いよいよ宴の開始。 階下のホールでは色彩豊かな森の鳥族衣装を纏った鳥人の楽団が演奏を開始すると、給仕のハーピー達もつられて歌いだす。
小さな壷が“主”と呼ぶ狐人の少女が物品払いした額は相当に大きく、籠目鳥が急遽、街の楽団を雇い呼んだのだ。
一階のホールの他にも二階三階にも宴の席が設けられており、開始から空飛ぶ給仕が忙しなく往復している。
そしてその上、五階にあるのが特別な客だけが座れる特等席がある。
派手ではなく落ち着いた服装と様相のハーピーが、賑やかさとはまた違った趣のある御持て成しをしてくれる。
そよぐ風精霊は立ち込める熱気を冷まし、常に席を快適に保つ。
適度に柔らかく葉香水清々しいクッションに座らされた少女であるが、すでにその褐色の頬は桃に染まり湯気立つほどの期待の熱気は風精霊の手の負えないところになっていた。
「とてもすごい大盛りなのだ! お豆とお肉のはーもにーなのだ!」
前菜飲み物お構いなしにといきなり目の前の大皿から獣肉香草巻き焼き串(デラックス版)をむんずと掴み、
これでもかと開いた口の中に収まった。
噛むほどに溢れる肉汁と多様な刺激と酸味がほどける巻き香草に早くも御満悦だが、流石に口の端より押さえ切れない汁が周囲に飛び散る。
「粗末な食い方はよせ~~!」
もう二串目に手を伸ばそうとしていた少女は頬を膨らませたまま隣を振り向くと、
座布団一枚向こうにもう一人、自身と同じくらいだろうか、小さな客が座っているのに気づいた。
その顔には溢れ飛ばした汁が体毛を彩っており、ちょっと憤怒。
しかし、どうやらその怒りの理由は飛んできた汁だけではなさそうで…左目を布で覆う猫人の少年。
「ふにっ?」 むぐむぐむぐ
頬がどんどん小さくなる少女が不思議そうに振り向いた。
「砂漠じゃ作物が育ち難い動物の少ない土地なんてザラにある。そこに住む人らは明日の飯にもありつけるかどうか分からない生活をしていることだってある。
信じられるか?しなびた果実一つで殴り合いが起こる事だってあるんだ。
俺にはあんたが溢して座布団に染み込んだ肉汁の一滴すら勿体無く思えるぜ」
鳴り響く音楽、絶え間ない談笑。 しかしここには静寂が漂う。
「楽しんでいらっしゃいますか、お客様… あら?」
ホールから飛びやってきた女将が、しんと静まる特等席に首を傾げる。
ぷるぷる… ぷるぷる…
「なんと!なんと!お静まり下さい主よ! ここで御力を解放されるおつもりか!」
少女の膝下で壷が右往左往。一体何が起こってしまうというのか。
っぱぁああっ
「感動したのだ! 食べ物は粗末にしてはいけないのだ! もっと大事に食べるのだ!」
晴れやかな褐色の笑顔を溢れさせた少女はそのまま次の串を手に取り、今度は汁の一滴も落とさずにじっくり味わって食した。
何故か先程よりも食べ終わるのが早い。
「おっ、丁度良い所に女将。こっちの客が凄まじい勢いで食う上に俺の前にあった皿まで平らげる勢いで困ってるんだ。
料理の追加とか頼んでもいいか?」
「そう言われるだろうと思いまして、メインディッシュをお持ちしましたわ」
数人のハーピーと風精霊で持ち上げてやってきたのは広くやや浅い鉄鍋。
まだ熱が冷めないのか、その表面はまだ少しだけ煮だっている。 見たことも無い…
「茶黒い汁だってぇ!?」
「気になっていたのはこの匂いなのだ!」
「オルニト風特別製謎野菜と肉カレーでございます」
カレー。そう呼ばれた料理は質感のあるスープだが中が全く見えないのだ。
「小モロコシの豆盛り、穀生地焼き、森野菜の切り盛り。どれでもお好きなものにカレーをかけて召し上がり下さい」
「すくってかけて… むぐ!これは煮込んでも歯ごたえのある肉! 辛さと織り交ざる香辛料のハーモニーがかける料理の味を変化させる!」
「これはおいもなのだ! 香辛料も野菜もカレーの中に溶け込んでいるのに身崩れしないほくほくのおいもなのだ!」
「これは特別なお客様のためにいつもの倍の香辛料を使いましてございます。 食材も今日手に入れた新鮮なものから風穴で寝かせた年代ものの熟成肉でございます」
少女と少年はこぞってカレーを堪能する。 料理はまだまだ運ばれてくる。
「ううむううむお見事成りお見事成り。 まさか誰もが思いながらも中々諭せぬことを言ってのけるとは」
「カー・ディエル、未だ未熟なれど神と対してのやりとり。 これより先に繋がる大きな一勝でございます。
まぁ本人にその自覚はありませんでしょうが」
ぱかぱかと蓋が開き閉じする壷の横で小さな褐色の人影は、料理を次々とむさぼり食らう様を見てうんうんと頷く。
「命の恩人様!こちらのお料理など如何でしょうか? 朝一番にもいだ大モロコシをすぐさま焼いて冷風で新鮮さを閉じ込めましたものです」
一人、着飾ったハーピーの給仕がカレーをかき込むディエルの皿にドンと香ばしくも冷気を放つ焼きもろこしを置く。
「命の恩人なのだ?」
「はい。この方は使いで空を飛んでいましたところ羽蟲に襲われた私を助けてくれたのです。
マダムも「最上の礼を」と仰ったので、今宵の宴に招待したのでございます。 でも何故空の上から落ちてこられたのでしょう?」
「あー…試練には常識なんて通じないからなぁ。 気が付いたら落ちてた。 落ちてる先に刃王蛾がハーピーを襲ってたから飛びついて追っ払ったんだよ。
砂漠の砂嵐も夜闇も平気で飛び回る凶暴な蟲だが、触覚を握ってしまえば方向感覚を失ってズドン!よ。何せ眼が退化してるからな」
(おい!そういやなんであの時太陽牙も獅子牙も出てこなかったんだよ! 真っ二つに羽切ってやろうと思ったのに焦ったぞ!)
(まだまだ御身が未熟なれど、仕方なきことでございましょう。 精進なさいませ)
かくて籠目鳥の美味しい匂いに溢れ踊り歌う宴の夜はふけていきましたとさ。
今はまだその運命の入り口に立つ未来王と純粋な食の塊である金羅の席隣り合う宴でした
- 未来の王と大延の神のVIP同席の豪華さいいね。カレーの食べ方に思わず唾を飲んだ -- (名無しさん) 2014-07-28 22:20:24
- たいていの食材はカレーにほうりこんだらおいしく食べれる。ディエル君の純朴さが彼らしい。かなり縦に長い宿なのかな -- (名無しさん) 2014-07-31 23:44:16
- 料理や食事の話は雰囲気が明るくていいな。美味しい料理には神も引き寄せられてくる -- (名無しさん) 2014-09-11 23:36:00
最終更新:2014年07月28日 23:39