哀しみの泣き声、ふしぎな宝石を見つけました!! ◆7pf62HiyTE



PART.1 捕捉


「戦闘中に音楽をかける機能……ったく、あの連中何考えてんだ? 俺達の戦いをショーみたいに見て楽しんでやがるのか? なぁ、まさかこれサラマンダー男爵の趣味じゃないよな?」
「いくら何でもサラマンダー男爵がこんな事考えるわけが……多分」
「……だよな、どっちかっていうと俺達側の誰かだろーが……う゛ーん……」
「え、そうなんですか?」
「つぼみ達の所じゃどうかは知らんが格闘新体操や格闘フィギュアがあるからな、格闘の最中に音楽をかけるぐらいの事は普通にあるだろう」
「そんな格闘が常識な世界が恐ろしいですよ」
「もしかしたら歌いながら格闘する奴等だっているかもな」
「歌いながら敵を倒す……そんな世界あったら怖いです」


 そう話す響良牙と花咲つぼみことキュアブロッサムを余所に、


「私から見れば最早理解出来ない世界の話だ……」


 未確認生命体による殺人ゲーム以外は至極普通の世界に住む一条薫ことクウガはそう呟いた。


「そういうものか……俺はそこまでおかしいと思ってはいないが……」


 そう言いながら良牙はi-podを操作する。
 事のいきさつはこういう事だ。
 3人はC-7にある呪泉郷からある目的の為にE-6方向へと移動していた。
 その目的はその地で散った仲間の一人村雨良に彼の記憶が収められているメモリーキューブを収める為だ。
 彼はBADANに改造された折りに記憶も奪われた、その記憶を取り戻す事は彼の目的の1つであったのだ。
 それ故に彼等、特にこの地で何かと付き合いのあった良牙はそれを望みそこへの移動を進めたのだ。
 ちなみにその後は街に向かい18時頃に一文字隼人及び沖一也、一時的に別行動を取っている冴島鋼牙そして彼等の仲間達との合流を目指す手筈になっている。
 若干回り道にはなるもののE-6の経由自体はそこまで遠回りではない。鋼牙とバラゴが戦闘しているD-7は避ける必要があったし、D-8方面の経由は既に禁止エリアとなっているD-9、あるいはF-7へと不用意に近づく可能性もある。
 勿論、隣接エリアに入るだけならそこまで恐れる必要などないわけだが、不測の事態は避けるべきではあるし、致命的な方向音痴である良牙がいる以上、下手な事はさせられない。
 気が付いたらはぐれていてそのまま……という事態すらあり得るのが恐ろしいのだ。それは良牙自身も自覚しているのだ。それに、


「もし、あの時俺の方向音痴が無ければ五代の奴も……」


 自覚していたとはいえ良牙の方向音痴はあまりにも酷すぎる。
 それ故に自身が目的地に辿り着けないだけならばまだ良かった。しかし、今回はそれでは済まなかった。
 数時間前、溝呂木眞也の襲撃の際、自身の方向音痴の所為で逃走した彼の追跡に失敗し、更に方向音痴のお陰で途中で五代雄介とはぐれ、合流した時には彼は命を落としていたのだ。
 今更IFの話に意味など無いだろう。だが、もしそれがなければ溝呂木の追撃も上手くいっていただろうし、それ自体が失敗してもみすみす五代を死なせる事も避けられただろう。
 その場に居合わせることすら出来なかったのだ、それは明らかな良牙の失策である。


「あんまり自分を責めないで下さい、私だってあの場に居合わせたのに何も出来なかったですから」
「……響君、五代の死に責任を感じるなとは言わない。だがあまり思い詰めないでくれないか。五代はその事で悩み苦しむ姿なんて望んでいない。君の所為で溝呂木の追跡に失敗した時、五代は君を責めたか?」
「いや……ケセラ……何とかって言って励まして……」
「ケ・セラセラ、スペイン語で『なるようになるさ』って意味ですね」
「そうだ、きっと今の君を見ても同じ事を言うだろう……とはいえ、流石にそこまでとなると直した方が良いだろうな……」


 勿論、常識的なレベルならば何かしらのアドバイスも出来るだろう。しかし良牙のレベルとなれば下手なアドバイスは逆効果、それ故、言葉に詰まる一条だった。

 ともかく、禁止エリアを避けるという意味でもE-6を経由で街に向かうルートも悪くはない。
 プリキュアあるいはクウガに変身さえしていれば数十キロ程度の道筋もそこまで時間はかからない。
 流石に18時までに街へと到着する事は不可能だろうが、このペースならば放送までに村雨の死地への到着は十分可能だろう。

 但し、ここで唯一変身能力を持たない良牙の存在がネックとなる。
 常人より身体能力があるとはいえそれはあくまでも比較対象が一般人との場合、プリキュアや仮面ライダー、あるいは怪人相手では大人と子供ぐらい能力差がある。
 手持ちにガイアメモリなど変身用の道具は幾つかあったが汚染等リスクを考えると不用意に使うわけにもいかない。
 それ故にキュアブロッサムに抱きかかえられて移動するという男としては非常に情けない体勢で移動する事となった。
 余談だが、先の戦闘で良牙自身もガイアメモリを使用はしているが、
 メモリとの相性の悪さやその戦いの際に仮面ライダーエターナル大道克己へと放たれたプリキュアピンクフォルテウェイブの余波を受けた影響で幸い汚染は無くなっている事を付記しておく。

 さて、実質ある程度フリーとなったが故に良牙はつぼみからi-podを借り、その中の音楽を確認していたのだ。
 というのも、その収録曲の中には自分達と関係のありそうな曲が幾つかあったからだ。
 つぼみと一条は呪泉郷である程度確認していたが、事情がありその場を一時離れていた良牙はその場にいなかった為、良牙はこのタイミングで確認しているのだ。


「しかしカセットテープいらずのカセットテーププレイヤーとはな……これも連中の技術か?」
「いえ、私の世界には普通にあります。というかカセットテーププレイヤーって……お母さんの時代ですよね……」
「住む世界が違う……いや、時代にも若干の違いがあるのかも知れないな……」
「言われてみれば……私から見ればガイアメモリはパソコンのUSBメモリみたいなものに見えますけど」
「私の世界のパソコンにはそこまで使われてはいなかったと思うが……」
「何言っているのか俺にはわからん……」


 i-podが現実に誕生したのは2000年代に入ってからであり、普及したのはそれから数年かけてである。
 それ故、良牙や一条にとってはガイアメモリ等、未知の技術が使わている道具と判断するのは仕方が無い話だ。
 またPCなどに使われるUSBメモリが爆発的に普及したのは2004年前後、故にこれについても良牙と一条が詳しく知らないのも無理からぬ話だ。そもそも良牙のいた年代はまだそこまでPCすら普及していないのだ。


「しかし本当に色々入っているな……」


 曲名を確認していくと『THEME OF GARO』、『牙狼(GARO)~僕が愛を伝えてゆく~』といった明らかに鋼牙の変身した黄金騎士牙狼を意識した曲が幾つかあった。
 また『仮面ライダースーパー1』、『Let's!フレッシュプリキュア!』といった仮面ライダーやプリキュアを意識した曲も数多く見られる。


「となると、『侍戦隊シンケンジャー』や『シャンゼリオン~光りの未来』という曲があるっつーことはシンケンジャーやシャンゼリオンって奴がいるってか」
「そういえばあのアヒルさんシンケンレッドと呼ばれていた様な……」
「じゃあソイツがシンケンジャーって事になるな……しかしなんでムースみたいなアヒルになってたんだ? 手が潰されていたって事は戦いに負けて呪泉郷にでも落とされたのか……」


 何にせよi-podの収録曲は参加者、つまり自分達に何かしらの関係のある曲という事は理解出来た。
 しかし曲名だけではわからないものも多い。
 例えば収録されている曲に『英雄』、『コネクト』、『REASON』等々があったがそれが何の曲かなど参加者にはわからないだろう。
 実際聞けば――いや歌詞の中にウルトラマンとか魔法少女とかテッカマンとか入っているならともかく、そうでないならば推測すら難しいだろう。


「(だが、恐らく主催側はその曲が何を示しているのか把握しているのは間違い無い……だとすればこれは恐ろしい事だ……)」


 一条は仮面の下で思案する。
 収録曲が全て参加者に関係するものならば、当然それを支給した主催側はそれを理解しているという事だ。
 参加者の個別情報、無論それは言うに及ばず――参加者の世界の全てを把握しているといっても良い。
 とはいえ、打倒すべき相手の強大さは今更考えるまでもない。それに仮に強大であったとしても自分達のすべきことに変わりは無いのだ。故にこれは現状さしたる問題では無い。


「(そうなると連中は知っていたという事になる……クウガが『仮面ライダー』の1人だという事を…)」


 確かに一条はこの場で自身の変身したクウガを仮面ライダークウガと自称はしている。
 しかしそれはこの地で散った五代が仮面ライダーと名乗ったのを受け継いだからであり、その五代が仮面ライダーと名乗ったのはこの地で耳にしたそのフレーズを気に入ったからだ。
 そう、本来ならばクウガが仮面ライダーと呼ばれる事はまずない事なのだ。


「(……まさか、我々の世界にも実は仮面ライダーが存在していたとでもいうのか? 遠い昔か、あるいは遠い未来か……そのタイミングで現れるというのか? それを連中は知っていたのか……?)」


 しかし、今それを思案しても仕方ないだろう。だが1つだけ安堵出来る事がある。


「(だが、これだけは間違い無い……クウガが仮面ライダーと認識されていたという事は……クウガは人々の笑顔を守る戦士だった……それだけは確実だ……)」


 仮面ライダー、その名を冠しているという事は、間違い無く人々を守る戦士だという事を意味している。
 そう、未確認生命体に近い躰の構造をしていても、一歩間違えれば未確認あるいはそれ以上の脅威ともいえる凄まじき戦士となりうる危険を孕んでいても、その本質はあくまでも人々を守る為の戦士なのだ。
 ならば――一体誰がその曲を作ったのかは知らないがその想いは決して裏切ってはならない。


「(そうだろう……五代……)」


 遠い地にいる盟友へと想いを馳せる中、良牙はi-podの中から幾つか視聴していた。


「ん……こいつは……つぼみ、これお前が歌った曲か?」
「え?」


 そう言って良牙はイヤホンを渡しつぼみに聞かせる。


「『innocent starter』……確かに何処かで聞いた声な気もしますけど……」
「いや、確かにつぼみに似ている。低い声で歌えばこんな感じじゃないか?」
「実際にやったことはないですし……そもそも自分の声であっても、こうやって聞くと違う風に聞こえる気が……でもこの曲全く見覚え無いです」
「じゃあコレは……」
「『MASSIVE WONDERS』……確かにさっきの曲と同じ人が歌っているみたいですけどこれも私じゃないですよ」


 ちなみに他にも何曲か同じ人、つぼみに声が似ている(正確にはその声を若干低くした様な)女性が歌っていると推測される曲があった事を付記しておく。


「何故……あれだけの曲の中から都合良く同じ歌手の曲を見つけられたんだ……?」


 そう口にする一条を余所に良牙はi-podの操作を続ける。


「!!」


 と、操作している手が止まる。


「ちょっと待ちやがれ……何の冗談だコレは……」


 i-podに示された曲名は……『乱馬とあかねのバラード』、曲名の時点で予想出来たが少し聞いただけでそれが当たっている事を確認した。


「何故乱馬の野郎とあかねさんが仲良くデュエットしているんだ!!」


 確かに早乙女乱馬と天道あかねは許嫁同士だ。だがこの2人が素直にデュエットするとは思えないのだ。


「許嫁という事は恋人同士だから別におかしくない様な……」
「そういう単純な話というわけでも無いと思うが……」


 そう呆れ気味にツッコむ2人を余所に


「ええいこんな曲聞いていられるか、次だ次!」


 そう思って選んだ曲名が『僕たちはこれから』である。


「ん……なんだこの曲……あかねさんと乱馬、それにシャンプー……」
「え、でも男の声なんて……」
「ああ、女になっている時の乱馬だな、それにかすみさんと……」


 歌っている人の声からあかね、らんま(女らんま)、シャンプー、あかねの姉の天道かすみ(と似た声の人?)が歌っているのは確認出来た、そして、


「!? この声……」
「つぼみ、何かわかったのか?」
「気のせいかダークプリキュアに声が似ている気が……いや、まさかそんな筈は……」
「どの声だ?」
「えーっと……今の辺りの声が……」
「ん……これどう聞いてもなびきじゃねぇか……?」
「似た声……ですか……」


 あかねの姉でかすみの妹のなびき(と似た声の人?)が歌っているのを確認した2人であった。


「聞くのは良いが移動中だという事を忘れないでくれ……近くに危険人物が潜んでいる可能性もあるんだぞ……」


 半ば呆れ気味にツッコム一条だった。


「ああ悪い」
「すみません、一条さん」


 確かに足早に移動しているとはいえ、奇襲が来ないとは限らない。周辺の警戒は怠るべきでは無い。


「そうだ一条、五代から聞いたんだが緑になれば周囲の様子がもっとわかるんじゃないか?」
「!! そうか」


 そう言ってレミントンを出して構える。


「超変身……」


 次の瞬間、青のクウガの色が緑となった。そしてレミントンも緑のクウガ専用武器ともいうべきボウガンへと変化した。
 緑のクウガの最大の特徴、それは他の形態を遙かに凌駕する感覚の鋭さである。
 それを利用する事で周囲の索敵を行うのだ。ちなみに超変身自体には道具を必要としないが、何かの時、すぐに仕掛けられるようにボウガンも構えたという事である(とはいえ、その方が意識を集中しやすいという理由もある)。


「……」


 しかし、弱点も無いわけではない。
 大幅に五感が強化されたという事は一度に得られる情報量も大幅に増加する事を意味している。
 その膨大な情報を処理するための負担が非常に大きくごく短時間、五代の力をもってしても50秒しか変身できないのだ。
 経験の足りない一条ならば変身可能時間はそれよりも短いと考えて良いだろう。


 3秒……6秒……膨大な情報が流れ込む。


「(ぐっ……これを五代は……)」


 人の少ないこの地でも甚大な情報量、人口の密集している都内で未確認生命体と戦う時に緑となったならばその数倍の情報が流れ込む。
 それを五代は何てことの無い顔で使いこなしていたという事実、驚愕せずにはいられない。


 10秒、


「!!」


 何かを感じた瞬間、青に戻る。消耗はしたが変身が解ける程ではない。


「すまない、少し寄り道をさせてくれないか?」
「ん? 何か聞こえたのか?」
「ああ……声が聞こえた……」
「鋼牙さんですか、それとも……」
「いや、少なくとも冴島ではない……正直、何て言っていたのかもよくわからない……そうだな……」


 一条にしては妙に歯切れが悪い、


「何処か泣いている……そう聞こえた」





PART.2 宝石



「おい、これは……」
「BTCS……ビートチェイサー、我々の世界のバイクだ」


 程なく3人はD-7のとある場所に辿り着いた。


「それにこの場所……もしかして」


 そう、目的地は彼等がバラゴと遭遇した場所、そこから数十メートル離れた場所だった。
 元々戦いを避けるためにその場所を離れたのだから、当初の予定ではそこを避けるつもりだった。
 しかし、一条の『泣いている声』がどうしても引っかかり敢えて突入を選択したのだ。
 幾ら戦地といえども人々の保護をおろそかにするわけにはいかない、それはつぼみ及び良牙も同じ考えだった。
 これにより放送までに村雨の所に到着するのは難しくなったが、その辺りは向かうと決めた時点で3人とも覚悟はしていた。


「となるとコイツを持っていたのは……」
「バラゴ、奴と考えて良いだろう」

 つまり流れとしてはこういう事だ、ビートチェイサーで移動していたバラゴは近くに一条達の存在があるのを察知、
 先手を打って奇襲を仕掛けるべく向かう際に、荷物となるビートチェイサーと多くの道具を置いていったという事だ。


「でも確かそれって何時間も前の話ですよね? それがそのまま残っているという事は……」


 繰り返すがバラゴへの対処はその場に残った相羽タカヤ、及び鋼牙が引き受けている。
 もし戦いを終えたバラゴが無事ならばこの場所に戻ってなければおかしい。


 数時間経った今も戦いは終わっていない?
 その可能性は低いだろう。その理由は戦闘可能時間にある。
 通常、鋼牙達魔戒騎士は99.9秒しかその鎧を纏う事が出来ない、それを超えれば鎧に魂を喰われてしまうのだ。
 つまり、戦闘可能時間がそれだけしかないという解釈で構わない(とはいえ鎧を纏わずとも素の戦闘技術も常人離れしている為、並の怪人クラスならば別に鎧を纏わなくても別段問題は無い)。
 但し、既に自身の魂を鎧に喰わせている暗黒騎士呀(キバ)はその制限を持たない。つまり、その時点で牙狼は圧倒的不利な立場にいることになる。
 鎧を解除し一呼吸置いてから再び纏ったとしても、トータルした上での戦闘時間は1時間もかからない。
 勿論、あの場にはタカヤのテックセットしたテッカマンブレードもいた(此方も時間制限はあるが一条達はそれを知らない)為、それだけで断定は出来ない。
 しかしそれを省みても既に数時間、ずっと戦闘が継続しているとは到底思えなかった。


「勝ったのか……鋼牙達は?」


 真っ先に考えられるのは戻るべき人物が既に戻れない状態、つまり撃破された可能性だ。いうなればバラゴが敗れ去ったという事だ。


「……無事に撃退している事を願いたいところだ」


 とはいえ3人とも今更楽観視出来るほどおめでたい頭はしていない。『バラゴの撃退=鋼牙達の無事』という意味にはなり得ないのだ。相打ちだってあり得るし、鋼牙達が敗北し、何かしらの理由でバラゴが戻って来ていないだけという可能性もあるのだ。


「とはいえ、これをこのままにする理由はないな」


 しかし、貴重な道具を捨て置く理由は無い。ビートチェイサーといった有用な道具を危険人物の手に渡すぐらいなら自分達の手に置いておく、あるいは破壊するべきなのだ。


「それにしても誰もいないな……本当にこの辺りなのか?」
「だと思ったが……」
「……もしかしたら参加者とは限らないのでは?」


 声の主が判らず途方に暮れる2人を余所につぼみがそう口にした。


「例えばシプレやシフォンが支給品扱いで誰かに与えられたとか……」
「確かに鯖も支給されている以上、あり得なくはないが……」
「なる程な、もしかするとムースの野郎が支給されていることも……」
「いや、幾らなんでもアヒルさんに変身するとはいっても人間を支給するなんて……」
「言ってなかったがお湯をかけても戻れなくする方法はある。その状態なら出来るだろ」
「何でもありですね……」


 そう話す中、


「声の主は支給品の可能性もある……そうか、そういう事か」


 一条は何かに気付き一点を注視し今一度緑となる。その時間僅か1秒、すぐさま赤に戻る。


「……そこか」


 だが、それだけで十分。その時間だけで見つける事が出来た。明らかに違和感を覚える『音』、緑のクウガならば見つけられる。


「……!」


 無言でデイパックの1つからそれを取り出す。


「一条……そいつは……」


 それは青い宝石を模したアクセサリーだった。何処か破損の見られる――


「なんでしょうか……?」


 それをクウガから受け取るキュアブロッサム、


「あの、貴方は何者……ですか……?」
「おいおい、いくら何でも宝石が喋るわけは……」


 だが、


「Fate... !? No , it is impossible , she is already dead. But , this voice is hers ...
 (フェイト!? いや、それはあり得ない、彼女は既に死んでいる。しかし、その声は彼女の……)」
「どーいう事だ? 誰か俺に判るように説明してくれ!?」
「……恐らく花咲君の声が彼(?)の知り合い……フェイト・テスタロッサに似ていたのだろう」


 突然声を発する宝石、その台詞が意外なものだった故に理解が追いつかない良牙に一条が解説をする。


「!? Are you Kuuga !?(!? 貴方はクウガか!?)」
「!? クウガを知っている……どういう事だ? まさか……」
「ちょっと待て、もしかするとこの宝石野郎……何か色々知っているんじゃねぇのか?」
「!! Are you ...(!! 貴方は……)」


 良牙を見て言葉を詰まらせる青い宝石、それを余所に、


「そうです。冴島さん達の事も気がかりですが、この宝石さんからも話を聞いてみないと……」


 そう口にしたキュアブロッサム、その言葉を聞き、


「!? The name of Kouga which killed Ms.Fate why comes out ?(!? なぜ、フェイトを殺した鋼牙の名前が出てくる?)」
「は!? 何言ってやがる、鋼牙がフェイトを殺したってどういう事だ?」
「そうです、そんなことあり得ません」
「それは間違い無い。冴島とはこの地に来てから数分の段階で私が出会った。それから彼女の名前が呼ばれた最初の放送までは殆ど一緒だったその彼に彼女を殺す事は不可能だ」


 正確に言えば冴島邸を訪れた時のみ、一条を外で待たせ、鋼牙だけが中に入っていった事があった。
 だが、その時間も十数分程度しかなく、何事も無かった様に戻って来ていた。
 その時に何かがあったならば外で警戒に当たっていた一条が気付かないわけもなく、最低でも何かしらの疑心を抱く。
 人知れずフェイトを殺したとしても、こういう証言が出るならば目撃者がいる筈。だが、鋼牙にも一条にも気付かれず冴島邸から抜け出す事など至難の業だ。
 故に、そのタイミングでもフェイトを殺したという事はあり得ないという事になる。


「大体宝石野郎、鋼牙がフェイトを殺した所を見たっていうのか?」
「No...Mr.Karune said that(いいえ……駆音さんが言っていました)」
「カルネ、誰だそりゃ」
「いや、冴島から聞いている……バラゴの偽名らしい。その龍崎駆音の本名はバラゴではないのか?」
「Yes...(はい……)」
「一条さん、ということは……」
「ああ、恐らくバラゴはこの青い宝石に偽の情報を伝えたのだろう。冴島が殺し合いに乗っている危険人物である事と……」
「ちっ……汚ねぇマネしやがって……おい、宝石野郎、テメェの知っている事を全部話せ、時間が惜しい、今すぐにだ」


 そう迫る良牙である。何しろ仲間をいきなり凶悪な危険人物されたのだ、その元凶が凶悪な危険人物である以上穏やかでいられるわけもなかろう。

「落ち着いて下さい、良牙さん。それよりも私からもお願いします、まず……貴方の名前から教えて下さい。何時までも宝石さんと呼ぶわけにもいきませんし」
「……宝石にまで『さん』付けする方もどうかと思うが……」
「Yes...I'm Mach Calibur(はい……私はマッハキャリバーです)」




PART.3 呪詛


 良牙達がマッハキャリバーから事のいきさつを聞いている間に読者諸兄にも説明をしておこう。
 今更語るまでもないがマッハキャリバーはスバル・ナカジマのインテリジェントデバイス、分かり易く言えば相棒だ。
 無論、この地においてもスバルはこの殺し合いを止める事を目指していた。

 だが、邪悪な存在にその純粋な願いは歪められた――

 そう、魔女の傀儡人形とされたのだ。その魔女の思うままに、彼女の意志とは一切関係なく陰惨な殺戮を強いられた。
 それどころか、最初に遭遇した少女を始めとし、ズ・ゴオマ・グ、鹿目まどか、本郷猛、池波流ノ介、そして、スバル自身の最も尊敬する高町なのは、彼等を傷つけ、殺し、その屍をその自らの血肉として取り込んだのだ。
 言うまでも無いがマッハキャリバーも彼女と共にその血塗られた道を進んだ。

 問題はこの後だ。この後、ある出来事により、マッハキャリバーは破損し無用の長物と判断され廃棄された。
 結果的にマッハキャリバーは支配から抜け出した形となる。
 その際に、高町なのはのインテリジェントデバイス、つまり相棒であるレイジングハートも廃棄された事を付記しておく。

 その後、破損を免れたレイジングハートは2度目の放送後、ある参加者と接触を果たす、その参加者こそバラゴ、あるいは龍崎駆音である。
 その際にレイジングハートはバラゴに自身が把握している範囲(吸収後~解放間以外)の状況を説明、それを聞いた上でバラゴは幾つかの嘘を伝えた。
 フェイト・テスタロッサは冴島鋼牙に殺された。
 ティアナ・ランスターは涼邑零に殺された。
 一方で相棒達を惨殺した元凶2人は今だ健在。
 これらは嘘ではあるが、レイジングハートにそれを判断する材料は無い。それ故、レイジングハートはそれを全面的に信じバラゴこと駆音に協力したのである。

 そしてその際にマッハキャリバーも回収された。もっとも、バラゴもレイジングハートも機能停止したと判断しただろうが――

 そう、最強クラスの未確認生命体ゴ・ガドル・バの攻撃で武器としては破損しても最低限の機能は生きていたバルディッシュ、

 同じ事がマッハキャリバーに起こらないとどうして言い切れる?
 多少の破損はあったがマッハキャリバーは健在、万全とまではいかないものの十分使用は可能だ。
 勿論解放された段階ではそれすらも停止していたかも知れない。だがバラゴの接触まで6時間以上、自己修復機能のお陰である程度は回復している。

 そう、バラゴもレイジングハートも気付く事無く、マッハキャリバーは両名の対話を聞いていたのだ。

 さて、ここまでの話を聞けばわかるが、マッハキャリバーはバラゴの発言の一部に嘘がある事に気付いていた。
 そう、前述の元凶2人の内の1人は既にこの舞台から退場済み、それを行ったのは自身なのだからわからないわけがないのだ。

 つまり、マッハキャリバーは気付いていたのだ。目の前のバラゴは味方ではない、レイジングハートを自身の目的、恐らく冴島鋼牙、涼邑零の抹殺に利用しようとしている事に。

 では、何故それをレイジングハートに伝えなかったのか?
 このままではレイジングハートが血塗られた道を歩む事になるのは十分予測できる筈だ、警告ぐらいはできただろう。
 バラゴに悟られ破壊されるのを恐れた? そうだろうか? しかし悪意による殺戮に利用されるぐらいならばまだ破壊された方がマシだろう。

 さて、移動の最中、バラゴは自身の身の上話をレイジングハートにしていた。それをデイパックの中からマッハキャリバーも一応聞いていた。
 その内容は要するにホラーと呼ばれる怪物に両親を殺され魔戒騎士となったという話だ。
 その真偽は重要では無い。そう、利用するつもりの嘘であっても、利用するつもりで敢えて真実を語ったとしても、そういう打算関係無しに真実を語ったとしても、真実は意味を成さないのだ。
 重要なのはその話を聞き、レイジングハートは彼に対する信頼を強め、鋼牙達に対する憎悪を増大させた結果だ。


『Kouga, I will never forgive you.(鋼牙。私はあなたを許さない)』


 その言葉だけはマッハキャリバーに深く刻み込まれた。決して消える事の無い記録(メモリー)に――楔が打ち込まれたと言っても良い。

 それは機械の発言とは思えない――憎悪の篭もった言葉に感じたのだ。

 以前、相棒とこんなやり取りをした事がある。


『Because I was made to make you run stronger and faster(私はあなたをより強く、より速く走らせるために作り出されましたから)』
『うん。でもマッハキャリバーはAIとはいえ心があるんでしょ、だったらちょっと言い換えよう。お前はね私と一緒に走る為に生まれてきたんだよ』


 そう、相棒は確かに言った、AIにも心はあると。
 生まれてから間もない自分にはそれがまだよくわからな『かった』が、年単位でなのはの相棒であるレイジングハートには間違い無くある筈なのだ。

 そう、明らかにレイジングハートはフェイトを惨殺した鋼牙に憎悪を抱いている。決して許しはしないだろう。

 同時にそれは――自分に向けられた言葉だと感じた。

 考えてもみれば当然だ――どんな事情があるにせよ、自分はレイジングハートの相棒を嬉々として奪いそれに何の疑問も抱かなかったのだ。
 レイジングハートがそれを許す道理があるだろうか、いや断じて無い。

 魔女によってその意志をねじ曲げられた? 事情があったから仕方が無い?
 違う、そんな事は最早レイジングハートには関係が無い。

 そうだろう、レイジングハートはバラゴの話だけで鋼牙の事情を一切把握していない。
 恐らくなのはならば鋼牙の話を聞いた上で判断したのは想像に難くない。平時のレイジングハートならばバラゴの話はバラゴの話として受け止め、鋼牙の事情も少しは気に掛けるだろう。
 つまり、それすら行わない程の強い憎悪だったのだ。もし鋼牙が何か言ったとしても、


『Cold head !!(頭を冷やせ!!)』


 と言って一切考慮しないだろう。

 それはそのまま自分にも当て嵌まる。いや、それ以上の憎悪と考えて良い。何しろレイジングハートにとってフェイト以上の存在を惨殺したのだからだ。
 操られていたから仕方ないなんて言えるわけも無い。身内だから甘く許してもらえるわけも無い。

 そう、レイジングハートに真実を伝えなかったのではない。
 伝える資格が無かったから伝えられなかったのだ。
 大体、伝えるといっても元凶の片方の生死だけだ、それだけ伝えて何になる? それだけで今更許されるわけないだろう?

 そしてバラゴはレイジングハートと共に戦いに向かった。自身はそれにどうする事も出来なかった。

 正直、最早どうして良いのか判らない――

 唯々、レイジングハートの言葉だけがリフレインした――

『Kouga, I will never forgive you.』
『Kouga, I will never forgive you.』
『Kouga, I will never forgive you.』
『Kouga, I will never forgive you.』


 それは何時しかバグが何か変質し――


『Mach Calibur, I will never forgive you.(マッハキャリバー、私は貴方を許さない)』


 自身に向けられた言葉となっていた――


『Mach Calibur, I will never forgive you.』
『Mach Calibur, I will never forgive you.』
『Mach Calibur, I will never forgive you.』
『Mach Calibur, I will never forgive you.』

 それは決して解ける事の無い呪詛の言葉――



『Mach Calibur, I will never forgive you.』


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最終更新:2014年03月03日 23:18