う事すら不可能……」
その通りだ、何しろ適当な棒があれば簡単に槍を生み出せるのだ。いやもしかしたらクウガ以上の力を持っていて、ボウガンすらも生み出せるのかもしれない(流石に首飾りの一部が変化した所は見ていない)。
「それで副隊長、どうします?」
そう、問題はここからだ。ガドルの能力通りならばかなり面倒な事になる。
何しろ、高速戦で翻弄するという作戦が難航しているからだ。
「近づいてきた所を電気で……」
アクセルはエンジンブレードに挿入されているエンジンメモリの力の1つによる電気ショックを与え動きを封じる事を提案する。
「いいえ、それはむしろ逆効果よ」
そう、凪は五代から電気の力で手に入れた金の力の存在も聞いていた。
ガドルがクウガと同一の力を持っているならば、電気ショックはむしろ逆効果。強化を促してしまう事になる。
「石堀隊員はスピードを落とさず間合いを取りなさい。奴の槍は全て私が弾く」
その言葉通り、スカルは跳んできた槍をエンジンブレードで弾き飛ばす、あるいはスカルマグナムで撃ち落としていく。
幾ら俊敏体のガドルが素早いとはいえ、バイクならば振り切れないこともない。なんとか槍の射程外まで移動すれば――
しかし、
「!?」
次に跳んできたのは槍では無く――剣だった。
「石堀隊員、急回転!!」
視認した瞬間、スカルはアクセルへと指示を飛ばした。アクセルは全身を回転させコースを変える。そして、跳んできた剣を回避した。
「何故で……」
何故急に回避をと言おうとしたが、次の瞬間ある物をみた事でその理由を理解した。
そう、背後で大木が折れて倒れていく有様をだ。
そこにはガドルが投擲した剣が刺さっていた。
紫の瞳のガドルが投擲した――
クウガと同じ力を持っているという事は、クウガの持つ紫の力もガドルは持っているという事だ。
スピードを代償にパワーと防御を強化し剣を使う紫の力だ。
そのパワーで投擲された剣の持つエネルギーは槍の比ではない。
槍ですら腕に痺れを感じる程なのだ。そんなパワーの剣を弾こうとすれば、腕の方が壊れかねない。
だからこそスカルは剣を弾くのではなく回避する行動に出たのだ。
さて、読者諸兄はここで1つ疑問に感じないだろうか?
スピードが要求される状況で、スピードを犠牲にした紫の攻撃、
確かに強い力は得られるが、スピードを犠牲にしてしまえば引き離されてしまうのでは無かろうか?
結論から言えば、その問題はクリア出来る。
慣性の法則をご存じだろうが? 要するに動いているものは動き続け、止まっているものは止まり続けようとする事だ。
そう、高速で移動しながら俊敏体から剛力体へと変化しても、俊敏体の持つスピードがすぐに0になるというわけではない。スピードはある程度維持される。
勿論数秒程度で一気にスピードは落ちるが、その数秒の間に槍を剣へと変化させ投擲しすぐさま俊敏体へと戻れば何の問題も無い。
4つの形態を自在に使いこなせるならばこれぐらいの事は造作もない。
つまり、スピードロスを最小限に抑えた上で剛力体の攻撃を繰り出しているという事だ。
「くっ……一瞬だけ紫に……」
無論、このカラクリはスカル自身もすぐに看破した。
「(だとしても……)」
しかし、幾らロスを最小限に抑えられるとしても若干のスピードは落ちる。
間合いを詰めた上で仕掛ける為には剛力体には短時間しか変身しない筈、
つまり、紫の剣による投擲の連発は無いと考えて良い、数発槍を投げ込む中、1発剣を混ぜる事しか出来ないだろう。
そして剣を投げる時は必ず剛力体への変化を行う。瞳の色でそのタイミングはスカル側にも把握できる。
故に、ガドルに視線を一切そらさなければ対応は可能だ。
剣を投擲した時だけ全力回避、槍の時は全て弾き落とす様にすれば対応が出来る。
故にアクセルを再び加速させスカルはガドルへの牽制を続ける。
跳んでくる槍をアクセルブレードで弾きつつ、スカルマグナムでの砲撃、
無論、ガドルは砲撃をかわしながら槍、時には剣を投擲してくる。
しかしスカルとてそれを喰らうつもりはない。槍は弾き、剣の方はアクセルの足裁きもあり確実に回避していく。
それでも流石に消耗は無視できない。当然だ、幾ら弾く事が出来るとはいえもう何十発の槍を弾き飛ばしている。
その上、移動に専念していたアクセルにかかる負担も大きい。
これ以上の長期戦は難しい所だ。
「(もうそろそろ頃合いね……)」
故にスカルはこのタイミングだと判断した。
時間稼ぎを中止し、早々にガドルの元から撤収行動に出ることにした。
後は離脱に入るタイミングだ。ガドルの方に視線を向けながらそのタイミングを計る。
ガドルは次々に槍を生成しては投擲を続けていく、1発、2発、3発――
そして青色だった瞳が紫へと変化、
「来る!」
このタイミングだ、剣は槍と違い回避するしか無い。
だがその一瞬だけはスピードが落ちる。それこそが最大のタイミングだ。
スカルの意を汲んだアクセルが加速する。同時にスカルもスカルのメモリをスカルマグナムへと装填する。
一方のガドルも生成した剣を投擲しすぐさま瞳の色を青色に戻し剛力体から俊敏体に戻る。
だが既に回避行動は完了している、跳んできた槍は全て弾く、あるいは回避済み、剣に関してもこのペースならば十分に回避が可能。
故に、飛んでくる剣は容易に回避出来、スカルの真横を掠めていった――
――Skull Maximum Drive――
後はこのタイミングでスカルマグナムの最大出力によるエネルギー弾を――
その瞬間、スカルの後方で爆ぜる音が響いて来た――
「「!?」」
予想外の展開に驚きを隠せない2人、そして周囲を見回し気が付いた。少し離れた先に川が流れているのを――
「まさか……」
前方には不敵な表情を浮かべるガドル――
「翻弄されていたのは……奴では無く……私達の方だった……!?」
ゲームを制する上で必要なのは何か?
単純に力だけで制する事が出来るのか?
答えはNoだ。
無策で挑んで勝てる程、ゲームは甘い物では無い。
それはグロンギにおける儀式ともいうべきゲーム、通称ゲゲルにおいても同じ事が言える。
ゲゲルの
ルールは簡単に言えば『一定時間の間に定められた人数のリントを殺す』という事だ。
だが、ゲームというからには当然、絶対にクリア出来るというものではない。
グロンギにおいては神聖なもの、それ相応の難易度を誇っているのだ。
それをクリア出来た者だけが上の位を得る事が出来るわけなのだ。
クリアするには単純なパワーだけでは足りない。
そう、一定時間の間に相応のリントを殺すのは簡単では無い。
逃げるあるいは隠れ潜むリントを迅速に捉え殺す、それは一見簡単な様で難しい。
時間が無尽蔵にあるならばともかく時間が限られている以上、効率的に行わなければならない。
それをクリアするのは何か? 作戦を組み立てる知略に他ならない。
といっても難しい事では無い。要するに、数手先を読んだ行動を取るというだけの話だ。
それを成し遂げられる者こそがゲームを制するという事だ。
ガドルの目的は自身を出し抜いた4人のリントの戦士を確実に仕留める事だ。
仮に眼前のスカルとアクセル、2人の戦士を打ち破った後、残る2人を仕留めなければ勝利とは言えない。
そこで、スカルとアクセルに仕掛けつつ残る2人、つまり暁と黒岩を仕留める為の布石を打っていたのだ。
ここまで来ればおわかりだろう。
ガドルはガドルロッド及びガドルソードの投擲でアクセルとスカルに仕掛けながら、2人を残り2人のいる方向へと誘導していたのだ。
ガドルの攻撃は熾烈としか言い様が無い。回避するだけで手一杯だ。
それ故に、知らず知らずの内にアクセルとスカルは離脱している筈の2人のいる所に向かってしまっていたのだ。
つまり、完全にガドルに出し抜かれたという形になったということだ。
そして最後に投擲したガドルソード、それはスカルを狙ってのものではない。
スカルがガドルソードを弾くのでは無く回避する事は読んでいる。
故に最初からガドルソードはスカルでは無く、その背後にいる2人を狙ってのものだったのだ。
「ぐっ……!」
知らず知らずの内に引き離す所か追い詰められていた事実、仮面の下で苦々しい表情を浮かべる凪、
だが、止まっているわけにはいかない。既にマキシマムドライブは発動している。
スカルマグナムから最大出力のエネルギー弾がガドルのいる方向へと――
Paragraph.06 奥義─ファイヤーワークス─
川沿いには黒岩だけが苦々しい表情を浮かべて立っていた。そして、
アクセルに騎乗したスカルが黒岩の近くに戻ってきた。
「石堀、それに西条……奴はどうした?」
黒岩が見た限り、大きな土煙が上がっているのが見えた。恐らくスカルの必殺技が炸裂したのだろう。となればガドルは――
「いえ、奴は健在よ……」
そう、スカルのマキシマムドライブは最初からガドルを狙ってのものではない。ガドルのすぐ足下を狙ってのものだ。
その狙いはマキシマムドライブのエネルギーで地面を炸裂させて大量の土煙を展開させるというもの。
それを目くらましにして一気に離脱し、黒岩達のいる所に戻ってきたのだ。
「それで、涼村の方はどこ行ったんだ? まさか……」
ガドルの剣の直撃を受けて……という最悪のケースを想定する。
だが、それにしては死体が見当たらないし、何より爆発の謎が残っている。
「ふん、奴は……」
時間は少々遡る。
暁と黒岩は凪達の指示通り川沿いを急速に進んでいた。しかし、
「おい黒岩……なんかアレ近づいてないか?」
後方で響く戦いの音が大きくなっている。どうやらガドル達は戦いながら暁達に接近している様だ。
「どうやら西条がしくじったらしいな」
「おいおい、散々偉そうに言っておきながら口だけじゃないか、何をやっているんだ」
「軽口を叩いている場合か、西条がしくじったという事は俺達に奴の矛先が向けられるという事だぞ」
「冗談じゃない、あんなバケモノとどうやって戦えっていうの?」
「だから俺達は早急に待避しろと言われたんだろうが! とにかく、その時に備え用意だけはしておけ」
「はいはい」
そう言いながら暁は先程凪から受け取ったデイパックの中を探る。
さて、ここでわかりやすく、一行の所持品について今一度整理しておこう。
まず、凪以外の3人は共に1つのデイパックを持って行動を続けていた。
一方の凪は自身のデイパックの他に途中で2つのデイパックを確保している。
凪自身は知る由も無いが、その所持者は
照井竜と
相羽ミユキのものだ。
そして先程、凪と石堀はガドルから彼の所持品を全て奪取している。
ちなみにガドルはこの時3つのデイパックを所持していた。
ガドルは一度自身のデイパックをある参加者に奪われているが、その参加者との再戦の時に結果的に奪還に成功し、更に
ユーノ・スクライア及び
フェイト・テスタロッサのデイパックを奪取している。
それらを凪及び石堀が確保したという事だ。
では、ここからが本題だ。先程説明した通りガドルの所持品を凪と石堀が確保したわけだが、一体どちらがどれだけ所持する事になったのだろうか?
まず、先に明言しておきたいのはガドルは自身のデイパックを奪還したとき、一度は奪取した相手に支給した銃と火炎杖を確保した。
こちらの道具は共にフェイトのデイパックに入れておいた(ちなみに入れた理由はフェイトに支給されていた拡声器を確認した時に、何気なくである)
話を戻そう、結論から先に述べればその時点で所持しているデイパックの多い凪が1つ、石堀が2つ所持する事となった。
具体的なデイパックの所持者は凪が所持したのはフェイトの、石堀が所持したのはガドル、そしてユーノのデイパックである。
さて、凪が所持しているデイパック、つまり凪本人、照井、ミユキ、そしてフェイトのデイパックの内、1つを暁に譲渡する事となったが誰のデイパックを譲渡したのだろうか?
それはミユキのデイパックである。暁は運良く可愛い女の子の所持品を確保したのである。但し、暁がそれを知る事は決して無い。もう一度言おう、決して無い。
ここで1つ疑問が浮かぶだろう。
ミユキはテッククリスタルを持っている。それが入っているならば見る人が見ればそれがミユキの所持品だと推測が出来る筈だ。では、何故それが無いと断言できるのか?
簡単な事だ、ミユキのテッククリスタルはミユキのデイパックには入れていなかったという事だ。
凪がデイパックを発見した時、クリスタルはデイパックの近くに落ちていた。この時点でミユキのデイパックに入れる事も出来た。
だが、凪は他にも照井のデイパックも確保していた。そして支給品を整理していき、最終的に凪自身の懐に確保しておいたのだ。
その後の動向で、凪自身別のデイパックに入れた可能性もあるだろう、どのデイパックかはさておきどちらにしてもミユキのデイパックには入っていない事だけは明言しておこう。
そんな中、戦いの音は更に近づいていく。
「おいおい、これまずいんじゃ……」
そう何時もの様に軽い調子で口にしていると。
「来るぞ、暁!!」
そう叫ぶ黒岩の声、その時だった。
暁の喉元目がけて大剣が飛んでくるのを――
「ぐっ……」
今からブラックアウトしても間に合わない。恐らく暁が燦然する時間も無いだろう。
そしてそれは暁自身も理解している。
故に暁は握りしめた物をそのまま放り投げた――
発動すべきは究極の力――
元祖無差別格闘流究極の必殺奥義――
その名を――
G.S.とS.T.はR.S.にその時の事を語る――
『あの日もわしらは、いつもの修行をしておった』
『…なんの修行だ』
転がる岩から落ちないように転がし続けていた時の事だった。
だが前方に、
『恐ろしい罠が…われらの行く手に待ち受けていた!』
『ぶらじゃー!!』
そう言って、岩から両名の師が降りていった。だが、
『危ない! このままでお師匠様は岩の下敷に…』
『チャンスだ天道くん!』
『このまま一気に亡き者にしてくれよう!!』
そう、両名は師の身を案じた。その時だった――
『八宝大華輪!』
『気付いた時…われらの乗っていた大岩は粉々に砕け…八宝斉先生は…』
『わ…わしのぶらじゃーが…二度とこの悲劇をくり返さぬ為に、八宝大華輪は禁じ手とする!』
『八宝大華輪の奥義をしるした秘伝書はこうして、封印されたのだが…』
無論、その封印は解かれその師は再び使用している。
そして、その究極奥義が今回の殺し合いの参加者にも支給されたのである。
では、それはいかなるものなのか?
それは――
「爆弾……いや、花火か?」
暁のデイパックから取り出されたのは花火の様なもの。
そう、それこそが八宝大華輪の正体だったのだ。すぐさま暁は付属していたマッチを擦り導火線に火を着け放りなげた。
そして抱きかかえるように防御姿勢を取る。
そう、投げ出された八宝大華輪はすぐ近くまで来ていた大剣の近くで――爆ぜた。
さながらそれは岩を砕く程の――
その衝撃により大剣のバランスは崩れそのまま地面へと激突した。
結果として暁は自らの身を守ったのである。だが、
そう、近く距離で炸裂した八宝大華輪の衝撃は暁にもかかる。これにより特別ダメージを受けたという事はないが、それでも暁のバランスを崩すのには十分だ。
更に言えば今いる場所は流れの強い川の岸、下手をすれば足を踏み外して落ちかねない。
「わっ、おっ、とっ……」
暁はバランスを取りながら八宝大華輪の入っているデイパックにマッチを仕舞い、更にちゃんと口を閉めようとする。
そして、もう1つの暁自身のデイパックの口を閉めようとしたその時、
暁のバランスが崩れ転倒しそうになり――
そしてそのまま川へと落ちていった――
「暁ぁぁぁぁぁ!!」
黒岩の叫びもむなしく、川中へと暁は消えていった。川の流れは強い、そのまま流されて言っただろう。
「というわけだ、飛んできた剣を花火でかわしたのは良いがそのまま川に落ちていった」
「あのバカ……」
スカルは正直頭を抱えていた。
実の所、八宝大華輪については支給されたミユキや一緒にそれを確認した照井も疑問を感じていた。
『究極奥義なのに花火?』というある意味謎の支給品だからだ。それの何処が格闘の技なのか関係者に問いただしたい所だ。
そして、後にそれを確認した凪も理解に苦しんでいた。格闘技の技というだけに殺傷能力は普通の爆弾以下だという推測は出来たがあまりにも胡散臭いそれを使う気にはならなかった。
ただ、この顛末を聞く限り、暁にそれを渡した事は正しかったかどうか悩ましい所だ。実際、それがなければ暁は剣を回避出来なかった可能性が高い。
しかしその結果川に落ちては何にもならないだろう。
「それで、涼村はどうします?」
「彼を探している余裕は無いわ。溺死さえしなければ、一人でも市街地に迎える筈よ。それよりも今は……黒岩省吾」
「いいだろう」
スカルの意を察した黒岩は、
「ブラックアウト」
『ブラックアウトとは――黒岩省吾がダークパワーによって暗黒騎士ガウザーに変身する現象である』
すぐさま、ガウザーへの変身を完了した。
「恐らく奴はすぐに私達の位置を捕捉して追撃に出る、それよりも速く離脱する」
結果的に暁がいなくなった事により凪達のグループは3人となった。そしてバイク状態となったアクセルに対し2人までなら一応騎乗は可能、
つまりスカルとガウザーが2人乗りで騎乗し一気に走り抜けるというわけだ。
そして再びアクセルはバイク形態へと変形し、スカル及びガウザーが騎乗し急速に走り出した――
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最終更新:2013年06月14日 16:50