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【異世界ショーバイ 第一話】

「向こうから押し寄せてくる砂埃が…例の?」
「はい。あれが《輝きの執風》なのでっす。
かつてこの地に落ちてきた《輝きの風》によって狂った自然摂理により風と火の精霊は強制的に融合されその力を暴走・消滅するまで荒れ狂う焦波っ!」
「この外装、本当に大丈夫なんです?」
「はい。我々は変化を繰り返しこの環境に適応したのでっす。 恒久的な防護ではなく完全に焦風を防いでは入れ替えることで安全性の確保を実現したのでっす」
「薄く重なる構造はそのためなんですね。成程成程」
「夜の間に脱ぎ変えた外皮の中で状態の良いものを厳選し重ね合わせた防護服でっす。
他種族の方がソルトスパイア盆地の移動を可能にした、我ーがチムニーメイカー氏族の自慢の一品でっす」
そうこう話している内に視覚できそうなくらいの質量を纏った赤い砂塵が押し寄せてくる。
一瞬で飲み込まれた狂い叫ぶ暴風の中でも少しの熱も感じさせないその性能に一行が感嘆の声をあげた。
暫くして後、焦風は遠くへ過ぎ去ると再び少しの風音が通る砂漠に戻った。
「それでは先に進みましょうかっ。我々の蟻塚までもう少しでっす」
オルニトとの国境付近、マセ・バズーク側の西海岸に到着してから蟲荷車に移ってから半月。
大陸を横断して東側海岸へと向かう道程は最大の酷地に踏み入った。


 【 第一話:はじまりのポイント 】

完全に熱を遮断した蟻塚は見た目の美麗さも併せ持ち観光ホテルとしても十二分な物件ではないかと素直に感心する。
地底や塚の中に広がる菜園や虫牧場など生活基盤も氏族の進化の賜物なのだろう。
しかしあまりにも苛烈な土地環境は凡そ観光地向きではないし、私達の商隊も事前情報でチムニーメイカー氏族の出張所があると分からなければ
無理強引に砂漠に踏み込んだ後に焼かれそうになって引き返していただろう。
 『砂漠を移動するための防護服あります』
掘っ建て小屋に似つかわしくない巨大な看板にはあらゆる国の文字でそう書かれていた。
昼食一回分の値であれ程高性能なものが買えるのは蟲人の商売っ気の無さ故か、耐用有限であるのも含めて複数回買うのが前提であるのも儲け話として申し分ない。
耐熱耐乾に極特化した外皮のせいか、塚の中の温度や湿度が合わないのであろうあの頑丈極まりなかった服はたちどころにヒビが入りぼろぼろと砕けた。
「ソルトスパイア盆地を抜けるのにはまだ五箇所ほど蟻塚を経由しなければなりませーんが、防護服を購入するためのポイントはお持ちですかー?」
蟻塚の中に入る前にお別れと一緒に案内人が尋ねてきたが、あの価格であれば全く問題ないだろう。
一瞬で外皮を脱いだ案内人はそれを聞いて一礼し再び砂漠へと戻っていった。
会話の最中にやたらとマラカスめいた楽器を振るのが目立った気さくな蟲人だった。少し名残惜しいかも。
塚の内部へ表面硝子層から屈折した夕陽が差し込んでくると、入り口大ホールに籠を背負った蟲人がやってくる。話に聞いていた《夜の氏族》というものだろう。
目の前までやってきた蟲人は籠の中から甘い香りを持つ茸を取り出し差し出してくる。
早速それを受け取る頬張って見ると想像以上に甘く柔らかい身がサクサクと割けて食べるのが楽しくなる。
茸を差し出した手を取ると「不思議?」のフェロモンが漂う。その首を傾げたのを見て5ポイント乗せ渡した。
「感謝の気持ちについた色みたいなものなので受け取って下さい」
防護服一着が300ポイントであったところから勝手に導き出した心積もり額である。
が、それでも受け取った蟲人は歓喜のフェロモンを出し小躍りして外部との扉に近づくとトントンと叩く。すると外から同じようにトントンと叩き返してきた。

私含めてこの地に踏み入った者は商隊におらず、観光気分で土産物を買おうとした者もいたが
これから未踏破へ赴くのにそういうものは不要だとゴブリンの商隊長が促す。
それとは別にマセ・バズーク横断のために持ってきた甘味物と野菜の種を売り、ポイントをいくらか得よと指示が出る。
 《ポイント》というのはマセ・バズーク流通の通貨である。
大きさは小指の先くらいの球体で、半透明乳白色の内部には色の付いた胚のような玉が見える。
その内部の玉の色と数により価値が決まり…まぁ所謂1円玉や10円玉みたいなものである。
が、札というものが無いためか、まだ見たことはないがポイント一つで10万100万という価値のものまで存在すると言われている。
しかしこれが蟲の卵であるというから驚きである。孵化しない卵、それがポイントなのである。
では造幣局には大量の母体蟲がいるのか?と想像し蟲人に尋ねたこともあったが「それはどうでしょう」という答えしか返ってはこなかった。
通説では世に出回る(産み出された)ポイントの数は全て把握されていて、マセ・バズークの経済状況や国内物産の交換度合いによってその総額総量が決定されるとのこと。

この氏族領を越えた先の海岸沿いの領地ではポイント次第で軍艦レベルの頑強な船舶も購入できると情報を得た商隊長の考えである。
生物を拒絶する盆地を体験し、その先にある未踏破領域への警戒心が高まったのだろうかと予想したがさてはて。
 『未踏破を目指す』
この動きは日に日に大きく広まっている。主にそれらを主導するのは商人達である。
「他者が拓いた土地ではなく自らが拓いた土地で商売に先んじる」
近年じわじわと市場に出回る未踏破からの産物とその価値が商魂を滾らせるのだろう、それまで御伽噺と言われてきた冒険者や王の譚物の中にすら手がかりを求め我先にと人を派遣した。
その動きは中小の商会に特に広がり、私が入った《ゴブリン飛空団》もその中の一つであり地盤固めよりも先に未踏破派遣に着手したのだ。
余談であるが特に空を飛ぶ術を持たないのに飛空団と名が付いているのは商会長ゴブリンが昔クルスベルグの空を飛び回り名を馳せたというところから付けられたと言われるが
一体何処までがホラで本当なのかは…まぁ商売をする上ではそう重要ではないか。
何でも良いので商売したかった私と、ラ・ムールで猫少年とすれ違い様に辺境へ飛ばされ、オルニトで屋台を覗いたところを全く違う国に飛ばされながらも生還した私の異世界遭難生還履歴を買った商会。
両者の利益の合致により私は雇われ今回の未踏破派遣へと参加することとなった。
ルートはクルスベルグの東港を出港しスラヴィアを経由してマセ・バズークへ入り大陸を横断し未踏破近海を南下し大陸への道を模索するというもの。
マセ・バズークを横断するのはその南方海域が危険海域であり海路もままならないからである。
まだ誰も入ったことのない土地で商売を広げる…勤めては雑務や事務ばかりで飽き飽きしていた日本での人生よりも何と魅力的で胸躍ることか!

夜明けと共に新たな防護服に着替え砂漠へ挑む。
案内を引き受けてくれた蟲人は昨日と同一人物に見えたが別人とのこと。見れば持っているのはマラカスではなくタンバリンのようなもの。

 四条 開拓(しじょう ひらく)、二十代半ばで人生の諦めモードに入っていましたが異世界にて第二の人生の始まりですわー興奮しっ放しですわー


一人の人間(性別女)が商いの道を異世界に見た。 果たして無事に未踏破へと入ることができるのだろうか?
マセ・バスークの名所は【ソルトスパイア】を参考にさせてもらいました。
本作は通貨や価値などに多くの独自設定を含みます。

  • 世に出回っている数が把握できる貨幣ってなんかすごいな。盆地砂漠で活動している蟲人は順応しすぎて砂漠でしか生きていけなさそう -- (名無しさん) 2015-07-28 01:00:34
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最終更新:2015年07月26日 15:24