【市場にて】

雑踏の音、威勢のいい呼び込みの声、笑い声、何かが衝突する音、怒声、歓声…
どこの国でも市場というものは騒がしいものだが、ここ新天地ゲート近くの統領である皇帝ペンギン『イワン』が統治する市場ほど騒がしく混沌としているものはないだろう。

新天地は元オルニト領で、30年ほど前に冷遇されてきた飛べない鳥たちが周りの国で排斥されてきた多種族と結託し独立させた新しい国である。(実際は上手くまとまらず諸族国家の寄り集まりのようになっているようだが…)
「結構するなぁ…」
ハンドロード(手詰め)用の銃弾用の鉛や火薬に雷管、クリーニング用品、日用品、みんなのおやつのドライフルーツなどを買い付けた後、飾られている商品を見てそう一人愚痴る。

僕がこの新天地の荒野に投げ出されてゴンザレスさんの交易(荷物がなければヒトも運んでいる)馬車に拾われてから2ヶ月ほどが立っている。
あれから6つの町を回り、2つの厄介ごとに首を突っ込み(主にゴンザレスさんの短い首だが)、行った戦闘は20近く……
正直、ここまでアウトローな国だと思わなかった。
当然、向こうから持ってきた弾薬は尽き、こちらで少量出回っている高い弾薬を買い集め潰して再利用しながらなんとかやりくりしている。

「道具に頼るからそんなにピーピーになるのよ新人ちゃん?やっぱり一番の資本は体だわ」
と、自慢のおみ足を磨きながらダチョウ婦人(リオさん、ちなみに独身らしい)。
「俺は手伝ったら酒くれるんで大歓迎だけどな」「…ああ、今度はツマミにミズハミシマの干し魚がいいな」
ショートソードやナイフを使うニワトリ剣士のザクさんと棍使いのペンギン闘士・バートンさんがそれに続く。
ザクさんは種族的に背が低く意外とマメな性格なので、よく落とした薬莢を拾ってもらっているし、
バートンさんは手先が器用でハンドロードをする時に手伝ってもらったりするので、時々物でお礼をする。(それでまた出費がかさむ)

銃弾は向こうでも、そこそこ出費がかさむのでハンドロード用の器具などを持ち込んでは来たものの、やっぱりまだ地球と交易の絶対数が少なく
インフラが整備されていないここ新天地では、地球製品の弾薬等はかなり割高なものになってしまっているのだろう。

ただ、今回ため息をついたのは弾薬の値段だけではなく…
「まともなライフルはやっぱり高いな…無理してでも向こうで買って持ってくれば良かったよ」
ボルトアクションライフルの0がたくさん並んだ値札を見ながら愚痴る。
ガンマンになりたい僕が、なぜライフルを探しているかというと、この二ヶ月ほどの戦闘で自分なりに護衛内での役割を考えた結果、もっと遠距離を攻撃する手段が僕には必要だと感じたからだ。

護衛チーム内で僕に求められているのは、馬車に近づけないように前に出て敵を打ち倒すリオさん、ザクさん、バートンさんの三人を遠距離からサポートする事と、
それをかいくぐって接近した敵を撃つ事の2つで、後者は僕の持ち込んだリボルバーで対処できる。
しかし、前者の拳銃で遠距離の味方と乱闘している的に当てるのは思った以上に難しく、弾の無駄撃ちが多くなってしまうので早急に精度の高い遠距離の攻撃手段が必要と考え、
馬車が新天地で一番大きい市場であるここに寄るのをチャンスと武器の仕入れに来たのだ。

(アンデット用に銃身を切って詰められるショットガンも欲しかったけど、これはゴンザレスさんに借金でもしないとライフルも買えないな…)
厄介ごとでスラヴィアの騎士団に詰め寄られてゾンビ映画のような嫌な体験をしたことを脳裏に浮かべながら考える。

そうやって金策のことを考えながら広場のベンチに座ると、ピエロ姿の犬人大道芸人がジャグリングをしているのが見えた。大人が幾人か立ち止まり子供が数人回りで座り込んで見ている。
「やあ、お久しぶりですガンマン殿。なかなかご活躍のようですな」
不意に隣から声をかけられた。
驚いて隣を見るとベンチの隣に背広の老紳士が座っていた。綺麗なグレイヘアーを整え、立てた杖に両手を乗せている紳士は微笑ましそうな目でこちらを見ている。

「ええと、どこかで…?」
「ああ、覚えておられないのも仕方ない。2ヶ月ほど前に一度お会いしたくらいですから」
「そうですか…すみません。その頃はこちら側に来たばかりだったので…」
老紳士は、快活に笑い手を降った。
「いやいや、大抵の方はそうですのでお気になさらず…それより、アレを見てどう思われますか?」
老紳士が指さした方向はピエロの方向だった。
「えと…そこそこ面白いんじゃないかと」
ピエロの芸は平凡であり、素晴らしく面白いとは思わなかったので恐る恐るそう答えた。

「それでは少し困るのだよ…
この世界は、君ら世界と違って娯楽に乏しい。特に新天地はできたばかりの国だ。来る旅芸人は各地で引っ張りだこだし、
途中の街道や航路も整備が進まずまだ危険が多く、このゲート付近まで好んで来る旅芸人は少ない…
したがって、ここまで来てくれた者にはもう少し頑張って貰わねば私達の国民にとっても大道芸人の彼にとってもあまり良い状態ではないのだ。」
老紳士が突然熱く語りだしたので、少しビクビクしながら僕は聞く
「それで、僕に何を…?」
「察しが早くて助かる。私達はここで君にガンショーをしてもらいたいと思っているのだ。
君たちの世界のガンマンは銃技を見せて稼いでいる者もいたと聞く、やり方は私が口出しさせて貰うが場所と道具代は私達が持とう。
…今の君にとってこれはなかなか良い依頼だと思うのだがどうだね?」
「やります!」即答した。誰だって借金で首が回らなくなるのと志半ばで死ぬのは嫌に決まってる。

「あのちび助が何をするって?」「何でも向こうから来た武具で芸をするんだってよ!」「おっかなくないのかね…?」「早く始めてよー」「ジュースこぼしたー」
準備を始めると思った以上のギャラリーが集まりかなり緊張する…
(大丈夫。この二ヶ月で腕は確実に上がってるから行けるはず…)
深呼吸して落ち着いたら、リボルバーに練習用の弾を込めギャラリーに一礼
まずは肩慣らし

タタタタタタン!!

ファニングで連射しながら銃口を横にずらし見事弾丸6発で並べた空き缶6つを吹き飛ばす。
ギャラリーから小さな歓声
地面に転がしていた空き缶を頭上高く蹴り上げながらリロード
落ちてくる空き缶を見ず銃口を上に上げて撃つ

ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!

弾丸に貫かれゆっくり降りてきた空き缶を左手でキャッチして一礼、さっきより大きな歓声。
缶はあのピエロの方に投げる。観客がいなくて突っ立っていたピエロはむっとした顔をした。

次に、銃のトリガーガードのところでくるくる…回しながら回す指を変えたり手を変えたり、後ろ手になった時に高く放り投げ、一度目の前で落ちてきた銃を取ろうとしてわざと失敗!
観客にあっと思わせた瞬間、地面スレスレでキャッチして撃つ狙いはもちろんピエロが拾い上げた先ほどの空き缶。
狙い違わず角に命中、缶は跳ねてピエロの前に突き出た鼻に当たる。
周りから失笑が漏れるのを気にせず、僕はピエロに背を向け観客に気取った礼をする。

シュッ!
振り向かず脇から銃口を後ろに向け一発

キンッ!
投げられたナイフが弾かれて落ちる。小さな悲鳴
後ろを振り返ると、顔を真赤にした犬のピエロが投げナイフを構えて迫っている。

シュッ!シュッ!シュッ!
タンッ!タンッ!タンッ!
放たれたナイフを確実に落としていく…弾もナイフも観客に当てないように細心の注意を払って

シュッ!シュッ!
タンッ!カチッ…

あ、残念弾切れだ…一本のナイフが僕の顔に向かって高速で飛んでくる

ガキィ!!

投げナイフを歯でギリギリ止める!こんな時のためにちゃんと歯は磨いているから欠けもしない。
ピエロは二本の曲刀に持ち替え近接戦を仕掛けてくる。僕は咥えたナイフを左手で取って構える。
シャン!左手のナイフで曲刀を上手く流す
カァン!右手のグリップの先で上手く曲刀を弾く

ブーツの先でピエロを押して距離を離し、ナイフを捨てて周りを確認。(…いた!風の精霊だ)
イタズラ好きそうな精霊に『頼むよ』とウインクを送ってピエロに向かって走りだす。
走りながら排莢、弾を込めたクリップを取り出す。
首に向かって曲刀が振られるのを低く沈み込んでかわし、もう一刀が来る前に精霊の力を借りて跳躍!少しかすったが気にせず回転しながらリロードしてピエロと背中合わせに着地。
背中を軽く付けてギリギリ聞こえるくらいの声でボソリ…ピエロがはっとなったのを確認してそのまま離れる。

二人共、隙なく構え相対する。観客の固唾を呑む音が聞こえるくらい静かだ…
ピエロが動く、僕が迎え撃つ一発、二発、三発、四発…
一刀、二刀、三刀、四刀…ピエロはラクラクと刀で弾を弾き曲刀の一刀をこちらへ投擲!
死神の鎌のようなその一撃を五発目の弾丸ではじき飛ばす!…が、投擲した刀に隠れてピエロが急接近していた!!
傲慢なガンマンの首を高く舞わせるため刀を振るピエロ!古臭いピエロを最後の弾丸で吹き飛ばすため銃口を高速で向けるガンマン!
時間が止まる…

思わず目をつむった観客が目を開けた時、刀は首元、銃口は眉間に止まっていた。
どちらも必殺の位置……隙を見せれば首が落ち、頭蓋が割れる。
二人の緊張が観客に移り、観客の緊張が最高潮に達したその時!!

ひょいとガンマンが銃を上に向け、ピエロが懐から取り出した玉と曲刀を上に投げたのだ。
観客がえっ?と声を上げる
引き金を引くと破裂音と同時に銃口から花が咲く!投げた玉に刀が当たり中から紙吹雪が舞う!
周りが観客の歓声に包まれた!!

「すまなかったな客人。アンタの本当の目的も分からずアンタにケガを負わせてしまった…なんと詫びていいか分からない」
「ああ、いいですいいです。僕が頼まれて勝手にやっただけですし、それに死なないように手加減はずっとして頂いてましたから、かすり傷で済んでますので…」
僕と強制参加のピエロさんとのショーが大入りで終わった後、二人は酒場で簡単な食事をとっていた。

「いや、本当に助かったよ。酷いスランプだったんだ…
東の方じゃナイフ投げ芸で結構人気あったんだぜ俺…でも、こちらに来る途中に誤って子供に怪我させてしまってな。それから無難な芸しかやれなくなっちまってたんだ。」
訥々とピエロのラファルさんは語る。
「アンタが俺を発奮させてくれたおかげで、これからこっちでも何とかやってく自信がついたよ。こいつは礼だ!」
と言って半分に分けたおひねりを全部差し出してきたので丁重に断った。
「僕は元々、依頼分を前金で頂いてますので、手間賃だけでいいんですよ」
「アンタはさっきから誰かに頼まれたって言ってたが一体誰から頼まれたんだい?」
僕はそれに首を振って答える。
「それがショーの後いくら探しても見つからないんですよ…白髪の老紳士風の方なんですが、ラファルさんの方はご存知ないですか?」
「いや…分からないな観客にもそれっぽいのはいなかったし…」
ラファルさんは少し考え膝を打った
「きっとアレだ。その人はレギオン様の分け身かお使いだったんだろう!
ここに来るまでの噂で聞いたぜ?レギオン様ってのは多種多様な姿でヒトの前に現れて、困ってるヒトを導いてくれるって!
今まであんまり信心深くなかったが、これからは少し祠にお供えなんかしてみようかな?」
と冗談めかして言う…

老紳士が一体誰だったのかは今となっては分からない。
しかし、彼がくれた金貨は本物で、僕は無事にボルトアクションライフルと上下二連式のショットガンと工具・弾薬を買うことができた。今はそれでよしとしようと思う。

数日後、ゴンザレスさんに今度は今から交易のため外国に行くという話を聞く、少し長めの旅になるかもとの事だ。
市場で最後の買い物をし、広場を見るとラファルさんの所が人だかりになってるようだ。
それを目当てにした行商人も多く集まり、人が集まる噂を聞いて他の町から来たらしい旅芸人の姿も見える。

人が人を呼び 人が人を富ませる
今までと比べられないほど活気があふれるその情景を見て、老紳士が言っていた事はこういう事だったのかと一人納得する。
遠くからラファエルさんに会釈をし、その場から立ち去る。
今度やり合う時までにもうちょっとリロードを早くできるようになろうと思いながら

蛇足
突貫で作ったのでたらたらと長いです。
やっぱり結構好き勝手に書いてますのでまずかったら教えて下さい。
本当は西部劇らしくレバーアクションライフルを買いたかった…


  • 実は新天地は異世界で最も地球と融合している国なのではと感じました。RPGのパーティーのようなすごくキャラの個性豊かな面々の中ニいて主人公はどういう風にレベルアップしていくのだろう -- (名無しさん) 2013-03-26 19:57:27
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る
-

タグ:

ss
+ タグ編集
  • タグ:
  • ss
最終更新:2011年10月17日 12:22