その1
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homuhomu_tabetai
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夕方、T久はM市の文化会館に居た。今朝J子に聞いた講演を聴くためだ。
J子は急用で来れなくなった。
親友の恋愛相談から逃げられなかったらしい…。たしか…K子という子だったかな…?
講演会場は会議室を少し大きくしたような…百人程度が入れる部屋だった。
テーブルとイスが並んでいて、それぞれ番号が振られている。
…まだ始まってないな。
T久はチケットの半券に書かれた番号の席に着いた。
『M市の歴史・展望・風習を知る』
入場の時に貰ったパンフレットのタイトルに目を落とす。どこにでもある文化講演の案内だ…。
「普通の講演だよね…。でもチケット…値段書いてなかった…。J子さんにお金が払えないな…」
「ほとんど満席だ…僕の居た街じゃ考えられない…」
T久は少し驚いていた。講演など聴くのは久しぶりだ。
会場内を見渡す。…少し違和感を感じた…。何人かと視線が合うのだ…。…気のせいか?
「…ん!? そろそろ始まるね。」
前方に注意を向ける。
まだ場内はざわついてるが、進行役が現れてマイクを調整しだした。
「えー、皆様、本日はお忙しい中… … …」お決まりの挨拶で講演は始まった。
「…それでは、M市の歴史文化にお詳しい○○先生にお話をお願いします。」パチパチパチパチ…
拍手に迎えられて壇上に現れたのは、人懐っこそうな顔をした初老の男性だった。
…どっかで見た…ような…?
「え~、ただいまご紹介にあずかりました○○です。よろしくお願いします。」
…講演が始まった。
それからしばらく、M市の歴史についての話が続いた。正直、T久には興味の無い話だ。
「…であるからして、江戸時代には…」「…と言うように、M市はこうして…」
…あくびをかみ殺した。
「…ふぁ…う…、J子さんには悪いけど退屈だなぁ…」
…眠くなってきた…でも寝ちゃったら、せっかくチケットをくれたJ子さんに悪いよね…
メガネを外して目をこする、そして背筋を伸ばした。隣のJ子の席は空いている…。
…トイレに行きたくなってきたなぁ…先に済ますの忘れてた…しまったなぁ…
…まだ話は続いている。根が真面目なのでT久は立ち上がるのを躊躇した。
…おや!? あれはなんだろう?
気を紛れさせようと周囲を見ていると、会場の後ろの出入り口付近に黒い物体を見つけた。
…なんだろう? 気になる…
入って来た時には無かったものだ。恐らく関係者か誰かが後から置いたのだろう。
…僕の席は後ろの方だし…幸い出入り口は近い…それにさっきから何人か出入りしているし…
…よし!! トイレに行くついでに見てみよう! …漏らす訳にはいかないもんね…
生理現象と欲望には勝てなかった。我ながら良い言い訳だと思う。
そっと立ち上がると出入り口に向かう。…もちろん誰からも注意は受けない。
…近づくとそれが何なのかわかった。それは黒い小さな箱を積み上げたものだった。
前を通り過ぎながら観察する…。近くに進行役が立っている…。
大きさはちょうど500mlの缶がすっぽり収まるぐらいの大きさだ。
『注意!! 他の皆様のご迷惑になる場合がありますので指示があるまで開封しないでください』 『振る・落とすなどの強い衝撃も同様です。中身を出すまではご自重ください』
…と書いてある。
…? …普通の箱だよね…? …何が入ってるのかな?
疑問に思ったが、立ち止まって進行役に聞くほどではない…。
…まさか爆弾!? …それはさすがに無いよなぁ…
とりあえず会場を出てトイレに向かった。
トイレは混んでいなかったのだが辺鄙な場所にあったため、T久は会場に戻るのに手間取った。
なんであんな場所に作るのかなぁ? 不便だよなぁ…
…まだ終わってないよね?
不満を感じながら戻ってきた。
…席に戻る…。
「…どこまで聞いたかわからなくなっちゃった…」
「…今は災害対策の話みたいだな…?」
「…ですので、M市はどんな大災害にも耐えうるようになっております…」
…それが本当ならいいなぁ…
「…それでは皆さん、ご静聴ありがとうございました。」パチパチパチパチ…
あ!? 終わっちゃった!? …まあいいか…
T久が戻ってすぐに話は終わってしまった。
…講師の名前…なんて言ったっけ? J子さんに聞かれたら答えられないとまずいよなぁ…
…あ!? パンフレットに書いて…ある!! …良かった…
…さて…と、お腹が空いたなぁ…なにか食べて帰ろうか?…
…J子さんは開放されたかなぁ? いつものことだからうんざりしてるだろうなぁ…
…後でポケベル鳴らしてみよう…携帯電話…欲しいなぁ…
などと考えていると、奇妙な事に気づいた。
…おかしいな…誰も出て行かないぞ!? …というより席も立たないって…?
会話が聞こえてきた…。
「…やっとだね!!…」「…ホント…ここまでの話は要らないのよね…」「…後ろにいつもの箱があるよ…」ザワザワ…
…どういうことだろう?
さらに会話を聞いてみる。
「…たま~に珍しいのが入ってるんだよね…」ザワザワ…
「…そうなんだけど、少ないよね…」ザワザワ…
「…おいしいらしいけど、気持ち悪いし…」ザワザワ…
「…だよね。でもちょっと興味が…」ザワザワ…
「…あの先生の講演はこれがあるからいつも来てるよ…」ザワザワ…
「…もうM市の名物先生だよね…」ザワザワ…
「…あ!? やっぱり来てたんだ!! いつものメンバーだから居ると思った…」ザワザワ…
T久は最初に感じた違和感がわかった。
そうか!! …たぶん…ここに居るほとんどの人が顔見知りで、そこに見慣れない僕が居たから見られてたんだ…
この人たちは講演を聴きに来たんじゃなく、その後にあるなにかを期待してるんだな…あの箱?
…J子さんもそうなんだろうか?
…珍しい? …おいしい? …なんだろう?
…そういえば…風習の話がまだだよね…
考えていると進行役の声が聞こえてきた。
「それでは今から箱をお配りします。お席についてお待ちください。指示があるまでは開けないで下さいね。」ガラガラガラ…
あの箱が配られ始めた。係員が一つ一つ丁寧にテーブルに置いていく…。
後ろから始まったので、T久の順番はすぐだった。…一応、J子の席にも箱が置かれた。
T久は箱を見つめた。
…これがここにいる人たちの待っていたもの…
さっきも見たけど、外側は特に変わったものじゃない…だけどこの注意書きが気になるな…
中に何が入っているんだろう…? まだ指示はないし…あ!? 上に、五円玉みたいなシールが貼ってある…
シールの下は…空いてるな…空気穴?
…軽くなら…振っても大丈夫だよね…?
…軽く振ってみた。
「…ホ…ホム…」 「!?」
箱の中から何か聞こえた!? 少し弱々しい…眠そうな感じの声だった。
T久は驚いた。そして周りを見た。
自分以外の参加者を…。
…注意書きは良く守られているようだ…。
じっと箱を見つめる者、無関心を装っている者、ニヤニヤしている者…様々だった。
…T久はもう一度、箱を見つめた。
…この声は…聞いたことがある…! M市に来てから聞くようになった鳴き声だ!!
…なぜ!? どういうことだ…!?!?!?
な ぜ …『ほむほむ』が これ に 入 っ て い る ん だ !?!?!?