自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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 翌朝、俺たちは出発準備を始めた。きっとここの自衛隊が俺たちは実は地質の研究じゃなく、ただ単に遊びに来ただけと知るのは俺たちが帰った後の話だろう。いつまで待ってもこない報告書を待つ政府の連中を想像して密かにほくそ笑んだ。
  本当は違反だが、18リットルのポリタンクを4つばかり用意してきた。その中をガソリンで満タンにする。酒場のママさんから聞いた話だと「ドラゴンヘッ ド」までは3、40キロとのことだが、なにがあるかわからない。途中でガソリンスタンドなんてあるはずもない。多めにガソリンを持っていくのが正解だろ う。それに、アスファルトの道もほとんどないそうだ。
「やあ、君たちが九州大学の研究会か・・・」
 出発準備にいそしむ俺たちのところにスーツの男がやってきた。通りすがりの自衛官が深々とお辞儀したり敬礼しているのに気がついた。
「真島君、あれ官僚じゃない?」
 真理がぼくにそっと耳打ちした。なるほど、自衛官がペコペコするスーツの連中でこんなところにいるってなると、それしか考えられない。しかし、官僚が俺たちに何の用事だろう。
「いやはや、ご苦労さん。君たちが赴くボーキサイト鉱山なんだがね、ちょっと不穏な動きが出てきているんだ。」
「はぁ・・・・」
 やはりこいつも俺たちを九大の地質調査団と思っているようだ。危険情報の提供らしい。俺は一応、神妙に聞き入るふりをした。どうせ俺たちが行く先と関係ないんだ。
「鉱脈は大きな山にあるんだが、そこはモルドバ伯と言う貴族の領地なんだが、複雑なことにこの山は彼の領地に自治権を持つドワーフ族の自治区になるんだ。ド ワーフ族とは、岩の精とか山の精とか言われている人種だ。ちょっと背が低くて斧を持った髭もじゃの木こりを想像してくれ。」

「ええ・・・・」
 スーツにメガネの官僚は癖なのだろう。メガネの位置をなおしながら話を続けた。
「我 が国はボーキサイトの採掘権と周辺の土地使用料を支払うことになったんだが、その受け取りを巡って彼らが対立している。モルドバ伯は自分の領地であるから 使用料は自分に受け取る権利があると主張し、ドワーフ側は、自治区内だから自分たちに権利があると主張している。しかもモルドバ伯たちはアルドラ正教、ド ワーフたちは山や岩を神聖視しているのもあって元々仲がよくない。今度の件で一悶着起こってもおかしくない。気をつけたまえ。」
 それはやっかいなことだな。まあ、俺たちには関係ないけど。だがここで無関心を装っては嘘がばれてしまうかもしれない。一応、彼の話に食いつくそぶりだけは見せておかないといけないだろう。
「えええ?自衛隊は護衛についてくれたりしないんすか?」
 当然、ついてきてほしくもないんだが。こうでも言わないと俺たちが全然別の場所に行こうとしているのがばれてしまいかねない。
「残念ながら、ここの自衛隊の任務は、「有事の際の法人保護」だ。有事じゃないのに勝手に軍事行動を起こせないんだ。すまんな・・・」
 他人事とはいえ、かなり無責任だなと思った。が、現行の憲法ではそうなっているんだから仕方がない。俺に言わせればこんな世界に来てしまって平和憲法もへったくれもないと思うんだが、役所ってところは前例を壊すというのがどうも嫌いなようだ。
「わかりました・・・。気をつけましょう」
 とりあえず当たり障りのなさそうな事を言っておいてこいつを振り切りたかった。メガネの官僚は満足そうにうなずくと俺の肩をぽんと叩いた。
「ま、気をつけてな!」

  1時間後、俺たちは海沿いのガタガタ道にギブアップ寸前だった。ビールを飲みながらの楽しいドライブのはずが、予想以上の道路の悪さでみんなギブアップし てしまったのだ。ちくしょう。本当なら、今頃助手席のユリと楽しく会話してるはずなんだが。彼女は車酔いでぐったりしている。
 そして俺が車を止めたのは道沿いにあるちょっと大きめの農家らしき家屋の前だった。トイレを借りるためだ。この世界にトイレってものがあるんならいいんだが。
「あの~、すいません」
 板で作られたドアをノックすると人の良さそうなおばさんが顔を出した。見たことのない俺たちの服装をじろじろ見ている。そういうあんただって中世を舞台にした洋画に出てくるような恰好してるよ。って思った。
「ちょっとお手洗いをお借りしたいんですが・・・・」
 申し訳なさそうに言う俺の言葉を聞いておばさんはぱっと表情を和らげた。
「ああ、旅の人だね。どうぞどうぞ、ゆっくりしてお行きなさい。」
  トイレは幸い、こっちで言うところの「ぽっとん便所」に近い構造のものがあった。溜めた汚物は肥料に使うようだ。おばさんは俺たちを居間に通すと、いい香 りのするお茶を出してくれた。普通、道に沿った家は盗賊やらに警戒しているものだが、ここは違うようだ。なんだかんだでアルドラ王国は300年の平和を 保っているし、ここはまだ比較的王都に近い。その辺の社会事情あってのおばさんの歓迎だったのだ。
「おいしい!」
 車酔いのユリはあったかい飲み物を飲んでうれしそうだった。その笑顔が俺にとっては何よりの栄養剤だぜ!この野郎!そんな俺の心の叫びを知って知らずか彼女はお茶を俺にも勧めた。
「裕太先輩、これおいしいですよ」
 言われるままに飲んでみた。紅茶とも緑茶ともつかないが、たしかにおいしい。大友と真理もがぶがぶ飲んでいる。
「おいしいな、ユリ。おかわりもらってこようか?」
 俺の申し出に笑顔でうなずく彼女。俺はさっそく彼女のコップを持って台所のおばさんのところに向かった。
「すいません。おかわりいただいていいですか?」
「どうぞどうぞ!遠慮しないで」
 のれんみたいな布をめくっておばさんが台所から顔を出した。やさいしいおばさんで助かった。って思った俺の視界に見覚えのある物体が映った。確かに見覚えがあるが、この世界では見るはずのないモノだった。おばさんも俺の表情に気がついたんだろう。
「ああ、こいつのおかげでねえ。すぐにおかわりができるからね!」
  優しく笑うおばさんは俺にのれんを持ちあげて「その物体」を見せてくれた。俺は唖然とした。んなバカな!俺の目の前にあるのは、パ○マ製の2口ガスコンロ でしかもご丁寧にグリル付きだったのだ。そのコンロのバーナーには青々とした火がついて、バーナーの上ではやかんが湯気を出している。

「こんちわ~!」
 俺の背後で農家の扉が開かれる音がした。思わず振り返った俺の目に飛び込んできた人物を見て、俺は再び仰天した。
「あ・・・・・・・」
 昨日、自衛隊の駐屯地にある酒場にいたガス屋の兄ちゃんとちょっとおっかない女の子だった。俺だけではない。ユリも大友も真理も唖然としている。中世みたいな世界にいきなりガス屋さんがやってきたのだ。
「ああ、あんたらか・・・」
 唖然とする俺たちを見てもガス屋はさして驚きもせずにおばさんに言った。そのおばさんも全く驚く様子はない。ガス屋は汗を拭き拭きおばさんに言った。
「ボンベ交換しときましたから。なんか気になることないっすか?」
「ごくろうさん!別に今のところないねえ。お茶でも飲んでいきなさいよ!」
 日本でもよく見かける光景をこんなところで見てしまった俺はすっかり混乱していた。おばさんはガス屋と女の子にお茶を出しながら言う。
「時々、赤い火が出るんだよねぇ。他は別になんともないよ」
「ああ、バーナーの吹き出しが詰まりかけてんですね。今度来たら掃除しましょう」
 2人は俺たちを気にすることなくお茶を飲み干すと出発の準備を始めた。扉を開けながら、ガス屋が俺たちに向き直った。
「ドラゴンヘッドは車であと30分くらいだ。道は悪いけどな。自衛隊の施設に補強を頼んでるんだけどなあ。なかなか工事が進まないんだよ。気をつけてな、あそこは・・・・」
「はいはい!タチバナ!次は丘向こうのロレンゾさんのところに行くんだから、急いで!おばさん、ごちそうさま!」
 俺たちに関係ある情報だろうか。またしてもおっかない女の子に会話をじゃまされてガス屋は引っぱり出されていった。
「リナロちゃん、立花さん!ごくろうさん、またよろしくね!」
 おばさんはそれに驚くこともなく見送った。俺たち4人はしばし、言葉を失った。それにようやく気がついたのか、おばさんは笑いながら俺たちに言った。
「最近はあの2人のおかげで料理が楽になったよ。たいした魔法使いだね、あの兄ちゃんは」

 目的地に向かって徐行運転しながら俺たちは少々意気消沈していた。
「しかしなあ・・・・。こんなところまでガス屋が来てるとはなあ」
 大友がため息をついた。無理もない。せっかく見つけた秘境だったんだが、ガスコンロを見ることになるとは。冒険部としては幻滅もいいところだった。
「あ、裕太先輩!あれ!」
 そんな雰囲気を打破するようにユリが俺に声をかけた。彼女が指さす方向を見てみた。
「おお!」
「やったぁ!」
  後部座席でくっついていた大友と真理も喜びの声をあげた。俺たちの目の前には大きく突き出した岬が見えた。岬はかなり大きな山でその付け根は森で覆われて いる。その岬にカバーされるように真っ白な砂浜が広がっているのが見える。ちょうど、岬を竜の頭にしてみれば砂浜は竜ののどの部分になるんだろう。まさ に、「ドラゴンヘッド」の名前にふさわしいすばらしい海岸だ。なんだかんだあったが、とりあえず目的地に着いたようだ。
「大友、飯にしようぜ!」
 俺は砂浜にできるだけ車を寄せながら大友に叫んだ。太陽は頭上に近い位置にある。もうそろそろ昼飯時だ。このために本土でバーベキューセットを準備していた。
「賛成!」
「最高です!」
  真理もユリもはしゃぎながら俺の提案に賛成した。そうしているうちに車は街道と砂浜の間にある林の間道をぎりぎりまで進んで止まった。間道があるってこと は人間も近くに住んでいるんだろう。未開の地ではないわけだ。変な言葉だが、ほどよく秘境でそこそこ開けてる。俺たち探検部にとっては申し分ない場所だ。
「よし!飯だ!」
 大友がバーベキューセットの網を抱えて車から飛び出した。

  誰もいない砂浜は俺たちの貸し切りだ。ビール満載のクーラー、肉満載の発泡クーラー。バーベキューセットに木炭の段ボールを次々とおろして食事の準備を始 めた。食事の後は、これだけ暑いんだ。貸し切りビーチで海水浴。夕暮れが来たら花火でもして、その後はユリと2人きりになって・・・・
 俺はこの後の楽しい楽しいスケジュールを考えるとうれしくてたまらなかった。そのユリは木炭に火がつかないようで、うちわを手に悪戦苦闘している。真理は車のそばに立てた簡易テーブルで肉の準備。大友はタイヤのチェックをしている。俺は悪戦苦闘するユリに歩み寄った。
「あ、先輩。なかなか火がつかなくて・・・・」
「ちょっと見せてみろよ」
  かっこいいところ見せてやろうと俺はしゃがみこんだ。ああ、着火剤がうまく着火していない。俺はチューブ式の着火剤をどっぷりと木炭にかけてライターで火 をつけた。その後、根気よくうちわでそれを扇ぐ。すぐに、煙がパチパチと音をたてながら上がり始めた。完璧だ。これで好感度も急上昇だろう。
「ユリ、これくらい簡単だよ」
 そう言って俺はユリに振り返るように立ち上がった。だが、そんな俺の視界に入ってきたのは茶髪の美しい彼女だけではなかった。Tシャツ姿の彼女に容赦なく斧を突きつける背の低い連中だった。
「先輩・・・・」
「貴様も動くな!」

  黒っぽい髭を顔中に蓄えた連中は俺にも斧を向けた。見ると、大友も真理も連中に捕まってしまっている。一心不乱に火をつけていた俺だけが気がつかなかった ようだ。連中はざっと見ただけでも100名をくだらない。しかもそれぞれが手に手に斧を持っている。俺が抵抗するつもりがないことを悟った連中の中から、 1人の男が歩み出てきた。彼もまた他の連中と同じく背が低い。130~140センチくらいだろうか。それでも、彼の二の腕にある筋肉と威圧的な目。喧嘩し ても勝てないだろう事を示唆していた。
「異世界人よ!我々ドワーフ族の自治区、そして「ドラゴンヘッド」に何の用だ!」
 歩み出た男は俺 に喧嘩腰で尋ねた。俺の脳は瞬時に出発前にメガネの官僚が言っていたことをリピート再生していた。ひょっとして、ドワーフって連中とモルドバ伯が利権争い をしているボーキサイト鉱山って、俺たちの目的地「ドラゴンヘッド」の山のことなのか?そんな俺の疑問に答えるようにリーダー格の男が再び俺に尋ねた。
「異世界人!貴様らはモルドバ伯の敵か?味方か?」
 それぞれに獲物を突きつけられた我が探検部のメンバーはいっせいに俺に視線を注いでいる。俺にいったいどうしろってんだよ!思わず逆切れしそうになるが、それは俺自身の身の安全も保障できなくなるとわかっているんでかろうじて押さえた。
「いや、その俺たちは別に敵でもないし・・・・」
 俺の曖昧な言葉をリーダー格は遮った。
「だったら先に名乗ろう!俺はドワーフ族の指導者ドワルタスだ!おまえは何者だ?」
 名前まで名乗られ、仲間は捕まった俺はきっと顔をひきつらせていたに違いない。だが、この事態を急展開させるだけのアイデアも浮かばなかった。不安そうに俺を見つめるユリの視線がただただ痛く感じられるばかりだった。
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