【ドニーよりクリスマスを詰め込んで】


ドニー・ドニーの年の瀬。港都には毎年恒例である鯨風が南の湾口から吹き寄せる。
一層の寒さに覆われるドニーの港であるが、そんなことで縮こまる海賊国民などいない。
「いやぁ参ったわ!何の巡り合わせが悪くて行きも帰りも嵐に見舞われるってんだ?」
「そらお前ぇが空読みの言う事無視して海に出るからじゃねぇかよ。海荒れるっつってんのによ」
「しっ仕方ないだろ!鮮度が命のブツの上に腐れ神の祟り付きだったんだ、さっさと運んで売っぱらっちまいたかったんだよ!」
「年の瀬だってのにシケた話してんねェ!そんなんじゃ来年もシケたまんまだよ!命が残っただけでも御の字だと思いさね!」
ウツボ人とナマズ人の間にカサゴ人が割って入ってくる。半分減った酒瓶を片手に出来上がっており上機嫌。
「今年の厄払いにパーっと飲みに行くさね!」
「いやいや…俺の話聞いてたろ?借金払いきるために船から何まで競りにかけられて年越せるかどうかもやばいってのに!」
「お前ぇは海中運輸が上手くいって財布も温かいんだろうけどよ」
そこまで言うとカサゴが何やら一枚の紙を取り出して見せる。
「そんな二人に朗報さね。ココなら飲めるんじゃないかい?」
「何々?」「どれどれ?」
 『フタバ亭デジマ店 今日明日クリスマスサービスで全品半額! 準二級酒類まで五杯目からタダ!』

「クリスマスとかこっちの人に分かるんかねぇ。安く飲めて食えるってだけで客が入っているようにしか見えないんだが」
フライパンの中に調味酒をさっと振りかけて仕上げ。小皿によけてある刻んだ香草を雪麦飯の入った丼にまいて、
そこへ豪快に先程のソコガクレの照焼きを丸まま乗せる。
「はいよ。ソコガクレ焼き丼おまち」
「ホヨホヨ。お次は浮き蛸のお造りと海筍焼きにゃ。無駄口叩いている暇はないにゃ」
強面のコックが差し出した皿4つを器用に持つと最後のグラスを尻尾でくるりと巻いた猫人はそそくさとホールへと走る。
「お酒の方は私達で注いで出しますから料理頑張って下さい」
給仕服のオーガが並べたジョッキへ様々な樽から酒を注ぎながらエールを送る。
「ありがたいねぇ。おっと並みジョッキは泡がこぼれちまう前に止めるんだぞ」
「あっいけない。ちょっとサービスしちゃいました」
「まぁクリスマスサービスってことで許してくれるだろうさ。…っとエルフのあんちゃんまた客に声かけてやがる。
ラニちゃんが帰ってきたら言いつけるぞとケツ叩いてきてくれ」
地球の祭事であるクリスマスを盛り込んだイベントは増築した二階ホールまで客で埋まる大盛況っぷり。
赤と白の映えるサンタ風給仕服で彩り鮮やかなスペシャルメニューを運び回る給仕の面々は目の回る忙しさである。
「盛況じゃないか」
何でもない背丈のゴブリンたった一人が店に入ってくる。それだけで空気が一瞬張り詰める。
「おい、ネモチーだぞ!」
「黄金の杯、七大の一角の?俺ァ初めて見たぜ!」
「団長自ら借金の取立てとかか?恐ぇええ」
注目する客達が好き勝手に囁く前で店の奥から出てきたオークの店主が一礼する。
「ようこそ。旦那、席を空けましょうか?」
「いや、それには及ばんよ。年末の挨拶回りで立ち寄っただけでな。…ラニ嬢の姿が見えないが?」
「へい。ラニさんは今夜から帰郷すると出発した後でして」
「今朝今月の返済をしにきてその足でか。ドニーの出世頭の頭脳は何とも忙しいものだな。
まぁしかし、帰る場所がある内は帰れる時に帰るのがいいだろう」
海賊服ではあるが、大人の上背には足りない細身のゴブリン。
しかしネモチーの放つ雰囲気は大物のそれであり、客の喉も思わず重たくなる。
「どうやら今宵は出た方がいいみたいだな。邪魔したな店主。来年も頑張ってくれ」
「ネモチー見るおもしろい服」
店入り口の土産売り場からどすどすと走って来るのは白黒の縞毛並みにサンタ服を着た白虎人である。
その後ろから同じくサンタ服を着て走って来るダークエルフ共々ネモチーの護衛である。
「…クリスマス、か。知ってはいたが色々面白そうじゃないか。今度ラニ嬢に詳しく聞いてみるとするか。
よし、次に行くぞ。パルの娼艦がデジマに繋留してあったはずだ」


「ねぇメノー聞いていい?」
「何だ?」
「ドニーに着いてからずっとここにいるけど…」
「ん?ああ。依頼主を待っているんだ。もうすぐ来るはず」
「…二人でクリスマスイヴに出掛けるんじゃなかったの?」
「異世界に来たじゃないか?」
「でも仕事でしょ?」
「ああ!冒険者ギルドから御指名の依頼だぞ! いやぁあのナントカ教団事件からデカい仕事が入ってくるようになったよな!」
「うぅ~、メノーが「着くまで寝てていいぞ」って言うから背中に甘えたのが間違いだったよ」
「お?依頼人が来たようだ。内容通りに赤い服に大きな袋、ノームの少女でばっちりだな」
「あれってサンタクロースの格好?異世界でもクリスマスってあるんだ」
近寄る気配に寝ていたワナヴァンがぽぽぽぽと首を持ち上げる。
「貴方達がギルド推薦の空送屋さんですか?」
「そうです。して、荷物は貴女とその袋で送り先は新天地、ニシューネン市で間違いないですね?」
「はい、依頼者のラニです。今晩中に到着ということでお願いします」
「えっ?ちょっとメノー、デジマからニシューネン市って結構距離あるよ?!それを今晩中って…もう夕方じゃないか!」
「できらぁ!」
「ちょっとメノー!」
(この大口仕事の代金が入れば新年市場で目当ての革が買える!)
(私の有閑厩舎生活のためには二人の貯蓄が必要なのだわ)
ワナヴァンの荷鞍に固定されるラニの袋。離陸準備は整った。
「さぁ行こうぜイスズ!お前と一緒じゃないと出来ない仕事だ!」
「もう!本当にメノーは後先考えないんだから。ボクがいないとどうしようもないよね」
三人がワナヴァンに騎乗する。積載スペースギリギリである。
「でも本当に間に合うの?」
「任せろよ、ちゃあんと奥の手は整えてあるんだ…っと!来た来たぁ!」
夕の陽に染まる海原に突如大きな風が吹く。それは旋風となり視認できるくらいに密度の濃い大気の流れとなり…薄い透過する碧の
ワナヴァンの姿を形成した。
「これはとても凛々しい伝説に語られる様な飛竜なのだわ」
「お前、厩舎暮らしでジョークまで覚えちまったのかよ。それは兎も角、呼び掛けに応じてくれてありがとう風の大精霊!」
『うむ。姿が見えぬでは都合が悪かろうとそちらの飛竜の姿を借りた。 して恩人よ、我が返す恩の形は決まったのだな?』
「メノー、これってひょっとして教団の言縛から解放したあの風精霊?」
『うむ。件は切に感謝しているぞエルフの者』
「さぁ早速その力を貸してくれないか? 新天地、ニシューネン市までの空に風の道を通して欲しいんだ!」



異世界にやってきた二人の前に登場したのはラニちゃん
彼女をドニーから新天地に運ぶのが今回のミッション!時間は限りなく無理難題
果たして風精霊の力でどこまでできるのだろうか?イスズのクリスマスはどうなってしまうのか?

  • ベンチャーノームラニちゃん!商売も上手くいってそうで何より。イスメノ特急便でクリスマスに間に合う? -- (名無しさん) 2016-01-02 23:06:45
  • 異世界も年の瀬は賑やかで楽しい酒場の風景。大精霊にコネを作った事件の顛末が気になるところ -- (名無しさん) 2016-01-09 06:07:35
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最終更新:2016年02月03日 04:13