「シャーマン戦車はブリキ缶だぜハッハァー!ウェーゲホゲホッ!」
マグロワ・オーマ技術大尉は哄笑し、ついでむせた。
「主任、ヤバイですよマズイですよ!」
オーマの背後では機関士を務める助手のスシク・イーネ技術曹長が青い顔で操作盤とにらめっこしている。
マグロワが操縦する試作装甲襲撃飛行挺<名称不定1号>の襲撃を受けた不運な第72戦車大隊B中隊と第53機甲歩兵大隊A中隊で編成された米軍機動部隊は、試作ゆえに設計者の個人的嗜好を全面的に採用した極めて生物的なフォルムを有する未知の新兵器の恐るべき火力と装甲に恐怖し、顔を引きつらせて逃げ惑うばかりであった。
マグロワ・オーマ技術大尉は哄笑し、ついでむせた。
「主任、ヤバイですよマズイですよ!」
オーマの背後では機関士を務める助手のスシク・イーネ技術曹長が青い顔で操作盤とにらめっこしている。
マグロワが操縦する試作装甲襲撃飛行挺<名称不定1号>の襲撃を受けた不運な第72戦車大隊B中隊と第53機甲歩兵大隊A中隊で編成された米軍機動部隊は、試作ゆえに設計者の個人的嗜好を全面的に採用した極めて生物的なフォルムを有する未知の新兵器の恐るべき火力と装甲に恐怖し、顔を引きつらせて逃げ惑うばかりであった。
――12時間前。
「正気ですか主任」
「あたしゃいつだって正気だよ、ウエーゲホゲホッ!」
むせかえりつつも根元まで吸い尽くした紙巻きタバコを投げ捨て、赤い丸の中に意味不明な文字が書かれた紙箱から新しいタバコを取り出して手のひらに収まるサイズの金属製の装置で火を付ける。
軍による経済統制が強まるのに歩調を合わせて地下経済が発達したシホールアンルでは、それなりのコネがあれば本国にいながらラッキーストライクとロンソンのオイルライターを入手することも可能なのだ。
「まあ気持ちはわかりますけど…」
スシクはカモフラージュを施されて鎮座する<名称不定1号>を感慨深げに見上げた。
<名称不定1号>はパリマ・インシト鉱山で発見された新種の魔法石を使用した反重力魔道機関を搭載している。
これはマグロワの××××と紙一重の才能が生んだ極めて独創的な発明で、独創的過ぎたため上層部の反応は冷笑か黙殺の二者択一であった。
それでも開発を続けてこられたのは長らく愛人関係にあった上級貴族ウィブト・ピルッスグの後ろ盾があったからである。
だが飛行挺部隊の指揮官となったビルッスグがシェリキナ連峰の空中戦で戦死して以来、パトロンを失ったマグロワの設計局の扱いは露骨に悪くなった。
予算が承認されなかったり搬入されるはずの資材が他所に回されたり。
その度にどこからか協力者を見つけてきては危急を凌ぎ、遂に試作機を前線に持ってくるところまでこぎ着けたのである。
「正気ですか主任」
「あたしゃいつだって正気だよ、ウエーゲホゲホッ!」
むせかえりつつも根元まで吸い尽くした紙巻きタバコを投げ捨て、赤い丸の中に意味不明な文字が書かれた紙箱から新しいタバコを取り出して手のひらに収まるサイズの金属製の装置で火を付ける。
軍による経済統制が強まるのに歩調を合わせて地下経済が発達したシホールアンルでは、それなりのコネがあれば本国にいながらラッキーストライクとロンソンのオイルライターを入手することも可能なのだ。
「まあ気持ちはわかりますけど…」
スシクはカモフラージュを施されて鎮座する<名称不定1号>を感慨深げに見上げた。
<名称不定1号>はパリマ・インシト鉱山で発見された新種の魔法石を使用した反重力魔道機関を搭載している。
これはマグロワの××××と紙一重の才能が生んだ極めて独創的な発明で、独創的過ぎたため上層部の反応は冷笑か黙殺の二者択一であった。
それでも開発を続けてこられたのは長らく愛人関係にあった上級貴族ウィブト・ピルッスグの後ろ盾があったからである。
だが飛行挺部隊の指揮官となったビルッスグがシェリキナ連峰の空中戦で戦死して以来、パトロンを失ったマグロワの設計局の扱いは露骨に悪くなった。
予算が承認されなかったり搬入されるはずの資材が他所に回されたり。
その度にどこからか協力者を見つけてきては危急を凌ぎ、遂に試作機を前線に持ってくるところまでこぎ着けたのである。
「一体どんな魔法を使ったんですか?」
「ちょっと“オンナの武器”を使っただけよん♪ウエーゲホゲホッ!」」
「“オンナの武器”……」
スシクはマグロワをまじまじと見た。
このいっつもむせてるくせにタバコを手放さないアラサーの上司は口を閉じてさえいればかなりの美人である。
全軍のアイドルであるリリスティ提督を―不敬を承知で―百点満点とすれば確実に80点以上はいくだろう。
スタイルだって悪くない。
そのマグロワが、基地指令の寝室や補給部主任の事務室やガチムチな整備士がたむろするタコ部屋で生まれたままの姿になって男たちとねちっこく絡み合う様を想像すると脳が沸騰しそうになってくる。
ちなみにマグロワに“オンナの武器”の使い方を指南したのは12年前、陸軍人事部で理系学生の軍の研究機関への就職を斡旋する部署にいたピルッスグ少佐(当時)である。
「こら、ボサっとしてるんじゃない」
カカシのように突っ立って妄想にふけるスシクは頭を小突かれて我に返った。
「こいつを完成させるのにあちこちに借りを作ったからね、ここで目立つ成果を上げなきゃ今度こそ設計局は解散。あたしゃどっか大手の設計局に転属になるだろうけどお前さん、下手したら歩兵だよ?」
それを聞いて慌てて機体の点検をはじめるスシクであった。
「ちょっと“オンナの武器”を使っただけよん♪ウエーゲホゲホッ!」」
「“オンナの武器”……」
スシクはマグロワをまじまじと見た。
このいっつもむせてるくせにタバコを手放さないアラサーの上司は口を閉じてさえいればかなりの美人である。
全軍のアイドルであるリリスティ提督を―不敬を承知で―百点満点とすれば確実に80点以上はいくだろう。
スタイルだって悪くない。
そのマグロワが、基地指令の寝室や補給部主任の事務室やガチムチな整備士がたむろするタコ部屋で生まれたままの姿になって男たちとねちっこく絡み合う様を想像すると脳が沸騰しそうになってくる。
ちなみにマグロワに“オンナの武器”の使い方を指南したのは12年前、陸軍人事部で理系学生の軍の研究機関への就職を斡旋する部署にいたピルッスグ少佐(当時)である。
「こら、ボサっとしてるんじゃない」
カカシのように突っ立って妄想にふけるスシクは頭を小突かれて我に返った。
「こいつを完成させるのにあちこちに借りを作ったからね、ここで目立つ成果を上げなきゃ今度こそ設計局は解散。あたしゃどっか大手の設計局に転属になるだろうけどお前さん、下手したら歩兵だよ?」
それを聞いて慌てて機体の点検をはじめるスシクであった。
そして今、<名称不定1号>はその恐るべき力を十二分に発揮してアメリカ軍の戦車と歩兵の集団を麦を刈り取るようになぎ倒している。
その火力は実体弾換算で40ミリ砲に相当する重魔道銃二門と13ミリクラスの中型魔道銃八丁という凶悪なもので、これを叩きつけられた不運な米軍機甲部隊の車両は戦車もトラックもジープもみな平等に車体をブチ抜かれ、エンジンを引き裂かれ、搭載弾薬と燃料に引火して爆発四散、ナムアミダブツ!
「少尉殿、ありゃ一体なんでありますか!?」
「知ったことか、ファイア!」
「おれ、今度の休暇で帰郷したら幼馴染みのあの娘n ウボア―――――ッ!」
アメリカ兵もやられっぱなしではなく歩兵はライフルとサブマシンガンで、戦車兵は砲塔に取り付けられた対空機銃で応戦するが、<名称不定1号>は機体の全周にわたってアメリカ軍の20ミリ機銃を完全に防御できるだけの装甲が施されている。
ちなみにカレアント軍が一緒くたに「コブラ」と呼んでいるP-39とP-63の37ミリ砲に耐えられるかどうかは撃たれてみなければわからない。
自分たちの撃った銃弾が敵の機体表面で虚しく火花を散らすだけなのを見て絶望するGIたち。
その火力は実体弾換算で40ミリ砲に相当する重魔道銃二門と13ミリクラスの中型魔道銃八丁という凶悪なもので、これを叩きつけられた不運な米軍機甲部隊の車両は戦車もトラックもジープもみな平等に車体をブチ抜かれ、エンジンを引き裂かれ、搭載弾薬と燃料に引火して爆発四散、ナムアミダブツ!
「少尉殿、ありゃ一体なんでありますか!?」
「知ったことか、ファイア!」
「おれ、今度の休暇で帰郷したら幼馴染みのあの娘n ウボア―――――ッ!」
アメリカ兵もやられっぱなしではなく歩兵はライフルとサブマシンガンで、戦車兵は砲塔に取り付けられた対空機銃で応戦するが、<名称不定1号>は機体の全周にわたってアメリカ軍の20ミリ機銃を完全に防御できるだけの装甲が施されている。
ちなみにカレアント軍が一緒くたに「コブラ」と呼んでいるP-39とP-63の37ミリ砲に耐えられるかどうかは撃たれてみなければわからない。
自分たちの撃った銃弾が敵の機体表面で虚しく火花を散らすだけなのを見て絶望するGIたち。
中には銃を投げ捨て、跪いてお守りの十字架を掲げる米兵までいた。
「この<名称不定1号>が量産された暁にはアメリカ軍など敵ではないわぁ!ウエーゲホゲホッ!」
高笑いしつつむせるマグロワ。
「主任、もう限界です!」
スシクは泣いている。
<名称不定1号>の反重力魔道機関は試作品だけに扱いが難しく、運用には操縦士とは別に専属の機関士を必要とする。
その機関士を務めるスシクが懸命に手を尽くしたにも関わらず、魔道機関は異常加熱して今にも爆発しそうであった。
「仕方ない、引き上げるよ!ウエーゲホゲホッ!」
<名称不定1号>が妙にフラフラした飛び方で去ったとき、虐殺を生き延びた戦車はわずか三輌であった。
「この<名称不定1号>が量産された暁にはアメリカ軍など敵ではないわぁ!ウエーゲホゲホッ!」
高笑いしつつむせるマグロワ。
「主任、もう限界です!」
スシクは泣いている。
<名称不定1号>の反重力魔道機関は試作品だけに扱いが難しく、運用には操縦士とは別に専属の機関士を必要とする。
その機関士を務めるスシクが懸命に手を尽くしたにも関わらず、魔道機関は異常加熱して今にも爆発しそうであった。
「仕方ない、引き上げるよ!ウエーゲホゲホッ!」
<名称不定1号>が妙にフラフラした飛び方で去ったとき、虐殺を生き延びた戦車はわずか三輌であった。
「やったよ!すぐに詳しい報告書を書いて送れってさ、ウエーゲホゲホッ!」
厄介な魔道機関の整備を終え、綿のように疲れ切った体を固い野戦用マットレスに横たえていたスシクの眠りは宿舎としてあてがわれた掘っ立て小屋に飛び込んできたマグロワの叫びによって妨げられた。
「よかったじゃないですか、それじゃお休みなさい」
上司の努力が認められた喜びよりも、今は疲労回復を優先させたいスシクは頭から毛布を被ろうとするがマグロワの手がそれを阻んだ。
「ねえ、曹長」
いつの間にかタバコは消されている。
「頑張った部下にはご褒美が必要よね」
マグロワはスシクの目の前で服を脱ぎ、身につけているものはセクシーな黒の下着とストッキングだけとなった。
「おいで♡」
厄介な魔道機関の整備を終え、綿のように疲れ切った体を固い野戦用マットレスに横たえていたスシクの眠りは宿舎としてあてがわれた掘っ立て小屋に飛び込んできたマグロワの叫びによって妨げられた。
「よかったじゃないですか、それじゃお休みなさい」
上司の努力が認められた喜びよりも、今は疲労回復を優先させたいスシクは頭から毛布を被ろうとするがマグロワの手がそれを阻んだ。
「ねえ、曹長」
いつの間にかタバコは消されている。
「頑張った部下にはご褒美が必要よね」
マグロワはスシクの目の前で服を脱ぎ、身につけているものはセクシーな黒の下着とストッキングだけとなった。
「おいで♡」
そしてウェルバンル空襲によってマグロワの作成した報告書が皇帝の目に触れることなく焼失したのは三日後のことである。