その2
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homuhomu_tabetai
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661 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)[sage saga] 投稿日:2011/09/10(土) 23:48:15.27 ID:QUiUd9MK0
野良仔りぼ「ホミュッ、ホミュッ」
りぼほむはねぐらである流木の洞と川岸を何度も往復していた。
小さく幼い掌には、溢れるほどの、だが僅かすぎる水。
走れば走るだけ掌は揺れて、水が零れる。
野良仔りぼ「ミャロカッ!」
ごく僅かに残った水を持って、ねぐらに入る。
野良仔白まど「ミャ……ロ……」
ねぐらには、先ほど担ぎ込んだばかりの、死んだように眠る白まどの姿。
僅かに上下する胸と苦しそうに吐き出す呼吸だけが、彼女が生き繋いでいる証だった。
野良仔りぼ「ホミュ……ミャロカ……」
苦しそうに呼吸を吐き出す口元に掌を寄せ、ごく僅かに残った水を流し込む。
野良仔白まど「ミャ…リョ……」
野良仔りぼ「ホミィィ……」ポロポロ
だが、弱り切った白まどはその水を飲み込む事が出来ず、
首を傾ぐだけで口から水がこぼれ落ちてしまう。
野良仔りぼ「ミャロカ……………ホミュッ!」
僅かな逡巡の後、りぼほむはまた川岸へと向けて走り出した。
普通の野生の生命ならば、弱り切った個体は見捨てるべき対象……いや、足かせでしかない。
だが、ほむ種の本能に、仲間を見捨てると言う思考は決して存在しない。
足を失った仲間がいればその仲間の足となり、腕を失った仲間がいればその仲間の腕となる。
目から光を失えば目となり、耳から音を失えば耳となり、仲間を失った仲間のために仲間となるのが、ほむ種の本能だ。
生き繋いだばかりの幼い命を、その力を、生死の境をさまよう白まどのために振り絞るりぼほむ。
野良仔りぼ「ミャリョキャァ……ミャリョキャァ……」ポロポロ
その姿の、何と愚かで、何と美しい事だろうか。
野良仔白まど「………ミャ…ロ……」
あれから何度、ねぐらと川岸を往復しただろうか?
横たえられた白まどの周囲には、小さな水たまりが出来るほどの水が零れていた。
野良仔りぼ「ミャリョキャァ……ホミャァァ、ホミィィ……」ポロポロ
泣きながら、死に瀕した“仲間”の名を呼ぶりぼほむ。
だが、反応はない。
今、掌にある水も、彼女は飲み込めずに零してしまうだろう。
そして、それは咄嗟の行動だった。
野良仔りぼ「ホミュ……ホミュミュンッ」
りぼほむは、水を口に含み、自らの口を白まどの口に押しつけ、無理矢理に水を流し込んだ。
仲間を守る事に特化したりぼほむだからこそ、そこに思考が帰結したのか、
それが、連綿と受け継がれた野生の知恵だったのかは分からない。
だが、りぼほむが正解を導き出したのは、紛れもない事実だった。
幸いにも、白まどは水を嚥下する。
野良仔りぼ「ホミャ……ミャロカ!」
その光景に安堵と歓喜の声を上げるりぼほむ。
りぼほむは幾度かそれを繰り返し、白まどの呼吸が安定して来たのを確認すると、
疲れ果てたように眠りについた。
翌朝、遠くで鳥の鳴く声を聞きながら、りぼほむは目を覚ました。
野良仔りぼ「ホミュ……」
目を覚ますと、そこには目を覚ました白まどの姿があった。
野良仔白まど「ミャロ……ミャロ……」
せわしなく辺りを見渡す白まどは、母の姿がない事に気付くと、すぐに泣き始めた。
野良仔白まど「ミャリョォォォォ……」ポロポロ
そこでりぼほむも気付く。
嗚呼、目の前の白まども、自分と同じなのか、と。
野良仔りぼ「ミャロカ……ホミュゥ……」
野良仔白まど「ホ、ホミュリャチャン……ミャリョォォ……」ポロポロ
りぼほむが本能的に抱きしめると、白まどはその胸にすがって泣きじゃくった。
恐らく、彼女も生まれて間もないのだろう。
そして、傷の様子からして羽を失ってからも間もない。
野良仔りぼ(ホミュゥ………ホミュン)
守らないと。
自分が、彼女を、守らないと。
その決意が固まるのに、然したる時間は必要なかった。
生まれたばかりの幼い仔同士、失った羽と、仲間と、母。
似た境遇でありながら、りぼほむがその決意を固める事が出来たのは、
やはり、彼女がりぼほむだからであろうか?
野良仔りぼ「ミャロカ!」
野良仔白まど「ホ、ホミュラチャン……ミャリィィ……」
りぼほむは白まどを引き剥がすように離れると立ち上がり、さらに、その手を握って、洞の外へと這い出る。
野良仔白まど「ミャリィィ………」
野良仔りぼ「ホミュ、ミャロカ、ホミュホミュッ」
俯いたままの白まどに、りぼほむは顔を上げるように促した。
野良仔白まど「………ミャロ……、……!」
哀しみの中、顔を上げた白まどの目に飛び込んで来たのは、広大な河原だった。
朝日を反射して輝く水面。
爽やかな風が駆け抜け、土と草と水の匂いが身体を満たす。
まだ、増水による被害の爪痕は残されていたが、それでも、目の前に広がる河原の景色が、白まどの心を打った。
野良仔白まど「ミャロ……」
野良仔りぼ「ホミュホミュ……ホミュミュ」
昨夜、自分が見た幻想的な夜光虫の光景には敵わないだろうが、
その光と匂いには、確かに、命の鼓動が感じられた。
それは、自分たちが今、ここに生きている、確かな証。
野良仔りぼ「ミャロカッ!」
野良仔白まど「ミャ、ミャロ!?」
大きな声で呼ぶと、白まどは驚いたように自分に向き直ってくれた。
それを確認して、りぼほむは笑みを浮かべる。
野良仔りぼ「ミャロカ……ホミュ、ホミャホミュゥ」スリスリ
野良仔白まど「ホ、ホミュラチャン……///」
親愛の情を表す頬ずり。
困惑する白まど。
だが――
野良仔白まど「ミャ、ミャロ……ホ、ホミュラチャァン///」スリスリ
仲間の与えてくれる温もりと親愛の情に、白まどは応えた。
野良仔りぼ「ホミュゥ……ミャロカァ///」スリスリ
野良仔白まど「ミャロォ……ホミュラチャァン///」スリスリ
二人は頬をすり合わせながら、確かな温もりを感じていた。
野良仔りぼ「ホミュゥ……///」スリスリ ポロポロ
野良仔白まど「ミャロォ……///」スリスリ ポロポロ
目の前で母と仲間を失い、もう二度と味わえないと思っていたそれに、我知らず内に涙を流しながら。
その日、つがいと呼ぶにもまだ幼い、たった二人だけの群が生まれた。