1485年(1945年)12月9日 午後3時50分
シホールアンル帝国首都ウェルバンル
ひと時の空襲が終わり、静まり返ったと思われた矢先の事であった。
「お……おい!」
「またか!これで4度目だぞ!!」
「またか!これで4度目だぞ!!」
それこそ、息つく暇も与えぬとばかりに、首都ウェルバンルには、この日4度目の空襲警報が高々と鳴り響いていた。
通りに出て、不安気な表情を見せていた市民達は、互いに顔を見合わせた後、急いで自宅に戻っていく。
その傍を、家財道具を詰め込んだ馬車が車輪の音を立てて走り抜けていく。
それは1台だけではなかった。
似たような馬車は、2台、3台、4台と、尚も続いている。
いずれの馬車も、御者台に家族を乗せ、誰もが半ば絶望的な色を顔に貼り付けながら、首都脱出を図りつつあった。
首都ウェルバンルの東地区の市場で、商店を経営しているカルファサ・アクバウノは、通りを行く避難民達を、腕組しながら見つめ続けていた。
通りに出て、不安気な表情を見せていた市民達は、互いに顔を見合わせた後、急いで自宅に戻っていく。
その傍を、家財道具を詰め込んだ馬車が車輪の音を立てて走り抜けていく。
それは1台だけではなかった。
似たような馬車は、2台、3台、4台と、尚も続いている。
いずれの馬車も、御者台に家族を乗せ、誰もが半ば絶望的な色を顔に貼り付けながら、首都脱出を図りつつあった。
首都ウェルバンルの東地区の市場で、商店を経営しているカルファサ・アクバウノは、通りを行く避難民達を、腕組しながら見つめ続けていた。
「あんた!また空襲警報が鳴ってるよ!」
「ああ、分かってるよ!」
「ああ、分かってるよ!」
店の奥から、妻のウィシェリ・アクバウノが切迫した声音で伝えるのを、カルファサは半ば苛立ちを含んだ声音で返した。
「親方ー!またシギアル港の辺りから敵の飛空艇がやって来るみたいですぜ!」
「どうします?自分らも避難しますか!?」
「どうします?自分らも避難しますか!?」
道端から息を切らして店に駆け込んだ従業員が、避難するかどうかを尋ねてきた。
「いや、避難するかどうかまでは、まだ分からん」
「分からんって、朝っぱらからアメリカ軍とやらの飛空艇がシギアル港やウェルバンル周辺を叩いてるんですよ!?連中、次は、
このウェルバンル市街地を狙うに違いないですぜ!」
「分からんって、朝っぱらからアメリカ軍とやらの飛空艇がシギアル港やウェルバンル周辺を叩いてるんですよ!?連中、次は、
このウェルバンル市街地を狙うに違いないですぜ!」
従業員の1人は早口でまくしたてた。
だが、店で待機していた別の従業員が異を唱える。
だが、店で待機していた別の従業員が異を唱える。
「いや、その判断はまだ早いぞ。聞いたところによると、アメリカ人は軍事施設と軍艦を集中的に狙って叩いているらしい。今度の空襲も、
恐らくは首都周辺の練兵場やワイバーン基地を目標にするかもしれない」
「どうしてそう言えるんすか!?あんたもランフックの話を聞いたでしょう!アメリカ人はどでかい工場だけを狙わずに、市街地にも
爆弾の雨降らしてきたんですぜ!ランフックだけじゃない、他の地域でも幾つもの町が敵の爆撃で灰にされている。このウェルバンルだって
同じ事をされねえとは限らんですぜ!見て下さいよ!この通りを!!」
恐らくは首都周辺の練兵場やワイバーン基地を目標にするかもしれない」
「どうしてそう言えるんすか!?あんたもランフックの話を聞いたでしょう!アメリカ人はどでかい工場だけを狙わずに、市街地にも
爆弾の雨降らしてきたんですぜ!ランフックだけじゃない、他の地域でも幾つもの町が敵の爆撃で灰にされている。このウェルバンルだって
同じ事をされねえとは限らんですぜ!見て下さいよ!この通りを!!」
ガタイの良い従業員は、通りに手を向けた。
市場の通りは、爆撃から逃れようとする住民で溢れていた。
心なしか、空襲警報が鳴る前よりも、通りを行く住民の数が増えているようにも思えた。
市場の通りは、爆撃から逃れようとする住民で溢れていた。
心なしか、空襲警報が鳴る前よりも、通りを行く住民の数が増えているようにも思えた。
「邪魔だ!早く歩け!!」
「待って!私の子供がどこかに」
「うるせえ!そんなこと知った事か!早く逃げないと、ランフックのように町ごと焼き殺されるぞ!!」
「どいてくれ!急病の母がまだ家にいるんだ!」
「おふくろー!オヤジー!俺と妹はこっちにいるよ!待って!先に行かないで!!」
「待って!私の子供がどこかに」
「うるせえ!そんなこと知った事か!早く逃げないと、ランフックのように町ごと焼き殺されるぞ!!」
「どいてくれ!急病の母がまだ家にいるんだ!」
「おふくろー!オヤジー!俺と妹はこっちにいるよ!待って!先に行かないで!!」
ひっきりなしに怒号が上がり、はぐれた幼子は母や父を探し、か細い泣き声を上げる。
そこに馬の鳴き声や更なるざわめきが重なり、相変わらず鳴りまくる空襲警報が、周囲の雑音と混じって混沌に拍車をかけていく。
そこに馬の鳴き声や更なるざわめきが重なり、相変わらず鳴りまくる空襲警報が、周囲の雑音と混じって混沌に拍車をかけていく。
「スティンヒントルに行くな!あそこはさっき、また爆撃を食らって大損害が出たようだ!」
「南西方向に逃げろ!あの辺りならまだ爆撃を受けた地域も少ないぞ!」
「北だ!北に行こう!北なら安全地帯もあるし、敵の爆撃を受けていない都市もある!」
「南西方向に逃げろ!あの辺りならまだ爆撃を受けた地域も少ないぞ!」
「北だ!北に行こう!北なら安全地帯もあるし、敵の爆撃を受けていない都市もある!」
朝まで静かなままであった通りは、今や、空襲を逃れようとする帝都市民達でごった返していた。
「あんた……本当に…本当に、ここから逃げなくていいの……?」
ウィシェリは、いつになく怯えた様子である。
「こいつの話を聞く限りでは、敵は軍事施設を集中的に叩き、その精度はピカイチだったと。そうだな?」
「そうです。親方」
「そうです。親方」
元軍人であった従業員が頷く。
「先の空襲の合間、知り合いを掴まえて聞いた話では、敵機の動きは非常に統制が取れ、爆弾の狙いもほぼ正確。誤爆らしい
誤爆なども見当たらないと言い、最後にはこう言っていましたね……最強最悪の敵が、ここを狙ってきたと」
「最強最悪の敵?俺が見た所、アメリカ軍とやらはどれもこれも小さい飛空艇でしか攻撃していないようだが。うわさに聞く
発動機を複数積んだ大型機……スーパーフォートレスとか言ったか。あいつが恐ろしいんじゃないのか?」
「自分もそう思ったんですが、友人の認識としてはそうでも無かったようですね。自分も軍隊を辞めて大分経つので、今の
戦争がどうなっているのか大してわからんですが」
誤爆なども見当たらないと言い、最後にはこう言っていましたね……最強最悪の敵が、ここを狙ってきたと」
「最強最悪の敵?俺が見た所、アメリカ軍とやらはどれもこれも小さい飛空艇でしか攻撃していないようだが。うわさに聞く
発動機を複数積んだ大型機……スーパーフォートレスとか言ったか。あいつが恐ろしいんじゃないのか?」
「自分もそう思ったんですが、友人の認識としてはそうでも無かったようですね。自分も軍隊を辞めて大分経つので、今の
戦争がどうなっているのか大してわからんですが」
従業員は一度言葉を止め、空を眺める。
首都の空は、見事な冬晴れに覆われているが、それすらも、通りから聞こえる一連の騒ぎによって台無しとなっていた。
首都の空は、見事な冬晴れに覆われているが、それすらも、通りから聞こえる一連の騒ぎによって台無しとなっていた。
「海軍が持っていた竜母と、似たような艦を敵が保有しており、そこから飛んできたとなると、例の飛空艇を操る搭乗員の腕前も
かなりの物でしょう。洋上に浮かぶ母艦から離発着するのは、並大抵の事ではないですからね」
かなりの物でしょう。洋上に浮かぶ母艦から離発着するのは、並大抵の事ではないですからね」
従業員の言葉を聞いたカルファサは、流石は元軍人と直に感心した。
「軍あがりなだけあって、なかなかの見識だな。では1つ聞くが……この空襲は、こんなに大騒ぎしながら住民が避難するような代物かい?」
「正直言って……これは騒ぎ過ぎなだけ、と、自分は思いますね」
「正直言って……これは騒ぎ過ぎなだけ、と、自分は思いますね」
従業員は空に人差し指を向けた。
「さっきも話した通り、敵は小型の飛空艇しか飛ばしておらず、軍事施設を集中して攻撃しています。となると、これは大型の飛空艇を
用いた面制圧型の攻撃じゃなく、重要施設だけを狙った単一目標の攻撃、と判断できます。シギアル市街の住民の被害が出ていないのも
その証拠です」
「なるほどね」
「ですが……敵さんは既に、ランフックの工場を町ごと焼き払った前科があります。ランフックがやられたのなら、このウェルバンルも、
と思うのが普通の考えですよ」
用いた面制圧型の攻撃じゃなく、重要施設だけを狙った単一目標の攻撃、と判断できます。シギアル市街の住民の被害が出ていないのも
その証拠です」
「なるほどね」
「ですが……敵さんは既に、ランフックの工場を町ごと焼き払った前科があります。ランフックがやられたのなら、このウェルバンルも、
と思うのが普通の考えですよ」
「つまり、こうなるのは必然って訳か。ひでえ話だ」
カルファサはそう言い放った後、苦り切った表情を浮かべた。
要するに、アメリカ軍としては、腕自慢の搭乗員を集め、正確に軍事目標を攻撃する事で市民の被害を極限しようとしているのだろう。
しかし、艦載機の攻撃力と、大型爆撃機の攻撃力とその攻撃意図を見抜けない一般市民にとってはどれも同じ物である。
米側の攻撃は、住民にランフックの惨劇を思い起こさせ、自然発生的にパニックを引き起こしてしまったのだ。
ウェルバンルでは各所で混乱が生じ、それに伴う事件・事故も続発していた。
特に、帝国宮殿のある首都中心部や、中心部近くにある官庁街の西地区、貴族の館等が集中する北東地区では、これらの重要施設が爆撃される際、
巻き添えを食らう可能性が高い事を判断した(スティンヒントルでは、近隣の陸軍部隊駐屯地に近かった建物が誤爆を受け、全壊していた)
一般住民の自主的な避難が始まっており、道はこの通りにのようにごった返しているという。
国内省の首都警備隊は、非番の人員もフル動員して対処にあたっているが、混乱は収まりそうもなかった。
それから10分ほどして、通りの中から悲鳴じみた声が上がった。
要するに、アメリカ軍としては、腕自慢の搭乗員を集め、正確に軍事目標を攻撃する事で市民の被害を極限しようとしているのだろう。
しかし、艦載機の攻撃力と、大型爆撃機の攻撃力とその攻撃意図を見抜けない一般市民にとってはどれも同じ物である。
米側の攻撃は、住民にランフックの惨劇を思い起こさせ、自然発生的にパニックを引き起こしてしまったのだ。
ウェルバンルでは各所で混乱が生じ、それに伴う事件・事故も続発していた。
特に、帝国宮殿のある首都中心部や、中心部近くにある官庁街の西地区、貴族の館等が集中する北東地区では、これらの重要施設が爆撃される際、
巻き添えを食らう可能性が高い事を判断した(スティンヒントルでは、近隣の陸軍部隊駐屯地に近かった建物が誤爆を受け、全壊していた)
一般住民の自主的な避難が始まっており、道はこの通りにのようにごった返しているという。
国内省の首都警備隊は、非番の人員もフル動員して対処にあたっているが、混乱は収まりそうもなかった。
それから10分ほどして、通りの中から悲鳴じみた声が上がった。
「来たぞ!敵の飛空艇だ!!」
誰かが上空を見るなり、そう叫ぶ。
通り行き交っていた大多数の市民が、轟音の聞こえてきた方角を見るなり、更にパニックを起こした。
通り行き交っていた大多数の市民が、轟音の聞こえてきた方角を見るなり、更にパニックを起こした。
「……俺は上に上がって見てくる!お前達はヤケクソになった奴が店の中に入らないようにしてくれ!」
「了解です!」
「了解です!」
彼は、従業員達にそう伝えると、自らは店の奥に向かう。
階段を駆け上がり、屋上に到達すると、カルファサは上空を見渡した。
スティンヒントル方面からはいくつもの黒煙が吹き上がっている。
最初見た時は、黒煙の量は幾分多いと思えたほどだが、1時間前に敵の爆撃が行われてからは、吹き上がる黒煙の量が格段に増している。
目線を南のシギアル方面に向けると、そこからも夥しい量の黒煙が噴出していた。
首都ウェルバンルは、台地状の地形の上に作られているため、シギアル港をやや上から見渡せる位置にある。
そのため、遠目からでもどの位置から黒煙が上がっているのかが見て取れた。
シギアル港の上空には対空砲火と思しき小さな黒煙が無数に見えているが、爆撃を受けているのか、遠くから腹に応えるような
鈍い音が断続的に聞こえる。
位置からして、軍艦を建造している造船所の辺りが狙われているようだ。
そして、目線を上に向けると……彼が探している物はすぐに見つかった。
階段を駆け上がり、屋上に到達すると、カルファサは上空を見渡した。
スティンヒントル方面からはいくつもの黒煙が吹き上がっている。
最初見た時は、黒煙の量は幾分多いと思えたほどだが、1時間前に敵の爆撃が行われてからは、吹き上がる黒煙の量が格段に増している。
目線を南のシギアル方面に向けると、そこからも夥しい量の黒煙が噴出していた。
首都ウェルバンルは、台地状の地形の上に作られているため、シギアル港をやや上から見渡せる位置にある。
そのため、遠目からでもどの位置から黒煙が上がっているのかが見て取れた。
シギアル港の上空には対空砲火と思しき小さな黒煙が無数に見えているが、爆撃を受けているのか、遠くから腹に応えるような
鈍い音が断続的に聞こえる。
位置からして、軍艦を建造している造船所の辺りが狙われているようだ。
そして、目線を上に向けると……彼が探している物はすぐに見つかった。
「また来たぞ……」
カルファサはうんざりしながら、米艦載機の大編隊を視認する。
敵はシギアル港攻撃の部隊と、首都周辺の攻撃に向かう部隊の二つに別れていたようだ。
この敵大編隊に対し、北の方からワイバーンと思しき編隊が急行し、突っかかっていくのが見えたが、それらは、敵編隊から分離した
一部の敵機と空戦に入る。
残りは悠々と首都上空に到達し、そこからいくつもの編隊に別れ始めた。
首都防衛軍団が、首都の各所に配置した対空砲を猛然と撃ち始めた。
ふと、通りから聞こえる喧騒がより激しくなったと思いきや、屋上に先ほどの従業員が上がってきた。
敵はシギアル港攻撃の部隊と、首都周辺の攻撃に向かう部隊の二つに別れていたようだ。
この敵大編隊に対し、北の方からワイバーンと思しき編隊が急行し、突っかかっていくのが見えたが、それらは、敵編隊から分離した
一部の敵機と空戦に入る。
残りは悠々と首都上空に到達し、そこからいくつもの編隊に別れ始めた。
首都防衛軍団が、首都の各所に配置した対空砲を猛然と撃ち始めた。
ふと、通りから聞こえる喧騒がより激しくなったと思いきや、屋上に先ほどの従業員が上がってきた。
「親方!」
「おう、どうした!?」
「さっき、人混みに紛れながら歩いてきた国内省の官憲が警告を発してました。官庁街、並びに鉄道の総合本部にはなるべく近づくな、
爆撃目標になる恐れがあると!」
「それを今更言ってきたのか!?」
「おう、どうした!?」
「さっき、人混みに紛れながら歩いてきた国内省の官憲が警告を発してました。官庁街、並びに鉄道の総合本部にはなるべく近づくな、
爆撃目標になる恐れがあると!」
「それを今更言ってきたのか!?」
カルファサは遅すぎると叫びながら、米軍機が接近しつつある上空に指を向けた。
「もう、敵はすぐそこだぞ!」
「この混乱で、伝達が遅れているんでしょう!」
「おいおいおい……今の状況で爆撃されたら……避難中の奴らが巻き込まれるぞ!」
「この混乱で、伝達が遅れているんでしょう!」
「おいおいおい……今の状況で爆撃されたら……避難中の奴らが巻き込まれるぞ!」
彼は、今後起こるであろう最悪の惨劇を脳裏に浮かべながら、ただただ、己の無力を痛感するしかなかった。
その頃、海軍総司令部では、武装した警備兵があらん限りの声を張り上げながら、内部の高官や司令部職員に避難を促していた。
「敵艦載機の大編隊が首都上空に迫っています。官庁街にあるこの司令部施設が爆撃を受ける可能性が高いため、すぐに外へ行かれるか、
地下室に避難してください!」
地下室に避難してください!」
それを聞いたリリスティは、ヴィルリエに顔を向けて聞いた。
「ヴィル、彼の言う通りになると思う?」
「なるんじゃないかな。軍の総司令部は分かり易いように、建物を紫色の塗料で塗ってる。陸軍は赤茶色さ。そして、ご丁寧に……
屋上にはでかい旗まではためかせている上に、周囲の施設は灰色か白と決まってる。まぁ、軽い目印になるね」
「となると、さっさと逃げるしかないね。総司令官も席から立ち上がったし」
「なるんじゃないかな。軍の総司令部は分かり易いように、建物を紫色の塗料で塗ってる。陸軍は赤茶色さ。そして、ご丁寧に……
屋上にはでかい旗まではためかせている上に、周囲の施設は灰色か白と決まってる。まぁ、軽い目印になるね」
「となると、さっさと逃げるしかないね。総司令官も席から立ち上がったし」
ヴィルリエは、席から立ち上がり、幕僚に連れられて作戦室から退出しようとするレンス元帥を見ながら言う。
「急いで退避してください!敵の攻撃隊が迫っています!!」
警備兵は尚も声を張り上げながら、総司令部内を駆け抜けていく。
「次官、情報参謀!聞いた通りだ。司令部から一時退避し、敵の空襲を避けよう」
レンス元帥はリリスティとヴィルリエを見るなり、退避を促す。
「了解しました!」
「そのように致します」
「そのように致します」
異口同音に答えた二人は、レンス元帥らと共に司令部からの脱出を開始した。
リリスティ、ヴィルリエを含んだ総司令部幕僚は、足早に階段を下り、そのまま地下室に移動しようとしたが、そこでヴィルリエが待ったをかけた。
リリスティ、ヴィルリエを含んだ総司令部幕僚は、足早に階段を下り、そのまま地下室に移動しようとしたが、そこでヴィルリエが待ったをかけた。
「お待ち下さい閣下!」
「どうした情報参謀!」
「どうした情報参謀!」
レンス元帥が声を荒げながら聞いて来る。
「……万が一、この司令部が爆撃で崩壊した場合、地下室の出入り口が大量の瓦礫で塞がり、外界への脱出が遅れる可能性もあります。
ここは幾分危険ですが、一時司令部の外へ出て、近場の一般施設に退避するのが得策だと思われますが」
「情報参謀!こんな時に何を」
ここは幾分危険ですが、一時司令部の外へ出て、近場の一般施設に退避するのが得策だと思われますが」
「情報参謀!こんな時に何を」
ヴィルリエに食って掛かる航空参謀を、リリスティは手を上げて制止する。
「……ここは崩れると思うかね?作りは頑丈だと聞くが」
レンス元帥がリリスティに聞いて来る。
「相手は崩す気で来るでしょう。司令部は高確率で瓦礫の山と化すかと思われます」
「……情報参謀の言う通り、司令部施設から離れた方がいいだろうな。よし、出よう!」
「……情報参謀の言う通り、司令部施設から離れた方がいいだろうな。よし、出よう!」
彼は即座に決めると、幕僚達を伴いながら一回の出入り口から外に出て行く。
海軍総司令部前の道は人の通りがまだ多かったが、道を埋め尽くすほどではなかった。
海軍総司令部前の道は人の通りがまだ多かったが、道を埋め尽くすほどではなかった。
「閣下、あの2階建ての雑貨店まで歩きましょう。あの辺りまで行けば、何とかなります」
主任参謀が100メートル先の白く古い建物を指差して案内した。
彼らは足早にその建物へ向かっていく。
この時、リリスティは歩を進めつつ、爆音の聞こえてくる方角に顔を向けた。
上空には、首都防衛軍団に属していく対空部隊が盛んに高射砲や魔道銃を撃ちまくっており、上空は黒い炸裂煙で覆われている。
そこを多数の米軍機が悠々と飛行している。米艦載機群は複数の編隊に別れて、各々の目標に向かっていた。
そのうち、10機ほどの機影が海軍総司令部に向かいつつあった。
距離は近く、いつ急降下爆撃が始まってもおかしくなかった。
彼らは足早にその建物へ向かっていく。
この時、リリスティは歩を進めつつ、爆音の聞こえてくる方角に顔を向けた。
上空には、首都防衛軍団に属していく対空部隊が盛んに高射砲や魔道銃を撃ちまくっており、上空は黒い炸裂煙で覆われている。
そこを多数の米軍機が悠々と飛行している。米艦載機群は複数の編隊に別れて、各々の目標に向かっていた。
そのうち、10機ほどの機影が海軍総司令部に向かいつつあった。
距離は近く、いつ急降下爆撃が始まってもおかしくなかった。
「もう敵が近い!早く進んで!!」
リリスティは声高に叫び、建物への避難を急がせる。
レンス元帥らが小走りに避難先に指定した建物に向かっていくが、リリスティは未だに、総司令部前を通り過ぎる住民が多い事に気付き、
慌てて足を止めるや、来た道を戻り始めた。
レンス元帥らが小走りに避難先に指定した建物に向かっていくが、リリスティは未だに、総司令部前を通り過ぎる住民が多い事に気付き、
慌てて足を止めるや、来た道を戻り始めた。
「な……リリィ!何をするの!?」
「ヴィル!先に行って!!あたしはできるだけ、市民を総司令部前から遠ざける!そこの衛兵たち!あんた達も手伝って!!」
「ヴィル!先に行って!!あたしはできるだけ、市民を総司令部前から遠ざける!そこの衛兵たち!あんた達も手伝って!!」
リリスティは背後でヴィルリエの声を聞きつつ、書類の束を持って幕僚達の後を付いてきた衛兵3人の足を止めるや、住民に総司令部前
からの避難誘導を行うように命じた。
からの避難誘導を行うように命じた。
「あそこの前を行き来する住民達を1人でも多く遠ざけて!このままじゃ、爆撃に巻き込まれてかなりの犠牲者が出る。その書類はここに
捨てていい。すぐに取り掛かって!」
「はっ!直ちに!!」
捨てていい。すぐに取り掛かって!」
「はっ!直ちに!!」
衛兵達はリリスティの命令を受けると、市民達に大声で総司令部前からの退避を命じた。
リリスティもこれに加わった。
リリスティもこれに加わった。
「ここに敵の爆撃機が向かっている!この建物の前からすぐに離れて!!」
空襲警報のサイレンと、高射砲弾の炸裂音に負けじとばかりに、彼女はあらん限りの声を吐き出した。
総司令部からは、まだ残っていた軍人や職員達が次々と脱出していくが、リリスティらの行動を見た一部の軍人は避難誘導に加わった。
総司令部からは、まだ残っていた軍人や職員達が次々と脱出していくが、リリスティらの行動を見た一部の軍人は避難誘導に加わった。
「すぐに離れろ!アメリカ軍機がここを狙って来るぞ!」
「そこの馬車!戻れ!巻き添えを食らうぞ!!」
「あんた!この子供を連れてってくれ!家族じゃなかろうが関係ない!早く連れてけ!」
「馬鹿野郎!ここで立ち止まるな!死にたくなければ早く遠くに行け!!」
「そこの馬車!戻れ!巻き添えを食らうぞ!!」
「あんた!この子供を連れてってくれ!家族じゃなかろうが関係ない!早く連れてけ!」
「馬鹿野郎!ここで立ち止まるな!死にたくなければ早く遠くに行け!!」
通りに繰り出した軍人達が総司令部前の避難を叫び始めてから程なくして、市民達は慌てながらも、司令部施設前から次々と離れていった。
住処から逃れてきたある家族連れは、軍人の掛け声を聞き、次に、上空に迫りつつある幾つものアメリカ軍機を見るや、恐怖に
顔を青ざめて司令部前から離れていく。
また、馬車に乗った別の家族連れは、ほぼ同じ光景を目の当たりにして御者台の夫が微かに罵声を放ち、鞭を打ってこの場からの脱出を試みる。
避難開始当初は、辺りには米軍機襲来を耳にした市民達で半ばごった返し、子供の鳴き声や馬車を引く馬の鳴き声等が合わさった混沌の場と
化していたが、リリスティらの努力の甲斐あって、通りからは何とか、市民を遠ざける事が出来た。
しかし、総司令部内の軍人や職員達の脱出は、まだ完全に終わっていなかった。
住処から逃れてきたある家族連れは、軍人の掛け声を聞き、次に、上空に迫りつつある幾つものアメリカ軍機を見るや、恐怖に
顔を青ざめて司令部前から離れていく。
また、馬車に乗った別の家族連れは、ほぼ同じ光景を目の当たりにして御者台の夫が微かに罵声を放ち、鞭を打ってこの場からの脱出を試みる。
避難開始当初は、辺りには米軍機襲来を耳にした市民達で半ばごった返し、子供の鳴き声や馬車を引く馬の鳴き声等が合わさった混沌の場と
化していたが、リリスティらの努力の甲斐あって、通りからは何とか、市民を遠ざける事が出来た。
しかし、総司令部内の軍人や職員達の脱出は、まだ完全に終わっていなかった。
「脱出できる者は外に出て!間に合わない者は地下室に避難して!」
リリスティは、総司令部の正門前に駆け寄り、出入り口付近で右往左往する者達に向けて指示を飛ばしていく。
その時
「次官!離れてください!」
リリスティは衛兵に肩を掴まれた。
「待って、まだ」
脱出できていない人が、と言おうとした時、上空に変わった轟音が鳴り響いてきた。
「!?」
彼女は上を見上げるや、衛兵と共に正門前から離れていく。
出入り口から目を離す前、リリスティは上空を見上げた職員が持っていたカバンを落とし、慌てて中へ戻っていくのが見えていた。
海軍総司令部の上空に到達した米軍機は急降下を始めている。
遠目からは分かり辛い物の、その形状はすぐに判別できた。
元々、ワイバーンを駆って死線を何度も潜り抜けてきただけあって、リリスティの視力は未だに高かった。
出入り口から目を離す前、リリスティは上空を見上げた職員が持っていたカバンを落とし、慌てて中へ戻っていくのが見えていた。
海軍総司令部の上空に到達した米軍機は急降下を始めている。
遠目からは分かり辛い物の、その形状はすぐに判別できた。
元々、ワイバーンを駆って死線を何度も潜り抜けてきただけあって、リリスティの視力は未だに高かった。
「あれがスカイレイダーか……確かに、不気味な姿をしてる。敵を威圧するにはもってこいの形ね!」
リリスティは走りながら、初めて目にするスカイレイダーの姿にそんな印象を抱いた。
敵機は高射砲弾と魔道銃の迎撃を受けながらも、急速に高度を落としていく。
海軍総司令部の周囲には陸軍の首都防衛軍団が設営した高射砲8門に、12の対空銃座があり、それらが対空射撃を行っていた。
リリスティは衛兵と共に、全速力で通りを走る。
普段鍛えているとはいえ、今履いている司令部勤務用の靴はかなり走り難い。
思うようにスピードが出ないため、リリスティは苛立ったが、それでも懸命に走り続けた。
敵機の轟音は次第に大きくなっていく。
スカイレイダーは、胴体に3発の爆弾を抱いて地上目標に攻撃を行う事が出来る。
今、海軍総司令部に向けて急降下しつつある敵も同じ武装を施されているだろう。
敵機は高射砲弾と魔道銃の迎撃を受けながらも、急速に高度を落としていく。
海軍総司令部の周囲には陸軍の首都防衛軍団が設営した高射砲8門に、12の対空銃座があり、それらが対空射撃を行っていた。
リリスティは衛兵と共に、全速力で通りを走る。
普段鍛えているとはいえ、今履いている司令部勤務用の靴はかなり走り難い。
思うようにスピードが出ないため、リリスティは苛立ったが、それでも懸命に走り続けた。
敵機の轟音は次第に大きくなっていく。
スカイレイダーは、胴体に3発の爆弾を抱いて地上目標に攻撃を行う事が出来る。
今、海軍総司令部に向けて急降下しつつある敵も同じ武装を施されているだろう。
「こっちよ!早く!!」
リリスティはヴィルリエが手招きするのを見て、その2階建ての建物に駆け込んだ。
次いで、リリスティと共に避難誘導に当たっていた衛兵達も次々と建物の中に入って来る。
建物は雑貨店であり、正面の出入り口は開け放たれていたが、店の主は居なかった。
レンス元帥らをここに導いた主任参謀は、長い間、この店の常連客であり、通常では店主とその妻、従業員2名がいるとのことだが、
彼らがここに入ったときは、店はもぬけの殻であった。
恐らく、店主は妻や従業員を引き連れて脱出したのであろう。
次いで、リリスティと共に避難誘導に当たっていた衛兵達も次々と建物の中に入って来る。
建物は雑貨店であり、正面の出入り口は開け放たれていたが、店の主は居なかった。
レンス元帥らをここに導いた主任参謀は、長い間、この店の常連客であり、通常では店主とその妻、従業員2名がいるとのことだが、
彼らがここに入ったときは、店はもぬけの殻であった。
恐らく、店主は妻や従業員を引き連れて脱出したのであろう。
「みんな伏せて!爆弾が降って来る!!」
リリスティは即座に警告を発した。
前線で敵機動部隊と戦ってきた彼女の経験からして、敵機は既に爆弾を投下し、今すぐにでも着弾してもおかしくない状態だ。
彼女の警告に従った皆が、頭を抑えて床に伏せる。
リリスティも同じように伏せた瞬間、大音響と共に物凄い衝撃が伝わってきた。
彼女らが避難した場所は、総司令部から100メートルほど離れていたが、爆弾命中の際の衝撃は強烈であった。
爆発の瞬間、店の中に残っていた品物が棚から落ち、床に伏せていたレンス元帥や幕僚達の背中の上に降りかかる。
爆発音は連続して響き、その度に建物は激しく揺れ動き、棚の中に残っていた物が音たてて落下し、しまいには何かが倒壊する音まで響き始めた。
10回目の爆発音は特に大きく、全員が一度は床から飛び上がり、その次の瞬間には再び叩き付けられる。
開け放たれた戸からは爆風が流れ込み、そして、次の瞬間には留め金が外れ、ドア自体が店の中に飛び込んで、陳列棚を叩き壊した。
建物の上部分が損傷したのか、木製の何かが破損するような音も聞こえてくる。
また、夥しい量の土煙が中に入り込み、彼らは思わず咳込んでしまった。
揺れが収まると、建物の屋上に無数の破片が落下して雨だれにも似た騒音がしばしの間鳴り続け、それは唐突に収まった。
前線で敵機動部隊と戦ってきた彼女の経験からして、敵機は既に爆弾を投下し、今すぐにでも着弾してもおかしくない状態だ。
彼女の警告に従った皆が、頭を抑えて床に伏せる。
リリスティも同じように伏せた瞬間、大音響と共に物凄い衝撃が伝わってきた。
彼女らが避難した場所は、総司令部から100メートルほど離れていたが、爆弾命中の際の衝撃は強烈であった。
爆発の瞬間、店の中に残っていた品物が棚から落ち、床に伏せていたレンス元帥や幕僚達の背中の上に降りかかる。
爆発音は連続して響き、その度に建物は激しく揺れ動き、棚の中に残っていた物が音たてて落下し、しまいには何かが倒壊する音まで響き始めた。
10回目の爆発音は特に大きく、全員が一度は床から飛び上がり、その次の瞬間には再び叩き付けられる。
開け放たれた戸からは爆風が流れ込み、そして、次の瞬間には留め金が外れ、ドア自体が店の中に飛び込んで、陳列棚を叩き壊した。
建物の上部分が損傷したのか、木製の何かが破損するような音も聞こえてくる。
また、夥しい量の土煙が中に入り込み、彼らは思わず咳込んでしまった。
揺れが収まると、建物の屋上に無数の破片が落下して雨だれにも似た騒音がしばしの間鳴り続け、それは唐突に収まった。
「……終わったか……?」
誰かがそう呟くのが聞こえた。
リリスティはそれに言葉を返そうとしたが、直後、外から異なった音が聞こえ始める。
そして、それは急速に大きくなってきた。
リリスティはそれに言葉を返そうとしたが、直後、外から異なった音が聞こえ始める。
そして、それは急速に大きくなってきた。
「はっ……まだ終わってない!伏せてぇ!!」
彼女は咄嗟にそう叫んだ。
中で起き上がりかけていた幾人かは罵声を放ちながら再び伏せる。
その瞬間、前方で何らかの物が激突する音が響き、次いで鈍い爆発音が起こった。
それまでに感じた事のない熱を伴った爆風が中に吹き込んできた。
同時に、鼻の奥にツンと来る刺激臭のような物も感じられた。
音は左から右へ、急速に通り過ぎたと思いきや、再び爆発音を発した。
リリスティは、振動が収まるのを待ってから、ゆっくりと顔を上げた。
室内には黒い煙が充満していた。
目の前の通りには炎が広がっており、それは建物の眼前を火の壁で遮ったようにも思えた。
中で起き上がりかけていた幾人かは罵声を放ちながら再び伏せる。
その瞬間、前方で何らかの物が激突する音が響き、次いで鈍い爆発音が起こった。
それまでに感じた事のない熱を伴った爆風が中に吹き込んできた。
同時に、鼻の奥にツンと来る刺激臭のような物も感じられた。
音は左から右へ、急速に通り過ぎたと思いきや、再び爆発音を発した。
リリスティは、振動が収まるのを待ってから、ゆっくりと顔を上げた。
室内には黒い煙が充満していた。
目の前の通りには炎が広がっており、それは建物の眼前を火の壁で遮ったようにも思えた。
「ゴホッ……これは…」
リリスティは咳込みながらも、体を起こして建物の外に出られるか確認する。
炎はそれほど大きくなく、建物からも離れていた。
彼女は外に出た。
炎はそれほど大きくなく、建物からも離れていた。
彼女は外に出た。
「……スカイレイダーが…」
リリスティは、雑貨店から見て、通りの反対側。
位置からして右側50メートル程にある2階建ての建物に突っ込んだ米軍機の姿を見るなり、思わず固まってしまった。
米軍機は、機体を炎に包まれていた。
濃紺色に塗装された機体は、その半ばを建物に埋めており、そこから発せられた火炎が建物に燃え移っている。
通りは米軍機から漏れ出た燃料が派手に燃え盛っており、濛々たる黒煙が噴き出していた。
位置からして右側50メートル程にある2階建ての建物に突っ込んだ米軍機の姿を見るなり、思わず固まってしまった。
米軍機は、機体を炎に包まれていた。
濃紺色に塗装された機体は、その半ばを建物に埋めており、そこから発せられた火炎が建物に燃え移っている。
通りは米軍機から漏れ出た燃料が派手に燃え盛っており、濛々たる黒煙が噴き出していた。
「あれでは、搭乗員は死んでいるわね」
背後からヴィルリエが声をかけてきた。
リリスティは振り返らずに、そのまま顔を頷かせる。
リリスティは振り返らずに、そのまま顔を頷かせる。
「あーあ……リリィ。司令部を見てよ」
リリスティはヴィルリエに促されて、司令部の方に顔を向けた。
「これは……酷いね」
「派手な事してくれるね。アメリカ軍も」
「派手な事してくれるね。アメリカ軍も」
リリスティは力ない声で呟き、ヴィルリエは溜息を吐きながらそう漏らした。
つい先ほどまで、彼女達が居た海軍総司令部は、敵の急降下爆撃によって完全に崩壊していた。
もし、避難が遅れていたら、レンス元帥を始めとする海軍総司令部とその幕僚達は、建物諸共爆砕されていたであろう。
つい先ほどまで、彼女達が居た海軍総司令部は、敵の急降下爆撃によって完全に崩壊していた。
もし、避難が遅れていたら、レンス元帥を始めとする海軍総司令部とその幕僚達は、建物諸共爆砕されていたであろう。
「なんたることだ……総司令部が……」
「元帥閣下……」
「元帥閣下……」
リリスティはレンス元帥に顔を向ける。
顔は煤で半ば汚れていて、軍服も埃で汚れきって見すぼらしくなっている。
顔や軍服が汚れているのはレンス元帥のみならず、リリスティやヴィルリエも同じように汚れている。
レンス元帥は半ば唖然としており、頭の中が整理できていないように思えた。
顔は煤で半ば汚れていて、軍服も埃で汚れきって見すぼらしくなっている。
顔や軍服が汚れているのはレンス元帥のみならず、リリスティやヴィルリエも同じように汚れている。
レンス元帥は半ば唖然としており、頭の中が整理できていないように思えた。
「閣下……お気をしっかり」
「あ……ああ。すまなかった。」
「あ……ああ。すまなかった。」
隣にいた主任参謀が声をかけると、レンス元帥はようやく、我を取り戻した。
「中にはまだ、かなりの部下や職員達が残っていた筈……今となってはもう……」
「相当数の犠牲が出た事は、残念でなりません。ですが、今はまだ戦闘中です。」
「相当数の犠牲が出た事は、残念でなりません。ですが、今はまだ戦闘中です。」
主任参謀は、努めて強い口調でレンス元帥に言う。
「ここの後始末は、後に送られてくる増援部隊に任せましょう。我々は使える建物に移動し、そこで新たに仮設司令部を設けて、
戦闘の指揮、情報収集に当たるべきです」
戦闘の指揮、情報収集に当たるべきです」
レンス元帥は、無言のまま、顔を縦に振った。
「ここはまだ危ないので、もうしばらく移動しましょう」
ヴィルリエが皆に移動を促した。
現場は、墜落した米軍機が破片をまき散らしており、火の付いた破片は無傷の建物にも飛び込んで、火災を起こしつつある。
また、上空では未だに、首都防衛軍団の対空陣地が飛行中の米軍機相手にまだ戦闘中であり、新たな敵機が襲ってくる可能性もある。
ここは、安全と思われる場所まで退避するのが妥当であった。
現場は、墜落した米軍機が破片をまき散らしており、火の付いた破片は無傷の建物にも飛び込んで、火災を起こしつつある。
また、上空では未だに、首都防衛軍団の対空陣地が飛行中の米軍機相手にまだ戦闘中であり、新たな敵機が襲ってくる可能性もある。
ここは、安全と思われる場所まで退避するのが妥当であった。
辛うじて難を逃れた海軍総司令部首脳陣は、被害を受けた司令部施設から安全とされている地区まで退避していったが、その間にも、
米艦載機群の攻撃は続いていた。
この時、米第3艦隊は第4次攻撃隊290機を発艦させており、そのうち170機が首都ウェルバンルに来襲した。
首都爆撃を命ぜられた160機のうち、100機はスカイレイダーであり、残り60機は護衛のF8Fである。
攻撃隊の内訳は、TG38.1のヨークタウン、エンタープライズ、ワスプからそれぞれA-1D18機ずつ、軽空母フェイトからA-1D8機。
TG38.2のベニントン、レキシントンからA-1D16機ずつ、イラストリアスからA-1D10機、ハーミズよりA-1D6機が発艦している。
TG38.3の攻撃隊は海軍工廠、並びに造船所の爆撃を命じられており、攻撃隊本隊とは別行動を取っている。
攻撃目標は、首都周辺部に点在する練兵場、師団駐屯地、ワイバーン基地等の軍事施設や、官庁街にある陸海軍の総司令部や国内省本部、
鉄道の総合施設と、様々であったが、TG38.1のヨークタウン、エンタープライズ隊が軍事目標を攻撃し、残りが軍司令部や鉄道本部に向かった。
首都防衛軍団は、来襲する米軍機に対して対空砲火を撃ち上げて迎え撃ち、残存していたワイバーン隊もこれに加わった。
だが、対空砲火は思うように効果を発揮せず、ワイバーン隊は護衛のF8Fに拘束され、妨害を突破した僅かな数のワイバーンがスカイレイダー1機
を撃墜し、3機を損傷させただけに留まった。
対空砲陣は、首都の最後の守りと言う事もあり、盛んに対空射撃を行い、魔道銃もありったけの光弾を撃ち放って爆撃の阻止にかかる。
スカイレイダーはそれを振り払うかのように、猛然と急降下爆撃を敢行し、各施設に次々と爆弾を叩きつけていった。
最初に狙われたのは、海軍総司令部であった。
海軍総司令部には、イラストリアス隊のスカイレイダー10機が襲い掛かり、うち1機が撃墜されたものの、残りは3発ずつの1000ポンド爆弾を
投下し、司令部施設を全壊せしめた。
次に狙われたのは陸軍総司令部であった。
陸軍総司令部は、海軍総司令部から北に1キロほど離れた場所にある、赤茶色の建物であり、7階建ての2つの正方形状の作りとなっていた。
この目標には、ベニントンから発艦したスカイレイダー16機が襲い掛かった。
陸軍総司令部では、米軍機襲来の報と共に首脳部が建物の離れにある急造の地下壕に避難を済ませていたが、司令部内には、海軍総司令部同様、
多数の司令部職員や軍人が中に残っていた。
ベニントン隊もまた、激しい対空砲火を浴び、2機が撃墜されたものの、残りは胴体に積んでいた爆弾を過たず、2つの司令部施設に叩き付けた。
1000ポンド爆弾は、5発が北棟と呼ばれる施設に命中し、3発は南棟に命中した。
北棟は基部に損傷が及び、爆弾命中から4分後に、隣接していた道路に横倒しとなり、避難中であった市民多数が巻き添えとなった。
南棟は倒壊を免れた物の、施設内部は甚大な損害を受けており、特に屋上から4階までに至る部分は、内部が滅茶苦茶に破壊されていた。
また、司令部施設周辺には多数の至近弾が落下した他、隣接していた住宅地にも爆弾が落下し、少なからぬ被害を生じさせていた。
米艦載機群の攻撃は続いていた。
この時、米第3艦隊は第4次攻撃隊290機を発艦させており、そのうち170機が首都ウェルバンルに来襲した。
首都爆撃を命ぜられた160機のうち、100機はスカイレイダーであり、残り60機は護衛のF8Fである。
攻撃隊の内訳は、TG38.1のヨークタウン、エンタープライズ、ワスプからそれぞれA-1D18機ずつ、軽空母フェイトからA-1D8機。
TG38.2のベニントン、レキシントンからA-1D16機ずつ、イラストリアスからA-1D10機、ハーミズよりA-1D6機が発艦している。
TG38.3の攻撃隊は海軍工廠、並びに造船所の爆撃を命じられており、攻撃隊本隊とは別行動を取っている。
攻撃目標は、首都周辺部に点在する練兵場、師団駐屯地、ワイバーン基地等の軍事施設や、官庁街にある陸海軍の総司令部や国内省本部、
鉄道の総合施設と、様々であったが、TG38.1のヨークタウン、エンタープライズ隊が軍事目標を攻撃し、残りが軍司令部や鉄道本部に向かった。
首都防衛軍団は、来襲する米軍機に対して対空砲火を撃ち上げて迎え撃ち、残存していたワイバーン隊もこれに加わった。
だが、対空砲火は思うように効果を発揮せず、ワイバーン隊は護衛のF8Fに拘束され、妨害を突破した僅かな数のワイバーンがスカイレイダー1機
を撃墜し、3機を損傷させただけに留まった。
対空砲陣は、首都の最後の守りと言う事もあり、盛んに対空射撃を行い、魔道銃もありったけの光弾を撃ち放って爆撃の阻止にかかる。
スカイレイダーはそれを振り払うかのように、猛然と急降下爆撃を敢行し、各施設に次々と爆弾を叩きつけていった。
最初に狙われたのは、海軍総司令部であった。
海軍総司令部には、イラストリアス隊のスカイレイダー10機が襲い掛かり、うち1機が撃墜されたものの、残りは3発ずつの1000ポンド爆弾を
投下し、司令部施設を全壊せしめた。
次に狙われたのは陸軍総司令部であった。
陸軍総司令部は、海軍総司令部から北に1キロほど離れた場所にある、赤茶色の建物であり、7階建ての2つの正方形状の作りとなっていた。
この目標には、ベニントンから発艦したスカイレイダー16機が襲い掛かった。
陸軍総司令部では、米軍機襲来の報と共に首脳部が建物の離れにある急造の地下壕に避難を済ませていたが、司令部内には、海軍総司令部同様、
多数の司令部職員や軍人が中に残っていた。
ベニントン隊もまた、激しい対空砲火を浴び、2機が撃墜されたものの、残りは胴体に積んでいた爆弾を過たず、2つの司令部施設に叩き付けた。
1000ポンド爆弾は、5発が北棟と呼ばれる施設に命中し、3発は南棟に命中した。
北棟は基部に損傷が及び、爆弾命中から4分後に、隣接していた道路に横倒しとなり、避難中であった市民多数が巻き添えとなった。
南棟は倒壊を免れた物の、施設内部は甚大な損害を受けており、特に屋上から4階までに至る部分は、内部が滅茶苦茶に破壊されていた。
また、司令部施設周辺には多数の至近弾が落下した他、隣接していた住宅地にも爆弾が落下し、少なからぬ被害を生じさせていた。
陸軍総司令部より北西に1ゼルド離れた場所にある鉄道本部では、駅の職員達が大口を開けて、列車内にいた市民や、駅のホームで搭乗を
待っていた乗客達の避難誘導を行っていた。
待っていた乗客達の避難誘導を行っていた。
「急いで駅から離れてください!敵の爆撃隊が間もなくこちらへ到達します!」
首都鉄道本部に所属するアビソア・イレンヴイ2等車掌もまた、紫色の制服に皺を作りつつ、他の職員と共に駅を歩き回り、避難誘導に当たっていた。
彼はこのウェルバンル総合駅の職員であり、採用されて、まだ4カ月の新米であったが、先輩達に負けぬとばかりに、精力的に働いた。
彼はこのウェルバンル総合駅の職員であり、採用されて、まだ4カ月の新米であったが、先輩達に負けぬとばかりに、精力的に働いた。
「イレンヴイ!こっちの方は既に終わった!俺もそっちの応援に入ろう!」
「先輩、ありがとうございます!助かりますよ!」
「先輩、ありがとうございます!助かりますよ!」
先輩と呼ばれた、背が高く、いかつい顔つきの車掌は彼の肩を叩いてから、避難誘導に加わった。
駅からは、多くの市民が顔面を青くしながら通路を歩き、階段を下りていく。
辺りには赤子の鳴き声や、空襲に対する恐れの声、早く逃げようと、人混みをかき分けつつ、罵声を放つ男の声など、様々な音が入り混じって非常に騒がしい。
イレンヴイのいるウェルバンル総合駅は、ウェルバンルでも最大規模を誇る駅であり、ここには帝国鉄道本部と車両基地も置かれた、
シホールアンル帝国の鉄道の中枢とも言える場所だ。
車両基地とウェルバンル総合駅は幾らか距離が離れているが、それでも徒歩で5分ほども歩けば車両基地に辿り着ける。
予想としては、アメリカ軍機はこの車両基地を始めとする鉄道の関連施設を爆撃すると見られており、ウェルバンル総合駅も爆撃対象と
なる可能性は極めて高かった。
喧騒の中、市民達は一応、あまり慌てた様子も見せず、整然と避難を続けていた。
しかし、唐突に状況は一変した。
いきなり、轟音が響いてきたと思いきや、避難民から悲鳴が沸き起こった。
駅からは、多くの市民が顔面を青くしながら通路を歩き、階段を下りていく。
辺りには赤子の鳴き声や、空襲に対する恐れの声、早く逃げようと、人混みをかき分けつつ、罵声を放つ男の声など、様々な音が入り混じって非常に騒がしい。
イレンヴイのいるウェルバンル総合駅は、ウェルバンルでも最大規模を誇る駅であり、ここには帝国鉄道本部と車両基地も置かれた、
シホールアンル帝国の鉄道の中枢とも言える場所だ。
車両基地とウェルバンル総合駅は幾らか距離が離れているが、それでも徒歩で5分ほども歩けば車両基地に辿り着ける。
予想としては、アメリカ軍機はこの車両基地を始めとする鉄道の関連施設を爆撃すると見られており、ウェルバンル総合駅も爆撃対象と
なる可能性は極めて高かった。
喧騒の中、市民達は一応、あまり慌てた様子も見せず、整然と避難を続けていた。
しかし、唐突に状況は一変した。
いきなり、轟音が響いてきたと思いきや、避難民から悲鳴が沸き起こった。
「陸軍の司令部が爆撃されたぞ!」
「まずいぞ!早く逃げろ!!こっちにも爆弾が落ちてくるぞ!!」
「まずいぞ!早く逃げろ!!こっちにも爆弾が落ちてくるぞ!!」
遠いながらも、前方に見えていた陸軍総司令部の建物が爆炎に包まれる様子を目の当たりにした市民達がパニックを起こし始めた。
そこから整然となっていた流れは、大きく乱れてしまった。
そこから整然となっていた流れは、大きく乱れてしまった。
「落ち着いて下さい!押さないで!」
「うるせえ馬鹿野郎!早く逃げないと爆弾にやられて死ぬぞ!」
「ランフックの二の舞になってたまるか!!」
「うるせえ馬鹿野郎!早く逃げないと爆弾にやられて死ぬぞ!」
「ランフックの二の舞になってたまるか!!」
市民達は互いに押しのけ合い、倒れた人を踏み越えてまで駅から離れようとしていた。
「なんてこった……最悪の事態だ!」
「ランフックの事が印象に残っているんだ。ああなるのは必然と言えるかもしれん」
「ランフックの事が印象に残っているんだ。ああなるのは必然と言えるかもしれん」
イレンヴイが目の前の出来事に唖然となっている所を、彼の先輩は諦観の念を込めた口調でそう言ってきた。
「し、しかし!」
「お前の気持ちは分かる。俺もできるだけの事はするが……そろそろ、自分の身を考えた方がいいだろうな」
「お前の気持ちは分かる。俺もできるだけの事はするが……そろそろ、自分の身を考えた方がいいだろうな」
先輩は意味深な事を言いつつ、律儀に避難誘導を続けた。
イレンヴイは首を傾げたが、気を取り直し、市民達の避難を助け続けた。
駅からの避難誘導は、途中で幾つもの箇所で将棋倒しになった市民が出たため、思った以上に難航していた。
特に階段付近で起きた転倒事故では多数の人が巻き込まれ、少なからぬ数の負傷者が出てしまった。
駅の職員達は、途中で駆けつけてきた国内省の首都警備隊と共に、懸命に負傷者を搬送し続けたが、手がまるで足りない。
それでも、駅からようやく市民達が退避し終えたと一息ついた時、上空から聞いた事もない轟音が響き始めていた。
イレンヴイは首を傾げたが、気を取り直し、市民達の避難を助け続けた。
駅からの避難誘導は、途中で幾つもの箇所で将棋倒しになった市民が出たため、思った以上に難航していた。
特に階段付近で起きた転倒事故では多数の人が巻き込まれ、少なからぬ数の負傷者が出てしまった。
駅の職員達は、途中で駆けつけてきた国内省の首都警備隊と共に、懸命に負傷者を搬送し続けたが、手がまるで足りない。
それでも、駅からようやく市民達が退避し終えたと一息ついた時、上空から聞いた事もない轟音が響き始めていた。
「な、何だ!?」
イレンヴイはその音に驚き、不意に上空を見上げた。
上空には、軍の対空部隊が発射した高射砲弾が炸裂していたが、そこを一群の飛空艇が対空砲火をものともせずに、急降下で駅に突っ込もうとしていた。
上空には、軍の対空部隊が発射した高射砲弾が炸裂していたが、そこを一群の飛空艇が対空砲火をものともせずに、急降下で駅に突っ込もうとしていた。
「こっちに向かって来るぞ!早く逃げろ!」
先ほど、意味深な発言をした先輩がイレンヴイの肩を掴んで走り始めた。
駅の階段を足早に下りると、2人は防空壕に入り込んだ。
途中、イレンヴイは慌てて駅から離れていく市民や負傷者を乗せた馬車の姿が見えたが、今となっては少しでも遠くへ逃げられることを祈るだけだ。
駅の階段を足早に下りると、2人は防空壕に入り込んだ。
途中、イレンヴイは慌てて駅から離れていく市民や負傷者を乗せた馬車の姿が見えたが、今となっては少しでも遠くへ逃げられることを祈るだけだ。
「体を丸めろ!口は閉じらずに半ば開けろ!」
イレンヴイは先輩の言う通りにし、ふと、何故先輩はこうも“手慣れているのか”と疑問に思ったが、直後、耳にねじ込まれたかのような轟音が鳴り、
大地震もかくやという勢いで防空壕が強く揺れた。
大地震もかくやという勢いで防空壕が強く揺れた。
ウェルバンル総合駅を爆撃したのは、レキシントンに属するVA-2のスカイレイダー10機であった。
レキシントン隊は、攻撃前に1機が撃墜されたが、残り15機は首都上空に到達し、途中で5機が国内省施設の爆撃に向かい、10機が規模の
大きいウェルバンル総合駅や車両基地に攻撃を仕掛けた。
レキシントン隊は、攻撃前に1機が撃墜されたが、残り15機は首都上空に到達し、途中で5機が国内省施設の爆撃に向かい、10機が規模の
大きいウェルバンル総合駅や車両基地に攻撃を仕掛けた。
10機中、半数がウェルバンル総合駅に、もう半数が車両基地の爆撃を行う。
最初に爆弾を叩きつけられたのは駅のホームであった。
高度400で投下された3発の爆弾は、駅のホーム、線路、その反対側のホームに等間隔で突き刺さり、爆炎を噴き上げた。
1000ポンド爆弾の爆発エネルギーは、緑色の屋根を紙細工の如く吹き飛ばし、線路に命中した爆弾は複数のレールをアメのように捲れ上がらせた。
2番機の爆弾は駅に停車中の無人の列車の2両目に命中し、爆炎と共に車体が断ち割られ、天蓋の大部分が無数の破片となって吹き飛ばされた。
別の爆弾はそのすぐ後ろにある3両目の至近で炸裂し、爆発は車体を宙に浮き上がらせたあと、そのまま駅のホームにのしあげた。
3番機、4番機も1000ポンド爆弾を3発ずつ投下し、まだ無傷で残っているホームや、停車中の列車を情け容赦なく叩き壊していく。
5番機は駅の隣にあった3階建ての長方形状の鉄道本部施設を爆撃した。
爆弾は3発中、2発が建物に命中した。
2発の爆弾は鉄道本部を半壊させただけではなく、命中箇所から火災が発生し、瞬く間に延焼し始める。
至近弾となった爆弾も、鉄道本部の外壁を損壊させたうえ、窓ガラス多数を叩き割り、甚大な損害を与えた。
最初に爆弾を叩きつけられたのは駅のホームであった。
高度400で投下された3発の爆弾は、駅のホーム、線路、その反対側のホームに等間隔で突き刺さり、爆炎を噴き上げた。
1000ポンド爆弾の爆発エネルギーは、緑色の屋根を紙細工の如く吹き飛ばし、線路に命中した爆弾は複数のレールをアメのように捲れ上がらせた。
2番機の爆弾は駅に停車中の無人の列車の2両目に命中し、爆炎と共に車体が断ち割られ、天蓋の大部分が無数の破片となって吹き飛ばされた。
別の爆弾はそのすぐ後ろにある3両目の至近で炸裂し、爆発は車体を宙に浮き上がらせたあと、そのまま駅のホームにのしあげた。
3番機、4番機も1000ポンド爆弾を3発ずつ投下し、まだ無傷で残っているホームや、停車中の列車を情け容赦なく叩き壊していく。
5番機は駅の隣にあった3階建ての長方形状の鉄道本部施設を爆撃した。
爆弾は3発中、2発が建物に命中した。
2発の爆弾は鉄道本部を半壊させただけではなく、命中箇所から火災が発生し、瞬く間に延焼し始める。
至近弾となった爆弾も、鉄道本部の外壁を損壊させたうえ、窓ガラス多数を叩き割り、甚大な損害を与えた。
駅の後方にある車両基地も次々と爆弾を浴びせられる。
この時、車両基地には18両の列車が格納庫で保管され、4両の軍用列車が外の線路上で停止していたが、5機のスカイレイダーはこの
格納庫と列車を爆撃した。
1機3発ずつ搭載された1000ポンド爆弾は、落下するたびに線路上の列車をなぎ倒し、あるいは叩き割ってスクラップに変えていく。
または、格納庫が保管されていた列車ごと爆砕され、火柱と共に夥しい破片が宙高く吹き上がる。
外れた1発の爆弾が、修理施設にある高さ20メートルほどの鉄塔の基部に命中し、その5秒後に、鉄塔は不気味な軋み音を立てて格納庫に倒れ込み、
中にあった無傷の列車5台が押し潰されてしまった。
スカイレイダー隊は爆弾を投下しただけでは飽き足らず、急降下後に反転して、翼下に積んであった3発ずつの5インチロケット弾を、傷の少ない
格納庫や、残っていた無傷の建物に叩き込み、機銃掃射も加えた。
この時、車両基地には18両の列車が格納庫で保管され、4両の軍用列車が外の線路上で停止していたが、5機のスカイレイダーはこの
格納庫と列車を爆撃した。
1機3発ずつ搭載された1000ポンド爆弾は、落下するたびに線路上の列車をなぎ倒し、あるいは叩き割ってスクラップに変えていく。
または、格納庫が保管されていた列車ごと爆砕され、火柱と共に夥しい破片が宙高く吹き上がる。
外れた1発の爆弾が、修理施設にある高さ20メートルほどの鉄塔の基部に命中し、その5秒後に、鉄塔は不気味な軋み音を立てて格納庫に倒れ込み、
中にあった無傷の列車5台が押し潰されてしまった。
スカイレイダー隊は爆弾を投下しただけでは飽き足らず、急降下後に反転して、翼下に積んであった3発ずつの5インチロケット弾を、傷の少ない
格納庫や、残っていた無傷の建物に叩き込み、機銃掃射も加えた。
とあるガンカメラには、画面の端で炎上し、煙を上げる格納庫が映っている中、比較的傷の少ない格納庫に5インチロケット弾を叩き込み、その
すぐ後に20ミリ機銃弾を10秒ほど撃ち込んでから上昇していく様子が映し出されていた。
すぐ後に20ミリ機銃弾を10秒ほど撃ち込んでから上昇していく様子が映し出されていた。
防空壕の外は、長い間、地獄の喧騒とも呼べる騒音と、群発地震に遭遇したかのような強烈な振動が断続的に続いた。
イレンヴイは、この悪夢の時間が永遠に続くのだと確信していた。
それだけに、唐突に騒音が鳴り止み、空襲が終わった事に気付いた時は、それ自体が半ば信じられなかった。
イレンヴイは、この悪夢の時間が永遠に続くのだと確信していた。
それだけに、唐突に騒音が鳴り止み、空襲が終わった事に気付いた時は、それ自体が半ば信じられなかった。
「……終わったようだな」
「先輩……終わったって、何がです?」
「空襲だよ」
「先輩……終わったって、何がです?」
「空襲だよ」
先輩はそれだけ言うと、防空壕の外に出て行く。イレンヴイも彼の後を追った。
外に出るなり、イレンヴイは絶句してしまった。
外に出るなり、イレンヴイは絶句してしまった。
「………!」
「派手にやられたな。これは当分、使い物にならん」
「派手にやられたな。これは当分、使い物にならん」
隣に立つ先輩は、イレンヴイに比べて比較的落ち着いていた。
「レスタンの時も酷かったが、こいつはそれ以上だぞ」
「レスタンって……先輩……?」
「入って4か月ぐらいの新人にはきつすぎる光景だろうが、俺はここに来る前はレスタン領の鉄道本部に勤めててな。こういった光景は
3度ほど見た事があるんだ」
「そうだったんですか」
「レスタンって……先輩……?」
「入って4か月ぐらいの新人にはきつすぎる光景だろうが、俺はここに来る前はレスタン領の鉄道本部に勤めててな。こういった光景は
3度ほど見た事があるんだ」
「そうだったんですか」
イレンヴイの言葉に、先輩は肩を竦めた。
「最初は俺も酷くビビッてしまったが、不思議な事に慣れてしまったな。とはいえ、まさか首都が爆撃を食らうとはな。俺は今、冷静に
見えるだろうが……実際はこれでもちびりそうなほど、内心震えまくっている」
「先輩……」
見えるだろうが……実際はこれでもちびりそうなほど、内心震えまくっている」
「先輩……」
彼は深く溜息を吐くと、首を横に振ってからイレンヴイに言う。
「だが、今は震えて丸くなっている場合じゃない。被害状況を調べて、報告する義務が俺達にはある。イレンヴイ、恐らく……かなり
きつい現場を見るかもしれんが、ここは耐えてくれよ。耐えなければ、次には進めんからな」
「わ……わかりました。先輩!」
きつい現場を見るかもしれんが、ここは耐えてくれよ。耐えなければ、次には進めんからな」
「わ……わかりました。先輩!」
イレンヴイは、精一杯の声音でそう返事した。
先輩と呼ばれたベテラン車掌は、無言で頷いてからイレンヴイと共に、散り散りになった同僚たちを探し始めた。
先輩と呼ばれたベテラン車掌は、無言で頷いてからイレンヴイと共に、散り散りになった同僚たちを探し始めた。
午後4時10分 シホールアンル帝国首都ウェルバンル東地区
カルファサは、首都の官庁街や周囲の軍事施設から上がる黒煙を見ていたが、彼は今起きている事が半ば信じられなくなっていた。
「……これは、夢ではない。」
彼は、腕をつねりながら、自分の意識がハッキリしている事を確認するが、頭の中では、何かがぐるぐると回っているかのような錯覚に囚われていた。
「夢ではないんだ……だが、状況の整理が追い付かない」
カルファサは混乱していた。
今まで、首都への空襲は想像した事はあっても、実際に受ける事はまだまだ先の事であると思っていた。
しかし、実際に首都が空襲を受けるとなると、その衝撃は計り知れないものがある。
また、首都防衛軍団やワイバーン隊の防空があまり上手く行っていない事にもショックを受けていた。
今まで、首都への空襲は想像した事はあっても、実際に受ける事はまだまだ先の事であると思っていた。
しかし、実際に首都が空襲を受けるとなると、その衝撃は計り知れないものがある。
また、首都防衛軍団やワイバーン隊の防空があまり上手く行っていない事にもショックを受けていた。
「軍は、例え空襲を受けるようなことがあっても、首都の守りは完璧であり、来襲する敵は首都に近付く事すらままならないと言っていたぞ。
その結果がこれなのか……」
その結果がこれなのか……」
カルファサはその場に両膝を付いた。
彼の中で、今まで信じていたものが音を立てて崩れ去っていた。
ふと、上空にまたもや爆音が響き始めていた。
彼の中で、今まで信じていたものが音を立てて崩れ去っていた。
ふと、上空にまたもや爆音が響き始めていた。
「……」
彼は無言で、音のする方向に目を向ける。
6機ほどのアメリカ軍機が、やや低い高度で東地区の上空を飛んでいた。
距離は近く、アメリカ軍機の濃紺色の塗装や、その胴体に描かれた星のマークもはっきりと見える。
6機のアメリカ軍機は、爆音を上げながら、そのまま東地区の上空を飛び去って行く。
これを追いかけようとするワイバーンは、どこにも見当たらなかった。
6機ほどのアメリカ軍機が、やや低い高度で東地区の上空を飛んでいた。
距離は近く、アメリカ軍機の濃紺色の塗装や、その胴体に描かれた星のマークもはっきりと見える。
6機のアメリカ軍機は、爆音を上げながら、そのまま東地区の上空を飛び去って行く。
これを追いかけようとするワイバーンは、どこにも見当たらなかった。
「昔は、この偉大な国に生まれて良かったと思っていた。そして、帝国軍の雄姿を見て、俺も兵隊を辞めずに、そのまま軍に留まっておけば
良かったと、何度も思ったが……」
良かったと、何度も思ったが……」
カルファサは、ゆっくりとした口調で呟きながら立ち上がる。
「もはや、それは過去の物となってしまったのか………これが、歴史が変わる瞬間……という奴なのか」
「親方。気をしっかり保ってください」
「あ、あぁ……居たのか」
「親方。気をしっかり保ってください」
「あ、あぁ……居たのか」
彼は、部下の従業員が居た事に気付いた。
「さっきからずっと傍にいましたよ。自分も正直、同じ気持ちです」
「なぁ……この国はこれから、どうなっちまうんだろうな」
「……分かりません。でも、良くない方向へ行くのは、ほぼ確実かと」
「良くない方向へ、か。ここまで好き放題されちまえば、そうなってしまうな」
「なぁ……この国はこれから、どうなっちまうんだろうな」
「……分かりません。でも、良くない方向へ行くのは、ほぼ確実かと」
「良くない方向へ、か。ここまで好き放題されちまえば、そうなってしまうな」
彼はそう言い放つと、覚束ない足取りで店の中に戻っていった。
午後5時30分 シギアル沖北東170マイル地点
第3艦隊司令長官ウイリアム・ハルゼー大将は、旗艦である空母エンタープライズ艦橋の張り出し通路から、第4次攻撃隊の帰還風景を眺めていた。
今しも、1機のスカイレイダーがLSOの指示に従いながら、完璧とも言える動作で着艦をこなした。
着艦フックにワイヤーを引っ掛けたスカイレイダーは急減速する。
そう間を置かぬうちに、複数の甲板要員が機体の周囲に取り付き、着艦フックに掛かったワイヤーを取り外す。
それを確認したスカイレイダーはゆっくりと、中央部のエレベーターまで自走し、その間に翼を折りたたんでいく。
程なくして、第2エレベーターに乗ったスカイレイダーは、駆動音と共に格納甲板に下ろされていった。
今しも、1機のスカイレイダーがLSOの指示に従いながら、完璧とも言える動作で着艦をこなした。
着艦フックにワイヤーを引っ掛けたスカイレイダーは急減速する。
そう間を置かぬうちに、複数の甲板要員が機体の周囲に取り付き、着艦フックに掛かったワイヤーを取り外す。
それを確認したスカイレイダーはゆっくりと、中央部のエレベーターまで自走し、その間に翼を折りたたんでいく。
程なくして、第2エレベーターに乗ったスカイレイダーは、駆動音と共に格納甲板に下ろされていった。
「長官。間もなく、第4次攻撃隊の収容が完了します」
「OK!ボーイズ達も派手にやってくれたようだな」
「OK!ボーイズ達も派手にやってくれたようだな」
ハルゼーは野太い声でそう答えると、幕僚と共に艦橋内へ戻っていく。
司令官席に腰を下ろしたハルゼーは、第3艦隊司令部付きの魔道参謀、ラウス・クレーゲル少佐に目を向ける。
「ラウス。首都にいる連中からは何か追加の報告は入っているか?」
「今の所は何も。あと、レイリーさんの体調は何とか戻ったみたいですね」
「そうかそうか」
「今の所は何も。あと、レイリーさんの体調は何とか戻ったみたいですね」
「そうかそうか」
ハルゼーは微笑みながら、顔を頷かせた。
「彼も仲間だからな。ここで死なれたんじゃ寝覚めが悪い。今はまだ敵国の中だから、なんとしでても生き残ってもらいたい物だ。無論、
レイリーを支えるグレンキアのスパイ達も頑張って生き延びてほしい」
レイリーを支えるグレンキアのスパイ達も頑張って生き延びてほしい」
ハルゼーは言葉を区切り、新しい葉巻を口に咥えた。
「この奇襲作戦が実行できたのも、彼らのお陰だ。俺はもし、連中を救えと命令が下ったら、全艦隊を率いてでも迎えに行くぞ」
「第3艦隊の陣容なら、それも可能かもしれませんな」
「第3艦隊の陣容なら、それも可能かもしれませんな」
第3艦隊参謀長を務めるロバート・カーニー中将も自信ありげな口調で相槌を打つ。
「ですが、航空部隊の損害は無視できるものではありませんな」
航空参謀のホレスト・モルン大佐は、カーニーほど楽観的ではなかった。
「第1次攻撃隊は、奇襲効果が働いた事もあり、被撃墜数は僅か5機に留まりました。ですが、第2次攻撃隊は18機を喪失し、
第3次攻撃隊に至っては20機が現地で撃墜されています。また、これに加えて、被弾、損傷した機は127機にも及び、うち、28機は
損傷が酷すぎて使い物になりません。第4次攻撃隊の損害状況はまだわかりませんが、敵の抵抗が未だに熾烈であったことを考えて、
第3次攻撃隊と同等と見た方が良いでしょう。また、機動部隊上空の迎撃戦闘で16機が撃墜されている事も忘れてはなりません」
第3次攻撃隊に至っては20機が現地で撃墜されています。また、これに加えて、被弾、損傷した機は127機にも及び、うち、28機は
損傷が酷すぎて使い物になりません。第4次攻撃隊の損害状況はまだわかりませんが、敵の抵抗が未だに熾烈であったことを考えて、
第3次攻撃隊と同等と見た方が良いでしょう。また、機動部隊上空の迎撃戦闘で16機が撃墜されている事も忘れてはなりません」
ハルゼー機動部隊の攻撃は、シギアル港やウェルバンル周辺に甚大な損害をもたらしたが、同時に、損害も徐々に累積していた。
第4次攻撃隊はまだ全機が帰還していない上に、その戦闘の詳細もTF38司令部からまだ報告されていないが、攻撃終了後の通信では
「第4次攻撃終了。官庁街の軍司令部、軍事施設並びに鉄道施設、海軍工廠施設を爆撃せり。軍司令部、鉄道施設の完全破壊を確認。
海軍工廠施設は爆撃の効果甚大なるも、未だに完全破壊には至らず。敵は残存せるワイバーン隊や対空砲火をもって反撃しつつあるため、
抵抗は依然熾烈。我が方にも複数の被撃墜機あり」
海軍工廠施設は爆撃の効果甚大なるも、未だに完全破壊には至らず。敵は残存せるワイバーン隊や対空砲火をもって反撃しつつあるため、
抵抗は依然熾烈。我が方にも複数の被撃墜機あり」
と伝えられており、首都近郊やシギアル港付近の対空砲火は依然激しく、敵側の航空戦力も完全に掃討できていないのが現状だ。
また、TF38は、敵の空襲で正規空母1隻を大破させられており、稼働空母は11隻に減っている。
敵航空戦力は大幅に減殺したとはいえ、敵側がその気になれば、機動部隊への空襲は未だにあり得るのが現状である。
ハルゼーは、モルン大佐が言下に、もう少し慎重に動くべきと伝えているようにも思えた。
また、TF38は、敵の空襲で正規空母1隻を大破させられており、稼働空母は11隻に減っている。
敵航空戦力は大幅に減殺したとはいえ、敵側がその気になれば、機動部隊への空襲は未だにあり得るのが現状である。
ハルゼーは、モルン大佐が言下に、もう少し慎重に動くべきと伝えているようにも思えた。
「航空参謀の言う通りだな。ひとまず、第4次攻撃隊の戦果報告が上がるのを待っておこう」
それから20分後……
「TF38司令部からの報告によりますと、第4次攻撃隊は海軍工廠、首都の官庁街、ならびに、周辺の軍事施設を爆撃。官庁街の陸海軍
司令部や国内省本部、鉄道施設へは完全破壊と判定される損害を与えたようです。次に、軍事施設や航空基地への爆撃ですが、こちらも
施設への爆撃効果甚大、航空基地への爆撃も概ね成功し、損傷も大とのことです」
司令部や国内省本部、鉄道施設へは完全破壊と判定される損害を与えたようです。次に、軍事施設や航空基地への爆撃ですが、こちらも
施設への爆撃効果甚大、航空基地への爆撃も概ね成功し、損傷も大とのことです」
ハルゼーは報告を聞きつつ、咥えていた葉巻を灰皿の上に置く。
「続いて、海軍工廠への爆撃ですが、こちらも建造中の大型艦3隻を建造ドッグごと破壊し、その他の造船所にも少なからぬ損害を与えた
ようです。ですが、攻撃機が少ない事もあって、未だに多数の造船施設が残っているとのことです。なお、我が方の損害は、F8F4機、
A-1D8機が現地で撃墜され、F8F6機、A-1D48機が損傷。うち、A-1D18機が損傷大で使用不能の他、着艦事故で4機
失いました。報告は以上になります」
「第4次攻撃隊も、損害は出しつつも、目標への攻撃は概ね成功と言う事か」
「そうなりますな」
ようです。ですが、攻撃機が少ない事もあって、未だに多数の造船施設が残っているとのことです。なお、我が方の損害は、F8F4機、
A-1D8機が現地で撃墜され、F8F6機、A-1D48機が損傷。うち、A-1D18機が損傷大で使用不能の他、着艦事故で4機
失いました。報告は以上になります」
「第4次攻撃隊も、損害は出しつつも、目標への攻撃は概ね成功と言う事か」
「そうなりますな」
ハルゼーの問いに、モルン大佐は頷きながら答えた。
「……参謀長。もうすぐ日が暮れる。今日の航空戦に関してはこれで終いになるが、シギアル港や首都周辺に対する爆撃は、これで充分と
思うかね?」
「私個人が見る限り、わが機動部隊は敵の軍港、並びに、首都周辺の目標に甚大な損害を与えたと判断致します。特に、未知の新兵器と
思しき物を全滅させたことは、かなりの成果になると思われます」
「工場を攻撃する筈が、そこから空中を浮遊する軍艦が出現したと聞いた時はおったまげたもんだな」
思うかね?」
「私個人が見る限り、わが機動部隊は敵の軍港、並びに、首都周辺の目標に甚大な損害を与えたと判断致します。特に、未知の新兵器と
思しき物を全滅させたことは、かなりの成果になると思われます」
「工場を攻撃する筈が、そこから空中を浮遊する軍艦が出現したと聞いた時はおったまげたもんだな」
ハルゼーは苦笑しながらそう言った。
第2次攻撃隊は、ウェルバンルの北西にあるスティンヒントルの秘密工場を爆撃したが、そこから出てきたのが、連合軍側が全く知ら
なかった、未知の空中軍艦という恐ろしい代物であった。
第2次攻撃隊の報告を聞いたハルゼーは、残りの秘密工場にも同様の空中軍艦が製造されていると確信し、第3次攻撃隊の重点目標を
秘密工場に絞り、これらの完全破壊を命じた。
午後2時、各任務群から発艦した第3次攻撃隊310機は、敵の熾烈な抵抗を跳ね除けつつ、スティンヒントルの秘密工場、並びに
軍部隊の駐屯施設に殺到し、これらの施設全てを破壊している。
もし、攻撃のタイミングが1日でも遅れていたら、この秘密工場にあった空中軍艦は全て出航しており、後の戦局に悪影響を及ぼして
いたであろう。
だが、第3艦隊は幸運にも、それを防ぐ事ができたのである。
第2次攻撃隊は、ウェルバンルの北西にあるスティンヒントルの秘密工場を爆撃したが、そこから出てきたのが、連合軍側が全く知ら
なかった、未知の空中軍艦という恐ろしい代物であった。
第2次攻撃隊の報告を聞いたハルゼーは、残りの秘密工場にも同様の空中軍艦が製造されていると確信し、第3次攻撃隊の重点目標を
秘密工場に絞り、これらの完全破壊を命じた。
午後2時、各任務群から発艦した第3次攻撃隊310機は、敵の熾烈な抵抗を跳ね除けつつ、スティンヒントルの秘密工場、並びに
軍部隊の駐屯施設に殺到し、これらの施設全てを破壊している。
もし、攻撃のタイミングが1日でも遅れていたら、この秘密工場にあった空中軍艦は全て出航しており、後の戦局に悪影響を及ぼして
いたであろう。
だが、第3艦隊は幸運にも、それを防ぐ事ができたのである。
「ある意味、敵の新兵器を全滅させたことが、このコロネット作戦の最大の戦果と言えるかもしれんな」
「攻撃隊のガンカメラがとらえた映像を分析した結果、敵の空中軍艦はかなりの重武装を施していたことが、TG38.3司令部からの
報告で明らかとなっています。あそこで逃げられていたら、それこそ一大事でした」
「攻撃隊のガンカメラがとらえた映像を分析した結果、敵の空中軍艦はかなりの重武装を施していたことが、TG38.3司令部からの
報告で明らかとなっています。あそこで逃げられていたら、それこそ一大事でした」
モルン大佐も発言する。その表情には、興奮の色が幾分感じられた。
「新兵器を全滅させた事以外にも、軍港施設を壊滅させたことや、現地の駐留艦隊に大打撃を与えた事も大きいと思われます。
それに加えて、シギアル港は第2次攻撃隊の攻撃機が、上手い具合に港湾の出入り口で敵艦を沈め、閉塞させた事もかなりの成果と言えます。
そして、敵の本拠地とも言える首都ウェルバンルにも、第4次攻撃隊が重要拠点を次々と猛爆し、その威力を見せつけております」
それに加えて、シギアル港は第2次攻撃隊の攻撃機が、上手い具合に港湾の出入り口で敵艦を沈め、閉塞させた事もかなりの成果と言えます。
そして、敵の本拠地とも言える首都ウェルバンルにも、第4次攻撃隊が重要拠点を次々と猛爆し、その威力を見せつけております」
カーニーは自信に満ちた口調でそう言ってから、結論を発した。
「攻撃の成果は、充分すぎると言っても過言では無いでしょう」
「……送り出した艦載機の数は、総計で1300機以上か。まさに、大空襲と言っても過言ではないな。そして、得られた戦果は非常に大きい。」
「……送り出した艦載機の数は、総計で1300機以上か。まさに、大空襲と言っても過言ではないな。そして、得られた戦果は非常に大きい。」
ハルゼーは、心の底から満足した表情を浮かべた。
「こちらも犠牲は出てしまったが、機動部隊には未だに、700機以上の艦載機が残っている。それでこの成果なら、十二分に満足できる」
ハルゼーは2度頷くと、心待ちにしていた言葉を口に出した。
「コロネット作戦は成功だな」
何気ない口調で発せられたその一言は、幕僚達の胸の内に深く染み込んだ。
「長官!TF38司令部より緊急信!対空レーダーが敵ワイバーンを探知したとのことです。敵は単騎で、偵察かと思われます」
「ほう、この期に及んでまだこっちの位置を掴もうとしているか。てことは、敵の闘志はまだ残っていると……ふむ、気に入ったぞ」
「ほう、この期に及んでまだこっちの位置を掴もうとしているか。てことは、敵の闘志はまだ残っていると……ふむ、気に入ったぞ」
ハルゼーは、壊滅的打撃を受けながらも、律儀に作戦行動を続ける敵に対し、素直にそう思っていた。
「通信参謀!太平洋艦隊司令部に報告を送ろう。サンディエゴのニミッツ長官や、ワシントンのお偉方も首を長くして待っている頃だ」
彼は、悪童が浮かぶような笑顔を見せながら、通信参謀にそう命じた。
1485年(1945年)12月9日 午後1時20分 カリフォルニア州サンディエゴ
アメリカ太平洋艦隊司令長官を務めるチェスター・ニミッツ元帥は、サンディエゴの太平洋艦隊司令部内にある作戦室で、情報参謀の
ロシュフォート大佐から戦果報告を聞いていた。
ロシュフォート大佐から戦果報告を聞いていた。
「第3艦隊からの報告が入りましたので、ここで読み上げます。まず、戦果ですが……戦艦5隻撃沈、2隻大破。巡洋艦6隻撃沈、
3隻大破。駆逐艦20隻撃沈、18隻大中破。他、補助艦艇26隻撃沈、10隻に損傷を与えたとのことです」
3隻大破。駆逐艦20隻撃沈、18隻大中破。他、補助艦艇26隻撃沈、10隻に損傷を与えたとのことです」
その報告を聞いた幕僚達がどよめきの声を上げた。
ロシュフォート大佐はなおも続ける。
ロシュフォート大佐はなおも続ける。
「また、軍港施設も壊滅させ、周辺の航空基地も同様に壊滅。港の閉塞も成し得たようです。それから、敵の新兵器と思しき物を
秘密工場ごと完全破壊し、首都の官庁街にある重要施設や、周辺の軍事基地、並びに、造船施設にも大なる損害を与えております。
敵の航空戦力は、相当数を地上撃破、ならびに、撃墜し、戦果は400機以上に上るとの事です。」
秘密工場ごと完全破壊し、首都の官庁街にある重要施設や、周辺の軍事基地、並びに、造船施設にも大なる損害を与えております。
敵の航空戦力は、相当数を地上撃破、ならびに、撃墜し、戦果は400機以上に上るとの事です。」
ロシュフォートは一旦言葉を区切ってから、説明を続けた。
「一方、我が方の損害は、撃墜69機、被弾により使用不可、ならびに、着艦事故で損失判定を受けたものは50機に上るとのことです。
これに加え、敵の反撃で空母ボクサーが魚雷2本を受けて大破し、現在は駆逐艦2隻を伴って後方に避退中とのことです」
「長官、損害はそれなりに出ていますが……それでも、第3艦隊はやってくれましたな」
これに加え、敵の反撃で空母ボクサーが魚雷2本を受けて大破し、現在は駆逐艦2隻を伴って後方に避退中とのことです」
「長官、損害はそれなりに出ていますが……それでも、第3艦隊はやってくれましたな」
参謀長のフォレスト・シャーマン少将がニミッツに言ってきた。
「うむ。ハルゼーは確かに暴れてくれたな。それに加え、グレンキアやミスリアルの潜入者たちも良くサポートしてくれた。
第3艦隊付きのバルランド軍の魔道将校も見事に連絡役を果たしてくれている。4ヵ国合同のコロネット作戦は大成功と言っても良いだろう」
「これで、シホールアンル側は昨日のシェルフィクル壊滅に加えて、首都近郊に大空襲を受けた事になります。恐らく、シホールアンル側は
大きく動揺している事でしょう」
「敵の航空戦力をさらに削れたことも、大きな成果であると小官は確信いたします」
第3艦隊付きのバルランド軍の魔道将校も見事に連絡役を果たしてくれている。4ヵ国合同のコロネット作戦は大成功と言っても良いだろう」
「これで、シホールアンル側は昨日のシェルフィクル壊滅に加えて、首都近郊に大空襲を受けた事になります。恐らく、シホールアンル側は
大きく動揺している事でしょう」
「敵の航空戦力をさらに削れたことも、大きな成果であると小官は確信いたします」
航空参謀のウィンクス・レメロイ大佐が口を開いた。
「シホールアンル側は、航空戦力に余裕がありません。先の第2次レビリンイクル沖海戦でも、敵は900機以上の航空戦力を喪失しています。
それに加え、第3艦隊も首都近郊の航空戦力を減殺しておりますから、敵側の航空予備戦力は払底した可能性もあります」
「君の言う通りかもしれんな」
それに加え、第3艦隊も首都近郊の航空戦力を減殺しておりますから、敵側の航空予備戦力は払底した可能性もあります」
「君の言う通りかもしれんな」
ニミッツは頷いた。
「今回の首都圏奇襲は、敵の予備兵力を大幅に削る事が出来た上に、後方基地の破砕にも成功し、尚且つ、敵側に多大な心理的ショックを
与えた事にもなる。恐らく、シホールアンル軍は……いや、軍のみならず、国民までもが、この空襲によるショックを受けている事だろう」
「戦果報告を見る限り、ハルゼー提督は徹底的にやったようですな。4波、延べ1300機以上の攻撃隊を送り出しています」
「ブル・ハルゼーの真価が存分に発揮されたことになるな」
与えた事にもなる。恐らく、シホールアンル軍は……いや、軍のみならず、国民までもが、この空襲によるショックを受けている事だろう」
「戦果報告を見る限り、ハルゼー提督は徹底的にやったようですな。4波、延べ1300機以上の攻撃隊を送り出しています」
「ブル・ハルゼーの真価が存分に発揮されたことになるな」
レメロイ大佐の言葉に、ニミッツはそう返すと、作戦室内の誰もが苦笑を浮かべた。
「しかし……フレッチャーも良くやってくれたが、同盟国の支援を受けながらとはいえ、ハルゼーもそれに勝るとも劣らぬ活躍を見せてくれた。
私は、どうやら……良い部下に恵まれたようだな」
私は、どうやら……良い部下に恵まれたようだな」
彼は、優秀な部下を持てた事、そして、良き活躍をできるように努力した日々を思い出し、それが実を結んだことに心の底から安堵していた。
「ん……ご苦労」
ロシュフォートが入室してきた将校から紙を受け取ると、それを上司のレイトン少将に見せた。
「長官……第3艦隊司令部から報告が入りました」
レイトン少将がニミッツに向けて報告分を読み始めた。
「第3艦隊は敵騎の触接を受けましたが、同時に反転し、戦闘海域からの離脱を開始。ダッチハーバーへ帰還する模様です」
「そうか……第3艦隊司令部は任務を全うしたと判断したようだな」
「長官。コロネット作戦は無事、成功したと判断致しますが、よろしいでしょうか?」
「そうか……第3艦隊司令部は任務を全うしたと判断したようだな」
「長官。コロネット作戦は無事、成功したと判断致しますが、よろしいでしょうか?」
シャーマン参謀長の言葉を聞いたニミッツは、深く頷いた。
「私もそう確信する。第3艦隊はこの後、ダッチハーバーに帰還し、補給と部隊の再編に当たるだろう。それまでに、次の攻撃目標を選ばねばならんな」
「候補地としては、シギアル港から北150マイルにある海軍基地、または、シギアルから南50マイルにある小規模な工場地帯がありますが、
まだ詳細は掴めておりませんので、陸軍と協力して情報収集に当たります」
「候補地としては、シギアル港から北150マイルにある海軍基地、または、シギアルから南50マイルにある小規模な工場地帯がありますが、
まだ詳細は掴めておりませんので、陸軍と協力して情報収集に当たります」
ロシュフォートがそう言うと、ニミッツも淡々とした口調で返した。
「それが妥当だな。それから……ワシントンに電報を送ろう」
「了解いたしました。内容はやはり、攻撃成功の事でしょうか?」
「そうだな」
「了解いたしました。内容はやはり、攻撃成功の事でしょうか?」
「そうだな」
ニミッツはしばしの間、文面を考えてから電報を送らせた。
「内容はこうだ。第3艦隊は、ウェルバンル並びに、シギアル港への爆撃に成功。敵艦船、航空戦力多数を撃破し、敵重要施設にも大なる
損害を与えたり。なお、第3艦隊は損害あれども、戦力は健在なり。コロネット作戦は成功と認む、以上だ」
損害を与えたり。なお、第3艦隊は損害あれども、戦力は健在なり。コロネット作戦は成功と認む、以上だ」