その1
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homuhomu_tabetai
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601 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)[sage saga] 投稿日:2011/09/08(木) 23:17:41.08 ID:gfrY6aEe0
世界はとっても広くて……
野良仔りぼ「ホミュ……」
世界はとっても怖くて……
野良仔りぼ「ホミィィ……」
こんなボロボロの羽じゃ、あの広くて青い空も飛べないけれど……
野良仔白まど「ホミュラチャーンッ!」
野良仔りぼ「ホミュ? ホミュッ、ミャロカーッ!」
……大好きな白まどと一緒なら、りぼほむは元気です。
野良仔りぼ「ミャロカァ///」スリスリ
野良仔白まど「ホミュラチャァン///」スリスリ
その仔りぼほむが羽を失ったのは、産まれて間もない頃だった。
川にほど近い廃屋の床下を巣にしていた群が、彼女が属する集団であった。
ほむほむやまどまど、あんあんやさやさや、まみまみだっている、典型的なほむ種の集団。
小動物が生き抜くには過酷過ぎる野良と言う環境下、力を合わせる事で生き抜いて来た者達。
河原できゅうべえや草、虫を捕って食糧として、毎日を平和に過ごしていたハズだった。
だが、数日前、彼女が産まれたその日の夜に降った大雨で、群も巣も、呆気なく壊滅した。
飛べるりぼほむ、まどまど、白まどすら対応できない突然の濁流の原因は、
川と住宅地を仕切る堤防から、氾濫した僅かな水が、廃屋に向かって流れ出したためだった。
床下を一気に覆い尽くす濁流の中、産まれてまだ間もなく、飛び方すら知らなかった仔りぼは、
濁流に呑まれ、もみくちゃにされる中、濁流によって羽をもがれた。
世界に生まれて数時間と言う短い間に、絶対の死を意識したりぼほむは、
しかし、母であるめがほむの手によって助けられた。
野良親めが「ホムゥ……」
野良仔りぼ「ホミャァァン、ホミャァァン」
石にでもぶつけたのか、片方のガラス皮膜が割れた顔で、穏やかに微笑む母は、
羽を失った痛みで泣きじゃくる我が仔を抱え上げ、めがほむは泳げもしない身体を必死で浮かべ、
ただ、濁流が過ぎ去るのを耐え続けた。
そして、最初の濁流が過ぎ去り、我が仔を抱えためがほむは這々の体で床下から廃屋へと上がり、力尽きた。
野良親めが「ホ……ム、ゥ………」……パタリ…
野良仔りぼ「ホミュ……ホミィィ……?」
野良親めが「――――」
野良仔りぼ「ホミィィ……ホミィィ……ホ、ホ、ホミャァァァ……」ポロポロ
死を覚悟した僅か数十分後、母の力で生き延びたりぼほむは、目の前で母の死を経験した。
野良仔りぼ「……ホミィ……」
泣き腫らし、体力の殆どを使い果たしたりぼほむは、
野生にほど近い生存本能に従い、我知らず内に、母の髪の毛を噛み千切っていた。
野良仔りぼ「ホミュッ……ホミュッ……」ムシャ……ムシャ……
越冬の間、栄養の枯渇しかけたほむほむ種にとって、
己の、そして死んだ仲間達の髪の毛は重要な栄養源である。
死の恐怖、死の哀しみすら押し退けた生存本能は、
母の髪を食らうと言う最悪の結果に結実しながらも、
だが確かに、か弱き仔を生き存えさせた。
野良仔りぼ「ホミャァァ……」ポロポロ
我に返り、涙を流す仔は、変わり果てた親の姿に涙した。
産まれて間もなく見た母は、とても美しかった。
野良親めが『ホムホムゥ……』
優しい笑顔を浮かべ、姉妹達と共に自分を抱きしめ、柔らかな手つきで撫でてくれた。
羊水で濡れた身体を拭ってくれた髪の毛も柔らかで、本当に美しかったのだ。
野良親めが「――――」
決して、今、目の前にあるような、無惨に食いちぎられたバラバラの長さの髪の毛などでは、なかったのだ。
野良仔りぼ「ホミャァァァァァァン」
りぼほむは、吠えるように泣いた。
母への罪悪感に苛まれながら、泣いた。
そして、りぼほむは、独りになった。
野良仔りぼ「………ホミィ……」
独り生き残った幼いりぼほむに出来る事は、僅かな餌を求めて河原を放浪する事だけだった。
幸いにも餌場となる河原は、雨が止むと翌日には元の姿を取り戻していた。
上流にある山から運ばれて来た肥沃な土には多量のきゅうべえが含まれ、
大雨の後に晴れた空は雑草の生育を促し、小さなな雑草を食べる事も出来た。
食う事には事欠かないこの河原で、りぼほむは生きる事となった。
たった独りで。
野良仔りぼ「……ホミュホミィィ……」
夜になり、本来のねぐらである廃屋の床下を捨てたりぼほむは、
河原に流れ着いた流木の洞を新たなねぐらとした。
前のねぐらには、今も多くの仲間達の死体が転がっていた。
あんな場所では、安らかに眠る事すら出来ない。
ただでさえ、まだ母の死と、自らの作り出した凄惨な光景が目から離れないのに……。
野良仔りぼ「…………ホミィィ………」ポロポロ フルフルカタカタ……
群やつがいを成すほむ種にとって、最大の脅威は孤独である。
産まれたばかりの幼い仔であろうとも、自力で餌を採る事は出来る。
土の中から微生物を見付けて口に含み、雑草の葉を噛み切る力など、元より備わっている。
そうでなければ、野生の中では生きていけないからだ。
産まれたばかりの仔馬が立つのが当然であるように、
産まれたばかりのほむ種の仔も、餌を採れなければ生きていけない。
しかし、ほむ種は人間に近い精神と社会性を持ち、人間以上の協調性と同種への思いやりを持つが故に、
孤独は耐え難い恐怖なのである。
命を繋ぐ事が出来ても、魂を繋ぐ事は出来ない……と言って理解していただけるだろうか?
我々人間が独りきりの時に抱く以上の孤独を、産まれてたった一日の幼いりぼほむが味わっているのだ。
その恐怖と絶望は、我々人間の想像の及ぶ範囲ではないだろう。
野良仔りぼ「ホミュ、ホミュゥ……ホミィィィ………」ポロポロポロポロ
加えてこの幼いりぼほむは、命を散らしてまで自分を助けてくれた母の髪を食い荒らした罪悪感に苛まれている。
おそらく、彼女の魂が保つのは、あと数日か……もしかしたら、今日にでも。
そして、魂を失った肉体は、いつか命を手放す。
その時だった――
野良仔りぼ「ホミャ……?」
大きく穿たれた洞の外を、小さな光が過ぎった。
突然の光に、泣くのを止めたりぼほむは、洞の外に顔を出した。
星空の下に、さらに明るく、ふわりふわりと漂う地上の星空とも言える光景が目の前に広がっていた。
そう、夜光虫の群だ。
野良仔りぼ「…………ホミュゥ……」
一匹の夜光虫が、りぼほむの近くを掠めるように飛んだ。
野良仔りぼ「ホミャ!?」
驚きながらも、幻想的なその光に魅入られたりぼほむは僅かな間、孤独と罪悪感を忘れる事が出来た。
りぼほむは、誕生の直後に目の当たりにした残酷な死の夜に続いて、光輝く生命の夜を目の当たりにした。
それが彼女にとって不幸だったのか、それとも幸運だったのかは、我々の知る由ではない。
だが、気付く、数匹の夜光虫が川岸の辺りで固まっている事に。
それだけは、間違いなく幸運であっただろう。
野良仔りぼ「……ホミャ?」
怪訝そうに洞から這いだしたりぼほむは、夜光虫達が屯する川岸へと走った。
野良仔りぼ「ホミュホミュ……」トテテテ……
そこにあったのは、川岸に打ち上げられた広葉樹の枝だった。
大きく、無数に枝分かれしたそれに群がっていた夜光虫が、りぼほむに気付いてゆっくりと散る。
りぼほむには眩し過ぎた光が和らぎ、淡い黄緑色の光が、広葉樹の影を照らした。
野良仔白まど「…………」
野良仔りぼ「ミャ、ミャロカ……?」
そこにいたのは、自分と同じようなボロボロの羽を持った、一人の幼い白まどだった。
これは、羽を無くしたりぼほむと、白まどの物語………