その2
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homuhomu_tabetai
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T久は戸惑いを隠せない…。
今日はM市の歴史と文化の講演だったはずだ…
たしかにその話はあった…でもほむほむは出てこなかった…よな!?
なのに目の前にはほむほむ入りの箱がある…
ほむ種が居るのは全国でもM市だけだけど…
…「風習」…?
…まだM市に来て数ヶ月のT久には理解できないのも無理はない。
『全国を探してもM市だけにしかほむ種がいない』
この事がM市に連綿と続く文化の、最大の重要性を秘めていることを…。
「それでは皆さん、箱をお開け下さい。乱暴に開けると逃げられる恐れがありますので…」
いつの間にか全てのテーブルに箱が配られていた。進行役がマイクに向かって喋っている。
T久も思い切って箱を開ける…。
「…ホ…ムー…」Zzz…
透明のプラスチックカップに入り、眠っている若いほむほむの姿があった…。
暗い箱の中にずっと居た為に、もう夜と勘違いしたのだろうか?
…足を前に投げ出し、カップにもたれて眠っている様子はかわいらしいとさえ思った…。
…あの仔に…似てるな…
T久はさっきまで感じていた疑問を忘れて見つめていた…その時!!
「ホギャアアアアアアァァァァァッ!!!!!!」
突然、叫び声が響いた…。
ハッとしてT久は叫び声がした方を見た。自分のすぐ前の右側の席だ。そこには…。
…小柄な女性の左手につかまれて…口を開け、白目を剥いているほむほむが居た…。
…ほむほむの右腕が…あらぬ方向を向いている…。
その叫び声を皮切りに…。
「ホビャアアアアアアアァァァァッ!!!!!!」 「ホギイイイイイイイィィィィィ!!!!!!」
「ガミ゙イイイイイイイィィィィィ!!!!!!」 「マドギャアアアアアアアァァァァァッ!!!!!!」
「ザギャアアアアアアアァァァァッ!!!!!!」
「マギャアアアアアアアァァァァッ!!!!!!」
「ホムラジャアアアアァァァァァッ!!!!!!」
「ヴゼェエエエエエエエェェェェッ!!!!!!」 「シヌシカナイジャナイイイイイイイイィィィィィ!!!!!!」
………
…………
会場内のあちらこちらからほむほむ達の悲鳴が上がりだす…。他のほむ種も居るようだ。
「…熱湯も用意してますので気をつけてお使いください。食べられる方は食べる前に必ず熱湯消毒をお願いします…他にも…」ワイワイガヤガヤ…
…なんだこれは!?!?!?
…なにがどうなっているんだ!?!?!?
T久は混乱した…。考える…。
…ほむほむ達を…虐待している…のか!?!?!?
…正解に辿り着いた。
いくら数ヶ月しか経ってないとはいえ、T久も『ほ虐』という言葉は知っている。
M市に来てから聞いた言葉だ。自分の地元にはない言葉だったのでなんだろうと思っていた…。
友人に聞くと即答された。
…自分にはそんな趣味はない…そう思い、それっきりだった。
ほむほむ達を見かけても「ほむほむがいるな」ぐらいにしか思わなかった。
虐待するどころか、弱ったほむほむには餌をやることもあった…。
餌がなくなると騒ぐが、無視しているといつの間にか居なくなる。
T久自身に、ほむほむ達が『小動物の仲間』という認識しかなかった。犬や猫と同じである。
M市に来てからも、ほ虐の現場には『幸か不幸か』居合わせなかった…。
…かなり稀なケース…天文学的な確率だろう…。
…その強運はT久の子どもに引き継がれる…彼らの子どもは世にも稀有な存在になるかもしれない…。
…それはまた違うお話である…。
もちろんJ子もT久の前ではまだ、ほ虐はやっていない…。
その辺りは女心であろう。…好きな相手に嫌われる可能性はゼロではないのだから…。
唖然としているT久に近づいてくる人物が居た…。
「今日は私の講演に来てくれてありがとう。君の事はJ子君から聞いているよ。」
「彼女は来てないんだね? なにか用事ができたのかな? 必ず行きますって言っていたから来てるものだと思ってたんだが…。」
「あ! 彼氏に誤解を与えちゃいかんな。彼女は私の大学の講義の生徒でね。いつもほ虐文化について熱心に質問されるんだよ。」
「その縁で、私が講演する時はほとんど来てくれてね。いつもはチケット一枚なのに今日は二枚って言ったから、おやって思ってね…。」
「彼氏でも連れてくるのかい? って聞いたら『そうだよ! 先生に似ていい男だよ!』って言われたよ! …うんうん、なるほどなるほど。」ワハハハ
T久は訝しげな顔をして講師の話を聞いている…。その間も悲鳴は途切れることはない…。
講師はT久の様子に気づいたのか、話題を変えた。
「君は『ほ虐』と言う言葉は聞いたことがあるかね? …そう、正に目の前で起こっていることがそうだ。」
「全国どこを探してもこれはM市にしかない文化だ。M市が誇る歴史的財産と言ってもいいかもしれん。」
「なぜか全国的には知られていない。理由はわからん。特に隠してはいないんだがね。」
…なぜこんなことをするのか?
少し毒気を抜かれたT久は聞いてみた。
「…そうだね…少し考えてみて欲しい…。君の生まれた街の米屋がネズミの被害にあった。米屋はネズミを殺した。…追い出したでもいいな。」
「あるレストランは客からゴキブリが出たとクレームを受けた。経営者はすぐに害虫駆除業者に駆除してもらった。」
「なぜか? 理由は簡単だ。昔からそれはそういうものなんだと認識されているからだ。そういう存在なんだと。」
「それは君も認めるはずだ。そこにネズミがいるから駆除する。そこにゴキブリがいるから殺す。追い出す。それを不思議なことだとは思わんだろう?」
「逆に、人間の中にはドブネズミを見てかわいいと言う人も居るし、ゴキブリを飼う人も居る…少数派だがね。」
「全国どこにでもネズミもゴキブリもいる。基本的に彼らは害獣害虫と認識されている。」
…ここで講師はひとつ咳払いをした。
「M市の人間にとって、ほむほむ達も同じだ。昔からほむほむを見てきている…。そういう存在なんだと。」
「ほむほむに倉庫の米を食べられた。まどまどに家の中の食べ物が荒らされた…。」
「…害獣だ。どうする? …もちろん駆除するだろう? もしかしたら人によっては捕まえて飼うかもしれないな。」
「ただ、ネズミやゴキブリとほむほむが決定的に違うところがある。それはなにか…。」
「彼らは駆除されるべき存在なのに感情と言葉を持っているんだよ。それがすばらしい文化を花開かせた。」
「人間のように喜怒哀楽がある。その為に先人は、ほむほむの扱いに様々なバリエーションを考えついたんだ。」
「それが『ほ虐』の元となって今日に至っている。ここまでいいかな?」
「しかも美味だということに私は気づいた。だから私の講演では『ほ食』ということも試し始めた。今後『ほ食』を広めようと思っている。」
T久は黙っている…。
なるほど…一理ある説明だ…
ネズミやゴキブリが家に出たらどうする?
僕が選ぶ答えは一つだ…迷わず退治する…食材に被害が出るなんて考えたくもない…
ほむほむでも同じ? …彼らはちょっとした隙間から侵入してくる…外から土足のままで…
彼らは靴のようなものを履いているけど脱がない…脱いだらそこから腐ってしまうかららしい…
衛生的には良くないな…そして食べ物やゴミ箱をあさる…え!? …食べられるのか?
「…百聞は一見にしかず…だよ。あー…そういえば、まだ名前を聞いていなかったね?」
T久は答えた。
「それじゃあT久君、試しにやってみるといい。君が持っている箱にも入っているだろう?」
…箱の中を見る…。
仲間の悲鳴で目が覚めたのか、ほむほむは目を覚ましていた…いや覚ますどころではなかったようだ。
「…ホ…ホム? …ホム? …」
何が起こったのかわからないほむほむはしゃがみこみ、震えていた…。
ほむほむの震えが箱を持っている手にも伝わってきそうだ…。
目には涙を浮かべて、ぽっかり開いた天井からのぞくT久の顔を見つめている…。
…そっと手のひらに箱を傾けた…。
「ホムッ!?!? ホムホムーッ!!!!」
スルスルっとほむほむが滑り落ちてきてT久の手の中に納まった。…無様な格好を晒している。
「さあ、T久君。そのほむほむは君のほむほむだ。君の自由にするといい。」
「…ここでは当たり前のことなんだ…誰も…何も言わない…。」
…初老の悪魔が囁きかけた…。
…会場内の異様な空気にも影響されたのかもしれない…。
…何か熱いモノが胸の奥から湧き上がってくる…。
この気持ちの昂ぶりは…彼女が初めて泊まりに来た時に感じたモノと似ている…。
「…ホム…ホムホム…」ビクビク…
…ほむほむは動けない…T久のただならぬ気配に圧倒されてしまっているようだ…
…ゆっくり手に力を入れる…ゆっくり…ゆっくり…ゆっくり…。
「ホムッ!? ホムッホムッ!!!!」ジタバタ…
…徐々にほむほむに圧力がかかってゆく…。
「…ホムッ!!!! …ホムッ!!! ……ホッ!!! …」ギュウ…
一気に力を込めた!!
「ホギャッ!!!!!!」ブチュッ
…ほむほむは短い悲鳴を上げて潰れてしまった…。
T久は初めてほむほむをこの手にかけた…。
…T久は一生忘れないだろう…
…ほむほむを掴んでいた感触を…
…助けてと懇願するような目を…
…息ができなくなり喘いでいた口を…
…自分の手の中で潰れた瞬間の表情を…
…初めて感じる…この開放感にも似た気持ちを…なにかがT久の中で弾けた気がする…
「…初めてのほ虐おめでとう、T久君。」パチパチパチ
「…はい…ありがとう…ございます…」
…他人の声の様な気がした…まださっきの余韻から抜け出せない…。
「…一気に握りつぶし…か。ここで初めてほ虐をやる人間のほとんどは、手足を折るか踏み潰すかなんだが…珍しいね。」
「…しかし、反応は同じだね。安心したよ…。誰でもそうなるんだ。」
「これで君も本当の意味でM市の一員になった。ようこそM市へ!! 歓迎するよ!!」
…T久は手を見つめている…ほむほむを潰した手を…。
講師は続ける。
「そういえば君もあの大学の生徒だってね? チケットを渡す時にJ子君から聞いたよ。私に会わせたいが今まで切り出せなくて、ともね。」
「今回は思い切って誘ってみたって言ってたな。…本人はいないがね。…どうだろう…君が良ければ、私も色々教えてあげることできるだろう。」
「それにJ子君も君と一緒に居る時間が長くなって喜ぶだろうね。そうなれば…あんまり私に熱々ぶりを見せつけないで貰えたら助かるよ。」ワハハハハ
大きな笑い声を聞いてT久はこちらに還ってきた…。
「…あ!? は…はい! こちらこそよろしくお願いします!」
ありきたりの返事が出た…。
「じゃあ私はこれで…。『ほ食』の実演をやらなきゃいけなくてね…まだまだ食べる人は少なくて…。助手が居れば助かるんだが…」フゥ…
「…また大学で会うのを楽しみにしているよ。あ、そうそう。J子君にも持って帰ってあげなさい。」
「マドドオオオオッ?????? ホムラチャーンッ??????」
こちらの箱の中はまどまどらしい…何が起こっているのかわからない不安と恐怖に駆り立てられて泣いているようだ…。
一番幸せなまどまどだろう…今は…。
T久は講師に礼を言うと会場の出入り口に向かう。
「…めがほむげっと~…」「…ゆまゆま…だと!? …」「…かみかみだ…いらないや…」
会場内はまだ騒然としている…。T久は会場を後にした…黒い箱を片手に…。
ホールに出ると公衆電話を探す…あった!! 駆け寄る。
テレカを挿して番号を押す…指が覚えている…。
…ポケベルにメッセージを送る…。
『イマカラアエナイカナ?ヘヤデマッテル T』
送り終えるとT久は自宅に向かって走り出した…なんともいえない気持ちと共に…。
…長い夜になりそうだ…。
いつの間にか、まどまどは泣き止んでいた…。
翌朝…静かな道を連れ立って歩く男女の姿があった…。
…行く手には花壇がある…。
…その中に…花を集めている小さな影が見えた…。