自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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第2部 第8話-1


〈帝國〉軍警戒線 ルルェド南方5キロ
2013年 2月15日 02時32分


ルルェド南側の包囲線の一部を担う彼らの部隊からも、その様子は十分に窺えた。北の方角が赤く染まっている。火災だ。それが何を引き起こしているのかは誰もがすぐに理解できた。

「奴らも阿呆だな。さっさと手を上げていればこんなことにはならなかっただろうに」
ゴブリン小隊を率いる小隊長はやる気のない声で言った。
「違いねぇ。まぁ、色々とキツい目には遭うだろうけどよ。特に女どもは」
隣にいた分隊長が下卑た声で返した。〈帝國〉軍、特に南方征討領軍は敗者に寛大な軍隊という評判を持ち合わせていない。
「そりゃ仕方ないだろ。勝った方の役得だわな」
「役得か……俺もご相伴に預かりたかったなぁ。大体徴用兵どもが女とヤレて、正規兵の俺たちがこんなところで臭いゴブリンどもと見張りなんておかしくねぇか?」
分隊長が蹴り飛ばした石がむなしく水音を立てた。ルルェド南正面に配置された〈帝國〉軍は、小隊規模のゴブリン軽装歩兵をマワーレド川流域とあらゆる道に分散配備し、ルルェドからの脱出に備えていた。
さらにコボルト斥候を移動警戒に投入している。彼らの目を逃れてルルェドを脱出することは事実上不可能であった。
「まぁそう言うな。あいつら城からの矢玉と攻撃魔法をしこたま喰らって、ばかすか死んでるんだぞ。お前そんな所に行きたかったのか?」
小隊長は、不満を隠さない部下をなだめるように言った。分隊長は何かを想像するように空を見上げ、ぶるっと身体を震わせた。
「……考えてみりゃそうだな。死んだらおしめぇだわ。ここで間抜けな逃亡者が来るのを待つか。お姫様何かが来たら最高だな、うへへへ」
「そん時はお前に一番を譲ってやるよ。領主の奥方とか娘とか、貴き貴婦人をよ」
小隊長はそう言って、松明を掲げたゴブリン軽装歩兵たちを見回した。小汚い部下とくだらない任務だが、危険は無い。それで良かった。
「まぁ、安全なのが一番だな。ああ、お嬢様来ねえかなぁ」


小隊長が、にやけた顔で話す分隊長にそろそろ発破をかけようかと思った矢先、彼らの背後──南の方角で何かが光った。低い音が響く。一つでは無い。小隊長の脳がそれについて何かを思いつく前に、分隊長の頭がにやけたまま吹き飛んだ。
光の明滅。崩れ落ちる分隊長の身体。血飛沫を上げて倒れるゴブリンども。擦過音が耳を痛めつける。矢のそれどころでは無い。空気を切り裂く暴力的な音が辺りに満ちている。
実際のところそれは物理的な力を備えていた。何かが小隊長のそばを通り過ぎるたびに、彼を衝撃波が襲い、皮膚が破れた。

「何だ!? 何が起きている!?」
地面に倒れ込みながら小隊長は叫んでいた。何も考えられない。理解できるのは彼の小隊が細切れにされていることのみ。一体何が──。彼の思考はそこでぷっつりと途切れた。



銃架に据え付けた74式機関銃の銃口から薄く硝煙がたなびいている。微速で進む舟艇隊の間を〈帝國〉軍の死骸がゆっくりと流れていった。夜の闇のお陰で細かいところが見えないのは有り難いと、久宝一尉は思った。
「敵警戒部隊は殲滅したと判断します。西普連と水軍刀兵の揚陸を開始します。司令、よろしいですか?」
「いいわ」西園寺三佐がうなずく。
「交通船を岸へ。揚陸を開始しろ」
陸自隊員と水軍刀兵を満載した運貨船やカッターが、先ほどまで敵がいた辺りに近付き始めた。粗末な桟橋がある。揚陸にはさほど時間はかからないだろう。
事前の計画では、分派した西普連一個中隊と水軍刀兵はルルェド西岸の敵主力後方に浸透し、午前5時の払暁と同時に敵本営に攻撃を仕掛ける予定であった。
舟艇隊と空挺団もタイミングを合わせることにより最大の奇襲効果を狙っていたのだが、ここに至ってはやむを得ない。
我々は西普連が展開を完了する前に敵を強襲しなければならない。さもなければ城が落ちる。

「密林を徒歩での移動になりますが、西普連は間に合うでしょうか?」
久宝が不安を口にした。元々この辺りに住んでいた刀兵が道案内についているため、迷う心配は無いだろう。しかし、迫撃砲や無反動砲を抱えてあと二時間で踏破するには厳しい道のりに思えた。
「心配しすぎよ先任」
「しかし」
「見てご覧なさい。マルノーヴの毛深い方たちは力持ちだわ」
西園寺がのんびりと言った。その通りだった。
L16 81ミリ迫撃砲や84ミリ無反動砲といった、屈強な隊員たちですら顔をしかめる重装備を、水軍刀兵を構成する獣人たちが軽々と担いで森に消えていく。
中には背負子に砲弾や弾薬箱、陣地用資材などを山積みした兵もいた。まるで強力と呼ばれた荷揚げ人だ。
久宝は素直に感心した。あれは頼もしい。官舎の引っ越しに来てもらいたいな。

「いいわねぇ、あれ」
「いいですねぇ」
そんなことを考えていた久宝だったので、上官のうっとりとした声に思わず相づちを打ってしまった。

「先任もそう思う? 森を移動するときはぜひあの方たちに輿を担いでいただきたいわ。きっと高機動車なんかよりよっぽど優雅だとおもうわ」
久宝は想像した。獣人たちに担がれたむやみに豪華な輿に敷かれた毛足の長い毛氈にしどけなく寝そべった上官の姿を。なんだか良く分からないが、素肌にチョッキだけを着た自分が孔雀の羽根で懸命に彼女を扇いでいた。
どこの王侯貴族だ。似合っているのがまた腹立たしかった。

「司令!」
「冗談よ。あんまりいろいろ考えすぎると……禿げるわよ」
「ぐっ……」
ジト目の西園寺と思わず額を押さえる久宝。しかし、弛緩した空気はそこまでだった。西園寺が立ち上がる。彼女は背筋を伸ばした。

「〈帝國〉の方々がいくら間抜けだったとしても、さすがに気付かれたでしょう。時間が無い。揚陸はそのまま続けて。舟艇隊はルルェド西側を渡河中の敵主力に突撃するわ。
予定より早く始めた礼儀知らずの方々に、あたくしたちのステップを見せつけてあげなさい!」

久宝が通信員にうなずくと、すぐさま隊内系で命令が飛んだ。周囲を警戒していた特別機動船から次々に応答が返ってくる。旗艦の交通船と特別機動船4艇で編成された戦隊は、揚陸作業中の運貨船の間を縫うように北上し始めた。




ジャボール兵団本営 ルルェド西岸 
2013年 2月15日 02時49分 

「敵だと?」
ジャボール兵団本営で報告を受けた兵団長ゾラータは、信じられんという表情を浮かべた。昨晩までの報告のどこにも敵が近くに存在しているという情報は含まれていなかったからだ。

「は、マワーレド川沿いの警戒部隊から報告が上がっております。最も近い敵はすでに南方二里付近に迫ると」
「数は? 敵は舟で来たのか?」
「そ、それが……」
ゾラータの問いに、灰色のローブを纏った参謀魔導士は言いよどんだ。

「はっきり申せ!」
ゾラータが陣幕を震わせる大音声で叱る。参謀は慌てて弁明した。

「あまりにも多くの報告が導波通信にて寄せられており、歪みが生じております。詳しい話が取れませぬ」
〈帝國〉軍内でもようやく組織的運用が開始され、その利便性が明らかになりつつあった導波通信だが、魔導士の技量と疲労に左右される他に、一度に集中した場合〈波〉が干渉し、伝わりづらくなるという欠点があった。
「壊滅したらしい監視哨も多く、断片的な内容ながら軍船十隻は下らず、その船脚は異常に速いとのことでございます。また、魔導士が多数乗っているという報告も」
「魔導士だと」
「『火礫にやられた!』と叫ぶばかりの者もおります。侮れぬ敵だと思われます」

ゾラータは、狼狽する参謀魔導士を意識から追い出した。その報告のみを脳内で整理する。ふん、敵を見落とした落ち度はあとで責めればよい。軍船十隻ならば多く見てもせいぜい数百であろう。渡河中の隊で待ち伏せれば事足りる。攻城部隊も手は空いておろう。

「オーク重装歩兵はいずこにある?」
「はッ、徴用兵が城内に突入するのを待つため、七割が西岸にて未だ渡河待ち中であります」
副官が答えた。
「よし、オーク重装歩兵団を川沿いに配置せよ。南から来る敵を迎え撃つ。渡河中の軍船は留め置き敵の軍船が現れたなら包みこんで叩き潰してしまえ」
「御意」
「西岸の砦には長弓隊と魔導士隊もいたな。敵が現れたら撃て」
「そのように伝達します」

ゾラータはさらに伝令を呼んだ。

「貴様は南正面の隊に伝えよ。敵に突破を許したならばこれを追うな。速やかに兵を立て直し退路を断て、とな」
「ははッ!」
鎧の擦れる音を残して、将校伝令が素早く走り去った。


「さすがは閣下。オーク重装歩兵二千で敵を迎え撃ち、長弓と魔法で叩く。敵が勝てぬと知った時にはすでに退路も断たれておる訳ですな。これでは苦労して来援した敵の援軍もたまりますまい」
本営に控えるオーガ突撃隊の将が感心したように言った。

「何処のどいつか知らんが、儂に楯突くのだ。生かしては帰さん」
ゾラータは自信満々に言い放った。確かにその采配は手堅い。多勢を大いに活用し、敵の勢いを押し留め包み込んで倒す。歴戦の将らしい指揮だった。
ルルェド城内はすでに侵入した徴用兵と選抜猟兵合わせて千も有れば落とせる。ゾラータはそう見積もっていた。

ゾラータの命令を受けた南方征討領軍ジャボール兵団は、南より迫る敵軍を迎え撃つべく活発な行動を開始した。本営には多数の伝令が入れ替わり出入りし、導波通信もその交信量が増大した。

そのため、遥か南の監視哨からの
『敵ラシイ飛龍ノ群レ、北へ向カウ。注意サレタシ』
という悲鳴のような報告は、本営に詰める参謀魔導士の元には伝わらなかった。


「報告します! 南正面の我が軍が敵船団と交戦を開始しました!」
本営に伝令が飛び込んで来た。遂に戦闘が開始されたのだ。


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