169 :名無草 :2007/05/09(水) 07:16:00.98 ID:1cT.0Oo0
泣き止んだ“男”の肩は小さくて、なんだか守ってあげないといけない気にさせられた。
「うわ、目、真っ赤だよ」
とりあえず顔を洗わせて、少しはマシになったけどそれでもまだ赤みがかっている。
まぁ、この際細かいことは放っておこう。
「それじゃ、いこっか」
踵を返してドアノブに掛けられた“男”の手は、けれどなかなか動かない。
「どうしたの?」
振り返って“男”が言う。
「だって……」
なんだってこういうとき、吹っ切れないんだろうなぁ男ってやつは!!
「ほら、とっとと腹括りなさい」
“男”の後ろにあるドアノブに手を掛けて一気に開ける、と同時にコイツも押し出す。
「わ、ちょ、ちょっと待ってよ」
十分に待った、もう待ちくたびれた。
「もう待たない、さっさと済ませてきなさい」
泣き止んだ“男”の肩は小さくて、なんだか守ってあげないといけない気にさせられた。
「うわ、目、真っ赤だよ」
とりあえず顔を洗わせて、少しはマシになったけどそれでもまだ赤みがかっている。
まぁ、この際細かいことは放っておこう。
「それじゃ、いこっか」
踵を返してドアノブに掛けられた“男”の手は、けれどなかなか動かない。
「どうしたの?」
振り返って“男”が言う。
「だって……」
なんだってこういうとき、吹っ切れないんだろうなぁ男ってやつは!!
「ほら、とっとと腹括りなさい」
“男”の後ろにあるドアノブに手を掛けて一気に開ける、と同時にコイツも押し出す。
「わ、ちょ、ちょっと待ってよ」
十分に待った、もう待ちくたびれた。
「もう待たない、さっさと済ませてきなさい」
184 :名無草 :2007/05/09(水) 22:38:52.56 ID:1cT.0Oo0
居間に出て、やはり“男”は押し黙っている。
「……どうも」
“友”の、どこまでも無関心な挨拶が聞こえる。
そうして訪れる沈黙。
空気が思い……。
“男”は一層深く黙り込む。
このままじゃ埒が明かない。
「この子ね、“男”なのよ」
驚いてこっちを振り向く“男”、“友”は訝しむように目を細めている。
「え、ちょ、“女”?」
間抜けな声を上げる“男”はこの際無視しよう。
「昨日の朝からずっと一緒に居るけど、まず間違いないわ」
その言葉を受けて、“友”の視線は“男”に向けられる。
「本当、なのか?」
“男”は儚げな動作で頷く。
“友”は考え込むように俯いて、
「駄目だ、そんなことは信じられない」
――こいつは、何を言いやがった?
今の“男”にそれ以上辛い言葉は無いっていうのに、よりにもよってアンタの口から!!
声を上げようとして、
「たとえ本当だとしても、今すぐにはな」
その言葉に遮られた。
185 :名無草 :2007/05/09(水) 22:40:36.53 ID:1cT.0Oo0
「え?」
不意を突かれたような“男”の声。
「どういう意味?」
多分、今私は眉を顰めているだろう。
「“男”が今何をしてるかは知らない、つまりあんたが“男”かどうかは知らない。
もしあんたが本当に“男”なら、そのうち信じるんじゃないか?」
……分かりにくい奴だ。
つまりは、
『一応“男”として接するけど、まだ信じたわけじゃない』
そう言いたいんだろう。
素直じゃない、遠まわしったらない、こいつはこんな言い方しかしない。
それだけを聞けばどこまでも冷たく聞こえるかもしれない言葉。
だから私はこいつが嫌いなんだ。
「だってさ」
“男”へと言葉を投げかける。
「うん」
“男”もその辺りは分かっているだろう、無関心なその言葉の本当の意味を。
「“友”、ありがとう」
そう言葉を漏らす“男”。
「何で礼なんか言ってるんだよ」
そっぽを向いて言う“友”。
良いタイミングでご飯を運んでくるお母さんと叔母さん。
そうしてみんなで朝食のような昼食のようなご飯を食べて、
お母さんと叔母さんの二人は仕事があるらしくそのまま出て行ってしまった。
186 :名無草 :2007/05/09(水) 22:41:49.84 ID:1cT.0Oo0
その後私と“男”に“友”、それと従妹の“妹”ちゃんの四人で話をして、
昼前に出て行った二人と、お父さんと叔父さんも帰って来ず空腹に耐えかねていると、
『あ、“女”? 私たち今日は遅くなるから、晩御飯は自分達でなんとかしなさい』
と電話があった。
仕方なく私と“友”で晩御飯を作ることにした。
……にしても、何で“友”は私より料理上手いのよ!!
“友”曰く、
「お前が面倒臭がってやらないからだろ、毎日やってりゃ嫌でも上達する」
とのことらしい。
ほっとけ。
居間に出て、やはり“男”は押し黙っている。
「……どうも」
“友”の、どこまでも無関心な挨拶が聞こえる。
そうして訪れる沈黙。
空気が思い……。
“男”は一層深く黙り込む。
このままじゃ埒が明かない。
「この子ね、“男”なのよ」
驚いてこっちを振り向く“男”、“友”は訝しむように目を細めている。
「え、ちょ、“女”?」
間抜けな声を上げる“男”はこの際無視しよう。
「昨日の朝からずっと一緒に居るけど、まず間違いないわ」
その言葉を受けて、“友”の視線は“男”に向けられる。
「本当、なのか?」
“男”は儚げな動作で頷く。
“友”は考え込むように俯いて、
「駄目だ、そんなことは信じられない」
――こいつは、何を言いやがった?
今の“男”にそれ以上辛い言葉は無いっていうのに、よりにもよってアンタの口から!!
声を上げようとして、
「たとえ本当だとしても、今すぐにはな」
その言葉に遮られた。
185 :名無草 :2007/05/09(水) 22:40:36.53 ID:1cT.0Oo0
「え?」
不意を突かれたような“男”の声。
「どういう意味?」
多分、今私は眉を顰めているだろう。
「“男”が今何をしてるかは知らない、つまりあんたが“男”かどうかは知らない。
もしあんたが本当に“男”なら、そのうち信じるんじゃないか?」
……分かりにくい奴だ。
つまりは、
『一応“男”として接するけど、まだ信じたわけじゃない』
そう言いたいんだろう。
素直じゃない、遠まわしったらない、こいつはこんな言い方しかしない。
それだけを聞けばどこまでも冷たく聞こえるかもしれない言葉。
だから私はこいつが嫌いなんだ。
「だってさ」
“男”へと言葉を投げかける。
「うん」
“男”もその辺りは分かっているだろう、無関心なその言葉の本当の意味を。
「“友”、ありがとう」
そう言葉を漏らす“男”。
「何で礼なんか言ってるんだよ」
そっぽを向いて言う“友”。
良いタイミングでご飯を運んでくるお母さんと叔母さん。
そうしてみんなで朝食のような昼食のようなご飯を食べて、
お母さんと叔母さんの二人は仕事があるらしくそのまま出て行ってしまった。
186 :名無草 :2007/05/09(水) 22:41:49.84 ID:1cT.0Oo0
その後私と“男”に“友”、それと従妹の“妹”ちゃんの四人で話をして、
昼前に出て行った二人と、お父さんと叔父さんも帰って来ず空腹に耐えかねていると、
『あ、“女”? 私たち今日は遅くなるから、晩御飯は自分達でなんとかしなさい』
と電話があった。
仕方なく私と“友”で晩御飯を作ることにした。
……にしても、何で“友”は私より料理上手いのよ!!
“友”曰く、
「お前が面倒臭がってやらないからだろ、毎日やってりゃ嫌でも上達する」
とのことらしい。
ほっとけ。
230 :名無草 :2007/05/14(月) 06:05:54.31 ID:/WXrogs0
「……え?」
夕食、“妹”ちゃんに“男”の事を話して。
「まぁ、すぐには信じられない、か」
“妹”ちゃんは困ったように視線を泳がせて、結局その視線を“男”に向ける。
「本当、なんですか?」
“友”と似た反応、でも“妹”ちゃんには強さみたいなものが足りない。
“男”は無言のまま頷く。
“妹”ちゃんの眉を、表情を歪めるのはどんな感情なのか、遠く手の届かない星を眺めるように、
「そう、ですか」
それだけ言って、静かに水を口に運ぶ。
そのあと、“妹”ちゃんはすぐに席を立った。
いつもの半分くらいしか食べていない。
どうしたんだろう、そんなことを考えていると目に映った“友”も似たようなことを考えているんだろうか、僅かに俯いている。
そうして不意にこっちを見て、
「“女”、“妹”の話を聞いてやってくれないか?」
そう言葉を漏らした。
「私が? あんたが聞いた方が良いんじゃない?」
コイツにしては珍しい、どこか悲痛な面持ちで。
「いや、女同士の方が話しやすいこともあるんじゃないかと思ってな」
何か、知っているんだろうか?
「……分かったわよ」
私の予想が正しいのなら、確かに“友”よりは私の方が話しやすいかもしれない。
とすると、問題はどうやって聞きだすか、か。
時計を見るともう9時。
「あ、お風呂沸かさないと……」
お風呂、か。
よし、早く沸かそう。
231 :名無草 :2007/05/14(月) 06:07:46.03 ID:/WXrogs0
「そろそろ、かな」
“男”を先に入らせて、今は“妹”ちゃんがお風呂に入っている。
「お邪魔しまーす」
言いながら風呂場に入る。
「え、“女”さん?」
シャワーを浴びながら振り返る“妹”ちゃん。
「そ、女同士なんだし別に良いでしょ?」
“妹”ちゃんはなにやらあたふたと慌てている。
「え、でも。えっと」
何なんだこの反応は。
「ほら、後で“友”も入らないといけないし」
そう言いながらお湯を浴びて湯船に浸かる。
“妹”ちゃんはこっちを気にしながら頭に残っているシャンプーの泡を流している。
――丁寧だけどなんだか弱弱しい、繊細な動作だった。
髪を流し終わって、“妹”ちゃんも湯船に入ってきた。
「晩御飯の時ちょっと変だったけど、どうかしたの?」
“妹”ちゃんは驚いたようにこっちを見て、
「それは……男の人がいきなり女の子になったら誰だって驚きます」
それはそうだ、でもあのときのこの子の様子は少しその驚きとは違っていたと思う。
「それだけ?」
俯く“妹”ちゃん、なんだか責めているような気がしてくる……。
「私は」
俯いたまま、小さく、何かにけじめをつけるように小さく言葉を切って。
「私は“男”さんが好きでした」
そう声を発した。
232 :名無草 :2007/05/14(月) 06:09:37.46 ID:/WXrogs0
「その“男”さんが、いきなり女の子になってたんですよ?」
一度吐き出した言葉はもう止まらないみたいに、
「ずっと、遠くから見てるだけだったけど」
俯いたままに、
「その“男”さんが……」
私は何一つ声を掛けることが出来ない。
「それで、女の子になって、一番に頼ったのが“女”さんなんです」
見れば“妹”ちゃんの瞳には今にも零れそうな涙が溜まっていて、
「多分一番仲の良かった兄さんじゃなくて、“女”さんなんです……」
俯いたまま、零れた雫が作る波紋が広がっていく。
泣かしちゃった、か……。
「アイツね」
“妹”ちゃんを抱き寄せて、言う。
「お兄さんに、信じてもらえなかったみたいなのよ」
泣き止ませるために、
「アイツが、アイツだってこと」
痛みを少しでも和らげられるように。
「一番近しいはずの家族に、信じられなかったんだよ」
“妹”ちゃんの嗚咽が聞こえる。
「その苦しさが分かる訳ないけど、近しい人に信じられないこと、
その人と近ければ近いほど苦しいってことは分かるよね?」
こんな言葉で伝わるだろうか、
「そう言う意味で、“友”は近すぎたんだよ」
こんな言葉で、この子の涙が止められるだろうか。
「私はね、アイツにとって、丁度良い距離に居たって、それだけだよ」
233 :名無草 :2007/05/14(月) 06:11:12.56 ID:/WXrogs0
「それとね」
“妹”ちゃんの顔は見えないけど、それでも肩の震えは止まっている。
「恋愛は性別でするものじゃないでしょ?」
“妹”ちゃんの顔が上がって、
「え?」
何だか惚けたような顔をしている。
「今でも“男”のこと、好きなんでしょ?」
“妹”ちゃんの表情が変わる、
「はい」
迷いのない瞳と、声。
「それなら、今からでも遅くないんじゃない?」
私に出来るのはこんな後押しだけだけど、
「はい!」
それでこんなに可愛い女の子の笑顔を取り戻せるのなら、
「それじゃ、頑張ってね」
それも良いかもしれない、そう思いながら出来る限りのエールを。
「あの、“女”さん」
少し不安げな表情で“妹”ちゃんが言う。
「なに?」
出来るだけ優しく返す。
「もう少し、このままで居て良いですか?」
そんなことで不安になるなんて、
「ええ、気が済むまでこうしててあげる」
なんだか笑いそうになったけど、なんとか出来る限り優しい声でそう言葉を返す。
234 :名無草 :2007/05/14(月) 06:12:58.42 ID:/WXrogs0
「ありがとうございます」
そう言って離れていく“妹”ちゃん。
「もう良いの?」
そう聞くと笑顔で、
「はい、このままだとのぼせちゃいます」
そう言って扉の方に歩いていく。
扉に手をかけて、
「本当は、“女”さんのこと、好きでした」
振り返りながら言う“妹”ちゃん。
「でも、そんなのダメだって。“女”さんに迷惑だって思って言えませんでした」
どう言葉を返せば良いんだろう、
「そう」
そんな言葉しか返せない。
「“男”さんと同じくらい、今でも“女”さんのことも好きです」
真っ直ぐ見つめてくる“妹”ちゃんから目を逸らすなんて事は出来ない。
「ありがとう」
それはきっと自分を見つめるようで、自分から目を逸らすなんてことはしたくないからかもしれない。
「だから、もしふられちゃったら慰めてくださいね?」
悪戯っぽく笑って“妹”ちゃんは言った。
「考えておいてあげるわ」
それを聞いて、もう一度私に笑顔を向けて“妹”ちゃんは風呂場から出て行った。
それにしても、
「ある意味、私ってピンチだったんだ」
そんなことを呟いて、溜息を一つ。
235 :名無草 :2007/05/14(月) 06:14:26.01 ID:/WXrogs0
お風呂から上がって、
「“女”、ありがとう」
“友”がそんなことを言った。
珍しい、コイツがこんなにストレートにお礼を言うなんて。
「気にしなくて良いわ、私も気になってたし」
そう言いながら冷蔵庫からお茶を取り出してコップに注いで、
「どさくさに紛れて告白されちゃった……」
そう呟いてから一気に呷る。
「ん、何か言ったか?」
“友”がこっちを向いている。
「何でもないわよ」
言いながらぞんざいにコップを流しに入れる。
「寝る部屋だけど、“友”が二階の奥、“妹”ちゃんが手前で良い?」
髪を乾かすために洗面台に向かいながら訊ねる。
「ああ、布団は自分で出すが場所は変わってないよな?」
「あー、変わってない変わってない」
おざなりな言い方をしながら洗面台に入っていく。
236 :名無草 :2007/05/14(月) 06:16:17.95 ID:/WXrogs0
髪を乾かして、自分の部屋に戻る。
“男”は昨日と同じように私の部屋で寝ることになった。
部屋に入るなり“男”が一言。
「“妹”ちゃんに告白されちゃったんだけど……」
そう言った。
「そ、良かったわね」
あの後すぐに告白したらしい。
「どうすれば良いんだろう。僕、女の子になっちゃったのに……」
そう言いながらこちらを見つめてくる。
「そんな細かいこと考えないでさ、自分の気持ちに素直になってみれば良いんじゃない?」
そう答えると何か考え込んでいる。
「まぁ、とりあえずおやすみ」
言いながら消灯。
「あ、まだ……もう。おやすみ」
“男”が何か言っているが気にせず布団に潜り込む。
昨日はそんなことを気にする暇もなかったけど、『おやすみ』なんて言い合って寝るなんてなんだか凄く新鮮な気がする。
考えながらも、意識は少しずつ薄れていって……。
その日、なんだか懐かしい夢を見た。
237 :名無草 :2007/05/14(月) 06:17:53.33 ID:/WXrogs0
ここは近くの公園だろうか。
春には桜で一杯になるそこを私は走っていた。
誰かを追いかけてるみたい。
視線の先には見覚えのある男の子。
活発そうな、でも気難しそうな。
――思い出した、この男の子は“友”だ。
たぶん、小学校に入ったかどうかというくらいの頃だろう。
季節は夏みたいで、日差しはこれでもかってくらいに降り注いで眩しいくらい。
そんな晴れた日、私は“友”を追いかけていた。
置いていかれないように必死になって。
思えばいつだってアイツを追いかけてた気がする。
それがいつの間にか私とアイツの距離は遠くなっていて、気付けば追いかけることもなくなってたっけ。
そんなことを思いながら、懐かしい思い出の情景に見入っていた。
238 :名無草 :2007/05/14(月) 06:20:25.51 ID:/WXrogs0
誰かが誰かを呼ぶ声が聞こえる。
どうやら私を呼んでるみたいだ。
もう、起きないと。
何か夢を見た気がするけれど、それよりも呼び声が気になって。
「……え?」
夕食、“妹”ちゃんに“男”の事を話して。
「まぁ、すぐには信じられない、か」
“妹”ちゃんは困ったように視線を泳がせて、結局その視線を“男”に向ける。
「本当、なんですか?」
“友”と似た反応、でも“妹”ちゃんには強さみたいなものが足りない。
“男”は無言のまま頷く。
“妹”ちゃんの眉を、表情を歪めるのはどんな感情なのか、遠く手の届かない星を眺めるように、
「そう、ですか」
それだけ言って、静かに水を口に運ぶ。
そのあと、“妹”ちゃんはすぐに席を立った。
いつもの半分くらいしか食べていない。
どうしたんだろう、そんなことを考えていると目に映った“友”も似たようなことを考えているんだろうか、僅かに俯いている。
そうして不意にこっちを見て、
「“女”、“妹”の話を聞いてやってくれないか?」
そう言葉を漏らした。
「私が? あんたが聞いた方が良いんじゃない?」
コイツにしては珍しい、どこか悲痛な面持ちで。
「いや、女同士の方が話しやすいこともあるんじゃないかと思ってな」
何か、知っているんだろうか?
「……分かったわよ」
私の予想が正しいのなら、確かに“友”よりは私の方が話しやすいかもしれない。
とすると、問題はどうやって聞きだすか、か。
時計を見るともう9時。
「あ、お風呂沸かさないと……」
お風呂、か。
よし、早く沸かそう。
231 :名無草 :2007/05/14(月) 06:07:46.03 ID:/WXrogs0
「そろそろ、かな」
“男”を先に入らせて、今は“妹”ちゃんがお風呂に入っている。
「お邪魔しまーす」
言いながら風呂場に入る。
「え、“女”さん?」
シャワーを浴びながら振り返る“妹”ちゃん。
「そ、女同士なんだし別に良いでしょ?」
“妹”ちゃんはなにやらあたふたと慌てている。
「え、でも。えっと」
何なんだこの反応は。
「ほら、後で“友”も入らないといけないし」
そう言いながらお湯を浴びて湯船に浸かる。
“妹”ちゃんはこっちを気にしながら頭に残っているシャンプーの泡を流している。
――丁寧だけどなんだか弱弱しい、繊細な動作だった。
髪を流し終わって、“妹”ちゃんも湯船に入ってきた。
「晩御飯の時ちょっと変だったけど、どうかしたの?」
“妹”ちゃんは驚いたようにこっちを見て、
「それは……男の人がいきなり女の子になったら誰だって驚きます」
それはそうだ、でもあのときのこの子の様子は少しその驚きとは違っていたと思う。
「それだけ?」
俯く“妹”ちゃん、なんだか責めているような気がしてくる……。
「私は」
俯いたまま、小さく、何かにけじめをつけるように小さく言葉を切って。
「私は“男”さんが好きでした」
そう声を発した。
232 :名無草 :2007/05/14(月) 06:09:37.46 ID:/WXrogs0
「その“男”さんが、いきなり女の子になってたんですよ?」
一度吐き出した言葉はもう止まらないみたいに、
「ずっと、遠くから見てるだけだったけど」
俯いたままに、
「その“男”さんが……」
私は何一つ声を掛けることが出来ない。
「それで、女の子になって、一番に頼ったのが“女”さんなんです」
見れば“妹”ちゃんの瞳には今にも零れそうな涙が溜まっていて、
「多分一番仲の良かった兄さんじゃなくて、“女”さんなんです……」
俯いたまま、零れた雫が作る波紋が広がっていく。
泣かしちゃった、か……。
「アイツね」
“妹”ちゃんを抱き寄せて、言う。
「お兄さんに、信じてもらえなかったみたいなのよ」
泣き止ませるために、
「アイツが、アイツだってこと」
痛みを少しでも和らげられるように。
「一番近しいはずの家族に、信じられなかったんだよ」
“妹”ちゃんの嗚咽が聞こえる。
「その苦しさが分かる訳ないけど、近しい人に信じられないこと、
その人と近ければ近いほど苦しいってことは分かるよね?」
こんな言葉で伝わるだろうか、
「そう言う意味で、“友”は近すぎたんだよ」
こんな言葉で、この子の涙が止められるだろうか。
「私はね、アイツにとって、丁度良い距離に居たって、それだけだよ」
233 :名無草 :2007/05/14(月) 06:11:12.56 ID:/WXrogs0
「それとね」
“妹”ちゃんの顔は見えないけど、それでも肩の震えは止まっている。
「恋愛は性別でするものじゃないでしょ?」
“妹”ちゃんの顔が上がって、
「え?」
何だか惚けたような顔をしている。
「今でも“男”のこと、好きなんでしょ?」
“妹”ちゃんの表情が変わる、
「はい」
迷いのない瞳と、声。
「それなら、今からでも遅くないんじゃない?」
私に出来るのはこんな後押しだけだけど、
「はい!」
それでこんなに可愛い女の子の笑顔を取り戻せるのなら、
「それじゃ、頑張ってね」
それも良いかもしれない、そう思いながら出来る限りのエールを。
「あの、“女”さん」
少し不安げな表情で“妹”ちゃんが言う。
「なに?」
出来るだけ優しく返す。
「もう少し、このままで居て良いですか?」
そんなことで不安になるなんて、
「ええ、気が済むまでこうしててあげる」
なんだか笑いそうになったけど、なんとか出来る限り優しい声でそう言葉を返す。
234 :名無草 :2007/05/14(月) 06:12:58.42 ID:/WXrogs0
「ありがとうございます」
そう言って離れていく“妹”ちゃん。
「もう良いの?」
そう聞くと笑顔で、
「はい、このままだとのぼせちゃいます」
そう言って扉の方に歩いていく。
扉に手をかけて、
「本当は、“女”さんのこと、好きでした」
振り返りながら言う“妹”ちゃん。
「でも、そんなのダメだって。“女”さんに迷惑だって思って言えませんでした」
どう言葉を返せば良いんだろう、
「そう」
そんな言葉しか返せない。
「“男”さんと同じくらい、今でも“女”さんのことも好きです」
真っ直ぐ見つめてくる“妹”ちゃんから目を逸らすなんて事は出来ない。
「ありがとう」
それはきっと自分を見つめるようで、自分から目を逸らすなんてことはしたくないからかもしれない。
「だから、もしふられちゃったら慰めてくださいね?」
悪戯っぽく笑って“妹”ちゃんは言った。
「考えておいてあげるわ」
それを聞いて、もう一度私に笑顔を向けて“妹”ちゃんは風呂場から出て行った。
それにしても、
「ある意味、私ってピンチだったんだ」
そんなことを呟いて、溜息を一つ。
235 :名無草 :2007/05/14(月) 06:14:26.01 ID:/WXrogs0
お風呂から上がって、
「“女”、ありがとう」
“友”がそんなことを言った。
珍しい、コイツがこんなにストレートにお礼を言うなんて。
「気にしなくて良いわ、私も気になってたし」
そう言いながら冷蔵庫からお茶を取り出してコップに注いで、
「どさくさに紛れて告白されちゃった……」
そう呟いてから一気に呷る。
「ん、何か言ったか?」
“友”がこっちを向いている。
「何でもないわよ」
言いながらぞんざいにコップを流しに入れる。
「寝る部屋だけど、“友”が二階の奥、“妹”ちゃんが手前で良い?」
髪を乾かすために洗面台に向かいながら訊ねる。
「ああ、布団は自分で出すが場所は変わってないよな?」
「あー、変わってない変わってない」
おざなりな言い方をしながら洗面台に入っていく。
236 :名無草 :2007/05/14(月) 06:16:17.95 ID:/WXrogs0
髪を乾かして、自分の部屋に戻る。
“男”は昨日と同じように私の部屋で寝ることになった。
部屋に入るなり“男”が一言。
「“妹”ちゃんに告白されちゃったんだけど……」
そう言った。
「そ、良かったわね」
あの後すぐに告白したらしい。
「どうすれば良いんだろう。僕、女の子になっちゃったのに……」
そう言いながらこちらを見つめてくる。
「そんな細かいこと考えないでさ、自分の気持ちに素直になってみれば良いんじゃない?」
そう答えると何か考え込んでいる。
「まぁ、とりあえずおやすみ」
言いながら消灯。
「あ、まだ……もう。おやすみ」
“男”が何か言っているが気にせず布団に潜り込む。
昨日はそんなことを気にする暇もなかったけど、『おやすみ』なんて言い合って寝るなんてなんだか凄く新鮮な気がする。
考えながらも、意識は少しずつ薄れていって……。
その日、なんだか懐かしい夢を見た。
237 :名無草 :2007/05/14(月) 06:17:53.33 ID:/WXrogs0
ここは近くの公園だろうか。
春には桜で一杯になるそこを私は走っていた。
誰かを追いかけてるみたい。
視線の先には見覚えのある男の子。
活発そうな、でも気難しそうな。
――思い出した、この男の子は“友”だ。
たぶん、小学校に入ったかどうかというくらいの頃だろう。
季節は夏みたいで、日差しはこれでもかってくらいに降り注いで眩しいくらい。
そんな晴れた日、私は“友”を追いかけていた。
置いていかれないように必死になって。
思えばいつだってアイツを追いかけてた気がする。
それがいつの間にか私とアイツの距離は遠くなっていて、気付けば追いかけることもなくなってたっけ。
そんなことを思いながら、懐かしい思い出の情景に見入っていた。
238 :名無草 :2007/05/14(月) 06:20:25.51 ID:/WXrogs0
誰かが誰かを呼ぶ声が聞こえる。
どうやら私を呼んでるみたいだ。
もう、起きないと。
何か夢を見た気がするけれど、それよりも呼び声が気になって。
目を覚ますと、辺りはまだ少し暗かった。
まだ日が出てないんだろう、とすると、今は五時を過ぎたくらいだろうか。
「“女”、おはよう」
“男”の声がする。
「おはよう」
続けて声が聞こえる。
女の人の声みたいだけど、“妹”ちゃんの声ってこんなに低かったっけ?
と言うか、気のせいだろうか、いつも聞いている声に聞こえるけれどどこか調子が外れているような……。
「おはよう」
考えるだけ無駄な気がして、とりあえず声を返して起き上がる。
と、“男”と、あと一人。
見覚えのあるような、ないような。
それでいて毎日見ている気がする顔が私を覗き込んでいた。
「あー、まだ寝惚けてるみたい。おやすみー」
そう言ってもう一度布団に潜り込む。
「あ、待て“女”!」
聞き覚えのあるような声が私の眠りを妨げる。
「あ゛ー、何よ。ってかアンタ誰よ」
言いながら再び体を起こす。
「いや、俺は……“友”なんだが………」
そう言いながら顔を伏せる女の人。
「ああそう、“友”、おやすみ」
言って、
「って“友”!?」
思わず飛び起きてしまった。
まだ日が出てないんだろう、とすると、今は五時を過ぎたくらいだろうか。
「“女”、おはよう」
“男”の声がする。
「おはよう」
続けて声が聞こえる。
女の人の声みたいだけど、“妹”ちゃんの声ってこんなに低かったっけ?
と言うか、気のせいだろうか、いつも聞いている声に聞こえるけれどどこか調子が外れているような……。
「おはよう」
考えるだけ無駄な気がして、とりあえず声を返して起き上がる。
と、“男”と、あと一人。
見覚えのあるような、ないような。
それでいて毎日見ている気がする顔が私を覗き込んでいた。
「あー、まだ寝惚けてるみたい。おやすみー」
そう言ってもう一度布団に潜り込む。
「あ、待て“女”!」
聞き覚えのあるような声が私の眠りを妨げる。
「あ゛ー、何よ。ってかアンタ誰よ」
言いながら再び体を起こす。
「いや、俺は……“友”なんだが………」
そう言いながら顔を伏せる女の人。
「ああそう、“友”、おやすみ」
言って、
「って“友”!?」
思わず飛び起きてしまった。
247 :名無草 :2007/05/16(水) 14:55:54.90 ID:KNJr1PU0
「で、朝起きたら女の子になってたって訳?」
“男”の時と同じか。
「まぁ、そうなるな」
つまり手掛かりとかそう言うのは無いって事、か。
「それじゃあ“男”を信じない訳にはいかなくなったわけね?」
不敵な笑みで問う、そう、笑って……。
――でもこの胸のもやもやは何なんだろう。
「にしても誰かに似てるような……」
「お前、気付いてないのか?」
何か驚いたようにこっちを見ている“友”。
「何よ」
すると“友”は鏡を指差す。
その指を辿って鏡に目を向ける、と。
「えっと……私が、二人?」
248 :名無草 :2007/05/16(水) 14:59:22.11 ID:KNJr1PU0
どこかで見たことがあると思ったら、“友”は私と瓜二つになっていた。
意識すると声までそっくりで、
「ようやく気付いたか……」
そんな事を言いやがる。
「鈍くて悪かったわね」
「誰もそんなこと言ってないだろ」
「言いたいんでしょ?」
「……否定はしない」
「やっぱり言いたいんじゃない!」
「はいはいそこまで」
“男”の声に引き戻されて、
「これから、どうしようか」
“友”の声に冷まされて。
なんだかもやもやしていた胸が、いつの間にか小さな、小さな痛みを発していた。
「で、朝起きたら女の子になってたって訳?」
“男”の時と同じか。
「まぁ、そうなるな」
つまり手掛かりとかそう言うのは無いって事、か。
「それじゃあ“男”を信じない訳にはいかなくなったわけね?」
不敵な笑みで問う、そう、笑って……。
――でもこの胸のもやもやは何なんだろう。
「にしても誰かに似てるような……」
「お前、気付いてないのか?」
何か驚いたようにこっちを見ている“友”。
「何よ」
すると“友”は鏡を指差す。
その指を辿って鏡に目を向ける、と。
「えっと……私が、二人?」
248 :名無草 :2007/05/16(水) 14:59:22.11 ID:KNJr1PU0
どこかで見たことがあると思ったら、“友”は私と瓜二つになっていた。
意識すると声までそっくりで、
「ようやく気付いたか……」
そんな事を言いやがる。
「鈍くて悪かったわね」
「誰もそんなこと言ってないだろ」
「言いたいんでしょ?」
「……否定はしない」
「やっぱり言いたいんじゃない!」
「はいはいそこまで」
“男”の声に引き戻されて、
「これから、どうしようか」
“友”の声に冷まされて。
なんだかもやもやしていた胸が、いつの間にか小さな、小さな痛みを発していた。
287 :名無草 :2007/05/23(水) 03:12:38.13 ID:NI5G2DI0
「それで、これからどうしようか?」
“男”が言った。
「こんな場合、どうすれば良いんだろうな」
“友”が繋いだ。
「あんたたち、やけに冷静ね」
私は呟くように声を漏らす。
「まぁ、慌てても仕方ないからな」
そう答える“友”の声は調子外れな私の声で、
「まずは服でも買いに行こう」
その言葉に難色を示す二人。
「そんな場合か?」
「他にすることがあるんじゃ……」
そんな異論は即却下。
「他に思いつかないなら、思いついたことから始めるしかないじゃない。」
私の言葉に反論出来ずに“男”は小さく唸り声を、“友”は顔を顰めている。
「決まりね」
――私は、一体何を考えてるんだろう……。
疑問にもならない疑念を振り払って、二人のスリーサイズを採寸。
「それで、これからどうしようか?」
“男”が言った。
「こんな場合、どうすれば良いんだろうな」
“友”が繋いだ。
「あんたたち、やけに冷静ね」
私は呟くように声を漏らす。
「まぁ、慌てても仕方ないからな」
そう答える“友”の声は調子外れな私の声で、
「まずは服でも買いに行こう」
その言葉に難色を示す二人。
「そんな場合か?」
「他にすることがあるんじゃ……」
そんな異論は即却下。
「他に思いつかないなら、思いついたことから始めるしかないじゃない。」
私の言葉に反論出来ずに“男”は小さく唸り声を、“友”は顔を顰めている。
「決まりね」
――私は、一体何を考えてるんだろう……。
疑問にもならない疑念を振り払って、二人のスリーサイズを採寸。
“男”は、っと。
まるっきり○学生じゃない……。
身長も低いし、“妹”ちゃんの服を着せても大きいんじゃないだろうか。
まるっきり○学生じゃない……。
身長も低いし、“妹”ちゃんの服を着せても大きいんじゃないだろうか。
“友”の方は……。
――なんでスリーサイズまで私と同じなのよ……。
「“友”の胸、大きいね……」
横から見ていた“男”の声、
「「うるさい」」
何故かハモる私と“友”の声。
――なんでスリーサイズまで私と同じなのよ……。
「“友”の胸、大きいね……」
横から見ていた“男”の声、
「「うるさい」」
何故かハモる私と“友”の声。