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【ゲート拘置所での取材】

ゲート祭の期間中に実施されるゲート移動範囲の緩和拡大。
およそこの時期に世界異世界を飛び回らない記者はいないと言ってよい時代。
いち記者として自分も今年は各国のゲート施設が現状どのように運営されているかを取材すべくドイツより出発しクルスベルグ、日本、ミズハミシマ、シベリア、ドニー・ドニーと巡り
イギリスゲートへと到着する。
今年は特にゲート施設の拘置所や待機所を重点的に取材している。
異世界側における地球に対応した教育や研修などは年々充実していくものの、未だ異なる世界の文化文明に馴染めず問題を起こす異種族は多い ───と言うのは世間でよく言われているが、
実際に地球での生活を始めれば異種族とて人であり、目的を持った生活の中での順応速度は人間と然程変わりはないのである。
ではゲート施設にて問題有りとして身柄を拘束されているのは一体どういう人なのか?
意外か当然なのかそれは異世界側でも地球側でも人間が最も多く拘束されているのだった。
法にて禁止されている若しくは異世界側にて禁止されている物を持ち込む、事前説明を軽視したりそもそも意識していない等々…異世界行き手前で止められる異世界に入ってすぐに止められるなど。
反面異世界からやってくる異種族がゲートにて問題を起こすというのはあまりないという。
他国、他所の領土へ入るという意識の違いがそういう結果に繋がっているのだろう。

ゲート施設にて拘置される人間というのは大体が分かり易く残念な者なのだが、ここストーンヘンジゲートには一風変わった者が継続されて拘置されているという話がある。
一般人や健全にゲートを通過する者には縁のない場所だけに詳細は流れてこない。
では直接取材を申し込んだならば?と施設側に打診したところすんなりと承諾されたのだ。

ゲート出現から十年以上が経過したものの世界各国は未だにその扱いに苦慮しているのが現状である。
旅行観光交流の基盤として運用され成功している様に見えても管理や運営など人も金もかかるものであり、ゲートによる利益換算がはっきりしないうちは経費捻出へのハードルは高い。
そのコストに対して運営と権利を国際連盟に譲渡する国も出てくるのは当然だろう。
極力コストを下げるために人の良心に委ね土地を半ば開放状態にする国もあるが、商業的な利用価値と軍事利用における位置的な困難さ故に成功しているとも言える。どの国でも実行可能というわけではない。
大国ともなれば異世界に対する姿勢などで表から見えるものとそうでないものがあるのも自然だ。
なので進んでゲート関係に踏み込む記者は多そうに思われていても実際少なく、その情報源は人づてや周辺への取材や旅行者の報告などに頼る部分が大きい。

「最初に断っておくが私は別に犯罪者や容疑者ではないので」
写真付きの書類の山に挟まれて無精髭にまみれた初老の男性が座する狭い一室に通されて最初の一言である。
拘置所エリア内にある一室を「事務所」と言ってのける人物が犯罪者では無いのは察する。
「この人は過去の逮捕例と現行法の説明を、蟲人は素直だからちゃんと説明すれば大丈夫だよ。決してその角を削れとか言わないように。
こちらの狗人の家族には就労向けの説明会を案内すること。もし外への連絡を希望した場合は素直に応じるように。申請内容から地球にいる主のケンタウロスに用があるのだろう。
これとこれ、二人はまとめて査問室へ通す。私がミラー越しで質問してみましょう。恐らく悪い方の仕事人だろう」
見事なまでの差配。データだけ持っている者にはこうはいかない。経験の豊富さが伺える。
「年々ゲート通過者は増える一方、忙しいったらありゃいないもんさ」
「いえ、取材に応じてもらって恐縮です。見たところお忙しいのに申し訳ございません」
「いやなにね、たまには普通の人と喋りたくなってね。毎日話す相手は職員か異種族か小悪党でね。 で、何を取材したいのかね?」
事務机から離れない男は応接机に記者を座らせたまま話を続ける。
「では最初の質問を。貴方は見たところ立派な職員ですが、どういった経緯でそうなったのでしょうか?」
「経緯、経緯なぁ。私も最初は法を犯したことで拘置されたのが始まりだからね」
「そうなのですか?」
「はっはっは。私には法を犯す意図がなく、法を伝える現地員がエルフとよろしくやってて不在だったこともあって情状酌量多目に受けたんだがね。
まさか異世界で活動している間に法律が変わっているのを知らなくてね。おかでで我が一行全員拘束拘置所入りだったからね」
「その法律とはひょっとして…」
「“異種族銃器所持禁止法”、異世界で集め訓練した小隊全員とその関係者として我が傭兵社員全員がイギリスに戻ってすぐに拘置された。
そりゃそうだろう。何せ法で禁止されている銃器を携帯した異種族がぞろぞろとゲートをくぐってきたんだからな。結構大きな騒ぎになったもんだ」
そういえば大きな扱われ方はしなかったが英国新聞の隅記事に載っていた。もしそれがテロリストの一団であれば扱いは大きく変わっていただろう。
「私がエリスタリアに行って一時帰国した頃にはまだ禁止法はなくてね。政府軍関係者から直接依頼された異種族含む小隊の形成だったもんで意気揚々で戻ってきて捕縛とか結構落ち込んだものだよ」
「そこからどうやって今の立場に?」
「そうそれだった。皆の責任者で代表者として早急に今後を段取りしなくてはならない状況になってね、依頼者からは同意さえあれば軍で引き受けると言われたので、それを含めて地球で就職するか異世界に戻るかを決めることになった。」
「軍関係者、と言いましたが物騒な話ですね?」
「はっはっは、それは上辺だけ見ればそう感じるだろうな。 ではここで一つ話を変えて君に質問だ。何故人間はこの地球上で繁栄していると思うかね?」
いきなりの質問に戸惑った記者ではあるが、やはりというか分かり易い回答を出す。
「それは人間が他の生物より秀でている面が多いからでしょう」
「そうか確かにそうである。私の答えは少し違う。 人間は弱さを自覚していたからこそ進化し繁栄できたのだと思っている」
「弱さ…ですか?」
「そりゃそうだろう!肉体では動物には及ばず空も飛べず水中に居続けることもできない。 人間という種族の出発点はどう考えても絶滅一直線だ。中途半端な体の大きさも実にマイナスだ。
しかし人間は今日に至り地球上で繁栄している。弱さを知り、それを克服してきたからだ。 知らなければどうにもならない。
動物を退けるために動物を知り火を生み出し使った。力に劣るので道具を開発し戦い狩った。環境に負けないように家を建てた」
成る程そうであると納得する記者。そしてその問いがどう質問に作用するのか?と思考する。
「君は異種族を怖いと思うかね?」
不意の問いに動悸が一回大きく叩く。
「…多少は、そう思います」
「そうそれは当然。異種族は一部を除いて人間より強い。怖いと感じるのは当然だ。しかしそれではスムーズな交流はできない。 そこ、で戻るわけなのだよ、物騒な話にね」
記者の頭の中であらゆる情報が今の会話を主軸に回る。それぞれのパーツが交流という目的のために組み合わさっていくことで一つの結論に達した。
「まさか異種族を…」
「人間が信頼するもの、己の弱さを補うもの。それに異種族がなれば良い。極端に言ってしまえば異種族が人間に有用な道具になれば良いのだ」
「それは異種族を人として扱っていないのでは?」
「私自身どうかと思う内容だが異種族を人扱いするための基盤、交流を始めるためには人間側が持つハードルを下げなければならない。
異種族が頼れる存在であり人間の指示を遵守すると分かれば言葉を交わすことにも抵抗は極めて少なくなるだろう。
会話さえすれば歩み寄りは容易い。何せ地球での異種族には異世界神から翻訳加護が与えられるわけだしな。異世界で翻訳加護を受けて多くの異種族と親睦を重ねた私が言うのだから説得力もあろう」
「交流のために分かり易い立ち位置を異種族に持たせる、ということですか」
「そういうことであるが、散々語ってはみたが結局のところ“会話”が行われば良いだけのことなのだよ。
姿は同じの人間が何故今の今まで争い続けるのか?原初の要因は言葉の違い、会話を交わさなかったためだと思っている。
それほどまでに言葉の力は大きい。そして翻訳加護はその力を与えてくれるのだ」

やや壮大な話になったものの、その後はさくさくと応答は進む。
法律が変わったためにゲート施設に拘置された全員の行先を決めるために拘置所から政府関係者に連絡し助力を確約させた。
「異種族混成部隊育成を依頼した軍高官も大変だったみたいでね。それまで政府内にあった異世界との交流方針が180度転換したようなものだからね。
武装禁止に舵を振った大本は未だ分らず仕舞いだが、軍需生産と販売の両面からも方針転換が促されたことから利害を超えた場所からの強い働きかけがあったものと思われる」
そして彼は自身の関係者の身の振り先を決めていく間に、同じく地球入りにて行き違いや問題を起こし拘置される異種族への相談も進めていった。
異世界での経験、異種族との交流で培った交渉力と対話能力にて様々な案件を円満に解決していく彼を政府は登用する。
男の肩書は政府付き異世界交流管理促進員となっている。既に容疑は解かれているが、その行動範囲はゲート施設内に限定されているためにほぼ毎日が施設での往復や面談に費やされる。
「会話は良い。地球にやってくる異種族に翻訳加護が付くおかげで誰とでも言葉が交わせる。そこに交流が生まれれば大体は平和的にことが運ぶ。それこそ争うのが馬鹿馬鹿しいと思えるくらいにね。
異世界で集めた隊員どころか社の隊員すらが再就職先に軍を選ばなかったほどにね」

取材は無事に終わり、私は交流という一つの目標に対して延びる道が決して一つではないのだと改めて実感しストーンヘンジゲートを後にした。
その後に予定していた日程を切り上げ編集部に戻ったのは、心にこもった熱が冷める前に記事をまとめたかったからだ。
今年の大ゲート祭の記事は今までとは違ったものになる予感を胸に、キーボードを叩く指にも力が入る。
「とりあえず…ミズハミシマのカッパ取材の記事からまとめていくか!」


  • 一見平和でも心にもやもやが残ると後で亀裂ができちゃいそうだしやっぱりすぐにってわけにはいかないと思うわ -- (名無しさん) 2016-09-07 23:40:54
  • 国じゃなくて世界が違うレベルだとどんなに講習とか説明しても行った先で間違いとかは起こると思う -- (名無しさん) 2016-09-21 07:11:38
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最終更新:2016年09月07日 02:20