自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

01

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
1 蹂躙

京都府綾部市庁舎3階、市議会議場
2012年6月4日 15時12分

 京都府綾部市。京都府北部に位置する人口3万5千余りの小さな地方都市である。過去には養蚕業が栄え、現在はグンゼが本社を置く。また、明治には出口王仁三郎が大本教を興し、合気道の開祖植芝盛平が道場を開いた地としても知られている。

 この小さな地方都市の行政を統括する本庁舎は、いま怒号と悲鳴が交錯する鉄火場と化していた。庁舎3階に位置する議場には、副市長を始めとする市職員と、警察・消防関係者、そして数十名の市民がいた。
 誰もが一様に混乱し疲労していた。それだけでなく、少なくない者が負傷しており、苦痛に喘いでいる。目を血走らせた警察官と消防官は、議場内の椅子や机を片っ端からドアの前に積み上げ、即席のバリケードを組もうとしていた。
 ドアは、外側から何か大きな物が打ちつけられ、そのたびに大きくたわんでいた。警察官たちの必死の努力にも関わらず、破られるのは時間の問題であるように思えた。

『残念ながら、こちらはもう持ちません。治安を預かる身として大変申し訳ない。──副市長、幸運をお祈りします』

 悔恨を滲ませた受話器の声は、散発的な銃声と断末魔の悲鳴を残し、切れた。綾部市副市長藤掛博昭は、綾部警察署が、たった今彼らの手に落ちたことを理解した。それは、もはや市民の護りが綾部市に存在しないことを意味していた。

「市民の避難状況はどうだ?」

「現在、渕垣交番の署員と消防が当たっておりますが、状況は不明です。中心部は絶望的です」

「市内各所で火災が発生している模様です。消火活動は阻まれ、火勢は拡大の一途です」

「福知山市警察署から、暴徒の大集団が押し寄せているとの連絡がありました」

「府庁からは、状況を知らせろと……」

 議場内では、辛うじて難を逃れた市民が、ドアからなるべく遠ざかろうと、部屋の片隅にうずくまっていた。恐怖と絶望を、血と煤で汚れた顔に浮かべた老人や女性、子どもたちを一瞥し、藤掛は唇をかんだ。このままでは──

「ドアが破られるぞ!」警察官が、警告を発した。

 圧力に耐え切れなくなった入り口ドアの蝶番が、甲高い金属音を立てて弾け飛ぶ。ドアが即席のバリケードを崩しながら、内側に倒れた。
 警察官が発砲した。真っ先に飛び込んできた男は、顔面に拳銃弾を食らい、血飛沫をあげながら崩れ落ちる。だが、その警察官も2発目を発砲する前に、複数の剣によってぼろきれの様に切り裂かれ、倒れた。
 銃声、硝煙の臭い、肉を裂く音、何かの液体が溢れる音。議場は雄叫びと血の臭いで満ちた。綾部市に残された僅かな数の警察官と消防官が、最後の絶望的な抵抗を続ける中、藤掛は思った。
 いったい何処から来たんだ?どうして、剣や槍で武装しているんだ?なぜ、我々を殺すんだ?

 警察官たちを打ち倒した侵入者が、自分の喉元に槍を突き立てるそのときまで、藤掛は問い続けた。


 こいつら、いったい何者なんだ?



京都府綾部市上空
2012年6月4日 16時02分

 ローターの音に負けないよう、女性レポーターは声を張り上げている。この時期にしては珍しく、今日の京都北部は快晴で空には雲ひとつなかったが、綾部市各所から上がる火の手と黒煙により、周囲の空気は薄汚れていた。視界も悪い。
 そんな中、毎日放送のヘリは、黒煙を避けながら地上の惨状をカメラに収めていた。

『綾部市は燃えています。市内の至る所で火災が発生しています。路上には……沢山の人がいます。一部は馬に乗っているようです』

 路上は確かに人で溢れていた。ただし、それらは短槍やパイク、斧槍で武装し、鈍く光る甲冑に身を包んでおり、どう考えても綾部市民ではなかった。一部の者は騎乗し、徒歩の一団を指揮しているようにも見える。

『え?え?あれ、死んでる。いえ、殺して……ああ、なんてこと。殺人が起きています。人が殺されています!』

 カメラは、甲冑を着た兵士が市民を殺害する様子を、生放送で視聴者に送り続ける。市中心部の至る所で、老若男女を問わず、市民が襲われていた。一部の兵は彼方此方で建物に火をつけている。焼け出された市民が、無造作に切り捨てられていた。

 綾部市で、大規模な暴動が発生したとの情報を受け、偶然付近で空撮ロケを行っていたヘリが綾部市上空に到着した時、現場はすでに阿鼻叫喚の様相を呈していた。

『信じられません。す、数百人以上はいるでしょうか。武器を持った一団が、市民を殺害し、火をつけています。人々は逃げ惑っています』

 ヘリが高度を下げたため、地上の様子はより鮮明に映し出された。一団の中には子供の背丈程度の集団や、逆に2メートルを超える大男の集団が存在している。ヘリの爆音に気付いたのか、騎乗した何名かが、こちらを見上げた。

『警察や消防の姿は見えません。いえ……倒れているようです。警察署が燃えています。……ひどい』

 女性レポーターは泣きながら地上の様子を伝え、カメラマンは魅入られたように映像を撮り続けた。スタジオは言葉を失い、番組スタッフもまた、動揺していた。その結果、だれも地上の集団の動きに気付かなかった。

『市庁舎の屋上に人影が見えます。避難した市民でしょうか?』

 黒煙のせいでよく見えないが、10名程の人間が屋上に出てきたようだ。カメラマンがパイロットにもっと近づくように指示を出し、機体は目の前の黒煙をかわすため、機体を左に振った。結果として、ヘリは市庁舎に対し右横腹を向ける態勢となった。
 カメラマンが、市庁舎の屋上の集団が市民ではないと気付いた時には、その集団はすでに準備を終えていた。

『え?──』

 ヘリからの映像は、屋上から複数の何かが放たれ、カメラが黒い影に覆われたところで、唐突に途切れた。

 その後、スタジオからの呼び掛けに女性レポーターが答えることはなかった。



京都府綾部市
2012年6月4日 

 この日の正午過ぎ、綾部警察署に複数の110番通報が入電。「人が殺されている」「化け物がいる」
 同じ頃、綾部市消防本部にも複数の火災及び救急通報が入電。
 12時23分、福知山市から庁舎に戻る途中の綾部市長が、消息を絶つ。副市長が関係職員を招集。
 12時27分、現場に急行した警察官2名が「暴徒に襲われている。刀剣類で武装している」と報告したのち、通信が途絶。綾部市警察署長は大規模騒乱の発生と判断し、現場及び市庁舎、綾部駅、市立病院に警察官を出動させるとともに、府警本部に報告。
 14時11分、綾部警察署が襲撃を受ける。署員は2階に退避。
 14時19分、市庁舎が襲撃を受ける。市職員及び避難してきた市民は3階に退避。
 15時22分、綾部市副市長藤掛氏との連絡が途絶。市内20か所以上で大規模火災発生。
 15時37分、国道27号線を北進してきた集団により、消防本部が襲撃を受け、消防は機能を停止。
 16時16分、市中心部に報道ヘリが墜落。

 謎の集団により市中心部は蹂躙され、綾部市、警察、消防はすべての機能を喪失。生き残った市民は、市外へ向けて自力での脱出を試みなければならなくなった。




京都府綾部市渕垣付近 16時7分綾部発 特急まいづる7号 4号車内
2012年6月4日 16時14分

 意味わかんねえよ。何だよあれ。すし詰め状態の車内で、高校2年生の荻野祐樹は、ようやく何かを考える余ことが出来た。間一髪だった。駅前をぶらぶらしていたところで、血相を変えて逃げてくる群衆に巻き込まれた。
 県道は舞鶴方面へ向かう車があっという間に事故を起こし、塞がった。パトカーがけたたましいサイレンの音とともに福知山方向に走り去り、暫くして槍や剣で武装した連中が、人をなで斬りにしながら押し寄せた。

 どうやって特急に乗ったかは覚えていない。気が付いたら電車は出発していた。

 隣のサラリーマンがワンセグでテレビを見ている。綾部市が燃えていた。ヘリからと思われる映像は、綾部市が燃える様子と、人が殺される様子を鮮明に映し出していた。壊れた人形みたいだな。祐樹はぼんやりと思った。そして、怖くなった。
 自分や母親や、友達がそうなっていたら。今も、家族とは連絡が取れない。電話にも出ない。どうしよう。

「おい、なんだあれ?」
 前の方の席で誰かが窓の外を指さした。そこには馬に乗った集団が、特急列車に並走していた。
 茶色い服にヘルメットの様なものを被り、胸には鎧、だろうか?映画で見た西洋の騎士に比べると、なんだかとても軽装に見えた。
 そのかわり、動きやすそうだな。ああ、あれはなにをもっているんだろう?……弓だ。

 次の瞬間、電車の右側の窓ガラスが、酷い音を立てて崩れ落ちた。続けて飛来音。鈍い音。くぐもった悲鳴。隣を見ると、ワンセグを見ていたサラリーマンの右目に深々と矢が刺さっていた。

「ふ、ふせろっ!」
「狙われているぞ。弓矢だ!」
「もう、いやぁ!」

 パニックに陥った乗客は、どうにかして矢から逃れようとするものの、すし詰めの車内に逃げる場所など存在しない。


京都府綾部市渕垣付近 16時7分綾部発 特急まいづる7号 4号車内
2012年6月4日 16時14分

 意味わかんねえよ。何だよあれ。すし詰め状態の車内で、高校2年生の荻野祐樹は、ようやく何かを考える余ことが出来た。間一髪だった。
 駅前をぶらぶらしていたところで、血相を変えて逃げてくる群衆に巻き込まれた。県道は舞鶴方面へ向かう車があっという間に事故を起こし、塞がった。
 パトカーがけたたましいサイレンの音とともに福知山方向に走り去り、暫くして槍や剣で武装した連中が、人をなで斬りにしながら押し寄せた。

 どうやって特急に乗ったかは覚えていない。気が付いたら電車は出発していた。

 隣のサラリーマンがワンセグでテレビを見ている。綾部市が燃えていた。ヘリからと思われる映像は、綾部市が燃える様子と、人が殺される様子を鮮明に映し出していた。
 壊れた人形みたいだな。祐樹はぼんやりと思った。そして、怖くなった。
 自分や母親や、友達がそうなっていたら。今も、家族とは連絡が取れない。電話にも出ない。どうしよう。

「おい、なんだあれ?」
 前の方の席で誰かが窓の外を指さした。そこには馬に乗った集団が、特急列車に並走していた。
 茶色い服にヘルメットの様なものを被り、胸には鎧、だろうか?映画で見た西洋の騎士に比べると、なんだかとても軽装に見えた。
 そのかわり、動きやすそうだな。ああ、あれはなにをもっているんだろう?……弓だ。

 次の瞬間、電車の右側の窓ガラスが、酷い音を立てて崩れ落ちた。続けて飛来音。鈍い音。くぐもった悲鳴。隣を見ると、ワンセグを見ていたサラリーマンの右目に深々と矢が刺さっていた。

「ふ、ふせろっ!」
「狙われているぞ。弓矢だ!」
「もう、いやぁ!」

 パニックに陥った乗客は、どうにかして矢から逃れようとするものの、すし詰めの車内に逃げる場所など存在しない。
 まいづる7号が西舞鶴駅に到着した時、4号車内の乗客27名が死亡、67名が重軽傷を負い、血の海に沈んでいた。無傷の乗客は6名であった。



京都府綾部市綾部市庁舎前
2012年6月4日 17時53分

 どうやら、日が落ちる前に配下の再集結を終えることが出来そうだ。
 軍団の先鋒を務める騎士団の指揮官、帝国西方諸侯領エレウテリオ子爵家当主、ブエナベンドゥラ・ディ・エレウテリオ・イ・ロッサは、安堵のため息を漏らした。
 32歳になるエレウテリオは、西方諸侯領の中でも特段豊かな穀倉地帯である、ロッサ地方の領主である。
 それは子爵では釣り合わないほどのものであり、今回の出兵において、彼は相応しい勲功をあげることで、伯爵位を授けられることを周囲から期待されていた。
 大柄とは言えないものの引き締まった体躯は、重い板金鎧を馬上においても難なく支えており、騎士団長としての威厳を周囲に示していた。
 視界の端に、副官が近付いていることを認めたエレウテリオは、豊かな口髭を蓄えた顔に厳しい表情を作りなおすと、馬首を巡らせた。

「団長、我が方の損害は騎士ドウェルが討死。その他、郎党と兵合わせて15名でございます。その他、ゴブリン共が少々。まぁこれは些末なことでごさいまする」
「ドウェル家の長男坊が死んだか。あそこの親父殿は相当気を落とすだろうな。しかし、これだけの市邑に騎士も自警団もいないとは。何より城壁がない。どう見る?」
「よほど、敵国の内側に食い込めたので御座いましょう。でなければ、これほどまでに備えが薄いことの説明がつきませぬ」
「衛卒か邏卒か知らぬが、やつらは魔術士か?ドウェルもそれで顔を打ち抜かれて死んだようだが。騎士がいない代わりに、魔法戦士団が我らを迎え撃つとなれば──弟に所領を任せることになりかねんな」
「お戯れを。あのような連中が1000人いようと、物の数では御座いませぬ。して、この後如何なされますか?」
 エレウテリオは、周囲を見回した。配下の疲労は、大したものではないようだ。まあ、これだけの勝ち戦、士気が上がって疲れを感じぬのであろう。
「本隊は西にある市を攻めておる。あちらは夜戦となろう。我らは先駆けとして進まねばならん。だが、もうすぐ日が落ちるな」
「では」
「うむ、騎士団は野営の支度を。だが、周囲は探る。ゴブリン共を放て。街道には斥候を出す──そういえば、あの鉄の車はどうなった?」
 エレウテリオが副官に訪ねようとしたその時、ひとりの騎士が本陣に戻ってきた。
 本人も乗馬も汗まみれで、全身から湯気を立ち昇らせている。しかし、その表情は生気に満ち溢れており、同時に口惜しさを隠そうともしていなかった。

「騎士パスクアル只今戻りました。申し訳ありません。取り逃がしてございます」
「ふむ、騎兵を振り切るか」
「はっ。面妖な鉄車は、北へ向かいました。街道に沿って鉄路があり、その上を走る物のようでございます。街道の規模からして、相当な都市に通じるものと思われます」
「騎士パスクアル、御苦労。愛馬と配下を休ませよ。明日はさらに働いてもらうぞ」
「御意」

 放っておけば、どこまでも追撃してしまいそうな若い騎士に対し、エレウテリオは労いの言葉をかけた。配下とはいえ、己の名誉を何よりも重視する西方騎士である。失態を取り戻さんとして、抜け駆けを試みられても困る。
 諸侯を束ねる騎士団長には、この種の気遣いが求められる。なんとも、面倒な現実であった。
 とにかく、明日に備え更なる情報が必要である──エレウテリオはそう判断した。
「騎士モデストは、軽騎兵を率いて街道を北に向かい、騎士斥候を行え」
「敵に出くわしましたならば……」
「騎士の流儀に従えばよい。我らは夜明けを待って後を追おう」
「ははっ」
 騎士団主力は、市庁舎前及び東綾公園にて野営に入った。周囲にはゴブリンで編成される亜人小隊が放たれ、街道──国道27号線上に軽騎兵30騎からなる偵察部隊が放たれた。斥候は周囲を探りつつ北へ進むだろう。

 綾部市から国道27号線を北北東へ約20キロ進んだところには、舞鶴市が存在している。
 綾部市を襲った惨禍は、北近畿の港湾都市舞鶴に、その触手を伸ばそうとしていた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー