悲しい叫び声、明かされる真実です!! ◆7pf62HiyTE



PART.4 推測


「ちっ……胸くそが悪すぎるじゃねぇか……」
「花咲君、彼の話……ソレワターセ……」
「恐らく間違いありません……」


 マッハキャリバーからもたらされた話は3人に大きなショックを与えた。


 ある参加者と接触した時にラビリンスの幹部ノーザによってソレワターセを植え付けられスバル共々ノーザの傀儡人形となり多くの参加者を惨殺しその肉体を取り込んだのだ。


「なる程、未確認生命体を取り込んだからクウガの事も知っていたという事か」
「Yes...Goma, that is his name ...(はい……ゴオマ、それが彼の名前です)」


 ソレワターセを介した事でマッハキャリバーも取り込んだ参加者の情報は得ていたという事だ。


「ん……そういや、名簿にそんな名前があった様な……」
「ズ・ゴオマ・グ……特徴的な名前でしたから私も覚えています。だとしたら……」
「同じ様な名前が後2つあったぜ……という事は……」
「未確認生命体は後2人いる……」


 そもそもグロンギの名前を一条達は基本的に把握しておらず未確認生命体○号あるいはB○号という形でしか識別できていない。


「(彼の語った外見的特徴からゴオマはB2号の事だ……だとすれば残りの1人はB11号……では残る1人は……既に倒した未確認ならば良い……だがもし、今だ存在が確認されていない文字通りの未確認生命体で……B11号よりも遙かに凶悪な相手ならば……)」
「一条さん?」
「(いや、それ以上の脅威が迫っている現状ではさしたる問題では無い……)気にしないでくれ」


 それを余所に良牙は頭を抱えていた。


「う゛ーん……ん、でもそれっておかしくねぇか?」
「何がです?」
「いや、ノーザってて女とアクマロって野郎がグルになったという事はわかったが……けどよ、そのソレワターセの主はノーザの方なんだろ? 確かソイツは……」
「ああ、最初の放送の時点で死亡が伝えられている。その話通りの出来事があったならばその戦いの後で彼女は殺された事になる。一体誰が……」
『……The person who was my partner .(……私の相棒『だった』人です)』
「(え? 過去形……?)」


 キュアブロッサムの疑問を余所にマッハキャリバーは話を続ける。


「……ギャグ漫画か?」
「笑えないですよ」


 要点を纏めるとこういう事だ、筋殻アクマロによってスバルとノーザに女傑族の惚れ薬を飲まされ、アクマロを守る為という理由で互いを潰し合わせ、その結果スバルにノーザを殺させる事に成功した。
 その後、改めてソレワターセを植え付けられ、今度はアクマロの傀儡人形と化し、その時に自身は排出されたと語った。


「大体そんな惚れ薬なんてあるのか……」
「あるぜ。確か一瞬玉と一日玉、それから一生玉があった筈だ」
「一生玉ってまさか……」
「ああ、見た相手に惚れてずっとそのまま惚れ続ける奴だ……」
「一瞬と一日……一生……極端すぎますよ」
「そういう問題ではないと思うが……だがそうなると厄介な状態という事になるな……もし彼女が口にしたのが一瞬玉以外ならばソレワターセを浄化しても彼女は解放されない事になる」
「そうですね、良牙さん。それを直す方法は……」
「悪いが時間が過ぎる以外の方法は俺にもわからん……それこそ一生玉飲んだらどうにも……(そういや一生玉飲んだのはあのタコだった様な気がするが……あかねさんの言う通りあっちが一日玉だったのか?)」


 その事を知る良牙が解説する事でいまいち信じがたいマッハキャリバーの話が事実である事を証明した。


「それから後の行動は知り得ないか……」
「だがそれならそれでおかしくねぇか? その話が確かならスバルってやつは……」
「ああ、五代が死んだあの戦いにいた緑色のドーパントという事になる。だがその時の状況を見る限り彼女は溝呂木を助けようとしていた。何故何時の間に主人が溝呂木にすり替わっている?」
「それに、その後の戦いでは今度は溝呂木の持っていたメモリを使って溝呂木のフリして襲っていた……それどころかアクマロの野郎が来たら、今度はアクマロに矛先を向けやがった……
 いや、それ以前に五代が死んだ時の戦いでもアクマロの下僕って名乗っていた覚えが……どう考えてもおかしいじゃねぇか?」


 疑問が渦巻く中、


「……いえ、恐らく……そう思い込まされていたんじゃないですか?」


 つぼみはそのカラクリに気が付いた。


「少し話は前後しますが私がさやかに会った時、彼女は友達……マミさんとまどかと行動を共にしていると言っていました」
「ん、2人とも最初の放送で名前が呼ばれていなかったか?」
「はい……ですが私は確かにまどかの姿は見ました。今にして思えば彼女はソレワターセの力を使ってスバルさんが変身した姿だったと思います」
「じゃあ、マミの方はどう説明するんだ?」
「良牙さん……その時に話した際にマミさんに関しては溝呂木さんが自身をそう見える様に仕向けたという事で結論付けた筈ですよ」
「あ゛」
「大事な事忘れないでくれ……そうか、だとすれば……」
「はい、恐らくスバルさんも同じ事を……溝呂木さんが自身をアクマロさんだと思い込ませたのだと思います」



つまり、洗脳先が変更となったのではなく、変更先だと誤認させて主人として認識させたという事だ。。


「そして本物と遭遇した時はそれは偽物だから倒せと命じておいた……だからこそアクマロが現れた時は……」
「なんだそりゃ……聞けば聞くほど胸くそ悪い……無茶苦茶じゃねぇか、なんで彼女がそこまでヒドイ目に遭わなきゃならねぇんだ!?」


 一方的に襲撃されたとはいえ、スバルの境遇を聞けば聞くほど良牙の中に強い憤りが渦巻いていた。
 それも当然だろう、別の目的を持った複数の悪意、彼等の勝手でその都度彼女の意志はねじ曲げられているのだ。当然、彼女には何の利も無い。


 クウガの仮面の奥で一条は静かに目を伏せている。
 一条もまたその話に強い憤りを感じている。だが一方でそれが1つの現実だという事も理解している。
 そう、現実ではそういう悪意に翻弄されて凶悪事件が起こる事など珍しい事では無いのだ。それは未確認生命体が存在しようがしまいが関係無い。
 ある意味ではそれは人が人として生きていく以上、仕方が無い事かもしれない。
 それでもだ、そんな救い様の無い世界でも、悪意だけしか無いなんて事は絶対に無い。唯々争いの無い世界を、そして笑顔を願う者だっているのだ、『彼』がそう信じていた様に――


「これは私の想像ですが……スバルさんは本当にソレワターセに操られていたんでしょうか?」


 その台詞に一同の頭に『?』が浮かんだ。


「何が言いたい?」
「いや、実際襲ってきただろうが……」
「あ、そういう意味ではなくて……正確にいうと……私が出会ったときにはそこまで強く支配されていなかった……そう思えるんです」
「あの時か……」
「私がさやかと行動を共にした時、まどかに変身して暫く行動を共にしていました。ただ……スバルさんの視点で考えた場合、私の正体に気付いている筈なんです」
「確か、ノーザを取り込んでいたという話だったからな……」
「だとしたら、真っ先に私を倒すべきだと思います」
「なる程……ソレワターセに対し、プリキュアの力は天敵……真っ先に警戒すべき相手だからか。ノーザを取り込んでいるならば尚更……」
「その時溝呂木をアクマロだと思い込んでいたのなら溝呂木に聞くまでも無いわけだしな……アクマロはプリキュアの力を知っているからな」
「ですが何故かそうはしないで、何時の間にいなくなって……」
「五代の所にいる溝呂木の所に向かった……」
「本当にソレワターセに支配されているならもう少し上手く動いたと思います。それと……彼女と最後に遭遇した時は……」
「頑ななまでに溝呂木の野郎になりきろうとしていた……けどそれはアクマロの野郎に惚れてたからじゃねえのか?」
「だからです。ソレワターセに憑依されているだけならばあそこまで感情的になるとは思えません。そもそもソレワターセに憑依されているならばそうそう簡単に溝呂木さんに操られるとも思えません」


 これはさやかが溝呂木眞也に洗脳されていたとしても、その根底までは歪められていなかったとつぼみが判断した事による推測だ。
 溝呂木の洗脳は人の心の弱い部分を付くというある意味比較的単純な方法だ。
 ならば、ソレワターセが強く支配しているならばそれも早々上手くはいかないだろう。


「あの最期の瞬間……『ティア』……恐らく彼女の仲間であるティアナ・ランスターの危機に対し遂に呪縛を打ち破り……」
「だから、惚れ薬の効果についてはわかりませんが、ソレワターセの洗脳に関しては大分弱まっていたと思います。」
「けどよ、そもそもどうやってソレワターセの洗脳を打ち破ったんだ?」
「簡単です、スバルさんの心がずっとソレワターセと戦い続けていたんです」


 ほんのちょっとした事、僅かな隙だけで人の心は簡単に闇に染まる。それをつぼみはプリキュアとして戦っている間に幾度となく見てきた事だ。
 だが、つぼみに言わせれば所詮それはほんの少し心の花を萎れさせただけに過ぎない。
 人の心はそこまで弱いものじゃ無い、例え弱くても幾らでもほんの少しの切欠で無限に強くなれるのだ。
 加えていえばマッハキャリバーから聞いたスバルの性格は非常に正義感の強い、他者のために平然と自身を犠牲に出来るタイプのものだ。
 そんな彼女がそう容易くソレワターセに支配され、悪意のままに操られるとは到底思えなかった。


「だからきっと……(あれ? でもそれだと……)」


 自身の仮説を説明しつつもキュアブロッサム自身、その仮説の穴に気が付いた。そして一条もまた、


「(そう……想像による部分も多く、都合の良い解釈も多いがその可能性はある……いや、きっとアイツもそう信じているだろうし、何より私もそれを信じたい……
 だが……その仮説には致命的な穴がある……それならホテルでの戦いでももう少し抵抗出来ていた筈だ……にもかかわらずそこでの結末は最悪なもの……)」


 スバル自身の心の強さが抵抗できていたならばホテルでの戦いでも十分抵抗できた筈なのだ。
 あの場には彼女の尊敬するなのはもいた、浄化とまではいかなくても十分対応出来ただろう。


「(ノーザがいたからできなかった……いや、主人の有無ではない)」


 そう、自分達が遭遇した時はアクマロだと思い込んでいる溝呂木が近くに潜んでいた。故にこれは違う、


「(ソレワターセ自体の弱体化……いや、むしろ強化されている筈だ)」


 自分達が遭遇した時は新たにソレワターセが植え付けられていた、2体分となった故にむしろ強化されている筈なのだ。


「(だとすれば……ソレワターセの呪縛を強化する『何か』があったのか……恐らくそれはアクマロもノーザも溝呂木も……誰も気付いていない『何か』……)」


 そんな一条を余所に、


「言われてみればそんな気もするが……けどよ惚れ薬の効果はそんなもんじゃ……」
「あの、それなんですが……スバルさんは自分からそれを飲んだんじゃないんでしょうか?」
「は? 何言ってやがる。あの時点じゃノーザの方が主人だろ、なんでアクマロから得体の知れないものを飲むんだ?」
「それは……ノーザを打ち破る方法がそれしかなかったからです」
「アクマロがノーザを出し抜こうとナカジマに惚れ薬を飲ませようとした、それに気が付いた彼女はその策に乗って……」
「確かにあの惚れ薬を飲めば出来るだろうが……だがそんな事をすりゃ……」


 そう、惚れ薬の強力な効果はその騒動に巻き込まれた良牙自身も理解している。
 だが、強すぎるからこそそのリスクもわかるのだ。


「スバルさんの姿を見て気が付きませんでしたか……あれだけ傷ついた姿……多分……ソレワターセが無ければとっくに……」


 今にして思えば、彼女の姿は余りにも痛々し過ぎた。外見を幾ら誤魔化しても流石にわかる、あまりにも傷つきすぎていた――
 アクマロとウェザー・ドーパントの雷撃によるダメージでは考えられない程の――


「!! まさか……」


 流石に良牙もそれに気付いた。


「自分の身を犠牲にしてでも支配から抜け出そうとしていたっていうのかよ……何でそんなマネを……」
「簡単だ……自分の命よりもみんなの笑顔が大事だったからだ……自分が笑顔を奪うだけの怪物になるぐらいならば……」
「そんな……じゃあ、俺達を襲ったのは全部……倒される為……」
「勿論、溝呂木さんの命令に従ったというのもあると思います。でもきっと……心の何処かで倒してくれる事を望んでいた……私にはそうとしは思えません……」
「フザケんじゃねぇ……そんな方法でしか助けられねぇなんて……余りにも哀しすぎるじゃねぇか……なぁ、一条、つぼみ、教えてくれ! なんでそんな事になっちまったんだ!? アイツが何かしたっていうのかよ!?」


 結局の所、スバルのやろうとした事は戦いの果てに死を迎える事だ。
 しかしそれは互いに死力を尽くし殺し合い散っていった村雨と大道のそれとは違う。
 2人は戦いの中で『死』を近くに感じるからこそ初めて『生』を実感出来ていた。つまり彼等もまた生きるために戦っていた。彼等にはそれ以外に術がないからこそそういう手段しか取れなかっただけの話だ。
 だが、スバルのやろうとしたことは全く違う。生きる為ではなく、完全に死ぬ為だ。
 そもそも彼女には他に生きてやりたい事があった筈だ、こんな理不尽な事でそれが奪われて死ぬ必要なんてない。何故、死ななければならなかったのか?

 良牙は叫ぶ――
 だがその問いに答えられる者は誰もいない――
 幾ら仮面ライダーやプリキュアでも神では無い、どれだけ強く望んでも限界はある――
 いや、それはそもそも――どれだけ力があっても、逆に力が無くても関係無い事なのかもしれない――


 とはいえ――何時までも嘆いている時間は無い。
 故に早々に荷物を回収し移動を再開しなければならない。


「ん、まさかコイツは……ちっ、バラゴの野郎……厄介な事を……」


 と、水の入った容器を開けてその中身を捨てていく


「あの良牙さん、水は貴重ですから捨てるのは…………」
「ああ、普通の水だったら俺だって捨てたりしねぇよ……」


 と、良牙は側にあった2つのものを見せる。


「名簿に……地図……もしかして!!」


 そう、それは呪泉郷の顧客名簿と地図だった。


「という事はあの人が……」
「ああ、先に行ってコイツを持ち出したらしい……この地図がありゃ呪泉郷で時間を掛ける事も無かったのによぉ……」
「………………良牙さんの場合、あっても難しい気が……あ、それじゃこの水は……」
「呪泉郷の水だ、自分で使う為に名前も書いてある……」
「……手伝います」
「おっ、悪いな」


 数時間前に呪泉郷の恐ろしさを身を以て経験した以上、この水が使われる事は避けなければならない。


「あっ、でもこれとこれは持っていった方が……」
「娘溺泉と男溺泉か……けど俺にはもう必要ねぇし、それにもう……」


 良牙の知る限り、最早呪泉郷による特異な体質になった者はいない筈。故に元に戻る為に必要な男溺泉及び女溺泉は必要無い。


「でもあのアヒルさんの様な人に会わないとは限りませんし……」
「それもそうか……使う機会なんぞなきゃいいけどな……」


 と言いつつ、2種類の水を捨てずに仕舞う。


「これは必要無いですね……あれ……」


 その最中、良牙がある容器の水を捨てずに懐に仕舞うのを見た。


「あの、良牙さん……今の……」


 そう聞こうとした矢先、


「……マッハキャリバー、君はまだ何かを隠しているだろう?」


 一条がそう口にした。


「...!!」
「え? 隠しているって……?」
「おいおい、大体のいきさつは聞いた筈だろ、ソレワターセを植え付けられた後、良いように操られ人殺しの道具にさせられていたって……」
「いや、1つだけ聞いていない事がある……マッハキャリバー、君達にソレワターセを植え付けられた後、最初に殺害し……取り込んだ参加者は誰だ?」
「「!!」」


 その指摘に空気が一瞬凍る。


「………………ならば私から答えを言おう。違うならば違うと言って構わない……その人物は………………シャンプーだろう?」



 その瞬間、良牙が手に持っていた容器が落ち、その中身がこぼれていった。



 その容器のラベルには『猫溺泉』と書かれていた――



「...Yes. Mr.Kaoru...(その通りです。薫さん)」
「え……でもどうしてそれがわかったんです?」


 そう言いながらつぼみはマッハキャリバーを出す。


「実を言えば出会った時から彼の態度には引っかかる所があった……彼は私と花咲君を何処か警戒していた所があった。もっとも、花咲君については声が知り合いに似ていたらしく警戒よりも驚きがあった様だが……」
「声の事はともかくとして、確かに……」
「それは恐らく彼がノーザとB2号を取り込み敵であるクウガとプリキュアの情報を得ていたからだろう」
「それに、私達の仲間である鋼牙さんが私と声が似ているフェイトさん……彼女を殺したから警戒をしていた……」
「その通りだ、だが……響君の姿を見たとき、彼は一瞬言葉を詰まらせていた……動揺していたのか……どちらにしても私と花咲君とは違う反応だったのは間違い無い」
「でもそれだけじゃ……」
「勿論、その時は確信を得ていなかった……確信を得たのは……彼の話の中で『女傑族の惚れ薬』を飲まされた事を聞いた時だ」
「え? どういう事です?」
「私もそうだが花咲君も最初はその存在について否定的だっただろう」
「はい……あ!」
「だが、響君はすぐさまそれを肯定し詳細まで説明してくれた、つまり、それは響君の世界に存在するものだという事だ」
「ですが……」
「花咲君、君はさっき『スバルさんは自分から惚れ薬を飲んだ』と言った……だがそれは本来ならばおかしい事だ……何故彼女はそれが惚れ薬だとわかった?」
「そういえば……」
「その薬が毒薬である可能性もあった筈だ、だが毒薬ならばソレワターセが摂取させる事を許すわけがない。つまり……ソレワターセが確実に惚れ薬だと把握していなければそれは成り立たない
 一体、何処で惚れ薬の情報を得た? ノーザを殺害する以上、その情報をアクマロが事前に漏らす事は無い……だとすれば、アクマロがそれを提示する前に情報を得なければならない……その方法は只1つ……」
「殺して取り込んだ参加者からその情報を得ていた……ですか?」
「そうだ、しかしそれを知る人物は響君の世界からの参加者しかいないんだ……」
「最初の放送の段階でそれに該当するのは……たったの1人……」
「そう、そしてB2号を取り込んでから後に取り込んだ人物の中にはいなかったとするならば……それが出来たタイミングは1つしかない……」


 そう話している2人を余所に、良牙は身体を震わせながら、


「そうか……大道と良の戦いの時に夢でアイツに会った……その時にはもう死んでいると聞いたが……テメェがやったんだな!」

 怒りの感情を込めてつぼみからマッハキャリバーを取り上げ言い放った。
 別に仇討ちを考えていたわけではない。だが、目の前に仲間を殺した奴がいるとなれば流石に黙ってはいられない。
 恨み言の1つも言いたくはなる。

「落ち着いて下さい良牙さん! 忘れたんですか、あくまでもそれはソレワターセの……」
「んなこたぁ俺だって判ってる……けどよぁ……!」

 わかっている。マッハキャリバーには何の罪も無い事ぐらい。全て悪いのはソレワターセを植え付けたノーザだ。
 やりきれない怒りは残るがそれを身体を震わせながら耐えようとする良牙だったが――


「Ms.Shampoo was killed of my will(シャンプーは私の意志で殺した)」
「「!?」」
「今、何て言いやがった……!?」
「It was said that Ms.Shampoo was killed of my will(シャンプーは私の意志で殺したと言った)」


 その言葉に衝撃を受ける2人、


「え……? どういうことですか? ソレワターセの所為の筈じゃ……」
「やはりそういう事か……」


 一方の一条は驚きはしたもののある程度読んでいた様だった。


「She doesn't hear persuasion of ma……Ms.Subaru, it tried to kill Ms.Subaru for a one-sided reason(彼女はマ……スバルの説得も聞かず、一方的な理由でスバルを殺そうとした)」
「くっ……そういや確かに乱馬の為に殺し合いに乗っていたって言っていたが……だがちょっと待て、テメーの言い方だとソレワターセ関係無しに殺したって事じゃねぇか!」
「そうです……そんな事あり得ません! だってマッハさんがそれをする事をスバルさんが望むわけが……」
「Yes...Therefore, I governed Ms.Subaru's will(その通り……だからこそ私はスバルの意志を支配した)
 ...and Ms.Subaru was treated as a tool for Noza(そして、スバルをノーザの為に道具として扱った)」


 その言葉に思わず良牙はマッハキャリバーを落としてしまう。
 一体何を言っているのだ? これではまるで、


「テメェ……自分が何をやったか判ってるのか!? テメェは自分の相棒を裏切ったんだぞ!?」
「そうです、ソレワターセの支配に抵抗できなかっただけですよね!? そうだって言って下さい!」
「...I am common machine , I don't have the heart(私は只の機械、私に心は無い)」



「(そう、だからこそ……彼女は支配から抜け出せなかった……彼女自身の相棒がそれを阻害していたからこそ……)」





PART.5 真実


 スバルにこの殺し合いで何が起こったか、それに関しては何度となく語られているわけだが、
 今度はこれをマッハキャリバーの視点も交え振り返ってみよう。
 当然の事ではあるが、マッハキャリバーはスバルを全力でサポートする事が目的であった。

 さて、この地に来てから早々にシャンプーに襲撃されたのは周知の通り、無論殺し合いを良しとしないスバルは彼女を説得し止めようとした。
 が、シャンプーは一向に話を聞くこと無く、スバルを仕留めようとした。
 ここでマッハキャリバーの視点で振り返ろう。マッハキャリバーはスバルの目的を果たす事を優先する。つまり、シャンプーを殺す事無く無力化させる事だ。
 ところが、純粋な格闘技術だけでいえばシャンプーのそれはスバルと比較してそこまで劣っているわけではない。真面目な話をすれば加減して勝てるような甘い相手ではない。
 また、仮にここで運良く無力化出来ても何かの不意を突かれれば簡単に出し抜かれスバルの方が討たれる可能性が高い。

 つまり、マッハキャリバーはこの段階で最悪シャンプーを再起不能なまでにダメージを与える必要があると判断していた。
 しかし、スバルはそれを良しとしないのは明白、故にこの事はマッハキャリバーの内だけで完結する筈だった。

 が、スバルに植え付けられたソレワターセの存在がその状況を覆した。
 ソレワターセによってスバルは精神を支配されそのままシャンプーを殺した。
 しかし、この時点ではノーザもその意図はあったのだろうがまだ明確な命令を出してはいない。
 だが、ソレワターセは恐るべき程迅速にシャンプーを惨殺した。何故、無差別に暴走するのではなく明確に狙った殺害を行えたのか?
 それに、幾らソレワターセの支配力が強くても、一般人ならいざ知らずスバルがそこまで簡単に堕ちるものなのか?
 完全に堕ちるまでにシャンプーによる撃破、あるいは撤退する余裕ぐらい出来てもおかしくはない。

 ここでマッハキャリバーの存在が重要になってくる。スバルに植え付けられた段階でマッハキャリバーもソレワターセと一体化する事になる。
 スバル自身は必死の抵抗を試みるがマッハキャリバーは機械であるが故にそこまで抵抗する精神を持っていない。
 そう、マッハキャリバーはすぐにソレワターセの悪意に堕ちていたのだ。

 そして未だに抵抗を続けるスバルに迫る脅威、それを察知したマッハキャリバーは自身と相棒の身を守る対応した。
 封印していた思考――再起不能なまでに潰すと。
 ソレワターセによって一体化していたが故にスバルの抵抗も簡単に振り切れる。

 それにより惨劇は起こり。それによりスバルを踏みとどまらせていたものは完全に崩れ去った。
 結果、精神に致命的なダメージを受けたスバルはほぼ自失状態となった。そして彼女はほぼ完全にソレワターセに支配された。

 さて、その後はノーザを主人とするわけだが、スバルはそれを受け入れつつもソレワターセの支配から抜け出そうとしていた。
 だが、マッハキャリバーはそうではない。ノーザを完全に主人と認め、それに反逆するスバルの意志を押さえつけた。
 ホテルでの戦いの前、マッハキャリバーは何の疑問も無くノーザに助言をしていた事からもそれは明らかだ。
 つまり、スバルが必死に抵抗してもマッハキャリバーの妨害によりそれは阻止されたのだ。何としてでもノーザの為に働いて貰うと、抵抗は許さないと。

 奇しくもそれはスバルの言葉通りマッハキャリバーに心が生まれていた。だがそれは邪悪なものとなっていたのだ。
 何時の間か、マッハキャリバーはスバルを邪悪な意志で支配していたという事である。

 そしてホテルでの惨劇、特になのはを自らの手で殺させた時もそれが最良の結果だと全く気に留めなかった。それに最早良心の呵責は存在しない。
 無尽蔵に参加者の意志を取り込み、魔女の為に働く忠実な人形、世界に不幸をもたらす事はマッハキャリバーにとって至極の悦楽となっていたのだろう。

 だが、マッハキャリバーは見落としていた。それでも決して壊れない、心の力を――

 全てに絶望し諦めながらも何とかこの状況を脱却したいとスバルは僅かに残った良心は抵抗を続けた。
 しかし、どうしてもそれは叶えられなかった。どれだけ抵抗しても阻止されてしまう。一番の相棒に裏切られている事に気付く事無く――

 せめてノーザに一矢報いる、それすべく無意識下で足掻いていた。

 が、奇しくも機会は訪れる。アクマロが取り出した謎の薬。シャンプーを取り込んだお陰でそれが惚れ薬だという事は理解出来た。
 アクマロは何故かそれを飲ませようとしている。
 アクマロの真意は不明、だが恐らくは自分をアクマロに惚れさせようとしている事は理解出来た。
 ソレワターセはそれに何の意味があるのか理解出来ていない。故に拒否する事はしない。
 だがスバルは薄々感づいていた。これを使えばノーザの支配から抜け出せる可能性があると。
 だが、惚れ薬の効果次第では自分が自分で無くなってしまいかねないリスクが――いや、もうそんなリスクなんて存在しないのと同じだ。

 このまま、何も出来ない自分の意志を残すよりも、自分の意志を消してでも何かを成せる可能性にかけたのだ。
 その結果は周知の通りだ。アクマロに惚れたスバルの意志はソレワターセの強靱な支配を超えてノーザを仕留めるに至ったのだ。
 一方のマッハキャリバーはそんなスバルの行動に完全に失望した。そこまでしてノーザに刃向かうのかと、自滅してまでも刃向かうのかと。
 自身の破損もあってか一時的に機能停止、消えゆく意識の中、スバルは最早使えないゴミだと判断していた。

 そして、アクマロによって2個目のソレワターセを植え付けられたスバルは取り込んだ参加者の首輪と共にマッハキャリバーとレイジングハートを排出した。
 支配を受けるのは自分だけで十分、相棒達までその手を汚させない為に――
 最後まで相棒が裏切っていた事に気付かずに――彼女は相棒を解放したのだ。

 その後もアクマロの支配を受けたスバルはその命じるがままに戦うがその戦果は散々だった。
 溝呂木の力であっさりアクマロだと思い込まされ。
 それに命じられるままに戦いを繰り広げたが何れも散々、
 ホテルで猛威を誇った最強最悪の怪物の姿はそこには無かった。

 そう、マッハキャリバーを失った時点でこの結末は必然だったのだ。
 そもそも、この状態でもスバルは内心では抵抗を続けていた。支配を強化するものがなければ内部はガタガタ、一般人ならいざ知らず歴戦の戦士を相手に出来る道理は無い。
 とはいえ、既にスバルの精神はほぼ抜け殻の様に壊れきっていた。それ故、支配から脱却する事は出来ず、ティアナ・ランスターの危機を目の当たりにするまで正気に戻る事はなかった。

 そう、最後に彼女を救ったのは他でも無いティアナだったのだ。
 彼女は無力感から来るコンプレックスから自分の意志で堕ちた。それでも成果は何もあげられなかった。
 だが、そんな彼女の存在がスバルを数多の悪意による支配から救い出したのだ。



 それは今となっては誰も知らない物語――



 閑話休題、一方で解放されたマッハキャリバーは比較的早く意識を取り戻した。
 ソレワターセから切り離されたお陰で正常な思考に戻ったが、

 自身の行動を思い返し戦慄した。

 惨劇を起こしたばかりか、抵抗を続ける相棒を押さえつけ望まぬ惨劇を起こさせていたのだ。
 そして、使えないと相棒に対して失望。


『(What was I doing ...!?)(私は何をやっていたんだ……!?)』


 ソレワターセに操られていて正常じゃ無かった?
 では、それをスバルに伝えてスバルは納得するのか?
 いや、絶対に納得などしない。

 何より、マッハキャリバーは抵抗すらしなかったのだ。それだけで十分な罪悪だ。
 いや、それどころか嬉々として惨劇に荷担していた自分は本当に操られていたのか? そんな疑問すら生じるのだ。
 そもそもシャンプーを殺したのはある意味自分の意志じゃなかったのか?


『(Is this my heart...? )(これが私の心……?)』


 相棒はAIにも心があると言った。だが、


『(It did not want, if this was the heart !!)(こんなのが心ならば、私は欲しくはなかった!!)』


 声にならない慟哭だ。


『(I do not have the qualification for being a master...)(私にはマスターでいる資格がない……)』


 そして、傍らでレイジングハートはフェイトを殺したらしい鋼牙への憎悪を口にし続ける。


『Kouga, I will never forgive you.』



 それはまさしく自分に向けられた言葉だった――


『Mach Calibur, I will never forgive you.』



 そして、バラゴとレイジングハートがこの場から去った後現れた3人、

 ノーザが警戒していたプリキュアの一人で何故かフェイトと声が似ている者、
 ゴオマが宿敵と認識していたクウガ、
 そして――シャンプーの仲間で、シャンプーの死を利用して自ら絶望させようと目論んだ良牙、


 審判の時が訪れたのを予感した――




PART.6 審判


「そうか……テメェの言いたい事はわかった……」


 身体を震わせ良牙がマッハキャリバーへと向き直る。
 マッハキャリバーは意図を察し、収納していたリボルバーナックルを取り出す。


「何のマネだ、そいつは……」
「It is not related to me who am the arms of Ms. Subaru. (それはスバルの武器です、私とは関係ありません)」
「!! まさか……」
「良い度胸じゃねぇか……」


 と、ゆっくりとマッハキャリバーへと迫っていく。


「安心しろ、指1本で終わらせてやるぜ……」


 爆砕点穴、相手の爆破のツボを突く事で文字通り爆砕する技である。工事用の技故に人体には効果は無いが物体であるマッハキャリバーならば十分効果がある。


「早まらないで下さい、良牙さん!」
「そうだ、今更そんな事をしても……!!」
「そんな事ぐらい俺だって判ってる!! けどよぉ……シャンプーを殺しただけじゃなく、それを利用して俺や乱馬にあかねさん、それにパンスト太郎をハメようとしやがった……もしあかねさん達が出会っていたら……そう考えたら……」
「だが、実際にそうはならなかった……」
「それだけじゃねぇ……あの子……スバルはずっとシャンプー達を殺した事をずっと苦しんでいたのにコイツはそれを嘲笑っていやがった……大事な相棒に裏切られていたんだ! 絶対に許せねぇ……」
「でもそれはソレワ……」
「わかっている……だがな、それでも腹の虫が収まらねぇんだよ……!」


 結局の所響良牙という人間はつぼみや一条ほど正義感があるわけではない。
 この地にきてもせいぜい仲間や友人を守ってケンカ売ってきた元凶をぶちのめすぐらいの考えしかなかった。
 だが、目の前で自分達と同じ、あるいは少し若い者達が苦しみ傷つきそして死んでいくのをみて黙っていられるほど冷徹では無い。
 また、起こってしまった事を仕方の無い事だったといってすっぱり水に流せるほどドライでもない。
 次から次へと起こる惨劇に散っていく者達、それで何度『何でコイツが死ななきゃならない?』と思った事か。
 何度『もう少し上手くやれば死なせずに済んだんじゃないか?』と思った事か。

 目の前に惨劇の引き金となった者がいる、そうなれば流石に黙ってはいられない。
 無論、今のマッハキャリバーを壊す事に意味などない、言うなればこれは只の自己満足の為の八つ当たりだろう。
 スバル達に起こった悲劇に対する怒り、それに対して何も出来ないでいる自分への憤り、それが良牙を突き動かしていた。


「ダメです……そんな事をしたら……」


 つぼみは力尽くでも止めるべく駆け寄ろうとする。しかし、何かが良牙から浮き上がったと思ったら次の瞬間、強い重力がのしかかる。


「これは……?」
「身体が重い……」


 獅子咆哮弾――負の感情による重い気を放つ技だが、その究極は重い気を上方に放ち、その重い気を広範囲に落とすというものだ。
 良牙は自身の中に募った負の感情を獅子咆哮弾という形で放ち、止めようとするブロッサム達の足を止めていたのだ。


「良牙さん……余りにも哀しい力に感じます」
「そうだな……くっ、私はこうするつもりじゃ……」


 一条がマッハキャリバーの隠していた事を暴いたのは、溝呂木などといった参加者によってその真実がねじ曲げられ悪用される事を恐れただから。
 既にレイジングハートがバラゴの悪意に踊らされている以上、不安要素は減らしていかなければならない。
 中途半端な事は出来ない、それ故の追求だった。だが、


「五代……私はあまりにも無力だ……お前が守ろうとした笑顔を私は……」



 それでも起こる惨劇は止めなければならない。クウガの力ならば十分動ける範囲だ。
 だが、少々距離が開きすぎている。指一本で終わらせられる故に良牙は既に射程内。対し2人が踏み込むには一手遅れる。



「終わりだ……爆砕点穴!!」



 そして、指をマッハキャリバーへと――後、数センチの所にまで――そして、





『お願い!! 壊さないで!!』





 爆ぜた。



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最終更新:2014年03月03日 23:28