帝國が現れて以来、世界は大きく変わった。
大なり小なりその影響は多々有り、政治や軍事はもちろん家庭にまで波紋は広がっていた。
楽に火を起こす道具、食糧を長期的に保存できる機材。
そういった物が帝國から各国へと伝わり、それらが使用できる環境下となり一番割を食ったのは誰か?
それは魔術師達であった。
騎士らも短期間な訓練で即戦力となる銃の普及に伴い、その地位が揺らぎはしたが貴族階級の子弟の勤め先としての名誉職として残れはした。
しかしそうはいかなかったのが魔術師だ。
出生の貴賤問わず魔術の才がある者が魔術師となるが、貴族出身の者は兎も角一般家庭出身の魔術師は後ろ盾も無いまま放り出される事となってしまった
酒場では大勢の客で賑わっている、しかしある一角だけガラリとしており数人の客がポツポツといるだけであった。
客も店員も寄り付こうとせず、その客達もまた他の客や店員に声もかけようとはしない。
そこに一人のローブ姿の男がやってきた。
まるで、恐ろしい獣が来たかのようにその男が通ろうとすると客達は道を開けて行った。
男は隔離されたような一角に着くとテーブルに座り、『一応』来た店員に酒を注文した。
「やあ、そんな恰好をしている所を見ると職探しの帰りかい?」
元からいた客の一人が男に声をかけた。
「ああ、今日決まったよ。ここの領主の館で働く事になった」
男がそう言うと周囲の客が取り囲んだ。
「ほんとか!?」
「魔術顧問役か?」
「まだ募集に空きはあるのか?」
男を取り囲んだ客達は口々に質問をするが、男は鬱陶しそうに答えた。
「今年で五つになった御子息の学術指南役だよ、俺は帝國文字ができるから…」
男の言葉に周囲の客達は溜息をつき、元の席に着いたり店から出て行った。
「なかなか思うようにいかない物だな」
そんな中で一人だけ男の前に座り続ける客がいた。
「ああ、一昔前までは魔術師と言えばどこも引っ張りだこだったって言うのに…」
「仕方ないさ、魔力も使わずに便利になれるなら誰だってそっちを選ぶ」
魔術師同士、今の現状を嘆くと注文の酒が来た。
「ああ、昔はもっといい酒を飲んでいたって言うのにな…」
「なあ、聞いたか?魔術アカデミーの事」
客が酒に文句を言う男に問うたのは、この地域で魔術師となる為に学ぶ学校の事だ。
「ああ、帝國から講師を招いて科学コースを作ったんだろ?」
「実は、その化学コースについてなんだがな」
客は急に声を潜めて話し出す、男はそれを聞こうと身を乗り出し、ひそひそと話し合う。
「…どうも、その科学コースとやらは帝國本土では子供が習うような物らしい」
「はあ!?」
いや、どうにもなと客が続けようとしたのを男の叫びがかき消す。
声を上げた事で回りが男達を見たがすぐに視線を外した。
「…すまん」
「いや、良いさ。それでだが、どうにも俺達の知識で学ぶのは無理らしい。それで子供が学ぶ内容からだそうだ」
客の言葉に男ははあ、と溜息をついた。
「必死で帝國語を学びはしたが、それでも『ひらがな』や『カタカナ』だけだ」
自嘲するように男は呟くと一気に酒を煽った。
「良し!今日は飲む!仕事は決まったんだ、少し位罰は下るまい!」
男は嫌な事を振り切ろうとしているのだろうとは誰しもが分かっていた。
しかし、そんな男を止めれる者は誰も居はしなかった。
しこたま酒を飲み良い気分になりながら男は街道を歩いて行く。
飲み過ぎた故か、周りは暗くなっており足元も見えない程だ。
「ああ、畜生最近やけに暗くなりやがる…『ライト、灯火よ』」
男が呪文を唱えるとポウと光の玉が男の周囲をグルグルと周り明るく照らしていく。
「ふははは!どうだ!これで明るくなったろう!」
普通の人間なら暗い中びくつきながら家へと帰るのだ、だが自分のような魔術師ならこうして明かりを灯せる。
―やはり俺は特別な人間だ!
男がそう思い悦に入っていると前方から高い位置にポツポツと明かりが灯っていく。
男の明かりとともに周囲がはっきりと分かるようになると街灯のガス灯を人夫が明かりをつける仕事をしているのが見えた。
人夫が男とすれ違い、男が来た道にも明かりが照らされると男の目からどうしようも無く涙が溢れ出した。
「うう…、畜生…」
遂には男はその場に座り込むと泣き言を言い始める。
「畜生…、帝國さえ、帝國さえ来なければ今でも俺達魔術師は…」
夜の街に男のすすり泣きが響く。
それは、今や何処の国の何処の街でも有り触れた光景であった。
大なり小なりその影響は多々有り、政治や軍事はもちろん家庭にまで波紋は広がっていた。
楽に火を起こす道具、食糧を長期的に保存できる機材。
そういった物が帝國から各国へと伝わり、それらが使用できる環境下となり一番割を食ったのは誰か?
それは魔術師達であった。
騎士らも短期間な訓練で即戦力となる銃の普及に伴い、その地位が揺らぎはしたが貴族階級の子弟の勤め先としての名誉職として残れはした。
しかしそうはいかなかったのが魔術師だ。
出生の貴賤問わず魔術の才がある者が魔術師となるが、貴族出身の者は兎も角一般家庭出身の魔術師は後ろ盾も無いまま放り出される事となってしまった
酒場では大勢の客で賑わっている、しかしある一角だけガラリとしており数人の客がポツポツといるだけであった。
客も店員も寄り付こうとせず、その客達もまた他の客や店員に声もかけようとはしない。
そこに一人のローブ姿の男がやってきた。
まるで、恐ろしい獣が来たかのようにその男が通ろうとすると客達は道を開けて行った。
男は隔離されたような一角に着くとテーブルに座り、『一応』来た店員に酒を注文した。
「やあ、そんな恰好をしている所を見ると職探しの帰りかい?」
元からいた客の一人が男に声をかけた。
「ああ、今日決まったよ。ここの領主の館で働く事になった」
男がそう言うと周囲の客が取り囲んだ。
「ほんとか!?」
「魔術顧問役か?」
「まだ募集に空きはあるのか?」
男を取り囲んだ客達は口々に質問をするが、男は鬱陶しそうに答えた。
「今年で五つになった御子息の学術指南役だよ、俺は帝國文字ができるから…」
男の言葉に周囲の客達は溜息をつき、元の席に着いたり店から出て行った。
「なかなか思うようにいかない物だな」
そんな中で一人だけ男の前に座り続ける客がいた。
「ああ、一昔前までは魔術師と言えばどこも引っ張りだこだったって言うのに…」
「仕方ないさ、魔力も使わずに便利になれるなら誰だってそっちを選ぶ」
魔術師同士、今の現状を嘆くと注文の酒が来た。
「ああ、昔はもっといい酒を飲んでいたって言うのにな…」
「なあ、聞いたか?魔術アカデミーの事」
客が酒に文句を言う男に問うたのは、この地域で魔術師となる為に学ぶ学校の事だ。
「ああ、帝國から講師を招いて科学コースを作ったんだろ?」
「実は、その化学コースについてなんだがな」
客は急に声を潜めて話し出す、男はそれを聞こうと身を乗り出し、ひそひそと話し合う。
「…どうも、その科学コースとやらは帝國本土では子供が習うような物らしい」
「はあ!?」
いや、どうにもなと客が続けようとしたのを男の叫びがかき消す。
声を上げた事で回りが男達を見たがすぐに視線を外した。
「…すまん」
「いや、良いさ。それでだが、どうにも俺達の知識で学ぶのは無理らしい。それで子供が学ぶ内容からだそうだ」
客の言葉に男ははあ、と溜息をついた。
「必死で帝國語を学びはしたが、それでも『ひらがな』や『カタカナ』だけだ」
自嘲するように男は呟くと一気に酒を煽った。
「良し!今日は飲む!仕事は決まったんだ、少し位罰は下るまい!」
男は嫌な事を振り切ろうとしているのだろうとは誰しもが分かっていた。
しかし、そんな男を止めれる者は誰も居はしなかった。
しこたま酒を飲み良い気分になりながら男は街道を歩いて行く。
飲み過ぎた故か、周りは暗くなっており足元も見えない程だ。
「ああ、畜生最近やけに暗くなりやがる…『ライト、灯火よ』」
男が呪文を唱えるとポウと光の玉が男の周囲をグルグルと周り明るく照らしていく。
「ふははは!どうだ!これで明るくなったろう!」
普通の人間なら暗い中びくつきながら家へと帰るのだ、だが自分のような魔術師ならこうして明かりを灯せる。
―やはり俺は特別な人間だ!
男がそう思い悦に入っていると前方から高い位置にポツポツと明かりが灯っていく。
男の明かりとともに周囲がはっきりと分かるようになると街灯のガス灯を人夫が明かりをつける仕事をしているのが見えた。
人夫が男とすれ違い、男が来た道にも明かりが照らされると男の目からどうしようも無く涙が溢れ出した。
「うう…、畜生…」
遂には男はその場に座り込むと泣き言を言い始める。
「畜生…、帝國さえ、帝國さえ来なければ今でも俺達魔術師は…」
夜の街に男のすすり泣きが響く。
それは、今や何処の国の何処の街でも有り触れた光景であった。