地球から異世界へと渡り開拓という志と共に生きた人々の物語…
ドニー・ドニーで紆余曲折、やっと島一つの権利を入手し移り住んで早三ヶ月、未だ寒風吹き止まない。
異世界資源採掘の拠点をと数社共同出資の元で派遣され、現地にて協力業者を雇った。
聞きしに勝る海賊の国は何もかもがハードでダーティだったが、約束に固いのが救いだった。
意思疎通か指示系統の徹底かはたまた逃亡者への危惧か…どんな難題がやってくるのかと思っていたが ──
「この島は特に火精霊が寄り付かないんですな。 こんな島に住もうと思う人はいないんですな」
火源の確保でした。 後、だから他の島に比べて手が届く値段だったのか…
「ほうほう?摩擦とな?」
見るからに蟹の人が由緒正しき木擦り着火法を覗き込む。 「契約ですからな」が口癖の彼は異種族の誰よりも真面目に仕事に取り組んでくれた。
異世界と言えども化学反応のそれは地球と同じなようで、こうして我々は焚き火という生命線を得た。
「これは凄いですな。ほらほら見て下さいな、どんどん火種ができますな」
肩、脇、腹より生え出る甲殻腕が次々と木を擦り火を起こす。 枯木も枯葉も有限なので自重するように言ったが…炎に囲まれる黒瞳を爛々輝かせる蟹人というのもシュールである。
そして移住して一ヶ月も過ぎた頃、夜嵐に見舞われテントの半分が夜空に吸い込まれ、もう半分が損傷してしまった。
やはり雨風を凌げる頑強な家屋が必要なのだと島で材料集めに奔走する。
「ドニーの木ってのはどうも頑強すぎらぁ。鋸の刃が全っ然たたねぇや」
寒い中でも半袖で作業に励んでくれる猪人が林の前で頭を抱えている。 確かに素人目では何がどう違うのか分からないが、まるで鋼である。
「ドンナ固イ物デモ刃ノ立ツ【目】トイウモノガアリマス。ソレニ沿ッテ鋸ヲ引イテ下サイ」
厚着でもっこり膨らんだ蟋蟀人が木に引いた線。 それをなぞると嘘みたいに刃が入っていく。
力自慢達が建てた木造の家の中は快適で、外はどんな風雨も跳ね返した。
拠点…社屋が出来上がるとどこで話を聞いたのか働きたいという者達がぽつりぽつりと訪れるようになってきた。
「なんでぇ、皇帝んとこのもんじゃねぇか。遂に船が沈んで団を閉じたってかぁ?」
団体でやってきた魚人鱗人はどこかの海賊団の者らしい。
「いや、なンだ。いよいよもってカタギで稼がンと立ち行かなくなってきたってンで、頭(かしら)が本格的に海底調査をしようと乗り出したンはいいが
あれやこれやと準備に金がかかるもンで、団総出で出稼ぎってなもンよ。 ってか、お前も大母(マム)ンとこの水夫じゃンかよ」
我々と同じ様に、彼ら異世界の者達も
ゲートが開いたことによる変化に苦慮しているようだった。
三ヶ月目、島の一角が慎ましい村の様相を呈した頃に砂浜から喚声が響いてきた。
「【鯨】だぁ!沖で鯨が背中を見せやがったぁ!」
「鯨とは?」
「兎に角大きい海の生き物のことですな。 しかしこんな陸の近くにまでやってくるとは驚きですな」
「おいおい、この島は掘り出し物かもしンねぇぞ? 鯨の巡泳路が目と鼻の先の島なンて滅多にないからな!」
全員が見て分かる程に活気付く。 何時の間に造っていたのか、防砂風林を突き破って中型船が姿を現す。
単なる海運の拠点よりも何か売り物や特産があれば良い?大物を獲った実績があればもっと人がやってくる?
いや、そんな打算ではない。私に銛を握らせて船に乗り込ませた原動力は、異世界にやってきてから心の奥に芽生えて育った
【海の男】の魂だ ──
異世界の植物王国
エリスタリアで農業を!地球で見たことの無い新商品を!
対外府で農地獲得申請を行ったところ、想像以上にあっさりと認可され夏季領の森の一区画を宛がわれた。
こちらの指示を愚痴一つこぼすことなく確実に遂行する樹人応援員達も研修生という名目で無料で貸与された。
草むらを開墾し畑を作る。森の片隅にある湧き水から引水し溜め池へ。 丈夫な茎葉で納屋や家を建てる。
地球より持ち込んだ種であったが蒔いて一ヶ月は育ちが遅かったが、その後急にのびのびと育ち始める。
樹人が言うには「土精霊などが異界の種を理解し受け入れたのでしょう」とのこと。
馴染んだ、ということなのだろうか。
この調子だと三毛四毛作も問題なく行えるだろうと思ってはみたが、土壌の疲弊が気になった。
作物は確実に成長するに土を弱めていく。しかし、このエリスタリアの土は何かが違っていた。
バイオ工学を専門とする部署の報告では「まるで土も生物として成長している」というものだった。
農作業も軌道に乗る中で何度か
世界樹の使いと名乗る者が「より良き種子でございます」と見たこともない種子の数々を寄進してきたが、
私の直感がそれを蒔く事を良しとしなかった。
新商品の開発は頓挫していたのは否めないが、蒔く度に姿を変化させる地球の作物に違和感を持ち始める。
依然として樹人達は黙々と畑を耕しているが、スタッフの中では現状を危惧し一旦耕作をリセットしてみてはどうかという案も出てきた。
その日の晩だった ──
畑から響く地割れる音が連続して起こるや否や続いて納屋が倒される音。
慌ててスタッフ一同が飛び出すと夜闇に蠢く白く巨大な影、影、影。
鳴き声もなくこちらに頭を向けた白い岩が徐に歩調を早めていく。
逃げ惑う私達に向けて一頭が飛び出すと空気を破る突進。 飛びかわす距離を潰す巨体は回避不可能。
回る走馬灯も農作業だらけの自分に、自分でも少し笑った。
ズドーーン ズドドドドドン
突如眼前で白犀が転倒する。 何事かと目を凝らすと、これまた闇に映える白い小さな体…子供大の…大根?上に佇んでいるのは…雛?
その小さな体の倍はある木槍を左右に振る。 避難せよと言う事だろうか。 しかしこれは助かった。
兎に角この場から逃げなければと駆け出した矢先、他の白犀が突撃してくる。 逃がしはしないということなのか。
「ちぇすとおぉおおっス!」
空中から巨大な剣と虎人の巨躯の重量を上乗せした一撃が白犀の太い背をくの字に折った。
「マズア君、いきなりそれはやり過ぎでしょう!素材が傷みます」
地を滑る様に接近、頭部らしき部位を二対の小剣で滅多打ちしたのは
エルフの青年。
「横!もう一匹きます!」
呆気に取られていた私達の側方から最後の一頭が突進してきていたのだ。
ピーヒョロロン♪ ピーピーヒョロロー♪
ドゴンッ!
白犀の突進を隆起した地面が遮る。 土精霊が突き出した壁より顔を出し敬礼すると土くれに戻る。
「早く避難を!狂種となった菜獣は見境なく周囲に襲いかかるんです! しかしその細胞が活性化された身は素材としては稀少!」
大きな笛を担いで避難を示唆したのは私達と同じ人間の、青年だった。
「【樹】の力を幾許か感じる。皆、油断するなよ」
崩れた土壁の代わりに私達の前に、ぬっと現れたのは…牛?喋る牛!
激しい大立ち回りの末に菜獣は無力化され難を逃れた私達に先程の青年が言う、
「エリスタリアでの農業は一歩間違えると狩り、戦いになるんです。 もしまだエリスタリアで農業を続けるのなら再度準備をして出直した方が良いでしょう」
確かにそうであった。私達は異世界の旨味しか見ていなかったのだ。甘かったのだ。
しかし何故だろう、この胸の奥に湧き上がる熱いモノは。 農業に携わる者としての意地か負けん気か。
握る拳は再戦の【誓い】だった ──
- 異世界に入って感化されるのも納得する環境だった。国柄ある現場の空気が伝わってくる -- (名無しさん) 2014-08-24 16:52:25
- 異世界の生活って体育会系だよね -- (名無しさん) 2014-08-25 22:30:22
- 種族を越えたソウルな繋がりっていいな -- (名無しさん) 2014-08-29 22:21:47
最終更新:2014年08月23日 18:10