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皇国召喚 ~壬午の大転移~42

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turo428

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リンド王国の都市セルシーには、皇国海軍の水上戦闘機部隊が進出していた。

艦上機の零戦を基に水上機として開発された二式水上戦闘機。
水上機母艦や潜水母艦の上空直掩用と離島防衛用に150機程が生産されたのだが、
正直、これを本当に主戦力として使う場面が来ると思っていた関係者は少ない。
“本来の想定”では、皇国海軍は陸軍や海軍の基地航空隊と空母航空隊の傘の下で
活動する事を前提とし、水上戦闘機が必要になる程に逼迫した戦況は考え辛かったからだ。

皇国近海で、基地も空母も当てに出来ない状況って何? という事で、
水上戦闘機は技術的冒険とか、物の試しに造ってみた感も大きかった。

セルシー方面も、本音を言えば陸軍や海軍の陸上機を運用可能な飛行場を建設したい。
だが、そんな各地にポンポン飛行場を整備するような設営部隊も資材も時間も無い。
そうすると次に挙がる候補は当然空母艦隊だが、これも台所事情的に苦しい。
リンド王国海軍との戦いで、一航艦が全力出撃したというだけでヘトヘトなのだ。
一航艦は現在、戦隊や中隊ごとに搭載機を新式の彗星や天山に更新中であり、
その意味でも、今すぐ急なお呼びがかかっても遠征は無理であった。

勿論、これが対ソ連における“国運を賭けた全面戦争”となれば話は別だが、
そういう訳ではないから、出せるとしたら軽空母を中心とした艦隊になる。
だが1隻あたり30機として、4隻出してやっと120機程度では少し力不足ではないか?
軽空母は小型な分、飛行機運用のための燃料や弾薬もそう多く積めないので、長く留まって戦闘するには
それだけ支援のための補給艦を手配してやる必要があり、瞬間最大風速を買うとしても効率的ではないだろう。
さらに決して数の多くない軽空母には、陸海軍の飛行機輸送や航路防衛のための護衛空母としての役目もある。
この重要任務を疎かにしてまで、打撃力だけを期待するのは国家や軍全体の運営効率を下げる事になってしまう。

そうすると、水上機と飛行艇しか無いではないか……海軍は迷ったが、
まあ以前から大内洋には水上機母艦と飛行艇部隊は進出していたから、
それで良いなら支援部隊の少しの強化で極北洋への進出は可能だ。
数的にも質的にも、陸上機や空母機には及ばないが、当該方面で戦う陸軍にとって、
10機でも友軍飛行機の傘があるのと無いのとでは、戦闘の趨勢が変わってくる。
現状、友軍航空戦力はリンド王国空軍のみだったのだから、信頼感が違う。

だが、セルシーに水上機を進出させても、燃料や弾薬は容易に補給出来ない。
大内洋に展開する水上機母艦や補給潜水艦から、輸送飛行艇が極北洋へピストン輸送する事になる。

水上機母艦搭載分と、巡洋艦から分派された分を合わせて二式水戦が9機、
零式水偵が8機、九五式水偵が8機、九七式飛行艇が3機、九一式飛行艇が5機。
一応、数的には33機で、零式水偵と二種の飛行艇は爆撃能力も期待出来る。
二式水戦は勿論だが、九五式水偵も飛竜相手なら空戦も可能だろう。
つまり空戦用途には二式水戦と九五式水偵を。
偵察と爆撃用途には零式水偵と飛行艇を主に使う事になる。

頭数としては最低限揃い、支援部隊と共に燃料や弾薬も最低限揃った。
しかし、あくまで“最低限”だ。
毎日のように全力出撃など到底不可能。
爆弾も、250kg爆弾は50発程度しかなく、500kg爆弾はたったの10発しか存在しない。
30kg爆弾や60kg爆弾を含めた全体でも30t分くらいしか無い。爆弾が存在しないのと同じだ。
出し惜しみして10日くらいならこれでも行けるが、以降は爆撃任務が不可能になる。
毎日補給される爆弾は500kg分。多くて1t分が精々だから、持久戦になっては不利。

爆弾無しでは、地上を銃撃するくらいしか航空支援にならない。
やるなら3、4日で使い切る覚悟で全力出撃して、後は陸軍の奮闘に期待するか。


『駄目で元々、ノイリート島に降伏勧告をしてみて出方を伺ってみても良いのではないか?』

そんな時、何となくその場の流れで、そういう意見が出てきたのだ。
虫が良すぎるとは誰もが思ったが、威圧してみるだけならタダだ。
駄目なら爆撃をして、再度降伏勧告。それから海兵隊投入でもいい。
ここは押さえておきたい要衝、殴り込むなら滑空機を使う手もある。

だが、現実は意外と単純なのかも知れない。
「本当に降伏してくるとは……」
「こちらの準備がまだなのですが、ぎりぎり1週間粘って欲しかったですな」
降伏したとなれば、軍を派遣して制圧し、軍政を敷かねばならない。
皇国軍は“セルシー防衛”のために海兵隊1個中隊と陸軍の1個大隊を準備していたが、
これを“ノイリート島防衛”のために転用する必要が出てきた。

「海兵隊は全部出しましょう。あとは陸軍さんですが……1個中隊が限度でしょうね」
「合わせても400人にすらならないが……向こうは陸兵だけで10倍以上だぞ」
「リンド海軍に応援してもらいますか?」
「要塞を相手に、28門フリゲートで何か有力な支援が期待出来るか?」
「ではリンド軍の海兵隊にも……本来、これは彼等の問題ですから」
「数十人増えたところで何も変わらん。むしろ“裏切り者のリンド兵”に対して
 悪感情を持たれたらどうする。悪者になるなら、我が将兵だけで十分だ」

陸海軍の参謀は、降伏を確認したら捕虜を取らずに全員をセソー大公国の本土に送還し、
無人となったノイリート島の食料と武器弾薬のみを戦利品として調達すべしと進言した。
またこの地で、数千の敵将兵を養う事になれば負担で身動きが取れなくなるから、
セソー大公国の軍艦や商船に乗って帰ってもらうのが一番良いという事だ。

軍艦はともかく、島に駐留する飛竜部隊に関しては、本土に帰らせるのは危険が増えるという判断は当然あった。
だが、決して広くない島に重爆撃機が発着可能な飛行場を建設して運用する事になれば、彼等は邪魔になる。
戦利品とした上で食肉として利用するという案は却下だ。
飛竜の味は良くない上に、何より“神聖な”飛竜を食用に解体
などしたら、列強各国への示しが付かない。蛮族扱いへ逆戻りだ。

遺憾だが、部隊維持にかなりの場所と物資を必要とする飛竜達は帰って貰い、
空いた土地を飛行機部隊の基地とすべく工兵隊を派遣する事となった。


皇国軍の離着水可能(!)な飛行機械によりノイリート伯爵に届けられた手紙の内容は、俄には信じ難かった。
『皇国軍の将兵が降伏を確認しに上陸するから、武装解除した将兵は全員本土へ帰るように』
伯爵と一部の将兵は、事後処理や皇国軍将兵の案内のために居残りを
命じられたが、他の大多数の将兵は捕虜に取らない上、最終的には
伯爵と主要な随員以外、全員の本土帰還が望ましいというのだ。
飛竜兵だけでなく、飛竜自体の本土送還も許可されている。
降伏した敵軍の飛竜を戦利品としないとは、想定外だった。

処遇は島の地下牢ではなく、本土の大公や軍司令官に委ねられる事になる訳だ。
伯爵と主要な人員だけが島に残されるのは、本土に帰れば重要人物である彼が
真っ先に処刑されるのが目に見えているから、その予防措置という事らしい。
敵国である皇国が、ノイリート伯爵の命を保障する側になろうとは。

「一杯食わされたな。皇国に」
「は?」
「皇国は我々の処遇を本土の殿下や将軍に丸投げし、土地と備蓄物資だけは戦利品として押収出来る。
 本国に“裏切り者”に払う身代金は無いだろうから、皇国も我々を捕縛して交渉材料には出来ない。
 だが捕虜を殺す事も売却する事もせず、自由の身にするのだから我々も文句を言える立場に無い」
「皇国の丸儲けですか……では、降伏の話は無しにしますか?」
「馬鹿を言うな。一度結んだ約束を違えるような騎士道に反する行いをするなど、名誉の失墜だ。
 それにな。皇国軍が上陸して来た時、それを背後から襲ってみろ。どんな報復が行われるか。
 そんな事になれば、皇国軍は苛烈な報復をする正当な権利がある事になるのだぞ?」
「はっ……失言でした。部隊の統制を厳にし、恙無く降伏と送還が行われるよう。小官も全力を尽くします」
「うむ。大公殿下にも部下達に責任は無いという事は理解して頂かねばならん。
 彼等は本土に帰った後は、そちらの防衛軍として働いて貰わねばならないからな」
「はい」

皇国軍からは陸軍の歩兵中佐と海兵少佐がノイリート島に上陸し、ノイリート要塞の降伏と武装解除の確認を行った。
偵察機は飛ばしていたと言え、最前線からは離れていたから、そこまでピリピリした雰囲気ではなかったのが救いか。
リンド王国との戦争の話が伝わっているせいか、末端の下級将校や兵士ほど抵抗の素振りは無い。
むしろ上級将校の方が駄々を捏ねて抵抗しそうであったが、ノイリート伯爵が
皇国軍の指揮官に剣を渡し、改めて降伏の意思を伝えると、それも収まった。
数時間に渡って上空を飛行機が飛び回っている効果もあるだろう。

多くの将兵達は、ノイリート島に停泊中であった軍艦に分乗して本土へ帰っていく。
彼らは軍服と最低限の荷物を除いて手ぶらだ。
皇国軍の命令によって、武器も食料も島に置いていく事になる。

ノイリート要塞の物資類は食料から爆弾まで全て皇国軍が接収した。
ここで大規模な物資類を手に入れた皇国軍は、占領した新たな島を拠点に北方諸国同盟への圧力を強め、
ノイリート島を奪還されないよう守備を固めると同時に攻勢計画を前倒ししつつ検討に入った。

マルロー国王も、ノイリート伯爵と同じように聞き分けが良いなら春を待たずにすぐに終わるだろう。
しかしそうでなければ、春を見据えての計画だ。

本国では空母が、東大陸では大内洋に停泊中の旧式戦艦にもお呼びがかかった。
泥縄ではあるものの、せっかく得た機会を逃すわけにはいかないのだ。

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