第22話 忘れ去られた島
1482年 5月2日 グンリーラ島
遠くから見れば、その島は小さく、それでいて緑の多い島であった。
規模としてはそこそこ大きく、南北に30キロ、東西に最大で8キロの規模を持っている。
誰もが、将来ここに家を構えてのんびりと過ごしたいと思うであろう。
しかし、この島には、先客がいた。
望まぬ休日を送る者達が・・・・・
規模としてはそこそこ大きく、南北に30キロ、東西に最大で8キロの規模を持っている。
誰もが、将来ここに家を構えてのんびりと過ごしたいと思うであろう。
しかし、この島には、先客がいた。
望まぬ休日を送る者達が・・・・・
物悲しい音楽が鳴り止むと、整列していた兵達は解散を命じられ、それぞれの配置に戻っていった。
兵士と言えば、健康的な体つきという印象があるが、この兵士達にその第1印象は当てはまらない。
頬は痩せこけ、肌の色は情けなく薄い。
しかし、眼だけはぎろぎろと光っており、ともすれば飢えた悪鬼を思わせる。
兵士と言えば、健康的な体つきという印象があるが、この兵士達にその第1印象は当てはまらない。
頬は痩せこけ、肌の色は情けなく薄い。
しかし、眼だけはぎろぎろと光っており、ともすれば飢えた悪鬼を思わせる。
「補給が途絶えて、早半年以上か・・・・・」
力なく、解散していく将兵を見ながら、ベルージ・クリンド中将はしわがれた声で呟いた。
この島には、現在3万の南大陸軍が常駐している。
いや、正確に言えば、常駐せざるを得ないと言ったほうが正しいであろうか。
元々、この島にいる3万のバルランド兵は、バルランド王国でも屈指の精鋭部隊であり、シホールアンルとの戦争が開始されれば、
高速船に乗り込んでシホールアンル軍の後背を突き、前線の主力軍と共に揉み潰す、という派手ながら、困難な任務を与えられた部隊だ。
だが、シホールアンルとの戦争が開始された直後、泊地に集結した高速輸送船は、事前に察知したシホールアンル艦隊の艦砲射撃で
片っ端から叩き沈められ、3万の将兵はシホールアンル側に相手にされず、そのまま取り残された。
そして、味方の南大陸軍からの補給船も、派遣される度にシホールアンル側の警戒艦に撃沈され、補給物資を送る事もままならなかった。
幸いにも、ある程度の食料は残っており、彼らは小食に抑えつつ、来るべきシホールアンル側の侵攻に備えた。
だが、シホールアンル軍は一向に来ず、南大陸軍も本土の防衛に必死になっており、小島に救助用の船を派遣する余裕すらなかった。
そして、半年以上が経った現在、島には病気が流行しつつあり、ある程度は抑えられている。
しかし、病気自体は大したものではないのだが、栄養状態が悪いのと、食物を十分にとっていなかった事が災いし、
今や10人の兵が亡くなり、300人の将兵が病床で苦しんでいる。
この島には、現在3万の南大陸軍が常駐している。
いや、正確に言えば、常駐せざるを得ないと言ったほうが正しいであろうか。
元々、この島にいる3万のバルランド兵は、バルランド王国でも屈指の精鋭部隊であり、シホールアンルとの戦争が開始されれば、
高速船に乗り込んでシホールアンル軍の後背を突き、前線の主力軍と共に揉み潰す、という派手ながら、困難な任務を与えられた部隊だ。
だが、シホールアンルとの戦争が開始された直後、泊地に集結した高速輸送船は、事前に察知したシホールアンル艦隊の艦砲射撃で
片っ端から叩き沈められ、3万の将兵はシホールアンル側に相手にされず、そのまま取り残された。
そして、味方の南大陸軍からの補給船も、派遣される度にシホールアンル側の警戒艦に撃沈され、補給物資を送る事もままならなかった。
幸いにも、ある程度の食料は残っており、彼らは小食に抑えつつ、来るべきシホールアンル側の侵攻に備えた。
だが、シホールアンル軍は一向に来ず、南大陸軍も本土の防衛に必死になっており、小島に救助用の船を派遣する余裕すらなかった。
そして、半年以上が経った現在、島には病気が流行しつつあり、ある程度は抑えられている。
しかし、病気自体は大したものではないのだが、栄養状態が悪いのと、食物を十分にとっていなかった事が災いし、
今や10人の兵が亡くなり、300人の将兵が病床で苦しんでいる。
「司令官。」
クリンド中将の傍らにいた主任参謀のレンネル准将が声をかけた。
元々、精気に満ち溢れ、特徴のあるごつい顔から、闘魂のレンネルとあだ名された彼も、今では病人のように顔色が悪い。
元々、精気に満ち溢れ、特徴のあるごつい顔から、闘魂のレンネルとあだ名された彼も、今では病人のように顔色が悪い。
「我々は、見捨てられたのでしょうか?」
「まさか。」
「まさか。」
クリンド中将は笑いを浮かべて、彼の言葉を否定した。
「魔法通信にはこの島を見捨てる、とは伝えられていない。
それどころか、いずれ救助部隊をよこすといつも伝えているじゃないか。」
「そうですが、最後に魔法通信が届いたのはいつであるかご存知でしょう?」
「魔法通信にはこの島を見捨てる、とは伝えられていない。
それどころか、いずれ救助部隊をよこすといつも伝えているじゃないか。」
「そうですが、最後に魔法通信が届いたのはいつであるかご存知でしょう?」
レンネルの言葉に、グリンド中将はうっと唸った。
「1ヶ月以上前です。それ以来、魔法通信は全く送られていません。
海に見えるのは、悪くてシホールアンル軍の艦艇がたまに見えるぐらい、良くて鳥がどこぞに飛んでいくのを見るだけです。」
海に見えるのは、悪くてシホールアンル軍の艦艇がたまに見えるぐらい、良くて鳥がどこぞに飛んでいくのを見るだけです。」
最初、頻繁に艦砲射撃を仕掛けてきたシホールアンル海軍も、ここ2ヶ月ほどは遠くを通るぐらいで、何ら手出しをしていない。
敵がこちらに関心を無くしたのなら歓迎だが、今や味方の魔法通信すら全く届かない。
そして、衰弱しつつある将兵達は、1人、また1人と、普段であれば治し得る病気にすら勝てず、無念の死を遂げつつある。
敵がこちらに関心を無くしたのなら歓迎だが、今や味方の魔法通信すら全く届かない。
そして、衰弱しつつある将兵達は、1人、また1人と、普段であれば治し得る病気にすら勝てず、無念の死を遂げつつある。
「諦めるのかね?」
クリンド中将はややとげのある口調で質問した。
「・・・・・・・・」
「君としてはそうであろうが、私は諦めない。そうでなければ、この島で、祖国の事を思いながら逝っていった将兵は浮かばれない。」
「君としてはそうであろうが、私は諦めない。そうでなければ、この島で、祖国の事を思いながら逝っていった将兵は浮かばれない。」
クリンド中将はそう言うと、共同墓地から移動を始めた。
残余3万。
この島に派遣されて以来、31000を数えた兵は、既に1000人ほどが、この共同墓地の中で眠っていた。
残余3万。
この島に派遣されて以来、31000を数えた兵は、既に1000人ほどが、この共同墓地の中で眠っていた。
1842年5月5日 午前10時 バルランド王国ヴィルフレイング
ハズバンド・キンメル大将は、久方ぶりにヴィルフレイングを訪れていた。
「急の頼み事とは、バルランド側もらしくない事をするな。」
「人間、犯した失敗は隠したがるものです。その点は分からんでもありません。」
「人間、犯した失敗は隠したがるものです。その点は分からんでもありません。」
隣に座っているスミス参謀長が言うと、キンメルは頷く。
「しかし、半年以上も放って置くとは。このような事はもっと早く言ってもらいたい物だ。」
彼は、少々不満気な口調で言いながら、2日前の事を思い出していた。
それは、サンディエゴの太平洋艦隊司令部で、レイリー・グリンゲル魔道士と久しぶりに会った時だ。
「グンリーラ島の味方軍を救出して欲しい?」
「はい。実は昨日、本国から長距離魔法通信を受け取ったのです。」
「はい。実は昨日、本国から長距離魔法通信を受け取ったのです。」
レイリーの話によると、バルランド王国側が、ミスリアルの本国を通じてレイリーに、グンリーラ島の陸軍部隊を、
アメリカ海軍の協力の下に救助して貰いたいとの要請があったのだ。
アメリカ海軍の協力の下に救助して貰いたいとの要請があったのだ。
いきなりの事に、キンメルは思わず面食らった。
「グンリーラという名前なんぞ、今まで聞いた事が無いぞ。それに、第一どこにあるのかさっぱり分からん。」
「位置は分かります。ですが、ここ最近の戦況が厳しかったせいもあり、グンリーラ島の救助計画は一時棚上げにあったのです。
実は3度ほど、輸送船を送ってグンリーラ島救助作戦を実行したのですが、3度とも失敗しています。」
「失敗だと?すまんが、ちょっと来てくれないかね。」
「位置は分かります。ですが、ここ最近の戦況が厳しかったせいもあり、グンリーラ島の救助計画は一時棚上げにあったのです。
実は3度ほど、輸送船を送ってグンリーラ島救助作戦を実行したのですが、3度とも失敗しています。」
「失敗だと?すまんが、ちょっと来てくれないかね。」
キンメルは立ち上がって、レイリーに机に広げられている地図を見せた。
「グンリーラ島とやらは、どこにあるのだね?」
「ここです。」
「ここです。」
キンメルは、思わず頭を抱えそうになった。
なんと、グンリーラ島とは、ガルクレルフより南東600マイルの位置にある小島で、地図には、ノミのように小さく載っている。
「ガルクレルフは、2月の作戦で第2任務部隊が叩き潰したが、周辺海域は未だにシホールアンル側の勢力圏だ。
そのような島に3万以上の兵員を送り込むとは。」
「バルランドの作戦計画では、南大陸北端に侵攻したシホールアンル軍を、精鋭軍によって後方逆上陸して退路を断ち、
南大陸軍本体と共に挟み撃ちにして殲滅するか、南大陸侵攻を頓挫させる予定でした。しかし、開戦直後に、グンリーラ島に
集結した高速輸送船すべてが、シホールアンル海軍によって撃沈され、3万の精鋭軍は島に孤立しました。
恐らく、シホールアンル軍に察知されていたようです。」
「その兵達がいる島の制海権は、シホールアンル軍が握っている。そのシホールアンル軍に互角以上に戦える合衆国海軍に
援護してもらい、島の陸兵を一気に救助してもらう、と言う事か・・・・・こりゃ厄介な事になりそうだ。」
なんと、グンリーラ島とは、ガルクレルフより南東600マイルの位置にある小島で、地図には、ノミのように小さく載っている。
「ガルクレルフは、2月の作戦で第2任務部隊が叩き潰したが、周辺海域は未だにシホールアンル側の勢力圏だ。
そのような島に3万以上の兵員を送り込むとは。」
「バルランドの作戦計画では、南大陸北端に侵攻したシホールアンル軍を、精鋭軍によって後方逆上陸して退路を断ち、
南大陸軍本体と共に挟み撃ちにして殲滅するか、南大陸侵攻を頓挫させる予定でした。しかし、開戦直後に、グンリーラ島に
集結した高速輸送船すべてが、シホールアンル海軍によって撃沈され、3万の精鋭軍は島に孤立しました。
恐らく、シホールアンル軍に察知されていたようです。」
「その兵達がいる島の制海権は、シホールアンル軍が握っている。そのシホールアンル軍に互角以上に戦える合衆国海軍に
援護してもらい、島の陸兵を一気に救助してもらう、と言う事か・・・・・こりゃ厄介な事になりそうだ。」
キンメルはそう言って苦笑したものだ。
(厄介事を押し付けてきたバルランド側と、今日会って話をするわけだが、さて、どうなる事か)
キンメルが回想から抜け出した時、ドアが開かれた。
キンメルは、入ってくるであろう相手を出迎えるために、椅子から立ち上がった。
ドアから出て来たのは、バルランド王国の国防軍総司令官であるグーレリア・ファリンベ元帥と、脳紺色の軍服を付けた、痩せた軍人である。
顔はどことなく理知的だが、現場に出るような印象は無く、陸上勤務を中心に軍人生活を送っているように見える。
アメリカで言えば、海軍省や国防総省に勤める官僚型軍人のような色が濃く感じられる。
キンメルが回想から抜け出した時、ドアが開かれた。
キンメルは、入ってくるであろう相手を出迎えるために、椅子から立ち上がった。
ドアから出て来たのは、バルランド王国の国防軍総司令官であるグーレリア・ファリンベ元帥と、脳紺色の軍服を付けた、痩せた軍人である。
顔はどことなく理知的だが、現場に出るような印象は無く、陸上勤務を中心に軍人生活を送っているように見える。
アメリカで言えば、海軍省や国防総省に勤める官僚型軍人のような色が濃く感じられる。
「ようこそおいで下さいました。」
「お出迎え有難うございます。こちらは、私の参謀副長を勤めます、クー・アールンク少将です。」
「初めまして、アールンクと申します。以後、お見知りおきを。」
「お出迎え有難うございます。こちらは、私の参謀副長を勤めます、クー・アールンク少将です。」
「初めまして、アールンクと申します。以後、お見知りおきを。」
アールンク少将は、やや表情を固めながら、キンメルらに挨拶した。
一通り挨拶が終わると、キンメルやファリンベらは席に座った。
一通り挨拶が終わると、キンメルやファリンベらは席に座った。
「早速ですが、私共がここに赴いたのは他でもありません。」
一瞬、右隣に座るマックモリス大佐がほら来た、とばかりに顔を引き締めた。
「我々は、グンリーラ島の友軍部隊を救出すべく、近々救出部隊を派遣する予定であります。
しかし、グンリーラ島の周辺海域は、あなた方もご存知のようにシホールアンル側の勢力圏となっています。
我がバルランド、いえ、南大陸連合軍の艦艇では、高速艦でも容易に侵入、離脱が出来ぬ海域です。
そこで、シホールアンル軍と同等以上の戦闘力を有する、アメリカ海軍に協力を申し込みたいのです。」
「ファリンベ閣下。そのお話、よく分かりました。しかし、はっきり申しまして、我々には気になる点があります。」
「我々は、グンリーラ島の友軍部隊を救出すべく、近々救出部隊を派遣する予定であります。
しかし、グンリーラ島の周辺海域は、あなた方もご存知のようにシホールアンル側の勢力圏となっています。
我がバルランド、いえ、南大陸連合軍の艦艇では、高速艦でも容易に侵入、離脱が出来ぬ海域です。
そこで、シホールアンル軍と同等以上の戦闘力を有する、アメリカ海軍に協力を申し込みたいのです。」
「ファリンベ閣下。そのお話、よく分かりました。しかし、はっきり申しまして、我々には気になる点があります。」
キンメルは穏やかな口調でありながら、鋭い眼つきでファリンベを見つめる。
「なぜこの事をつい最近になって、我が合衆国に知らせたのかと言う事です。」
「う・・・・それは・・・・」
「なぜこの事をつい最近になって、我が合衆国に知らせたのかと言う事です。」
「う・・・・それは・・・・」
ファリンベは一瞬、戸惑ったような表情になる。そこに、話を聞いていたアールンク少将が口を開いた。
「軍内部に、グンリーラ島を見捨ててはどうか?という意見がありました。」
「見捨てる?」
「見捨てる?」
マックモリス大佐が少し高い声音で言う。
「なぜ見捨てるのです?」
「輸送船が足りなく、それに、周辺海域は常に、シホールアンル海軍の艦艇が出現する可能性が高かったからです。
現に、過去3回ほど行われた救助作戦は、事前に待ち伏せていたシホールアンル側の艦艇によって全て失敗に終わっています。
この事から、救助の見込みの無い島など見捨てるしかない、との意見が台頭し、1ヵ月半前に放棄が決定したのです。」
「アールンク少将の言う通りです。」
「輸送船が足りなく、それに、周辺海域は常に、シホールアンル海軍の艦艇が出現する可能性が高かったからです。
現に、過去3回ほど行われた救助作戦は、事前に待ち伏せていたシホールアンル側の艦艇によって全て失敗に終わっています。
この事から、救助の見込みの無い島など見捨てるしかない、との意見が台頭し、1ヵ月半前に放棄が決定したのです。」
「アールンク少将の言う通りです。」
ファリンベ元帥は相槌を打った。その表情に、どこか憤りの色が隠れていた。
(?)
ふと、キンメルは、アンルーク少将が勝手に口を開いたから怒ったのか、と思った。
(このファリンベ元帥、いまいち足らんのかな)
キンメルはそう思ったが、その思いを振り払って言葉を放つ。
(?)
ふと、キンメルは、アンルーク少将が勝手に口を開いたから怒ったのか、と思った。
(このファリンベ元帥、いまいち足らんのかな)
キンメルはそう思ったが、その思いを振り払って言葉を放つ。
「なぜ、我々に言わなかったのです?放棄を決定した1ヵ月半前といえば、3月の中旬です。
我々は今現在、敵に対して防御の姿勢をとっていますが、必要あらば南大陸軍に協力せよとの命令も受けています。
要請されるならば、今ではなく、未だに損害の回復し切れていない筈の3月頃に要請をされておけば、我々としても
作戦を立てやすかったのですが。まあ、それはさて置き、救出作戦の実施については我々も賛成の意です。
しかし、問題は場所です。」
我々は今現在、敵に対して防御の姿勢をとっていますが、必要あらば南大陸軍に協力せよとの命令も受けています。
要請されるならば、今ではなく、未だに損害の回復し切れていない筈の3月頃に要請をされておけば、我々としても
作戦を立てやすかったのですが。まあ、それはさて置き、救出作戦の実施については我々も賛成の意です。
しかし、問題は場所です。」
キンメルが言葉を切り、マックモリス大佐に視線を向ける。
マックモリスが頷くと、席から立ち上がり、壁に賭けられていた地図の前に立った。
「グンリーラ島の救助作戦を行うとすると、いくつか問題点が出てきます。
まず、問題点に挙がるのはこの、グンリーラ島の周辺海域です。」
まず、問題点に挙がるのはこの、グンリーラ島の周辺海域です。」
マックモリス大佐は、ちっぽけな島の周囲を指示棒で撫でた。
「先の話にも出ましたように、グンリーラ島の制海権は、シホールアンル海軍が握っております。
グンリーラ島は、ガルクレルフから南東600マイル、その北のネイレハーツからは南南東800マイルの
距離にあります。ガルクレルフ、ネイレハーツはいずれも、シホールアンル海軍の根拠地となっている場所です。」
グンリーラ島は、ガルクレルフから南東600マイル、その北のネイレハーツからは南南東800マイルの
距離にあります。ガルクレルフ、ネイレハーツはいずれも、シホールアンル海軍の根拠地となっている場所です。」
更に、陸地側の2箇所の地点を指示棒でトントンと叩いた。
「現在、我が潜水艦部隊によると、ガルクレルフには戦艦、竜母を中心とした主力部隊はおりませんが、
それでも巡洋艦5隻、駆逐艦18隻の存在が確認されています。そして問題なのが、このネイレハーツです。
ネイレハーツにはシホールアンル海軍の主力部隊がおり、戦艦6隻、竜母2隻、巡洋艦、駆逐艦合わせて31隻の
存在が確認されています。もし、我が合衆国海軍や貴国の救助部隊が、グンリーラ島に迫ると分かれば、
これらの部隊が大挙出動し、戦いを挑んでくる可能性は十分にあります。」
「しかし、2月のガルクレルフの戦いで、シホールアンル軍は貴国の艦隊に敗れています。
もし総力で出撃しても、シホールアンル側は損害を恐れて」
「出てこない、とでも言うのでしょうか?」
それでも巡洋艦5隻、駆逐艦18隻の存在が確認されています。そして問題なのが、このネイレハーツです。
ネイレハーツにはシホールアンル海軍の主力部隊がおり、戦艦6隻、竜母2隻、巡洋艦、駆逐艦合わせて31隻の
存在が確認されています。もし、我が合衆国海軍や貴国の救助部隊が、グンリーラ島に迫ると分かれば、
これらの部隊が大挙出動し、戦いを挑んでくる可能性は十分にあります。」
「しかし、2月のガルクレルフの戦いで、シホールアンル軍は貴国の艦隊に敗れています。
もし総力で出撃しても、シホールアンル側は損害を恐れて」
「出てこない、とでも言うのでしょうか?」
情報参謀を務めるロシュフォート少佐が言葉を遮った。束の間、ファリンベ元帥の顔が赤く染まる。
「出てくる可能性は、十分にあります。シホールアンルは負け過ぎました。
殊更、我が合衆国と刃を交えている戦いでは必ず負けています。人には、勝てずにいる相手が目の前に出てくれば、
すぐに逃げ出したくなる、という者がいます。ですが、全ての人が果たしてそう言えますかな?」
殊更、我が合衆国と刃を交えている戦いでは必ず負けています。人には、勝てずにいる相手が目の前に出てくれば、
すぐに逃げ出したくなる、という者がいます。ですが、全ての人が果たしてそう言えますかな?」
ロシュフォートの言葉にファリンベは面食らった。彼は更に続ける。
「勝てずにいる相手が出てくれば、より一層闘志を燃やして、相手を叩きのめそうとする事も
考えられない事ではありません。負け続けているシホールアンル軍とはいえ、彼らの戦力は未だに
強大です。特に海軍に対しては、負け戦とはいえ何隻もの合衆国海軍の艦艇を沈めたり、傷付けたりしています。
負けん気の強いシホールアンルが、出て来ぬと考えるのは早計かと思われます。」
「なるほど、浅はかな考えでありました。」
考えられない事ではありません。負け続けているシホールアンル軍とはいえ、彼らの戦力は未だに
強大です。特に海軍に対しては、負け戦とはいえ何隻もの合衆国海軍の艦艇を沈めたり、傷付けたりしています。
負けん気の強いシホールアンルが、出て来ぬと考えるのは早計かと思われます。」
「なるほど、浅はかな考えでありました。」
ファリンベ元帥はあっさりと非を認めた。これにロシュフォート少佐は拍子抜けたした。
彼としては、ファリンベから罵声のいくつかは浴びると思っていたのだが、
足りないと感じさせる割には、割り切りの良い人間なのだろう。
彼としては、ファリンベから罵声のいくつかは浴びると思っていたのだが、
足りないと感じさせる割には、割り切りの良い人間なのだろう。
「今回の作戦では、一見シホールアンル海軍との総力決戦になると考えがちかもしれませんが、
我々としてはそうは思いません。」
「それは、どういうことで?」
我々としてはそうは思いません。」
「それは、どういうことで?」
アンルーク少将がマックモリスの言葉に反応した。
「あなた方の要請は、グンリーラ島の友軍部隊救出とありました。
グンリーラ島周辺は、今もシホールアンル海軍の制海権下にあります。要するに、これは隠密作戦です。」
グンリーラ島周辺は、今もシホールアンル海軍の制海権下にあります。要するに、これは隠密作戦です。」
次に、スミス少将が口を開いた。
「バルランド側は、輸送船を準備してあるとおっしゃられましたな?」
「ええ。敵の目が突きにくいように、南大陸の南端で待機させております。」
「準備が早くて、我々も助かります。」
「ええ。敵の目が突きにくいように、南大陸の南端で待機させております。」
「準備が早くて、我々も助かります。」
スミス少将は頭を下げる。
「しかし、少々残念な事を申さなければなりません。」
スミスは一呼吸置くと、意を決したように言った。
「あなた方の用意した輸送船は、残念ながら使いません。」
「なっ!?」
「なっ!?」
ファリンベ元帥は驚いた。
「何故です!?我々バルランドの船を馬鹿にしているのですか!」
「そうではありません。」
「そうではありません。」
いきり立つアンルーク少将を、キンメルが冷静な口調で抑えた。
「作戦上の問題から、使いたくても使えぬのです。ソク。」
キンメルはマックモリス大佐に指示した。
「南大陸には、シホールアンルシンパのスパイが多数潜入しているとの情報がもたらされています。
もし、救助船団の北上を知らされれば、途中でシホールアンル側の迎撃を受ける危険性があります。
南大陸の南端に準備された船団は停泊しているようですが、その時点で、スパイに察知されている可能性はゼロではありません。
出港時点で一時に何隻も船が出港すれば、何かしらの行動があると予想されます。」
「では、友軍部隊の輸送はどうされるのです?」
「わが合衆国の輸送船を使います。」
もし、救助船団の北上を知らされれば、途中でシホールアンル側の迎撃を受ける危険性があります。
南大陸の南端に準備された船団は停泊しているようですが、その時点で、スパイに察知されている可能性はゼロではありません。
出港時点で一時に何隻も船が出港すれば、何かしらの行動があると予想されます。」
「では、友軍部隊の輸送はどうされるのです?」
「わが合衆国の輸送船を使います。」
マックモリスが即断した。
「万が一、出港時に発見されなくとも、救助部隊は必然的に大陸に沿って北上します。
そうすると、洋上とは言え、途中で発見される可能性があります。ですが、敵に察知されていない航路はあります。」
そうすると、洋上とは言え、途中で発見される可能性があります。ですが、敵に察知されていない航路はあります。」
彼はそう言うと、地図の一番端。
アメリカ本土からヴィルフレイングまでを、指示棒ですうーっと撫でた。
アメリカ本土からヴィルフレイングまでを、指示棒ですうーっと撫でた。
「この航路です。この航路は、わが合衆国海軍の物資輸送艦や輸送船が通るものであり、常時30隻の輸送船団が行動しています。
それに、合衆国本土にはシホールアンルシンパのスパイは1人もおらず、南大陸側の人間も、ごく一部の者しか入国していないため、
航路は察知されにくくなっています。我々は、この利点を生かして、合衆国本土から輸送船団を一気に、グンリーラ島にまで向かわせ、
貴国の部隊を収容後、速やかに同島を離脱し、迂回航路を取りながらヴィルフレイングに向かいます。」
「なるほど・・・・そう言う手がありましたか。」
それに、合衆国本土にはシホールアンルシンパのスパイは1人もおらず、南大陸側の人間も、ごく一部の者しか入国していないため、
航路は察知されにくくなっています。我々は、この利点を生かして、合衆国本土から輸送船団を一気に、グンリーラ島にまで向かわせ、
貴国の部隊を収容後、速やかに同島を離脱し、迂回航路を取りながらヴィルフレイングに向かいます。」
「なるほど・・・・そう言う手がありましたか。」
ファリンベ元帥は納得したようにそう言った。
「輸送船団には、高速航行の可能な船を使います。この作戦には隠密性が重視されますので、快速船で編成します。
それに、万が一の事態に備えて太平洋艦隊からも機動部隊を護衛につけます。」
「と、申しますと、あなた方の持つ空母を1隻、回してくれるのですな。」
「いえ、念のため正規空母2隻を護衛に付けます。」
それに、万が一の事態に備えて太平洋艦隊からも機動部隊を護衛につけます。」
「と、申しますと、あなた方の持つ空母を1隻、回してくれるのですな。」
「いえ、念のため正規空母2隻を護衛に付けます。」
次いで、キンメルも発言した。
「空母は第16任務部隊と第15任務部隊を配備し、輸送船団の側面援護に当たります。」
「そうえすか・・・あなた方の配慮に、バルランド、いえ、南大陸を代表して、深く礼を申し上げます。」
「ありがとうございます。しかし、礼を言うのは、まだ早い。作戦が成功したら、改めてお礼の言葉をお願いします。」
「では、作戦の大まかな内容はこれで決まりました。次に、この作戦の細部について、これから検討をしたいと思います。」
「そうえすか・・・あなた方の配慮に、バルランド、いえ、南大陸を代表して、深く礼を申し上げます。」
「ありがとうございます。しかし、礼を言うのは、まだ早い。作戦が成功したら、改めてお礼の言葉をお願いします。」
「では、作戦の大まかな内容はこれで決まりました。次に、この作戦の細部について、これから検討をしたいと思います。」
その後、4時間の協議が重ねられ、グンリーラ島撤収作戦の骨子は早い段階で決まりつつあった。
1482年 5月7日午後10時 ヴィルフレイング沖北東70マイル
第16任務部隊は、訓練のため港外に出ていた。
その旗艦である空母エンタープライズの司令官室。ここで、2人の男が、机越しに向かい合っていた。
その旗艦である空母エンタープライズの司令官室。ここで、2人の男が、机越しに向かい合っていた。
「う~ん・・・・・ここが動詞だよな?ラウス先生。」
ウィリアム・ハルゼー中将は、本を持って向かい合うラウス・クレーゲル魔道士に質問する。
「そうっすよ。ここが動詞です。」
「その次がどうも分からんなぁ・・・」
「その次がどうも分からんなぁ・・・」
ハルゼーは鉛筆を机に放り投げると、側にあったコーヒーカップを手に取った。
「小休止だ。ちょっと疲れちまったな。」
ハルゼーは微笑みながらコーヒーを啜った。疲れが滲んでいるが、表情はどことなく爽やかだ。
一方のラウスは、
一方のラウスは、
「ああ・・・・眠ぃ。」
と、ハルゼーに聞こえぬように、そっと呟いていた。
「どうだい、ラウス“先生”。俺も大分覚えてきただろう?」
「良くなっていますよ。」
「良くなっていますよ。」
ラウスは空元気を出して答えた。
「そうかそうか。それにしても、シホット共の言葉は難しいものだな。よくこんなのを覚えられたものだ。」
ハルゼーは、ラウスに感心してそう呟いた。
実を言うと、ラウスはハルゼーに対して、シホールアンル語を教えさせられていた。
きっかけは、ある日突然、
ハルゼーは、ラウスに感心してそう呟いた。
実を言うと、ラウスはハルゼーに対して、シホールアンル語を教えさせられていた。
きっかけは、ある日突然、
「ラウス君、シホットの言語とはどういうものだね?」
と、ハルゼーが聞いた事から始まった。
それが2週間前である。それ以来、ラウスはハルゼー専門の語学教師として、9時から11時までの間、
小休止を入れてシホールアンル語を教える事になった。
ちなみに、ハルゼーは気前が良く、報酬に葉巻を差し出してくれたが、ラウスは断った。
彼は葉巻というよりも、タバコの類は嫌いであり、吸うのは真っ平ごめんだと公言している。
それはともかく、9時から11時まで教えるという話であったのだが、どうしてどうして、ハルゼーは優秀な生徒であった。
2時間のはずの勉強が、今や2倍の4時間にまで増えてしまった。
元々、50歳の年齢にもかかわらず、実際に飛ばねばパイロットの気持ちなぞ分からんと言って、自分の息子のような新兵と肩を並び合ってパイロットの資格を取った努力家だ。
ラウスは二つ返事でハルゼーの要望にこたえたが、ハルゼーが持ち前の努力家ぶりを発揮した今、彼は心底後悔していた。
でもって、ここ数日間ほどは、再びラウスの部屋から、しきりにめんどくさいという言葉が聞かれるようになったと言う。
そのラウスも、ハルゼーの前でめんどくさいとは言わない。
(言っちまったら、この炎のおっさんにどやされるかもしんねえからな)
内心でそう呟き、思わずため息が出た。
それが2週間前である。それ以来、ラウスはハルゼー専門の語学教師として、9時から11時までの間、
小休止を入れてシホールアンル語を教える事になった。
ちなみに、ハルゼーは気前が良く、報酬に葉巻を差し出してくれたが、ラウスは断った。
彼は葉巻というよりも、タバコの類は嫌いであり、吸うのは真っ平ごめんだと公言している。
それはともかく、9時から11時まで教えるという話であったのだが、どうしてどうして、ハルゼーは優秀な生徒であった。
2時間のはずの勉強が、今や2倍の4時間にまで増えてしまった。
元々、50歳の年齢にもかかわらず、実際に飛ばねばパイロットの気持ちなぞ分からんと言って、自分の息子のような新兵と肩を並び合ってパイロットの資格を取った努力家だ。
ラウスは二つ返事でハルゼーの要望にこたえたが、ハルゼーが持ち前の努力家ぶりを発揮した今、彼は心底後悔していた。
でもって、ここ数日間ほどは、再びラウスの部屋から、しきりにめんどくさいという言葉が聞かれるようになったと言う。
そのラウスも、ハルゼーの前でめんどくさいとは言わない。
(言っちまったら、この炎のおっさんにどやされるかもしんねえからな)
内心でそう呟き、思わずため息が出た。
「ラウス君、疲れたかね?」
「ええ、少々。」
「ええ、少々。」
ハルゼーはコーヒーを飲み干すと、机に置いた。
「それにしても、今度の作戦は面白くないでもないが、面白いとまでもいかんなぁ。」
「それは、どういう事っすか?」
「それは、どういう事っすか?」
「今回の救助作戦ではな、シホットが制海権を抑えている島にこっそりと忍び寄り、こっそりと逃げ帰ってくる、
というこそ泥みてえな物なのだ。これが成功すれば、シホット共の面子は丸潰れになって、愉快な気持ちになる。
だが、俺としてはちょっと物足りんな。ラウス君、空母の敵は、なんだと思う?」
というこそ泥みてえな物なのだ。これが成功すれば、シホット共の面子は丸潰れになって、愉快な気持ちになる。
だが、俺としてはちょっと物足りんな。ラウス君、空母の敵は、なんだと思う?」
ハルゼーの質問に、ラウスはすぐに答えた。
「戦艦や、敵軍の急所ですか?」
このエンタープライズに乗って早5ヶ月になるが、ラウスも空母戦闘の特性を少しずつ理解している。
「その答えなら、50点だな。」
「厳しいッすね。」
「当たり前だ。わしに評価を下させると、よっぽど気に入らん答えが出ない限り厳しくするぞ。
それはいいとして。空母の敵はな、空母だ。」
「厳しいッすね。」
「当たり前だ。わしに評価を下させると、よっぽど気に入らん答えが出ない限り厳しくするぞ。
それはいいとして。空母の敵はな、空母だ。」
ハルゼーはニヤリと笑みを浮かべた。
「この世界には、航空機を載せる空母はいないが、代わりにワイバーンを載せる竜母がいる。
形は違えど、特性は共に同じだ。それらが、直接相対した戦いは、今まで一度も無い。
わしがやりたい戦いは、互いに機動性を持ち、航空戦力でもってやるかやられるかの戦いだ。
だが、今回の作戦では、それは望みにくいだろう。なにしろ、発見されにくい事が条件でな。
発見されたら敵がわんさか出てくる。そしたら、輸送船を守りながらの戦いとなるから、
作戦上はあまりいいとは言えない結果になりやすい。」
「なるほど、よく分かりましたよ。」
形は違えど、特性は共に同じだ。それらが、直接相対した戦いは、今まで一度も無い。
わしがやりたい戦いは、互いに機動性を持ち、航空戦力でもってやるかやられるかの戦いだ。
だが、今回の作戦では、それは望みにくいだろう。なにしろ、発見されにくい事が条件でな。
発見されたら敵がわんさか出てくる。そしたら、輸送船を守りながらの戦いとなるから、
作戦上はあまりいいとは言えない結果になりやすい。」
「なるほど、よく分かりましたよ。」
ラウスは、ハルゼーらしい言い分だなと思った。
積極果敢をモットーとするこの提督には、今回のような作戦は少々不満があるのだろう。
「・・・どうも今日は疲れたな。」
ハルゼーは、大きくため息をしながらラウスに言った。
「ラウス君、今日は早めに切り上げようか。」
「え、もう終わりっすか?」
「どうも、今日は思った以上に疲れとるようだ。明日に持ち越そう。」
「え、もう終わりっすか?」
「どうも、今日は思った以上に疲れとるようだ。明日に持ち越そう。」
頬を掻きながら言うハルゼーに、ラウスは不謹慎ながらも叫び声を上げたい気持ちに駆られた。
それを寸手の所で抑える。
それを寸手の所で抑える。
「はい。分かりました。じゃあ、明日と言う事で。」
「いつもすまんな。君には助かっとるよ。」
「いつもすまんな。君には助かっとるよ。」
そう言うと、ラウスの肩をポンと叩いた。
ラウスははにかみながらも、司令官室を出て行こうとした。
ラウスははにかみながらも、司令官室を出て行こうとした。
「おやすみラウス君、今日は目一杯眠れよ。」
ハルゼーの言葉を返しながら、ラウスは司令官室の扉を閉めた。
ふと、左頬に発疹らしきものが見えたな、と思ったが、彼は別に気にしなかった。
ふと、左頬に発疹らしきものが見えたな、と思ったが、彼は別に気にしなかった。