第10話ー3
陸上自衛隊西部方面普通科連隊第1中隊 ルルェド西方樹木線付近
2013年 2月15日 04時45分
2013年 2月15日 04時45分
〈帝國〉軍予備隊所属の斥候が発見したのは、ルルェド南方5キロ地点に上陸し密林を強引に踏破してきた『サンダー』作戦陸上挺身隊──有馬信大(ありま・のぶひろ)一等陸尉率いる西普連一個中隊と、獣人ボスフェルト率いる南瞑同盟会議水軍刀兵隊400名の混成部隊だった。
ルルェド攻囲中の〈帝國〉軍主力後背を襲撃するために密林を踏破したかれらもまた、旅団規模の〈帝國〉軍部隊(シリブロー率いる予備隊)が集結していることを確認している。
ルルェド攻囲中の〈帝國〉軍主力後背を襲撃するために密林を踏破したかれらもまた、旅団規模の〈帝國〉軍部隊(シリブロー率いる予備隊)が集結していることを確認している。
「敵部隊陣形を変更しつつあり。正面に歩兵横列、左右に騎兵部隊展開中」
「発見されたな」有馬はそう言って双眼鏡を下ろした。
「定石通りだ。来るぞ」
「発見されたな」有馬はそう言って双眼鏡を下ろした。
「定石通りだ。来るぞ」
刀兵隊長ボスフェルトが、銀色の毛並みで覆われた精悍な顔面に笑みを浮かべて言った。人狼種である彼はもとより戦闘的な雰囲気を纏っているのだが、犬歯をのぞかせ毛を逆立たせる姿を目の当たりにすると、実戦経験のある有馬でも瞠目するところはある。
周辺の地形はほぼ平坦であり、南側に密林、北側には平原が広がっている。〈帝國〉軍予備隊は平原に部隊を待機させていたが、南側樹木線付近で陣地構築作業中の水軍刀兵を発見、すぐさま南を正面として陣形を組み替えた。
一方の陸自挺身隊は、樹木線付近に中隊主力と迫撃砲、さらに水軍刀兵を配置。平原西側にある小高い丘に前進観測班を推進し、攻撃準備を整えている。
この時点で〈帝國〉軍斥候は陸自部隊を発見できていない。彼らが目視できたのは、水軍刀兵だけであった。日本の植生に合わせて開発された2型迷彩は、アラム・マルノーヴの密林でもその威力を遺憾なく発揮していた。
一方の陸自挺身隊は、樹木線付近に中隊主力と迫撃砲、さらに水軍刀兵を配置。平原西側にある小高い丘に前進観測班を推進し、攻撃準備を整えている。
この時点で〈帝國〉軍斥候は陸自部隊を発見できていない。彼らが目視できたのは、水軍刀兵だけであった。日本の植生に合わせて開発された2型迷彩は、アラム・マルノーヴの密林でもその威力を遺憾なく発揮していた。
「迫は準備どうだ?」
「撃てます」
「FO(前進観測班)も配置についているな……よし、射撃開始」
「撃てます」
「FO(前進観測班)も配置についているな……よし、射撃開始」
〈帝國〉軍予備隊 ルルェド西方
同時刻
同時刻
間もなく夜明けを迎えようとしている平原に〈帝國〉正規兵の怒鳴り声が鳴り響いている。数百の男たちが草を踏む音と装具の擦れあう金属音が周囲に満ち、部隊の熱気は徐々に高まりつつあった。
「パナイ、ジャナンジー、ログワ、タッカン、デミナー各隊戦列組みました」
徴用兵は出身地ごとに約二百名で一個隊を編成させられている。予備隊の徴用兵団は五個隊を横に並べ、主攻部隊として準備を整えていた。
所属を示す旗印が林立し、装備も体格もばらばらな男たちが正規兵に追い立てられながら並んでいる。その後方にオーク重装歩兵が魁偉な風貌をひけらかしながら控えていた。
所属を示す旗印が林立し、装備も体格もばらばらな男たちが正規兵に追い立てられながら並んでいる。その後方にオーク重装歩兵が魁偉な風貌をひけらかしながら控えていた。
「見よ、獣人どもがうろうろとしておる。三百ほどか」シリブローが銀色の口ひげをなでながら言った。その口調には余裕がある。
「しかし、獣人は剽悍にして剛健。徴用兵では倍でもきついかと」
「よい」
「しかし、獣人は剽悍にして剛健。徴用兵では倍でもきついかと」
「よい」
本営付の騎士が発した懸念に、シリブローは即答した。
「馬鹿な敵が森を出て徴用兵に喰らいつけば、左右から騎兵が付け入って終いよ」
「敵が応じねば如何します。森奥に引き込もうとした場合は?」
「森で陣形を維持できる軍は無い。やつらがわざわざ散るのであれば、付き合う義理は無い。徴用兵と重騎兵を抑えに残して、我らは本軍の後詰めに向かう」
「馬鹿な敵が森を出て徴用兵に喰らいつけば、左右から騎兵が付け入って終いよ」
「敵が応じねば如何します。森奥に引き込もうとした場合は?」
「森で陣形を維持できる軍は無い。やつらがわざわざ散るのであれば、付き合う義理は無い。徴用兵と重騎兵を抑えに残して、我らは本軍の後詰めに向かう」
シリブローの構想は明快であった。予備隊の最優先任務は兵団主力の救援である。後背を突かれないためにも水軍刀兵を叩く必要があるが、敵が森へ撤退するようであれば残置部隊を残して兵団主力へ向かう。
一度森の中で散開した水軍刀兵が平地で戦うためには集結して戦列を整える必要があるが、残置部隊がそれを許さない。必勝の構えである。
その時、伝令が本営に駆け込んだ。
「申し上げます! 同盟会議軍に新手を確認いたしました!」
「いかほどか?」
「数は約百ほど。見たことも無い軍装にて、何処の軍かは分かりませぬ」
「なんだそれは? なぜ今まで見つけられなんだ?」
一度森の中で散開した水軍刀兵が平地で戦うためには集結して戦列を整える必要があるが、残置部隊がそれを許さない。必勝の構えである。
その時、伝令が本営に駆け込んだ。
「申し上げます! 同盟会議軍に新手を確認いたしました!」
「いかほどか?」
「数は約百ほど。見たことも無い軍装にて、何処の軍かは分かりませぬ」
「なんだそれは? なぜ今まで見つけられなんだ?」
シリブローの問いに、伝令は頭を捻りながら答えた。
「奇妙な柄の軍装にて、まるで森に溶け込むように見辛うございます。夜が白んでくるまでは全く気付かず……」
「ふむ……まあよい。百程が加わったところで、我らの優位に変わりはない。伝令を出せ! 攻撃を──」
「奇妙な柄の軍装にて、まるで森に溶け込むように見辛うございます。夜が白んでくるまでは全く気付かず……」
「ふむ……まあよい。百程が加わったところで、我らの優位に変わりはない。伝令を出せ! 攻撃を──」
勢い込んだシリブローが命令を下そうとした瞬間、予備隊の前方数十メートルで、轟音と共に地面が抉れた。土塊が徴用兵の列に降り注ぎ、部隊に動揺が走る。
「な、何事だ!?」
『射撃要求、修正射。増せ50──』
前進観測班からの通報と陣地からのレーザー測距により得られた諸元が各砲に伝えられると、砲員たちは親の仇に向かっていくような勢いで、L16 81ミリ迫撃砲の修正に取りかかった。何しろ敵は目の前だ。射撃機会はいつまでもあるわけでは無い。
「弾の余裕も無いしな」
特大のシャンパンの栓を抜くような音と共に修正射が発射される中、迫撃砲小隊長の千々石直(ちぢわ・なおし)二等陸尉はぼやいた。いくら屈強な獣人の力を借りたとはいえ、背負子で運べる弾薬には限りがある。
「弾ちゃーく、いま!」
計測員の声と同時に、敵集団のど真ん中で土煙が上がった。それを見た千々石二尉は小躍りして喜んだ。
「よくやった! 次回より小隊斉射。急げ!」
計測員の声と同時に、敵集団のど真ん中で土煙が上がった。それを見た千々石二尉は小躍りして喜んだ。
「よくやった! 次回より小隊斉射。急げ!」
彼の部下たちは指揮官の期待に応えた。各砲が速やかに基準砲の諸元に合わせ、手持ちの砲弾を片っ端から〈帝國〉軍の戦列に叩き込み始めたのだった。
〈帝國〉軍ジャボール兵団徴用兵ジャナンジー隊 ルルェド西方
2013年 2月15日 05時01分
2013年 2月15日 05時01分
目の前が赤く染まり、そのあと土煙で何も見えなくなった。
弾着点の数名は跡形もなく消え去り、その周囲にいた最も運の悪い男たちは、破片を全身に受け即死も出来ずのたうち回る。質の悪い鎧は身を守るのに何の役にも立たず、逆に傷を深めるばかりであった。
最悪なことに、それは終わる気配がない。
最悪なことに、それは終わる気配がない。
「ひょう! 何だぁこいつは?」
戦列中央付近で起きているこの世の終わりを、ジャナンジー隊指揮官のワトサップは首を伸ばしてどうにか見てやろうとした。
彼の隊は戦列最右翼に位置している。素人揃いの徴用兵団にあって、彼の隊だけは例外的に高い戦闘力を保持していることで知られていた。
隊を構成する男たちの多くが、ジャナンジー庄とその周辺の村々から徴用されており、マワーレド川流域のその一帯に住む人々が、少々荒っぽい生業で生きてきたことがその理由だ。
彼の隊は戦列最右翼に位置している。素人揃いの徴用兵団にあって、彼の隊だけは例外的に高い戦闘力を保持していることで知られていた。
隊を構成する男たちの多くが、ジャナンジー庄とその周辺の村々から徴用されており、マワーレド川流域のその一帯に住む人々が、少々荒っぽい生業で生きてきたことがその理由だ。
「兄貴! 真ん中の連中ひでぇ有様だぜ!」
早い話が水賊とか川賊と言われる連中なのである。もちろん常にそういうことをしている訳ではなく、普段は漁師や農民として生活しつつ、ちょっと間抜けな隊商辺りが通りかかったときに、期間限定で商売替えをするのだった。
「わかってる。ちょっと肩貸せ」
ワトサップはそう言って、手ごろな手下の上に登った。味方の横陣は真ん中あたりから引き裂かれ、大混乱に陥っている。彼は敵が潜むと言われた森の方角を見た。
土煙がかすかに見える。何をしているのかは分からないが、味方が酷い目に合わされているのだからきっと奴らの仕業だろう。
土煙がかすかに見える。何をしているのかは分からないが、味方が酷い目に合わされているのだからきっと奴らの仕業だろう。
「どうしやす?」禿頭の手下が言った。明らかに怯えている。
「どうもこうも……」ワトサップは皮肉げな笑みを浮かべた。「逃げられりゃ苦労はねぇよ。この場に留まっても爆発にやられるだけだ。なら、行くしかねぇだろうよ」
「どうもこうも……」ワトサップは皮肉げな笑みを浮かべた。「逃げられりゃ苦労はねぇよ。この場に留まっても爆発にやられるだけだ。なら、行くしかねぇだろうよ」
ワトサップはゆったりとした動作で腰の剣を抜き放ち、頭上で振り回した。大音声で命じる。
「ジャナンジー隊、出るぞ! 押せやァ!」
不安と恐れを抱いていた男たちは、その命令にすがった。各々が得物を抜き放つと、蛮声を上げて駆け出す。
ここに至って、本営付近の太鼓手が軍太鼓を猛烈な勢いで連打し始めた。突撃命令だ。本営も現状に留まることを危険と判断したらしい。
最右翼ジャナンジー隊、再左翼デミナー隊が突撃命令に反応し前進を開始した。中央付近の3隊は叩かれ続けている。
さらに左右に待機していた騎兵部隊も、ゆったりとした旋回運動を開始した。
最右翼ジャナンジー隊、再左翼デミナー隊が突撃命令に反応し前進を開始した。中央付近の3隊は叩かれ続けている。
さらに左右に待機していた騎兵部隊も、ゆったりとした旋回運動を開始した。
弾着の衝撃と〈帝國〉兵の足音が大地を揺るがす。東の空が赤く染まり、密林から真っ黒な影が強制的に剥ぎ取られつつある中、戦闘は急ピッチでその烈度を上げ始めていた。
ジャボール兵団重騎兵隊〈カバーニ〉
2013年 2月15日 05時06分
2013年 2月15日 05時06分
〈帝國〉南方征討領軍ジャボール兵団予備隊右翼のカバーニ重騎兵は、中央の第二徴用兵団が混乱するのを尻目に突撃の準備を整えていた。
カバーニ騎兵を指揮するのは、支族長イサイ・アイダマーク。五支族の百人隊──重騎兵五百騎を束ねる騎兵指揮官である。分厚い布地に錦糸で描かれた狼の紋章を高らかに掲げ、彼の騎兵たちは紡錘形の突撃陣形を完成させた。
駿馬の嘶きと馬蹄の轟きが周囲を圧する。厚手の戦袍の上に胸甲を纏い毛皮の騎兵帽を被ったカバーニ騎兵は、南方征討領軍自慢の重騎兵である。
もとはマルノーヴ大陸中央部──『狂える神々の座』の北方に広がる平原部に勢力を保っていた小国家の騎馬軍であったが、〈帝國〉の侵攻を受け臣従を余儀なくされた。
彼らは身を立てるために〈帝國〉南方征討領軍に兵を拠出しなければならない。支族ごとに編成された百人隊は、それゆえの結束の高さと高い騎乗技術を誇っていた。
「族長、馬首揃いました」
「おう。ひさびさの突撃じゃわい。肉を蹴り潰す感触が絶えて久しい」
カバーニ騎兵を指揮するのは、支族長イサイ・アイダマーク。五支族の百人隊──重騎兵五百騎を束ねる騎兵指揮官である。分厚い布地に錦糸で描かれた狼の紋章を高らかに掲げ、彼の騎兵たちは紡錘形の突撃陣形を完成させた。
駿馬の嘶きと馬蹄の轟きが周囲を圧する。厚手の戦袍の上に胸甲を纏い毛皮の騎兵帽を被ったカバーニ騎兵は、南方征討領軍自慢の重騎兵である。
もとはマルノーヴ大陸中央部──『狂える神々の座』の北方に広がる平原部に勢力を保っていた小国家の騎馬軍であったが、〈帝國〉の侵攻を受け臣従を余儀なくされた。
彼らは身を立てるために〈帝國〉南方征討領軍に兵を拠出しなければならない。支族ごとに編成された百人隊は、それゆえの結束の高さと高い騎乗技術を誇っていた。
「族長、馬首揃いました」
「おう。ひさびさの突撃じゃわい。肉を蹴り潰す感触が絶えて久しい」
顔の下半分を黒々としたヒゲに覆われた顔面に浮かぶ野蛮さを隠そうともせず、アイダマークは太い声で笑った。
日焼けなのか汚れなのか見分けがつかぬほど真っ黒な肌は、脂ぎって紅潮している。〈引裂公〉と異名をとるほど武名と悪名高い彼は、戦意に満ちあふれていた。
何しろ、彼らの左前方では味方の徴用兵団が謎の爆発で滅茶苦茶に叩かれているのだ。並みの人間なら恐怖を感じて躊躇の一つでもするところだろう。
日焼けなのか汚れなのか見分けがつかぬほど真っ黒な肌は、脂ぎって紅潮している。〈引裂公〉と異名をとるほど武名と悪名高い彼は、戦意に満ちあふれていた。
何しろ、彼らの左前方では味方の徴用兵団が謎の爆発で滅茶苦茶に叩かれているのだ。並みの人間なら恐怖を感じて躊躇の一つでもするところだろう。
「御下知を」支族長の一人が言った。
「あの丘にネズミがおるな」
「あの丘にネズミがおるな」
アイダマークは右前方の丘を一瞥すると、鷲鼻を鳴らした。「軽騎兵に伝令を出せ。一隊をもって丘をとり、残りは敵陣にかかれ。ワシ等は獣臭い連中を叩く」
「御意」すぐさま伝令が駆け出した。
「しかし、あの火撃は凄まじいものですな」
「食らわねばどうということもないわ」
アイダマークは歯牙にもかけない。
「徴用兵の両翼が突撃をかけておるが、そちらには手出ししておらん。動く相手は撃てぬのか、手が足りぬか──いずれにせよ留まるより仕掛けるがましよ」
「しかし、あの火撃は凄まじいものですな」
「食らわねばどうということもないわ」
アイダマークは歯牙にもかけない。
「徴用兵の両翼が突撃をかけておるが、そちらには手出ししておらん。動く相手は撃てぬのか、手が足りぬか──いずれにせよ留まるより仕掛けるがましよ」
アイダマークの伝令が戦袍のすそをはためかせて各百人隊へ飛ぶ。命令を受け取った証しの信号旗が左右に揺れた。アイダマークは部下の反応に大いに満足し、怒鳴るように命令を下した。
「行ったれや!」
「行ったれや!」
アイダマークの命令を受け、右翼軽騎兵が駆け出した。カバーニ重騎兵が、長槍の穂先を揃え前方に倒す。東から姿を見せ始めた朱い太陽の光が穂先を煌めかせた。
「フゥーア!」
「フゥーア!」
戦列のあちこちで蛮声があがる。軽騎兵に続きカバーニ重騎兵もまた突撃を開始した。
「見つかったみたいだぞ」
擬装ネットの下で、双眼鏡を覗いていた陸曹が呻いた。陸自左翼前方。小高い丘の上に置かれた前進観測班の眼下で、〈帝國〉軍が動き始めている。
「まずいな」観測班長志岐三尉も唸った。
「どうします?」
「後退する。中隊本部に報告。急いで逃げるぞ!」
その言葉を受けて、隊員たちは弾かれるように動き出した。
擬装ネットの下で、双眼鏡を覗いていた陸曹が呻いた。陸自左翼前方。小高い丘の上に置かれた前進観測班の眼下で、〈帝國〉軍が動き始めている。
「まずいな」観測班長志岐三尉も唸った。
「どうします?」
「後退する。中隊本部に報告。急いで逃げるぞ!」
その言葉を受けて、隊員たちは弾かれるように動き出した。
「アリ、こちらシキ。効力射諸元そのまま。敵中央集団両翼各一個中隊前進中。敵右翼騎兵一個大隊前進を開始した。こちらは発見された。撤収許可求む。送レ」
『シキ、こちらアリ。撤収を許可する。中隊長より「支援するからさっさと逃げろ」送レ』
「シキ了解。終ワリ!」
『シキ、こちらアリ。撤収を許可する。中隊長より「支援するからさっさと逃げろ」送レ』
「シキ了解。終ワリ!」
その中で、観測班に付けられた獣人刀兵のポナンだけは達観した様子だった。犬耳をだらんと下げ、丘の下に迫る軽騎兵を眺めている。
「敵は騎兵だ。囲まれるよ」
「だから、逃げるんだ! おい、偉そうな奴を狙え。混乱させるんだ」
「うっす」
のんびりとした返事を返した陸士長が、照準補助具を覗き込んだ。
「だから、逃げるんだ! おい、偉そうな奴を狙え。混乱させるんだ」
「うっす」
のんびりとした返事を返した陸士長が、照準補助具を覗き込んだ。
丘に潜む敵兵の掃討に向かっていた軽騎兵の集団で、突然見えない何かに打ち倒される者が続出した。遊牧民で編成される軽騎兵たちは混乱した。位の高い者から射落とされるためだ。
「丘だ! 反撃しろ!」
だが、彼らの判断も早い。攻撃が丘の上からであることを見抜いた小頭の命令を受け、小振りな合成弓を引き絞り、次々と矢を放った。
鎧を身に付けない軽装弓騎兵たちが放つ矢の射程は300メートルを超える。しかも、彼らはそれを走りながらやってのける。
鎧を身に付けない軽装弓騎兵たちが放つ矢の射程は300メートルを超える。しかも、彼らはそれを走りながらやってのける。
立て続けに数名を射殺した前進観測班だったが、矢の雨による反撃を受け慌てて後退に入った。
勇敢な数騎が観測班に迫る。
「ピン抜け! 投げッ!」
勇敢な数騎が観測班に迫る。
「ピン抜け! 投げッ!」
くぐもった破裂音と小さな土煙。観測班の投げおろした手榴弾の爆発が軽騎兵をまとめてなぎ倒す。その音と威力に騎兵たちはおののき、足を止めた。
「よし、逃げるぞ。走れェ!」
「君たちは面白いものをたくさん持っているね」
「君たちは面白いものをたくさん持っているね」
一方戦場中央部では、森林樹木線に左右に展開した水軍刀兵隊四百に対して、徴用兵四百が正面から、両翼から軽騎兵四百。そして、刀兵隊左翼に向かってカバーニ重騎兵五百騎が蛮声を張り上げ突撃しつつあった。
「おら、行かんかァ!」
「フゥーア!」
「おら、行かんかァ!」
「フゥーア!」
本来歩兵が拘束した敵の戦列に横合いから突っ込むのが騎兵の常道である。しかし、アイダマークは構わず騎兵を動かした。
「大叔父よ。先に往くぞ!」
百人隊の頭、一族の筆頭若衆イエレメーイが傍らを追い越して行く。熱狂的な突撃は、あらゆるものを薙ぎ倒すだろう。風のように駆ける騎兵の群れは、たちまちのうちに中央の徴用兵を追い越した。
「大叔父よ。先に往くぞ!」
百人隊の頭、一族の筆頭若衆イエレメーイが傍らを追い越して行く。熱狂的な突撃は、あらゆるものを薙ぎ倒すだろう。風のように駆ける騎兵の群れは、たちまちのうちに中央の徴用兵を追い越した。
「放てェ!」
短矢による制圧射撃が命じられ、一斉に矢が放たれる。騎兵たちは素早い動作で次々と矢をつがえ、敵陣に撃ち込み始めた。
一方、樹木線陣地は沈黙している。
有馬一尉は弾薬を消耗した迫撃砲小隊を後退させ、代わりに普通科小隊を配置に付けた。
目の前には、轟音と蛮声を伴って津波のように押し寄せる騎兵の群れ。距離300メートル。矢が降り注ぐ。負傷者が出始めていた。
有馬一尉は弾薬を消耗した迫撃砲小隊を後退させ、代わりに普通科小隊を配置に付けた。
目の前には、轟音と蛮声を伴って津波のように押し寄せる騎兵の群れ。距離300メートル。矢が降り注ぐ。負傷者が出始めていた。
「壮観だな」
有馬はつぶやいた。
有馬はつぶやいた。
馬首を揃え槍を煌めかせて突っ込んでくる数百騎の騎兵。その迫力は凄まじい。人間の本能に訴えかけるものがあった。
並の兵なら逃げ散ってしまうだろう。
並の兵なら逃げ散ってしまうだろう。
「撃たぬのか?」
並の兵ではない水軍刀兵を率いるボスフェルトは、平然と目の前の敵を眺めながら尋ねた。自分に飛んできた矢を二三本叩き落としている。
並の兵ではない水軍刀兵を率いるボスフェルトは、平然と目の前の敵を眺めながら尋ねた。自分に飛んできた矢を二三本叩き落としている。
「まだ早い」
西部方面普通科連隊という、やはり並ではない男たちを率いる有馬も、平然と言い放った。敵は迫る。距離200。あっという間にその距離は詰まっていく。
西部方面普通科連隊という、やはり並ではない男たちを率いる有馬も、平然と言い放った。敵は迫る。距離200。あっという間にその距離は詰まっていく。
「そうか」
銀毛のボスフェルトは口角を上げ、鋭い牙を剥き出しにして笑った。乱戦になるならそれも面白い。そう思っている。
銀毛のボスフェルトは口角を上げ、鋭い牙を剥き出しにして笑った。乱戦になるならそれも面白い。そう思っている。
距離100メートルを切った。
勝った。
敵陣の兵は、怯えた様子で縮こまっている。こちらの弓騎兵により頭を上げられないのだ。あとは敵陣に躍り込み、馬蹄にかけるだけだ。
カバーニ重騎兵たちは歓喜と興奮に包まれ、最後の距離を躍進すべく愛馬に鞭を入れた。目を血走らせた騎馬が猛然と突進する。
敵陣の兵は、怯えた様子で縮こまっている。こちらの弓騎兵により頭を上げられないのだ。あとは敵陣に躍り込み、馬蹄にかけるだけだ。
カバーニ重騎兵たちは歓喜と興奮に包まれ、最後の距離を躍進すべく愛馬に鞭を入れた。目を血走らせた騎馬が猛然と突進する。
「殺せェ! 突っ込め!」
イエレメーイは叫んだ。部下が歓声で応える。地面で何かが光るのが、視界の隅に入った。彼はそれを無視した。目の前の敵兵以外に、何を気にすることがあろうか。
その次の瞬間。
彼の愛馬は見えない壁にぶつかったかのように急停止した。正確には脚を取られ、つんのめったのだった。
イエレメーイは鞍上から投げ出され地面に落ちた。肌に鋭い痛みが走る。思わずついた手に絡みついたのは、鋭いとげをもつ荊だった。
彼の愛馬は見えない壁にぶつかったかのように急停止した。正確には脚を取られ、つんのめったのだった。
イエレメーイは鞍上から投げ出され地面に落ちた。肌に鋭い痛みが走る。思わずついた手に絡みついたのは、鋭いとげをもつ荊だった。
「な、何が……?」
怒号と哀しげな嘶きが周囲に満ちる。彼の百人隊はその多くが荊に脚を取られ敵前で身動きができなくなっていた。莫迦な。荊ごときで。
「イエレメーイさま、これは鋼でできている!」
「は、鋼だと?」
「は、鋼だと?」
慌てて手元を見た。ようやく、細い鋼が螺旋を描き生け垣のように敵陣の前に張り巡らせてあることに気付く。鋭い棘をもつそれは騎馬の突撃を完全に受け止めていた。
先頭を行く彼の隊は負傷者が続出し、後続も足を止められている。重騎兵の武器である突撃衝力は完全に失われていた。身動きのできない味方が入り混じり進むも退くもできない。
先頭を行く彼の隊は負傷者が続出し、後続も足を止められている。重騎兵の武器である突撃衝力は完全に失われていた。身動きのできない味方が入り混じり進むも退くもできない。
イエレメーイは戦慄した。
「立て直せ! いったん退くのだ!」
「荊が絡みついて、馬体をうまく……だめだ」
「立て直せ! いったん退くのだ!」
「荊が絡みついて、馬体をうまく……だめだ」
敵は目の前ぞ。このままでは──。
その時、沈黙していた敵陣に無数の光が走るのを、イエレメーイは目撃した。
陸自挺身隊の持参した全ての火器が一斉に火を吹いた。
小銃、軽機関銃、重機関銃、84ミリ無反動砲。距離50メートルで鉄条網に引っかかった敵騎兵の集団に対して行われた射撃は、絶大な効果を発揮した。
銃火器にとって、目と鼻の先の距離である。そこで停止した目標に対する射撃はほとんど全てが命中し、打ち砕いた。最初の一連射で先頭の百人隊が壊滅した。もちろんイエレメーイもこの時戦死している。
さらに先頭が止まったことにより停止を余儀なくされた後続の重騎兵に対しても火線は伸びた。銃弾に襲われた騎兵たちは蛇に絡め取られるように、馬首を巡らす暇もなく散々に叩かれた。
小銃、軽機関銃、重機関銃、84ミリ無反動砲。距離50メートルで鉄条網に引っかかった敵騎兵の集団に対して行われた射撃は、絶大な効果を発揮した。
銃火器にとって、目と鼻の先の距離である。そこで停止した目標に対する射撃はほとんど全てが命中し、打ち砕いた。最初の一連射で先頭の百人隊が壊滅した。もちろんイエレメーイもこの時戦死している。
さらに先頭が止まったことにより停止を余儀なくされた後続の重騎兵に対しても火線は伸びた。銃弾に襲われた騎兵たちは蛇に絡め取られるように、馬首を巡らす暇もなく散々に叩かれた。
「あの『鉄条網』というやつは、エグいな」
ボスフェルトが言った。
ボスフェルトが言った。
「騎兵の機動力は脅威だからな。逃がすと俺たちでは追いつけない。引きつけたのはそういうことだよ」
有馬が顔を歪めた。目の前の光景があまりに酷いからだった。
有馬が顔を歪めた。目の前の光景があまりに酷いからだった。
「で、やはり出ないと駄目なのか?」
「無論。それが水軍刀兵だからな」
何を今更。ボスフェルトはそう思った。目の前に敵がいるのなら戦わない理由はない。
何を今更。ボスフェルトはそう思った。目の前に敵がいるのなら戦わない理由はない。
「水軍刀兵、続けェ!」
射撃中止の命令を受け陸自部隊が再度沈黙する中を、ボスフェルト率いる水軍刀兵の獣人と人間たちが喚声をあげて敵騎兵へと踊り込んでいった。あらかじめ設けられていた鉄条網の間隙から、一気に攻め込む。
右往左往する重騎兵をなんとか立て直そうと苦心するアイダマークの本陣に、南瞑同盟会議水軍刀兵が迫る。自らも手傷を負った彼は、愛馬の上で愛用の手槍を構えた。
「下郎! こしゃくな!」
だが、突き出した穂先を軽々とかわし、銀毛の人狼は素早く懐に潜り込む。アイダマークは死を覚悟した。次々討たれる部下を横目に、大声で言った。
だが、突き出した穂先を軽々とかわし、銀毛の人狼は素早く懐に潜り込む。アイダマークは死を覚悟した。次々討たれる部下を横目に、大声で言った。
「ワシは『引裂公』ノル・カバーニの長、イサイ・アイダマーク! 我を討ち取って誉れとせよ!」
銀毛の刀兵は、不敵に嗤うとアイダマークの脇腹に斜め下から刃を滑り込ませた。どろりと臓物が溢れ、アイダマークの口からも血が流れる。急速に狭まる視界の片隅で、人狼が言った。
銀毛の刀兵は、不敵に嗤うとアイダマークの脇腹に斜め下から刃を滑り込ませた。どろりと臓物が溢れ、アイダマークの口からも血が流れる。急速に狭まる視界の片隅で、人狼が言った。
「水軍刀兵の長ボスフェルト。確かに承った」
指揮官アイダマークの討ち死にと共に、カバーニ重騎兵は壊滅した。軽騎兵も余波を受け壊乱。戦場には無数の騎馬と騎兵が倒れていた。
「こりゃ、駄目だわ。化けもんだ」
ナマズ髭を震わせたワトサップはそう言うと、手にした剣を捨てた。目の前で同盟会議歩兵にとって恐怖の代名詞だったカバーニ重騎兵が細切れにされている。
森から湧き出るように現れた見知らぬ軍と水軍刀兵を前に、騎兵隊が全滅した今勝てる道理もない。ひょろ長い手足を投げ出すように彼はその場に座り込んで両手をあげた。
ナマズ髭を震わせたワトサップはそう言うと、手にした剣を捨てた。目の前で同盟会議歩兵にとって恐怖の代名詞だったカバーニ重騎兵が細切れにされている。
森から湧き出るように現れた見知らぬ軍と水軍刀兵を前に、騎兵隊が全滅した今勝てる道理もない。ひょろ長い手足を投げ出すように彼はその場に座り込んで両手をあげた。
「降るんですかぃ?」
「死ぬのが好みか? おめえは」
ワトサップの問いに部下は言った。
「死ぬのが好みか? おめえは」
ワトサップの問いに部下は言った。
「まさか」
徴用兵四百名は、あっさりと武器を捨てその場に座り込んだ。これにより、迫撃砲の攻撃で壊滅した三個隊に加えジャナンジー、デミナー両隊が戦闘力を喪失、中央戦列は消滅した。
「なんということだ……」
シリブローは、思わず天を仰いだ。
シリブローは、思わず天を仰いだ。
「右翼騎兵集団壊滅。中央の徴用兵団は前進を停止しました」
樹木線を飛び出した同盟会議水軍刀兵は、ほんの僅かな時間で〈帝國〉軍騎兵隊を殲滅した後、横陣を組み始めている。一方〈帝國〉軍中央第2列のオーク重装歩兵はすでに櫛の歯が欠けるように陣形を乱しつつあった。士気が低下している。
「なんだ、あの軍は!?」
シリブローが見つめる先には、樹木線から伸びる無数の火線があった。陸自挺身隊の射撃は、オークの戦列を目標に定めている。鈍重なオークは、一方的な射撃を浴びてずるずると崩れた。
シリブローが見つめる先には、樹木線から伸びる無数の火線があった。陸自挺身隊の射撃は、オークの戦列を目標に定めている。鈍重なオークは、一方的な射撃を浴びてずるずると崩れた。
「奇妙な軍装、恐るべき火力……サヴェリューハの言葉、真であったか!」
全ては手遅れだった。ついに士気が保たなくなったオーク重装歩兵が逃げ出し始めている。謎の敵から放たれる火線は衰えを知らず、またその射程は驚くほど長い。
さすがのシリブローも己の敗北を悟った。
全ては手遅れだった。ついに士気が保たなくなったオーク重装歩兵が逃げ出し始めている。謎の敵から放たれる火線は衰えを知らず、またその射程は驚くほど長い。
さすがのシリブローも己の敗北を悟った。
「撤退する。兄者に伝えねば。恐るべき敵手が現れたと」
彼の内心は恐怖に包まれ、熱病に浮かされたような悪寒が止まらなかった。わずか百名ほどであの火力。南方征討領軍の存亡に関わる 伝えねば。
部下を顧みず駆け出したシリブローに慌てて本陣詰めの騎士たちが続く。しかし、その周囲で複数の爆発が発生し、彼らは土煙で覆われてしまった。普通科小隊の放った、最後の84ミリ無反動砲弾がねらい違わず弾着したのだった。
煙が晴れたとき、そこには破片と爆風で粉々になった複数の死体が倒れているだけだった。
煙が晴れたとき、そこには破片と爆風で粉々になった複数の死体が倒れているだけだった。
「敵軍は戦闘力を喪失したようです。生き残りは逃げていきます。追撃しますか?」
部下の報告に有馬は首を振った。
部下の報告に有馬は首を振った。
「弾が無い。空挺と河川舟艇隊に通報して、後は任せよう。残弾を勘定して部隊を集結、移動の準備に掛かる。司令部にはヘリで弾を持って来いと伝えてくれ」
「了解しました」
目の前では、敵を殲滅して意気軒昂な水軍刀兵たちが、勝どきを上げている。ありゃ、どっちかっていうと雄叫びだな。サファリパークにいる気分だぜ。
「了解しました」
目の前では、敵を殲滅して意気軒昂な水軍刀兵たちが、勝どきを上げている。ありゃ、どっちかっていうと雄叫びだな。サファリパークにいる気分だぜ。
そうこうしているうちにボスフェルトが帰ってきた。美しかった銀毛を赤黒い血潮で染め上げ、左手には髭面の生首を提げている。
「おい、なんだそりゃ」
有馬が、辟易した顔で聞いた。
有馬が、辟易した顔で聞いた。
「敵将の首よ」
そう言って高々と掲げる。周囲で似たような見掛けの刀兵たちが歓声を上げた。陸自隊員たちはなんともいえない表情だ。
そう言って高々と掲げる。周囲で似たような見掛けの刀兵たちが歓声を上げた。陸自隊員たちはなんともいえない表情だ。
(この連中、勇敢なのはいいが、ちょっと極端な気がするぞ)
有馬は心中でこっそりと思った。
ジャボール兵団本営 マワーレド川河畔
2013年 2月15日 05時27分
2013年 2月15日 05時27分
この時点で、兵団長ゾラータは予備隊の壊滅を知らない。
ゾラータは部下を叱咤しながらルルェド城塞西岸付近まで部隊を前進させていた。本営直属の兵に加え、オーガ突撃隊を伴っている。
一個隊につき二十のオーガを配したこの部隊は、乱戦において悪夢の如き威力を発揮する。身長3メートル余りの重装オーガ兵を止めるためには、大口径の投射武器や高位攻撃魔法の使用が必要とされている。
オーガの集団が一斉に襲い掛かれば、並みの騎士団や砦などは簡単に殲滅されてしまうだろう。
ゾラータの切り札であった。
ゾラータは部下を叱咤しながらルルェド城塞西岸付近まで部隊を前進させていた。本営直属の兵に加え、オーガ突撃隊を伴っている。
一個隊につき二十のオーガを配したこの部隊は、乱戦において悪夢の如き威力を発揮する。身長3メートル余りの重装オーガ兵を止めるためには、大口径の投射武器や高位攻撃魔法の使用が必要とされている。
オーガの集団が一斉に襲い掛かれば、並みの騎士団や砦などは簡単に殲滅されてしまうだろう。
ゾラータの切り札であった。
「こいつらでいま一度強襲をかけ、今度こそ皆殺しだ!」
ゾラータは馬上で吼えた。それに呼応するように計四十体のオーガ兵が、巨躯の喉奥から身も凍るような唸り声を発した。
ゾラータは馬上で吼えた。それに呼応するように計四十体のオーガ兵が、巨躯の喉奥から身も凍るような唸り声を発した。
「あら、いまの下品な音はなにかしら?」
「敵かもしれません。全艇、右舷陸岸付近の警戒を厳とせよ!」
「敵かもしれません。全艇、右舷陸岸付近の警戒を厳とせよ!」
ルルェド上流で再編成を終え南下を再開した第1河川舟艇隊臨編突撃戦隊の戦場で、西園寺三佐が小首をかしげた。久宝一尉がすかさず反応する。
銃架に据えられた機関銃が右舷を指向し、乗員が双眼鏡を構える。すぐに報告があがってきた。
銃架に据えられた機関銃が右舷を指向し、乗員が双眼鏡を構える。すぐに報告があがってきた。
「敵部隊視認。右45度。距離ご──な、あれは?」
見張りが報告に詰まった。
見張りが報告に詰まった。
「どうした? はっきり報告しろ」
「敵に巨人がいます!」
西園寺と久宝も双眼鏡を構える。その視界に、見張りの見つけた『巨人』が飛び込んできた。
「敵に巨人がいます!」
西園寺と久宝も双眼鏡を構える。その視界に、見張りの見つけた『巨人』が飛び込んできた。
「さすがは異世界ね。すてきだわ」
「資料にあった『オーガ』ですね。危険な相手です」
「資料にあった『オーガ』ですね。危険な相手です」
久宝の言葉に西園寺は大きく頷くと、よく通る声で命令を発した。
「戦闘右砲戦。距離500。突撃戦隊打ち方始め」
あとがき
題名
題名についてですが『幽世の竜 現世の剣(かくりよのりゅう うつしよのつるぎ)』とします。
今後ともよろしくお願いいたします。
今後ともよろしくお願いいたします。
騎馬隊を至近まで引きつけた理由
突撃破砕射撃を引きつけたのは、
弾薬量の制限
作戦目的が『敵予備隊の殲滅』であり、逃走を許したくなかったため。
鉄条網をあまり前方に敷設できなかったため。
水軍刀兵の要請「俺たちに突撃させろ」
作戦目的が『敵予備隊の殲滅』であり、逃走を許したくなかったため。
鉄条網をあまり前方に敷設できなかったため。
水軍刀兵の要請「俺たちに突撃させろ」
等があります。なお、弓騎兵は重騎兵後方から射撃をしてきたため、最終的な軽騎兵との距離は200メートル程度です。