自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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 時を少し遡り、戦車隊が突入を開始しはじめた頃。
 佐野ら戦車隊と憲長と反対側に兵を伏せている、柴田隊の陣では、黒田本陣よりの「突入」の指示を受け、
早速下知に従い手柄を立てようとはやる家臣たちに対し柴田権六朗は「しばし待て」と言い放った。

 「何故に御座りまするか、殿! いかに此度の戦は若殿の初陣とはいえ、お館様が浅野を討つ大役を任せられたのは
我が隊のはず、若殿にあえて手柄を立てさせんとするお心積もりでしょうか!?
 だとしても、ここで出なければ若殿ばかりに打って出させて、自分は高みの見物を決め込んだと追及を受けることにもなりかねませぬ」

 別の家臣もまた、言う。

 「そうでござる、悪たれ坊主の吉法師のこと、必ずやそのように我らを侮蔑するでありましょう。
 そも、譜代の家臣を頼らずあのような得体の知れぬ者たちのみを手勢に戦に望むうつけもの、まかりまちがって
手柄を立てれば、増長して殿を始め家臣一同を蔑ろに扱いかねませぬ」

 が、柴田権六朗は平然として言った。

 「まあ、待てというのだ。 なればこそなおの事、あのうつけ若様には灸をすえてやらねばならぬ。
初陣で少々痛い目でも見れば、あの世間知らずで増上慢な気性も多少は収まるかもしれぬいい契機になるであろう…それにだ」

 権六朗はそこで一端言葉を切り、部下たちを見回して何かをはばかるように声音を少し低くした。

 「浅野の陣に潜り込ませた間者より知らせが入った。 浅野は此度の隠し玉として、助っ人を呼び寄せたようじゃ」

 「助っ人…とは?」

 「うむ、大江山よりな」

 その言葉を聴いた瞬間、一同に動揺のざわめきがおこった。
 はるか昔に大江の山中に棲み付き、拠点としている恐るべき生物の一党を、フソウに住まう人間はおろか
他の多くの種族の中で知らぬものはいなかったからだ。
 歴史上、幾たびも朝廷の討伐を受けつつも、滅ぼしきることが出来なかった者たち。
 畏怖し、、忌み、排斥し、そして結局共存を受け入れる以外に無かった、人知を超えた恐るべき怪物…その末裔。
 それが、今、浅野勢に与しているという。  人間の戦に彼らを用いるのは珍しい話ではない、が…

 「な…なればこそ、若殿の御身が危ういのでは!?」

 焦りと共に声の上ずる部下に権六朗は「それよ」と片目を瞑り、人差し指を立てて笑う。
 練りに練った計画を打ち明けるいたずら小僧のような嬉しそうな表情で。

 「あの者らが自分で軍議で申したほどに、力を持っているのなら、かの化物と戦っても負けはせんだろう。
 だが無事ともいくまい。 ま、戦の前に自分の力を高く売り込むために大言壮語するのは常のこと、
話半分ぐらいとしても、相打ちぐらいには戦ってくれよう。
 それで充分若様の鼻っ柱は折れる。 我らも化物と戦わずに済むしのう。 あるいは、若様とアレが戦っておる途中で我らが駆けつければ…?」

 「さ、さすれば我らは浅野の首を取った上に、若殿をお救いもうした形になりまするな!」

 「そうよ、大殿の覚えもめでたく、万々歳よ。 そういうことだ、まずは様子見としゃれ込もうぞ」

 権六朗は言い終えると、得心がいったという感じの部下たちの表情に満足して愉快そうに笑った。
 主君の子息を利用して戦うなど、不敬ともとれる行動だったが、権六朗自身は憲長を黒田の跡取りとして適格であるとは見なしておらず、
 また、憲長はあくまで主君の子息の一人であるに過ぎないのであって、彼が現在仕えている主君では無いのだった。

 そして、時は戻る。

 騎兵部隊を蹴散らし、突破し、後方に引き離した戦車隊は本陣手前というところで全車停止した。
 立ちはだかった異様に大柄な…戦車の車高をはるかに越える巨躯の異形の兵士が立ちはだかり、行く手を阻んでいた。
 それは、遠目には人間に近いシルエットを持っており、人間か類人猿に近い生物のイメージを想起させたが、人類にしては大きすぎた。
 慎重は6mはゆうにあり、ざんばらの白い髪を腰まで長く伸ばしていた。 額からは牛のような角が左右に二本生え、
眉毛は無く、肉食獣のような二つの目をギラギラと輝かせていた。
 鼻は無く、小さい鼻孔がぽつんと開いているだけで、口は三日月を横にしたように広く、口の間から鋭い無数の鮫を想起させる歯が並んでいた。
 筋肉質の体は腕も足も丸太のように太く、また皮膚は威嚇的で鮮やかな真紅…人間の持つ色素の退色では
ありえない色に染まっており、体を包む衣服や鎧は、あきらかに通常の数倍の特注サイズであった。
 そして、その巨人兵士は人間の身長と同じくらいはあろうかという大鉈を右手に握り締めていた。

 「なん…だ、これは」

 佐野の他、何人かが戦車のハッチから体を出して、現実から切り落とされたような異様な生物をあっけに取られて見上げていた。
 このような巨大な生物、類人猿は、彼らがもといた地球上には存在し得ない。
 この世界土着の生物だろうか、と佐野は憲長の方を見る。 しかし、憲長も呆然と、しかし青ざめた表情で異形を見上げていた。

 「赤鬼…浅野め! よりによって何というものを戦に持ち込んだ!!」

 「赤鬼…?」

 震える声で叫ぶ憲長に佐野が質問しようとした時、赤鬼と呼ばれたその巨人が息を大きく吸い込み、とてつもなく巨大な声で叫んだ。

 「オデは大江山の狗骸童子ィィィィ!! コゴはダレも通ざねえぞぉぉぉぉッ!!」

 佐野達は思わずヘルメットの上から耳を覆った。 咆哮ともその叫び声は戦車砲の発砲音にも匹敵する爆音であった。



(続く)

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