あー、あー…私はアンドロギュノス、偉大なる父・鍛冶神
セダル・ヌダ様の最も優秀な息子だ!
私は今、少しの行き違いから下界に落とされる事になったが、聡明なる父上はすぐに過ちに気づき私を元のお膝元に戻すだろう。
その時に私が地上で成した事を記録しておいた媒体を父に渡せば、その功績であの憎き新参共をこの汚らしい下界に追い落とす事ができる!…あー、この部分は後で消去しておこう。
とにかく、下界に落とされた一日目から散々な扱いを受けた。
何故かというと落ちた所が『あの』下種で有名な
エルフ共が棲む
エリスタリアだったのだ。
あの色情狂共は、私が偉大なる父セダル・ヌダ様の息子であることを信じないばかりか、私のことを『珍しい種』と呼んで襲いかかってきたのだ!
しかし、私は偉大なる神の子だ!むざむざとヤられはしない!!
電気ショックと硬化した手刀で襲い掛かるエルフ共を千切っては投げ千切っては投げ…しながら
クルスベルグに向かって戦略的移動をしたのだ!!
別に奴らが思った以上に数が多くて強かったわけではない!断じて!!!
蛮族のはびこる地エリスタリアを抜けた私は不毛のド田舎ラムールに入った。
熱いわ体に砂が付くわ水は少ないわで酷いところだ。
ここでもド田舎人達は私がセダル・ヌダ様の息子であることを信じなかった。
しかし、歓待は受けた。
何でも何ヶ月か前に来た地球製の武器を持った旅行者が村を襲った大甲虫とサンドワームを倒してくれたから外からやってきた人間を村で歓待しようということになったらしい。(物好きな奴もいたものだ)
また、歓待を受けたみすぼらしい小屋でそこの娘に15・6の猫人の少年を見ていないかと聞かれたが知らないと答えた。
娘は「みんな不作で困ってるのにどこほっつき歩いてるのよアイツは!」と怒っていたので疑問に思い聞いてみた。
「作物が採れずとも周りにある品質の良い珪砂をそのまま売るなり、それでガラス製品を作るなりすればいいのではないか?」と
そこから何故か上を下への大騒ぎになった。
その上、何週間も引き止められ(柱に縄で縛りつけれて)珪砂やガラス製品についての質問攻めに遭った。(口は災いの元であると私は記憶した)
窯ができ、やっと解放されて我が父のクルスベルグに戻れるようになった日、私はド田舎人共から大量のおみやげを担がされて村人総出で送り出された。
…強烈な日差しと荷物の重さで足元がふらつく。
まるで足元の砂が流れているように歩きづら……ん?本当に流れていないかこの砂…?
ズボッ!!!!
ぎゃわああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
…
……
かなり時がたった。
あれから妙な獣に追いかけられたり、あの蛮族の地から来た追手を振り切ったり…西へ西へと来てしまい我が父の所領であるクルスベルグは東の彼方だ…
星明りを頼りに何とか父の所領に辿り着こうと必死で東に向かう私だったが道は遠い。
しばらく歩いていると奇妙なものに出会った。
地面に寝転がった甲冑熊だ。(その名の通り甲冑を着たかのような硬い毛皮に鎧われた大熊である。)
それだけなら殺生をしないために抜き足差し足で通り過ぎる(別に毛駄物ごときが恐ろしいわけではない)がそのデカイ腹がもぞもぞと動いていたのである。
思わず立ち止まり、そこを凝視してしまった私は次にそこから飛び出てきたモノを回避するために後ろに転ばなければならなかった(別に腰を抜かしたわけではない)。
どばんっ!!
「ヒィィッ!?」ドテッ!
「…?」
腹を裂いて飛び出てきたのは6・7才ぐらいの素っ裸のヒトのガキであった。
そいつは黒々とした針金の様な長い髪で顔形は妖精族か私のデータベースにある地球人によく似ていた。
クマの血まみれで手に臓物を持ったそいつは訝しげに私を見ると、何か得心がいったというような顔をして手に持った臓物を私に差し出した。
クエと言うことだろう…
「kき、寄生虫がいる野生動物の内蔵を生で喰う奴があるか!!」
私は臓物を手渡す原人ガキからそれをひったくり冷静に、極冷静に対処した。
まず薪を集めて電熱で火を起こし平たい石を置いた、硬化した手刀で肉や内臓を切り分け石の上で焼き始めた。
荒ぶる原人ガキは私の冷静な対処に落ち着きを見せヨダレを垂らしながら体育座りで肉が焼けるのを待った。
「焼けたぞ!」
「!!??♪♪~」
ひとしきり体全体で喜びを表すと肉をガツガツと汚らしく食い始めるガキ。
私は冷静に冷静に熊の毛皮を裂いて貫頭衣を作るとガキに被せた。
「服を着ろ!文明人ならば」
「??」
ガキは最初、むず痒そうに服を引っ張ったりパタパタ叩いていたが諦めてソレを纏うことにしたようだ。
そして父と同じく聡明な私は、ガキが肉と服に気を取られている内にそろりと抜け出そうとした。
……が!?
いきなり強い力でガキに引っ張られた。
「やめろ!離せ!私は父上の所に帰るんだ!!」
「???」
私の叫びが理解出来ないのか原人ガキは首をかしげて遠慮するなと肉を差し出した。
「要らん!いいから離せ」
必死に抵抗する私だったがガキの馬鹿力のせいで動けず、差し出した肉を食べない私にイライラしたのかガキが馬乗りになって私の口に肉を押しこみだした。
も、も、もがぁーーーーーーーーーー!!??
ガキは私の様子が面白いのか上で私の口に肉を押し込みながらキャッキャと喜んでいる。
やばい目の前が暗くなってきた窒息死しそうだ…
ああ、父上。先立つ不幸をお許し下さい…
…朝起きると私の上にはガキがしがみついて眠っていた。
この日から原人ガキは私の旅に無理やり付いて来るようになったのだ。
何週間かガキとの珍道中が繰り広げられた。
それはそれは酷いものだった。
食料を取ってくるように命じるとドレイクを引きずって来るわ、かまど用の石を拾ってくるように命じると山のような大岩を引きずってくるわ…
挙句に私が大きすぎて使えないと言うと、怪力で引き千切ったり拳で叩き割って私に渡すのだ。
コイツは一体どこ出身の原人だろう?
我が父の所領の様に文明国出身ではあるまい。
とにかく大変だったのだ。そして、そのおかげでソレに気づくのが遅れた。
気付いた時には何もかも遅すぎた。
「クソ!走れガキ!アイツらに追いつかれるぞ」
「??」
「いいから走れ!奴ら捕まったらお前もタダではすまんぞ!」
まさか奴らがこんな西の果てまで追ってくるとは思わなかったのだ。
クソ!あの独特の臭いにもっと早く気づいていれば…
走る私達は途中で小さな横穴を見つけガキをその中に押し込める。
「いいか?お前はここでじっとしていろ」
「……?」
不安そうに見上げるガキにそう言い含めると穴の入り口を枝や葉っぱで念入りに隠して私は走り去る。
奴らの狙いは私だ。原人は何も関係ない。
はぁはぁはぁ…
どれほど走っただろう?
息を上げ始めた私をソレは突然襲った。
ガンッ
「ぐうっ!」
丸太が私を横殴りにしたのだ。そして…
「おやおや!ダァリン、ご無沙汰じゃないかい?」
何度も聞いたことがある酷いダミ声が聞こえる。
そこにはピンクでフリフリのドレスを纏った筋骨逞しい巌のような森エルフが丸太を抱えて立っていた。
「クソ!またお前か…」
さっきの一撃でフラフラになりながら手を硬化させて戦闘態勢を取る私。
「そうよ?ダァリンが恋しくて恋しくてみんなでここまで追って来ちゃった♡」
そう言うポニーテイルをした筋肉ダルマの後ろから、同じようにピンクでフリフリのドレスをまといトサカのように尖ったヘアスタイルや熱を当ててモジャモジャとさせた髪をした
筋肉ダルマ共が手に手に凶悪な得物を持ち、舌なめずりしながらこちらへにじり寄ってくる。
その内の一人が
「ねえ?お姉様。早く頂いちまいましょうよゥ?」
「慌てなさんな。獲物はみんなで平等に分け与えるって話し合ったでしょ?」
「でもぉ…」
「おい…アタシの決定が聞けないってのかい?」
「ひぃっ!す、すいやせん。お姉様」
奴らは何か怖気だつ様なことでもめている。
何とか逃げようと私は後退る…
「あら?逃げようったってそうはいかないわよ」
ドカッ!!
私の後ろに丸太が降ってきた。
「さあ!!愛し合いましょう?…トゥッ!!!」
肉ダルマは天高く飛び上がると何故か一回転して私に飛びかかってきた!
私は手刀に雷撃を纏わせてソレを迎え撃つ!!
ガキン!
硬質な音が辺りに響く…
「くっ!何故だ?何故刃も雷撃も通らない!!」
私の手刀は肉の壁に阻まれ全く刃が通らないばかりか雷撃すら散らされていた。
「ごめんなさいねぇダァリン…アタシ達、みんなダァリンがいけずするからダァリンの攻撃方法に対抗できるように遺伝子いじっちゃったの♡」
「そ、そんな事できるんなら何で私を追い続けるんだ!?」
ダルマは頬を染めると
「…みんなダァリンを愛しているからよ。それじゃあ続きをしましょうか?
………めぇぇぇぇぇえええええいいいいいいくううううううらぁぁぁぁあぁあぁああああああヴヴヴううううううううううううううーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「や、やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!!!!」
ガサッ!
「む?何奴?」
草をかき分ける音にエルフが振り向くと、そこには隠したはずの原人ガキが立っていた。
「あら?可愛いわねぇ~ボクゥ?」
「ボウヤどこの子かしらぁ?」
「お姉さん達といい事しなぁい?」
即座に周りを取り囲むダルマ共。
「や、やめろ!そいつは関係ない!そこのガキ、早くどこかへ行ってしまえ!!」
私はそう叫んで何とかアイツを逃がそうとした。
「あら?えらくご執心ね…妬けちゃうわ。
みんな、そこの子好きにしていいわよ!」
上にのしかかっているボスダルマがそう叫んだ。
一瞬でギラリと光る雑魚ダルマ共の目。
次の瞬間にはアイツはダルマエルフ共に埋め尽くされていた。
それを見届けたボスダルマはすました顔で
「さあ、邪魔者もいなくなったし続きをしましょうか?」
と返した。
「くそ!くそ!やめろおおおおお!」
「大丈夫!痛くないわよ?チュルンとするだけだかr…」
ドカンッッ!!!!
辺りに轟音が響いた。
驚き、そちらを見るとアイツを押し倒していたはずのエルフ共が宙を舞っていた。
「ば、馬鹿な!?アタシ達、森エルフ独立愚連隊フェラリオンズの精鋭をこうもやすやすと…」
ボスエルフが狼狽して呟く。
その隙に私は何とかヤツの体を押して離脱する。
ボスエルフは気にも止めず、アイツの方に向き直り戦闘態勢を取る。
「ボウヤに恨みは無いけど、その危険な力…生かしちゃおけねえなぁ…」
ボスエルフはそう言うとぬぉぉぉぉ!!!!と叫び、ドレスを筋肉で盛大に弾け飛ばしてアイツに飛びかかった!
「ぐぼらべ!!!」
ほぼ一瞬で飛びかかったエルフがアイツに殴り飛ばされた。
……そして、一キュロ位先の山で土煙が上がるのが見えた。
「お、お前、一体なんなんだ?」
私はそう言ってアイツを見つめる。
と、はだけられた胸に奇妙な物が見えた。
「し、試作07、タイタン…タイタンの試作機か!?」
そこには、最初に遭った時には熊の血で見えなかった所に我が父の筆跡で型番が記されていたのだ…
あれから数週間経った。
色情狂共は追って来ていないようだ。あの一件で死んだか少しは懲りたのだろう。
少なくともしばらくは奴らに狙われずに済むということでとても目出度い事だ。
そして私はあれからどうしたかというと…
「おい、セブン。お前が引きずってるそいつは象人だ。人間を喰う気か?」
「?」
相変わらずアイツと一緒にいる。
取り敢えずコイツと一緒にいれば奴らに襲われないし、何故か人化したコイツを父上の元に連れていけば、父の興味を引くいい研究材料になるはずだ。
私もまた研究に助手として参加させて頂けるかもしれない。
そう、コイツと一緒にいる理由はそれだけだ。
断じて見ててほっとけないからなどという軟弱な理由からではない!!
断じてだ!!!
「おい、馬鹿!拾い食いをするな!!」
「~♪~♪」
楽しそうにするな!!
- アンドロギュノスさん面白い人間味ありますね。出自を考えても意外というか共存という新しい道も見えた気がしました -- (名無しさん) 2014-01-26 21:08:28
最終更新:2012年06月07日 21:51