自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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 きらきら輝く水平線が美しい。くわえるタバコの煙が波風で流されていく。目の前に見える陸地に向かって順調に船は進んでいる。もうそろそろ到着だな。俺はくわえていたタバコをぽいっと海に投げ捨てた。
「あ、何やってんですか?」
 それをとがめる声が俺の背後で聞こえた。振り返るまでもない。後輩の三河ユリだろう。
「つい、な・・・・」
 俺の素っ気ない返事を聞いて彼女はため息をこぼした。繰り返すが、振り返るまでもなく彼女のセミロングの茶髪は風になびいているだろう。そんなことは想像にたやすい。
「おい、真島。車に行こうぜ」
 同期の大友康二が俺に声をかける。早いところ車に乗ってフェリーから降りなきゃいけない。
「真島君、運転よろしくね」
 同じく同期の塚本真理も声をかける。俺たち4人はレンタカーのバンに乗り込んで上陸の準備を始めた。それぞれ、カバンやリュックから免許証を取り出した。この情報が正しければいいんだが・・・。

 やがて船が接岸された証に、軽い振動が車内まで伝わり、大きなハッチが開き始めた。みんな一様に興奮した面もちだった。真理が思わず後部座席からカメラを構えた。
「真理、あんまりはしゃぐなよ」
 大友が思わず注意するが彼女はそれを聞く様子もない。いつものことだが、主導権は真理にあった。助手席のユリは心配そうに俺を見つめている。俺を見られても困るんだがな・・・。
「さあ、どうぞ!」
  フェリーの係員が順番に車を外に誘導し始めた。俺たちの車は浮いているだろう。「わナンバー」のバンなんてこの船には俺たち以外、1台として乗っていない んだから。車列はぞろぞろとフェリーから港に降り立った。真新しいコンクリートでできた護岸には帰りの便に乗せられるんであろう多くのコンテナが置かれて いた。いくつあるのか見当もつかない。岸壁は数百メートル続き不意にとぎれていた。その先は鬱蒼とした森が続いている。車列はその森に作られたアスファル トの道路を1列になって進む。当然、俺たちもそれに続くほかない。
「ホントに大丈夫かなぁ・・・・」
 ここまで来ておいて大友が後部座席で本当に心配そうに言う。隣の真理は相変わらず周囲の風景をカメラに収めることに夢中だった。
「今更引き返す方が余計に怪しまれるぞ」
 思った以上に太陽がまぶしい。俺はサングラスをかけながら彼に答えた。10月というのにこの暑さはなんなんだ。俺たちは一様に真夏のファッションだった。それでも車内にはクーラーをかけている。沖縄どころの暑さじゃない。
「裕太先輩・・・・」
 助手席のユリが少し震えるように言った。その言葉の理由は俺にもわかっていた。森が急に開けて、そこには広大な基地が作られていた。車列はそこに向かっているのだ。基地の門には完全武装の自衛隊員が待ちかまえている。俺はユリだけでなく、後ろの大友や真理に振り返った。
「じゃあ、行くぞ」
「ああ・・・」
「うん・・・」
 さすがに緊張してきたのだろう。さっきまではしゃいでカメラのシャッターを押しまくっていた真理も神妙な面もちで俺に答えた。

 「九州大学地質学研究会・・・・ねぇ」
 窓の外に立つ、俺たちと年齢もそう変わらない自衛官は書類と俺たちを交互に見ながら言った。
「聞いたことないなぁ。最近できた団体なの?」
 困ったような顔をした自衛官は俺たちに再度質問した。
「ええ。去年新設されたんです。ぜひこの国の地質を調査したいと思いまして・・・・。我々の研究がこれからの日本の役に立つ資源を見つけられるかもしれませんし。そういう分野の団体なんです」
 俺の言葉に自衛官は少し考え込んで「あっ」という表情を浮かべた。彼の中で何かと何かが結びついたようだ。とたんに彼の態度が変わった。
「ああ!この前この国で見つかったボーキサイト鉱山の調査か!なるほどなるほど!研究者もあちこちにかり出されて人手不足でとうとう学生の団体まで出てきたわけだ!」
 噂は本当だったんだ。鉱物系を専攻する研究者が数多くこっちに渡っているという噂だったが。
「いやあ、運良く石油に鉄、天然ガス、石炭、銅やら見つかってボーキサイトまで・・・・。まあ、大変だけどがんばってくれよ!」
 隊員は書類に印鑑を押すと俺に勢いよく突き返した。
「これから前の車列について行ってくれ。車内の消毒と予防接種がある。今日はこの駐屯地に宿泊してくれ。インターネットカフェも酒場もあるから退屈はしないはずだ。さあ、後がつかえてるから行った行った!」
 俺は隊員のほとんど自己完結的な論理展開を一方的に聞かされただけで検問を無事通過できたことをしばらくの間信じることができなかった。それは他のみんなも同じだったろう。緊張からか一様にぐったりとしてシートにもたれかかっていた。

  車の消毒はごく簡単だった。乗っている俺たちが降車して、なにやら火炎放射器みたいな棒を持った自衛官が2名。DDTみたいな白い煙を車内にまき散らして おしまい。予防接種も、インフルエンザ、天然痘、結核、日本脳炎、ジフテリア。子供のころに受けたモノに多少色の付いた接種だけだった。その後は簡単に周 囲の情勢がレクチャーされて自由時間だった。
「よし!まずは乾杯しよう!福岡だ・・・・・、じゃなくて、九州大学地質学研究会の前途を祝して!」
「かんぱ~い!」
「かんぱい!」
  俺たち4人は駐屯地内にある酒場「ミスティ」で乾杯した。ちゃんと生ビールもあるいい店だ。ママさんはカウンターでなじみの客となにやら会話している。作 業服を着ているが俺たちと変わらない年齢のようだ。もう1人は40代くらいだろうか。彼女の耳が少しとんがっているのは、この地域に住むハーフエルフだか らというが。それ以外は人間と大差ない外見だ。恐ろしく美人であることを除けば。
「しかし、まんまと潜り込めたな・・・」
 声を少し潜めて大友が言った。俺もまったく同感だった。最悪フェリーの時点で追い返されて、よくてもさっきの検問で強制送還を予想していたが。
「結果オーライでいいじゃないですか!」
  ユリがジョッキを傾けながら言った。それはそうなんだが。ここはアルドラ王国。1年前、日本が突如としてワープしてしまった世界だ。王国には当初から役所 関係が多く渡っていたようだが、そこで彼らが何をしているかは俺たちは知らない。半年前にクーデター未遂があって、たまたまここに来ていた日本の民間人が それを防いだとか、TVゲームみたいに魔法使いがいるらしいとか、人間だけじゃなく小説に出てくるエルフだのなんだのがいるらしい、ってことくらいしかわ からない。しかも、さっきの入国に際するレクチャーで知ったことがほとんどだった。
「それでも前に進むのがあたしたち探検部じゃない!」
  真理がほろ酔い気分に任せて大声で言った。俺たちは「九州大学地質学研究会」のメンバーでもなんでもない。そもそもそんな団体が九州大学にあるかどうかも 知らないんだ。俺たちは福岡大学未公認サークルのメンバーだ。「探検部」。名前はかっこいいが、ここ数年。冒険にかこつけて冬はスキー、夏は海って大学の 予算を使って遊んでばかりいるお荷物サークルだ。サークルができて10年。大学周辺のめぼしいところは行き尽くされた。当然の経過だったが、1年前に情勢 が変わった。俺たちにとって未知のフロンティアができたのだ。
 日本が異世界にワープしてから数ヶ月は我がサークルが最もその名前に近い活動をし た時期だっただろう。新聞、テレビ、ネット。情報収集と渡航手段が検討された。そして、俺たちの卒業旅行も兼ねた今回の探険が企画されたのだ。とはいえ、 部員は俺と大友、真理の4年生と、今回同行したユリの3年生。今回は同行しなかった1,2年生で20名にも満たない。
 インターネットで仕入れた 「異世界に渡るには免許証だけでオッケー」ってネタを信じて、九大のサークルをでっち上げてダメもとでここまで来たのだ。まさか、まんまと入国できるとは 思ってもみなかった。こうなったら、ネットで噂の最高のビーチ「ドラゴンヘッド」まで行って遊んで帰ってやろう。

  ふと、目があったユリがジョッキを手に笑いながら俺に言ってきた。ちくしょう!かわいいじゃねーか!俺の狙いはもちろん、ユリだった。大友康二と塚本真理 はサークル周知のカップルだ。だとしたら、残った三河ユリと俺しか組み合わせがない。彼女はそんな俺の思惑を知ってか知らずか、今回唯一同行を許された3 年生メンバーだった。この!その茶髪!かわいいぜ!
 そんな俺の心の中の妄想を打ち切るように、さっきまでミスティママと話していた作業服の兄ちゃんがジョッキを片手に歩いてくるのが見えた。他のメンバーもそれに気がついたのか、思い思いの会話をストップしている。
「珍しいな!学生さんか!」
 よく見ると作業服にガスメーカーのロゴが見えた。かなり酔っているみたいだ。俺は笑顔を浮かべて彼の言葉に応じた。
「ええ、明日から地質関係の検査に行くんです」
「どこへ?」
 顔を真っ赤にして上機嫌のガス屋はつっけんどんな感じで俺に質問してきた。俺はその態度に少しだけむすっとしたんだろうと思う。極力それを表情に出さずにいたと思うが自信はない。
「ドラゴンヘッドですよ」
 名称だけ、不愛想に答えた。俺のささやかな抵抗だったが彼はいささかも気にしてないようだった。上機嫌で持っていたジョッキを傾ける。
「へえ・・・。あそこか。まあ、気をつけた方がいいぞ・・・。あそこはな・・・・」
 酔っぱらいのガス屋が何か話そうとした時、乱暴に店のドアが開かれた。俺に話しかけていたガス屋はもちろん、連れの40代のガス屋もびくっとした。常連らしい自衛官も扉を注視する。
「やっぱりここだったのね!」
  扉には茶色かかった金髪のきれいな女性が立っていた。おそらく現地の人だろう。だが、彼女の頭には強化プラスチックのヘルメットがのっかっていた。彼女は 恐ろしい形相でカウンターに歩み寄るとおののく作業服の2人の腕をつかんだ。よく見ると彼女のヘルメットには「福岡県LPガス協会緊急出動要員」って文字 が見えた。彼女もガス屋なんだろうか。そんな俺の疑問を置いてけぼりにして周囲の状況は進展した。
「ママさん、ごめんなさい。明日は一番で郊外の茶店にガスの設備工事かあるから・・。」
「リナロちゃんも大変ね・・・」
 ママはそう言って気にしない感じだった。驚く俺たちを無視して、ヘルメットをかぶった女性は泣きそうな顔をするガス屋を引っ張って店から連れ出していった。残された俺たちは自衛隊以外にいた民間人と彼らを強制送還する現地人の関係を邪推してしばらく盛り上がった。
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