死神の祭典(第1楽章 悪魔の祝宴) ◆7pf62HiyTE



Paragraph.01 運命─ディスティニー─


「ここか……」


 F-5、深き森が生い茂る山頂に溝呂木眞也は辿り着いた。
 その理由は只1つ、約30分ほど前にこの場所にてある男が呼びかけを行ったからなのだ。


『俺は破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バだ! リントの戦士よ……腕に自信があるならば、鎧を纏い俺に挑戦してみろ!! 挑戦を受けないならば俺は殺戮を繰り返す!!』
『もし止めたいのならば何人がかりでもいい!! 自由に戦略を練り、戦力の限りを使い、俺の体に一つでも傷を作ってみろ!! 俺は山の頂上にいる、いつでも来い!!』


 余程自身の実力に自信があるのか、あるいは只の自殺志願者か、ゴ・ガドル・バの真意はともかくとして、その呼びかけは溝呂木のいたE-4を含めた周囲エリアに届いた。
 その口ぶりから察するに、周囲にいる参加者を招き寄せる事が目的なのは確かだろう。


 溝呂木はこの呼びかけを好機と考えた。
 勿論、ガドルの挑発に乗り奴と戦う――という事を考えているわけではない。
 重要なのはこの地に多くの参加者が集い乱戦となる可能性が高いという事だ。
 激しい戦場、溝呂木にとっては格好の遊戯の場所と言えよう。
 圧倒的強者に蹂躙され絶望する弱者達、
 多くの犠牲を以て強者を破ってもすぐさま別の強者によって天国から地獄へと叩き落とされる者達、
 溝呂木が求める光景が今にも目に浮かぶ。
 その祭典を高見の見物と洒落込もうではないか、場合によっては溝呂木自身で盛り上げてやっても構わない。

 故に近くまで向かい察知されないように気配を殺しながら様子を伺うことにしたのだ。
 幸い、サイクロン号というバイクがあるお陰で移動に手間はかからなかった。後は気付かれない様に見物――

 だが、いつまで経っても山頂で戦いが起こる気配は無かったのだ。
 向かって良いものかとも思ったが無駄に時間を使う理由も無い、一応気付かれない様に注意を払いながら山頂に向かったという事だ。


「祭りの場所は此処じゃなかったのか?」


 そして辿り着いたがその場所には人一人おらず、呼びかけに使ったらしい拡声器と双眼鏡だけが残されていた。


「どういうことだ……」


 そう零す中、ガドルが挑戦を受けないならば殺戮を繰り返す旨を口にしていた事を思い出し、いつまで待っても誰も来ないから待つのを止めて動いたのだろうと考えたが、


「いや……」


 足下に落ちている双眼鏡を拾い上げ考えた。
 恐らく、ガドルは呼びかけを行った後双眼鏡を使い周囲の様子を探った。近くを通りかかる参加者を探す為なのは考えるまでもない。
 そうして見つけたのだ。ガドルとの戦いを避けようとしている参加者を、その参加者を仕留めるべく討って出たのだろう。
 その参加者がガドルに挑むつもりならそのまま待てば良い、そうしなかったのはその参加者は戦いを避けたのだろう。
 双眼鏡と拡声器を捨てたのは戦うべき相手を見つけたから、見つからなければ捨てる理由は無い。

 何にせよ、双眼鏡と拡声器は自身で確保しておく。拡声器は参加者を――特に西条凪を呼び寄せる手段としては最適だ。
 双眼鏡も相手よりも先に目的のものを見つけるのに使える、大きさも手頃故これまた持っていて損は無い。


「となるとだ……まだそこまで遠くには行っていない筈だな……」


 そう口にし双眼鏡をのぞき込み周辺の様子を探る。
 恐らくガドルもガドルが見つけた参加者もまだ双眼鏡で視認出来る範囲にいる。
 そして拡声器が響いた範囲から考えそれ以外にも山頂近くで行動を起こしている参加者がいる可能性は高い。
 それらを掌握するというわけだ。


「ふむ……どうやらアイツらしいな、まるで五代が変身したやつみたいだな」


 程なくカブトムシを模した怪人の姿を見つけた。恐らくそいつがガドルだろう。
 その姿は五代雄介が変身したクワガタムシを模した怪人、つまりはクウガを彷彿とさせるものであった。
 ある意味光の巨人に変身する姫矢准に対する自分とも言えるだろう。


「そういえば……五代の奴が死んだわけだが……奴の力はどうなった?」


 今更ながらに五代の死後、彼の持っていたクウガの力の行方が気になった。
 勿論、そのまま消え失せたのならばそれでも構わない。
 だが、姫矢が死んだとしても彼の光の力は誰かに受け継がれる様に、五代の持つ力も誰かに受け継がれても不思議は無い。とはいえ、


「まあいい、そのことは大した問題じゃ無い」


 そう、溝呂木にとってはそこまで重要な事項ではないのだ。誰かに受け継がれていたならばその人物を新たな遊び道具にすれば良いだけの話だからだ。
 もし五代の死に自身が関わっている事を知ればそいつはどう思うのか? そう考えると口元が緩まずにはいられない。
 だが、それは今考える事では無い。今重要なのは――問題の人物であるガドルが追跡している人物だ。バイクという都合良い移動手段があるならともかく、そうでないならばまだそう遠くには行っていない筈、
 とはいえ、見つけたからといっても具体的にどうこうする事も無いだろう。この場所からでも十分観戦できる。せいぜい高みの見物をさせて――



 だが、



「何、アレは……」


 溝呂木が見つけた人物、それは凪だ。3人の男(その内1人は凪と同じナイトレイダー隊員の石堀光彦、とはいえ溝呂木にとって凪の同僚を超える意味は無い)を引き連れている。
 溝呂木が人形にした美樹さやかの処遇を巡る対立等から五代達から離脱した事までは把握しているが考えて見ればそれ以降の事は把握していなかった。
 恐らく五代達と別れた後で石堀と合流出来、紆余曲折を経て他2人を加えたのだろう。
 とはいえ、凪がどういう行動をとっていたのかはここでは重要では無い。重要なのは――


「奴……ガドルが狙っているのは凪達か!?」


 ガドルの標的が凪達――いや、敢えてハッキリと言おう。凪ではないかと判断した。
 凪はナイトレイダーの副隊長、彼女がいるグループならば十中八九中心となるのは彼女だ、隊員である石堀もいる以上彼女主導でグループは動く筈。
 そして、山頂近くでガドルの呼びかけを聞き彼女はどう動くか?
 スペースビーストに対する強い憎悪があるとはいえ、危険人物が集う可能性のある場所に無策で近づく程彼女は愚かでは無い。その場所に自分がいる確証があるならともかくそうでないならば無謀な事はしない筈だ。
 だとすれば迅速に山頂から離れるのは明白、そこをガドルに見つけられたとしたら――


「マズイなこいつは……」


 溝呂木の表情から先程までは見て取れた余裕が消える。
 他の参加者がどうなろうが正直知った事では無い。
 だが、凪だけはそうはいかない。凪はナイトレイダー時代からの想い人、闇に染まった今であってもその想いは変わらない。


「凪には手を出させるわけにはいかねぇな……アイツは……俺の物だ」


 そう、凪だけは他の誰にも玩具にさせるわけにはいかない。凪の心も躰も溝呂木の物なのだ。
 ガドル如きに凪を殺させるわけにはいかない。


「だが……ここで俺が出て行くべきか……」


 とはいえ、このタイミングで自身が直接出て行くのは戸惑われた。
 別に凪達が自分に攻撃を仕掛けてくる事についてはどうという事は無いが、結果として凪(他3人)を助ける事になるのは正直面白くは無い。
 凪達が自身の力でこの状況を切り抜けてくれればそれはそれで構わない(そして最後に溝呂木自身が仕掛けて台無しにする)が、推測できるガドルの能力を考えると厳しいだろう。
 例えば五代辺りや先の戦場で遭遇した村雨良等といった仲間がいるならばともかく、同行者2人が連中ほどアテになるとは思え無かった(ちなみに石堀は最初から戦力にはカウントしていない)。
 勿論、状況は刻一刻と移り変わっている為、どう動くかはわからない。しかし決断が遅れれば溝呂木自身が一番望まぬ凪の死が訪れかねない。


「ならば……コイツで決めるか?」


 と、デイパックからタロットカードを取り出す。
 別に専門的な占いをするつもりはない。単純に1枚のカードを引き、自身の決断を促すだけだ。
 運頼み――この状況では少々いい加減な気もする。
 だが、溝呂木が全てを掌握する男であるならば――その全てもまた溝呂木にとっては必然、引くカードすらも自身の闇の力に染まる筈だ。
 そう、この場で引くカードすらも溝呂木の想いのままというわけだ。

 タロットカードは大アルカナと小アルカナによって構成されており、今回使うのは大アルカナの22枚だ。
 その内の1枚を引くという至極単純なもの、難しい事は何も無い。
 十分にカードを混ぜ合わせる、これによりどんなカードを引くのかは誰にもわからない。
 そして、おもむろに1枚のカードを引く、それが溝呂木の運命を示すカードだ。
 そのカードとは――



「ふん……やはり、俺の思いのままらしいな」



 それは13番目のカード――『死神』だ。



 素人目から見ればそれは最悪なカードだ、だが今の溝呂木にとっては最良のカードであった。
 自分の好みのカードを引くことが出来たのだから――
 意味を考える必要は無い、状況は自身に向いている。それだけで十分だ。
 故にすぐさまタロットをデイパックに戻す――


 そう、その本当の意味など考える必要はないのだ――





Paragraph.02 行軍─マーチ─


「石堀隊員、後方の様子は?」
「今の所異常はありませんよ、副隊長」


 このやり取りだけを聞けばナイトレイダー隊の哨戒に見えるだろう。しかし、


「もう大丈夫じゃないの、あのカブトムシ野郎も諦めて……」
「お前は黙っていろ」


 お気楽な声とそれを制する声が哨戒では無い事を証明する。
 凪、石堀、そして同行者涼村暁と黒岩省吾はガドルの追跡から逃れ川沿いを南下していた。


「おいおい黒岩、お前だってこんなピリピリした空気耐えられないって思っているだろう、俺にはわかる」
「お前と一緒にするな! 大体、俺が元々お前のいたお気楽な世界の住民じゃない事ぐらいバカのお前にだってわかっているだろうが!」
「何言ってんの、そんな真面目な奴がなんで東京都知事になっているんだよ」
「お前だってそれに立候補しただろうが」
「俺がぁ? 冗談は顔だけにしろよ、ね♪」


 ここにいる暁は黒岩と出会う前から連れてこられている。その為、黒岩と争った東京都知事選挙の事を知らないのも当然の話だ。
 なお、何故、ダークザイドの戦士である黒岩が東京都知事になっているのか疑問に感じている読者も多いだろうが、ここでは割愛させてもらう。
 ちなみに黒岩が都知事になっている事については石堀と情報交換を行った際に把握した。両名が異なる時間軸から連れてこられている可能性がある事を把握する為だ。


「知っているか、」


 突然ここでBGMが切り替わる、


「『冗談は顔だけにしろよ』は『アー◆◆◆坊やは△△者』というアメリカで制作されたドラマの台詞の訳だが、これは直訳ではなく本来の意味は『お前何言ってんだよ』というものだ、それが当たり日本における番組のトレードマークになったというわけだ」
(作者注.ちなみに黒岩の蘊蓄について間違いであっても作者は一切責任取らない事を此処に付記しておく)
「え、アレドラマの台詞だったの? 適当な事言ってない?」
「ふん、確かにお前が見ているとは思えんな」


 これを見て真面目に哨戒をしている集団と誰が言えるだろうか? いや、誰もいない。


「貴方達、少しは静かにしなさい!」
「え、だけどさ……」
「だからお前は黙っていろ」
「貴方もよ、黒岩省吾!!」


 流石に凪の声も荒くなってしまう。


「あのさ、なんでアンタそんなにピリピリしているわけ? 綺麗な顔しているんだからもっと笑顔にさぁ、ふんわかいこうぜ、ふんかわ、ね♪」


 だが暁は変わらずへらへら笑って凪に話しかける。


「こんな状況で笑える方がどうかしているわ!」


 無論、凪にはそんな笑顔など必要無いと思っているし、状況的にそんな余裕など皆無だ。


「落ち着いて下さい副隊長、騒いでいたら……」


 流石に石堀も荒げる凪を諫める言葉をかけてしまう。


「そうね……」
「それにしても涼村、アンタ流石だな。こんな副隊長の姿俺もあんまり見た事がない」
「それほどでも♪」
「石堀は別にお前を褒めているわけではないぞ」


 何だろう、意見の相違はあったが五代と行動を共にしていた時より苦痛な気がする。


「あ、そういえばあのカブトムシ野郎見て思い出したんだけど……」


 と、暁が何か言いたそうにしている。


「何かしら?」


 感情が一切こもっていない声で凪が応える。下らない事をこれ以上喋るというならこっちにも考えがあるぞという無言の威圧でもある。


「これ以上このバカの戯言に付き合う必要はありませんよ」


 そんな凪の心中を察してか黒岩が口を挟む。だが凪にしてみれば黒岩もそのバカの1人なのだから黙って欲しい所だ。


「まぁまぁ、涼村、流石に副隊長も限界だ、状況が状況だから関係無い話だったら後にしてくれ」


 一応やんわりと仲裁する石堀である。


「いや、俺さ、アイツに似た奴と会っているんだよね」
「「「!?!?!?」」」


 暁の発言に3人が衝撃を受ける。


「そういう大事な事はもっと先に言いなさい!」
「どんな奴なんだ!?」
「本当だろうな!?」


 暁の言葉が事実なら暁はガドルの仲間と遭遇した事になる。つまり奴を出し抜くヒントを得られる可能性があるという事だ。


「確かアイツがカブトなら……クワガタ野郎だ、同じ様なベルト付けていた筈、間違いない」
「同じベルト……だとしたら奴の仲間の可能性が高いわね……石堀隊員」
「ええ、奴と同じ様な名前のパターンに該当する奴が1人……ン・ダグバ・ゼバがいます」


 初めて役に立ったなコイツ――凪と石堀は本気でそう思った。


「確かそいつもマントとかどうとか……白くて金ピカの悪趣味な野郎だった」
「全身がクリスタルなシャンゼリオンに変身する貴様だけには言われたくないぞ」


 外見が把握できただけでも有り難くはある。


「それで、他に何か変わった事は?」
「ああ、確か妙に『僕を笑顔にしてくれ』って迫る変質者だった」
「変質者……貴方に言われたらおしまいね」


 そう口にする中、


「ちょっと待て……暁、本当にそいつに会ったのか? そのクワガタ野郎は貴様の妄想上の存在じゃないのか?」
「おい黒岩、こんな状況で俺がそんな嘘言うと思っているのかよ?」
「思っているから言っている。大体、お前がそんな危険人物に果敢に挑むというヒーローの様なマネをする殊勝な人物だと思うか?」
「何で、俺の事そんな知っている様に言っているんだよ!?」
「知っているからだろうが!」


 また脱線して言い争いを始める2人だ、聞いた話ではこの2人本来なら敵同士らしく、暁に至っては黒岩の事を知らないという話だが異常なまでに連携が取れている様な気がする。
 本当にこいつら仲悪いのか?


「貴方達、いい加減にしなさい!」
「だが確かに黒岩の言葉にも一理ある、どういう状況でそいつに会ったんだ?」


 まぁ、恐らく襲撃してきた所を逃げたといった所だろう。


「ああ、ほむらが白いクワガタ野郎にいたぶられている所を助けたんだ」
「本当かしら……どうも貴方はそんな正義感の強い人間には見えないけど」
「ええぇ……凪まで俺を嘘吐き呼ばわりするのかよ……」


 凪にまで疑われた事に内心でショックを受ける暁であったが、


「……確かに実際にそういう状況に遭ったのならそうだろうな」


 意外な事に黒岩は暁の証言を肯定したのだ。


「黒岩!」
「それに、お前がそのほむらという魔法少女と行動を共に為ていたのは間違いはない……」


 黒岩が暁の証言を肯定した理由は2つ、
 1つは先の放送後、暁自身が暁美ほむらの名前を口にしつつ、彼女の死の原因を作ったパンスト太郎他1名の死亡が伝えられた事を嘆いていたのを覚えていたからだ。
 それは何時ものお気楽な暁にしては珍しく真剣そのものだった。
 もう1つは――確かに暁は人間的には最低と呼べる人種だと黒岩は認識している。卑劣なマネをするし、いい加減な性格である、何故コイツがヒーローなのか本気で疑わしい所だ。
 だが、同時に知っているのだ、その暁もごく偶に、本当にごく偶に、真っ当な戦士としての姿を見せた時があるのだ。その時の状況を知るからこそ暁の証言を肯定できるのだ。


「まぁ良いわ、とにかくあのガドルと名乗った怪物と同じ様な奴がもう1人いる事は把握したわ……」


 暁が本当にほむらを助けたかはこの際問題では無い、どちらにしてもガドルクラスの危険人物がもう1人いる、それが解っただけでも暁にしては上出来だろう(ハッキリ言ってかなり過小評価しています)。


「あれ、そういや黒岩も魔法少女知っていたんだな」
「そういえば……貴方も誰か魔法少女に会ったのかしら?」
「いや、魔法少女の1人の巴マミと行動を共にしていた桃園から聞いた話だ」
「1つ確認するわ、巴マミを殺した相手については何か聞いていないかしら?」
「相手はテッカマンランスとかいう男らしい、その正体まではわからないが、図書館のあるエリアを消すほどの力を持つ相手ですよ」


 それだけ強敵だという事を黒岩は説明する。その最中、


「副隊長、どうして彼女を殺した相手を?」
「少し気になる事があっただけよ」


 凪が巴マミを殺した相手を確認したかった理由はその下手人が溝呂木であるかどうかを確認したかったからだ。
 さやかが溝呂木に操られた事から彼女の知り合い、それも友人2人は全て溝呂木に殺された可能性があった。それ故の確認だ。


「気になる事って何?」
「貴方達には関係の無い話よ」
「もしかして凪、あんたも魔法少女に会っているのか?」
「……ええ、美樹さやかという子よ、でも彼女は……いえ、何でもないわ」
「?」


 本当ならば溝呂木に殺され、その骸は人形として扱われ使い潰された、そう口にしようと思ったが止めた。
 溝呂木が凶悪な人物である事を説明する事に異論は無い。だが、今は少々タイミングが悪い。ガドルに追跡されている状況で溝呂木の事を悠長に説明している余力はない。


「今はそれよりもこの場を切り抜ける事が最優先よ」
「じゃ、じゃあもう1つだけ」


 話を切り上げようとする凪だったが暁がそれを阻む。


「何よ」
「せめて、そのさやかって子の知り合いが誰か教えてくれない?」
「は? 何言っているの? 貴方、暁美ほむらから彼女の知り合いについて聞いているでしょう」
「それがさ、ほむらの奴ほとんど自分の事を何も話してくれなくてさ……聞いた事は持っていた宝石が汚れきったら怪物になるとか、助けたい友達の女の子がいるってことぐらいだから……後はキュウなんとかに騙されたとかどうとか」
「え、それ本当に行動を共にしていたのか?」
「また俺を嘘吐き扱いして……」


 石堀はほむらと暁がコミュニケーション取れていない事に呆れていたが凪と黒岩は神妙な面持ちで聞いていた。
 というのもさやかから聞いたほむらの情報にしろ、ラブから聞いたマミの持つほむらの情報にしろそれは決して良い印象を与える物ではなかったからだ。
 さやかが話したほむらの情報は『何を考えているのかはわからないけどマミさんを妨害して死なせた悪い転校生』、
 マミの持っていた情報は『何故かはわからないけどキュウべぇの邪魔をした人で信用できない(但し、マミは話はしてみるつもりだった)』というものだ。
 断片的故に断定は不可能だが、元の世界では敵対していた可能性が高く、同時に秘密主義な所があるのは明白。
 そんな彼女がバカな暁に素直に情報を渡すとは到底思えなかった。きっと暁のバカに振り回されたのだろう。


「「彼女に同情するな(わ)……」」
「何で!?」


 ともかく、暁がゴネる為、迅速にさやか及びマミの知り合い、つまりはほむらの知り合いを説明した。
 要点を纏めると同じ世界から連れてこられていると思われるさやか達、その仲間(便宜上こう表記する)は全部で5人、但し既に現時点で生き残っているのは1人だけである事まで説明した。


「ともかくだ、俺達の知っている事はここまでだ、後は桃園か他の誰かに聞け」
「念の為言っておくけど、その暁美ほむらが誰を守りたかったかは私達にもわからないわ。ここにいるかもどうかもわからないし、いたとしてももう殺されている可能性が高い、だから余計な事は考えない事ね」
「はいはい……あ、そうだ……なぁあんた達武器持っているよな?」


 今更思い出したかの様に暁が別の話題を切り出す。
 確かに暁以外の3人は銃系統の武器を持っている。暁にも支給はされてはいたが既に破壊され今は持っていない。


「それで?」
「俺にも何か武器くれない? 出来れば俺でも簡単に扱えてどんな強敵も一撃で倒せる様な強力な奴ね」
「専用の変身能力あるでしょうが、それだけあれば十分よ」
「だからそれとは別の武器が欲しいんだって、あんた達だって変身能力とは別に武器持っているし、ね」
「あのね、何とかに刃物という言葉……」
「この男がそんな言葉知っているわけないだろう」


 正直、バカに武器を渡したくは無いのが本音だ。


「だけどさ、あんた達そんなに沢山デイパックあるんだから俺にも1つ分けてくれたって……大体、凪に渡したスカルだって元々俺に支給されていたんだぜ、交換として何か……」


 確かに暁の言葉にも一理はある。変身能力を得る為とはいえ、結果として暁から武器を取り上げたのは事実だ。
 暁の言葉に従うというのもしゃくではあるが、この問題が後々尾を引かないとは限らない。


「わかったわ、その代わりスカルの件に関してはこれ以上文句を言わない。それが条件よ」


 と言って、手持ちのデイパックの1つを確認し、


「……これなら丁度良いわね」


 と、そのデイパックを暁に渡した。


「サンキュー♪」
「どうでもいいが、お前のデイパック、少し口が開いているぞ。ちゃんと閉めておけ」
「お前はお母さんかお父さんかっつーの、さーて中身はと……」



 そして中身を確認しようとした矢先――



 何かが撃ち抜かれる音が響く――





Paragraph.03 狙撃─エアスナイパー─


 クウガとガドルの能力は似ている――
 パワーとスピードのバランスが取れた格闘戦の赤、
 スピードを重視した槍あるいは棒使いの青、
 索敵能力に特化した弓矢使いの緑、
 そして防御とパワーを重視した剣使いの紫、

 全身が変化するクウガとは違い、ガドルの場合は瞳の色が変化するだけだが概ね同じ能力を持っているという解釈で構わない。
 ガドルがグロンギの上級であるゴ、その中でも別格に強いのは純粋にパワーが強いというだけではない。
 状況に応じて様々な形態を使いこなす、それだけ応用力が高いという事だ。
 実際問題、グロンギあるいは未確認生命体との戦いは熾烈を極めており、クウガも苦戦を強いられている。
 だが、クウガは相手の能力を把握し時には警察と連携しつつ、状況に応じた最適なフォームへと変身しそれらを打ち破っている。

 が――ガドルに対してはそれが通用しないのだ。
 言ってしまえばクウガの戦い方は相手がチョキを出してくるからグーを出すというものだ。
 チョキを出すと解っていてパーを出すバカはいない。普通に考えればグーを出す。グーが出せるならば特に、
 そう、ガドルの場合はクウガが状況に合わせてグーを出してきてもグー、あるいはパーを出せる状態なのだ。
 つまり、有利に戦える形態で戦うという事が出来ないのだ、良くて互角までにしか持って行けない。
 そして、同じタイプ同士が戦うならば勝敗を決めるのは――純粋にパワーが強い者だ。
 故にクウガは一度は破れ、そしてさらなる強化を図りガドルを破ったのである。

 純粋なスペック勝負、それを打ち破るだけでも難儀ではあるが、それ以上に面倒なのは多彩な能力である。

 そう、例えガドルから逃走した所で、それだけで身の安全を保証されるわけではない。
 ガドルの索敵能力を甘く見るな、クウガと同じ事が出来ると説明した筈だ、クウガは遠く離れた場所を飛行、あるいは周囲の景色に溶け込み不可視状態となっている未確認の位置を正確に索敵する程の力を持つ。
 当然、ガドルも同じ事が出来るのだ。

 全身の神経を研ぎ澄ませろ――逃走方向は把握済み、そして見落とすな、僅かな動きすらも――


「!! 川沿いか」


 距離は大分離れているが川沿いを歩く音が僅かに聞こえた。地図で言う所のG-4といった所か。
 足音の数は4つ、連中に間違いない。
 瞳の色を青に変えて走り出す。逃がしはしない、どこまでも追い続けてやろう。

 そしておもむろに再び瞳を緑に変えて首飾りの1つを引きちぎりガドルボウガンへと変化させ構える。
 距離的に仕留められる距離では無い、その上森林という遮蔽物の多い場所である関係上、まず木々に阻まれ防がれるのはガドルにも理解出来る。
 だがガドルは構わず圧縮空気弾を何発も放った。
 研ぎ澄まされた感覚で狙うべきポイントは押さえている、放った空気弾は木々の間を正確にすり抜け――
 常人では視界外である凪達から数メートル離れた大木に直撃した。

 いうなればこれは無言の最後通告だ。
 逃げても無駄だ、戦えと。
 戦わないのならば何処までも追いかけて殺すと。
 只逃げる相手を殺すのは趣に欠ける、殺すならば立ち向かう相手が良い、そう考えての行動だ。


「来るが良い、リントの戦士達……来ないならば……ギベ!(死ね!)」


 そしてガドルは再び走り出す。





Paragraph.04 臨戦─スタンバイ─


「石堀隊員!」
「副隊長、奴の姿は見えません」


 レンジ外からの狙撃、自分達では無く、すぐ近くの大木に命中したが、それは4人を動揺させるのに十分過ぎた。


「おい、今のは……」
「方向から考えてまず間違いないわね」

 狙撃者は間違いなくガドルだ。
 勿論、ガドルの呼びかけに招かれた他の危険人物が仕掛けた可能性はなくはない。
 しかし、撃ってきた方向は丁度ガドルのいた場所、
 更に何も知らない危険人物が単身行動している相手ならばともかく十分に警戒している4人の集団を狙撃するとは考えにくい。特に遮蔽物の多く狙撃に向かないならばなおの事だ。
 どちらにしても確実に言えるのは、自分達が敵に狙われているという事だ。
 何にせよ立ち止まるわけにはいかない。足を進めなければならないだろう。


「どうするつもりだ西条」


 黒岩に問いかけられ凪は考える。
 もし相手がガドルだとするならば厄介な事になる。
 相手は人間よりも優れた感覚を持ち、人間が知覚出来ない距離から狙撃を行う事が出来るという事だ。
 そして身体能力も相当なものと考えて良い、例え1キロ強離れていたとしてもごく短時間で間合いを詰めてくるだろう。

 選択肢1……応戦せずこのまま逃げる。
 却下だ、遮蔽物の多い森の中にもかかわらず狙撃してきたのだ。既に奴の間合いにいる以上、逃げ切れる可能性は低い。
 同時に先にも述べたとおり短時間で間合いを詰めてくるならば無策で逃げるのは完全な悪手だ。

 選択肢2……応戦する。
 これまた論外、相手の能力が相当なものである以上、4人がかりでも勝てる保証は無い。
 慣れない変身ツールを使わざるを得ない自分と石堀、巫山戯てばかりで実力的に信用のおけない暁と黒岩、この4人での勝率は限りなく低い。
 更に言えば状況的に他の危険人物がやってくる。それだけの不確定要素を抱えて戦うのはリスクが大きすぎる。

 選択肢3……4人バラバラで逃げる。
 ならば、敢えて4人がバラバラになりガドルの狙いをそらすという手段だ。これならばガドルに狙われた1人はその時点でアウトだが残り3人は逃げおおせ――
 これも悪手だ。ガドルの実力を考えれば1人仕留めるのにそう時間はかからない。そして仕留めた人物の武器を確保されそのまま次の標的を仕留めようとする。
 運よく逃げ切ったとしても戦力は大幅に削られるのは明白。敵がガドルだけではない以上、これも避けるべきだろう。


「(くっ……時間が……)」


 そんな中、


「なぁなぁ、俺に1つ良い考えがある」


 と暁が言い出した。


「戦いの素人のお前にどんな良い考えが浮かぶ?」
「聞くだけなら聞いてあげるわ」


 正直、この状況で不毛な言い争いをされてはかなわない。早々に暁の作戦を聞き出して流そう。そう考えて凪は反応する。


「お前達の誰かがあのカブトムシ野郎を引きつけている間に俺達が逃げるって作戦だ、どう?」


 要するに誰かを囮としてその間に残りの3人は逃げるというものだ。


「ほう、それは名案だな。その囮役はお前がやるんだろう?」
「何言ってんの、何で俺がそんな自殺行為しなきゃならいっつーの。大体お前は何か作戦考えたのかよ?」


 凪の想いはむなしくやはり不毛な言い争いを始める2人だ。


「確かに名案ね、でもそれはその囮役が十分に時間を稼げるという前提が無ければ成り立たないわ。あの怪物を相手にそれだけの時間を稼げるのかしら?」
「え、でもほら、さっき使った神経衰弱弾ってやつ……アレを使えば……」
「神経断裂弾、例え確実に仕留められる弾丸があっても、直撃させなければ意味は無いわ。それに、同じ手が使えるほど甘い相手だと思う?」
「それに涼村、お前も言っていただろう。同じ様な怪物がいるって……それを考えれば無駄弾は避けたい所だ」


 確かに此方には切り札と言える神経断裂弾というのがある。しかし同じ手が通じる様な相手ではない、加えて同タイプの怪物の存在がそれを使うのを戸惑わせた。


「じゃあ打つ手無しじゃないか」
「大体暁、お前如きが考えつく浅知恵など既に西条も石堀も考えついている。それをやらないという事は通じない事が解っているからだろうが」
「だから黒岩は何か手を考えたのかよ!?」
「それを今考えているのだろうが!」
「あんたら、状況を考えろ……副隊長?」


 言い争いを続ける暁と黒岩、そしてそれを諫めようとする石堀を余所に凪は思案していた。


「(そう、この状況を切り抜ける一番最低限のリスクで済む方法は1つ、それは涼村暁が言った通り誰かが囮となってあの怪物を引きつけるという方法)」


 そう、先程凪が名案と言ったのは皮肉でもなんでもなく実際に名案だったからだ。
 但し、凪達がその後指摘した通り、『誰が囮を行うのか』、『時間を稼がなければ意味が無い』という問題を抱えている。
 が、逆を言えばその問題をクリアすればこれ以上無い名案という事になる。
 そして、同時に問題をクリアする条件も自ずと見える事になるそれは『時間を稼げる囮役を選ぶ』である。


「(つまり、囮役を誰がやるか、それが私達の命運を分ける事になる)」


 故に考えるのだ、この状況を切り抜けるに相応しい最適な囮役を。
 だが、答えそのものはすぐに出た。


「(涼村暁に黒岩省吾、巫山戯てばかりのこの2人に私達の命を預けるわけにはいかない……)」


 それぐらい2人の信用は地に落ちていた。


「(そういう意味では石堀隊員は信用におけるが彼では少々力不足……となると私がやるしかないか……)」


 故に囮役は凪自身が引き受けるしかないだろう。
 勿論、囮役である凪が一番危険な状況に立たされる事は明白、というより死亡確率が非常に高い。
 しかし、凪自身この戦いで命を落とすつもりは全く無い。
 いや、正確に言えば凪以外が囮役を行うとしてもその囮役の生存確率を引き上げる方法を考えるつもりだ。
 そう、この戦いの消耗を一番押さえる為には犠牲は最小限に抑えなければならないのだ。


「(だが、このスカルの力だけでどこまでやれる?)」


 手元にはロストドライバーとスカルのガイアメモリがある。これで仮面ライダースカルに変身すればある程度は応戦できる。
 しかしそれだけで切り抜けられるとは思えない。


「(こうなったら石堀隊員からアクセルを……)」


 ならば石堀の持つアクセルドライバーとアクセルのガイアメモリを交換してもらい仮面ライダーアクセルに変身して――


「(待って、そうだわ。この手があった! これならば……)」


 脳内で作戦が纏まった。故に、


「石堀隊員、アクセルは?」
「いつでも使えます……って副隊長?」
「ん、ってことは石堀、アンタが囮役引き受けてくれるのか?」
「え……副隊長、本気ですか?」


 流石の石堀も冷や汗が出てくる。


「ええ、但し……」


――Skull――


 響き渡る音声、ロストドライバーにセットされ


「変身」


――Skull――


 その言葉と共に凪の姿が仮面ライダースカルへと変化した。


「私も行くわ」


 その言葉から凪ことスカルの真意を察した石堀も


――Accel――


「変身」


――Accel――


 エンジンの様な音を響かせながら仮面ライダーアクセルへと姿を変えた。


「なるほど、つまり、2人で囮役を行うというわけか」
「ええ、私と石堀隊員は元々同じチーム、連携は十分に取れるわ、貴方達と違ってね。それに……」


 スカルの視線に気付きアクセルは自らの身体をバイク形態へと変形した。
 そしてすぐさまスカルがそれに騎乗する。


「バイクに変形したぁ!?」


 それを見て暁が驚愕の声を挙げる。


「何を驚いている、貴様の所にもバイクに変形する奴がいるだろうが」
「そんな奴知らないっつーの、それ以前にどうやって人間が変形するんだよ」


 そんな2人を余所に。


「説明しないのによく出来たわね」
「副隊長が気絶している間に調べましたから」
「これなら奴のスピードにも十分対応出来る、貴方達はこのまま川沿いを進みなさい」


 そうスカルが口にしたのを最後にアクセルは走り出した。その速さ故にすぐに小さくなっていく。


「……おーい」
「行くぞ、暁」


 凪の作戦を理解した黒岩はすぐさま足を進める。


「……なぁ、黒岩……1つ聞いていいか?」
「何だ、下らんことだったら怒るぞ」
「いや、さっきのスカル、額にSの文字があったよな?」
「ああ確かあった、それがどうかしたのか?」
「……俺がさっき変身した時にもそれあったか?」
「一々そんな事を覚えてられるか……で、それがどうしたと?」
「いや……別にそんな大した事じゃ……」


 微妙に釈然としない表情ではあったが、暁は黒岩の後ろを歩き出す。


「貴様が真っ当な戦士であれば西条が苦労する事も無かったんだろうがな……」
「俺の事バカにしてるのか?」
「ふん……」


 本心から言えば、黒岩は暁を全く評価していないというわけではない。
 そう、黒岩は知っているのだ。暁が本当の意味で真っ当な戦士として戦った時の強さを――
 依頼人の女の子(後に秘書となる)が暁の為に弁当を作ってきた時があった。
 しかし、黒岩と同じダークザイドの1人がそれを台無しにした事があったのだ。
 その時、暁は普段のおちゃらけた姿ではなく、心から怒りの感情を出して戦った。
 この時、暁ことシャンゼリオンは黒岩クラスの実力を持つ4人の相手と対峙していた。
 しかし、それらを圧倒する程の力を見せたのだ(実際は黒岩は早々に離脱し、卑劣なマネをした1人を仕留めた為、実質的には2人を相手にした)。
 黒岩してその時のシャンゼリオンに勝てる気がしないと言わしめたのだ。
 その一件があるからこそ黒岩は暁をある程度評価しているというわけだ。
 そう、先程暁がほむらを助けたという話を信じたというのも、そういう経緯があったからなのだ。


「というかさ、なんで俺がコイツと一緒に行動しなきゃならないんだ?」
「それは俺の台詞だ」


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最終更新:2013年06月14日 16:49