「いやー、何とか間に合ってよかったわー」
「時期と天候を考えて依頼は受けないと駄目だっていつも言ってるのに・・・」
「無理無茶無謀に付き合わされる身にもなって欲しいのだわ」
空を駆ける羽竜ワナヴァンの背に乗る、イスズとメノー。
二人は
新天地に居を構える業者の依頼で、
ドニー・ドニーの外れにある島まで荷物の空輸を行ったところである。
依頼に先だってイスズが仕入れていた天候情報によれば、依頼の目的地近辺に氷精の荒場が出来ていて吹雪になる恐れがある、とのことであったが、ワナヴァン由来の諸経費を可及的速やかに精算したいメノーが強攻に依頼を受領、飛行を決行。
風雪がやや厳しいものになりつつあったが、何とか往路は飛びきって相手方に荷物を渡すことには無事成功。 あとは帰って依頼主に証文を引き渡して報酬を受け取ってミッションコンプリート。
の、はずだったのだが。
急に視界に占める白色の割合が増し、風の勢いも往路とは比べ物にならないほどに強まっている。
「・・・あれ? 高度が落ちてる! どうしたワナヴァン!?」
「吹雪の勢いが強すぎるのだわ。 風精が煽られて荒ぶっているのだわ。 このままじゃ墜落してしまうのだわ」
「ええっ!? メノー、どうするの!? この高さじゃ墜ちたら助からないよぉ!」
「あ、これ無理なのだわ。 墜ちるのだわ」
「待て諦めるなワナヴァン! もうちょっと頑張ってくれよぉ!」
「無理なものは無理なのだわ」
「そ、そんなぁ~!?」
いよいよ猛吹雪に全方位から拘束され、ワナヴァンの風精制御による飛行が不可能になり、
「「うわあぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁ!?」」
「墜ちるのだわぁぁぁぁぁ」
吹雪に包まれた孤島に二人と一頭は墜落してしまうのであった。
「・・・ん、むぅ・・・!? うっわさっむ!?」
「当然なのだわ。 吹雪のど真ん中で雪のベッドで寝ていたら寒いに決まっているのだわ」
「オマエは羽毛があったかそうでいいよなぁワナヴァンさんよぉ!」
「分けてあげたいのは山々だけれど、それは無理なのだわ」
「ならせめて体温を分けろ! っと、ところでイスズはどこだ?」
特段の外傷や行動に支障を来す身体的異常もなく、メノーはワナヴァンにメノーの居場所を尋ねると、
「慌てなくとも、先に確保して羽根に包んであるのだわ。 低体温症になる前に吹雪をしのげる場所を探すのだわ」
「そいつは良かった・・・とりあえず、洞窟的なものがあることを祈って、移動するか」
吹雪の雪原で歩みを止める愚を犯すわけにはいかないとばかりに、移動を開始する一行であった。
メノーと同じく外傷等もない様子のイスズがようやく目を覚ました頃、洞穴をようやく発見する。
「あそこなら、なんとか吹雪は凌げるか? ワナヴァン、狭いけど我慢しろよ」
「この状況下で贅沢を言うほど傲慢ではないのだわ」
「普段からそのくらい殊勝な態度なら、どんだけ厩舎代が浮くことかね・・・」
「そもそも、ボクはちゃんと『吹雪が来るかも』って言ったからね? 無理を押して出発したのはメノーだよ?」
「ぐ、むぅ・・・と、とりあえず入るぞ!」
洞穴にはまず、一番体躯が大きいワナヴァンが入れるかどうかを確認するのも兼ねて当人(?)が入り、続いてイスズとメノーが入る。
ワナヴァンの身体の自由はほぼないが、それでも贅沢は言ってられない。 一行は洞穴に腰を落ち着け、火を起こし、腹ごなしを始める。
「それにしても、この吹雪、止むのかなぁ・・・?」
「精霊の気まぐれなんだっけ? こればっかりはどうしようもないなぁ・・・祈るくらいしかないかね」
携帯用の非常食をちびちびと食べるイスズとメノー、ワナヴァン。
先の見通しなど、洞穴の出口から先と同様、吹雪によって完全に閉ざされてしまっている。 イスズがいう「祈るしかない」ですら果たして通じるのか、それすら怪しいレベルで吹雪が舞っている。
<こちら側>での吹雪は、局所的に大量発生した氷精が荒ぶることによって起こる自然現象である。 それこそ祈りでもして御機嫌を伺い、少しでも早く氷精に散開して貰わねばならない。
そうは言っても、現状のレベルの自然現象に対して干渉できるだけの精霊力を発揮するとなれば、大楽団を結成するか、発生する現象に対応できる霊王(今回で言えば蒼王)に大延国よりお出まし願うか、神の気紛れに頼る他ない。
そして、残念な事に、一般的な<向こう側>の苦学生であるメノーと一般的な旅
エルフであるイスズ、一般的な喋る羽竜のワナヴァンには、楽団を結成したり呼べるだけの資金も、霊王へのコネも、神に頼れる寄りどころも、ないのである。
洞穴に篭り難を凌いだかのように思われたが、吹雪の直撃は避けられ、手持ちの火種で火を起こせて暖を取ろうとも、洞穴内に吹き込む寒風が、焚火が生み出す熱気を根こそぎ拭い去っていく。
「これはマズいのだわ。 吹き込む風が寒すぎて、中の温度が上がらないのだわ」
「うう・・・寒いよぉ、メノー・・・」
「イスズ! 寝るな! 寝たら死ぬぞ! 起きろイスズぅ!」
「台詞が雪山遭難のテンプレすぎるのだわ。 こういう時程、ウィットに富んだユーモアのセンスが試されるのだわ」
「うるせぇぞワナヴァン! 畜生、オマエ一頭だけ羽毛でヌクヌクしやがってぇ!」
「ああ・・・イスズ・・・ボクもいよいよそっちに逝くよ・・・」
「寒さで頭が鈍りだしたのか!? イスズ、しっかりしろぉ!」
「メノー・・・あのね・・・ボク、最期にメノーに言わなきゃいけないことが・・・」
「馬鹿野郎! そんなの後で家に帰ってからいくらでも聞いてやる! だから寝るなぁ!」
「ボク、実はね・・・」
いよいよ一行の中から、命の灯が消えようとしていた。
イスズは旅エルフ、エルフの一派。 基本的に植物に近しい生態を持つエルフは寒さに弱い。 この極寒の環境でこれだけ持ったというだけでも、良くやったと言えるだろう。
彼らには、今この状況を打開するのに必要な手段を講じることが、何一つできなかった。
だが彼らには、どれほどの極限状況にあろうとも、ヒトの手から最後の最後まで零れ落ちる事のないモノ、『天運』があった。
洞穴の入り口の方から、極寒の環境に長く居た身には熱風としか思えないような暖気が、急激に流れ込んでくる。
「あれ? なんか急にあったかくなった・・・何があった?」
「あああ、あったかいよぅ・・・」
「誰かこの洞穴に入ってきたようなのだわ」
ワナヴァンの言葉に、メノーは弾かれたように首を入口に向ける。 するとそこには・・・
「あれ、先客かいな? 異界ヒトにエルフの姉ちゃんにデカい鳩・・・ってことは、ここはドニーのどっかか。 またぞろ氷壁牢獄《ゲウル・ディ・シエタ》に飛ばされたかと思ったが、吹雪く割に暖かいんで変だと思ったんだ」
洞穴に入ってきたのは、やたらと寒冷地仕様の装備に身を包んだ、イスズ・メノーの両名よりやや年下であろうか、隻眼の猫人の少年ひとりである。 名前はディエルというらしい。
彼の登場によって、洞穴内の温度が急激に上昇する。 さながら、寒中水泳の直後に熱々サウナルームに入ったような感覚がイスズとメノーの全身を覆い、寒さに弱っていたイスズの血色もだいぶ良くなってくる。
「えっと・・・貴方はどちらから?」
体が温まり、ようやく普通に活動も思考もできるようになったイスズが思い切って話しかけてみると、
「どこって・・・まあ一応
ラ・ムールの外れ。 ドネインド村って知ってる? 知らない? あ、そう、まぁいいや。 とりあえずラ・ムールの田舎村から、クソ太陽の直送便でここに来たわけだよ」
「直送便でここに、って・・・どうやって? どういう目的で?」
「どうやって、はブ厚い暗雲の向こうでデカいツラしてギラついてるに決まってるクソ太陽にでも聞いてくれ。 なんで、は・・・多分この吹雪を治めろってことなんだろうよ。 ほぼ間違いなく、精霊場の乱れが原因だし」
と、そういう話をしたところで、猫人は
「そこのお二人さんは、非常食で申し訳ないんだが、コレでも食って腹の足しにでもしてくれ。 あと、貴重な火種を無駄にするのももったいないから、それ消してくれ。 暖はこっちで提供するわ。 エアンクァ、ちょっとこい」
そう言って、何故鞄に入っていたのかと疑問を呈せざるを得ない果物の缶詰が数個と、頭上でホバリングを続けているコンパクトサイズな火の鳥をイスズとメノーに提供し、
「で、そこでくるっくー言ってる鳩さんよ。 そこ狭くね?」
「狭いのだわキツいのだわ」
「よし、なら掘るか。 掘るのは任せろ、伊達に帰還不能大森林で岩盤掘りやったわけじゃないからな」
「よろしく頼むのだわ」
ワナヴァンによろしく頼まれた猫人は、光る両手を揮って洞穴の土壁をゴリゴリと削り始めるのであった。
「広くなったのだわ。 感謝の極みなのだわクルックー」
「異界に曰く、『旅は道連れ世は情け』ってな。 とりあえずひと晩、仲良くやろうや。 お二人さん、エアンクァの火の調子はどうだい?」
「あったかいっす。 マジ助かりました」
「この子は一体何なんですか?」
「コイツか? ちょっとした都合で南蛮に行った時に、終焉樹《デュロコダマー》から産み立てを貰った破滅獣《フィ・シャウ》だけど」
飼い主(?)であるディエルに頭を撫でられ(熱くないのか?燃えないのか?)気持ちよさそうにクルクルと啼く、エアンクァという名の火の鳥。
燃えているように見える、ではなく本当に燃えている。 体が炎で出来ている、としか言いようがない。 そんな火の鳥は南蛮生まれだという。 ホントの話か?
「・・・南蛮、って、あの延の南の?」
「そだよ。 まぁ行ってみりゃ言われてるほど危険じゃねぇけど、まだお二人さんには早いかな」
「いやいやいやいや、行く機会なんてないっすよ!」
想像だにしない場所の名前を提示され、メノーは驚くより他無い。
一方イスズは、何か聞きたげにしているが、どう口に出したものか、迷っているようだ。
「ん? どうしたエルフの姉ちゃ」
「うわあああああああああああああ!!」
「おわぁどうした!?」
「いきなり大きな声を出すなよイスズ! びっくりしたぞ!」
「ごめんねメノー、ディエルさん。 あの、ちょっと、その・・・」
「ふむ・・・ああ分かった、そういうことね。 エルフってのも難儀なもんだなぁ。 仲間の
フェアリーもダチに猛アプローチしてたら急にデカくなったりしたし、石岩樹林《ダンフォレクヤ》の怪物ものも大概だったが、
世界樹ども由来の生物は良く分からんわ」
「ん? 一体全体なんのことだ?」
「メノーは分からなくていいの!」
急に大声を出したりプンスカ怒ったり、イスズの機嫌が不安定そのもの。 メノーはどうしたものかと首をかしげるばかりである。
「さてっと、楽しい歓談はこのあたりにして、っと・・・おい鳩、ハリムと何話してるんだ」
先程から、ワナヴァンと猫の頭のような毛玉(どうやらハリムというらしい)が盛んに「ウニャス」「なのだわ」と言い合っていたのを、猫人はいよいよ見とがめたらしい。
「というかお前ら、なんで『ウニャス』と『なのだわ』で意思疎通図れるんだ? 蟲人のDN高速言語会話でもそこまで異次元じゃねぇわ」
「この位のコミュ力は備えているのだわ」
ウニャウニャス!
「・・・まぁ今更いいけどさ」
「まず、ワナヴァンが人語を話してることにツッコむべきなのでは・・・?」
「喋る鳩ごときで驚くなんて、それこそ今更だろ。 そもそもお宅さんら<向こう側>のヒトは、鉄の箱や薄い板が喋る世界で生活してるじゃんか」
「あれは喋るってか、音声だしなぁ」
異世界人同士の微妙にすれ違う感性に僅かながら納得しかねる感を持つメノーであった。
「よし、二人と一頭はそろそろ寝れ。 俺は不寝番するが気にすんな」
「え、でもそんな、助けてもらって暖や食事まで分けてもらった上に、そんなことまでしてもらうのは・・・」
「あえてキツい事言うぞ。 ここよりもっと寒い所で狩猟のため雪原ド真ん中で数日徹夜待機した経験のある俺と、寒冷装備も非常食の用意も暖の取り方も不十分で凍死しそうだった君ら、どっちの言う事が優先されるべきだと思う?」
「そ、それは・・・」
「そういう事は、言うにしてもオブラートに包むものなのだわ」
「純然たる事実として、俺が来た時凍死寸前だった君らにゃ不寝番は任せられん。 言っとくが、明日は朝一でここ出て、精霊場の乱れの発生現場に君ら同伴で行くからな。 早いとこ寝とけ」
猫人は「これ以上話すつもりはない」とばかりに猫型毛玉と火の鳥をあやしにかかってしまったし、体力的にも睡眠が必要な状態ではあったので、メノーら一行は不寝番は任せて寝ることにしたのであった。
明けて翌朝。
「ふぁぁぁ・・・こんな環境でも、疲れてれば寝られるもんだなぁ・・・」
「おはようなのだわ。 今日も見事に吹雪いているのだわ」
「おはようメノー、ワナヴァン。 あれ、ディエルさんは?」
「目が覚めた時にはもう居なかったのだわ。 火の鳥は居るから戻ってくると思うのだわ」
洞穴で目を覚ました一行。 外は相変わらずの吹雪であるが、猫人さんが置いて行ってくれた火の鳥のおかげで相変わらずヌクヌクである。
そこに、猫人が何やら荷物を持って戻ってくる。
「お、起きたな。 よし朝メシにでもすっか」
「おはようございますディエルさん。 どこに行ってたんですか?」
「朝メシ採りに行ってたんだわ。 非常食の缶詰だけじゃ何だし、その辺に成ってる食えそうなモノをね」
「わざわざすんません、有難くいただきます」
「いただくのだわ」
「ディエルさんはいいんですか?」
「ああ、俺は採ってくるついでに食ってきたからね。 朝メシ終わったら早速出るから、準備して入口に出てきてくれな」
そう言って猫人さんは一行と火の鳥を残して、洞穴の入り口に向かう。
「ふむ・・・あの人に付いて行くしかないとはいえ、何が起こるかわからんぞ。 気が付きゃとんでもないことに巻き込まれてるような気がしてならん」
「そもそもの発端は、メノーの無鉄砲だからね? 今回はいい人に助けてもらえたから良かったものの、次は気を付けてよ?」
「周りに迷惑かけずに一人でやって欲しいのだわ」
「何だよ二人して・・・わかったよ、次から気を付けるよ」
そんなこんなで朝食を終えた一行は、入口で待っていた猫人さんに合流、再び雪原へと繰り出すことになった。
だが、猫人さんの御供である火の鳥は、吹雪の最中であっても一行を温かく包み込むのに十分なだけの熱量を放ち続けており、寒波に苦しめられた昨日とは大違いの進行速度で、足元に積もる雪を溶かしながら歩みを進める。
「あの、ディエルさんは寒くないんですか? そんな離れたところに居なくても」
「こんなの、俺的には寒い内に入らんしなぁ。 もっと寒いところで暖を取る手段が限られる状況でも狩猟採集して生きていく為のこの恰好だし」
「その寒いところって何処なんだ? 正直、ドニーの雪島区域より寒いところなんて、そう無いような気がするが・・・」
「<こちら側>では氷壁牢獄《ゲウル・ディ・シエタ》っつって、西大陸の人跡未踏地らしいが、そこにしばらく。 この服装も、そん時に現地の人に作ってもらったもんだ。 で、<向こう側>でも、『南極点』とかいう旗だか標識だかが立ってた所からスラヴィアゲートまで歩いて行ったことがあるな」
「な、南極点、っすか・・・」
「見事なまでに何も無かったけどな・・・っと、いよいよ目的地が近づいてきたな。 ここから先、何が起こるか分からんから気を付けろ」
「了解したのだわ。 ただ、自分らは荒事には対処できないので承知しておいてほしいのだわ」
「クソ戦神の差し金とか破滅獣とか、南蛮武侠とか、そういうイカサマ臭い生命体がいなきゃ、多分何とかなるだろ」
猫人さんのあまりにも気楽すぎる言動に若干の訝しさを覚えつつも、一行は吹雪の中心地へと向かう。
突如、天地を裂くような轟声が、さらに強まった吹雪に乗って届く。
さらには、地響きを思わせる揺れが、足元から伝わってくる。
「さて、そろそろかなぁ・・・」
「とてつもなく嫌な予感がするのだわ。 逃げてもいいのかだわ?」
「逃げたきゃ逃げても良いけど、エアンクァは置いて行ってもらうぞ。 まぁ多分そんな時間かかんねぇし、ちょっと待ってろ」
そんな小話をしている間に、怒号と地鳴りは、確実に、こちらに近づいてくる。
そして、
「「来たああああああああぁぁぁぁぁ!? ドラゴンだああああぁぁぁぁああぁあ!?」」
メノーとイスズは仲良く大絶叫。
さもありなん、ドラゴンなど、異世界でも既知領域に居る限りは、戦神
ウルサがタコ殴りにした撲殺体を捨てて行ったなど、よほどの事が無い限り御目にかかれるものではない。
ましてや、生きてる、目の前で、戦意剥き出しとなれば、異世界に住まう民でもよほどの特殊な方々しか見かけることはないだろう。
「リアルモンハンかよぉぉぉ!?」
「逃げよう逃げなきゃ食べられちゃうよぉぉぉ!?」
「あ、これ無理ゲーなのだわ」
いわゆるワイバーンだが、とにかく巨大。
自然界において、巨大であるということは、それだけで暴威となる。 その暴威に、ヒトの叡智を凝らした鎧でも絹を割くが如く破壊する鋭利な爪、何物をも噛み砕く強靭な顎と牙、体内に蓄えた精霊力を破壊的な力に変えて吐き出すブレス。
ヒトにとって、永遠の憧れであると同時に、畏怖の象徴として語り継がれる存在。 それがドラゴン。
だが、
「さくっと殺って、とっとと帰るか」
猫人さんは、どこからともなく、巨大にも程がある、鑓なのか斧なのか剣なのか良く分からないモノをどこからともなく取出し、
「いっちょやりますかねぇ!」
瞬間的な激しい発光、橙赤色の輝きに包まれると共に、プラズマ放電を身に纏い、全身の毛もヒゲも逆立ち、異様な程に尻尾の毛が伸びモフモフ膨らみ、
「やるぞルルー!」
猫人さんの右手で超高速旋回する巨大な武器に、龍を模した神鳴が宿るやいなや、猫人さんは地面を砕く程の強烈な踏込と共に一瞬でドラゴンとの間合いを詰め、
「覇砂王流俺式、激神雷撃衝!!」
推進力、回転力、超高圧電力、膂力の総てが絶妙に篭った電光神速の一閃突きがドラゴンの喉元深くに突き刺さり、炸裂音を伴いドラゴンの全身を駆け巡り突き破った深紅の電光が、暗雲を突き破り天へと昇る。
後に残ったのは、超高圧電流と心臓への一突きにより完膚なきまでに絶命させられ、焦げ臭い匂いと煙を立ち上らせるのみとなったドラゴンの死体ばかりである。
「うっし、とりあえず解体するかぁ!」
ドラゴンを一撃昇天させたレッドスプライトによって黒雲も吹雪も雲散霧消し、晴天の下、猫人さんはワキワキさせた手を輝かせてながら、今なお煙を吹くドラゴンの遺体に迫る。
「・・・え? 解体、って」
「このこんがり焼けたドラゴンを、全身バラして革とか爪牙とか剥ぎ取るんだよ。 うむ、ドラ肉もいい具合に焼けてるし、食いながらやるか。 お宅らもどうよ、狩り立てフレッシュで焼き立てのドラ肉焼きなんざ、そうそう食えないぜ?」
「えと、その、あの」
「こんだけ無駄にデカいんだから分け前なんて気にすんなって。 俺一人じゃ食い切れねぇし・・・っつっても、エルフのあんちゃんと鳩は肉ダメか。 実質戦力二名じゃ、この量のドラ肉は捌けないぜ・・・?」
ドラゴン登場からの一瞬で撃退、さらには解体ショーと、展開が早すぎて追い付けない一行をよそに、猫人さんは思案顔で頭を捻り続ける。
「あの・・・ディエルさん。 お肉を食べたり切り捌くのはいいとして、どうやって持って帰るつもりですか?」
ようやく事態を整理できたイスズは猫人さんに問いかけるが、
「ハリムに曳かせるから問題ないさ。 今食えない分は凍結させて、そのまま引っ張ってきゃ何とかなんだろ・・・むぐむぐ、お、まぁまぁイケるな」
と、尻尾肉を食いながら返答されてしまうのであった。
「で、よくよく考えたら、俺が肉とか骨とか持って帰ってもしゃあねぇわ。 村に帰っても売り先ねぇし、そもそも稼ぎに興味ねぇし・・・」
と、解体が8割方終わり、食用に適さないとの理由で内臓系が焼却されたところで、猫人さんは唐突に言い出す。
「え、でも解体しようって言ったのはディエルさんじゃ・・・てっきりアテがあっての事かと」
「野盗はぶん殴って簀巻きにして役人に突き出すのと、獲物を狩ったら解体するってのは、俺にとってもう習慣になってんだよ。 そうやって生きてきた時期が長かったもんでな。 さて、そうだなぁ」
改めて解体したドラゴンの成れの果てを検分する猫人さんは、一通り確認したところで
「よし、俺はドラ肉と・・・尻尾に埋まってたこの剣貰うわ。 多分コレが精霊場の乱れの最大の要因だろうし、一般人に引き渡すと面倒になりそうだし。 あとの骨・革・爪牙は全部君らで好きにしてくれ。 ドラゴン一頭分だから、それなりの額になるだろ?」
猫人さんは、薄らと青みを帯びた透き通るような透明の刀身に、柄に宝玉が埋め込まれた片手剣を手に、一行に分け前の提案すれば、
「え、マジで!? いいのか!?」
猫人さんの提案にがっつくメノーと
「ボクたち何もしてないばかりかお世話までされてる立場なのに、分け前だけ貰うっていうのは申し訳ないですよ」
と謙虚に按分比率の見直しを提案するイスズ。
「おいイスズ! これだけのドラゴン素材を売ればどれだけの額になると思ってるんだ! くれるって言ってるんだから貰っておくべきだろ!」
「落ち着いて! キャラ変わってるよメノー!」
「金の亡者なのだわ意地汚いのだわクルックー」
ドラゴン素材による資金獲得を夢見てしまったメノーに対し、イスズは人道論で立ち向かい、ワナヴァンは静観を決め込む。
「按分で言うなら、ぶっちゃけこの程度のドラゴン素材と引き換えじゃあ、まるで釣り合わないんだがなぁ・・・よしハリム、こっちの帰りに食う肉だけ残して凍結させてくれ」
解体を終わらせた猫人さんは、猫毛玉に指示を出す。 すると、ウニャスと鳴いた毛玉はムクムクと大きくなり、まだ元気だったころのドラゴンと同程度のサイズに変貌、ドラゴン素材の山を氷塊のケージに密封保存させてしまう。
「うむ上出来、よくやったぞハリム。 で、あとは・・・おい君ら、言い争いはそろそろ止めにしとけ―。 近くまで調査団みたいなのが来てるっぽいぞー」
猫人さんは喧々諤々の言い争いを続ける一行に声をかけるが、その言葉が一行に響く前に「あ、また試練
ゲートきやがったなぁ!」という言葉と共に、Z軸マイナス方面に、御供の猫毛玉・火の鳥・龍雷と共に消えていく。
言い争いを続けていた一行だが、「調査団ぽいのが来ている」という言葉がようやく届き、それを確かめようとしたときには、猫人さんの姿は消えていた。
「あれ? ディエルさんが居ないよ? それにドラゴン素材が氷でカチンコチンになってる!」
「何だって!? ・・・見事なまでに氷漬けだわ。 みずがめ座じゃあるまいし・・・」
「あの人達に相談するのだわ運んでもらうのだわ」
そして一行の前にやってきたのは、突然の精霊の荒場による猛吹雪の原因調査に訪れた、ドニー派遣の調査団の皆様。
見事に解体され氷漬けにされたドラゴン素材と、異界ヒト・エルフ・羽竜のトリオを見比べた上で、調査団は何事があったのかの説明を求める。
メノーとイスズは、調査団にドラゴン素材の運搬協力を打診し、その対価として自分たちが見聞きしたことを調査団に報告するのであった。
その裏で、荒場が収まったことで飛べるようになったワナヴァンは、二人が調査団に同行することになったのを見届け、我先にと飛び立つのであった。
無論、ドラゴン素材を先物取引で売りさばき、アガリを着服するためである。
「機先を制する者が市場を制するのだわクルックー」
最終更新:2017年12月19日 22:06